( ^ω^)季節を旅する文猫冒険記のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:07:09.00 ID:7z3ARQ0I0

「おい! そこで何を……」

やがて現れたのは、長い棒を持ち、金属質な服を着た人間さんたちだった。
彼らは僕らを見るなり、驚いた様子で駆け寄ると心配そうに声をかけてきた。
そして倒れるみんなの体を揺すったり、手を掴んでみたりしている。

息はある、みたいな事を言っていたと思う。多分、生きているって事だろう。
そんな様子を、僕はどこか他人事のように眺めていた。

「な……なんだこれは」

「これは、お前がやったのか?」

人間のうちの一匹が、手にした棒をふりかざしながらそう言った。
よく見れば、二つの小さな黒い月がこっちを向いている。

僕はただ、ぼんやりとそれを見つめていた。
返す言葉も送る言葉もなにも思い浮かばないから。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:08:07.58 ID:7z3ARQ0I0

ふと気付けば頭が痛い、そう自覚するのとめまいを感じたのは同時だった。
深く目をつぶると頬を何かがすべり落ちて、何かの思い出が見えた。人間たちの姿だった。
だれもかれも地面についちゃいそうなくらい長くて、まっしろい布を羽織っている

「馬鹿、んなわけねーだろ」

「で、でもよ! こいつの下にあるのって、ここいらを荒らしてたあの山犬じゃねーか!」

目をあけると、僕につきつけられていた長い棒が、隣にいるもう一人によって退けられていた。
ふと、ぼんやりしていた意識が更に遠くなった、それでついでに気付いた事がある。

頭があまりに痛くて気付かなかったけど、体が痺れて動けないくらい、僕の背中を激痛が襲っていた。







7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:09:43.58 ID:7z3ARQ0I0


                  。。
                 ゜●゜


         終結章  蘇る季節

       「そして終わる冒険の記録」


                。。
               ゜●゜

                      。。
                     ゜●゜

                  。。
                 ゜●゜

                        。。
                       ゜●゜



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:11:37.11 ID:7z3ARQ0I0

目を覚ますと、そこはカーテンに区切られた密室だった。
なんだか、ここの所このパターンが多い気がする。

けれど、今回は少しばかり勝手が違う。

僕は得体のしれない恐怖からか、全身を走る悪寒をこらえるべく身を縮めた。
今でも鮮明に思い出せる、なのに、自分でも何が起きたのかわからない。

ただ、気付いた時にはグロテスクな光景が広がっていて、痺れるような痛みが全身に走っていた。
思い返すうちに、あの空気が脳内によみがえってくる、気付けば僕は嘔吐していた。

胸の鼓動がやけに頭に響く、吐いたせいですっぱい喉がむせかえるが、咳をすることすら億劫だった。

それにしても、体が熱い、布団が熱い、おかしいな、今はもう透季ではなかったか。
ずるりとベッドの下に身を転がすと、ひんやりした床がとても気持ちいい。

ふと見ると、カーテンの外に誰かの足が見えた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:14:18.48 ID:7z3ARQ0I0

(*゚ー゚)「わあ、寝ぼけてベッドから落ちるのって、始めて見ましたよ!!」

(;^ω^)「……しぃ?」

(*゚ー゚)「ええ、しぃでございますよ」

( ^ω^)「他の…皆は…?」

(*゚ー゚)「ショボ君はまだ寝てます、あとの二人は……」

そう言って、入り口のほうを見やるしぃ。すると、ちょうど戻ってきたのか、
扉のガラスにうつりこむ二人分の影、案の定、フサとつーちゃんだった。

二人は僕を見るなり表情を明るめたけれど、
その際、つーちゃんがやけに沈んでいるように見えた。

(;*。。)「ごめんな……俺があんな情けないミスやらかしたせいで、こんな事に…」

そして、ついには申し訳なさそうにそう言った。
気にしないで、何度言っても、つーちゃん表情にかかった影は晴れなかった。

よくよく見れば、みんな傷だらけだった。
どうやら、その原因は自分にあると考えているようだ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:16:02.95 ID:7z3ARQ0I0

話を聞けばここはコンビニの街にある医療施設。
どうやらあの後、倒れた僕らは見回りにきた警備員さんに発見され、
この場所にまで運ばれてきたらしい。

ミ;゚Д゚彡「まあ、みんな無事でよかったから!」

(:*。。)「……無事だったのが、不思議なくらいだ……俺が、俺がもっとしっかりしてれば……」

無理に明るく振舞ってみても、焼け石に水、いちど沈んだ空気はそう簡単には浮上せず。
なんとなく、うな垂れるような空気の中、僕らはいちように黙り込んでしまった。


その時、ドアをノックする音が数度、響いた。
しかし誰も返事はしなかった。

しばしの間を置いて、ドアは静かに開いた。

从 ゚∀从「失礼するよ」

現れたのは、紫がかった銀髪に、少しだけ尖った耳を持つ人間。
その髪色のせいだろうか、あの森で会った彼女の面影が垣間見えた気がした。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:18:23.60 ID:7z3ARQ0I0

まじまじと見ていると、不審に思われたのだろうか、困った風に身をすくめている。

从;゚∀从「おっと、怪しい者じゃないよ、私はハインリッヒ…この施設の責任者だ
     あのタテガミに襲われて、しかもそれを撃退してくれたと聞いてね……
     是非、そのお礼がしたいと思ってここに来たのだよ」

ミ;゚Д゚彡「お礼…って、なんでまた…?」

从 ゚∀从「あのタテガミにはね、私等にとっても困った存在で…いやもうだった、か」

从 ゚∀从「何にせよ、いつ頃だったかな、あの遺跡周辺によく出没するようになってからというもの…
     住人にも被害にあった者が多発していて、ほとほと困りものでね」

从 ゚∀从「大人しく山へ帰ってくれることを願っていたんだが…
     そろそろハンターを雇って退治するべきかと思案していた所だったんだ」

君らは災難だったかもしれないが、こちらとしては本当に感謝している。
ハインリッヒと名乗る女性は、朗らかに笑いながら話を続けた。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:20:09.91 ID:7z3ARQ0I0

最初は適当に相槌をうっていた僕らだったけど、気付けば、いつしか色々な話をしていた。
これまでの旅の経緯、僕らの素性、思い出してみれば質問ばかりをされたような気もする。


从 ゚∀从「ふーむ……君らを見て、もしや…とは思ったが」

と、不意にハインリッヒは顎に手をあて、何やら意味深な言葉を呟いた。
楽しげに話す彼女の雰囲気に、すっかり気を許し始めていた僕らはすぐにその反応に食いついた。


いや、正しくは、僕以外、なのだが。


ミ;゚Д゚彡「なんだ? 俺の顔になんか…?」

从 ゚∀从「……やはり、似ているな…」

ミ;゚Д゚彡「へ? 誰に?」


僕はなんだか、この人に対して、異様なまでの恐怖を覚えていた。
何故だろう、こんなのも優しげで、明るく真面目そうな人なのに。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:23:06.94 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「それに、そっちの猫くんも」

彼女の目が僕を捉えた瞬間、身体が跳ね上がりそうになった。
ハインリッヒはそんな僕を一笑し、更に考えるような仕草を見せてから。


从 ゚∀从「……失礼を承知でお聞きしたい」


含み笑いを貼り付けた表情で。


从 ゚∀从「君と、そこの猫君は……あの忌まわしき風の吹いた節に、誰かに拾われた、
     なんて事はないかい?」

(;*゚∀゚)「っっ!!」

意外にも、その言葉に誰よりも早く反応したのはつーちゃんだった。
それもその場で立ち上がり、今にも食って掛かる勢いで睨んでいる。

だが、まるで気にしない様子でハインリッヒが続けた。


从 ゚∀从「……驚いたな、となると本当に君らは………」

从 ゚∀从「あの、ホライゾンとフサ助なのかい?」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:25:16.89 ID:7z3ARQ0I0


この人は、僕らの事を知っている?

知らず僕は喉をならして、緊張しきった胸の鼓動に意識すらものまれて。
フサは絶句した風に唇を震わせ、棒立ちのままたちすくんでいた。


从 ゚∀从「……もしよければ、一緒に来てくれないかな、そうすれば色々わかると思うのだけど」

从 ゚∀从「たとえば……ブーン君、きみの頭痛と、背中の痛みもきっと治せるだろうね」

(;゚ω゚)「!!」

直接口には出さないが分かる、ハインリッヒはこう言っている。
自分は僕らの過去を知っている、知りたければ一緒に来い、と。

あまりの事に言葉を失くし、僕は半開きの口で言葉をどもらせた。

だが、いいのか、そんな言葉を簡単に信じてしまって。
先ほどまで僕が彼女に対して感じていた畏怖を、もう忘れてしまったのか。

けど、それも全ては何となく、という話に過ぎない。
なんとなく怪しいから、それを拒否するべきなのか?



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:28:04.52 ID:7z3ARQ0I0

本当に拒否していいのか?

もしかしたら、ここが、僕らの生まれ故郷なのかもしれないのに?

「だ、」

そんな迷いを断ち切るように叫ぶ声があった。


ミ;゚Д゚彡「駄目だ!! 行かなくていい!!」

今度もまた意外なことに、反対したのはフサだった。


从 ゚∀从「ふむ? どうしてかな? よければ理由を聞かせて欲しい」

ミ;゚Д゚彡「理由は……その、ないけど…」

ミ;゚Д゚彡「じゃなくて、ええと……」

何故かフサはひどくうろたえていた。
やがて僕をちら見すると、乾いた笑顔で、誰かに言い聞かすように言う。


ミ;゚∀゚彡「い、いいじゃん、覚えてもいない昔のことなんかさ……どうでも」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:30:49.25 ID:7z3ARQ0I0

ミ;゚∀゚彡「んなどうでもいい事より……今は怪我をはやく治してさ…」

从 ゚∀从「怪我……か、そういえばフサ君、きみは本当に丈夫みたいだね」

从 ゚∀从「確か運び込まれたとき……一番重症だったのh」

理解したくも無いのに、頭が瞬時にその言葉を理解してしまった。
あの映像が脳裏をかすめ、ドクン、と身体が脈打つのがわかった。


あの大きな山犬が、つーちゃんを殴り飛ばした直後のこと。

崩れ落ちるつーちゃんの姿を見て、フサは怒声をあげて――――。

そして、それからどうなった?



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:32:21.80 ID:7z3ARQ0I0


血が、おびただしい量の血しぶきが、が、がgggggggg。



(;゚ω゚)「うっ、う、あああああああああああ……
      あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



(;゚ω゚)「そうだお、教えてくれお!! 僕は…僕はいったい何なんだお!!??
      なんで僕らはあの節にあんな場所に居たんだお!!
      それにあの空の夢は!? 僕は空で!? え!? いや、違う!!
      あの血溜りは!? あれはどの時だったんだお!? え、どの時!?
      ちがう、ちがうちがう、ちがうんだってば、そうじゃない!!
      だいたいあの狼だって、本当は僕が!! ぼく…僕え、僕、なのか…? じゃあ……」

僕は半ば錯乱状態でハインリッヒへ駆け寄り、すがるように言葉を紡いでいた。
だがやがて、僕は見た。見下すような目つきで僕を見るその表情が、愉悦に歪むのを。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:33:34.73 ID:7z3ARQ0I0

(;゚ω゚)「ひっ!!?!??」

从*゚∀从「ああ、大丈夫、ちゃんと教えてあげるからね、ぜんぶ」

从 ∀从「何もかも、ね」

そう言うなり、ハインリッヒが器用に指を鳴らした。
同時に、ドアが激しく開かれ、集団が一気になだれこんできた。

(;*゚∀゚)「なっ、なんだてめえr!!」
爪゚∀゚)「っと、動かないでもらおうかあ!!」

(*゚A゚)「すみまへんなあ二人がかりなんか、でもま、同じつー族としては、
    これくらいはせえへんと危険やさかいなぁ……」

更には、つーちゃんが反応するよりも先に、つー族らしき二人組みが武器をつきつけ動きを封じていた。
うち一人は少し変わったナイフを手に、そしてもう一人はT字に曲がった奇妙な物体を構えている。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:35:35.31 ID:7z3ARQ0I0

爪゚∀゚)「ひゃーーーっひゃひゃひゃ、言っておくが、こいつから飛び出すのは鉛玉だ、
    あたりゃあ死んじゃうので、注意してくれよ!?」

(* ∀ )「……っ」

(;*゚ -゚)「えっ、えっ、なんですかこれ!? 何事変!?」

从 ∀从「―――――クッ」

从 ゚∀从「ハハッ、あははははははははは!!!」

从 ゚∀从「ついに見つけた……なかば諦めかけていたが、まさか自ら転がり込んできてくれるとはなぁ!!」

从+゚∀从「やった……やったぞ、これでとうとう完成する……待っていてくれよ皆、もうじきまた会えるぞ!!」

真っ黒い服をきこんだ人間が、僕とフサを羽交い絞めにして捕らえた。
どうにか抵抗しようと試みるが、何故か体に力が入らない。

いや、それどころか……熱い、身体が、頭が、熱い。

从 ゚∀从「やはりな……あの時と同じ症状だ、原因はやはり過度のストレス、かな?」

从 ゚∀从「連れて行け」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:37:18.82 ID:7z3ARQ0I0

僕を捕まえた人たちが、僕をそのまま病室の外へと引きずっていく。

身体の熱は、どんどん上がっていくような気がして、
頭がやけにぼうっとして、抵抗する意思さえも、すでに無くなっていた。

ミ;゚Д゚彡「ブーン!! おい、待て!! どこ連れてくんだよ!!」

从 ゚∀从「安心していい、フサ助君、君も一緒だ」

ミ;゚Д゚彡「なに、い、うわっ、ちょ、離せよ!! なんなんだお前ら!!」


ややあって、僕の視界は闇につつまれた。何かで目隠しをされているらしい。
それから何かに乗せられ、運ばれていくのが分かる。

だけど今は、なぜだろう、恐怖よりも、不安よりも。
この身体の熱さと、さっきから皮膚がひっぱられるような違和感が収まらず、
ただただ、気持ち悪いこの感覚に耐えるので、精一杯だった。








43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:38:06.88 ID:7z3ARQ0I0








             ∧∧ 
            ミ   彡
             ミ,,,,,,,,,,ミ

           紅季 74節








46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:40:03.22 ID:7z3ARQ0I0

今まで単に目を閉じていて、それを今開いた、そう感じる程、はっきりとした目覚めだった。
僕が居るのは、透明な壁があたりを囲む、巨大な密室のようだ。


辺りは暗く、僕の居る場所を中心に明かりが広がるだけで、他に何も見えやしない。
人は居るのに、なんだか寂しい場所だと、漠然と思った。

ふと、すぐ目の前に、こちらを見つめる人影があった。
フサだった、この壁が邪魔してなにを言っているのか聞き取れないけど、
僕に向かって必死になにかを叫んでいるのはわかった。


しばらくすると、ハインリッヒが現れた。

見れば、何やら分厚い本みたいになってる紙の束を手渡しているようだ。
怪しんでいるのか、フサはそれを払いのける様な仕草をとる。

それでも、ハインリッヒは物怖じする事も、無理強いさせる風でもなく、
ただ黙ったまま、それを受け取り、そして読むように促していた。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:42:34.96 ID:7z3ARQ0I0

ミ;゚Д゚彡「……」

从 ゚∀从「………」

やがて受け取った紙の束を怪しげに見比べてから、フサはゆっくりと紐を解き、
ぶ厚い本みたいに重なった紙面を、ぱらぱらと流し読むようにめくっていく。
けど、それも最初だけで、だんだんとそのペースは目に見えて落ちていった。


ページがめくられていく。


気付けば、あたりを押しつぶすような沈黙が支配していた。
聞こえるはずが無いのに、ページをめくる紙擦れの音がなぜか聞こえてくる。

その妙な緊張感のでいだろうか、胸がやけにざわつく。


(; ω )「……」

ミ,, Д 彡「…………」

ただただ静かに、一枚一枚たしかめるように、フサは紙束をめくっていく。
始めは、わけもわからない様子で、困ったふうに。

やがて目を伏せかたまった。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:44:17.40 ID:7z3ARQ0I0

ちょっとだけ見えたのは、どこを見ているのかもわからない、泣き笑いのような表情だった。


(;゚ω゚)「フサ…?」

フサの手からこぼれるように、紙面の束がばさばさと落ちる。
はらり、ひらり、左右に揺れながらやけにゆっくりと落ちていく沢山の手紙。
それにともなって、やがて崩れるようにフサは膝をつくと、その表情をさらに歪めていく。

耳をすますと、小さく、微かにではあるが、話し声が聞こえてきた。


ミ,,゚Д;彡「あ……れ?」

ミ,,;Д;彡「あれ、俺……なんで泣いてんだ……?」

从 ゚∀从「わかるかフサ助、その手紙は……」

ミつд;,,彡「……くそ、止まらん、んだよ、これ……ぅ、く」

フサは声を震えさせ、次から次へとあふれる涙を拭っていた。
けれど、それも長くは持たなくて、だんだんと声が出せなくなっていき、
やがてとうとう誤魔化す言葉もだせなくなり、呻きながらうずくまってしまった。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:46:19.05 ID:7z3ARQ0I0

不意に、耳を塞ぎたくなった。

あの人が口をつりあげて、何かを言おうとしているから。

言わないで、僕はこれ以上この話がつづいてしまうことが怖かった。
やめてと願う心が、声の代わりに涙になってあふれ出す、他ならぬ僕のために。
けれど時は無情にも、聞きたくなかった言葉をもって、記憶の蓋をあけてしまう。


从 ゚∀从「お前の母親が、お前宛に書いた手紙だよ」

ミ,,;Д;彡「………」


从 ゚∀从「フー、それが君の本当の名前だよ、ああ、病院で見た君の笑顔はあのころの生き写しだったさ、
     懐かしいなぁ……そういえば、フッサール…父親の名を名乗っているのは、思うにあれか
     自分が当時に置かれた環境を前にして、無意識のうちに、そこに足りない物を自分に重ねたのかな?」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:48:26.77 ID:7z3ARQ0I0

(; ω )「…………」

視界がものすごい勢いでぶれはじめ、ひどい鈍痛が目の奥をぐりぐり抉る。
目が回るような痛みのなか、うずくまって堪える僕の脳裏に、なにかの映像が三度めぐる。

一面の空と眼下に広がる雲のじゅうたん。
ふかい森と、そこに生きる彼女の姿。
前をいく白衣と、怪しい棒と針。

ぜんしんから ちのけがひいていく あのまどろみのようなかんかく。

きづけば。
ぼくはひとりで なにかを もとめて ここにいて。
はじめて の ともだちが。
くずれるかべ。
よるの そら    かぜが    ふいて た。
そしてうごかない  の すがた。

視界が反転。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:50:13.84 ID:7z3ARQ0I0

ばづん、と音を立て、頭の中でなにかが弾けた。
忘れたはずの出来事が、次から次へとあふれ出ては形になっていく。

僕は知っている。
その名を知っている。
だって、その子は。

『……ヒャン』

『ソウ、コノ大キナ猫サンハネ、 猫テイウンダ』

『ブ ヒャン?』

『チガウチガウ、文猫ダヨ』

『ブ、ブー・・・?』

『 チャンノ、オ友達ダヨ』


ミ*゚∀゚彡『ブーンヒャン!!』
僕に、名前をくれた、大事なともだちだから。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:51:13.29 ID:7z3ARQ0I0









     終結章(裏) 『あの大災害』









64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:52:27.01 ID:7z3ARQ0I0

爪メ-∀-)、、zzz

(メ*゚A゚)「先輩先輩、そろそろ起きてくなはれ」

爪メ゚∀-)「ん…? あれ、どこだここ?」

(メ*゚A゚)「病室やで」

爪メ゚∀゚)「え、何であたいはこんなとこで這いつくばって寝てるんだ?」

(メ*゚A゚)「覚えてないんでっか?」

爪メ゚∀゚)「ああー、なんか記憶がすっぽり抜けててなー?」

(;* A )(あかん、ショックのあまり一時的な記憶喪失におちいっとる……)



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:54:29.75 ID:7z3ARQ0I0

(;´・ω・`)「あ、あの……大丈夫、ですか?」

爪゚∀゚)「おお? 誰だいこのビッグな猫さんは」

(´・ω・`)「あ、僕はショボって言います」

爪゚∀゚)「ショボかー、あたいはづーってんだ」

(*゚A゚)「うちはのー言いますわ」

(;´・ω・`)「え? 断るの?」ナニヲ?

(*゚A゚)「ちがくて」


病室に取り残された三人、置いてけぼりにされた所に通じるものがあったのか。なんだか仲良くなった。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:56:06.56 ID:7z3ARQ0I0

そして時は戻り、フサとブーンが連れ去られた直後の病室にて。


追跡されるのを防ぐため、二人はそのまま病室にて武器を構えていた。
その間、通して大人しかったつーが、二人組みに対し、ぽつりと呟くように問いかけた。

(* ∀ )「一つ聞きたい、お前らは……なんであいつらが連れ去られたか、知っているか?」

爪゚∀゚)「ふふん、知っていても話すと思うか!!」

爪゚∀゚)「と、言いたい所だけど・・・残念ながら知らん!!」

(*゚A゚)「うちらは与えられた指令をこなすだけやからなぁ」

(*゚∀゚)「そうか、分かった」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 16:58:04.34 ID:7z3ARQ0I0

「時間の無駄だな」

爪;゚∀゚)(;*゚A゚)「うぇ!?? き、消え!?」

文字通り、つーちゃんの姿が瞬きの間に掻き消え。

爪; ∀ )「う゛っ!!」

(;*゚A゚)「はっ!? 先輩!?」

(#*゚∀゚)「寝れ!!」

(;* A )「はうっ!!?」

息つく間もなく、二人の意識を瞬時に刈り取った。
そして何を思ったか、おもむろにブーンが残して行った荷物をあさり、何かを取り出した。


(*゚∀゚)「……やっぱりか、よし」

そして、何かを確認するや否や、病室の入り口へと足を向けた。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:00:05.03 ID:7z3ARQ0I0

(;*゚ -゚)「ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!! こんな時にどこ行くんですか!!」

(´;ω;`)(それより今の行為に突っ込むべき点はないのだろうか……)

(*゚∀゚)「……見ろ、例のあの変な羅針盤だ、明らかにあの森の奥をさしてやがる」

そう言ったつーの手にあるのは、山崎がブーンにと寄越したコンパス。
どれどれ、と覗き込むしぃの視線が針の先を追う。その先にあるのは、窓の奥に広がる街並み、
更に奥を見れば、あるのはやはり、あの霧がかかった怪しい森であった。

(*゚∀゚)「あんとき、森の中で会った、あの変な人間……俺たちに進むなと言ったな」

(*゚ー゚)「言ってましたねぇ…うん、言われた通りにすべきだったかもですね…」

(*゚∀゚)「……思うんだが、あれは本当に、あの山犬が居るから危険だと言いたかったのかね
    ひょっとして、何か別の理由があって、俺たちに行くなと言ったんじゃないのか?」

(*゚ー゚)「え、どうしてそう思うんです?」

(*゚∀゚)「単に危険な生物がいるから止めたほうがいいってんなら、そう言うだろ普通、
    だがあいつは、そんな事は一言も口にしないどころか、何も答えられなかった。」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:02:03.60 ID:7z3ARQ0I0

(;*゚ー゚)「確かに……あ、じゃあ、もしかして、あの人が行くなって言ったのは、
     あの遺跡自体のことじゃなくて、このコンビニという街のこと……?
     何も言えなかったのは、余計な情報をあたえて興味の対象になるのを防ぐため!?」

(*゚∀゚)「確証はねえ、だが、もしそうだとしたら……あの砂尾とかいう人間」

(;*゚ヮ゚)「なにか事情を知っているのかもしれない!! ですね!!」

(*゚∀゚)「案外あたま回るじゃねえか! そういう事だ、行くぞ!!」

(*゚ー゚)「がってん!!」

(;´・ω・`)「え、ぼ、僕は!!?」

(*゚∀゚)「ショボはここで待ってろ、んでもしあいつらが帰ってきたらその都合を話しておいてくれ」

(;´・ω・`)「う、うん……でも、帰ってこなかったら…?」

つーはその不安気な言葉に対し、心配するなと気休めしか言えなかった。
何故なら、つーには一つ気がかりな事があったからだ。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:04:20.09 ID:7z3ARQ0I0

思うに、連中は最初からブーンとフサを狙っていた。
そしてそれはきっと、あの二人の出生に関わっている事なのだ。


となれば、どう転んでも良い方に進むとは思えない。


確信めいた嫌な予感、あの事件を知るつーにとって、これ以上に焦燥感をかりたてる物はなかった。
そんな焦りに当てられたのか、しぃもまた最悪の予感を感じていた。

こうして、二人は尚早のおもむくままに足を走らせ、街を抜け、山道を駆け抜け、森の奥へと進んでいく。

針が向かう先へただひたすらに。
どれほど経ったか、やがてそこに、一つの人影を見つけた。


(;*゚ー゚)「あ!! 居ました! ほらあそこ!!」

(;*゚∀゚)「よし、おい!! そこのお前!!」

(;*゚ー゚)「砂尾さーん!!」ドンストップ!キャリーオン!!



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:06:15.42 ID:7z3ARQ0I0

彼女はその長い耳をぴくりと上下に揺らすと、腰まで伸びた髪をひるがえし、
自らを呼んでいるであろう声の先を見据えると。
静かに、しかしどこか諦めにも似た沈んだ表情を浮かべた。

<アキーラメーナァーアイィ〜♪

<ウタットルバアイカ!!

(*゚ー゚)「愛になるんですってば!!」

(#*゚∀゚)「知るか!!」

川 ゚ -゚)「ええと…君らは……こないだの?」

(*゚∀゚)「ああ、話がある、ちょっといいか?」

(*゚ー゚)「神妙にお縄頂戴です!」

それから、駆け寄った二人がすぐに事情を説明しようとするが、
砂尾は両手をひろげて制止するよう促し、立ち話もなんだと自らの家へと招待した。

焦りと疲れによるものか、二人は警戒心も忘れて彼女の後を追い、
こざっぱりとしたロッジ調の部屋の中、机を挟んで相対すると、これまでの経緯を語った。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:08:53.60 ID:7z3ARQ0I0

その間、ずっと頷くか、顎に手を置くかを繰り返していたが、
やがて何を思ってか、一つの言葉をぽつりと零した。

川 ゚ -゚)「そうか……」

(*゚∀゚)「やっぱり、何か知ってんだな?」

川 ゚ -゚)「話す前に、聞きたいことがあるんだけれど、いいだろうか」

(*゚∀゚)「・・なんだい」

川 ゚ -゚)「私としても、あまり良い思い出ではなくてね、できればそう話したくはない・・・だから
     あの二人が、本当に私の知る二人なのだという確証がほしい」

(*゚∀゚)「どうすりゃいい」

川 ゚ -゚)「教えてほしい、君は・・・あの二人とどうやって知り合った?」


そうして、つーは静かに語り始めた。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:11:17.65 ID:7z3ARQ0I0

自分はまだ幼い頃だったから、よく覚えてはいないが、両親から聞かされた事がある、と。


風の吹いた節という世界規模で起きた災害は当然ながら、秘境の地とまで呼ばれたつー族の村にも及ぶ。
その影響によって、いくつもの家屋が倒壊し、畑は荒れ、木が折れ、山は崩れて川を埋めた。

結果という言葉を用いれば、たったそれだけの悲劇である。
だが、実際に体験した者からすれば、そんな生易しいものでは無い。

吹き荒ぶ強風を前に、誰もが自分の無力をかみ締め、世界の終わりさえも感じたであろう。
その絶望は、時を経た今でもトラウマとなって人々の心に残り、語り継がれている。

どこに逃げる事もできず、吹きこむ隙間風に、轟と鳴りつづく張り詰めた空気。
家が軋む音は絶えることなく、時折、どこからか悲鳴が響いては身をすくめた。

いつまで続くのだろうという疑問は、もう止めてくれという願いに変わり。
碌な食事をとる事さえ叶わぬまま、誰もが無限に思える時をひたすら耐え続けた。

長い、長い、絶望だった。同時に、それは人の心を荒ませるには充分だった。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:13:11.90 ID:7z3ARQ0I0

(*゚∀゚)「風がやんでもああよかった、なんて手放しに喜べるような状況じゃない
    みんな精神的に参ってたし、その上、外はあんな状況だろ」

やがてようやく風も収まり外に出た人が見たのは、草葉が吹き飛ばされ、幹だけが残る裸の山々。
民家に突き刺さる大木の枝、木には布切れがボロボロになって垂れ下がり、
湧き水のように流れる川原には、いくつもの死骸が無残にも転がっていた。

そしてそんな時、二人が発見された。

(*゚∀゚)「村の入り口で、ちょうどショボン、お前が来たときみたいに倒れてたんだ」

(;*゚ -゚)「…! じゃあ、あの二人はあの風のせいでつーさんの村に…?」

(*-∀-)「分からん、分からんが……見つけた内の一人は、二人にまだ息があるのを見ると、こう言ったそうだ」

(*゚ー゚)「早く助けなきゃ?」

(*゚∀゚)「いや」

は、と自嘲するように息を吐き。

(*゚∀゚)「こいつらだ、こいつらのせいでこんな事になったに違いない」

(*゚∀゚)「いっそのこと、殺すべき、だ」



92: 訂正、居ないよショボ!! :2009/05/31(日) 17:14:50.75 ID:7z3ARQ0I0

(*゚∀゚)「風がやんでもああよかった、なんて手放しに喜べるような状況じゃない
    みんな精神的に参ってたし、その上、外はあんな状況だろ」

やがてようやく風も収まり外に出た人が見たのは、草葉が吹き飛ばされ、幹だけが残る裸の山々。
民家に突き刺さる大木の枝、木には布切れがボロボロになって垂れ下がり、
湧き水のように流れる川原には、いくつもの死骸が無残にも転がっていた。

そしてそんな時、二人が発見された。


(;*゚ -゚)「…! じゃあ、あの二人はあの風のせいでつーさんの村に…?」

(*-∀-)「分からん、分からんが……見つけた内の一人は、二人にまだ息があるのを見ると、こう言ったそうだ」

(*゚ー゚)「早く助けなきゃ?」

(*゚∀゚)「いや」

は、と自嘲するように息を吐き。

(*゚∀゚)「こいつらだ、こいつらのせいでこんな事になったに違いない」

(*゚∀゚)「いっそのこと、殺すべき、だ」



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:16:08.24 ID:7z3ARQ0I0

(;*゚ー゚)「え、ええ!? どうして!?!!」

川 ゚ -゚)「………」

(*゚∀゚)「あいつらさ、実はうちの村でちょっとこう、差別ていうか、変な扱いされてんだけどよ」

(;*゚ -゚)「……」

(*゚∀゚)「それが理由でな、あいつは忌み子、なんて呼ばれるようになった」

発見された当時、二人はただ倒れていた訳ではなかった。

落石でもあったかのように陥没した大地、その中央に寝そべる見知らぬ子供と、大きな猫。
大きく広がった血の形跡が残る地面の上に、まだ乾いていない赤い液体が水溜りを作っていた。

だが何よりも、赤黒く変色した体に付着した、おびただしいまでの血痕。
そして、吐き気を催すような血の匂い、蝿を筆頭にたかる大量の虫、漂う死臭。
誰がどう見たって、それはもう死骸にしか見えなかった、かと言って、あの風の影響にしても異様過ぎる状態。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:18:33.47 ID:7z3ARQ0I0

にも関わらず、その二人、正しくは一人と一匹は生きていた。
それも、見た目の出血量に対して、目立った外傷はまったく見当たらないと言う異常。
あまりの不気味さに、誰もが近づく事をためらった。


(*゚∀゚)「うちの村はかなりの田舎で、他所がどうなってるのかなんて知りようが無かったからな、
    それに加えて、そんなもんが見つかったら……そりゃ、なんかの呪いだと思っちまうんだよ」

更に言えば、長きにわたる風による恐怖と、その結果として目の前に転がる凄惨な状況。
人の心は荒み、とてもじゃないが他所に気を回せるほどの余裕はなく。
そんな時に現れたのは八つ当たりには都合のいい、怪しい子供。

一人が怨念を吐き出せば、それに釣られて、他の人々も己が痛みを怨みに変えた。

何故自分たちがこんな目に合わなければいけないのか。
その嘆きを、全て呪われた子供のせいだとすり替えた。

今にきっと、もっと酷いことが起きるに違いない、そうなる前にとヒステリックに叫ぶ者も居た。
それは非情な光景だった、しかし、誰がそれを攻めることができるだろう。
異変に怯える人々に、更なる異常を受け入れろと言う事こそ無茶と呼べる。



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:22:40.70 ID:7z3ARQ0I0

しかし、当然だがその場に居る全てがそれを望んだわけでは無い。
相手はただの子供だ、いくらなんでも殺すのは、そう思いつつも口には出せず不安に心を揺らしていた。

そんな時、その子供と猫を心より心配し、すぐに救助を、と行動を起こした人が居た。
つー族の村の長、フサが厄介になっていたあの家の、つーの両親である。

彼らは暴動に近い混乱をすぐに鎮め、二人を自宅へと運んだ。


(;*゚ -゚)「……それで、そのままつーさんの家で?」

(*゚∀゚)「ああ、けど、そっからがまた大変でな……」

運び込んだ二人を、まず綺麗にしようと試みて両親は更に驚いた。
何故なら、血痕を洗い流したその体には、傷一つ存在していなかったからだ。

じゃあ一体、あの大量の血はなんだったのか。

流石に疑念にかられ始めた。しかしそんな時、ちょうど子供の方が目を覚ました。


ミ*   彡「……?」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:25:02.51 ID:7z3ARQ0I0

子供は目を覚ますと、何事も無かったように身を起き上がらせ、不思議そうに辺りを見回した。
両親の二人が色々と問いかけてみるが、子供は首をかしげ、疑問符ばかりを浮かべてばかり。

もしや、記憶が無いのではないか。そう結論付けるのに、そう時間はかからなかった。

そうこうする間に、もう一匹、大きな猫の姿をした生き物も目をさました。
奇妙なことにその猫はにゃあ、とは鳴かず、ぉぉぉ、と篭った声をあげる。

いよいよ持って、本格的に怪しい存在となってきた。
だが両親はそれでも、二人を見捨てようとはしなかった。

この事は、村の皆には伏せられ、二人は眠ったままだと、表向きには報じられた。


それからしばらくして、甲斐甲斐しい世話あってか、二人は拙いまでも言葉を話せるまでに回復する。

猫が喋るのについては、唯一この村にも伝わっていた、そういう存在が居るという事実と、
本人ならぬ本猫から「ぶん猫のぶーん」という自己紹介もあって、問題もなく認知された。


だが問題は、やはり子供の方にあった。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:28:09.19 ID:7z3ARQ0I0

時が経ったとは言え、一度は恨まれた身、先入観という物はそう消える事はなかった。

更には、村でも特に目立つその長い毛と、切ってもすぐに伸びてしまう、その異様さ、
いつまで経っても、始めに呼ばれたあの名前がつきまとい続ける。

忌み子、果たして幸か不幸か、その名が呼ぶのは人からの中傷ではなく、単純な呪いへの恐怖だった。

あれに関われば何が起こるか分からない、近寄ってはいけない、触れてはいけない。
そんな空気が蔓延した世界で、何が起こるかなどは創造に容易い。

(*゚∀゚)「……んで、今に至る、だ」

川 ゚ -゚)「ふむ……」

(;*゚ -゚)「……なんだか、すごい話を聞いてしまいました……」

(*゚∀゚)「どうだい、なんか分かったか?」

川 ゚ -゚)「そうだな…」

(;*゚ -゚)「切ないですね……この気持ち、歌っていいですか?」

(*゚∀゚)「空気読め、んで、どうなんだ?」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:31:13.37 ID:7z3ARQ0I0

川 ゚ -゚)「一つだけ……じゃあその猫、ブーンは、自ら文猫を名乗り、それ以外はまともに喋れなかったんだね?」

(*゚∀゚)「ああ、そう聞いてる」

川 ゚ -゚)「そうか……やはり、そうなんだな…」

(*゚∀゚)「やっぱりあんた、知ってたんだな? あの二人の事を」

川 ゚ -゚)「……いや、私が知っているのは、その猫のほうだけだよ
     それも正確には、あの猫が連れているものが、私のよく知るものであった、そういう話だ…」

(*゚∀゚)「…ちょいと、詳しく聞かせてもらおうか?」

川 ゚ -゚)「もちろんだ、嫌な事を思い出させた分、何でも話そう…ああ、そういえば自己紹介がまだだった」

川 ゚ -゚)「私は森の護人エルフ、名は、クー・ル・デザートテイル」

川 ゚ -゚)「この地にて、数千もの季節を経て尚生き続ける魔女……ここらでは、そう呼ばれているよ」






                                              終結章(裏) おわり



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:51:20.30 ID:7z3ARQ0I0



そこは、とても暗くて、人はたくさん"在るのに"とても寂しい場所だった。

透明な壁に囲まれた、せまい密室の中に閉じ込められた僕は、体中をへんなケーブルで縛られ、
赤い液体のなかを漂うことしかできなかった。僕は自分がなんなのかさえ分からない。

どうして僕はこんなところに居るんだろう、思っても、その答えが得られることはなかった。


暗い世界にいた僕に、手を差し出してくれた、いつも側に居て、楽しそうに笑っていた。

それからだ、僕の世界が劇的に変わっていったのは。



身体を浮かせていた、ねばねばする液体が抜かれ、僕は鉛のように重い身体を這いつくばらせた。
動けない、苦しい、息ができない。しかし、幾度かむせると口から液体があふれ出て、少し楽になった。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:53:08.21 ID:7z3ARQ0I0

気付けば、あの子が僕のすぐ側にいて、真っ白くてふにゃふにゃした変な物で、僕のからだを撫で回した。
白い変なのじゃすぐにピンク色になって、そうするとまた新しい変なのでまた僕を撫で回す。

ぐにゃぐにゃだった僕のからだが、少しだけぱりっとしてきた。

その子はしきりに何かを言っていた、ああ、よく覚えてる。ブーンと、そう呼んでいた。

誰を?

僕を、だ。


それからしばらくすると、僕は立ち上がれるようになった。
よっつの足で、覚束ない足取りってやつながら、ふらふらと起き上がる。

誰かがそんな僕を見て、すごい、と言って手を叩いた。
なんだか呼んでいるっぽいので、ヨロヨロと向かうと、その人はさらに喜んだ。


色々な言葉を覚えた。色々な感情を知った。色々な表情を見た。

今にしてみれば、あれはとても幸福な時間だったのかもしれない。




だけどあの頃の僕に、そうは思えなかった。



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:55:15.72 ID:7z3ARQ0I0

記憶の片隅にあった、どこまでも続く広大な空。
僕はその光景につよく惹かれ、憧れていた。

だからここは、僕を閉じ込めている場所なんだと思った。
出たい、という思いは、やがて出なくちゃ、という物になった。


同時に、僕はいつも奇妙な喪失感を抱えていた。

何か大事なことを忘れている、とても、とても大切な事だったはずなのに、
どうしても思い出せない、この胸に穴が開いたような痛み、そして空の憧憬。


やがて僕は、背中に走る激痛と、苦しいほどに熱を帯びた身体に耐え切れず。


深く息を吸い込んで、おもいきり吐き出した。





(  ω )「…ぉ」

それから、どうなったんだろう?



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:57:12.32 ID:7z3ARQ0I0

何故か記憶はそこで途絶えてしまった、どうしても先が思い出せない。
ここまで鮮明に思い出せるのに、ぽっかりとこの先がわからない、
自分のことのはずなのに、どうしてか何もわからなかった。

僕が失くしている大事なものは、その先にあるような気がするのに、
まるで鍵でもかけられているように、浮かんでこない。


そんな僕の耳に、声が聞こえてきた。

外から聞こえているようだった。



誰かの、泣き声?




……。



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 17:59:58.81 ID:7z3ARQ0I0


从 ゚∀从「悲しいかい、母親がもう生命活動を終えているいう事実が…」

从 ゚∀从「これだけは言っておこう、彼女は最後の最後まで、君の事を思っていたよ」

ミ,,;Д;彡「く、うっ……」

从 ゚∀从「ふふ、まあ、もういいだろう」

从 ゚∀从「時に尋ねるが、心、という物が何なのか知っているか?」

ミ;つД;彡「どういうって、心は心だろ……!」

从 ゚∀从「ああ、その通りだ、決して形にはならず、曖昧でとらえようの無い存在でありながら、
     人との意思疎通を行わせるという明確な論理観を持っている、奇妙で不確かな存在だ」

从 ゚∀从「それは私たちの何処にあるのか、そう問いた時、人は胸か、頭を想像するだろう」

从 ゚∀从「ならばその語源、という物を知っているかね?」

ミ;゚Д゚彡「は、はあ? なにを言って……」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:02:35.32 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「凝り凝りノ、ここり、こころト転ジタル語ナリ、サレバココリトモ伝ヘリ……」

ミ;゚Д゚彡「……???」

从 ゚∀从「その昔、人は動物の内臓のことをコルと呼んだ、それが転じて人の内臓の通称となり、
     やがてそれが精神の意味にまで解釈されたのがココロというものだ」

从 ゚∀从「が、あくまでそれは語源、内臓と精神を同一としたのは、また別の問題だ」

从 ゚∀从「君も見たことがあるだろうが、死亡直後の動物の内臓は、赤や黄色と素晴らしく色鮮やかだ、
     まだ、それが何であるかを理解できない時代の人々は、それを見てこう考えた……」


从 ゚∀从「生物がさまざまな活動を行うことができるのは、その不思議な塊のおかげであると!」

从 ゚∀从「現にそして私たちが日頃あつかう言葉にも、それらは反映されている、
     腹が立つ、腹黒い、腹を探る、どれも精神観に直結するものだ」


从 ゚∀从「そして私もこの論理観、いや、敢えて言うなら世界観を心から信じている」

从 ゚∀从「そして私はその心の塊なる物を、こう呼ぶ」

从 ゚∀从「魂と!!」

語りながら壁際へと向かうと、ハインリッヒは備え付けられた何かのスイッチを押した。
すると同時に、ずらりと並ぶ円柱に光がともり、室内を淡く照らし出す。



130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:05:24.78 ID:7z3ARQ0I0

ミ;゚Д゚彡「な、なんだよ……これ…!」

ガラス張りの円柱は、どれも中が空洞になっており、その内部には赤い水が満たされている。
一見すれば水槽にも見えるが、大量のケーブルと色鮮やかで肉質的な物体がただようプールはそんな概念さえも見失わせた。


从 ゚∀从「おや? さっきから説明しているのに、分からないのかい?」

ミ#゚Д゚彡「そういう事を言ってるんじゃねえ!! なんだよこれ!! まさか、これ全部…!!」

从 ゚∀从「ああ、人の、生きた臓物だ」

ミ;゚Д゚彡「生きた!? ば、馬鹿言え、こんな姿で……うっ…」

从 ゚∀从「死んでしまった…いわば活動をやめてしまった物は、流石に手のうちようが無いのでね、
     ここに居るのは、そう、生きたまま内臓をとりだし、この培養装置の中でひとまずの休眠を―――」

ミ;゚Д゚彡「おま、それって……ひ、人殺しじゃねえか!!」

ミ;゚Д゚彡「そういえば、しぃが言ってた……ここに来て、二度と帰らなかった人がたくさん居るって……」

ミ#゚Д゚彡「あんたが…!!」

从 ゚∀从「いや待て待て、誤解してもらっては困る、彼らはみな、
     私の思想に賛同し、その上で、自ら望んでこうなったのだよ?」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:07:37.34 ID:7z3ARQ0I0

ミ#゚Д゚彡「そういう問題じゃねえだろ! の、望んだから殺したってのか!?」

从 ゚∀从「いや、だから……ふむ、なら逆に問おう」

从 ゚∀从「どうも君は殺人が絶対悪であるような口ぶりだが、それが悪たる所以を明確な理由をもって言葉にできるのか?」

ミ;゚Д゚彡「そ、それは……」

从 ゚∀从「なんだ、そんなことも分からないのか? それでよく人に突っかかれる物だね、
     ひどく簡単な話だよ、それを罪とするのはな、命が一つ限りの物だからだ」

ミ;゚Д゚彡「……一つしかないから?」

从 ゚∀从「当然だろう? 一度死んでしまえばもう二度と生き返ることはできないから、殺人は禁止されているのさ」

从 -∀从「ああ言葉にしてしまえば何と単純かつ明確な事か、非道などという曖昧な低俗観念とは比べ物にならんだろう?」

ミ;゚Д゚彡「……っ……それと、このいかれた行為に何の関係があるってんだよ」

从 ゚∀从「く―――っ、はっ、ははは!! ああ、ああ、大いに有るのだよ!!!!」

高笑いの後、わざとらしく両腕を広げたハインリッヒが、フサへとにじみ寄っていく。
その姿に異様さを感じ取ったのだろう、フサは逃げるように後ずさった。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:10:21.62 ID:7z3ARQ0I0

从*゚∀从「いいかね!?」

ミ;゚Д゚彡「…っ」

从 ゚∀从「―――死とは、いわば心の終焉、ゆえに死の恐怖と呼ばれる物でさえ、実際には痛みでも苦しみでもない、
     ましてや他人が決めた論理観、漠然とした絶対善への信仰などでは断じて無い!
     死の恐怖とは本来、自我の消失と言う、いわば永遠の虚無への畏れでしかないのだ!!」

从*゚∀从「ならば、その自我を!! 心を!! 死後も持続させることができたなら!? できたならどうだ?!
     分かるだろう!? そうなればもう、肉体の有無など取るに足らない事柄になるのだよ!
     そしてそれに気付いたときに私は悟ってしまった、肉体はただの容器、あるいは牢獄に過ぎないと!」

从*゚∀从「ヒ、ヒ、この結論に達してから今宵まで、私は研究に明け暮れたよ、いかにしてそこに辿り着くかとね、
     だが光明はとうに差していた、先にも話したな、心というものは『生物の臓物に宿るもの』なのだと」


ミ; Д 彡「っっ……、じゃあ……その為に、何人も、沢山の人をあんたの、そんな勝手な都合で…!!」

从 ゚∀从「そして、ツーもそうだった、自らそうなる事を望んだのだ、自分の代ではついぞ果たせなかった夢と、
     いつか帰ってきてくれると信じた子供に再び出会うために、魂となって待つことを望んだ」


ミ,,゚Д゚彡「……ツ、」

ミ;゚Д゚彡「は……? 今、なんて……」



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:13:22.15 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「いや、そもそもここに今は眠る彼らも皆そうだがな、
     私の愛しい協力者達だ、だが、それももうじき会えるんだ」

ガラス張りの水槽の一つに近づくと、ハインリッヒは何処か嬉しそうに微笑みながら手を這わせた。
いくつかの気泡がぽこ、と浮かび上がり、ピンク色をした何かをなぞりながら登っていく。
やがてガラス面をなぞるハインリッヒの手が、何かのプレートの上でぴたりと止まった。

白い板には、大きく名前が書かれている。
フサはそれを見るなり、全身の毛を逆立たせた。


ミ# Д 彡「…あ、あ、ぅ……うあ、あああああああああああああああ!!!!」


ミ#゚Д゚彡「お前ぇ…!! お前があぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

从 ゚∀从「ああそれに、どのみちもう長くはなかった……ああそうとも、むしろ私がしたのは彼女の願いそのものだ、
     感謝こそされども、怨まれる筋合いは何一つないのだがなあ?」

ミ#゚Д゚彡「……っぁ! ふ…ふざけんじゃねえぞてめえ!! 勝手に殺されて、それからこんなものに入れられて…っ、
     あんたが何を言ったところでなぁ、結局やってんのはただの人殺しじゃねえか!!」

从 ゚∀从「魂の救済、と言って欲しいな」



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:16:07.51 ID:7z3ARQ0I0

ミ#゚Д゚彡「狂ってやがる…」

从 ゚∀从「ほう……狂っている、か? やれやれ、相容れぬ思考であるだけで狂人扱いか、
     まあ思うに、そうやって簡単におかしいと切り捨て、それを見下そうとするのも人によく見られる特徴だがな」


从 ゚∀从「だがどちらにせよ、それは君の現在の主観に過ぎない、時が経てばそれもすぐに消える
     いや! それどころか必要な物だったのだと省みるだろう、かつてがそうであったようにな」

ミ#゚Д゚彡「んなわけあるか!! こんな酷い真似して、許されるわけないだろうが!!」


从 ゚∀从「いいや君が知らぬだけさ、世界はいつもそうやって巡ってきたのだから、
     知らぬとはまさか言うまいな、君はこれまで見てこなかったのか?」

問いかけに対してフサは返す言葉もなく、尻込みするように身を下げた。
それを見るなり、ハインリッヒはかぶりをふり、わざとらしく手を広げながら続ける。


从 ゚∀从「ある一つの行為が見方によって善であり、また悪であるという事例のことさ、
     くだらぬ差別や、弱肉強食から外れた一方的な搾取、そんな物はうんざりするほど無数に存在する、
     見てきた筈だ、この世界を旅してきたのなら、ああ、知らぬ筈がないのだ」



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:18:34.24 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「そして、それらは時を経ることで後悔や反省の形となって、人々に浸透していく」

从 ゚∀从「こんな話がある。これはまだ精霊が神として崇められていた頃、神は全ての創造を司ると言われていた、
     そして神に造られし我々は、天命の赴くままに生き、死んでいくのが当然であると」


だが人は、怪我をした箇所を放置すれば悪化すると知っていた、ゆえに様々な方法を持って治癒を試みた、
やがて、それは技術となって人の間で洗練されていく事になる。

从 ゚∀从「が、しかし、その発展していく半ば、その研究者たちへの弾圧が始まった」

その人体研究は忌むべき物、人道に背くものだと叫ばれた。


从 ゚∀从「それは何故か」

洗練された治癒技術は、発展につれて人体の仕組みについて触れ始める。
骨の存在、肉の存在、そして流れる赤い液体、それらがどう人を生かすのかを研究し始めた。

その真意は、人体の解剖による理解と、その知識を応用した高度な治療である。

しかして、神への信仰者たちは己が身は神が与えたものであり、成すがままに生きるべきだと説いている。
その二つの思想が衝突するのも、ある意味必然であった。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:21:08.28 ID:7z3ARQ0I0

物事を創造するのは神の御業、人がその領域に足を踏み入れるなどあってはならないのだと、
その研究者たちを人道に反する、魔学者とまで称し、時には過激な手も平気で行われていた。

从 -∀从「かつての偉人と言う存在が、よく狂人と呼ばれるのはその辺りに原因があるのだろうな」

ミ;゚Д゚彡「……長々とわけのわからん事言ってるけど、つまりそれが何なんだよ」


从 ゚∀从「その忌み嫌われた学問の名は、医学」

从 ゚∀从「今では人々の中に浸透し、無くてはならない物にまで成ったかつての魔学だ」


从 ゚∀从「私が行っていることも、やがてはそうなる、人が死を恐れなくなる時がくるのだよ!
     その節には君も私に感謝したくなる、真に人の為であったのだと気付くからだ!!」


从 ゚∀从「いやっ、君だけじゃない、人が永遠に心で生きられるのならば、無駄な差別もなくなる
     何せ誰もが同じ魂という一くくりの存在となれるのだ!
     ならばどうだ、まさにそれこそ、楽園と呼ぶに相応しいものだ、そう思うだろう?」



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:24:15.71 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「いや、当然か、現にこれだけの数の人間が賛同し、我が元に集っているのだから!!!」

从* ∀从「理解るだろお?! ヒ、ャハ、ハハハハハははハハハあははははははハハハ!!!!」

ハインリッヒの周りを取り囲むように鎮座する、大量の光る柱。
ぼんやりと輝く柱は、彼女の笑い声にこたえるように明滅を繰り返し、
いくつもの灯りによって落とされた彼女の影は、ひどく歪んだ人外の姿を映していた。

そんな身もすくむ異様な光景の中、やがてフサは落とした視線をゆっくりと上げていく。
耳は力なく折れ、しっぽもだらりと垂れ下がっているが、つよく拳をにぎりしめ、
今度ははっきりとした怒りをあらわに、ハインリッヒを睨みつけた。


ミ#゚Д゚彡「……わかんねぇ、あんたの言ってる事はぜんっぜん理解できねぇよ!!」

ミ#゚Д゚彡「でも、なんとなく、やっぱりあんたが間違っているって事だけはわかる!!」

从 ゚∀从「だからそれは一時の感情に過ぎないと…」

ミ#-Д-彡「そうだよ……一時のもんさ、それにあんたがさっき言ったように、
     物事は見方で善にも悪にもなる、絶対に正しいものなんて、この世のどこにも無いのかもしれない」


ミ#゚Д゚彡「でも、だからこそ俺の今の思い、今、間違ってると思うものは、誰が認めたって俺は認めたくない…!
     あいつが俺に教えてくれたんだ、いいも悪いも無い、自分が正しいと思った事を信じていいんだって」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:28:16.43 ID:7z3ARQ0I0

ミ#゚Д゚彡「だから俺はあんたを認めない! そして、こんな事はもう終わりにする…!」

从 ゚∀从「終わりに? なんだ、どういう意味だい?」

ミ#゚Д゚彡「ブーンを取り戻して、こんな研究やめさせてやる…!!」

从 ゚∀从「こんな研究をやめさせる……? ほう?」

从 ゚∀从「それはつまり、母親を自らの手にかけよう、ということか?」

ミ#゚Д゚彡「そうだ…!!」

从 ゚∀从「はっ、なんだ、散々人を殺人者あつかいしておいて、結局それか?
     それをすれば、君も私と同類、ということになるなぁ?」

ミ# Д 彡「としても……」

ミ#゚Д゚彡「そうだとしても!! 俺は、こんな狂ったもんの為に、
      死んでからも、こんな姿になってまで、弄ばれる様なのは見たくない!!」

ミ#゚Д゚彡「こんな陰気な場所からは俺が連れ出して、そしてもっと綺麗な場所に連れて行く!!」

ミ#゚Д゚彡「それが……俺にできる、最初で最後の親孝行だから!!」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:30:37.55 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「そうかそうか、そんな事が、君にできるとでも?」

ミ#゚Д゚彡「やってやる、どうせ逃げ道はねえんだろぅ、だったらもういい、やけくそだ!!」

从 ゚∀从「ほお、いい覚悟だ、だがね……この計画はもう最終段階なのだよ
     ホライゾン、いやブーンだったね、彼こそは正にその結晶なのだ」

从 ゚∀从「よもや、こうまで上手くいくとは、自分でも驚きの結果だよ」

ミ;゚Д゚彡「ブーンが……?」

从 ゚∀从「だが、まあ君がこうして生きている時点で、当然の結果といえるのかな?
     まあ見ていたまえ、これからとても面白い事が起きるのだからね」

ミ#゚Д゚彡「まさか……ブーンまで!?」

从 ゚∀从「君が考えているものとは、おそらく違うものだから安心したまえ、
     それに前回の反省をふまえ、今度は"逃げられないよう"頑丈なものを用意したからね」

ミ#゚Д゚彡「やめろ…やめろよ、お前、ふざけんなよ!! させねえ、絶対にさせねえぞ!!」


僕が居るこの広間へ向け、ハインリッヒが一歩踏み出す。
するとフサはその前に立ちはだかり、両腕を広げた。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:33:05.17 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「……やれやれ、これだけ説明してもまだ理解してくれないのか…残念だよ
     ああ……そうだフー、君は一つ大事なことを忘れているのではないかね?」

ミ#゚Д゚彡「なんだよ!」

从 ゚∀从「君の出生については分かったようだが、肝心な部分がまだじゃないか?」

ミ; Д 彡「…そ、それは!」

从 ゚∀从「……ん?」

フサはその言葉に身を震わせてから、何かを言いかけて口ごもった。
重い時がながれ、どこからか聞こえてくる水音だけが怪しく室内に響き渡る。

と、やがてハインリッヒが口元を歪め、こちらを横目に笑い声を漏らした。
その目は、何故か呼吸が止まりそうになるくらい、恐ろしいものだった。

从 ゚∀从「そうかフー……君はもう」

ミ; Д 彡「や、やめ…!!」

从 ゚∀从「もう、とっくに思い出していたんだな? あの、風の吹き始めた節に起きた事を」



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:35:51.56 ID:7z3ARQ0I0

ミ# Д 彡「言うな…」

从 ゚∀从「ああこれは滑稽だ、気付いていながら知らないふりかい? どういうつもりだ?
     何の為だ? 友達だから? それとも同情か? それこそおかしいなあああ!!」

ミ#゚Д゚彡「言うなっつってだろうがぁ!!!!」

フサは必死の形相で、とうとうハインリッヒに殴りかかった。
よほど力を込めたのか、右頬をとらえた一撃は、そのまま彼女を地に触れさせた。
だが、ハインリッヒは寝転んだまま、平然と言葉を続ける。


从 ゚∀从「面白い、実に不思議な子だなぁ君は!! 何故庇うのだ!? そこに居るのは、君が本来憎むべき相手だろう!?」




从 ゚∀从「確かに、今のあれはクローン再生技術研究の過程において、生物の復元を試すために造られた人工の文猫に過ぎない、
     だがあの姿はあくまで仮でしかない、言葉を求めた愚かな獣の末路があれだ! そして……」



ピし



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:38:55.69 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「あの透季のなかば、この部屋を破壊し、君の母親の命を蝕むほどの重症を与え、巻き起こした風によって父親も行方不明!!
     更には君をもさらい、空の上で君を殺し、挙句の果てに自分の都合のいいように生き返らせた!!」


ビシッ



从 ゚∀从「言ってしまえば、君から家族も幸せも、それら全てを奪い去り!!
     あまつさえ、不幸のどん底にまで叩き落したのは、そこにいる言葉を欲した愚かな獣だ!!!」



ぎ、あ、が



从 ゚∀从「それだけでは無いぞ!? そいつはむしろ世界中から恨まれても仕方のない存在なのだ!!
     何故かって!? 決まっている、あの人々を恐怖に陥れた、あの風の吹いた節―――」



う あ あ゛ あ゛



从#゚∀从「あの災害を起こした張本人、それがあの、文猫という皮を被った怪物の正体だ!!!」



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:41:46.18 ID:7z3ARQ0I0




ブチッ


今のハ、何の音だったンだろう、気のせいカ、背中で、ナニカガ、チギレル音だったヨウナ。

いや、そんなのは、今は、問題じゃないだろ。

僕。




そうだ、僕だ。僕だったんだ。


(;゚ω゚)「僕が……そうだ、僕がやったんだ………僕がやったんじゃないか…なにもかも…」

(  ω )「は、ははっ……ぁ、は、あ、ああ、あ、あ、あ  あ  あ…?」

ミ; Д 彡「…っっ!!」

ミ;゚Д゚彡「ブーン!! ちょっと待て!! 駄目だ、落ち着け!!」

ミ; Д 彡「   そ   俺は    ない   このま   て!!    」



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:43:59.50 ID:7z3ARQ0I0


何が家族だ、何が友達だ、何が……僕に、どうしてそんな事を言える資格がある。

無い、あるわけが無い。

あっていいはずがない。

僕がやったんだ、僕が死なせてしまったんだ、こんな僕でさえ愛してくれていた人たちを裏切り、
あまつさえ命も、そして命よりも大切な物を、そしてその大切な者からでさえ、ありとあらゆる物を奪った。

ざ、

ノイズがかった映像に映りこむのは、恐怖に歪んだ表情、嘆く仕草。

それらは何もかも。
僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、

僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、


( ;ω;)「ぅあ、あ、あぅ、う、うえぐ、う、うっ……!!」


僕が、みんなを、殺した。



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:46:09.37 ID:7z3ARQ0I0



 『かつて、私はここで、彼と暮らしていた』




どこからか、赤い液体が流れ込み、白い床をあかく染めていく。




 『だが、彼は言葉を話すことができなかった』




透明な壁をフサが叩いている、違う、違うんだ、そんなつもりじゃなかった。




 『そこを、彼女に付け入られた、言葉をあげると』



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:48:01.29 ID:7z3ARQ0I0


両足がいつのまにか、赤い液体に完全につかっていた。




『目的は、血と、肉だろう』




電流が走るような痛み、背中に刃物を突き立てられたような。




『聞いたことはないか?』




ブチブチ、と音を立てて何かが千切れていく頃、溺れてしまいそうだった水位がぐん、と下がっている。


いや違う、そうじゃない、僕が……。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:50:20.09 ID:7z3ARQ0I0



ミli゚Д゚彡「あっ……ぁ……」


从 ゚∀从「当然だ、その液体はお前の絞りかすから培養して造られた特別製だ、そうなる事は、分かっていたのだ!!」





   『竜、ドラゴンの血と肉には、人を不老不死にさせる力があると云われるのを』




自分の身体を見ようとしたら、首が異様なほど前へと伸びていくのに驚いた。

腕は、ちゃんと四つある、けど手のひらを見ようとして愕然とした。
知らない、こんな、鉄の塊みたいな爪は、それにこの大きな手はなんだ?

いや、そもそも、僕は今二本の足で立っているのに、どうして腕が四つもあるんだ?


この、背中にある腕の感触は、なんだ?



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:52:36.69 ID:7z3ARQ0I0

「グ、ォ、オオ……」

言葉にしようと震わせた喉は、虚しくうなり声だけを響かせた。



水面を反射するガラス張りの壁は、よく見ればこっちの様子をうつしこんでいる。
それを認識した瞬間、ぼくは全てを理解した、なぜならこの姿を見て、

二本足で立ちあがった図太いトカゲが、背中に大きな翼を生やしたシルエット。

この姿を見て、僕は。 僕が居ると そう認識してしまったから。




 『じゃあ……何か? ブーンは……』


 『そうだ』


 『この世界の風と、それに纏わる全ての精霊を使役する、風の竜』




空を映すような青色の体、そして鳥のような白い羽をもつ翼と、馬のようなたてがみを持つ。
ウィンドラゴンの、ホライゾン、それが僕の本当の名前。



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:55:08.26 ID:7z3ARQ0I0

从*゚∀从「は、はははっ、あーーーーーっははははは!!! やはり、この再生力、本物だ!!
     これを利用すれば、どんな姿からだって人は再生できる!!」

从*゚∀从「私の摘出技術と培養技術、そしてお前の血と肉があれば、何だってできるぞ!!
     喜べフサ助、これで君の母親も再び肉体を得ることができるのだからなあ!!」


あかい液体は、尚も僕のからだを埋め尽くそうと、その水位をあげていく。
もうお腹の辺りまで漬かってしまった、嫌だ、もう嫌だ。

羽が濡れたら、重くなって動き辛いんだ、もうこれ以上こんな所に居たくない。



从*゚∀从「ああ、思えば愚かな君を捕らえ、その身体を細切れにして保管を始めた節からどれほど経っただろう
     最初はしょせん、不老不死などと言うのはデマでしか無かったと落胆したものだ……
     だが、君の血液は、その内臓から肉にまで及ぶ全てにおいて証明してくれたな」


从 ゚∀从「十の夜を越えても液状を保つ血と、腐らず細胞分裂を繰り返し続ける肉、投げ捨てられても色あせない臓腑、
     我々の、人の身では到底不可能である脅威の生命力と、重ねただけで一つとなるその肉に、私は心から興奮した!!
     これなら、この再生力と生命力を利用すれば、一から生物を生み出すことでさえ決して不可能ではないと!!」



あ、フサが居る、ねえ、助けて、ここから出して。



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 18:57:43.00 ID:7z3ARQ0I0

从 ゚∀从「そうして試験的に造られたのが、文猫のブーンという物だ、まあ元の願いどおり、言葉をくれてやったわけだ……が、
     流石にあれは誤算だったよ、まさかあの状態から今の姿にまで再生するとは…いや、これはもう進化か?
     どちらにせよ、いささか伝説に謳われるドラゴンの血を甘く見ていた」


从 ゚∀从「だが、その分得られた物もあった、おかげで私の研究は完成すると、そう確信した、
     後はもう、ひたすら待ち続けたよ、君に関する情報をね、いつか必ず現れると踏んでいた」



あれ、ねえ……フサ、どうして……どうしてそんな顔をしているの?




从 *;∀从「とにかく、これで私の夢はとうとう叶う、やはり信じ続けた者が最後には掴めるんだな!!」





どうして、そんな……。



ミli;Д;彡「ぁ、あ、あああああああああああぁあああああぁあああぁあぁああああぁああぁあああああああああああああああ」



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 19:00:07.95 ID:7z3ARQ0I0

いやだ、そんな目で見ないで、見ないで、見ないで、あうあうあう。


う、


「グゥゥ、お、ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」


名を叫ぼうとしたはずの口から溢れ出たのは、大気を震わせる衝撃めいた雄叫びだった。
そして反射的に、背中の腕でおおきく、何より力強く羽ばたいてしまった。


同時。


真っ白い亀裂しか見えなくなった透明な壁が、外側に一瞬だけおおきく膨らみ、
鼓膜を直接なぐりつけるような、乾いた割れ音が轟くと、僕を飲み込もうとしていた液体が四方に飛び散り、
透明な壁といっしょに突風に煽られ、吹き飛ばされていく、いろんな物も一緒に吹き飛んでいく。



从 ゚∀从「は」


やけにゆっくりと見える光景の中、ハインリッヒ、あいつに向かって壁の欠片と、へんてこな機械が飛んでいく。
まず、手がちぎれた、胸のあたりに棒状の物がつきささり、やや遅れて血をふきだしながら、吹き飛ばされた。



179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 19:02:09.74 ID:7z3ARQ0I0

前に突き出した翼が、そこまで確認したところで視界を覆い隠した。
羽ばたいたのは一度だけだから、それ以上に風が吹くことはない。

たたんだ翼を再び背中へ、開けた視界には、荒れ果てた光景が広がっていた。


ところで、フサはどこに行ったんだろうか。
さっきまですぐそこに居たのに、何故かどこにも見当たらない。


しかし、探しているうちに、僕は信じられない物を見つけてしまう。

見つけたのは、大きな機材の下、前のめりになって、全身を赤く染めている、
片腕が見当たらない、フサと思われる姿が、まったく動かないで、そこに。


そこに……。


(……お?)

何をした? 僕は、今、何をしたんだ?

何をして、何がどうなって、こうなった?


僕は、ようやく自分のしでかした事を理解した。



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 19:03:25.42 ID:7z3ARQ0I0

(; ω )(また……?)

(li ω )(僕は……また、同じ事を……?)

(li ω )(う、嘘だ、こんなの、嘘だ……!!)

(li ω )(違う、僕はこんな事を望んでない、ちがう、ちがうよ、こんなの違う!!)


ゴ、と鈍く、地鳴りのような音を立てて、部屋の壁が崩れていく。

その先には一面の空が広がっている。

僕は背中の腕を広げ、壁に向かって駆け出した。
踏みしめるたびに、その床は大きな亀裂を走らせ窪みを作った。

それにも構わず、僕は壁にぽっかり空けられた穴へと飛び込んだ。
同時に襲い来るのは、叩きつけるような風圧と、ひきずり込むような落下への重圧。

だがそれも、僕の羽ばたき一つで、上昇気流へとかわり、僕の身体をどこまでも高く舞い上がらせた。

僕は結局、あの時と同じことして、また同じように逃げ出した。
情けなさや後悔、いまだに信じられないこの現実、そういった物からも逃げられるように。

一度たりともふりむかなかった。


だから、僕が飛び去ったその直後、先の部屋に足をふみいれる姿があった事など、知る由もないのであった。



204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:42:49.00 ID:7z3ARQ0I0






            ∧,,∧  
           ミ  ,,彡
           ミ,,  :ミ::
            ミ  ミ〜
            し`
   

          紅季 74節






206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:45:38.56 ID:7z3ARQ0I0


本来なら、凍りつく様な寒さであろう、雲よりも遥か上空。
だけど今の僕にとっては、風を切り裂く感触が心地よい、その程度にしか感じない。

気分は鷹かトンビか、太陽のまわりを旋回するつもりで眼下に広がる雲を眺めた。

あんなにも憧れていた筈の空は、あまりに広すぎて、あまりにも綺麗で、自分の惨めさが、余計に大きな物に見えた。


僕は何をしてるんだろう、僕は何で生きてるんだろう。

あ、そうだ、と思いつき、ふ、と僕は羽ばたく事をやめた。

だらりと力を抜く、自由落下していく僕の身体、ぐんぐん加速していく、
地表が徐々に近づいてきた、小さかった木々が大きな物に、狭かった草原が広大に。

近づいて、近づいた所で、どうしても我慢できずに、僕は翼を広げてしまった。
たったそれだけの事なのに、がくん、と落ちる速度が弱まってしまう。

けど、それで落下する僕が止まるはずもなく、勢いが少しばかり弱まっても関係ないとばかりに、
凄まじい速度で地面に叩きつけられ、地面を大きく抉り、やがて大量の砂煙を巻き上げながら停止した。



208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:47:08.63 ID:7z3ARQ0I0

(  ω )(……)


すりむく、なんてものじゃない、体のあちこちが抉れて血が滲む。
体中がしびれて、しばらくは指一本たりとも動かせそうになかった。

これだけの痛みの中にあって、それでも思うのは、何故生きているのか、という疑問。

いくら少しばかり緩和したからと言って、僕は雲より高い場所から落ちてきたんだ、
どうして、死ねないんだ。そう思いながら、その思考が生きている事の安堵からくるものだと理解して、
尚更、自己嫌悪におちいった、なんだ僕は、あんな真似をしておいて、逃げ出した挙句、死ぬ度胸もないのか。

そうとも、本気で死にたければ、この爪で目玉を抉ればいい、だけどそんな事、怖くてできない。

どうしたらいい、取り返しのつかない事をしてしまった時、一体、人はどうするべきなんだ?

償う? 誰に?

つーちゃんや、ショボに? 言うのか? 僕はこんな奴で、フサを……フサ、まで……。

言えない、そんな恐ろしいことできない、だから逃げた。どこまで最低なんだ。



210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:49:05.46 ID:7z3ARQ0I0

「ォオオ……」

この苦しさをどうにかしたくて、言葉にしたくても、声は低いうなり声にしか成らない、そういう風にできていなから。
涙を流して晴らそうにも、この体の、この目からは涙なんて流れない、空を行くために、常に開いていられる目だから。

猫だった頃の自分に戻りたい、この体は嫌だ、ほんのちょっと前まで当たり前にできた事が、何一つできない。
しかも、唯一ともいえるこの体ができる事は、してきた事は、人を傷つける事だけだった。

何だ撲は、本当に何なんだ、何で僕はここに存在するんだ?

誰か僕を今すぐ消し去ってくれ、死にたくはないけど、消し去ってほしい。
そういえば、なる獣はかつて神に封印されたと聞いた。

なら僕も、そうして欲しい。


目を閉じる。


どうか、神様、再び目を覚ました時には。


そう、願いながら。



211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:50:08.73 ID:7z3ARQ0I0







         終結章(裏) 


      そのに 『怒りの意味』








212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 20:51:30.40 ID:7z3ARQ0I0

(;*゚∀゚)「……なんだ、この有様は」

つーがその場にたどり着いたのは、全てが終わった後だった。
廃墟のようになった一室、ちなみにこの施設の人間は異常を察し、速やかに退避が済んでいる。

何とも危機感の強い人々である、もっとも、その理由はすぐに知る事になるのだが。
今はそれより、ここに居るであろう二人を探すのが、つーにとって優先すべき事柄だった。

だが、すぐにそれは解決した。

何故なら、はやくも見つけてしまったからだ、あの見慣れたダスキンモップが血溜りに沈む光景を。
つーはそれを見るなり全身の毛を逆立て、息をのみ、一歩一歩たしかめるように近づいていく。

見間違いであってほしい、そう何度も願った。

だが、非情にもその姿はどう見ても、よく見知った彼の。


(* ∀ )「……」

言葉もなく、呆然と立ちすくむ。



218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 21:05:20.47 ID:7z3ARQ0I0

そんな時だった。


ミ,, Д 彡「うっ……」


完全に、どう見たって死んでると思われたそのボロ雑巾が、うめき声を上げてうごめいたのだ。
これには流石のつーも驚いた様子で、いわゆる、ギョッ、としていた。

::(;*゚∀゚)::(お、おいおいおいおい、何だ何だ、何だってんだ!? え、これ、え? 生きて?)

お化け、出そうになった言葉を寸での所で見守ると、今度はまたべつの意味で喉をならした。
そして、モゾモゾとうごめく姿はついに、ガバッと勢いよく身を起こした。

ミ;゚Д゚彡「ぷはぁ!! し、死ぬかと思った!!」

;;(li* ∀ );;;「ぴ、で、ででででで!!!」

ミ;゚Д゚彡「おろ、つーちゃん?」デデデ?


(*;∀;)「出たあぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 21:07:35.33 ID:7z3ARQ0I0

フサは何だかよく分からないまま、とりあえず、珍しいことに怯えるつーに興奮していた。
それから、ようやく平静を取り戻したつーだったが、その際に行われた暴行によってフサは再び気をうしなった。

やがて目覚めると、第一声にこう言った。


ミ;゚Д゚彡「あっ!! 腕が無い!!」ドウシヨウ!?

(*゚∀゚)「まあ……そこに落ちてるのが、そうじゃねえの?」

ミ;゚Д゚彡「あ、ほんとだ………くっつかないかな?」

(;*゚∀゚)「グロっ……」

ミ;゚Д゚彡「……ていうか、あんまり驚かないんだね?」サイショノハ トモカク

(*゚∀゚)「まあ……付き合い長いからなぁ、知ってるさ、お前のその……ちょっと異常なまでの再生力っつーか、な」

少しばかり振り返ってみる、これまでの旅の最中において、果たしてフサは何度つーちゃんにぼこられてきたか。
そして、果たして何度、死に掛けるほどにボロボロにされてきたか。その度に彼は、異常な生命力をもって立ち上がってきたのでは無かったか。



223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 21:09:45.04 ID:7z3ARQ0I0

フサは知っていた、それがおそらく、あの血を大量に浴び続けた、その後遺症なのだと。


(*゚∀゚)「まあ、その腕もそのうち生えてくんじゃねえの?
     ほら……昔おまえのしっぽ間違って切り落とした時も生えてきたし」

ミ;゚Д゚彡「……嫌なこと思い出させないでほしいから…」

ミ,,゚Д゚彡「ていうか、それよりブーンだよ、あいつ……」


ミ# Д 彡「……ぜってえ許さねぇ…このままじゃ済まさねぇぞ…」



開けられた大穴からのぞく空を見据えながら、フサは怒りをあらわに呟いていた。





                                 (裏)そのに おしまい。



240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:23:15.51 ID:7z3ARQ0I0


  < 紅季   節 >




「おい、ブーン」


寝ているのか、よくわからない感覚に沈む僕を、聞きなれた声が呼ぶ。
ふと目を開けると、一面の空が視界いっぱいに広がっていた。

こんな綺麗な空なのに、僕の心は曇ったままの……。

ていうか、さっき聞こえた声は何だったんだろう。
そう思って凝り固まった体を無理に引き起こすと、僕は我が目をうたがった。


ミ#゚Д゚彡「…探したぞ、このやろぉ」


フサが、両腕を前に組んで、僕を睨みつけていた。



242: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:25:03.60 ID:7z3ARQ0I0


(; ω )(でっ…)


ミ#゚Д゚彡「つーか、こんなとこで何してんだよお前は…」


(; ω )(出たあああああああああああああああああああああ!!!!)

ミ;゚Д-彡「うわっ、ぷ……こ、こら! 砂が飛ぶって!!」

慌てて逃げ出そうと羽ばたくが、何故だろう、妙に力が入らなくて、
僕は道端にころがる蝉のように翼で激しく地面を叩く、ものすごい砂埃が巻き上がる。


(; ω )(なんだこれ……どうなって)

ミ,,゚Д゚彡「ああ……クーが言ってたよ、そろそろ飛べなくなってる頃だ、ってさ」

(; ω )(と、飛べなくなるって……それ、どういう意味だお……)

(; ω )(いやいやいや、そんな事よりも!)

なぜフサがここに居るんだ、だってフサはあの時僕が、見間違えなんかじゃなかったはずだ。
あんな大きな機材の下敷きになって、片腕を失くし、あれだけの出血量だ、生きている筈がない。



245: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:28:00.12 ID:7z3ARQ0I0

だと言うのに、今こうして当然のようにここに居て、僕をブーンと呼ぶのは何故だ。

これは、もしかして夢なのか?


ミ,,゚Д゚彡「……ほんとに、言ってる事がわかんねぇや」

ミ,,゚Д゚彡「ブーン…おい、何とか言えよ……」

(  ω )(そんなこと言われても……)

ミ,,゚Д゚彡「おおおー、じゃなくてさ、喋れよ、ちゃんと」

(; ω )(僕だって、言葉を話したいお……)

ミ,,゚Д゚彡「……まあ、いいや、じゃあ聞け」

ミ,,゚Д゚彡「お前はどうせ、あれだろ? 俺が恨んでるだろうから、もう一緒に居られないとか、そう思ってんだろ?」

(  ω )(……)


ミ,,゚Д゚彡「……そりゃあさ、確かに、全部思い出した時は、お前のこと恨んだよ…
      俺があんな目にあったのは、全部こいつのせいだっ、ってさ」



248: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:30:16.46 ID:7z3ARQ0I0

ミ,,゚Д゚彡「でも、なんでかなー……お前のあのにやけ顔見てたらさ、なんかもう、いいかな、っていうか……」

ミ;゚Д゚彡「いや、そうじゃないな……あー、だからさ、そうやって昔のこと思い出した時にさ、
      一緒に色んなことも思い出しちまったんだよ、んでやっぱりさ、ずっと、俺の横に居てくれたのって、お前じゃん」

ミ,,゚Д゚彡「確かに色々、お前が俺から奪ったかもしれないけどさ、それでも、それに値するだけの物、俺はお前からもらってんだよ」


ミ,,゚Д;彡「つか、当だり前だろ、ぞんなの、だっで俺と一番付き合い゛長いのっ、お前だんだぜ? お前と過ごした時間が、俺の人生で一番多いんだぜ?」


ミ,,;Д;彡「なんで、そんな事もわかんないかな、お前……冗談じゃねえよ、なんで、俺をまったく信じないんだよ、
       俺はむしろそれが嫌なんだよ、気にいらねえんだよ、お前言ったじゃねえか、俺と、ずっと旅を続けたいと思ってるってさ」


ミ,,;Д;彡「何だよお前……あれは嘘かよ、嘘だったのかよ!! おい!! 何とか言え!!」



251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:33:31.02 ID:7z3ARQ0I0

(  ω )「ち、が」


乾ききっていた筈の目頭に、ふいに熱いものがこみ上げてきた。
喉が鳴る、鼻も垂れて、いつの間にか目からは洪水のように涙が溢れていた。

( ;ω;)「違うお……僕は、心から、そう思ってるお……」

ミ,,;Д;彡「だったら、どこにも行くんじゃねえよ! 俺を置いて、どっかに行こうとすんなよ!!」

嬉しさもあった、だけどそれ以上に、この時ほど自分を情けなく思った事はない。
今まで我慢をしていた分、一気に溢れ出ていく。

気付けば、フサが僕を見下ろしていた。

もう、どうしようもなく涙が止まらない、僕は一体、本当に何をしていたんだろう。
信じることさえせずに、何をしていたんだ、何で、僕はこんなに馬鹿なんだ。

そして、どうにか一つだけ、言葉をひねりだした。





「……ごめん、なさい…ですお」



252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:35:13.77 ID:7z3ARQ0I0









             ∧∧ 
            ミ*゚∀゚彡 ソレカラドッタノ?
             ミ,,,,,,,,,,ミ

           紅季 85節









255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:38:20.81 ID:7z3ARQ0I0


早朝、フサは行きたい所がある、と言って珍しく早起きをした、
その行きたい場所と言うのは、あのハインリッヒの研究所だった。

ちなみに、ハインリッヒの死亡については、あまり騒ぎにはなっていないらしい。
付近の話によれば、どうやら元々、彼女は住民からも危ない人だと見なされていたようで、
死亡が伝えられた所で、出てくる感想は精々「とうとうやらかしたか」程度の物だったとか。

死んで当然、なんて言うつもりはないが、同情する気になれないのも事実だった。

それはさておき。いったい何故、と問うとフサは静かにこう言った。




『お墓を、造ってあげたい』



と。



257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:40:14.07 ID:7z3ARQ0I0

そうして、どうにか研究所内にまでやってきた僕らだったが、やはりどうにも居心地が悪い。
まあ雰囲気も暗いし、あいかわらず不気味きわまりないとくれば、好き好むはずがそもそもないのだが。

そうして暗がりの中、かろうじて生きていた明かりを探し、やがて天井から光がふりそそぐと、
荒れた研究所ないの様子がこんどは鮮明にうつしだされ、陰鬱な空気がすこしだけ和らいだような気がした。


辺りはボロボロで、無傷な柱のほうが少ないくらいだが、幸いなことに彼女の柱は無事だった。

ミ,,゚Д゚彡「……おかー  ん」

フサは早速もくてきの場所にむかうと、赤い水が満たされた水槽を前に立ち。
しばし呆然と眺めてから、ぼそりと何かをつぶやいた。

捨てられたのだと思っていた、本当の母親。
だけど違った。

でも再び出会えたその姿は、もはや人の姿すらしていない、
それを識別する手段さえ、小さな板切れに書かれた文字だけだった。

嘘だと言われたら、容易く信じられそうなほど、空虚な存在。
だけど、フサは今にも泣き出しそうな声色で、静かに鼻をすすっていた。
残されたのは、今も握り締めているあの日記だけ。



260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:42:09.13 ID:7z3ARQ0I0

僕らは言葉も無く、ただそんな姿を見ていることしかできなかった。
やがてその吐息に嗚咽が混じると、更に場の静寂がつよまるのを感じた。

と、その時。フサの手からこぼれ落ちたノートの数ページがはらりと僕らの真下におちた。
ぎっしりと書かれた文字列、その節にあった出来事や、自分の近況、などが書かれている。

最後のほうの一文は、やけにはっきりと目に映った。

『………起き上がるのも辛くなってきた、フーちゃん達が帰ってくるまで持たせたかった』
 
に続き。

『あなた達を愛している』

に終わる。

そして、何度見直しても、僕に対しての恨みを書くような言葉は見当たらなかった。
けど、よく見れば何箇所か、明らかに僕のことを語っているのだと分かる言葉もあった。

その最たるものは。頻繁に使われている『達』という単語。

(  ω )「……………」

自然と涙があふれて、それ以上文字をみることができなくなってしまった。
にじんでいく視界、わきあがる熱を、僕はうつむき身を縮めて必死にこらえた。



262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:44:10.01 ID:7z3ARQ0I0

(´;ω;`)「うっ……!!」

ふと、隣から漏れる嗚咽に目をむければ、ショボが必死に声をおさえていて、
そのまま見上げた先でも、みな一様に目をまっかに泣き腫らしていた。

ハインリッヒ、あの人が言っていた心の持続。
あれは、本当は悪いことだったんだろうか。
だってもしあれが本当なら、こんな悲しい光景を見なくて済んだはず。

なら、僕一人が犠牲になるだけでいいのなら。それなら。

ああいっそあの日記に、ぼくへの怨み辛みを書いていてくれればよかったんだ。
そうすれば僕もそれを受けて、背負って生きていく事だってできたのに。

これじゃ、いくら何でも辛すぎる。

その時、うつむき体を震わせる僕をしぃが抱き寄せた。
正確には上から覆いかぶさってきたのだが、どちらでもよかった。

どちらでもいいから、背中で泣くのはやめてほしい。
つられてしまうじゃないか。



266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:46:36.97 ID:7z3ARQ0I0

(*; -;)「いいんですよ……がまんしないで、いいんだよぉ……」

その言葉を皮切りに、ぽつぽつと涙が床に落ちた。

こうして、わんわんと泣き喚く僕らだったけど、
フサだけはそんな素振りも見せず、ただ変わらずに立ちすくんでいた。


そんな背中に、やがてつーちゃんが声をかけた。


(*゚∀゚)「……代わってやろうか?」

ミ,,゚Д゚彡「……ありがとう、つーちゃん」

その問いに、ふるふると首をふってから、フサはふりむいた。
やけに落ち着いたその表情が、よけいに物悲しかった。



268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:48:20.70 ID:7z3ARQ0I0

ミ,,-Д-彡「でも、これは…」

ミ,,゚Д;彡「俺が、やらないと……だって、俺の…」

フサは一歩踏み出して、ゆっくりと手を柱へと向けていく。
その先にあるのは、一つの赤いボタンと、その上に書かれる排水の二文字。

どれほどの間があっただろう。

やがて、小気味よい音をたてて、赤いスイッチが。












カチ



押された。



272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:50:40.60 ID:7z3ARQ0I0


街から少し離れた山の高台に、彼女のお墓は立てられた。

あたりの景色を一望できる、見晴らしのいい場所だった。

時季は透季、肌寒いを通り越して本当にさむいこの季節、ほんらいなら木々も花も眠りについているが、
この先にあるあの不思議な森の影響だろうか、山をさがせばいくつかの花はすぐに見つかり、
皆であつめた色とりどりの花束が、その小さなお墓に添えられた。


僕らはしばし目を閉じて、その場で風に身を任せていた。
するとショボがくしゃみをして、僕はすこし睨むようにショボを見た。

まあ寒いもんなぁ、フサはそう言って。
じゃあ、そろそろ行くか、つーちゃんが続けた。

行くあては、今のところ何もない。
だけど目の前に道があって、その道は見果てぬ先まで続いている。
ならばあては無くても、進むだけ。

歩く理由なんて、そこに道があるから。くらいで充分だろう。



274: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:52:35.29 ID:7z3ARQ0I0

ああ、でも歩ける理由なら見つけられた気がする。
それはそう、帰る場所を見つけたから。

どこから来て、どこへ向かうのか、旅に必要なのはこの二つ。

前者を見つけたら、今度は後者を探して歩くんだ、それでいいんだ。


(*゚∀゚)「しかし、結局その背中だけは戻らなかったみたいだな」

(;^ω^)「お……」

道がてらにつーちゃんが、僕の背中をすこしだけ困った風に見ながら言った。

そう、猫の姿には戻れたものの、背中に生えた腕、もとい竜の翼(小)が生えたままで、
僕が歩くのにあわせて、今もパタパタとはためいていた。

(;^ω^)「やっぱり、なんかで隠した方がいいのかお……?」

(;´・ω・`)「ちょっと目立つよね…」



277: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:54:30.15 ID:7z3ARQ0I0

(*゚ー゚)「ええぇ!? そんなもったいないですって、かっこいいのに!!」

ミ,,゚Д゚彡「それよりさ、空は飛べないの?」

(;^ω^)「うーん……ちょっと飛べそうにないお」

ちょいと必死こいて羽ばたいてみるが、浮き上がるどころかそよ風しかおくれない。
いやまあ、そんなの分かりきった事ではあるんだけどね。

大体、おっきくなって飛んでた時だって翼は姿勢制御に必要なくらいで、
実際はほぼ、精霊たちの力をつかって、風を操っているようなものなのだ。

ミ;゚Д゚彡「え、じゃあ、あれか! ブーンっていわゆる精霊使いなのか!」

(;´・ω・`)「魔法を使って飛んでるって事?」

( ^ω^)「おっお、そうだお、でなきゃあんな重い体浮かせられないお」

まあそうは言っても、普通の精霊使いとは桁も規模も違う。
だからこそ、あのような災害を起してしまった訳だが、それはもう置いておく。



280: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:56:58.56 ID:7z3ARQ0I0

( ^ω^)「そして何をかくそう、ドラゴン四天王の一人、忘却のオメガとは僕のことだお」

ミ*゚Д゚彡「おお…! 言っている意味はさっぱり分からんがなんか凄そうだ!!」

(*゚∀゚)「ほんとかよ」

(*゚ー゚)「素敵なうさんくささですねぇ」

ちなみに、これは僕らが勝手に名乗っているだけなので、だからどうしたと聞かれると困ったりする。
何故そんな名前を名乗ったりしているかについては、追々、語ることになると思う。


(*゚ー゚)「じゃあ最初に言っておいた方がいいですね、背中の羽はかざりだぁ!! って」

( ^ω^)「誰に言えと」

(*゚∀゚)「一人しかいねえだろ」

(;^ω^)「お?」

と、つーちゃんが不意にそんな事を言った。
反射的に見れば、つーちゃんはどこか一点を見つめている。

視線の先にあるのは山、けど、それ以上に、霧が浮かぶ広大な森が広がっていた。



284: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 22:59:13.36 ID:7z3ARQ0I0



……。



羅針盤を頼りに木々の合間をぬけて、その場所は、すぐに見つける事ができた。
せせらぐ小川と、さしこむ光、そこにこじんまりと建てられた小屋。

僕はそれら全てに見覚えがあって、懐かしさに心を打たれてしまう。
けれど、ここに置き去りにした彼女を思うと、チクリと胸が痛んだ。

あの中に、おそらく彼女が居る。

そう考えた途端、鼓動がやかましく響いて、僕は喉をならして息を飲む。
思えば、ずいぶんと長い間、本当に長い間、遠回りをしてしまった。

『君の側にいると落ち着くよ』

『うん? どうしたんだ?』

『―――どこにも、行かないでほしい』

思い出せるのはどれも、幸せだった頃の風景。


だけど、それ以上に歯痒かった頃の風景でもある。



286: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:01:07.56 ID:7z3ARQ0I0

そもそも、僕がこの居場所を捨てて、ハインリッヒの下に行ったのは今このときの為だった。

心を通わせることができても、言葉を交わすことができない彼女と、同じ言葉で話をしたかった。
ありとあらゆる事柄を、共に生きる全ての喜びを、本当の意味で分かち合いたかった。

だから僕は言葉を欲した、なんとなく、でしか伝えられない想いを伝えたくて。
そして、本当に伝わっているのか分からない不安を消し去りたかった。


从 ∀从『やあ、はじめまして』


だから僕は。


从 ∀从『君にプレゼントをしたいんだ、私と来て欲しい』


あの人間に。


从 ゚∀从『言葉を話せるようになるよ』


全てを委ねた。



289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:03:17.36 ID:7z3ARQ0I0

結局はそれで裏切りに次ぐ裏切りという、最悪の結果を招くことになったのだから、
もうどうしようもない、はげしい自己嫌悪がむねを焦がして欝になる。
僕の馬鹿さかげんも、ここまでくると筋金入りだ。


(*゚∀゚)「ほら、行ってこい」

と、そんな胸中を察したかはわからないけど、つーちゃんがぽん、と僕の背中を押す。
そのまま見まわすと、みんなそれぞれの面持ちで、尻込みする僕を後押ししてくれた。

ここまで来ると、もう後戻りはできなくなって、半ばやけくそ気味に歩き出す。
ようやく小屋の入り口を前にすると、更に緊張は高まっていく。

まず、何て言えばいんだろう、何を口にすればいいんだろう。
考えようとすればするほど、頭の中が真っ白になって何も浮かんでくれない。

(;^ω^)(……ていうか)

考えてみたら、僕は自分の想いばかりを一方的に押し付けようとしている。
けど、肝心の彼女はどうなんだ、これだけの時を経て、変わらずにいられる物なのか。
いやそもそも、理由はどうあれ僕は彼女を裏切って、この家を出て行ったのではなかったか。



291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:05:07.11 ID:7z3ARQ0I0

途端に不安がおそいくる。何だか血の気がひいていくような悪寒が走る。

これじゃ駄目だ、いったん出直そうかな、そう弱気になった僕がその場でふりむくと同時。
背にした扉がすごく勢いよく開け放たれ、ものすごい勢いで僕の尻に衝突した。

(;゚ω゚)「みぎゃあ!!」

ものっそい恥ずかしい声が出た、でも仕方ない、いきなり尾てい骨を強打すれば、そりゃ変な声も出る。
ふと見上げれば、開かれた扉から長い髪をなびかせて、彼女が頭だけを出してこっちを覗き込んでいた。

川 ゚ -゚)「なんだ、誰か居るの……っと、ごめんなさいね」

( ゚ω゚)「…!!」

川 ゚ -゚)「って、君は……」

瞬間、僕は見惚れていた。前にこの森で会った時のような漠然とした感情じゃない、
はっきりと、明確なまでに理解できる、今の自分の想い、そしてこの胸にやどる熱。

本物だ、見間違えようが無い、この姿、この声、全てがあの頃のまま。



295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:09:15.70 ID:7z3ARQ0I0

(; ω )「クー……僕は」

川 ゚ -゚)「……ブーン、いや…」

戸惑いながら、どうにか捻り出せた彼女の名前。
だけどそこからが続かない、喜びと悲しみに不安が入り混じって、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

気付けば僕は、すがるように彼女を見上げていた。
そんな僕に、クーはしばし見定めるように僕を見据えると。
やがて目を閉じ、静かに一呼吸置いてから、


川 ゚ -゚)「……ホライゾン、君か?」


あの頃と同じ名で、僕を呼んだ。

僕は、この時のために欲していたはずの言葉さえ忘れて、彼女に飛びついていた。
クーは突然のことにも関わらず、そんな僕を優しく抱きしめてくれた。

懐かしい匂い。涙がでそうになったけど、その嗚咽を容易く堪えられる心地よい幸福感。
いつだって感じていた筈の風はどこかへ消えて、意識はどこか遠くなり、彼女の感触だけが在る。



299: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:11:20.74 ID:7z3ARQ0I0

僕は馬鹿みたいに彼女の名前をくりかえし呼んだ、そして次に浮かんだのは申し訳なさ。

( ;ω;)「クー、ごめん……ごめんお…僕は……」

川 ゚ -゚)「謝るより先に、まず言う事があるんじゃないのかな? かな?」

( ;ω;)「お……?」

叱るでもなく、あくまで穏やかに諭すような声色でクーが言う。
少しだけ考えたけど、すぐに気がついた。

( ;ω;)「ただいま」

川 ゚ー゚)「おかえりなさい」

それでようやく、にっこりと笑ってくれた。
心が満たされていくような、そんな気にさせる笑顔だった。

おかげで、ようやく僕は言うべき事を思い出せた。



301: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:13:12.23 ID:7z3ARQ0I0

そう、僕はただ、君にこの気持ちを伝えたいが為だけに、あの苦しみに身を投じたのだ。
本当に遅くなってしまったけど、今度は言える、今度こそ言える、
君がそうしてくれたように、僕も心を言葉にこめて伝えることができるんだ。

( ^ω^)「クー、聞いて欲しいことがあるんだお」

川 ゚ー゚)「なあに?」

(*^ω^)「僕はクーのことが、その、す、」

(; ω )「す、いや、その、えと、す、っすすs……」

と思ったのだけれど、何故か胸がやかましいくらいに高鳴って、言葉の邪魔をする。
おかげで僕は途中でくちごもって、それ以上の続きが言えなかった。

はて、これはどうした事か。なんでこんなに緊張するんだろう。
何でこんなに手が震えて収まらないのだろう。
ずっと言いたかった言葉のはずなのに、何がそんなに不安にさせるんだろう。

ふと見たクーの目はやけに真剣みを帯びていて、僕は無意識に息をのんでいた。
ぐるぐると目が回るような錯覚が、更にこの心をかきまわす。

そういえば、確か似たような状況が、前にも一度あったような気がする。
その時、一つの出来事が思い返された。



304: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:16:37.50 ID:7z3ARQ0I0
( ^ω^)b+「背中の羽は、飾りだお!!」


じゃなくて、ええと。


(; ω )「クー! ぼぼぼ、僕は、君が! す……」

確か、あの時は―――――。


(;゚ω゚)「好きだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

突然の雄たけびによる告白に、さすがに面食らった表情で固まるクー。
だが、てんぱっている僕はそんなのお構いなしに続ける。

(;゚ω゚)「そうだお!! ずっと言いたかった!! 僕はクーが好きなんだお!!」

(#゚ω゚)「いやそれどころじゃない!! 愛してる!! お前に夢中だぁ!!
      くぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

段々と、自分でも何を叫んでいるのかよくわからなくなってきた。
しかし、それとは逆にクーは徐々に落ち着いた表情をとりもどし、ふ、と微笑むと。



おおきくふりかぶった右手による、強烈な平手打ちを僕の頬にたたきこんだ。



309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:18:56.61 ID:7z3ARQ0I0

平手とはいえ、こっちは毛皮なので残念ながら快音がする事はなく。

痺れるような痛みによって、僕は唐突に現実へとひきもどされ、
ただうろたえながら彼女の表情を見上げるばかりなのだった。

(#)ω゚;)「…!? ……?!?!?」

川 ゚ -゚)「伝説のイナズマイレブン……笑わせないでくれたまえ」

そして、何か変なことを言い出した。もはや意味が分からない。

けどおかげで思い出せた、ああ、そういえばそうだったよ。
クー、君は昔からそうだった、変わらないね、そのいきなり変な事言い出すところは。

こうして僕は、とても理不尽な痛みに耐えつつ、
意図の分からない彼女の行動、その理由が説明されるのを待った。

川 ゚ -゚)「冗談じゃないよ、今の今まですっかり私の事なんか忘れてたくせに、
     しかも楽しそうに旅なんかしちゃって、しかも友達もいっぱい作ってさ……」

川 ゚ -゚)「それでちょいと立ち寄って、私の事が好きだって?
     いくら何でも軽すぎるじゃないか、認めないよ」

(メ;^ω^)「じ、じゃあ、どうしたら……」



312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:21:27.71 ID:7z3ARQ0I0

川 ゚ -゚)「そうだね、条件がある」

(メ;^ω^)「え……なんだお?」

川 ゚ -゚)「まず一つは、私も連れて行ってほしい、君の旅に」

(メ^ω^)「お、それはもう」

というか、最初からそのつもりだった。
だからここに来たんだ。



川 ゚ -゚)「次に、その間違った考えをやめてもらいたい」

(メ;^ω^)「へ…? ていうと?」

川 ゚ -゚)「君が私を好き、なんていうことさ、長いこと放ったらかしにしていた君に、
     それを言う資格はもう無いんだよ、それを理解してほしい」

(メ;´ω`)「そ、そんな……何でだお…」



316: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:24:02.75 ID:7z3ARQ0I0

忘れたくて忘れたわけじゃないのに……。
だって僕、一度細切れにされて、内蔵までばらされてるんだよ。

そりゃ忘れるのも仕方ない……って、自分で言ってなんだけど凄いなこれ。


川 ゚ -゚)「情けない顔をしても駄目だ、だって腹立たしいじゃないか」

川 ゚ -゚)「私はね、君が忘れている間も、片時も君を忘れたことは無かったよ
     君を想わない節はなかった、それがどれほど苦しいものだったか君に分かるのか?」

川 ゚ -゚)「何千もの夜を一人で想い続けることが、どれほど辛いものだったか…
     君の嘆く声が起こしたあの風でさえ、私には愛しくてたまらない物だった」

変わらぬ表情でクーは、淡々と言葉をつづける。一見すれば冷静に説教をする姿に見えるだろう。
だけど僕には、かんしゃくを起こした子供のように泣きじゃくる姿にすら思えていた。

川 ゚ -゚)「ゆえに、君の言う愛は軽いんだ、軽すぎる、私の想いに比べれば、
     まるでそう、綿毛と鉄塊くらいの差があるだろうな」



319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:27:06.20 ID:7z3ARQ0I0

川 ゚ -゚)「だから、君が私を好きなんじゃない」

クーの目が、僕をまっすぐに射抜いた。
ゆっくりと近づく潤んだ瞳と、瑞々しい唇。

川 ゚ー゚)「私が、君を愛しているんだ」


近づき、そして。


ミ;゚Д゚彡「!!」

(;*゚∀゚)「!!」

(*゚ヮ゚)「!!」

(;´・ω・`)「!!?」




驚きの声がおこる森の中、いつしか空にはぶあつい雲がかかり、
やがて小さな真っ白い結晶が、こぼれるように舞い落ちる。

息も白くなりはじめの、透季にさしかかろうという節の事だった。



322: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:29:09.68 ID:7z3ARQ0I0



こうして、僕の始めての季節を一巡する旅は終わりを告げる。
あるいは、これこそが本当の旅の始まりだったのかもしれない。


何故ならば、僕らは生きているから。
たった一つの命をかざして、心のあるがままに。

そして、そうやって生きていれば、拒むこともできずに色々なことを見て、知っていく。
出会いと別れをくりかえして、その先に、たとえ悲しい景色があったとしても、
やっぱり時間が経てば、そのうち心のなかで輝いて見えるのかもしれない。

今は心からそう思える。

誰かを傷つけておいて、こんな事を言うのはいけない事だけど、
それでも僕は、この体になれた事に感謝したいと今は思える。

だってそのおかげで、今こうして誰かと同じ道を歩めるのだから。

そしてそのおかげで、今こうして誰かと言葉を交わせるのだから。



324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:31:08.54 ID:7z3ARQ0I0

心とは、そうやって形成され、感情さえも豊かにしていくものだ。
僕がそうであったように、きっとそれを、人は成長と呼ぶのだろう。

ハインリッヒは、かつてこう言った。
心というものが存在するのは、他人との交わりの為。
もし一人だけだったら、心は必要がなく、性格という概念も消えうせる。

彼女のしてきた事は、やっぱり良いことには到底思えない、
けれどその思考は果たして、どこからどこまでが間違っていたのだろう。

その間引きをするであろう言葉は、今の僕には見つからない、
けれど歩み続ければ、やがてはそれも分かるのだろうか?


くるくる巡り来る季節に、そんな希望さえも新たに乗せて、季節は続いていく。

くるくる繰り替えす中にも、いつだって新たな発見はあるし、まだまだこの旅は飽きそうにない。



326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:33:53.40 ID:7z3ARQ0I0

ならば僕はまだ道の途中。今はこうして巡る4季を感じ、一つ一つの節を歩く。

色あせたノートは、まさに僕の宝物。

そこには、全て書かれている。

そこには、残されている。

そこには、残っている。

ふりかえれば見えるだろう、そして見れば誰もがわかるだろう。


季節を旅した。


僕の。



はっきりと残された。


ながい。


ながい。



328: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/31(日) 23:35:29.87 ID:7z3ARQ0I0
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                                     足跡が。



  【 季節を旅する文猫冒険記のようです 】  【 終結章 】    おしまい



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