( ^ω^)悪意のようです

1: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:22:40.55 ID:ZgCYV95x0
序章



 取調室に無言の男が三人。
内、険しい顔の男が二人。

 ( ∵)「……」
(-_-)「……」

そして、何をするでもなくただ笑う男が一人。

( ^ω^)「……」

 笑顔のまま沈黙。
被疑者ブーンは、依然黙秘を続けていた。



3: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:24:25.12 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「なあ、この際何でもいい。とにかく何か喋ってくれないか」
( ^ω^)「……」
  ( ∵)「……ふう」
 (-_-)「ビコさん。こんなんじゃ調書作れないですよ」
  ( ∵)「うるせえな、お前は喋んなくていいんだよ」
 (-_-)「はいはい」

 容疑は殺人。
被害者はツンと言う女性で、ブーンの親しい友人だったらしい。
警察はその情報を得ると、すぐにブーンの携帯へ連絡。

連絡を受けたブーンはその後、外套の下に血まみれの服を着たまま、
自ら凶器とともに出頭してきた為、その場で緊急逮捕された。

 だが、ブーンは何も喋ることは無かった。
携帯へ連絡した時はどうだったか。連絡を取った警官はこう言っている。

 「何を言っても、くぐもった笑い声が返ってきた。何故彼がここに来たのか分からない」

 意味のある言葉は、何一つ発していなかったと言うのだ。



5: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:25:59.99 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「いや、黙秘権っちゅーのは大事だよな。人権は保護されてしかるべきだ。
      しかしお前さん、ちょっと無口すぎるなあ。友達と世間話の一つもしないんじゃないか?」
( ^ω^)「……」
  ( ∵)「彼女ともそんな感じだったのか?」
( ^ω^)「……」

 ブーンは笑っていた。
聴いていないのか。もしくは全て理解した上で笑っているのか。
だとしたら正気の沙汰ではないと、ビコーズは苛立たしげに右手のボールペンを回す。

  ( ∵)「頼む、何でもいい。俺は事実が確認したいだけなんだ。首を振るくらいならいいだろ?」
( ^ω^)「……」
 (-_-)「……」
  ( ∵)「……」

 諦めの沈黙ではなく、待ちの沈黙。
ブーンが何かアクションを起こさないか。ただその一点に集中し待つ。



9: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:27:25.07 ID:ZgCYV95x0
そんな彼らのひたむきな態度が届いたのか、
ブーンはゆっくりとその頭を垂れ、そして再び顔を上げた。

  ( ∵)「お、おおお? それは、YESってことか? OKってことか?」
( ^ω^)「……」
  ( ∵)「よ、よし、先ずは、えーと、な、何から訊こうか?」
 (-_-)「ビコさんしっかりして下さいよ」
  ( ∵)「あー、くそ」

 カンカンカン、とビコーズは机をボールペンで叩いた。



10: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:28:42.62 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「あー……殺されたこの女性、ツンはお前の友人だな?」
( ^ω^)「……」

コクリ、と頷く。

  ( ∵)「そうか。それで、何でお前さんはここに来た?
      何かしたかったことがあるんじゃないか?」
( ^ω^)「……」

コクコク。二回頷いた。

  ( ∵)「喋らないなら俺が選択肢を出そう。お前は、自首しに来たんだろ?」
( ^ω^)「……」

コクリ、と首肯。

  ( ∵)「よし。ツンを刺したのはお前なんだな?」
( ^ω^)「……」

ふるふる、と首を横に振った。



11: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:30:08.72 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「……あん? 今更違うなんてことはねーだろ。
      ツンを殺したのはお前なんだな?」
( ^ω^)「……」

しばしの沈黙の後、静かに首肯。

  ( ∵)「自宅から持ってきたバタフライナイフで胸を一突き。
      その後死体を放置して、逃走ってとこか」
( ^ω^)「……」

しかし、ブーンは首を横に振った。

  ( ∵)「逃げてないとでも言いたいのか?」
( ^ω^)「……」

否定。

  ( ∵)「じゃあなんだ、まさか自分は刺してないとでも言いたいのか?」
( ^ω^)「……」

首肯。

  ( ∵)「はあ? じゃあ彼女を殺したのはお前じゃねえってのか?」
( ^ω^)「……」

否定。



12: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:32:30.34 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「……チッ、イライラするなぁお前! ふざけるのもいい加減にしてくれ。
      さっきから殺しただの殺してないだの、お前何しに来たんだよ!」
  (-_-)「ビコさん」
  ( ∵)「んだよ! ああもう、なんか喋れよお前!」
( ^ω^)「……」

ブーンは猫背のまま、静かにビコーズの右手にあったボールペンを指差した。

  ( ∵)「ん? ……これか?」
( ^ω^)「……」

思惑が合致したのか、ブーンはゆっくりと頷いた。

 ( ∵)「そうか! よし、ヒッキー。紙よこせ」
(-_-)「急に言われても無いですよ」
 ( ∵)「僕はヒッキーだから筆記ーだけですってか?」
(-_-)「つまんないです」
 ( ∵)「っるせぇな、上司のギャグには笑えよ。紙紙っと……
     ああ、この前のパチンコ屋のレシートがあったか」

 もしや被疑者が笑うかもしれないと思ってした遣り取りだったが、笑い声は漏れなかった。
それに、ブーンはもとより笑顔であった。



14: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:34:18.92 ID:ZgCYV95x0
 内心落胆しながらも、ビコーズはポケットからクシャクシャの小さな紙切れを出し、
ボールペンと共にブーンの前に差し出した。

  ( ∵)「ほら、これで良いか?」
( ^ω^)「……」

 やや間を置いて浅く頷いた後、ブーンはボールペンを手に取った。
そしてレシートを左手で押さえると、
ゆっくりと一画一画を確認するように文字をしたため始めた。

 一文字一文字が連なり、やがて一文となり、
ブーンは最後に句点を打つとボールペンを置いて、再び顔を上げた。



17: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:35:51.22 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「……ヒッキー」
 (-_-)「はい?」
  ( ∵)「頭痛薬あるか?」
 (-_-)「いいから早くそれ読んでください」
  ( ∵)「はあ……こんなやつしばらくいねぇぞ、おい」

 溜息混じりにレシートを手に取り、ビコーズはゆっくりとそれを読み上げた。

  ( ∵)「『僕は嘘吐きです』……これだけだ」
 (-_-)「……」
( ^ω^)「……」
  (#∵)「おめぇ喋んねえのにいつ嘘吐いたってんだよ!」
 (-_-)「ビコさん」
  (#∵)「さっきからふざけんのも大概にしろよ! お前が殺したんだろ!?」
 (-_-)「落ち着いてください!」

 憤怒し今にも掴みかかりそうなビコーズに、ヒッキーが静止の声を上げた。

すると、それと同時にブーンは突如音を立てて立ち上がり、ゆっくりと天井を見上げた。



18: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:37:50.66 ID:ZgCYV95x0
 ( ∵)「お? おぉ……どうした」
(-_-)「……」

 誰から見てもブーンは異様だった。
挙動すべてにおいて一々人間性の欠落を感じるのだ。
その内心が図れず、却ってその顔に張り付いた笑みが不気味なのだ。

( ^ω^)「……」

 立ち上がったブーンは再び視線をビコーズに戻した。
そして人差し指で自らの顔を指すと、親指を立て、一文字に自らの首を切る仕草をした。

  ( ∵)「……」
( ^ω^)「……」

 笑顔。それもとびきりの笑顔だ。
今にも走り出して歓声を上げたがっているような、そんな笑顔だ。
だのに、とてつもなく薄ら寒い。



20: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:39:32.16 ID:ZgCYV95x0
  ( ∵)「……お前が彼女を、ツンを殺したのか?」
( ^ω^)「……」

そして、首肯。

 (-_-)「……ビコさん」
 ( ∵)「なんとも気持ちわりぃが……もう証拠は十分あったし、決まりだな」

 ビコーズが眉間にシワを寄せ、溜息を吐く。

( ∵)「まあお前さんも色々混乱してたってことだな。
    じゃあ調書作るからよ、もいっぺん最初から……」

 そう言ってビコーズは渡したボールペンを戻そうと手を伸ばした。
その時、何の前触れも無くブーンが自らの顔をビコーズの顔面に、ぬっと近づけた。



23: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:40:42.74 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「……」
  (;∵)「うぉっ!」

 思わず引き下がろうとするビコーズの両肩を、ブーンはその手で掴み、見つめる。

  (;∵)「なんだよ! 放せ! くそっ!」
 (-_-)「おい! 変なことは考えるなよ!」
( ^ω^)「……」

 自棄になったのか。そう思われ一瞬にして緊迫した取調室。
しかし次の瞬間、それ以上に背筋が凍りつく光景をビコーズは目の当たりにした。



24: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:42:10.61 ID:ZgCYV95x0
( ^ω^)「……んばぁ」

 ぬちゃあ、と粘つく音を立てて開かれたブーンの口。
そこに見えるはずの歯が黒い。いや、赤黒い。
だが重大なことはそんなことではなかった。
多量の血餅に塗れた口腔。そこにあるべき舌。
その舌が、本来の半分ほどの短さで、びく、びく、と蠢(うごめ)いていたのだ。

 (;∵)「う、うわあああああああああ!」
(-_-)「ビコさん!」

 手を振り払い、床に尻餅を付いたビコーズにヒッキーが駆け寄った。
その様子を見ながら、口を開けたままのブーン。

( ^ω^)「……」

 口を開いたその表情は、笑顔。
子供が心から嬉しいと思ったときのような、まるで周りを気にしない笑顔だった。



26: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:43:48.88 ID:ZgCYV95x0
 そしてブーンはそのまま表情を崩すことなく、口の中の肉を指でなぞり
デスクに人差し指で文字を書き始めた。

 その後程なくして、部屋の外から数人の男が駆けつけ、
ブーンはそのまま取調室から連行された。

(-_-)「大丈夫ですか?」
 ( ∵)「……ありゃトラウマもんだぜ畜生。俺のボールペン血塗れになっちまった」
(-_-)「ビコさん、これ……」
 ( ∵)「ん? ……お前、これ……」

デスクにはかすれた血文字でこう記されていた。

『だから僕は舌を切りました』



27: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:45:12.99 ID:ZgCYV95x0



                   *



  ( ∵)「……んで、奴はどーなった」
 (-_-)「即病院送りです。近くの大学病院でいま検査を受けています」
  ( ∵)「あいつあんなんで一晩居たってのかよ……正気じゃねえ」
(;><)「大変なんです!」

 勢い良く扉を開け、新米の警官が飛び込んできた。
それに驚くでもなく、ただ苦々しい顔をして二人は次の言葉を待った。



30: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 22:46:43.43 ID:ZgCYV95x0
(;><)「ひ、被害者が消えたんです!」
  ( ∵)「新米、言葉は正しく使えよー。被害者は死んだ方、あいつは被疑者……消えただぁ!?」
(;><)「い、いや、だから……」
  (#∵)「おい、一体何をどうしたら被疑者に逃げられるんだよ!」
(;><)「違うんです。被害者なんです!」
  (#∵)「ああ!?」
(;><)「被害者の遺体が消えたんです!」
  ( ∵)「お前、何言って……大体もう遺体は遺族に引き渡されてるはずだろ」
(;><)「その遺族からの連絡らしいんです! 消えて居なくなったって!」
 (-_-)「……生きながら解剖を受けてたって言うんなら、相当我慢強いですね」
  ( ∵)「……マジで?」
(;><)「本当なんです!」
  ( ∵)「おいおい、なんだってんだよこの事件はよぉ! 我慢大会なのかぁ?
      ……今日のナイター見れっかな」
 (-_-)「無理でしょうね」
  ( ∵)「チッ……別に返事なんかいらねーよ……」







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