( ^ω^)悪意のようです

561: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:37:59.47 ID:O1eAIe2e0
十六章



 川 ゚ -゚)「例のスレッド。あなたは御覧になりましたか」
(´・_ゝ・`)「ああ。過去に起こった事件の時のログを読んだ」
 川 ゚ -゚)「では最近の動向は?」
(´・_ゝ・`)「なんか変わったのか?」
 川 ゚ -゚)「……はい」

 クーは上着のポケットからPDAを取り出すと、
いくらか操作を加えてデミタスに渡した。
画面に映されていたのは、今話題に上げたスレッドであった。

(´・_ゝ・`)「これは?」
 川 ゚ -゚)「とにかく読んでみてください」

言われるままにスレッドの流れを追うデミタス。
しかし、彼にはクーが何を言いたいのかが把握できない。



564: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:39:06.59 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「分からん。俺が見たのと同じに見えるが」
 川 ゚ -゚)「そのアドレス、踏んでみてください」
(´・_ゝ・`)「ん、これか?」

指差されたアドレスを、デミタスはそのままペンでタッチした。
すると開かれたページは、何度も見た奈落というサイトのようだった。

(´・_ゝ・`)「……このサイトが何だって言うんだ?」
 川 ゚ -゚)「そのサイト、例のサイトじゃないんです」
(´・_ゝ・`)「ん? どういうことだ。被害者の名前も書いて……おい、名前が違うぞ」
 川 ゚ -゚)「模倣サイトなんです」
(´・_ゝ・`)「……模倣サイト? 改装でもなく、あくまでも模倣サイトなのか」
 川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「だとしたらこのスレッドに書き込んでる奴らはどうして気付かない」
 川 ゚ -゚)「いえ、みんな気付いています」
(´・_ゝ・`)「……偽物だと気付いてるのに、こんなに盛り上がってるってか」
 川 ゚ -゚)「もはや、彼らには関係ないんです」
(´・_ゝ・`)「……」

デミタスは眉間の辺りを押さえると、舌打ちをし、閉じた歯の隙間から鋭く息を吸った。



570: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:40:10.46 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「これは……予想以上にヤバイな」
 川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「それで、お前はここに名前を書かれから、助けてくれって俺に言いにきたんだな?」
 川 ゚ -゚)「いえ、そのサイトには私の名前はありません」
(´・_ゝ・`)「何? じゃあ何だってんだ」
 川 ゚ -゚)「この流れを止めてください」
(´・_ゝ・`)「……何故?」
 川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まあこの流れが悪いことは誰にだって分かる。
      だけど、それを一般人のお前がわざわざ他人にまで頼む意味が分からない」
 川 ゚ -゚)「……罪悪感です」
(´・_ゝ・`)「……お前、まさか……」
 川 ゚ -゚)「私がオリジナルの、奈落の管理人なんです」
(´・_ゝ・`)「……」
 川 ゚ -゚)「……」

 デミタスはジッとクーの顔を見つめ、
クーもまたデミタスから目線を逸らすことは無かった。



577: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:41:34.53 ID:O1eAIe2e0
 やがてデミタスは自らのポケットに視線を移すと、
そこからタバコを取り出し、火を点けた。

(´・_ゝ・`)「落ち着きがなくなるとタバコを吸いたくなるんだ。我慢してくれ」
 川 ゚ -゚)「どうぞ」

 ゆっくりと時間を掛けて煙を肺に落とし、
タバコを口から離すとそのまま数秒静止。

そして吸った時と同様に静かに、ゆっくりと紫煙を口から逃がしていく。
そうして何度かタバコを燻(くゆ)らせたデミタスは、改めてクーの顔を見た。



582: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:43:10.05 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「お前なのか」
 川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「あんなに沢山殺しといて、今更罪悪感か?」
 川 ゚ -゚)「はい」
(´・_ゝ・`)「反論は無いんだな」
 川 ゚ -゚)「形はどうあれ、私は共犯に違いありません」
(´・_ゝ・`)「……違うな。お前はそんな奴じゃない」
 川 ゚ -゚)「推定で人格を否定しないで下さい」
(´・_ゝ・`)「人格は他人が決めるもんだ」
 川 ゚ -゚)「それを否定する権利は私にあります」
(´・_ゝ・`)「ふん、人殺しめ」
 川 ゚ -゚)「……」

 綺麗に磨かれたガラス細工の灰皿に、デミタスは煙草の火を押し付けた。
そしてグラスに口を付けると、それを持ったままクーを指差した。

(´・_ゝ・`)「断言する。お前はこの状況を楽しんでいた。
      少なくとも自分のサイトだけだったときはな」
 川 ゚ -゚)「では何故私は今ここにいるのですか?」
(´・_ゝ・`)「さあな、俺は哲学が苦手だからな」
 川 ゚ -゚)「はぐらかさないで下さい」
(´・_ゝ・`)「それはお前だ。言いたいことがあるなら言え。俺はお前のカウンセラーじゃねえんだ」
 川 ゚ -゚)「……」

 溜息を吐き、クーはデミタスから視線を外すとカウンターに腕を乗せた。
そしてグラスを両手で握り、ポツリポツリと語り始めた。



586: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:45:18.45 ID:O1eAIe2e0
 川 ゚ -゚)「事の始まりは、私がある事件を目撃したことに始まります」
(´・_ゝ・`)「手短に頼むぞ」
 川 ゚ -゚)「はい。あれは私がとある用事でレストランに急いでいる時でした。
      少年と口論をしていた男が、階段の上から少年を突き落としたのを見てしまったのです。
      少年は全身を強く打って、左下半身が麻痺するという不幸を被りました」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ、可哀想だな。その男も何を考えていたんだか」
 川 ゚ -゚)「しかし、男は逮捕すらされませんでした」
(´・_ゝ・`)「は? だって、お前見てたんだろ? それに、周りにまだ人も居るだろ」
 川 ゚ -゚)「いえ、偶然にも私とその男、そして少年の三人だけだったんです」
(´・_ゝ・`)「……となると、お前も男も犯人はもう一人の方だと言うだろうな」
 川 ゚ -゚)「ええ。しかし最終的に、少年が足を滑らせた事故という形で終わりました」
(´・_ゝ・`)「救われねえな。……まさか、その男の名前は」
 川 ゚ -゚)「はい、あのサイトで最初に挙げた名前です」



590: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:47:04.12 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……読めてきたな。お前は無実とはいえ、その男と運命共同体だ。
      恐らくお前らは、お互いに声には出さずとも通じ合っていたはずだ」
 川 ゚ -゚)「ええ、そうですね。少年は更に不幸なことに、記憶までもが欠落していたのです。
      覚えていないのだから余計なことはするな。男の眼はそう言っていました」
(´・_ゝ・`)「お前の眼もな」
 川 ゚ -゚)「……。そして私は男と何度か外で会うようになりました。
      世間話のようなものをしながらの、腹の探り合い。
      私は、会うたびに目の前の男に嫌悪感を募らせていきました」
(´・_ゝ・`)「……」
 川 ゚ -゚)「……勿論、私自身に対しても」
(´・_ゝ・`)「それで、サイトを立ち上げたと」
 川 ゚ -゚)「はい。ですが、正直なところこんなことになるとは夢にも思いませんでした。
      最初は、ただこういう悪人が居るということだけを知らせたかっただけなんです」
(´・_ゝ・`)「だけどな、お前はただ情報を垂れ流しただけで、
      その男の本質には触れてないじゃないか。それでどうして知らしめられる」
 川 ゚ -゚)「書き込めばいいんです」
(´・_ゝ・`)「……お前」
 川 ゚ -゚)「写真や事件の概要を至る所に書き込むんです。出来るだけ感情を煽るようにして」
(´・_ゝ・`)「しれっとした顔で言いやがって……」



594: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:48:58.26 ID:O1eAIe2e0
 川 ゚ -゚)「そうして広く認識されたところで、悪は裁かれるということを知らしめるため、
      私はサイトにあらかじめ記載しておいた日付に、彼を殺しにいきました」
(´・_ゝ・`)「なるほど。流れの出来ていない一人目は、おまえ自身がやったってわけか」
 川 ゚ -゚)「いえ、ところが彼は殺されていたんです。私以外の別な人物に」
(´・_ゝ・`)「……」
 川 ゚ -゚)「それが誰かは今も分かりません。しかし掲示板はこの事実に熱狂し、
      殺人犯を神と崇め、殺人犯もまた、それに酔いしれているようでした」
(´・_ゝ・`)「待て、本人が来たのか」
 川 ゚ -゚)「ええ」
(´・_ゝ・`)「しかし、お前犯人が誰なのか分からないんだろ?」
 川 ゚ -゚)「舌です」
(´・_ゝ・`)「……舌?」
 川 ゚ -゚)「犯人らしき人物は最初、事件が明るみに出る前に、
      『舌を切り取った』と書き込んでいたんです。そして、事実が遅れてそれに答えた」
(´・_ゝ・`)「……それから舌を切り取るなんていうのが習慣になったのか」
 川 ゚ -゚)「恐らくそうでしょう」



598: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:50:10.21 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「しかし……そんなに早くから、始まっていたのか……」
 川 ゚ -゚)「ええ。私一人から生じたはずだった悪意が、いつの間にかネットの海を伝播し、
      気付けば手の付けられないところまで成長してしまったのです」
(´・_ゝ・`)「気付けば……ねえ。ところで、二人目以降の情報はどうやって手に入れた」
 川 ゚ -゚)「SNS……ソーシャルネットワーキングサービスはご存知ですか?」
(´・_ゝ・`)「知ってるが……」
 川 ゚ -゚)「憎しみに駆られた私は、あるSNSに行き、悪人らしい人物を探し出して、
      コンタクトを取るようになりました。もちろん、実際に会ったりもしました」

 その言葉にデミタスが薄く笑った。

(´・_ゝ・`)「ふん、やっぱりお前は下衆だな」
 川 ゚ -゚)「そういった言葉を使う方も、どうかと思いますが」
(´・_ゝ・`)「お前、二人目の情報をサイトに上げた時、どんな気分だった?」
 川 ゚ -゚)「……」



601: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:51:18.66 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「俺が言ってやろうか。
      お前はこれまで味わったことの無いような気分の高揚に酔いしれていた。
      そしてサイトを更新した後のスレッドの反応を想像して悦に浸り、
      更新後、想像通りに沸き立つスレッドの様子を見て、更に快感を得た」
 川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「一人目で止めておけば、こうはならなかったかもしれない。
      しかしお前は癖になっていたんだ。この自分が注目されている感覚に。
      お前、二人目にはそんなに恨みも無かったんだろ」
 川 ゚ -゚)「それは違います。二人目だろうが三人目だろうが、彼らは間違いなく悪者でした。
      だから私はそれを伝えるために……」
(´・_ゝ・`)「それじゃあ、二人目はお前、殺しに行ったのか?」
 川 ゚ -゚)「それは……」
(´・_ゝ・`)「大方、家でスレッドの流れでも見ていたんだろ。次も殺されるのか、殺されないのか、
      そう考えながらお前は画面を見ていた」
 川 ゚ -゚)「……」
(´・_ゝ・`)「まるで他人事だ。お前の確たる意思はなく、
      既にお前も茫漠(ぼうばく)とした悪意の内の一つに、成り下がっていたんだ」

 長い対話の果てに、クーは言葉を失い、目を伏せた。
しかしその様子を見ても尚、デミタスは口を開くことを止めなかった。



603: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:52:26.33 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「それが、今更になって罪悪感か。面白すぎるな。
      いったい俺に何をしてほしいんだ? 褒めてあげれば良いのかな? ん?」
 川 ゚ -゚)「誰かに知って欲しかったんです。不確かなネットの世界ではなく、現実の世界で」
(´・_ゝ・`)「知らせてどうする。俺に何を望んでいるんだ」
 川 ゚ -゚)「……知っていただいた今、何故かもうこれ以上何もする気が起きなくなりました」
(´・_ゝ・`)「助けてくれって言ってたじゃないか」
 川 ゚ -゚)「そう、でしたね」
(´・_ゝ・`)「……」

 萎れてしまった。
デミタスは目の前の女を見てそう思った。
想像よりも脆かった管理人の実態に、デミタスは正直がっかりしていた。

 結局は自身も、このネットに共有された悪意の大きさに中(あ)てられ、
実際よりも巨大な悪を勝手に心の中に作り上げていただけなのかも知れない。
そう思い、彼は飲みかけのグラスに口を付けた。



605: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:53:30.75 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……話は終わりか?」
 川 ゚ -゚)「……ええ」
(´・_ゝ・`)「……そうか」

 唐突に話が途切れてしまったという空気が、彼らを包んでいた。
恐らくは、まだこの話にも続きがあるに違いないが、クーはそれを話そうとはしなかった。

 やがて彼女は財布から取り出した札をカウンターに置き、マスターに目配せをした。
意思の疎通が図れたと認識したのか、外套を身に付け、そのまま席を立った。

(´・_ゝ・`)「帰るのか」
 川 ゚ -゚)「はい」

 ふと、デミタスは自分の手元にあったPDAを思い出すと、
それをクーの元に差し出した。



608: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:54:47.91 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「忘れ物」
 川 ゚ -゚)「……いいです。それは、今日のお礼にあなたにあげます」
(´・_ゝ・`)「こんな高い物貰えねぇよ」
 川 ゚ -゚)「それじゃあ、せめて明日まで取っておいてください」
(´・_ゝ・`)「なんだ? 明日またよこせってか」
 川 ゚ -゚)「いえ、明日は私の命日なんです」

 デミタスがその言葉の意味を考えているうちに、クーはバーを立ち去った。

(´・_ゝ・`)「……命日?」

 やがてその言葉の持つ意味に気付いた時、デミタスは身の震えと共にPDAに飛びついた。
小さな画面を食い入るように見つめがら、慌てた様子で操作をする。

そうして辿り着いた場所はオリジナルの奈落。
そこに表示された文章を見て、デミタスは息を飲んだ。



610: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:55:32.82 ID:O1eAIe2e0






[八月二十一日 亡]
八月三十日 素直クール  【詳細】



612: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 02:56:37.73 ID:O1eAIe2e0
(´・_ゝ・`)「……バカ野郎っ!」

 デミタスはすぐにバーを飛び出し、辺りを見回した。
しかし既にクーの姿はどこにも見当たらない。

(´・_ゝ・`)「くそっ! それは違うだろ、一番胸糞悪いじゃねえか!」

 だが、デミタスの叫びは誰に届くことも無く、
圧倒的な夜の闇の中へと吸い込まれていく。



 そして翌々日、クーは遺体となって発見された。







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