( ^ω^)ブーン系小説・短レス祭典!のようです('A`)

976:('A`)揺れる刃のようです ◆zS3MCsRvy2 :2008/02/03(日) 22:14:27.39 ID:6HABwCHp0
( ・∀・)「毒尾さんは鶏肋みたいな人だ」

とは、街道沿いの尾布町に所在をおく、中国故事に長じた者の弁である。
鶏肋とは平たくいえば鶏ガラのことだ。

後漢の末、中国稀代の英傑曹操が「捨てるには惜しいが、実益のない土地だ」として、
漢中を諦め撤退する際に発した言葉とされている。
すなわち大したことはないが、見過ごすのも勿体ないもののたとえである。

しかし鶏ガラは湯に浸せば極上のだしが出る。
それには、ガラよりも大きな器が必要である。


ある日、毒尾が久方ぶりの夜散歩に出かけたときのこと。
道を行く途中で顔馴染みの行商人とすれ違った際、

( ´∀`)「毒尾さん、今宵は冷えますよ。羽織でも着ていきなさいな」

と訊かれた。それに対して、

('A`)「いらぬ。そんなもの着ていったって、邪魔で仕方ねェ」

毒尾は羽織が嫌いだった。羽織には、家紋が入っているからだ。
毒尾には良い家柄もなければ、誇れる肩書きもない。
ゆえに、士族のはしくれであるにもかかわらず、浮浪人がごとく奔放にふるまうことを性分としていた。

( ´∀`)「そうですか。でしたら私はこれで――」

と、商人が傘の角度をなおしつつ毒尾に別れを告げようとしたときである。

977:('A`)揺れる刃のようです ◆zS3MCsRvy2 :2008/02/03(日) 22:15:41.25 ID:6HABwCHp0
(・∀ ・)「――御免ッ!」

道端の青臭い草むらより、鋭い声と共に見知らぬ影が猛禽のような瞬発で商人に飛びかかった。
右手には二尺六寸ほどの刀が握られている。
突然の出来事。商人が事態を把握する間もなく、男の凶刃は禍々しくきらめき、闇夜を切り裂きながら疾走した。

('A`)(辻斬りか――!)

一旦背後へと跳躍した毒尾が腰の刀を抜いたときには、既に商人の首は無残にも刎ねられていた。
頭部を失った首からは絶命の証である血飛沫が噴き上がっている。

(#'A`)「貴様!」

毒尾は無頼ではあったが、不義ではなかった。
先程息絶えた商人は、幾度か世話になった男。義理合いにある者を殺した人物を赦す気はさらさらなかった。
それに見る限り、眼前の男は殺人嗜好を持った異常者である。刀の扱いにも慣れている。
おそらく、以前にもこのような狼藉をはたらいたことがあるのだろう。遠慮など不要。

(・∀ ・)「いい太刀だな」

と、辻斬りは毒尾に語りかけた。月を詠うような優美な声であった。

(・∀ ・)「……命ともども貰い受ける!」

辻斬りは風となって疾駆した。対して、毒尾の構えは切っ先を下げた下段。
下段とは、言いかえれば狡猾である。対応と防御に優れた「受け」の構えだった。

('A`)「無骨よ!」

称賛の言葉ではない。我が刀にかかれば、何者だろうと骨が無いのに等しいという意味である。

978:('A`)揺れる刃のようです ◆zS3MCsRvy2 :2008/02/03(日) 22:17:21.48 ID:6HABwCHp0
毒尾は接近してくる男を見据えつつ、よきところで刀を振り上げて男の刀身を受け止め、弾いた。
次いで二の太刀。先に振るったのは辻斬りである。
しかしその顎が満足することはなかった。右袈裟斬りに下ろされた刀は、毒尾の袴をかすめるにとどまった。
毒尾は一歩も前に踏み込んでいない。逆に、一合目を交えた後に、うしろに下がっていたのだ。

(#'A`)「うらァ!!」

男の刀が空を切っている間に、毒尾は一気に詰め寄った。
刀は既に最初の一太刀で舞い上がっている。
そのまま上段から勢いよく刀を振り下ろし、男の耳を切り落としたのち、冷たい刃は肩口へと吸い込まれていった。
肩から腹にかけて深い傷を負った男はその場にくずおれて、やがて動かなくなった。
勝負ありである。

('A`)「……くそ!」

毒尾は血煙を上げる二つの亡骸を見下ろしながら、自分の行動を省みた。
あのとき、なぜ商人をかばおうと考えなかったのか。
即座に抜刀していれば、商人の面に立って打ちあうだけの余裕はあったはずだ。
自分はこんな狭い世界の義理さえ果たせない人間なのか。

('A`)(……いや、違う!)

毒尾はかぶりを振った。彼の思考は、常人とはひどく逸脱した方向へと向かった。

('A`)(この男の義理など、果たすべきものではなかっただけだ! 俺が果たすべき義理は他にある!)

毒尾は思った。今夜の事件は、こんな狭小な町になど留まるなという、天からのお告げなのだ、と。
彼が尾布町を離れたのは、翌日の朝のことである。

     ――終――



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