( ^ω^)悪意のようです

426: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:41:29.66 ID:O1eAIe2e0
十三章



(´・_ゝ・`)「参ったなぁ……」

 まだ開けていない缶コーヒーを片手に、デミタスは呟いた。
自販機に寄りかかりながら、飛行機雲を眺める。

(´・_ゝ・`)「閻魔……奈落……舌……」

 あの泣きじゃくっていた被疑者を皮切りに、自首するものは増え、
ついには合計で三人の男が自首をしてきた。



429: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:42:36.20 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「別にいいんだけどさ。確かにあいつらが犯人じゃないとは考えにくいし」

 しかしデミタスはどうしてもサイトの管理人が気に掛かって仕方なかった。
このまま捜査が終わってしまうならばいっそと、上司にこの事実を打ち明けもしたが、
事件は終わったと、突き返されてしまった。

(´・_ゝ・`)「あのハゲが……。ままならねえなあ」

 深く溜息を吐くと、デミタスは持っていた缶コーヒーを開けた。
ビル街を行き交う人を眺めながら、缶を傾けてコーヒーを流し込む。

(´・_ゝ・`)「……甘」

 反射的に出した舌が風に冷やされて、甘さをかき消していく。
風は甘さを消すだけでなく、人々の言葉をも運んできた。

そしてその中の一つを、デミタスの耳が捉えた。



433: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:43:46.21 ID:O1eAIe2e0
     『次、誰かな?』

(´・_ゝ・`)「……次」

 頭の中で検索がかけられていく。
次というキーワードに引っかかる違和感。
そもそもの、この事件のきっかけ。

(´・_ゝ・`)「……おいおい、ちょっと待てよ」

 やがて違和感は予感に形を変え、デミタスは慌てて携帯を取り出した。

(´・_ゝ・`)「もしもし、俺だ。例の事件の犯人……あぁ、そいつでもどいつでもいい。
      動機は何だって言ってた?」

 予感をもとに予測が立てられ、現実がそれに即して動き始める。

(´・_ゝ・`)「……ああ、わかった。そうだな、訳わかんねえが錯乱なんてのは良くあることだ。
      根気良く訊いてみてくれ。おう、助かった」

 終話し、携帯をパタンと閉じると、デミタスは震えた。
喜びか恐れか、あるいは武者震いか。



436: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:44:59.91 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「訳分かるんだよ、これが」

 彼らが口に出した動機は、
ともすれば事件のストレスから、錯乱した者の言葉のようにも聞こえた。
しかし少し考えてみれば、十分に理解できる範囲内であったのだ。

  _
( ゚∀゚)『閻魔になりたかったんだ。閻魔になれば、俺は皆に凄いって、言われるって。
     次の日ニュースが出たときは、そりゃあ誇らしい気持ちになったんだよ……』

(´・ω・`)『閻魔にならなければいけなかったんです。
      ノートの空白が、君しか居ないって言ってたんです。
      僕がやらなきゃ、駄目だったんです。
      直前には、あの名前が何故かすごく憎らしく見えました』


(´・_ゝ・`)「……ふん、ハゲジジイめ。後で後悔したって遅いからな」

 デミタスはコーヒーを一気に呷(あお)ると、缶を自販機の横にあったゴミ箱に捨てて、
一目散に駆け出した。

行き先は近くにあったインターネットカフェ。
自腹を切るのは癪だったが、今は一秒でも早くネットに繋ぎたかった。



438: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:46:17.56 ID:O1eAIe2e0



                   *



(´・_ゝ・`)「本命は、こっちだ」

 デミタスがアクセスしたのは例の奈落と言うサイトではなく、
それに関する議論をしている掲示板のスレッドだった。

(´・_ゝ・`)「……これは……ひでえなあ、おい」

 スレッドを飛び交う半ば野次のようなレスの数々。
その議論の中心は、もちろん被害者と犯人についてなのだが、
被害者が哀れまれ、犯人を蔑むという構図はここには存在しなかった。

 寧ろ逆である。
被害者はとことん蔑まされ、犯人が「神」だの「勇者」だのと呼ばれているのだ。



441: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:47:36.08 ID:O1eAIe2e0
 一体何が彼らをそうさせたのか。
デミタスはスレッドのログを読み返し始めた。

『今日またんき仲間と電車で暴れまわってたな。恒例だからすぐ車両変えた』
『相変わらず最低な奴だな』
『マジ氏ねよ』
『そいつ絶対に裏ではもっと酷いことやってるよな』
『同意。これ以上何かする前にマジで氏んで欲しい。生きてる価値なし』
『あいつ薬やってるんでしょ? そんなツラしてるもんな』
『売春の斡旋とかな。害悪既知害グループは消えろ』
『うわ、引くわ……人として最低だな』
『明後日が楽しみだわ』
『氏んで当然のクズ』

(´・_ゝ・`)「……そうか、こいつら実物を見れるのか」

 サイトには名前と同時にかなりの情報が漏らされていた。
それを使えば日常を監視すること位わけないだろう。
しかし、勿論ここに書かれていることが全て真実だとは言えない。



443: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:48:54.53 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「簡単に監視できる状況にあるってことが、逆にマズイのか」

 誰でも確認できるからこそ、ここに書かれたことが真実のように扱われていたのだ。
そして誰にも確認出来ないからこそ、否定する流れが起きていなかったのだ。
やがて悪意は伝播し、スレッドが一つの単位となって、大きな流れを作る。

(´・_ゝ・`)「間違いないな……あいつらはここを見ていたんだ」

 真実と虚構が入り混じり、悪意が怒りを生み、現実と仮想を曖昧にした。
このスレッドこそが殺人犯全ての動機であり、そして殺人犯そのものでもあった。

(´・_ゝ・`)「ヤバイよなあ」

 つまり、このスレッドがある限り新たな殺人犯は生まれる。
かと言って、停止したところで別な場所に移るだけなのだ。
この流れを断ち切るには、情報源であるあのサイトの更新を止めなければいけなかった。



444: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:50:06.71 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「くそー……管理人は誰なんだよ」
 川 ゚ -゚)「……あのー」
(´・_ゝ・`)「このスレッドを通じて連絡を……」
 川 ゚ -゚)「すみません」
(´・_ゝ・`)「ん?」

 誰かの呼ぶ声にデミタスが振り返ると、
そこには氷を浮かべたアイスティーを片手に、じっと見つめてくる女の姿があった。

(´・_ゝ・`)「……何か?」
 川 ゚ -゚)「ここ、私の席です」
(´・_ゝ・`)「え?」

 デミタスは慌ててテーブルの上に置いていた伝票とブースの番号を見比べた。
すると、確かにデミタスのブースはこの隣のようであった。
それに気が付くとデミタスは額に掌を打ちつけ、溜息を吐いた。



446: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:51:06.60 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「いや、申し訳ない。今移動します」
 川 ゚ -゚)「いえ」

 デミタスが上着を手に取ったのを見ると、女はアイスティーをテーブルの上に置いた。
グラス表面で結露を起こした水滴が、ぽたぽたとテーブルに落ちていく。

(´・_ゝ・`)「飲み物注ぐ場所、遠いんですか?」
 川 ゚ -゚)「いえ、すぐそこにありますよ」
(´・_ゝ・`)「そうですか」

 そう言ってデミタスは立ち上がると、女に席を譲ろうとブースの外に出た。
しかし女は一向に座る気配を見せず、間を持て余したデミタスは、
そのまま隣のブースへ移ろうとした。

 川 ゚ -゚)「あの……」
(´・_ゝ・`)「はい?」
 川 ゚ -゚)「このサイト知ってるんですか?」

 彼女が指差した画面に映っていたのは、例の『奈落』というサイトだった。

(´・_ゝ・`)「……それが、何か?」
 川 ゚ -゚)「私を……助けてください」
(´・_ゝ・`)「……何?」

 それがクーとデミタスの、ファーストコンタクトだった。



449: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:52:19.03 ID:O1eAIe2e0



                   *



 二人はその後、クーの行き着けだと言うショットバーへと場所を変えた。
間接照明が優しく照らす店内は、若い男女が思い思いの一時を過ごしており、
デミタスはそれを見るなり眉間にシワを寄せた。

(´・_ゝ・`)「……苦手な場所だ」
 川 ゚ -゚)「そんな顔してますよ」

 クーは慣れたようにカウンターに座ると、バーテンダーに目配せした。
それを見ながら、なんともぎこちない動きでデミタスはクーの横に座った。



450: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:53:21.01 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「これでも仕事中なんだ。酒は付き合えないぞ」
 川 ゚ -゚)「そうなんですか? それは残念ですね」
(´・_ゝ・`)「大体、酒を飲みに来たってわけでもないだろう」
 川 ゚ -゚)「さて、どうでしょう」
(´・_ゝ・`)「……」

 ジャズピアノの音色が時間をゆっくりと運んでいく中、
デミタスは神経を尖らせ目の前の女の思惑を探っていた。

( ´∀`)「どうぞ」

 そんな折、バーテンダーがデミタスに向けてグラスを差し出した。
スノースタイルにされたグラスの中に、ほのかに濁りの入った液体が注がれていた。



452: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:54:25.85 ID:O1eAIe2e0
 川 ゚ -゚)「どうぞ、私からです」
(´・_ゝ・`)「仕事中だと言ったが」
 川 ゚ -゚)「私の話に興味は無いんですか?」
(´・_ゝ・`)「……どっちが誘ってきたか分かりゃしねえ」

 デミタスが悪態を吐くと、すぐにクーにもカクテルが運ばれてきた。
グラスに顔が映るほどに濃厚な赤。
そこにレモンと、セロリのスティックが添えられていた。

 川 ゚ -゚)「乾杯、しましょう?」
(´・_ゝ・`)「できるなら、こんな酒は飲みたくなかったな」
 川 ゚ -゚)「私と飲むのがそんなに嫌ですか?」
(´・_ゝ・`)「いや、俺は犬が嫌いなんだ」

 その言葉を合図に、二人は乾杯をした。



455: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:55:29.85 ID:O1eAIe2e0



                   *



 会話が進むに連れて、デミタスは目の前の女から徐々に興味を失いつつあった。
ただ酒を勧めるばかりで肝心の話にはまったく触れない。
そればかりか、わざと話題を逸らしているようにさえ感じた。

(´・_ゝ・`)「……そろそろ帰るぞ」
 川 ゚ -゚)「どちらに?」
(´・_ゝ・`)「どこだっていいだろ。俺は酒を飲みに来たんじゃねえんだよ」
 川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「とんだ奴に捕まっちまった」

 財布から札を適当に取り出すと、デミタスはそれをテーブルの上に置いた。
そして立ち上がると、酔いの加減を確かめた後で、改めてクーを見た。



457: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:56:39.35 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「じゃ、帰らせてもらうぞ」
 川 ゚ -゚)「間違いないですね」
(´・_ゝ・`)「間違いも何も、俺は帰るっつったら帰るぞ」
 川 ゚ -゚)「いいえ、あなたは純粋にこの話に興味があってここに来たってことです」

 話の前後が繋がらないその言葉に、デミタスは眉をひそめた。
その後、目を僅かに広げると、再び苦々しい顔をした。

(´・_ゝ・`)「……お前、俺を試してやがったのか」
 川 ゚ -゚)「そういう男ばかり相手にしてきたので、念のためです」
(´・_ゝ・`)「俺が引き止められることを前提にしてたらどうすんだよ」
 川 ゚ -゚)「前提にしていたんですか?」
(´・_ゝ・`)「……嫌な女だ。話、聞かせてくれるんだよな」
 川 ゚ -゚)「ええ、もちろん」

 その言葉にデミタスは舌打ちをし、再びバーカウンターに向かって座りなおした。







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