( ^ω^)悪意のようです
- 250: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:28:41.54 ID:O1eAIe2e0
- 九章
(´・_ゝ・`)「……これも嘘、と」
この日デミタスは残業を押し付けられ、
夜中までディスプレイの前でキーボードを叩いていた。
その仕事内容というのも、実にやりがいの無いもので、
事件に関して寄せられた噂など、確証が取れていないものの確認作業であった。
そのほとんどが確認するのも馬鹿馬鹿しいほどの内容ばかりなのだが、
何かと“自由行動”の多いデミタスは、その罰も兼ねてか上司から直々に作業を言い渡された。
- 253: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:30:03.71 ID:O1eAIe2e0
- 確認作業も終盤に差し掛かり、時計の針が午前三時を回った頃、
閉じかけだったデミタスの両眼が、一足早く昇る朝日のようにやおら開かれた。
(´・_ゝ・`)「……ドンピシャじゃないか」
この時デミタスが調べていた噂。
その内容は簡潔で『犯人が自らのサイトで殺人予告をしている』というものだった。
そしてデミタスは噂のサイト『奈落』へと辿り着き、次の画面を目撃した。
――――――――――――――――――――――――――――――
[五月三十日 亡]
六月十二日 田中ポセイドン 【詳細】 ≪裁≫
[六月十日 亡]
六月二十五日 荒巻スカルチノフ 【詳細】 ≪裁≫
[六月二十九日 亡]
七月九日 斉藤またんき 【詳細】 ≪裁≫
――――――――――――――――――――――――――――――
- 256: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:31:17.45 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「よくも大胆にやってくれてるもんだ」
そこに書かれていた内容こそ簡素であるけれども、
眠気を忘れさせるくらいの衝撃は包含していた。
今まで事件に関連した被害者の名前に、その死亡月日が記述されているのだ。
他サイトでの記述からするに、『亡』と記されている方が更新日時、
名前の横にあるのが死亡月日のようだった。
勿論、死亡月日については一致している。
ただ、それだけではただの報道された内容のコピーであり、
ネットを渡った情報を鵜呑みにすることは危険である。
しかし問題は【詳細】である。
(´・_ゝ・`)「……これはさすがにおかしいよな」
この【詳細】。
実はリンクが貼られていて、クリックした先には、
被害者についてのデータが記されているのだ。
- 258: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:32:45.18 ID:O1eAIe2e0
- それも生半可なものではない。
性別や年齢は勿論、住所や身体的特徴、家族構成から学歴、現在の職業、
果てには通勤、通学ルートや行きつけの店など、とにかく事細かに情報が載せてあるのだ。
(´・_ゝ・`)「重要参考人ってとこか。しかし、これどうやってコンタクト取るかな……」
デミタスには既にこの時『報告』の二文字は無かった。
ただこの人物に会って話がしたいという思いで胸が一杯なのだ。
(´・_ゝ・`)「犬らは鼻が利く上に、銜えたら離さんからなあ。
早めにアクションを起こしたいところだが……」
わざわざ殺害予告をして何の足しになるのか。
自己顕示欲の強い犯人なのだろうか。
しかし、その行動の大胆さの割に自己の存在をアピールする要素が皆無であり、
ただ事実のみを冷ややかに記している印象が強い。
それこそ新聞記事をスクラップして集めるかのように、機械的な作業である。
だが、同時にそこに熱を帯びた偏執的なものを感じるのもまた事実だった。
- 260: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:34:10.78 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「さて、そんな人物の目を引くにはどうしたら良いか……」
その熱を帯びた部分。
冷ややかさを装ったその内部に触れることが出来れば、たちまち食いついてくるだろう。
そうデミタスは考えていた。
ではこの人物が一体何に傾倒しているのか。
この行動の動機付けは何か。
考えるほどに眠気に満ちていたはずの脳が活性化し、心臓が強く拍動する。
(´・_ゝ・`)「必ず尻尾掴んでやるからな」
呟き、改めて両手をホームポジションに移したとき、
不意に胸ポケットの携帯電話が震えた。
(´・_ゝ・`)「なんだよもう、どうせまた『淫乱団地妻だの○学生とタダマン』とかだろ……ったく」
ところが開いてみるとメールではなく、電話だった。それも同僚からの。
- 262: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:35:25.53 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「もしもし、お疲れさん」
『お疲れさん。今さっき隣の県の署に犯人自首してきたらしい』
(´・_ゝ・`)「は? ……犯人って、犯人だよな?」
『ああ、俺も今確認取ってるとこなんだが、一応連絡』
(´・_ゝ・`)「俺どんだけハブられてんだよ」
『拗ねんなって。じゃ、急いでるから』
無造作に切られた音を聞くと、デミタスは肘を突き、溜息を吐いた。
もし犯人とこのサイトの管理人が同一人物だとしたら、完璧に後手に回ったことになる。
しかしこいつに限ってそれは無いだろうとデミタスは思っていた。
(´・_ゝ・`)「ま、とにかく行ってみますか」
デミタスは冷めたコーヒーを一気に呷ると、
背もたれに掛けていた上着を肩に掛け、仕事場を後にした。
- 265: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:36:37.49 ID:O1eAIe2e0
*
(´;ω;`)「ボク、ボク……ごめんなさい……」
デミタスが取調室で目にする頃には、犯人は既に涙を流して謝罪をしていた。
どんな豪胆な犯人かと思いきや、どうやら精神的に耐えられなくなり自首してきたような、
普通の人物らしかった。
(´・_ゝ・`)(やっぱり違う……)
あれほどの断片的な文章しか見ていなかったが、
デミタスにはどこか確信めいたものがあった。
- 267: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:37:42.48 ID:O1eAIe2e0
- 涙を流しているからではない。情けない言動だからではない。
目の前の男には、冷たさも熱さも無かったのだ。
ただのぬるま湯でしかない。
奴の熱に浮かされた模倣犯か、あるいは妄言の類だろうと見切りをつけた。
(´・_ゝ・`)「……ん?」
その時デミタスの頭の隅に何かが引っかかった。
この事件の根底に関する何か無視できない可能性。
(´・_ゝ・`)「……」
しかしそれは瞬く間に霞み、次の瞬間には影しか残っていなかった。
- 270: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:38:48.66 ID:O1eAIe2e0
*
その日の正午、デミタスは話をするべくビコーズに連絡を取り共に飯を食べていた。
犯人が捕まったと言うのに、同僚にぐだぐだと疑問を投げかけても煙たがられるだろうし、
ビコーズにならば、うっかりサイトの事を話しても問題は無いと思ったのだ。
( ∵)「まあ、どっちみち後は調べてけば分かるんじゃねーの?」
(´・_ゝ・`)「……だと、いいけど」
( ∵)「どうした、全然嬉しそうじゃないな」
(´・_ゝ・`)「どうにも、嫌な感じがするんだ」
( ∵)「は? でっかい手掛りが転がってきたのにか?」
(´・_ゝ・`)「いや、これは寧ろ……うーん……」
( ∵)「なんだよ、考えすぎだって。大体わざわざ嘘吐いて逮捕されに来る奴なんていねえよ。
殺したのはそいつで決まりだって。な?」
(´・_ゝ・`)「そうだろうとは……思う、けど……」
- 271: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:39:53.67 ID:O1eAIe2e0
- 言葉尻を濁すと、デミタスはコップに手を伸ばした。
と、その脇で激しく携帯が震えだした。
デミタスはコップを掴むのを止め、携帯を手に取った。
(´・_ゝ・`)「はい。はい、はい。……本当ですか。分かりました、すぐに向かいます」
( ∵)「どうした?」
(´・_ゝ・`)「二人目が自首してきた」
( ∵)「二人目? ……なるほど、グループ犯か。仲間が捕まって諦めたってとこか」
(´・_ゝ・`)「……だと、いいな」
( ∵)「?」
(´・_ゝ・`)「……」
その違和感は言葉にならず、しかし確実に肥大化していく。
心の奥で燻るその何かに、デミタスは嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
続
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