( ^ω^)悪意のようです

175: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:51:30.08 ID:ZgCYV95x0
七章



 ( ∵)「ここか?」
(-_-)「ええ。ここの七〇一号室だったみたいですね」
 ( ∵)「じゃあそこの草むららへんか?」
(-_-)「いえ、もう少し奥の駐車場です」
 ( ∵)「あ〜……そりゃ悲惨だな」
(-_-)「ええ。それじゃあ聞き込み行きますか」
 ( ∵)「ああ」

 二人は今あるマンションの前に来ていた。
このマンションの七〇一号室に住んでいた人物の名前は、しぃ。
ブーンとツンの共通の友人である。
しかし今日は彼女に事情を聞きに行くわけではなかった。



177: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:52:42.90 ID:ZgCYV95x0
 エントランスにて管理人の許可を貰い七階へ上がった二人は、
話を聞こうと並ぶ部屋のチャイムを押すのだが、どこもかしこも返答が無い。

 そうして最後に七〇二号室まで辿り着いたとき、
ようやく中から玄関に向かってくる足音が聞こえてきた。

程なくして開かれたドアから、四十代後半と思われる女性が、
チェーンロックをしたまま顔をのぞかせた。

J( 'ー`)し「……どちらさまでしょう?」
 (-_-)「私、美府警察署のヒッキーと申します」

 言って、慣れた手つきで警察手帳を開く。
ビコーズも無言のままそれに倣い適当に写真を見せた。
それを見た女性は、しばし逡巡(しゅんじゅん)した後チェーンロックを外し、
改めて問いかけた。



181: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:54:07.17 ID:ZgCYV95x0
J( 'ー`)し「……なんでしょう」
 (-_-)「お忙しいところ申し訳ありませんが、
     七〇一号室に住んでいたしぃと言う女性について、二三伺いたい事があって来ました」
J( 'ー`)し「それならもう前にお話しましたけど……」

 その表情はウンザリだと言わんばかりに嫌悪に塗れていたが、
彼らにとっては見慣れたもので、それくらいで引いたりはしなかった。

 (-_-)「申し訳ありません。普段の彼女の様子ですとか、何か印象に残っていることはありませんか?」
J( 'ー`)し「私は見ての通りのオバサンですから、若い子との交流なんてあまり無いんですよ」
 (-_-)「少しも、ですか?」
J( 'ー`)し「ええ、少しも。もうよろしいですか?」
 (-_-)「いえ。当日の様子についてですが……」
J( 'ー`)し「それでは、失礼します。ご苦労様でした」

 ヒッキーの静止もまるで聞こえなかったようにドアは閉められた。

(-_-)「……ふう」
 ( ∵)「下手糞め。まあ、最初から期待しちゃいないけどよ。……しかし難儀だなぁ、おい」
(-_-)「周辺の住人も色々と疑われたでしょうからね」
 ( ∵)「結局実際のとこ動機は何だったのか……か。お前、これ事件に関係あると思う?」
(-_-)「その判断は事実を見てから下すべきですね」
 ( ∵)「チッ、つまんねー答えだな」

 舌打ちするビコーズがエレベーターのボタンを殴り、
扉が開いたのを見ると、ヒッキーと共に乗り込んだ。



183: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:55:48.30 ID:ZgCYV95x0
 ツン殺害よりも一ヶ月ほど前、ここである事件が起こった。
七〇一号室の住人、しぃが飛び降り自殺を図ったのだ。

大地に引かれるまま彼女は冷たいアスファルトに叩き付けられ、結果即死だった。
そしてその日、七〇一号室でしぃと共に酒を飲んでいたのが、ブーンだったのだ。

 自殺方法が飛び降りと言うこともあり、当初殺人の嫌疑を掛けられたブーンであったが、
逮捕には至らなかった。

 とは言え、彼が事情聴取された時の発言の数々は不明瞭極まりなかった。
目の前で飛び降りたはずであるのに、『何が起こったのか分からない』、
自殺の動機に対しても『心当たりがない』の一点張りだった。

 結局はしぃの体内から検出された多量の薬物反応と、向精神薬を常用していたと言う証言、
また、争った形跡も無く、ベランダの手すりに足跡が付いている点などから、
自殺という結論を以って捜査は打ち切られた。



186: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:57:12.13 ID:ZgCYV95x0
 ( ∵)「よーし、次は管理人でもちょちょくりに行くか」
(-_-)「よく言いますよ。全部僕にやらせといて。て言うか『ちょちょくり』って何ですか」
 ( ∵)「あ? ちょちょくりってのはお前……こう、ちょちょくることだよ」
(-_-)「説明になってません。……あ、もしかして『おちょくる』ってことですか」
 ( ∵)「ん? ……あー、そんな言い方もあるな」
(-_-)「いや、それしかないですよ」

 そんな馬鹿な話をしていると、二人の乗ったエレベーターが一階へと辿り着いた。
開いた扉の向こうにスーツを着崩した格好の一人の男が立っていたが、
ヒッキーは気にすることなくその脇を通り抜けようとした。
すると男は視線を彼らに向けるや否や目を見開き、意外そうな声を上げた。

(´・_ゝ・`)「あれ、なんでビコーズがここに居るんだよ」
  ( ∵)「おーおー、デミタス。お前こそ一人で何してんだ」

 ヒッキーを押しのけエレベーターから出るなり、
ビコーズは拳を作りデミタスの胸の辺りを小突いた。
それを横目にヒッキーは溜息を付くと、一人管理人の部屋を目指しその場を去った。



187: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:58:27.16 ID:ZgCYV95x0
(´・_ゝ・`)「俺はもちろん事件の捜査さ」
  ( ∵)「ああ、なんだっけ。なんか変な連続殺人だったよな。
      まったく、お前も好き者と言うか、上の指示に従ってちゃんと動けよ」
(´・_ゝ・`)「従ったてたさ。だけど都会は苦手でさ、今は迷子中だよ」
  ( ∵)「あーそうかいそうかい。お巡りさんが今から一緒に交番に連れてってやろうか? ん?」
(´・_ゝ・`)「お前に頼むくらいなら、犬にでも頼むよ」
  ( ∵)「確かに俺もお前も犬ではねえなぁ」
(´・_ゝ・`)「あはは、確かに確かに」

大声で笑った後、通りかかった住人の視線を感じたのか、二人はマンションの外に出た。



190: ◆HGGslycgr6 :2008/01/19(土) 23:59:55.69 ID:ZgCYV95x0
(´・_ゝ・`)「俺は新興宗教の儀式的なものじゃないかと睨んでるんだ」
  ( ∵)「どんな事件なんだ? 全然犯人像みたいなのも流れてこねーんだけど」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ、何もないんだもの」
  ( ∵)「何もない?」
(´・_ゝ・`)「ここ一ヶ月に三件立て続けに起こって、証拠ゼロ。
      ……いや、違うな。遺留品が繋げる人物像は無し、だ」
  ( ∵)「……おい、どこが連続殺人事件なんだよ」
(´・_ゝ・`)「ただ、一つ共通点と言えなくもないものがある」
  ( ∵)「あん?」
(´・_ゝ・`)「被害者が全員嘘吐きだったってとこかな」
  ( ∵)「はぁ? ちょちょくってんなよ? 嘘くらい俺だって吐くっつうの」
(´・_ゝ・`)「じゃなきゃ、同じ性癖を持った犯罪者が各地に同時発生」
  ( ∵)「おいおい、全然意味わかんねーよ。
      俺はお前と違ってめんどくさいこと考えんの嫌いなんだっつーの」

デミタスはその言葉を聞くと、ビコーズの顔を見つめて、徐に舌を出した



193: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:01:16.21 ID:NWof9Dr30
(´・_ゝ・`)「べぇ」
  (#∵)「……てめぇ、調子のんのもいい加減にしねえとそのベロ引っこ抜くぞ!」
(´・_ゝ・`)「それだよ」
  (#∵)「はぁ?」
(´・_ゝ・`)「被害者は全員、舌を切り取られているんだ」
  ( ∵)「……舌を?」

 その時ビコーズの脳裏を過ぎったのは、あの日のブーンとの出来事だった。
突如鮮明に蘇った血なまぐさい光景を消し去ろうと、ビコーズは舌打ちをして頭を掻き毟った。

  ( ∵)「あーくそ! あのよ、被害者の舌……だよな?」
(´・_ゝ・`)「ん? そうだけど。それ以外誰が居るんだ」
  ( ∵)「……いや、そうだよな。悪ぃ、気にすんな」
(´・_ゝ・`)「あ、そう。じゃあ俺は行くよ」
  ( ∵)「お? 流石に、はぐれ一匹にビビってきたか?」
(´・_ゝ・`)「まさか、腹が減ったんだよ」

 ひらひらと手を振りながら背を向け歩き出したデミタスを鼻で笑い、
ビコーズはポケットからタバコを取り出すと、火を点けて最初の一口を思い切り吹かした。



196: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:03:09.63 ID:NWof9Dr30
 霧散していく紫煙越しに流れ行く雲合いを眺めながら、
何気なく口の中で舌を転がしていると、憮然たる表情のヒッキーが戻ってきた。

(-_-)「ビコさん。管理人の話、聴いてきました」
 ( ∵)「あー、ご苦労さん。で、どうよ」
(-_-)「駄目でした。忙しいから帰ってくれと三十回は言われ続けました」
 ( ∵)「なんだ情けねえな。百回言われるまで帰ってくんな」
(-_-)「無茶苦茶言わないでくださいよ」
 ( ∵)「なんだよ、結局は収穫無しか」
(-_-)「大体これ、ビコさんの独断で来てるんでしょ?」
 ( ∵)「当たり前だろ。各々が頭使って事件を解決に導く。素晴らしいことじゃねえか」

ビコーズは銜え煙草のままそう言うと、顎の当たりを手で擦って目を細めた。

(-_-)「だから出世出来ないんですね。勉強になります」
 ( ∵)「勝手に言ってろ。期待されないってのは実に楽でいいぞ。
     評価は貰えなくとも金は貰えるしな」
(-_-)「ほら、帰りますよ。排ガス出して突っ立ってるだけじゃ車にも劣りますよ」



199: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:04:52.32 ID:O1eAIe2e0
 ( ∵)「なあ、ヒッキー」
(-_-)「なんですか?」
 ( ∵)「俺、禁煙するかな」
(-_-)「……そうですね、いいんじゃないですか? 時代の流れからしても妥当ですよ。
    て言うか、ビコさん何気に気にしてたんですね」
 ( ∵)「……っせーよ。何が時代の流れだ、アホンダラ。俺より長く生きてから言え」
(-_-)「それ、しばらく無理そうですね。
     それに、僕は正義感の塊だから、例えば何かに巻き込まれて殉職とか、
     きっとそんなんでビコさんより先に逝きますよ」
 ( ∵)「……縁起でもねぇこと言うんじゃねえ」
(-_-)「……すいません」

 ビコーズは煙草を吐き捨て靴の底で火をにじり消した。
そして「行くぞ」とぶっきらぼうに言うと、そのまま歩き出した。

ヒッキーは首の後ろに手を当て溜息を吐き、ビコーズの煙草を拾い携帯灰皿に仕舞うと、
駆け足でその後姿を追った。







戻る8章