( ^ω^)が嫉妬するようです

3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,594秒 :2008/01/10(木) 20:57:55.49 ID:ha0L860p0



秋を迎えたばかりの、とある日の放課後。
僕はいつものように級友の長岡と一緒に下校していた。


( ゚∀゚)「今日もつまんなかったなぁ、授業」


家のある方角が同じなので、彼と家路を共にすることは多かった。

外気は九月にしては冷やかで、半袖の夏服だと少し肌寒い。
長岡は一度くしゃみをした。彼は根っからの寒がりだった。
僕にはせいぜいちょっと冷えるな、くらいにしか受け取れないような気候でも、
長岡にとっては相当なものなのかもしれない。

僕には彼以外に親しい人間はいない。
あまり他者という存在に興味がなく、相互の干渉を好まないからである。

そんな僕に話し掛けてくるような人は長岡だけだ。
クラスのリーダー格である長岡は誰とでも分け隔てなく話をする。
たぶん、彼はクラスメイト全員と会話を交わすことのできる唯一の人物だろう。

ただ一つ不思議な点といえば、彼と最も仲の良いクラスメイトはこの僕であるということだ。



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,594秒 :2008/01/10(木) 20:59:39.83 ID:ha0L860p0
( ゚∀゚)「授業もそうだけど、なんといっても朝の全校集会が退屈だったよな」


長岡に同調して、口を閉ざしたままこくんと頷く。

僕はあまり自分から話はしないし、いざ雑談するとなっても、まず話し手に回ることはない。
長岡の話を時折短い相槌を打ちながら聞くばかりだ。

けど長岡は不満げな様子は見せなかったし、僕もこれでいいと思っていた。
そうするだけでお互いに十分楽しかったからだ。

幾度となくこういった関係を続けるうち、僕はいつの間にか結構な聞き上手になっていた。
……果たして喜ぶべきことなのだろうか。


( ゚∀゚)「そういえば、今朝のニュース見たか?」


僕が見たと答えると、長岡はこう続けた。


( ゚∀゚)「昨夜、出たんだって。例の殺人鬼が」



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,501秒 :2008/01/10(木) 21:01:59.21 ID:ha0L860p0
長岡が口にした殺人鬼とは、近頃この町に出没している連続殺人犯のことだろう。
ニュースではこの事件について毎日のように報道されているので、誰もが知っている。

その証拠に、町はどこへ行ってもその話題で持ちきりだった。
耳にしない日がないほどだ。


( ゚∀゚)「ほら、これ」


そう言って長岡は鞄から取り出したノートを広げ、僕に見せた。
新聞の切り抜きが所狭しと貼られている。
彼はこうして、事件に関して書かれた記事をスクラップし個人的に集めているのだ。
ずらりと並ぶ文字と写真の羅列は、ある意味壮観だった。

今日付けになっている記事に目をやると、
『連続殺人、これで六件目』という見出しが真っ先に飛び込んできた。

次いで、上空から取られたとおぼしき遺体発見現場の写真に視線を移した。
重要なところ、たとえば死体のあった場所などは、青いビニールシートで覆われて分からなくなっている。

記事の内容を流し読みして、すぐにノートを返却すると、長岡が感想を訊いてきた。

感想といわれても、僕からは特に言いたいことはない。
そう伝えると、長岡は「なら、自分が」とばかりに自らの意見を語り始めた。



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,425秒 :2008/01/10(木) 21:03:32.14 ID:ha0L860p0
( ゚∀゚)「俺の予想だけど……殺人鬼はどこにでもいるような奴だと思うんだよ」


彼は、犯人は意外と普通の人間なのではないかと疑っているらしい。
理由を問うと、どうもそのほうが面白いから、そうであってほしいという願望混じりのようだ。


( ゚∀゚)「そういや犯人は『二十一世紀のテッド・バンディ』って呼ばれてるけど、
     それって変だよな。バンディは一部からはヒーロー的な扱いを受けてたんだから。
     でもなんか、報道のされ方は完全な悪役扱いじゃん。マスコミは矛盾してるぜ」


彼は真顔でそんなことを言う。

長岡はこの事件に対して並々ならぬ関心を抱いていた。
それだけじゃなく、彼は殺人鬼という存在自体に妙に詳しい。

以前、彼からアメリカの連続殺人犯アルバート・フィッシュの生き様に興味があると聞かされた。
その時僕は非常に驚いた。
フィッシュといえば、僕でも知っているほどの、史上最も倒錯した異常者だからだ。

人気者である彼のこういった意外な一面を知っているのは、僕だけである。



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,425秒 :2008/01/10(木) 21:05:38.90 ID:ZNuSlLAs0
( ゚∀゚)「何より、バンディの名を拝するなら、犯人はハンサムじゃないといけない。
     けど犯人の特徴なんて全然分かってないんだろ?」


彼のいうように、警察は犯人の実態を全くつかめていない。
身体的な特徴だけでなく、男なのか女なのか、若者なのか老人なのか、それさえも判明していない。

外見、性別、年齢。すべてが闇に包まれていて、
だからこそ人々が今回の連続殺人事件に大きな関心を寄せているとも言える。


( ゚∀゚)「一番有名なシリアルキラーってだけで引用されてるんだろうけどさ」


長岡は納得がいかないようで、唇を鳥のひなみたいにとがらせている。

僕はそんな彼の様子を特に気にとめるでもなく、ただ家を目指して歩き続けた。
僕の方が長岡より若干歩幅が大きいので、
少しでも歩くペースを上げるとすぐに距離が開いてしまう。
そんな時、長岡は決まって小走りになりながら僕の背中を追いかけてくるのだった。



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと32,043秒 :2008/01/10(木) 21:08:04.56 ID:ZNuSlLAs0
もっとも、僕が急いで帰宅したところで何のメリットもない。
僕は母親と二人で暮らしている。いわゆる母子家庭である。
今の時間、まだ母親は仕事から帰ってきていないはずだから、一人で家にいたってむなしいだけだ。

それならば長岡の一方通行な演説を聞きながらのんびりと下校していたほうがマシだろう。
僕は基本的に人との関わり合いは好きじゃないが、長岡だけは特別だ。
不思議と彼といることだけは厭ではない。
こちらから何か言うことは、向こうから質問されて返答を求められない限りありえないが。


( ゚∀゚)「んじゃ、また明日」


そんな風に考えても、終わりは絶対にやってくるものだ。
長岡の家のほうが僕の家よりも手前にある。僕たちはそこでさよならを言いあった。


( ゚∀゚)「……しかしまあ、犯人ってのは一体どんな奴なんだろうねぇ」


長岡は別れ際にそんなことを漏らした。


もしも――――。
もしも僕が犯人の正体を知っていると告白したら、彼はどんな顔をするだろうか。



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