(,,゚Д゚)達はDrifterのようです。
- 1: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:12:32.21 ID:z9eYYqXp0
- 小柄な女性ならば、すっぽりと影に隠れてしまうでろう大剣を、
地面に突き刺し、モナーは、崩れ落ちるように腰をおろした
板金鎧の重量も含めて、もう立っているのも限界に近かった
( ´∀`) 「やっと……終わったモナ」
(,,゚Д゚) 「一応は、な」
傷だらけの軽装鎧に、槍を携え、答えたのは、ギコだった
モナーと同じく、満身創痍であるはずなのに、それでも立ち続ける
どこまでも、格好つけた奴だ
( ´∀`) 「これで、この世界は、平和になるモナ」
言って、背筋をぐっと伸ばすと、鎧に空いた隙間から、血が流れた
ドクドクと、ドクドクと、止まる事の無い血液は、すぐに血溜まりをつくる
素人目に見ても、助かりそうにない、重傷だとわかる
(,,゚Д゚) 「魔王を倒したんだぜ、俺達は。平和になってくんなきゃ、困るだろ?」
それもそうモナ、と、笑う顔は、どこまでも晴れやかだった
( ´∀`) 「ギコ。僕は……そろそろ、次に、行く……モナ」
視界が、次第に、白く、染まり……耳の中で、風が鳴り……意識は、もやの中へと……消え……
(,,゚Д゚) 「ああ、また、次の世界で会おうぜ。俺も、すぐ追いつくからよ?」
――この話は、幾つもの世界を救う運命を背負った、九人の者達の、物語の終わり
――死しても、死ぬことなく、世界を巡る彼らの事を、ただつらつらと書き起こした物語の終わり
- 3: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:19:07.30 ID:z9eYYqXp0
- ――カラン
ウィスキーの中で、氷が踊った
ダブルのロックは、氷が半ば以上溶けているにも関わらず、
口をつけられないまま、カウンターの上で、無為に薄まっていった
(,,゚Д゚) 「……」
飲まない酒を、わざわざ注文した男は、グラスの中の液体を見つめ、
張り詰めた空気の中、じっと相手を待ち続けていた
男の名前は、ギルコクニャフ・アリバートシシク
肩書きは、AA科学、代表取締役社長
AA科学は、企業間戦争が広告戦争へと舞台を移した事で、
一躍、他業種の会社を吸収し、一大企業となった会社として有名だ
その社長が、こうしてSPもつけずに、薄暗いバーに一人いるというのは、
ある意味で、異常な状況とも言えた
- 5: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:24:19.51 ID:z9eYYqXp0
- だが、それも止むを得ない
なぜなら、今日、彼はここで、ある人物と密会する事になっているのだ
信用できる身内とは言え、相手の立場を考えれば、誰かを置くことなど、できるはずがなかった
(,,゚Д゚) 「……」
向こう側の要請に、応じる形で決まったこの密会は、
ギルコクニャフ自身、どういった話になるのか、予想すらしていない
いや、正確に言うならば、いくつかの予想はついている
広告戦争で増加しつつある、有り得てはいけない死者についてかもしれない
真っ当な話ならば、ロマネスクの使用商品についてかもしれない
業務提携の申し出なら、つい先日もあった話だ
だが、その中から、これだろう、という推測はしていない
推測すれば、思考はそこに縛られる
柔軟な対応を重視するギルコクニャフは、それを嫌った
- 7 名前: KOB ◆389csq25ho 投稿日: 2008/03/09(日) 22:31:35.89 ID:z9eYYqXp0
- 本来ならば、応じる理由の方が少ない、提案だった
ここに来るはずの人間は、ブレイク技術社長を名乗ったが、その裏は取れていない
何より密会の明確な理由も告げていないのだ
社長室直通電話から告げられたのは、ただ一言
「ギコ、個人的に会いたいのだが、時間は取れないか?」
たった、それだけだった
(,,゚Д゚) 「……俺は、ギルコクニャフ、なんだが」
聞き覚えの無い愛称に、そのときは首を傾げた
そして、酔っ払いか何かの妄言のように、提案を一刀両断に切り捨てる、
つもりだった。しかし、
(,,゚Д゚) 「……わかった。調整しよう」
自分の口から出た言葉が、信じられなかった
だが、どうしてだろう、ギルコクニャフは、ここに来なければいけない
そう、思ったのだ
- 9: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:36:29.28 ID:z9eYYqXp0
- ――カラン
ドアベルの音にも反応せず、ただ、ギルコクニャフは、グラスを見つめる
足音は、徐々に近づき、背後で、止まった
( ´∀`) 「久しぶりモナ。……ギコ」
どうやら、待ち人が来たようだ
肉声で聞けば、もしかしたらと思ったが、やはり、その呼び名に聞き覚えはなかった
振り向き、早々に訂正し、社に戻ろうと、男の顔を見て、
(,,゚Д゚) 「あんたか。電話でも言ったが、俺の名前は……あ?」
……俺の名前は?
……ギルコクニャフじゃあ……ない?
( ´∀`) 「……思い出したモナ?」
……お前は……たしか、大剣の……
唐突に、脳の後ろ側を、ねじ切られるような、痛み
――ガタッ!
(,,゚Д゚) 「う……あ、あ、……がぁ……!!」
立ち上がり、頭を抱え、もがく。が、痛みは一向に引かない
たまらず、ギルコクニャフは、トイレに駆け込んだ
- 11: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:40:36.17 ID:z9eYYqXp0
- 胃袋の中身を全て吐き出し、ついでに胃液を吐き出しても、
吐き気はおさまる気配を見せない
(,,゚Д゚) 「ぐぉ……ぉ……お……!」
――剣――炎――光――血――槍―――友―――
―――命――魔―――槍―――消――巡―――
―しぃ――モナー――俺――槍――つー――モラ――敵
(,,゚Д゚) 「あ……ああ……あああああ……!!」
今までの、ギルコクニャフとしての人生、その数倍以上の情報が、
一気に、脳を駆け巡り、視界は、現実と付け加えられた記憶が、入り混じる
情報の許容量を超えた身体は、中身を搾り出すことで、防衛するが、間に合わない
―戦――死――槍―運命――九―――誰――
――俺―――勇―――戻―――殺―――死死死死――
―――死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死―――
(,,゚Д゚) 「ぐ……ッアアアアアアアアアッツ!?」
意識を手放す事無く、全ての記憶の最後を飾る映像を、
幾千もの死の記憶を受けきったのは、
ギコにとって、幸いだったのか不幸だったのか
- 13: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:44:13.71 ID:z9eYYqXp0
- トイレから出たとき、ギコの頬はこけ、憔悴は明らかだった
それでも自分の足で歩き、元の席へと戻る
モナーはそれを助ける事無く迎え、チェイサーを差し出した
( ´∀`) 「お疲れだモナ」
(,,゚Д゚) 「毎度の事ながら……キツイな、これは」
( ´∀`) 「僕も、この前はそんな感じだったモナ」
水を口に含み、軽くゆすいで、飲む
上品下品と言うレベルではない行為だが、今はそんなことを気にしている余裕すらない
いや、これでも、余裕がある方なのだろう、今までに比べれば
( ´∀`) 「前の世界なら……吐いてる余裕も、無かったモナ」
(,,゚Д゚) 「……そうだな」
常人が聞いたならば、二人の頭の中身を疑うだろう会話を、
しかし二人は自然に、続けた
- 16: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:47:16.26 ID:z9eYYqXp0
- ギコとモナーは、広い意味では人間と言えるだろう
だが、狭い意味ではとてもではないが、人間とは言えない存在だった
数限り無く存在する世界の片隅で、親も無く、彼らは漂流してくる
過去の通過した世界の記憶を、どこかに残したままに
その姿は、ふらりと現れた旅人であることもあったし、
生まれて間もない赤子の姿をとることもあった
生まれて、死ねば、そこからまた次の世界へと、漂流する
何の為に、彼らは世界に現れるのか
答えは、単純
戦うためだけに、現れるのだ
魔物が溢れる世界ならば、それを狩る者として
暴君が支配する世界ならば、革命を起こす者として
常に、絶対的な力の対極として、彼らは存在し続けた
ある世界では、歪みの反作用と呼ばれ
ある世界では、魔に対抗すべき聖なる者と呼ばれ
ある世界では、闇を切り裂く光の存在と呼ばれ
どう呼ばれようと、彼らの根本は変わらない
絶対の暴力的な支配に対する、カウンターパート
不毛な争いを終結させる、絶対の対極の存在
これだけは、全ての世界に共通していた……はずだった
- 19: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:51:01.48 ID:z9eYYqXp0
- 二人の話は、過去に渡ってきた世界の話で、終始した
記憶を取り戻したばかりのギコは、確認するように
既に記憶を取り戻していたモナーは、懐かしむように
(,,゚Д゚) 「旅人だったら、記憶を取り戻す苦痛なんて、ないのにな」
( ´∀`) 「戸籍がある世界じゃ、仕方ないモナ……」
次第に、話題も尽き、流れは今の世界に移り
( ´∀`) 「でも、この世界は、本当に平和だモナ」
(,,゚Д゚) 「……そう、なのかもな」
どちらとも、その前の話題とはうってかわって、
お茶を濁すような、どこか焦点のずれた会話が、続く
何故か、と聞かれれば、そう、どちらとも、話しづらいのだろう
(,,゚Д゚) 「でも、よ」
先に、核心に触れたのは、ギコだった
(,,゚Д゚) 「まさか……俺達が、戦争の当事者になろうとはな」
( ´∀`) 「…………」
- 20: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 22:55:13.05 ID:z9eYYqXp0
- コトリ、と置かれた、グラスの音は、そのまま、
二人の関係をリセットする合図となった
(,,゚Д゚) 「……ブレイク技術の、社長なんだってな?」
( ´∀`) 「……キミこそ、AA科学の社長モナ?」
モナーは言った
この世界は、本当に平和だと
飢えに苦しみ、人が人を食らう事も、
人間が他の種族の奴隷になる事も、
生物の全てが絶滅しかけるような事も、無い
ただ、ごくごく当たり前の競争社会が生まれ、
利潤追求のために、競争が激化した結果、
ほとんど競技のような広告戦争が、生まれただけ
今まで駆け抜けてきた、どの世界とも違う
彼らの経験した、どの戦争も無いこの世界で、
かつての仲間は、対抗すべき、敵同士として、相見えた
平和な、世界だからこそ
(,,゚Д゚) 「まったく……皮肉なもんだ」
( ´∀`) 「僕も、そう思うモナ」
- 21: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 23:00:22.61 ID:z9eYYqXp0
- すっかり氷の溶けてしまったウィスキーを、一口飲む
(,,゚Д゚) 「それで?」
( ´∀`) 「何がモナ?」
(,,゚Д゚) 「とぼけるな。……なんで、俺をここに呼び出した?」
記憶を取り戻させようと思った
それも一つの理由だろうが、それだけではないはずだ
( ´∀`) 「それだけ……じゃあ駄目モナ?」
(,,゚Д゚) 「なら、なんでわざわざ、ブレイク技術の名前まで出したんだ?」
( ´∀`) 「…………」
間違いだったら、良かった
モナーは、前を向いたまま、そう言った
( ´∀`) 「キミがギコじゃなければ、何も遠慮なんか、しなかったモナ」
(,,゚Д゚) 「……どういうことだ」
返さず、モナーは懐を探り、サイフの中から一枚の写真を取り出した
そこには、モナーを中心に、女性と、小さな子供が二人、写っていた
( ´∀`) 「僕には僕の、家族が出来たんだモナ」
だから
( ´∀`) 「僕は、この広告戦争で、キミを叩き潰すモナ」
- 23: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 23:04:23.80 ID:z9eYYqXp0
- 宣戦布告、なのだろうか
いや、それ以外、どうとも取れない
(,,゚Д゚) 「それで……この世界が、平和になると思うか?」
モナーは、どの世界でだって、平和の為に命をかけてきた
九人の仲間達の中で誰よりも、戦いを憎み、
戦いを終わらせる、ただそれだけの為に、戦いに出ていた男は、
( ´∀`) 「平和なんて、どうでもいいモナ」
あっさりと、言ってのけた
( ´∀`) 「……今まで、僕に家族なんていなかったモナ」
家族。それは漂流者である、自分達が持てるはずのない物だった。そして
( ´∀`) 「社員なんて、持てるなんて思ってもみなかったモナ」
だから
( ´∀`) 「家族みたいな社員達の為にも、僕は負けるつもりは、無いモナ」
- 24: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 23:08:28.41 ID:z9eYYqXp0
- 小人閑居で不善を為す
誰かがそんなことを言っていた
人間、暇になると何をするかわからない
それは大概、悪い事だったりするから、困ったものだ
たしか、そんなような言葉だった気がする
(,,゚Д゚) 「それを、言いに来たのか?」
頷くモナーの顔に、迷いは無かった
(,,゚Д゚) 「……そうか」
暇が無ければ、強大な壁さえあれば、人間なんてのは、勝手に纏まるものだ
けれど、それが無くなった時、小人な俺達は、こうして不善を為す
家族のため、社員のためだなんて、言い訳まで持ち出して
形はどうあれ、漂流者も人間も代わらない
結局、戦いから逃れることなんて、出来やしないのだ
そう思うと、なぜだか、笑いが抑えられなかった
笑ったまま、そうそう、と、話題を変えるように、ギコはモナーと向き合い、
(,,゚Д゚) 「なぁ。今日ぐらいは、一緒に飲まないか?」
( ´∀`) 「ギコ、僕は真剣に……」
(,,゚Д゚) 「明日から、敵同士ならよ?」
( ´∀`) 「……………」
ギコの言った言葉は、宣戦布告の受諾を、意味していた
- 26: KOB ◆389csq25ho :2008/03/09(日) 23:11:43.72 ID:z9eYYqXp0
- ――カラン
氷の浮かんだグラスが、ぶつかる音が、バーの中に響いた
( ´∀`) 「…………」
(,,゚Д゚) 「…………」
二人の間に、もう、会話は無い
戦いの無い世界で、戦士はただの人であると、お互い、理解し、
戦いのあった世界の話は、忘れようと、暗黙の内に了解しあったからだ
(,,゚Д゚) 「他の七人も、こうやって何もかも忘れてるんだろうな」
( ´∀`) 「……きっと、平和にやってるモナ」
……これが、平和ってやつなのか
……俺は、俺達は、こんなもんの為に、今まで死んできたのか
(,,゚Д゚) 「……」
一息に、グラスを呷り、吐息
(,,゚Д゚) 「なぁ、モナー」
語りかけるようでいて、独り言めいた、ギコの独白は、
(,,゚Д゚) 「平和ってのも、碌なもんじゃあないんだな」
誰にも受け止められぬまま、虚空へと消えていった
了?
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