( ^ω^)悪意のようです
- 816: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:01:24.88 ID:O1eAIe2e0
- 終章
西日もすっかり消え失せ、無数の蛍光灯の明かりが職場を照らしていた。
片付かない仕事の山に嫌気の差したヒッキーは、自販機へ行くために席を立った。
するとデスクで真剣に書類を見ているビコーズの姿を見つけ、
珍しいこともあるもんだと、ヒッキーは彼の元へと近寄った。
(-_-)「ビコさん、そんなに真剣に何を見ているんですか?」
( ∵)「ん? ああヒッキーか」
チラリと見ると、書類はただ文章を貼り付けただけのような雑な作りで、
どうも仕事の書類の様には見えなかった。
( ∵)「これは内藤の発言をまとめたやつだ。
非公式に漏らした愚痴から最終陳述まで色々揃ってるぞ。
……とは言っても、奴は喋れんけどな」
(-_-)「どうしてまたそんなのを? 仕事ですか?」
( ∵)「いや、それがよ――」
(´・_ゝ・`)「よー、居残り組」
突然二人の会話に割りこむようにして、デミタスが現れた。
- 823: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:02:41.82 ID:O1eAIe2e0
- (-_-)「……びっくりした」
( ∵)「テンションたけぇな。ほらよ、言ってたやつ」
(´・_ゝ・`)「ああ、悪いな。今晩メシでも奢るよ」
( ∵)「しかしなんだってこんなもんが欲しいんだ?」
(´・_ゝ・`)「ん? そりゃあ……だって、気になるじゃないか。自分で舌を切り落とす殺人者なんて」
( ∵)「あー……お前はそういう趣味の奴だったな」
(-_-)「えーと、どちら様ですか?」
( ∵)「ん? お前も一回会ってるだろ。ほら、えーと……自殺した内藤の知人宅に行ったときに」
(-_-)「あ、あの時の……失礼しました」
(´・_ゝ・`)「いや、気にしなくていいよ」
( ∵)「ところでよ、デミタス」
(´・_ゝ・`)「ん?」
( ∵)「お前んとこの事件はどうなった? やっぱ自首して来た奴が犯人だったか?」
(´・_ゝ・`)「……ああ。殺したのは彼らだったよ」
( ∵)「やっぱりな。ほら見ろ、俺の言った通りじゃねえか。事件解決だな」
(´・_ゝ・`)「ああ、そうなんだよ。本当に、事件は解決したんだ」
( ∵)「あん? なんだ、不満か」
(´・_ゝ・`)「……さすがにそんな事は言えないな」
- 825: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:03:46.34 ID:O1eAIe2e0
- あの日クーの死体が発見されて以来、ぱったりと殺人は起こらなくなった。
ドクオの死後も、第二第三と模倣サイトは生まれ続けたのだが、
それらが活用されることは無かった。
一体何が彼らの熱を冷めさせたのか。
第一の模倣サイトであったドクオのサイトにおいて、
一人目である内藤が、逮捕というある種の失敗に終わったことだろうか。
それが模倣は模倣でしかないというイメージを与えてしまったのは、確かに事実だろう。
それともそれに乗じて第二第三と立ち上がった模倣サイトのコピーにより、
劣化していくカリスマを見て冷めてしまったのか。
中には未だオリジナルサイトの更新を熱烈に待ち続けている者も居るが、
彼らは誰一人として、自分たちの悪意でそのカリスマを手に掛けた事を知らない。
事実上、システムはひっそりと崩壊の時を迎えていた。
- 829: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:05:13.12 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「……」
しかしデミタスにとっては、なんとも歯切れの悪い事件解決となってしまった。
いや、正確に言えば解決はしていないし、これからも解決はしないだろう。
いつの日か燻っている火が燃え上がらないとも限らない。
たった一種類の火種を失っただけで、火薬はこの世界中にまだ沢山残っているのだ。
( ∵)「よし、ヒッキーお前もさっさと今日の分を仕上げろ。コイツにスシ奢らせるぞ」
(-_-)「いや、僕は関係ないからいいですよ。それにまだまだ終わりそうもないですし」
( ∵)「……『ないでスシ』とはお前、またハイセンスなギャグを」
(-_-)「ち、違いますよ。勝手に人を滑らせないで下さい」
( ∵)「オラオラー、無駄口叩いてるとスシが乾いちまうぞー!」
(-_-)「いや、だから……」
(´・_ゝ・`)「別に一人や二人増えても変わんねえよ。
なんならこの内藤って奴の話を聞かせてくれ。それでチャラだ」
(-_-)「はあ……なんかスイマセン。て言うか個人情報ダダ漏れじゃないですか」
( ∵)「スーシーがーかーわーくーぞー」
(-_-)「あーもう、わかりましたよ! て言うか乾きません!」
(´・_ゝ・`)「ま、俺はしばらくこれを読んでるから、終わったら声を掛けてくれ」
( ∵)「おーう」
(-_-)「はい、わかりました」
- 831: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:06:34.87 ID:O1eAIe2e0
- 空いていたデスクの椅子に座ると、デミタスはゆっくりと書類に目を通し始めた。
その発言のほとんどが、胸焼けを起こしそうなほどネガティブなものばかりで、
デミタスは眉を顰(ひそ)めながらそれらを眺めた。
その中でも目を引いた記述が、
なぜ人を殺したかについて問われた時の、内藤の回答だった。
『僕は、風邪をひいてしまったのです。
悪意はそこらを飛び回る菌のようなものであり、
僕はいつの間にかその悪意渦巻く劣悪な環境に巻き込まれ、
罪と言う風邪をひいてしまったのです。
でなければ、僕は人など殺さなかった。
でなければ、僕に一体どうして人を殺せようか』
(´・_ゝ・`)「風邪か……」
他人に責任転嫁をしているだけの文章にも思えるが、
デミタスは先の連続殺人の犯人と内藤を照らし合わせていた。
- 836: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:07:51.55 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「私の中の悪魔が……なんて言う奴はいるけどな。
悪意ねえ……おい、ビコーズ」
( ∵)「おう、どうした」
(´・_ゝ・`)「こいつ家庭環境に問題でもあったのか?」
( ∵)「ん? いや、別に。なんつーか、何考えてるんだかよく分かんない奴なんだよなあ」
(´・_ゝ・`)「そうか……」
だとしたらこの内藤と言う男も、
殺人へと踏み切らせる何か目に見えないものを、感じていたのかもしれない。
それは自己の中に芽生えた強迫観念なのか、あるいは外部からの直接的な影響なのか。
(´・_ゝ・`)「しかしまあ、この文面を見る限り後者なんだろうな」
- 841: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:09:05.74 ID:O1eAIe2e0
- しかし一方で、
自分の中の罪の意識を強く認識している、次のような記述も見受けられた。
『僕がナイフを彼女の胸に突き立てなくたって、
結果としてナイフが彼女の胸に刺さって、そしてその原因が僕にあれば、
罰を受けるのは、やはり僕になるのです。
それが当たり前のことであり、僕はそれを望んでいるのです』
『裁判官の長い話を聞いて僕は思いました。
この世の誰も僕を裁くことは出来ないのだと。
それを痛切に感じさせることこそが、
死した者からの間接的な裁きなのです。
そして、自分の行いを強制的に苦悩させられ続ける地獄が、
これからの僕には待っているのです』
(´・_ゝ・`)「してしまったことの罪は自分にある。
けれどもその原因は他人にある……ってとこか?
潔癖と言うか、神経質と言うか……ちがうな、偽善者? うーん……」
- 844: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:10:33.58 ID:O1eAIe2e0
- しっくり来る言葉の思い浮かばないデミタスは、
うんうんと唸りながら天井を仰ぎ見た。
(´・_ゝ・`)「まあ何でも良いか。……しかし、間接的な裁きか。こいつも変なことを考えるな」
そこでデミタスが思い浮かべたのは、バーで会ったクーの顔だった。
(´・_ゝ・`)「……僕がナイフを突き立てなくても、結果として刺さり、
その原因が僕にあれば、罰を受けるのは僕である。
そして僕はそれを望んでいる……か」
あの時、助けてくれと言ったクーの本心は一体なんだったのだろうか。
流れを止めることに対して、果たして『助けてください』という言葉を使うだろうか。
全く無いわけではないが、デミタスにはそれが納得できなかった。
- 847: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:12:01.76 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「あいつも内藤と同じだったってことなのか……?」
罪の意識を感じ、裁きを求める。
その叫びが『助けてください』だったのか。
(´・_ゝ・`)「そう言えばアイツも悪意の伝播がどうのとか言ってたな……。
……やっぱ、俺ちょっと言いすぎだったのかもしれないな」
あれ以来、デミタスは何度もあの夜の事を思い出すようになった。
歯止めが利かない位に加熱してしまった自分を、後悔しているのだ。
(´・_ゝ・`)「まさか、俺も自覚が無いだけで既にってことなのか? ……ゾッとするな」
- 849: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:13:16.62 ID:O1eAIe2e0
- ( ∵)「よっしゃー! 終わったぜコンチクショウ! おいスッシー、飯行くぞ!」
(-_-)「スッシーって僕ですか? はしゃぎ過ぎですよビコさん。
多分耳を貸してもらえないとは思いますけど、僕の仕事まだ終わってないです」
( ∵)「ほら、デミタス。そんなもんは家帰って読め。行くぞ行くぞ」
(-_-)「あー、やっぱり聞いてない」
( ∵)「ヒッキー、俺だって話くらいはちゃんと聞く。寧ろ、他人は自分の鏡ってやつだな」
(-_-)「はい?」
( ∵)「俺を話の聞かない奴だと思っているお前こそが、
実は俺の話を聞いてない。どうだ、これ。耳が痛いだろう? そうだろう」
(-_-)「ごめんなさい、待たせすぎて頭に栄養行かなくなったみたいですね。可哀想なビコさん」
( ∵)「お前、後で人間パトランプの刑な」
(´・_ゝ・`)「……そうか。それだ、ビコーズ」
( ∵)「ん? どうした。人間パトランプやりたいのか?」
(´・_ゝ・`)「内藤も、あの女も、そして俺も。巻き込まれたと思っていた悪意は……」
デミタスはそこまで言うと急に黙り込んだ。
そして何かを振り払うように勢い良く立ち上がり、首を鳴らした。
- 851: ◆HGGslycgr6 :2008/01/20(日) 04:15:00.08 ID:O1eAIe2e0
- (´・_ゝ・`)「あーやめた。考えたくもねえ」
( ∵)「そうそう、難しいことは考えずにスシ食いに行こうぜ。おいヒッキー早くしろ!」
(-_-)「はいはい、いま支度できましたよ」
環境は、土が作り、大気が運び、雨が地へ戻すサイクルの中にある。
しかし土も大気も雨も無いバーチャルの環境は、
現実のそれよりもはるかに早く、大量に悪意を伝播した。
しかし、それが初めから悪意だったのかは分からない。
もしや誰かが故意的に悪意へ変えたのかもしれない。
善意を悪意と受け取った者が居るのかもしれない。
だがそんな者が居たかを確かめる術は無い。
いや、そもそも果してそこに人が居たのかさえも、随分と怪しいものなのだ。
ただただ悪意に絡めとられる自分のみが、そこに居るだけなのかも知れない。
−終−
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