( ´_ゝ`)は自宅警備員なようです

1: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:26:07.31 ID:9qJrNoZL0
企業間戦争の激化に伴い、新たな協定が結ばれた
クローバー・クラブ協定の締結

――『我々は軍人ではない。我々は労働者である』――

――『故に、今後如何なる闘争に於いて、兵器の使用を永遠に禁ずる』――

――『労働者よ。その手に持つのは兵器であってはならない。繰り返す。兵器であってはならない』――

――『労働者よ。棒を持て。労働の証たるクラブを持て』――

――『労働者よ。その手に掲げろ。商品を』――


クローバー・クラブ協定締結以降、
企業間戦争は、次第に同業他社の殲滅から、
全業全社間の広告戦争へと、そのフィールドを広げ、

……戦争は激化の一途を辿った



『企業間戦争に於いて、企業戦士は殺人を許容してはならない』
『労働者も一歩外に出れば消費者である。故に、これを無闇に殺害する事を禁ずる』



2: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:27:48.29 ID:9qJrNoZL0
……昔の話だ
……俺が、中学生で、兄者がまだ高校生だった頃の話だ

(´<_` ) 「兄者。兄者は、将来、何になりたいんだ?」
( ´_ゝ`) 「……急に、どうした?」

カチカチと、俺の方なんて、少しも見ないで、兄者はマウスを操作した
パソコンなんて、少しもわからない俺にとって、兄者のそんな姿は、格好よく見えた

(´<_` ) 「やっぱり、パソコン関係に進むのか?」
( ´_ゝ`) 「なんで、そう思う?」
(´<_` ) 「だって、得意じゃないか」

まるで、自分のことみたく、俺は自慢げに、言っていたと思う
でも、兄者は、そうは思っていなかったんだろう
パソコンの操作を止めて、背もたれに思いっきり寄りかかって、言った

( ´_ゝ`) 「俺は……警備員になりたい、かな」
(´<_` ) 「警備員?」

くるりと椅子を回して、兄者は俺に、笑って言った

( ´_ゝ`) 「ああ。俺は、自宅警備員になりたいんだ」
(´<_` ) 「自宅なんて、守るものも何もなくないか?」

あるさ、って、兄者は心底楽しそうに、笑って言った

( ´_ゝ`) 「父者も、母者も、姉者も妹者も……それからお前も、皆、守ってやりたいんだ」

真顔で、こんな恥ずかしい事を言う兄者を、俺は、素直に、尊敬していた



3: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:32:12.80 ID:9qJrNoZL0
――数年後

(´<_` ) 「いらっしゃいませー」

コンビニの店員というのも、楽ではない
品出しやら何やら、力仕事ぐらいなら、何とでもなるものの、
接客というのはどうにも気疲れする

(´<_` ) 「父者、そろそろ休憩に入るぞ」

父者が酒屋を止め、『流石マート』を開いたのが、俺が生まれて間もない頃
数年前に、個人経営からコンビニチェーン『シベリア』の傘下に加わり、
我が家は、全国の何処にでもある、コンビニの一つになった

24時間営業が可能になった分、売上も多少は伸びたが、
バイトの人件費とロイヤリティを引くと、個人経営の時とさして儲けは変わっていない
雇用問題やらを考えると、気苦労の分、損をしているような気がしないでもない

いや、バイトの内引きが判明したのも一度や二度ではない
『流石マート』の時よりも万引きだって増えている
警察にお世話になる分、損の方が確実に多くなっているのだ

いっそ、『シベリア』との契約を切って、酒屋からやり直した方が、楽かもしれない
何度も考えた。そんなことは、もう本当に何度も

(´<_` ) 「…………」

けれど、その選択肢を選ぶ事は、俺には出来ない

父者も母者も、姉者も、選ばないと、思う



6: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:36:36.46 ID:9qJrNoZL0
住居部分に繋がる階段を上り、
俺は自分の部屋のではないドアの前で、しばし、動かずにいた
こうして、何をするでもなく、立ち尽くすのは、もう何度目だろうか

(´<_` ) 「…………」

ノックをしようと、上げた手が、震えた
逆の手で、抑え、やはりノックは止めにする
一言、声をかければ、済む話じゃないか

(´<_` ) 「あに……。……」

今度は、のどが震えてくれなかった
nの音で閉じたのどは、そのまま息を詰め、言葉を飲み込ませる

(´<_` ) 「…………」

カタカタと、聞こえる、キーボードを叩く音を耳にしながら、
俺は結局、ドアの下から、タイムカードを渡し、部屋へと帰った

キーボードの音は、薄い壁越しに、まだ聞こえてくる



7: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:39:46.27 ID:9qJrNoZL0
タバコを吸えば、部屋は煙で白く染まっていく
換気扇なんて、無い部屋だ。窓を開ければ、まだまだ寒さが身にしみる
どうしたものか、くわえタバコのまま考えたのも、数秒

(´<_` ) 「……まぁ、いいか」

結局、寒い部屋よりも、煙い部屋を選んだ
ノドを地味に焼く、煙の感触を味わいながら、溜息

(´<_` ) 「兄者……兄者、聞いてるか?」

薄い壁だ、張り上げなくとも、こちらの声は、ハッキリ聞こえているはずなのに
兄者は、返事を返してはくれない

(´<_` ) 「……俺も、人のことは言えない、か」

ついさっきの事と、ここ数年、続けている行動を思い出し、首を振る
ドアより先に、踏み込もうとしない俺が、
安全な場所からしか、声をかけられない俺が、今更、何を考えているんだか、と

(´<_` ) 「なぁ、兄者。仕事の調子は、どうだ?」

『自宅警備員』に、仕事の調子もくそもないのは、解っている
俺は、返事を期待せず、
しかし、我侭に、いつものように、声をかけ続けた

(´<_` ) 「こっちの方は、またバイトが問題起こしてさ……」

独り言のような、愚痴のような、どうしようもない、取り留めの無い呼びかけに、
何の意味があるのか、わからないままに



11: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:47:57.85 ID:9qJrNoZL0
俺が、高校に入る年……だったと思う
兄者は急に、なんの前ぶりもなく、学校へ行かなくなった
部屋に篭り、毎日パソコンに向かい、終いには、食事にも降りてこなくなった

当然、母者はそんなことを許すはずもない
部屋に乗り込み、兄者をボコボコにしたんだそうだ

けれど、それでも兄者は部屋から出てこなかった

母者はそれ以来、兄者の部屋には行っていない
どうして、と、何度聞いても、理由を教えてはくれなかった
しつこく、しつこく、聞いてみたけれど、母者の答えは素っ気無かった

……兄者の口から、直接聞け

父者も、姉者も、それから、妹者も、
皆、一度兄者の部屋へ行った後、何も言わなくなった
理由を聞いても、皆答えはおんなじだ

……兄者の口から、直接聞け

家族全員からそう言われ……もう、数年
俺は大学も卒業し、店の経営に加わるようになった今になっても、
兄者の部屋に、入れずに、いる



16: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:55:56.91 ID:9qJrNoZL0
それからしばらくして、父者と母者は、一つの決断をした

『流石マート』をたたむことにする

理由は、こうだった
企業間戦争が、今よりももっと血なまぐさく、企業同士の潰しあいだった頃
いくつかの法も、激しくなる戦争に合わせ、変化していった
その中には、警備員法も含まれていた

従来ならば、警備会社に所属し、研修を受けたものしか認められなかったものが、
激化する企業戦争の中、準企業戦士という名称で、認められるようになったのだ

個人経営の店舗では、企業ではない事を理由に、準企業戦士を雇用する事が出来ない
だが、『シベリア』のような企業の傘下に加われば、書類一つで、一名まで、雇う事が出来る
業務内容も報告する必要のない、準企業戦士は、それこそだれでもなれる

それを利用し、父者と母者は、『シベリア』の傘下になることで、兄者を、準企業戦士にしようとした

俗に『自宅警備員』と呼ばれる準企業戦士だが、しかし、社会的に認められた職業でもある
実質はどうあれ、大学を出ていない兄者の今後を考え、
履歴書に書ける職歴を作ることで、兄者の未来を、『流石マート』の看板と引き換えにしようと言うのだ


(´<_` ) 「……まったく、兄者のおかげで、慣れないコンビニ経営が、きついよ」

憎まれ口を叩き、けれど、本心ではそうは思っていない
父者と母者が、どうしてそこまで、兄者の引きこもりを容認しようとしているのか、わからない
だが、兄者の未来。それは、俺自身、どうやっても残したい、そう、思っていた

理由なんて、そんなのは、決まっている。俺は……



19: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 22:58:53.12 ID:9qJrNoZL0
――コンコン

ドアをノックする音に、ふっと我に帰った
窓を開け、軽く換気をする。煙った部屋を見られるのは、少し具合がわるい

(´<_` ) 「入っていいぞ、妹者」
从・∀・ノ!リ人 「ちっちゃい兄者! なんで入る前からわかったのじゃ?」

ノックなんて物を律儀にするのは、妹者ぐらいだ
が、素直にそういうのも、面白くはない

(´<_` ) 「まぁ……家族だからな」
从・∀・ノ!リ人 「おー。流石ちっちゃい兄者なのじゃ!」

大げさに喜び、抱きついてくる妹者の頭を撫で、
俺も一緒になって、笑った。が、

(´<_` ) 「家族……か」

一瞬の間をおくと、その言葉の空々しさに、なんだか、むなしくなってくる
家族家族と、言っておきながら、自分は、
家族であるはずの兄者と、顔を会わすことを恐れて……

从・∀・ノ!リ人 「? ちっちゃい兄者?」
(´<_` ) 「ああ、いや……なんでもない」

それより、と話題を強引に変え、

(´<_` ) 「それで、何か用か?」
从・∀・ノ!リ人 「おお! 父者が呼んでいるのじゃ! それで来たのじゃ!」



22: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:06:56.44 ID:9qJrNoZL0
まだ、休憩は終わっていないはずだが……何かあったのだろうか
店に降りると、父者は眉根を寄せ、難しい顔をしていた

(´<_` ) 「父者、どうした?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「弟者か。……いや、本社から連絡があってな」
(´<_` ) 「? それが、どうかしたのか?」

説明するより、見た方が早いだろう
そう言い、父者は手に持っていた封筒を渡した
宛名には、何故か店名ではなく、個人の名前が記載され、そこには……

『流石兄者様へ』

(´<_` ) 「!? これは……?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`) 「わしにも、よくわからん。内容は、本社に来いとだけあってな」
(´<_` ) 「……」

可能性は、いくつか、頭の中に浮かんだ
が、そのどれをも口に出さず、俺は極力、平然と、言った

(´<_` ) 「まぁ、俺が、代わりに行っても問題ないだろう?」



27: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:11:02.95 ID:9qJrNoZL0
『シベリア』の本社は、思ったよりも小さいビルだった
一応、全国に展開しているとは言え、他の大手コンビニに比べれば、
まだまだ店舗数も少ない会社だから、当然といえば当然なのかもしれない

(´<_` ) 「……一体、何なんだ?」

着慣れないスーツを着て、応接室で待たされている間、
俺は、気が気じゃあなかった

彡⌒ミ                  ・ ・ ・ ・
( ´_ゝ`) 「そうだな……兄者は、あんな事を言っているし、な」
(´<_` ) 「……」

ズキリ、と、胸が痛んだ
父者の言葉は、ある共通の認識がある前提で、言っているのだと、気付いたからだ

俺は、未だに兄者の部屋には、行っていない
けれど、父者達には、そう、言っていない
見栄とは違う、ただ、和を保とうとしてついた、ごまかしのような嘘だった

(´<_` ) 「まぁ、気構えなくとも、大した事じゃあないだろう。じゃあ行って来る」

その嘘が、今になって、俺を苦しめる

……父者は、俺の知らない兄者を知っている
……俺は、父者の知っている兄者を知らない

今日、ここに呼ばれたのは、果たして、
俺の知っている兄者なのか、そうではない兄者なのか、わからない



32: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:16:38.63 ID:9qJrNoZL0
十分かそこらほどして、秘書らしき女性を連れ、男は入ってきた

( ^Д^) 「いやー、すいません。お待たせしたみたいで」
(´<_` ) 「いえ」

にやにやとした顔が、どうにも気に障る男だ
いや、問題は顔じゃあない。本当に気に障っているのは……

( ^Д^) 「あれ? 失礼ですが、貴方は……」
(´<_` ) 「ええ、兄者の弟の、弟者です。今日は兄の代理で」
( ^Д^) 「……そう、ですか」

やはり、あの封筒は、兄者宛だったと知り、思わず眉をひそめ、ふと、思った
……お前は、兄者の何を知っているんだ?

( ^Д^) 「せっかくですし、この際、貴方にもお話しておきましょうか。ご家族ですしね」
(´<_` ) 「……。はぁ」

……その言い方、お前は、兄者の何なんだ?
……お前は、俺の知らない兄者を知っているのか
……俺が聞けずにいる兄者を、知っているのか

八つ当たりじみた、本来なら自分に向かうべき感情が、男に向かっている
そう気付いたが、不快感はどうにもぬぐえない

こんな、なんでもない、ごくごくありふれたやりとりですら、こう思ってしまう、
自分の重症さに呆れながら、続きを促した



35: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:23:55.46 ID:9qJrNoZL0
秘書から受け取った書類を片手に、横柄な態度で、男は話を始めた

( ^Д^) 「えーとですね、確認しておきますが、貴方のお兄さんは、準企業戦士、ですよね?」
(´<_` ) 「ええ、そうですが何か?」

準企業戦士、という肩書きを蔑視している事を、
隠そうともしない口調に、冷静に返す
男の表情が、若干揺れたように見えたのは、気のせいだろうか

( ^Д^) 「……いえ、ただの確認ですので」

それにしては、不自然な間を置いて、
男は視線を手元に落とし、こちらの目を見ようとはしない
書類を一枚二枚とめくり、手を止めると同時

( ^Д^) 「……本題の前に、一つ、お伝えしておきます」

しばし、沈黙を置き



( ^Д^) 「端的に言いますと、うちの会社は、なくなります」
(´<_` ) 「!?」



39: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:28:57.76 ID:9qJrNoZL0
置いた間の間、心の準備をしていたとしても、その発言は衝撃が強すぎた
『シベリア』の経営が右肩下がり、とは、聞いていたが、まだそこまで行っているわけがない
いや、それ以前に、兄者にそんな話をして、一体……

( ^Д^) 「ああ、落ち着いてください。なくなる、は言いすぎでした」
(´<_` ) 「ど……どういうことですか?」

ぐるぐると混乱気味に回る思考を、強引に収めようと、息を整える
男は、息を整えている間も、悠々と喋り続けた

( ^Д^) 「正確には、『シベリア』は他所の会社に吸収合併される事になりまして」
(´<_` ) 「……それで、名前が変わる、とか?」
( ^Д^) 「はい、まだ合併後の名前は決まっていませんが」

落ち着き払った男の声から察するに、この合併による、大きな影響は出ないのだろう、
少なくとも、この男の地位が危うくなるようなレベルでは
いや、問題はそこではない

(´<_` ) 「その話は……兄とどういう関係が?」
( ^Д^) 「……うちには、企業戦士がいないのは、ご存知ですよね?
       準企業戦士もあまり多くはありません。そこで、兄者さんにお願いしたいのですよ」
(´<_` ) 「……待ってください、合併の話なんか、企業戦士に何が……」

最後まで、言い切る前に、男は今日一番の笑顔で、

( ^Д^) 「企業戦士だからこそ、出来ることがあるんですよ。なに、むずかしくはありません」

本当に、本当に、心の底から、期待している、と言いた気な笑顔で、

( ^Д^) 「今度、広告戦争で、兄者さんには、少し死んでもらいたいって、だけですから」



44: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:36:15.36 ID:9qJrNoZL0
瞬間、頭の中が、凍りついた
俺の反応がわからないわけでもないだろう、なのに、男はにたにた笑い

……今、コイツハ、何ヲ、言ッタ?

( ^Д^) 「今や、広告戦争ほど注目されているメディアはありませんからねぇ……」

……ダカラ?

( ^Д^) 「ただの吸収合併という形ですが、ここで接点を作っておけば、インパクトが違いますからね……」

……アア、アア、コイツハ、ソウカ

( ^Д^) 「『自宅警備員』の一人や二人で、この宣伝効果は……」

……オ前ハ、ソウ、見テイルノカ

( ^Д^) 「そうそう。話には聞いていましたが、兄者さんは、アレなんでしょ?」

( ^Д^) 「        だって言うじゃないですか。だったらねぇ? あなたにとっても別段……」

――ガッ

( ^Д^) 「は?」

止まっていた思考が動くのと、身体は同時に動き、気がつくと男の襟首を掴んでいた

(´<_` ) 「だからどうした?」



46: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:37:58.78 ID:9qJrNoZL0
俺は、兄者を尊敬していた
兄だからと言って、えらぶるわけでもなく、
対等に、弟の俺と目線を合わせて、話してくれた兄者を

『        』だからと言って、そんなこと、
まるで気にせず、振舞っていた兄者を

パソコンを難なく使いこなし、
俺にはさっぱりわからないトラブルも、
魔法のように解決してくれた兄者を

時々、バカもやるけど、
それだって、俺にはとてもできるようなことじゃあなかった
兄者のそんなところも、俺は尊敬していた

俺は、兄者みたいな兄に、なりたかった

だから、兄者が『自宅警備員』になってしまった理由を、怖くて、聞けなかった
父者も、母者も、姉者も、妹者も、
皆が皆、納得するような理由だったの知っても、怖かった
失望してしまうんじゃないかって、思うと、怖かった

そのぐらい、『自宅警備員』というのは、不名誉な事だと、解っている
解っているけれど…………

(´<_` ) 「兄者の事を何も知らずに、勝手な事を抜かすな」



47: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:39:33.03 ID:9qJrNoZL0
そこまで、考えたところで、頭の熱は急速に冷めていった

( ^Д^) 「ひ、い……」
(´<_` ) 「失礼」

襟首から手を離し、男を解放する
これがあと少し遅かったら、あの秘書は人を呼びに飛び出していたかもしれない

(´<_` ) 「これでも一応、家族、ですので。失礼しました」
( ^Д^) 「い、いえ。私も、少々、口がすぎました」

襟を直し、ようやく落ち着きを取り戻した男は、
説明が行き過ぎであった、と謝罪して、続けた

( ^Д^) 「……死んでいただく、というのは言葉の綾でして」

当然だ。企業戦争では、クローバー・クラブ協定で殺人が禁じられている
だがしかし、

( ^Д^) 「ですが、どの道。プロの企業戦士と戦えば、無事に済まないでしょう」
(´<_` ) 「……」

それは逆に、命さえあれば、どれだけの重症であっても、黙認されるということでもある

( ^Д^) 「先ほども申しましたが、企業戦士が不在なのも事実でして、他に適任者は……いません」
(´<_` ) 「……」

真剣な男の口調に、嘘はない
つまり、冗談を抜いた所で、事態はほとんど変わってはいないのだ



51: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:42:05.39 ID:9qJrNoZL0
……そういえば、あの時、兄者は、何て言っていたっけ

( ^Д^) 「正直、今回の宣伝が上手く行かなければ、合併の話も白紙になりかねないんです」
(´<_` ) 「……」
( ^Д^) 「先ほどの暴言は、撤回します。その後の補償も、可能な限り……」

黙ってうつむく俺の態度を、どう思ったのか
矢継ぎ早に、次々と取引の材料を提示してくる男を無視して、

(´<_` ) 「……なぁ」
( ^Д^) 「は、はい?」

本社の人間が、一店舗の従業員に敬語を使うだなんて、どんな状況だ
と、思ったが、言わないでおこう
まさか自分でも、あそこまで平坦な声が出せるとは、思っていなかった

いや、そんなことはどうでもいい
それよりも、言っておくべきことが、ある


(´<_` ) 「その、企業戦士というのは……俺じゃあダメなんですかね?」



54: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:43:04.92 ID:9qJrNoZL0
……ああ、そうだ
……そうだったじゃあないか
……ようやっと、思い出したよ

俺が、なんでここまで兄者を尊敬したのか
俺が、なんで兄者みたいな兄になりたいと思ったのか

全部、これから始まったんだった


『( ´_ゝ`) 「父者も、母者も、姉者も妹者も……それからお前も、皆、守ってやりたいんだ」』


( ^Д^) 「それは……」
(´<_` ) 「補償も出るんですよね? なら、問題無い」

広告戦争の参加者が、どういった目に会うのか、知らないわけではない
震えそうになるのを、堪えるのも、なかなかに難しい
それでも、俺はできる限り、なんでもないように、取り繕う

( ^Д^) 「……いえ、こちらも特に問題はありませんが……よろしいのですか?」

『自宅警備員』ではないだけで、ここまで態度を変えるとは
やはり、世間は、兄者に厳しいらしい
なら、俺はなおさら、平気な顔で、こう、言わなければならない

(´<_` ) 「ええ。家族を守るためなら、なんでもしますよ、俺は」

失望とか、尊敬とか、知っているとかいないとか、関係無い
ただ、家族だから。それだけの理由で、俺は……守るさ



58: KOB ◆389csq25ho :2008/03/08(土) 23:46:13.93 ID:9qJrNoZL0
……なぁ、兄者

……あんたも、俺の立場だったら、こう言っただろう?

……俺は、兄者みたいな、兄になりたいから

……これからも、俺が、追いつきたいと思える兄者の未来を守るために

……俺は、兄者を守るよ

( ^Д^) 「では、今日のところは、この辺で……」
(´<_` ) 「ああ、それと一つ」

……でもさ、兄者……俺も、犬死する気は、さらさら、無いんだ

(´<_` ) 「広告戦争で、俺が万が一勝ってしまっても、文句は言わないでもらえますか?」

( ^Д^) 「……プロの企業戦士に、戦って……勝つつもり、なんですか?」

(´<_` ) 「接点さえ作れれば、文句は、ないですよね?」

( ^Д^) 「……ハ、ハハハ。ええ、ええ。勝てるものなら、勝ってくださいよ?」

(´<_` ) 「ああ、そうさせてもらいますよ」

……兄者、あんたは、こんなのを目指していたんだろ?

……やれやれ、家族も含めてとなると、『自宅警備』ってやつも、楽じゃあないんだな  
                                                       了?



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