( ^ω^)悪意のようです

276: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:41:30.77 ID:O1eAIe2e0
10章



 (*゚ー゚)「あのお店のチーズケーキおいしかったね〜」
( ^ω^)「それはもう、僕がずっと前から目を付けてた場所だったから当然だお」
 (*゚ー゚)「さすが内藤くんだよね。あ、それじゃあ私こっちだから」
( ^ω^)「いや、送るお」
 (*゚ー゚)「ホント? ……ありがと」

 西日を背に、僕達は家路をたどっていた。
僕よりも少し背の低いしぃは、出来ている影もやっぱり少し短い。

そして僕は、しぃの影が時折僕の影を見ていたことを、
今日もやっぱり気付かない振りをしていた。



277: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:42:45.66 ID:O1eAIe2e0
 (*゚ー゚)「――と、言うわけ」
( ^ω^)「ほお、そうなのかお」
 (*゚ー゚)「うん」
( ^ω^)「……」
 (*゚ー゚)「……」

 会話が止まり、自然と沈黙が訪れた。
なんと言うことも無いただの空白なのに、僕の頭は思考で埋め尽くされていく。
早く、会話を始めなければ。
甘さと緊張の混ざったような空白を、早く塗りつぶさなくては。

 (*゚ー゚)「あのね、内藤くん」
( ^ω^)「なんだお?」
 (*゚ー゚)「……ごめん、なんでもない」

 言わせてはいけない。
僕にはその資格が無いから。
僕にはそれに応えるだけの気持ちが無いから。
しぃを傷付けたくない。だから、早く楽しい話題を振らなきゃいけない。



279: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:43:57.89 ID:O1eAIe2e0
 (*゚ー゚)「もうすぐ……着いちゃうね」
( ^ω^)「お」

 不確かな予感だけれど、自意識過剰かもしれないけど、
しぃは、僕のことを好きなんだと思う。

西日の差した頬はいつにも増して真っ赤で、僕を見上げる目は熱に潤んでいて。
喋らない時でも僕を見る回数は多くて、話は僕のことばっかりで。

 (*゚ー゚)「……着いちゃった」
( ^ω^)「……」

 でも、僕の影はいつも真直ぐ伸びたままだったし、
別れを惜しむ言葉をかけて欲しそうなこの空気に、応えることもない。



282: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:45:02.22 ID:O1eAIe2e0
 (*゚ー゚)「……内藤くん」
( ^ω^)「なんだお?」

 僕は、しぃが嫌いじゃない。
むしろ好きだといってもいいと思う。可愛いとも思う。

(*゚ー゚)「私ね、その、もしかしたらツンとかが言っちゃったりとか、してるかもしれないけど……」

 でも僕はしぃが想う好きに応えられるほど、しぃを好きでいる自信が無い。
こんなに一生懸命に僕を好いてくれる想いが、正直なところ、怖い。

(*゚ー゚)「内藤くんの事がね……」

 だから、止めて欲しかった。
僕だって人を好きになったことはある。
だから、それが叶わないことの辛さも知っている。



285: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:46:12.15 ID:O1eAIe2e0
(*゚ー゚)「……好き、です」

 ――瞬間、目の前のしぃが別な人に見えた。
僕を好いてくれていて、返事次第ではすぐにでも恋人になってしまうんだ。
ああ、早く返事をしなきゃ。

( ^ω^)「そう、なのかお……」
 (*゚ー゚)「……うん。そうなんだ」

 なんて言えばいいんだろう。
どうしたら一番傷つかないんだろう。

( ^ω^)「しぃ」
 (*゚ー゚)「はい」
( ^ω^)「……僕は、正直まだ良く分かんないお」
 (*゚ー゚)「……」

あ、卑怯だ。



288: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:47:27.64 ID:O1eAIe2e0
( ^ω^)「突然だったし、僕自身しぃのことをどう思ってるのか、ちょっと混乱して」

 最初に『まだ』なんて言っている。
そして『突然』だなんて言っている。
僕は知っているし、知っていたのに。

( ^ω^)「少し……考えさせて欲しいお」
 (*゚ー゚)「あ、うん。……そっか、分かった。」

 僕は期待を持たせようとしてる。
本当はしぃを傷付けたくないってのも違うかもしれない。
自分が悪者になりたくないだけなのかもしれない。
本当に良く分からなくなってきた。
しぃの眼差しが、痛い。

 大体「少し考える」って何だろう。
何を考える?
もしかして僕は、本気じゃないのに、しぃを彼女にしようかと思ってる?
それが出来るかを考える?



290: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:48:39.35 ID:O1eAIe2e0
 (*゚ー゚)「じゃあ、返事……待ってる」
( ^ω^)「その、なるべく早く返事するお」
 (*゚ー゚)「うん」

 別れる区切りがついたのに未だに僕を見つめ続けるしぃの視線が痛くて、
僕は背を向けて歩き出した。

( ^ω^)「……」

 もう空は朱から藍に変わり始めていた。
その空の下、帰り道すがら僕はいろいろなことを考えていた。


 付き合うと言うことは一体どう言うことなんだろう。
お互いが好き同士なら、結婚をすればいいんじゃないんだろうか。

もしかしたら付き合うってことは、僕が思っているよりもっとフランクで、
だから皆は合コンとかをするのかもしれない。



292: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:49:46.33 ID:O1eAIe2e0
 僕は正直言って、そういうものを蔑視していた。
そこには愛が無いと思っていた。

 でも、それはただ僕が潔癖すぎるだけであって、
動機が何であれ、二人の思いが一致したならば付き合うと言う結論を出せば良くて、
その後にそこに確かな想いがあれば、結婚すればいいのかもしれない。

 だから、いま僕がしぃに対してほんの少しの感情しか抱いていないとしても、
それは付き合ってから育めばいいもので、その可能性を僕の潔癖で拒否することこそ、
彼女に対して残酷なことなのかもしれない。

( ^ω^)「……大体僕も、もう成人なんだお」

 全く好きじゃないってわけじゃない。
しぃはすごく良い子だと思う。
だのに僕がこうしてうだうだ考えるのは、僕が子供だからなんだろうか。
もしくは、僕は誰かと付き合うことが怖いのかもしれない。



293: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:50:54.39 ID:O1eAIe2e0

 と、ポケットに仕舞っていた携帯が震え始めた。
メールかと思っていたけど、画面を見るとツンから電話が掛かってきていた。

( ^ω^)「もしもし」
ξ゚听)ξ『もしもし? いま大丈夫?』
( ^ω^)「……大丈夫だお」
ξ゚听)ξ『ほんと? あのさ、この間ゴメンね』
( ^ω^)「この間って?」
ξ゚听)ξ『ほら、電話くれたときにウチのお父さんが勝手に切っちゃったやつ』
( ^ω^)「あー……別に気にしてないお。最初は少しビックリしたけど」
ξ゚听)ξ『それで、改めての話なんだけど……』
( ^ω^)「うん」
ξ゚听)ξ『……ねぇ、ブーン。何かあった?』
( ^ω^)「……え? 何でだお?」
ξ゚听)ξ『なんか、元気無くない?』

 ツンに言われて始めて僕は気がついた。
僕は元気が無かったのか。
女の子に告白されたのに。



295: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:52:03.52 ID:O1eAIe2e0
( ^ω^)「……その、しぃに告白されたんだお」
ξ゚听)ξ『……マジで?』
( ^ω^)「マジだお」
ξ゚听)ξ『で、……なんて答えたわけ?』
( ^ω^)「……まだ」
ξ゚听)ξ『まだって……もしかして保留?』
( ^ω^)「……お」
ξ゚听)ξ『うわぁ……しぃ可哀想。さっさと返事しなさい。今すぐ!』
( ^ω^)「でも、まだ返事が決まってないお」
ξ゚听)ξ『何それ、だらしない。好きか嫌いか、イエスかノーかでしょ』
( ^ω^)「……そんな簡単には決められないお」
ξ゚听)ξ『……なんで?』
( ^ω^)「ツン、なんかちょっと怖いお」
ξ゚听)ξ『そりゃあこんなの聞いたらイラつくに決まってるでしょ。
      でもさ、なんですぐに返事できないの? 別にこれは怒ってるとかじゃなくて』

 いや、怒ってるじゃないか。
そう言いかけたのを、ぐっと抑えて僕は考え始める。



297: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:53:26.65 ID:O1eAIe2e0
( ^ω^)「分かんないお」
ξ゚听)ξ『……しぃのこと好きじゃないの?』
( ^ω^)「好きじゃなかったら迷わないと思うお」

でも胸を張って大好きだとは言えないと思う。

ξ゚听)ξ『好きなら付き合えばいいでしょ』
( ^ω^)「そう、だけど……」
ξ゚听)ξ『まさか他に好きな人が居るとか?』
( ^ω^)「……好きな人?」

 そう言えば最近昔ほどそういうのを気にしなくなった気がする。
中学や高校だと、誰が誰を好きとかそう言う話が毎日のように聞こえてきて、
僕もそれなりに意識してた人が居た気がするのに、どうしてだろう。

( ^ω^)「……分かんないお」
ξ゚听)ξ『分かんないって……アンタ、自分の事でしょうが』
( ^ω^)「……」

 スピーカーの向こうから、ツンの溜息が聞こえる。
なんだかそれを聞くたびに僕はどんどん卑屈になっていく気がしてならない。



298: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 00:55:02.47 ID:O1eAIe2e0
ξ゚听)ξ『わかった。今どこ?』
( ^ω^)「しぃの家から少し駅のほうに歩いたところだお」
ξ゚听)ξ『今から行くから駅前の喫茶店にいなさい』
(;^ω^)「え……そんな、別にいいお」
ξ゚听)ξ『よくない。いい? 絶対待ってなさいよ』

 一方的に約束を取り付けると、ツンは電話を切ってしまった。
勢いに負けた僕は、待ち受け画面に戻った携帯のディスプレイを眺めながら、
頭の中でツンの声や姿を思い浮かべていた。

こんな時間に会うのは初めてかもしれないとか、
一体どんな格好をしてくるんだろうかとか、
会ったら何て言葉を掛けられるんだろうかとか、
怒られるんだろうかとか。

( ^ω^)「……あ」

 そして気付いた。
僕は、ツンが好きなんだ。







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