( ∵)は奇妙な精のようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:31:08.56 ID:Jc9ZRCagO
- _
/∵ヽ こんばんわ……
/ ヽ
_ノ ヽ ノ \_
`/ γ  ̄Y ̄ Y ヽ
( イ三ヽ人_/ケ )
i ノ⌒\ ~ ̄ ̄ヽ -イ
ヽ___>、___ノ
|( 王 ノ〈 奇妙な精です…
/ミ`ー―彡ハ
/ ヾ_/ i
| Y ノノ
最近私、バイトを初めてみたんですが……
実に暇な仕事でしてね
もうやめてしまいました
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:31:53.59 ID:Jc9ZRCagO
『レンタルビデオ』
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:33:21.88 ID:Jc9ZRCagO
- ( ^ω^)「はぁ……やっとバイト終わったお…」
コンビニを出てきた男のため息は夜の闇に溶けていく。
( ^ω^)「大学もバイトも大分慣れてきたお。明日からは二連休、さあ家に帰ってエロゲ三昧だおw」
バイトあがりの二連休という至福に、意気揚々と駐輪場に駆け足で向かう。
無造作にとめられている自転車群を前に彼は異変に気が付いた。
(;^ω^)「おっ」
(;^ω^)「……ないお」
彼がジェニファー8号と名付けた愛車は忽然と姿を消していた。
入学三か月目の悲劇であった。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:34:37.77 ID:Jc9ZRCagO
- 男はしぶしぶ夜道を歩いて帰っていた。
さっきまで感じていた仕事終わりの達成感も家で待つエロゲーによる高揚も消えうせ、彼はこれから先の事を考えては落ち込む次第であった。
( ^ω^)「………あーあ。これからは毎日歩きかお……。
バイト先はともかく大学までは40分はかかるお。220х20х2……」
(;^ω^)「一ヶ月で8800円!?バス代も馬鹿にできないお!!
自転車買う程の余裕もないしやっぱり当分は歩きになるお……」
肩をがっくりと落とし、息を吐く度に陰鬱さは増していった。一度悪い事が起これば連鎖的に過去の呪わしく嘆かわしい出来事を思い出していく。
それは丁度、男がジェニファー5号の失踪を思い出している時だった、
( ^ω^)「………ん?こんな所に店があったかお?」
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:36:49.60 ID:Jc9ZRCagO
- ふと路地から明かりが漏れているのが見えた。
大方の店が閉まっているこの時間に開いている店は限られている。
コンビニかカラオケだ。
しかし、その店はどちらでもなかった。
( ^ω^)「レンタルビデオ屋かお…?」
軒先に掲げられたいる看板には大きく『レンタル』の文字。見た所TSUTAYAなどの大手チェーン店ではなさそうである。
普段は自転車で駆け抜け、気にも止めなかったのだろう。
男はこの新しい発見に素直に喜ぶ。
( ^ω^)「これも何かの縁だお。コメディでも借りて鬱憤を晴らすお!」
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:38:09.89 ID:Jc9ZRCagO
- 男は店に入るとやはりそこはレンタルビデオ店で正解だった。
(;^ω^)(にしても……DVDもCDもないお。ビデオのみかお)
店内に規則正しく並べられた棚にはびっしりとビデオが詰められている。
なるほど確かに種類は多そうだが、すぐに男は落胆してしまう。
(;^ω^)(ちょww知ってる映画一つもないお!!それにあの店員……)
( ∵)
店員と思われる男はぼんやり天井を見つめていて、男が店に入ってきた事に気付いているのかわからない様子である。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:40:20.02 ID:Jc9ZRCagO
- (;^ω^)(もしかして目を開けたまま寝てるのかお?)
とりあえず彼は深く考えるのをやめて棚を物色し始める。
(;^ω^)(本当に変だお……聞いた事ないタイトルだけだお)
( ^ω^)(……ん? 大富豪荒巻の華麗なる日々?)
新作コーナーと書かれた棚に男の目を引くタイトルを見つけた。
これ以上ビデオ選びに悩んでいるのも馬鹿らしいので彼はこれを借りる事にした。
( ∵)「………300円。新作は2泊3日。同じビデオを借りられるのは一度のみ」
カウンターにビデオを置くと店員はそう一言だけ言ってまた視線を宙に戻した。
( ^ω^)(会員証とか作らなくていいのかお?)
やっぱり男はこれ以上深く考えるのは馬鹿らしいので足早に店を出て家路を辿った。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:42:33.45 ID:Jc9ZRCagO
- 家につくとレンジで弁当を温め椅子に座り、さっそくビデオを見る事にした。
デッキにビデオを入れ再生ボタンを押す。ザーっと砂嵐が起きた後『大富豪荒巻の華麗なる日々』と題名が表示される。
( ^ω^)「もしかして隠れた名作かもしれないお」
期待に胸を踊らせ弁当を貪っていると、
( ^ω^)「……」
徐々に意識が朦朧とし、
( ω )
彼はそのまま気が遠のいてしまった。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:44:22.88 ID:Jc9ZRCagO
- 次に彼が目覚めると大きなベッドの上にいた。
(……ん? ここは……)
壁に掛けられた絵画、床は絨毯が敷かれていてその上に骨董品屋で見掛けるような年代物の机や椅子が並んでいる。
どれもこれも男に見覚えはなかった。
男が状況に戸惑っていると、奥の扉からノックの音が聞こえる。
( ・∀・)「失礼します」
背広をきっちりと着こなした身形正しい男が部屋に入ってくる。
( ・∀・)「お目覚めでしたか会長。朝食の用意ができました」
男の後ろからシェフが台を引いて入ってくる。台の上には色とりどりの野菜や肉が綺麗に皿に盛られていた。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:46:12.76 ID:Jc9ZRCagO
- 「……ん?どういう事だお?」
シェフが男の手前まで台を持ってくると料理についての詳細をひとしきり話し部屋を出ていった。
( ・∀・)「食事が終わりましたら呼んでください。今日はロスにて会食でございます」
スーツの男も深々と一礼し部屋を後にした。
「う、うまそうだお!」
これが夢でも現実でも存在する食欲には勝てず、彼は夢中で貪った。
ようやく腹が満たされた所でベッドから降り、なんとなく机の上の鏡を覗き込んだ時、男は驚きの声をあげた。
/ ,' 3「な、なんだってー!?」
どうみても還暦をゆうに越えるだろう老人の顔が写っていた。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:48:24.06 ID:Jc9ZRCagO
- 彼は両手で顔を引っ張ったり揉んだりといじり回した。
/ ,' 3「本物の皮膚だお……」
/ ,' 3「夢?……にしてはすこぶる意識ははっきりしてるお。もしや明晰夢ってやつかお」
/ ,' 3「しかしよりによってなんで僕がこんなじじぃに……」
そこで男ははっと気付く。
絵画に描かれた人物と自分の顔とが一緒であると。
/ ,' 3「荒巻会長…七十歳の記念に…」
/ ,' 3「荒巻って……まさかあのレンタルビデオ……」
男は机に置かれたベルを鳴らす、するとすぐにさっきのスーツの男が部屋に入ってくる。
( ・∀・)「何か御用ですか?」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:50:10.51 ID:Jc9ZRCagO
- / ,' 3「あ、あの……僕って誰だお?」
( ・∀・)「……」
男はキョトンとした顔をしている。そして、しばらく間を置いて、
( ・∀・)「荒巻会長は荒巻会長でございます」
/ ,' 3「……!!」
( ・∀・)「……会長?」
/ ,' 3「な、なんでもないお!もうさがっていいお」
スーツの男は訝しげな顔をしたが、また一礼をして部屋から去った。
きっと荒巻会長と呼ばれる人物の秘書や執事といった類なのだろう。
/ ,' 3「今僕は荒巻って人になってるのかお。もしかしてあのビデオは……
ビデオの中の人物をレンタルできるのかお」
男はビデオのラベルに書かれた題名を思い出した。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:52:24.05 ID:Jc9ZRCagO
- / ,' 3「大富豪荒巻の華麗なる日々……タイトル通りだとすると…」
/ ,' 3「うはwwwww」
男はあのレンタルビデオ屋が何故こんな不可思議な商品を扱っているのかとか、あのビデオがどういう仕組みなのかはこの際考えない事にした。
今ある現状を楽しんだ方が得。
荒巻の生活はまさにタイトル通りのものであった。
自家用飛行機でロサンゼルスに飛び、テレビで見るような著名人との目を見張る様な食事。
誰もがこの荒巻に媚びへつらい、ありとあらゆる贅沢を許された。
/ ,' 3「ぶひひひ。よきかなよきかな」
夢の様な荒巻としての生活を送り三日目。
彼が朝目を覚ますとそこは元の七畳半のアパートだった。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:54:02.75 ID:Jc9ZRCagO
- (;^ω^)「…………」
無造作に床に散らばる雑誌や洗濯物。机の上には食べ残しの弁当。すえた部屋の臭い。
まぎれもなく彼の部屋だった。
( ^ω^)「やっぱり夢だったのかお……にしてもいい夢だったお」
ブラウン管は砂嵐を映して耳障りな音を鳴らしている。
寝てる間に着信があったらしく携帯電話が光っている。彼は誰からの着信か確認しようと画面を覗くと驚く事に気付いた。
(;゚ω゚)「三日経ってるお……」
画面に表示された日付は彼がビデオをデッキにいれてから三日目の朝であった。
(;゚ω゚)「三日経ってるお……」
画面に表示された日付は彼がビデオをデッキにいれてから三日目の朝であった。
(;゚ω゚)「やべえお!学校始まってるお!」
急いで身仕度を終えて駐車場へ向かうと、すぐに自転車を盗難された事を思い出しまた彼は落胆する。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:56:01.14 ID:Jc9ZRCagO
- 授業中に例のレンタルビデオの事を考えていた。
( ^ω^)(やっぱりあの夢はビデオと関係しているんだお……
夢の中で生活した分と同じだけ現実の時間も経過してるし、不思議なビデオだお)
( ^ω^)(そういえば今日が返却日だったお)
もう一度あの店でビデオを借りて見てみたら自分の推測も明確になるだろう。
男はそう結論付けた。
学校が終わるや否やすぐにあの店へと向かった。
やはりひっそりとその店は営業していた。客もいない。
( ^ω^)(……薄気味悪い所だお)
( ∵)
店員は相変わらず天井を眺め、二日前からまるで動いていないのかと思わせる
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:57:10.41 ID:Jc9ZRCagO
- 男はカウンターでビデオを返却し、店内をうろついた。
( ^ω^)(もし僕の予想通りなら、うんとスリルがある夢が見てみたいお)
男の要望に叶う様なタイトルを探していると、一本のビデオが彼の心を捉えた。
( ^ω^)「おっ……大泥棒ジョルジュの波乱に満ちた日々
これはなかなか面白そうだお」
すぐにカウンターにビデオを持っていく。
( ^ω^)「これお願いしますお」
( ∵)「………」
( ∵)「300円」
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 00:59:41.57 ID:Jc9ZRCagO
- 部屋に帰るとすぐさまビデオをデッキに入れて再生ボタンを押す。
( ^ω^)「さあ……これであの夢がただの夢だったかビデオのおかげだったかが分かるお」
そして案の定画面にタイトルが現われてからすぐに男の意識はすーっと消えていった。
( ゚∀゚)「ハッ!」
気が付くと今度は狭い部屋にいた。揺れながら動いている感じや作りから部屋ではなく車の中だとすぐにわかった。
ミ,,゚Д゚彡「おい、どうした急に驚いて」
隣りにいた強面の男が話しかけてきた。
自分は後部座席にいて、前で運転している者を含めて計三人が車内にいる。
( ゚∀゚)「なんでもないお」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:01:15.42 ID:Jc9ZRCagO
- ( ^Д^)「今更びびってんのか?」
運転席越しに声が聞こえる。
( ^Д^)「まぁ今回のヤマはでかいから無理もねえ」
男は会話から現状を察した。
(;゚∀゚)(今まさに……泥棒する所なのかお)
そして同時に自分の推測が当たっていた事に喜ぶ。
( ゚∀゚)(やっぱりあのビデオは内容を夢として体験できるんだお!)
男の胸は高鳴る。自分の日常とは程遠い出来事をリアルに近い臨場感で体験できるのだ。
( ゚∀゚)(みなぎってきたお!)
テンションが一気に上がる。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:03:15.93 ID:Jc9ZRCagO
- 車が止まる。銀行の前だ。
ミ,,゚Д゚彡「五時ジャストで襲撃する。ほらよ」
隣りに座っている男が拳銃を手渡す。ずしりと手に重みを感じる。
( ゚∀゚)(銃まで撃てるのかお)
行員が数名中で事務作業をしているのが見える。客はいない様だ。
( ^Д^)「3、2、1……今だ!」
掛け声と共に車から飛び出す。
(;゚∀゚)「おわ!」
少々遅れて男も飛び出した。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:05:15.93 ID:Jc9ZRCagO
- ミ,,゚Д゚彡「金をよこせ!」
銀行に入って閉口一番そう怒鳴り、銃を天井に向けて発砲する。
しかし行員達に驚く様子はない。
(;^Д^)「おい、何か変だ……」
泥棒達が戸惑っていると行員達が一斉に懐から銃を取り出した。
(;゚∀゚)「えっ……!」
(´・ω・`)「銃を捨てて、手を後ろにして跪け」
ミ,,゚Д゚彡「こいつらサツだ!」
(;^Д^)「計画が漏れていたのか……!」
(;゚∀゚)
緊張が走った。まずい……このままでは捕まる。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:07:38.80 ID:Jc9ZRCagO
- ( ゚∀゚)(そうだお!この物語の中では僕が主人公!なんとかなるはずだお!)
男はグリップを強く握った。
(´・ω・`)「……!!」
( ゚∀゚)「うおおお!!」
渇いた銃声が響く。
弾は胸を貫通し、力なく床に倒れた。
(;゚∀゚)「が……ふ……」
口から血が溢れて、呼吸もままならない。
あまりにもあっけなく男は警察に撃たれ倒された。
激しい痛みと寒気に死を悟った。
(;゚∀゚)「う……ぐ……」
(こんな……こんなはずじゃ…これは夢……)
絶望の最中、倒れる男を警官が覗きこんだ。
(´・ω・`)「馬鹿な奴だ」
やがて視界はかすみ、男の意識は黒く染まっていった。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:11:59.56 ID:Jc9ZRCagO
- (;゚ω゚)「ハッ!!」
男は飛び起きると真っ先に撃たれた胸に手をあてる。
しかし傷も出血もない。彼はまた七畳半の部屋に戻っていた。
(;^ω^)「はぁはぁ……やっぱり夢かお……いやでもあれはかなり現実じみてるお」
全身汗びっしょりになり呼吸も荒く、まだ震えもとまらない。銃を握っていた感触だってある。
男はさっきの夢と現実との曖昧な境界に混乱した。
テレビの画面は真っ暗だった。
(;^ω^)「死んだかと思ったお」
男は気を紛らわせるためにリモコンの入力切換を押し適当なチャンネルを押した。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:14:38.21 ID:Jc9ZRCagO
- 『速報をお伝えします。
先程五時頃、都内の銀行に強盗が入り、事前に情報を入手していた警官隊により――』
( ^ω^)「ん?」
『犯人グループの一人は警官の発砲した弾により死亡を確認、名前は長岡ジョルジュ――』
(;^ω^)「え……これって……さっきまでの夢の中の……」
テレビに写っている死亡した男の名前とビデオの主人公の名前の一致。
そして銀行強盗の詳細。
(;^ω^)(あれは……現実……
もしかして……このビデオは他人の人生をレンタルするものなのかお?
そしてあのジョルジュって人が死んだ……つまりレンタルできる人生が終わってしまったから僕は目を覚ました…
いや、元の体に戻ったって言う方がしっくりくるお」
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:16:48.97 ID:Jc9ZRCagO
- 男は一層体が震えた。
恐怖ではなく狂喜の震え。
( ^ω^)「他人の人生をリアルタイムでレンタルできる……最高だお」
すぐにジョルジュのビデオを持ってビデオ屋に走った。
( ∵)「……」
( ^ω^)「これ返却しますお」
( ∵)「……」
店員はまじまじと返却されたビデオを眺めた。
( ∵)「これはもう駄目だ。消費期限がきれてる」
店員はそう呟くとビデオをゴミ箱に捨てた。
( ^ω^)(あの男が死んでしまったら商品としてはもう使いものにならないからかお)
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:17:33.55 ID:Jc9ZRCagO
- それから男は毎週、毎週ビデオ屋に通い詰めた。
芸能人の名前を探したり、時には女性だったりエリート商社マンであったり。
新作なら二泊三日、それ以外はきっかり一週間他人の人生をレンタルするとまた元の体に戻った。
レンタルしている人が途中で死なない限りはそれが基本的なビデオの性質だった。
勿論レンタルしている間は自分の人生を使う事ができないので男は学校にもバイトにも行かなくなった。
様々な人々の人生に男は飽く事がなかった。
( ^ω^)「……さて次は……」
今回のビデオのタイトルは『敬虔なるラウンジ教徒ツンの日々』と銘打ってあった。
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:20:01.86 ID:Jc9ZRCagO
- それはこれまで散々な人生を送っていたが知り合いの勧めで宗教に入教した女性の人生であった。
ξ゚听)ξ(ああ……確かに……この人の言う通りだお)
集会所の壇上にいる精悍な顔つきの男が教えを説いている。
男は素直にその教祖の話に感銘していた。
ξ゚听)ξ(……)
話を聞けば聞く程に教祖の話に夢中になっていく。
話が佳境になる頃には涙を流していた。
どうやらこのツンという女性は教祖の男に大層気に入られていて身の回りの世話を任されているらしかった。
男はほぼ盲信的に一週間、教祖に仕えた。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:21:20.51 ID:Jc9ZRCagO
- そして七日目にまた元の七畳半のすえた臭いのする部屋で目を覚ました。
( ^ω^)「………」
本来の人生に戻った途端にぽっかり胸に穴が開いた様な、虚しい気持ちに襲われた。
( ^ω^)「嫌だお……」
( ^ω^)「あの女に人生を返したくないお……。
あれは……あの人生は…」
( ^ω^)「僕のものだお」
男は再生ボタンを押した。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:22:26.04 ID:Jc9ZRCagO
- それからどれくらいの日々を過ごしたのかは分からない。
男は一週間毎に目を覚ます度に再生ボタンを押した。
もう女の人生は男の人生となっていた。
男自身の人生は再生ボタンを押すためだけに存在していた。
( ^ω^)「……ん?」
ある時男が目を覚ましたと同時にインターフォンの鳴る音が聞こえた。
( ^ω^)「……」
しつこく鳴らされる音に男はふと親の顔を思い出した。
( ^ω^)(もしかして全く連絡をしなかったから母ちゃんが心配してきたのかもしれないお)
男は考えた。このまま無視して下手に大事に発展するよりは、ここで体よく対応しておいた方がまた女の人生に没頭するのに都合がいい。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:24:39.00 ID:Jc9ZRCagO
- ( ^ω^)「はいですおー」
渋々扉を開けると予想もしない人物が立っていた。
( ∵)
(;^ω^)「あ……」
レンタルビデオ屋の店員だった。
(;^ω^)(なんでここが……)
男は背筋に冷たいものを覚える。
本当にこの店員は薄気味悪い。
( ∵)「ビデオ返して」
( ^ω^)「……」
やっぱりか、男は心の中で思った。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:26:03.87 ID:Jc9ZRCagO
- 同じビデオは二度借りれない。
そのため男は今まであの女の人生を返していなかった。取り立てにくるのは当然の話だ。
( ^ω^)「……」
( ^ω^)「嫌だお!」
( ∵)
( ^ω^)「あれは……返さないお!」
( ゚ω゚)「僕の人生は誰にも渡さないお!」
( ∵)「わかった」
( ^ω^)「え……!?」
予想外の言葉だった。
( ∵)
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:27:47.15 ID:Jc9ZRCagO
- ( ^ω^)「いいのかお?」
( ∵)「でも延滞料、これは譲れない。払ってもらう」
( ^ω^)「延滞料? いくらだお?」
( ∵)「お金じゃない。あなたの人生で払う」
( ^ω^)「つまり僕の人生もレンタルビデオとしてあの棚に並ぶってことかお?
そんなの全然かまわないお」
( ∵)
そのまま何も言わずに店員は帰っていった。
( ^ω^)「もう僕の人生はいらないお」
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/12(水) 01:30:34.93 ID:Jc9ZRCagO
- ('A`)「おかしいなぁ……この辺にあったのに」
男が車の中から何かを探すように辺りを見回している。
助手席に座る女の手にはテープが引きずり出されてグシャグシャになったビデオが握られている。
川 ゚ -゚)「すまんな……私が目を離さなかったらこんな事には……」
('A`)「いいよいいよ、子供がした事さ。たかがビデオ、店員も分かってくれるだろ
でもその肝心の店が見つからなきゃどうしようもないけどな」
川 ゚ -゚)「本当にここにレンタルビデオ屋なんてあったのか?」
('A`)「う〜ん……そのはずなんだけど」
川 ゚ -゚)「それにしてもこの『内藤ホライゾンの消えた日々』ってどんな内容だったんだろうな」
('A`)「さぁな……ま、どんな内容か知ろうにも、それはもう使いもんにならないだろうな」
おわり
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