( ^ω^)悪意のようです
- 459: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:58:04.20 ID:O1eAIe2e0
- 14章
あのホテルでの出来事以来、僕は一人で行動をすることが多くなった。
( ^ω^)「……はぁ」
何を言っているか分からないつまらない講義も、ノートをしっかりととるようになった。
講義が終われば周りに適当に挨拶をして、すぐに帰宅するだけの生活。
僕の大学生活は、たった二人を失うだけでなんとも味気ないものとなってしまった。
- 463: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 01:59:24.37 ID:O1eAIe2e0
- とは言っても、別に二人が居なくなったわけじゃない。
僕は罪悪感からしぃやツンを避けがちになり、
二人も、僕やもう一人と積極的に接触しようとはしなかった。
それが一日二日と続いて、僕達は他人になった。
講師「以上、今回紹介した四つの重合反応について、
来週までに代表例を交えてレポートを作成してくること」
( ^ω^)「……無茶言うなお」
小声で吐き捨てて、僕はいつものように帰る準備をする。
寄り道のコースを思い浮かべることも無く、
僕は別に家ですることも無いのに、まっすぐに岐路を辿る。
いったい僕はどこで何を失敗したんだろう。
- 467: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:00:59.68 ID:O1eAIe2e0
- ( ^ω^)「メール?」
講義室を出てすぐに開いた携帯に、メールが届いていた。
差出人は――しぃ。
用件は簡素もいいところ。
『今日うちに遊びに来てよ』
まるで何も無かったかのようなメールの文面を見て、
僕は心に盾をかざしたまま、返事を送った。
『わかったお』
なんて返事だろう。
良いでも駄目でもなく、『わかった』だなんて。
それにしても最近の僕は、心の中で呟く言葉が随分シニカルになったなあ。
- 469: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:02:01.60 ID:O1eAIe2e0
*
(*゚ー゚)「いらっしゃーい」
扉が開いた先に広がっていたいかにもな可愛らしい内装。そして知らない匂い。
そう言えば女の子の部屋に上がるのは、久しぶりかもしれない。
それにしても、甘い匂いが少しキツイ気がする。
(*゚ー゚)「ささ、どうぞー」
( ^ω^)「おじゃまします」
本当に何も無かったように、しぃは明るいままだった。
全ては僕の勘違いだったんだろうか。
たまたま擦れ違った日が重なっただけで、僕達の関係はそのままだったんだろうか。
- 472: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:03:26.22 ID:O1eAIe2e0
- そう思った矢先に目の前に飛び込んできたのは、
テーブルの上に散らかったアルコールの缶。
甘い、甘い香りは全てを否定していて、僕は悲しい気持ちになった。
(*゚ー゚)「内藤くんも飲む?」
( ^ω^)「……」
何も言わず僕は受け取った。
そろそろ考えるのが面倒くさいんだ。
このまま、酔って、何もかも、関係なくなればいい。
いつかみたいに、また三人で笑いあえるように。
( ^ω^)「……おいしいお」
(*゚ー゚)「ね!」
だから僕は、テーブルの下に落ちていた薬の袋を見ない振りをした。
- 477: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:04:47.60 ID:O1eAIe2e0
*
いったい何杯飲んだんだろう。
五杯目までは憶えている。
五杯目に飲んだのはディタオレンジだった。
ああ、甘かった甘かった。
今飲んでるのはなんだっけ。
チャイナキス?
僕ライチ好きなんだ。
冷蔵庫の中にどれだけお酒入ってるんだろ。
頭がぐるぐるしてきた。
ほら、ぐーるぐるー。
- 479: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:05:53.36 ID:O1eAIe2e0
- (*゚ー゚)「内藤くんのんでるー?」
( ^ω^)「のんでるおー。おーおー」
(*゚ー゚)「のんでるねー」
( ^ω^)「のんでるおー」
二人して酔っ払いだ。
楽しい楽しい。
しぃもソファにしな垂れかかったまま、
へにゃへにゃと笑っている。
僕も笑った。
(*゚ー゚)「もうのめないよー」
( ^ω^)「僕は、まだまだのむおー」
(*゚ー゚)「あはははは」
( ^ω^)「おっおっお」
ふらふらとコップを掴んで、一気に飲み干した。
胃が冷たくなった。
- 483: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:07:05.44 ID:O1eAIe2e0
- それに喉の奥から上がってくる匂いが甘ったるい。
ちょっと飲みすぎたかも。
でも楽しいからいいや。
いま何時だろう。
(*゚ー゚)「内藤くん、ベランダ開けていい?」
( ^ω^)「ベランダは開かないおー」
(*゚ー゚)「あははは、そうだった」
カーテンが開いて、ベランダ窓が開いた。
冷たい風が流れ込んできて、顔が熱かったことに気付いた。
( ^ω^)「あ〜、風が気持ちいいお」
(*゚ー゚)「うん、気持ちいいね」
壁に手をあて、よろよろとしぃが立ち上がった。
僕はそれを目で追ったまま床に寝た。
- 486: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:08:32.27 ID:O1eAIe2e0
- (*゚ー゚)「内藤くん」
( ^ω^)「なんだおー?」
(*゚ー゚)「あの日ツンとラブホ行ったんだって?」
( ^ω^)「……」
その言葉に自分の表情が、そしてさっきまで緩んでいた思考が、
氷水を掛けられたように引き締まっていくのを感じた。
僕は、すぐに上体を起こしてあぐらをかいた。
( ^ω^)「どうして、知ってるんだお」
(*゚ー゚)「……そんなの、今言う言葉じゃないよ」
痛いところを突かれて、僕は自分の浅ましさに心が沈んだ。
(*゚ー゚)「ショックだなあ。私ね、内藤君好きになって、ツンに後押しされて、それで告白して」
( ^ω^)「……ごめんお」
(*゚ー゚)「別に内藤君だけが悪いわけじゃないよ」
( ^ω^)「……」
いや、恐らく悪いのは僕だ。
……『恐らく』だなんてふざけてる。
絶対に、悪いのは僕だ。
- 490: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:10:00.41 ID:O1eAIe2e0
- (*゚ー゚)「別にツンも悪くないんだよね、きっと」
( ^ω^)「……」
だけど、声が出ない。
悪いのは確かに僕だけど、僕はまだ良い人でいたいんだ。
この流れから、僕たちの中を元に戻せないだろうか。
こんなことになってもまだ、僕は誰からも嫌な目で見られたくないんだ。
(*゚ー゚)「はい!」
僕が鬱々と考えに耽っていると、
突然しぃは元気に片手を上げ、スマイルマークのような笑顔で僕の目を見た。
( ^ω^)「なんだお?」
(*゚ー゚)「私は、今ここから飛び降ります!」
( ^ω^)「え?」
そう宣言するや否や、しぃはベランダに飛び出した。
そして脇に置いてあったプランターを足場にして手すりの上によじ登ると、
ふらふらと二本足で立ち上がって、ピースサインを向けた。
- 493: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:11:28.05 ID:O1eAIe2e0
- (;^ω^)「あ、危ないお!」
(*゚ー゚)「危ないねー」
他人事のようにへにゃへにゃと笑うしぃを前に、僕は慌ててしまって、
両手を前に差し出したまま、次に移すべき行動すらも頭から抜け落ちていた。
(*゚ー゚)「私もう駄目だよ、内藤君。私すっごい弱いんだ。全然こういうことも慣れてなくて」
(;^ω^)「でも、今は酔っ払ってて! だから、まずそこから降りて……」
(*゚ー゚)「私は昨日も一昨日もここに立ちました! えっへん!」
僕はその言葉に、毎晩しぃが一人ベランダの手すりに立つ姿を想像した。
毎晩しぃは何を思っていたのか。
どういう表情で景色を眺めていたのか。
しかし今はそんなことは重要ではない。
僕は余計な想像を切り捨てて、しぃを説得に掛かった。
- 497: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:12:47.16 ID:O1eAIe2e0
- (;^ω^)「駄目だお! 自分を追い詰めちゃ駄目だお! 自殺するなら、悔しいなら、
もっと見返してやろうとか、そう言う方向にするお!」
(*゚ー゚)「自分なんて追い詰めてないよ」
(;^ω^)「お?」
(*゚ー゚)「自殺ってのも違うよ。えーと……そう! 私が死ぬんじゃなくて、
いま私以外が、みーんな死ぬんだよ! やったあ!」
(;^ω^)「何おかしなこといってるんだお! しぃ、ほら、戻って来るんだお!」
(*゚ー゚)「すごいねえ! あっという間にみんな死んじゃうんだよ! あはは!
ふふ……あははは! あー、おかしい」
(;^ω^)「しぃ……」
(*゚ー゚)「みんな、みんなみんな。人も街も夜も朝も。みんな死んじゃうんだ!
んー……んふふ。くふ、くふふふ。えへへ、内藤く〜ん、楽しいねえ」
(;^ω^)「しぃ!」
(*゚ー゚)「違うよね。全然楽しくないよね。あれれ、内藤くんは楽しかったのかな? あは」
(;^ω^)「僕は……」
(*゚ー゚)「大体おかしいよね。断ったの、内藤くんじゃんか」
(;^ω^)「……」
(*゚ー゚)「あは。……あは、あはは! 何それ! みんな、大ッ嫌い!」
しぃが俄に語気を荒げた、まさにその時だった。
あれほど笑顔だったはずの表情が、少しずつ、滑らかに変化していった。
- 501: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:14:45.32 ID:O1eAIe2e0
- 眉は徐々に下がり、円らに開かれていた瞳は少しずつ細くなっていった。
緩んでいた筈の口は、何かに耐えるように真一文字に結ばれ、
顎の先がシワシワになっていった。
次いで何かを訴えようと僅かに開かれた唇。
しかしその奥には、声を出すまいと食いしばられた歯が並んでいた。
そして、その目から大量の涙が溢れ、
ぐらりと、しぃの体が後ろに傾いた。
クシャクシャになった顔を隠すように両手で顔を覆い、
「みんな……大ッ嫌い……」
しぃは手すりの上から、冷たい外の世界に、
落ちた。
- 503: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:15:56.81 ID:O1eAIe2e0
――ドンッ
やけに静かな夜。
聞こえてきた音に、背筋が、凍った。
- 506: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:17:25.39 ID:O1eAIe2e0
*
落ちていったしぃを見て僕が最初に思ったことは、
覗き込もうか覗き込まないかということだった。
悩んで、悩んで、恐る恐る覗いたけれど、
暗くてはっきりは見えなかった。
けれどもぴくりとも動かないその人影を見て、
僕はその場で携帯を取り出して救急車を呼んだ。
- 507: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:18:30.30 ID:O1eAIe2e0
- しばらくして外が騒がしくなってきた頃に、
僕はしぃの飲み残したカクテルに口を付けた。
ここにしぃが居た。このカクテルをしぃが飲んだ。
この部屋はしぃの部屋で、そこにしぃが居て、
しぃの匂いが、しぃの、しぃの、しぃの――死体。
心の中でごめんなさいと呟きながら、僕はその場で吐いた。
部屋を汚してごめんなさい。
助けられなくてごめんなさい。
飛び降りたあと、すぐに駆けつけなくてごめんなさい。
返事を先延ばししてホテルに行ってごめんなさい。
怖がってごめんなさい。
笑って、叫んで、泣いたところで人が来た。
連れて行かれて、色々訊かれた気もする。
ここら辺の記憶は酔っていたせいか、はっきりしない。
それに思い出したくもない。
- 509: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:19:50.73 ID:O1eAIe2e0
- そう、僕はここに恋というものの意味を知った。
それはベランダから飛び降りたしぃと同じものなのだ。
届いたら、オシマイ。
この酷いジョークを思いついた時から既に、
僕の中で守るべき倫理観と言うものが、崩壊し始めていたのかもしれない。
続
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