( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

5: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 22:53:18.60 ID:03mleon20
  
その3 「虎穴」

からんころん、と音がして、ブーンは扉を開く手を止めた。
視線を上にやると、手作り感満点のドアベルがプラリ。
店主の趣味か何か知らないが、小器用な割に作りが荒い。
どうせ、その荒さが味なんだと言い張るのだろうが。

(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ。今日は飲めるのかい?」
( ^ω^)「どうも、だお」

かつての同級生の言葉に頷きながら、カウンターに向かう。
時刻は午後11時を回った頃。
店内はいつも通り意味もなくクラシック――今日はモーツァルト――が流れ、テレビの音声が混じっている。
テーブルを見ると、一目で肉体労働者とわかる連中が陰気にグラスを傾けていた。
その肌はところどころがガスにやられて黒く染まり、中には目をふくらませている者もいる。
床に転がる数人の人間は、まあいつも通りのジャンキーだろう。

いつも通りの様子に、若干安心感のようなものを覚えるブーン。
ここ最近、自分の身の回りがいくつも変容しているからだろうか。
変わらないものに対して、ブーンは懐かしさと安心感を感じるようになっていた。



6: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 22:54:17.47 ID:03mleon20
  
(´・ω・`)「このテキーラはサービスだから、まずは飲んで欲しい」
( ^ω^)「ありがとだお」

いつも通りに滑り出てきたテキーラを、軽くあおる。
ブーンは酒に強い方ではないが、普通に飲むくらいは問題ない。
強いアルコールが喉を焼き、胃の中で熱い塊となって沈殿する。

(´・ω・`)「うん、なかなかいい飲みっぷりじゃないか」
( ^ω^)「そんなことないお。普通だお」
(´・ω・`)「そうかい? でも、いつもよりもさっぱりしてる感じがするよ」

ショップの片手間、趣味でやっているとはいえ、ショボンは真面目にバーを開いている。
そのショボンが言うのだから、今の自分は、少しはマシな飲み方が出来ているのだろう。

(´・ω・`)「いっとくけど、まだ情報は出来てないよ」
( ^ω^)「わかってるお。昨日今日で結果を要求するほど、ボクは鬼じゃないお」
(´・ω・`)「はいはい。あの時の君の様子じゃ、もう結果を聞いてきそうな気がしたんでね」

苦笑して、自分の分のテキーラをコップに注ぐショボン。
八割ほど入れられたそのコップを、カチリと合わせる。
その行動に意味はない。祝うようなこともない。合わせたいから、合わせる。



7: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 22:56:50.08 ID:03mleon20
  
(´・ω・`)「それで、何かあったのかい?」
( ^ω^)「何か、とは?」
(´・ω・`)「君が一週間のうちに二度も来るのは珍しいからね。何か新しい手がかりでも掴んだのかと思ったんだよ。」
( ^ω^)「……手がかりには、逃げられたお」

ブーンの脳裏に、昨日の様子が思い出される。
爆裂したヒッキー。
爆弾を持っていたわけでもないだろうから、あれは口封じの一種だろう。
おそらくは、何らかのキーワードで発動する『呪い』の類。

( ^ω^)「でも、いいんだお。今の方法で奴らに近づけることがわかったお」
(´・ω・`)「そうかい……でも、あまり危険なことはしないことだよ」
( ^ω^)「もちろんだお。ボクだって、まだ命は惜しいんだお」

言いながらグラスを傾ける。
熱い塊が喉を焼きながら落ちていくのを感じて、ブーンは目を閉じた。
痛みや苦しみ、それらは命の温度だとブーンは思う。
幸福のみの人生は、幸せであろうとも決して満たされたものではないだろう。
おそらくそれは、冷えびえとした合理的なものであるはずだ。



8: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 22:58:50.09 ID:03mleon20
  
(,,゚Д゚)「マスター。テキーラをくれ」

突然に。背後から、深く静かな声が響く。
驚いて、ブーンは思わず後ろを振り返った。
背後に立っていたのは、黒い軍用コートを着た長身の男。
意思の強そうな顔立ち、だが決してそれを振りかざそうとはしない冷静な目。
氷漬けにされたナイフのような、そんな男。

(´・ω・`)「あ……ああ、失礼。話し込んでしまっていたようだ。ようこそ」

ショボンが、やっとの思いで声を発する。
その様子を見ると、どうやら彼も男が来店していることに気づいていなかったようだ。
全く気配も足音も感じさせずに、男は店内に入り込んでいた。

(´・ω・`)「おまちどおさま。すまなかった、このテキーラはサービスにしとくよ」
(,,゚Д゚)「ありがとう、感謝する」

相変わらず気配も温度も感じられない男が、ブーンから少し離れたカウンターにつく。
目の前に置かれたテキーラを手にしながら、男が続いて口を開いた。

(,,゚Д゚)「ところで、2・3聞きたいことがあるのだが、いいか」
(´・ω・`)「なにかな? 知ってることなら答えるよ」

男はテキーラを一息にあおると、グラスを静かに置いた。

(,,゚Д゚)「『メリルヴィルの晩餐』を知っているか」



9: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:01:34.82 ID:03mleon20
  
店内の空気が止まった。

ブーンは空気の変質を、明確に肌で感じた。
その言葉を聞いた瞬間、ブーンの耳は男の声とショボンの声、そして自信の心臓の音しか聞こえなくなった。

(´・ω・`)「……まあ、聞いたことはあるね。知らない人の方が少ないんじゃないかな」
(,,゚Д゚)「ほう……どのような事を聞いている?」
(´・ω・`)「世界崩壊の立役者、世界最大のカルト組織、現在は潜伏する者が多数存在」
(,,゚Д゚)「……続けてくれ」
(´・ω・`)「あとは……アメリカで発生した悪魔信仰の一つで、原子力発電所の同時爆破テロを実行」
(´・ω・`)「そのせいでアメリカ全土は核汚染され、完全封鎖されている、と。これぐらいかな」
(,,゚Д゚)「ありがとう。だが、それらは間違いだ」

そういって、男はショボンの説明を斬り捨てる。
ショボンが眉根をひそめ、ブーンは手元のテキーラを見つめながら身を固くする。

(,,゚Д゚)「第一に、やつらは世界崩壊の立役者ではない。実行犯そのものだ」
(,,゚Д゚)「第二に、カルト組織などという甘っちょろいものではない。悪魔信仰者の集まりだ」
(,,゚Д゚)「第三に、原子力発電所の同自爆はテロはやっていない。やったのは大規模な『悪魔降ろし』のみだ」
(,,゚Д゚)「最後に、アメリカは核汚染されたのではなく、悪魔降ろしの余波で全土が『奈落堕ち』してロストしている」

信じがたいことを一気に話して、男はブーンを見つめる。
ブーンはいつしか、顔を男に向けていた。
二人の間に、固い空気が流れる。



10: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:04:35.00 ID:03mleon20
  
(´・ω・`)「……えーと。あれかな、新しい新興宗教のお誘いなのかな?」

沈殿していくばかりの空気を破ったのは、ショボンの一言だった。

(´・ω・`)「悪いけれど、僕の店では一切の宗教的活動はお断りしているんだよ」
(´・ω・`)「以前に修験者が簡易式の護摩壇持ち出して祈り始めてからは、タバコ以外の火気も禁止しているしね」
( ゚ω゚)「…………」
(,,゚Д゚)「……ふん、食えない男だ」

ショボンの飄々とした顔を見て、これ以上の情報は得られないと判断したのだろう。
男は腰を上げて、数枚の紙幣と一緒に一枚の名刺をカウンターに置いた。

(,,゚Д゚)「都市警、最下層東分署のギコだ。何か思い出したことがあれば、ご足労願う」
(´・ω・`)「飲み逃げが起きたら、真っ先に届け出ることにするよ」
(,,゚Д゚)「是非。それと、行方不明や殺人事件もあれば、教えてくれて構わない」

心臓えぐりのようなものは特にな、と言い置いて、ギコは背を向けた。
その間、視線はショボンに固定されていたが、ブーンは大きな目でじっと見つめられているような気配を感じていた。

ギコが扉を開くと、からんころん、と音がした。

(,,゚Д゚)「……いい音だ」
(´・ω・`)「ありがとう。僕の手作りなんだよ」
(,,゚Д゚)「そうか。だが、あまりうるさいのは好きではないな」

そう言ってギコは扉を閉めた。
店内に、いつも通りの空気が戻ってきた。



12: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:07:14.05 ID:03mleon20
  
(´・ω・`)「……ふぅ。疲れた」
( ^ω^)「……」

ギコが出て行って数分後。
ショボンは、やっと口を開いた。

(´・ω・`)「ブーン。どうやら君の掴んだ手がかりは、必要以上に事を大きくしたみたいだね」
( ^ω^)「……ボクは掴んでなんかいないお。ただ接触しただけだお」
(´・ω・`)「それで十分なんだろうさ、彼らにとっては」

弱ったなあ、目をつけられたらどうしようかなあ。
そう嘆くショボンに対して、それはないだろうとブーンは心の中で請け負った。
ギコと名乗った男の視線。
直接向けられていなくとも、その視線はブーンをずっと見ていた。

(´・ω・`)「それにしても、いきなり『メリルヴィルの晩餐』の話を直球とはね。まいったよ」
( ^ω^)「ボクも驚いたお。多分、あの話は都市政府の機密事項のはずだお」
(´・ω・`)「最強のカードをいきなり叩き付けて、後はこちらの出方待ちか。なんとも陰湿なことだよ」
( ^ω^)「自分の手持ちのカードは全く見せずに、相手を誘うには最高のやり方だお」

あの話しぶりだと、どこまで深い話を知っているかわかったものではない。
心臓えぐりの事件を『メリルヴィルの晩餐』と関連づけて話したことも、おそらくは計算尽くだろう。



14: ◆DIF7VGYZpU :2006/10/16(月) 23:10:01.92 ID:03mleon20
  
(´・ω・`)「それで、どうするんだい、ブーン」
( ^ω^)「何がだお?」
(´・ω・`)「まさか、わざわざ出向いて情報提供を促すつもりはないだろうね?」
( ^ω^)「いくらボクでも、進んで虎穴に入るような危ない橋はわたるつもりないお」

そう言ったブーンの顔を、ショボンはじっと見つめる。
ブーンのことをよく知る同級生は、ブーンの性格からして大人しくしているとは思っていないようだ。

(´・ω・`)「……まあいいさ。でも、都市警と繋がりを持つのは、あまり歓迎しないな」
( ^ω^)「ショボンに迷惑をかけるつもりはないお」
(´・ω・`)「そう言うなら、最初からこんな話を持ち込まないで欲しいな」

苦笑して、手つかずだったテキーラを軽くあおるショボン。
ブーンもまたテキーラをあおって――そこで気がついた。

――『……いい音だ』
――『ありがとう。僕の手作りなんだよ』
――『そうか。だが、あまりうるさいのは好きではないな』

ギコが入ってきた時、ドアベルは音を鳴らしたか?
あれほど特徴的でうるさい音に気づかないほど話し込んではいない筈だ。
ましてや、空調の風ですら軽く音をたてるドアベルは、どんなに静かに扉をあけたとしても鳴らないはずがない。

もしかしたら、本当にやっかいな相手に目をつけられたかもしれない。
そう思って、ブーンはテキーラを一気にあおった。
強いアルコールが染み渡り、ブーンは軽く咳き込んだ。


「虎穴」終



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