( ^ω^)が嫉妬するようです

195:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,806秒 :2008/01/10(木) 23:42:25.07 ID:ZNuSlLAs0
16


十月も終わりを迎える。

町中を震え上がらせた、時代の寵児『二十一世紀のテッド・バンディ』は、嵐のように去っていった。
ただ多くの傷跡だけを残して。


穏やかな秋の風。
髪に吹きかかれば涼しく、頬をくすぐれば心地良い。

秋も本番である。
歩道には次第に街路樹からはらはらと揺れ落ちる木の葉が積もり始め、
町は夕陽が照らす柔らかい赤光に包まれていた。


僕はこの日も、いつものように長岡と並んで下校していた。


話は前後するが、先週の土曜日、我が校の文化祭が大々的に開催された。

僕はクラスの出し物に本格的な映画を作ろうと提案したのだが、
長岡いわく「金と時間が余裕で文化祭三回分半はかかる」らしく、事前に見事却下されていた。



199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,654秒 :2008/01/10(木) 23:45:12.57 ID:ZNuSlLAs0
( ゚∀゚)「なぁ、これ見てくれよ。事件についてまとめたんだ。完全版だぜ」


長岡が嬉々とした様子で語りかけてくる。

長岡はあんな目にあったばかりだというのに、
連続殺人事件の犯人が身近なクラスメイトだったという衝撃的な事実を目の前で突きつけられたことで、
逆に殺人鬼に対する興味がより一層燃え上がっているようだ。

長岡から渡されたノートと手帳とルーズリーフの用紙の束には、
これまで以上に事細かく、自分の分まで含んだ殺人事件のデータと考察が記されていた。

……一体、この驚異的なバイタリティは彼の身体のどこから生まれているのだろう。


(*゚ー゚)「……はい」


僕は適当に目を通して、内容もよく把握せずに冊子を返却した。
長岡が毎度のごとく感想を求めてきたので、これまた適当に言葉を繋げて返答した。

僕は最初から犯人を知っていたんだから、これ以上何かを追及されても、困惑してしまうだけだ。



204:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,654秒 :2008/01/10(木) 23:48:09.76 ID:ZNuSlLAs0
事件にお互い関わってしまったにもかかわらず、
僕と長岡の関係には髪の毛一本ほどの影響もなくて、毎日がかつての日々と同じように過ぎていった。
あの一日だけが都合よくカレンダーから抜け落ちているかのように。

内藤は殺人未遂の現行犯で逮捕され、その後全てを自供。
およそ半年という、驚くほど短期の間に七人もの犠牲者を生んだ『二十一世紀のテッド・バンディ』。
彼がもたらした悪夢は、ついに終焉したのであった。


( ゚∀゚)「そろそろ追い込みをかけなきゃいけない時期だな。これからが受験本番だぜ」


長岡が話しかけてくる。


(*゚ー゚)「うん」


僕はそれに頷いた。


そう、何も変わらない。
今はただこの何気ない瞬間が、名残惜しい記憶へと変わっていくだけ。



207:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,616秒 :2008/01/10(木) 23:50:23.99 ID:ZNuSlLAs0
そういえば、僕には彼に訊きそびれていたことがあった。
言いにくい事柄だったので話題を避けていたが、思い切って、自分から話してみる。


(*゚ー゚)「あのさ、前にツンと帰った時があったでしょ。あれはどういうことだったの?」


奇妙なことに、彼がツンと一緒に帰ったのはその一回だけで、
以降はこれまでの習慣と何一つ変わらず僕と下校しているのである。


( ゚∀゚)「ああ、あの時のか?
     あれはよ、喫茶店をやるのに必要な商品のリストアップに行ってたんだ。
     実行委員の辛いとこだな」


長岡はこともなげに、あっけらかんとして僕の疑問を解決してみせた。


( ゚∀゚)「どうしたんだよ、突然」


ほっと胸をなでおろす僕を不思議に思ったのか、長岡は怪訝そうな顔をして尋ね返してきた。
僕は黙っていた。
理由の説明なんてできなかった。



210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,129秒 :2008/01/10(木) 23:52:04.39 ID:ZNuSlLAs0
( ゚∀゚)「へきしっ!」


行く途中、長岡が盛大にくしゃみをした。

今日は少々冷える。
町行く人々は僕たち含め、夏季と冬季の間に着るような中間服を身にまとっていたけれど、
それでも人によっては寒いと感じるかもしれない。

僕は彼が極度の寒がりだったことを思い出し、彼がいる右側に身体を寄せると、
長岡はぱっと飛び跳ねるようにして離れた。

どうして、と問うと、長岡はこう答えた。


(;゚∀゚)「だってお前、女にしては相当背が高いじゃん。
     あんまり近くに並ばれると、俺のほうが背が低いってばれちゃうじゃないか。
     女より背が低いって思われるのってさ、結構悲しいんだぜ?」


長岡は割と本気で気にしているようで、苦笑していた。
彼の些細なコンプレックスに、僕は思わずクスクスと、幼い少女のように笑ってしまった。



216:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。あと22,130秒 :2008/01/10(木) 23:56:59.90 ID:ZNuSlLAs0
空はすっかり茜色に染まっていた。

一日が長い秋の日の中でも、落陽の時だけは確実に早くなっている。

赤々と燃える夕日を背に受けてできた影は長く、僕ら二人の前にまっすぐに伸びている。
二つの影は平行線をたどるだけで、決して交わることはない。
それでいいのだと思った。
どちらかの直線が傾いて、一度交わってしまったら、もうあとは二本の線は離れていくしかないのだから。


たとえ間隔が開いていたとしても、いつだって長岡は僕の隣にいてくれる。
冷めた僕の孤独を癒してくれる。
僕はそれが嬉しかった。彼に最大限の感謝をしていた。


長岡に対して抱いている、空っぽな心を補完する痛みにも似たこの感情を、僕はひとまず、恋と呼ぼう。


緩やかな秋の夕暮れ。

僕は長岡より少しだけ長い自分の影を追いかけながら、
彼と一定の距離を保ったまま、このひとときの平穏の中を歩き続けた。




 <終>



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