( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

25: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:22:52.84 ID:9H/QehZy0
  
その10「神話」


瞼の間から染み込んでくる暖かい光に、ボクはゆっくりと目を開けた。
どうやら、少し寝過ぎてしまったらしい。
太陽はすでに空高く上り詰め、柔らかな光を家の窓から降らせていた。
無理もない。ここのところボクをさいなむ罪悪感は大きく、満足に眠ることも出来なかったのだから。
そう言い訳めいたことを考えて、ボクは藁敷きの寝床から静かに体を起こした。

ξ--)ξ「ん……」

できるだけ静かに起きたつもりだったが、それは上手くいかなかった。
ボクの隣で寝ていた、愛しい人の瞼がピクリと動き、ボクは彼女が起きてしまったことを知る。

ξ゚ー゚)ξ「んん……おはよう」
( ^ω^)「おはよう、だお」

ふわり、と笑う彼女に挨拶をして、その身を抱き起こす。
抱き締めて柔らかな巻き毛についた藁を払い落としてやると、彼女もまた、ボクの背中についた藁を落としてくれた。
ボクの背中の翼に触れる、彼女の手が心地良い。

( ^ω^)「おはようだお、ツン」

そう言って、ボク達は今日一度目の口づけを交した。



28: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:24:27.48 ID:9H/QehZy0
  
しばらく抱き締め合った後、ボク達は遅めの朝食を取った。
今日の朝食は、薄く切り分けられた鹿のモモ肉を焼いた物と、穀物を挽いて作ったパン、それに野菜。
少し前までは作られることのない筈だった料理が、切り株を使って作ったテーブルに並ぶ。
鉄で作られたナイフでパンに切り込みを入れ、肉と野菜を挟んで食べながら、ボクは一つのことを考えた。
ボクのしたことは、正しかったのだろうか、と。

ξ゚听)ξ「おいしい?」
( ^ω^)「とってもおいしいお!!」
ξ゚ー゚)ξ「ん、よかった……」

不安そうなツンの問いかけに、ボクは笑顔で答える。
嘘ではない。ツンの料理は、本当に美味しかった。
以前は果実や野菜を調理もせずにそのまま食べていたし、それは料理と呼べるものではなかった。
それでも美味しいことは美味しかったけれども、ボクはそれらをもっと美味しくする術を知っていた。

でも、それが間違いの元。
彼女や他の人間にボクが『技術』を教えたことを、『主』はとてもお怒りになった。
人間は『技術』を知る必要はない。何故なら、それらを人間は必ず悪用するからだ、と。
更には、ボクや他の仲間達が地上の女性を愛していることを言うと、ボク達は天上に戻ることを禁じられた。
だから、ボクの翼には空を飛ぶ事は出来ても、もう天上まで上る力はない。
ボクと他の仲間達は、地上で暮らすことが運命づけられてしまった。



30: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:26:13.25 ID:9H/QehZy0
  
でも。それでもボクは、構わなかった。
豊かな天上の暮らしを失ってしまっても、ボクには愛する人がいたから。
問題は山積みで、困ることは沢山あったけれども、それでもボクは幸せだった。

( ^ω^)「……ツン……」
ξ゚听)ξ「んぅ?」

パンを囓りながら、ツンは純粋無垢な笑みを浮かべて見返してきた。

ξ゚ー゚)ξ「なに?」
( ^ω^)「……いや、なんでもないお」

ボクは首を振って、結局この先起こるであろう事を言わないことにした。
ツンに言っても余計な恐怖心を煽るだけだし、それはボクの望むところではない。
ボクはツンを愛しているし、ツンもボクを愛してくれている。
そしてボクには受けるべき罪がある。

( ^ω^)「ふう……ごちそうさまだお。ツン、ボクはちょっと出かけてくるお」

残ったパンを一気に頬張って飲み下すと、ボクは出来る限りの笑顔でツンに告げた。
これからすることを悟られないために。愛する人が心配することの無いように。

ξ゚ー゚)ξ「うん、いってらっしゃい」

ツンは、ボクに微笑みを返してくれた。



31: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:27:22.07 ID:9H/QehZy0
  
戸外に出て、ボクはばさり、と翼を打ち振った。
ボクの背中に生える翼。
かつて純白に光り輝き、ボクを幾度と無く天上にまで運んだそれは、今は輝きを失い、薄い灰色にくすんでいる。
それは、ボクが天上を追われた証。
地に堕とされたボクには、もう輝く翼を持つ資格は無い。

( ^ω^)「……」

灰色の翼で空を駆けながら、ボクは眼下の集落を見下ろした。
それほど広くない範囲に広がる、藁葺きの石造り家屋。
中には煙を吐き出す煙突も見え、鉄を精製しているらしいことが伺える。

集落の側に広がる湖に目をやると、そこには簡素な船が数艘浮かび、思い思いに漁をしていた。
鉄製の針を使って、慣れた手つきで魚を釣り上げる人間達。
その中には、やはり灰色に染まった翼を持つボクの仲間が幾人かいて、技術指導をしているようだった。

さらに視線を動かして、ボクは森の中にまで目をやってみる。
すると森の中で鋭い光が数個閃き、動物の鳴き声が聞こえてきた。
やがて、静かになった森から出てくる人間と、灰色の翼を持ったボクの仲間達。
皆が手に鉄製の武器を持ち、肩には今狩ったばかりと見える獲物を意気揚々と担いでいた。

少し前。そう、ボク達が『技術』を伝えるまでとは、大きく変化してしまった暮らし。
武器を作り、火を扱って、獣を狩り、調理する。
獣同然だった人間達は、確かに文明的な暮らしを獲得していた。



32: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:27:57.93 ID:9H/QehZy0
  
そんな人間達と仲間を複雑な気持ちで眺めてから、ボクは更に速度を上げ、森を越えて山を越えた。
幾つも幾つも山を越え、野を渡り、時には川を過ぎて、ボクは跳び続ける。
すると、ボクの眼下に続いていた緑がぷつりと途切れて、目に飛び込んでくるのは、茶色に変色した地上。
下に広がる土がむき出しになった地面を見て、ボクの口から溜息が漏れる。

( ´ω`)「……やっぱり、昨日よりも酷くなってるお」

翼をはためかせて、ボクは山の頂上に降り立った。
山を越えたそこは、辺り一面にむき出しの土だけがあった。
かつて豊かに生い茂っていた木々はほじくり返され、乱暴に掘り返された穴だけがいくつも残っている。
短い草すらも全て食べられてしまったのだろう。大きく掬われたと見える地面には、一本の草すら残ってはいなかった。

( ´ω`)「砂漠も……こんなに近くまで」

目を遠くに向けると、山から離れるにつれてその『食べ跡』は大きく広がり、土が砂になっていくのが見える。
そしてその砂はやがて砂漠となり、砂漠は視界が届く範囲全てに広がっていた。
広大な砂漠、かつては緑豊かな土地だった筈の地を見て、ボクの心がずきりと痛む。

( ´ω`)「やめろって言っても……聞かないんだおね」

砂漠にところどころ横たわる巨大な人影を見て、ボクは再び溜息をつく。
小山ほどもあるその人影は、見えている限りで20を越える。
そしてその全てがおそろしく巨大で、ただひたすらに大きかった。



35: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:30:07.24 ID:9H/QehZy0
  
食事を終えて、ごろごろと小山のように寝転がる人影。
彼らは『ネフィリム』と呼ばれる巨人達だ。
起きている時はひたすらに何かを食べ続け、とりあえず満腹になればこうして眠る。
一日に食べる食事の量は凄まじく、しかも彼らは何でも食べた。

湖の魚は水ごとたいらげ、豊かに実る果実は気を引き抜いて食べ尽くす。
動物は全て頭から丸かじりして、食べるものがなければ共食いすることすらあった。
樹も、草も、魚も、獣も、更には人間の食料や人間でさえも。
底抜けに食べ続け、食らいつくす巨人。
今や人間の百倍近くにまで成長したネフィリム達は、ここだけではなく、地上全土に広がっていた。

食い荒らされる自然、広がる砂漠。
場所によっては町ごとネフィリムに食い尽くされ、地上から姿を消した町も存在する。
でも、それらを見ながらも、それでもボクやその仲間達は、彼らを殺すようなことは出来なかった。
どんなに害があっても、手が着けられなくても。
なぜなら――



36: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:30:45.55 ID:9H/QehZy0
  
     「酷いものだな」

その時、目の前の砂漠を見るボクの頭上から、突如として声が掛けられた。
続いて、ばさり、と空気を叩く羽ばたきの音。
ボクが顔を上に向けると、そこには純白に輝く翼を持った天使が居た。

( ´ω`)「メタトロン……」
ミ.,,゚Д゚彡「……久しぶりだな。お前が天上を追われて以来、か」

地面に降り立ったメタトロンが、感慨深そうに口を開く。
彼に最後に会ったのは、もう随分と前のこと。
ボク達が天上を追われる事が決定した事を伝えに来たのが彼だった。

ミ.,,゚Д゚彡「元気は……無いようだな。まあ、無理もないが」

そう言いながら、メタトロンはボクの目の前に広がる砂漠と、その中に寝転がる巨人達を見やった。
メタトロンはボク達と天上との連絡役を受け持っている。
ボク達がした事、その罪、その結果。
彼はそれらを全て知っているし、ボクのことも全て知っていた。

ミ.,,゚Д゚彡「お前達のやったこと。それに同情する余地はない。無いが……俺個人としては、同情する」
( ´ω`)「……ありがとうだお」

嘘偽り無くボクを心配する言葉をかけてくれるメタトロン。
その言葉は、ボクの疲れ切った心に優しく染み込んでいった。



38: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:33:23.40 ID:9H/QehZy0
  
( ´ω`)「……それで、今日は何の用なのかお?」

しばらく無言で砂漠を見てから、ボクはメタトロンに問いかける。
ボクは今日、ここに来るように言われていた。

ミ.,,゚Д゚彡「ああ、そのことなんだが……」

率直な性格のメタトロンが、珍しく何かに言い淀む素振りを見せる。

ミ.,,゚Д゚彡「……実は、主がお前達の処遇をご決断なされた」
( ´ω`)「主が……」

ボクの中に、冷たい恐怖と諦観が生まれた。
ついに来たか、という感情と、来て欲しくなかった、という感情。
主の決断、それは絶対の決定。
世界の全てを作り出した主が決めた事は何があっても覆りはしないし、撤回される事もない。
そしてその決定は、主を裏切ったボク達にとって良いものである筈がなかった。

人間を監視せよという命を受けて、地に下りたボク達。
でも、ボク達はその地に居た人間の女性に心を奪われ、主から与えられた仕事を放棄した。
あまつさえ、人間達に技術を伝え、武器や火を操る術を広めてしまった。
それだけではない。ボク達と人間との間に生まれた子供は、すべからく巨大に成長した。
しかも子供達は何にでも食らいつく性格をしており、その身はどんどんと成長する。
辺り構わず食いつくそれらを、ボク達は仕方なく遠くの荒れ地に追いやったが、それでも彼らは生き続けた。
生き続け、食らい続け、地上を砂漠としていく巨人達の群れ。
彼らはネフィリムと呼ばれた。



41: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:33:59.37 ID:9H/QehZy0
  
( ´ω`)「……ボク達は……どうなるのかお?」

言いにくそうなメタトロンを見て、ボクは促すように口を開いた。
覚悟は出来ている。
地上の女性を愛し、主の命を忘れ、ネフィリム達を生み出してから、ボク達はずっとこの日が来ることを知っていた。
主がボク達の所行をお許しになることはない。

ミ.,,゚Д゚彡「……お前達『グリゴリ』を全て捕らえ、荒れ野の洞窟に幽閉する」

苦々しい口調で、それでもはっきりとボクの目を見て言い放つメタトロン。
それを聞いて、ボクの体が無意識にビクリと震える。
その罰は、予想出来ていたもの。
それでも、ボクにとっては絶望的な罰。

幽閉されるという事。それは、ツンと、愛する人と永遠に引き離されるという事に他ならない。
ボク達は死なない。でもツンは、人間達は違う。
おそらく、ボクはツンが生きている内に解放されることはないだろう。
せり上がる恐怖。
でも、

( ´ω`)「……わかったお。大人しく、幽閉されるお……」

それでもボクは、主の命令に従うことにした。
どちらにせよ、ボクにはその決定に抗うことなど出来はしない。
なら、ボクの取ることの出来る道は、ただ一つだ。



44: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:38:18.02 ID:9H/QehZy0
  
ミ.,,゚Д゚彡「……お前には、同情する」

先ほどと同じ言葉を呟いて、メタトロンはボクを捕えるために一歩進み出た。
手には光り輝く縄を持っている。
それに縛り上げられれば、ボクにはもうどうすることも出来ない。
主の意思で作られた縄は、被造物であるボクには破ることが出来ないからだ。

( ´ω`)「……そういえば」

光の縄に身を縛られる寸前、ボクは一つのことを思い出し、メタトロンに問いかけた。

( ´ω`)「ツンは……人間達やネフィリムは、これから先どうなるのかお?」
ミ;,,゚Д゚彡「っ!!」

ボクが何気なく聞いた一言で、縄を構えたメタトロンは、ぎくりと身をこわばらせて静止した。

( ´ω`)「……? どうかしたのかお?」
ミ;,,゚Д゚彡「……」

ボクが聞き直しても、メタトロンは答えなかった。
輝く翼を持つ天使は、絶対に嘘をつくことが出来ない。
だから、メタトロンはボクの問いには絶対に本当の事を言わなければならない。
それでも言いたくないこと、伝えられないことを問われた場合は……天使は沈黙をもって答えとする。



46: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:39:08.11 ID:9H/QehZy0
  
先ほどよりも更に苦々しげな表情で押し黙るメタトロン。
その顔を見て、ボクの中に嫌な予感がふくれあがる。

( ゚ω゚)「……まさか」

まさか、とは思った。
ありえない、とも思った。

でも、あり得る、とも思い至ってしまった。

( ゚ω゚)「ツンを……人間達を、殺す……のかお?」

違うと言って欲しい。
そんなことあるか、と笑い飛ばして欲しい。
そう願いながらボクはメタトロンに問いかけて、

ミ;,,゚Д゚彡「……」

メタトロンは答えなかった。
それが答えだった。



48: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:41:27.17 ID:9H/QehZy0
  
(;゚ω゚)「ツン!!」

ボクは叫んで、灰色の翼を思い切り羽ばたかせた。
体が猛烈な勢いで空を裂き、ボクの視界が後ろに流れる。

ミ;,,゚Д゚彡「く……待て!! お前が行っても、もうどうにもならん!!」

慌ててメタトロンがボクを追いかけて来た。
でも、ボクは止まらない。止まれるはずがない。

(;゚ω゚)「ボクはどうなってもいいお!! ボク達は、それだけの事をしてしまったんだお!!
      でも……でもツンは、他の人間達は、ただ巻き添えをくっただけじゃないかお!!」
ミ;,,゚Д゚彡「そういうわけにはいかないんだ!! 彼らは、もう技術を持ち、怠惰と享楽を知ってしまった!!
       しかもネフィリムを生み出し、心は汚れ、主が認める器を失った!!」

だから、とメタトロンが大声で続ける。

ミ;,,゚Д゚彡「だから、主は全てを洗い流すことに決められた!! この地上の全てを、大洪水によって!!
       全ての動物を一つがいづつ、それと善なる心を持った人間達だけを残して!!」

そしてそれは、今日なんだ!!
そうメタトロンが言った瞬間、ボクの視界の遥か遠くから、灰色の壁が迫ってくるのが見えた。
大きな大きな、何もかも飲み込む、大津波。



49: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:42:37.70 ID:9H/QehZy0
  
(;゚ω゚)「あ、あれは……っ!!」

遥か遠くから押し寄せてくる、圧倒的質量の水の氾濫。
大洪水の始まり、全てを洗い流す大津波。
見れば、ボクの頭上には暗雲が立ちこめ始め、今にも大雨を降らそうとしている。

(;゚ω゚)「くぁっ!?」

ボクが呆然として速度を緩めた瞬間、ボクの体に熱い何かが絡みついた。
それは光の縄。神の意志によって造られた、決して切れない拘束具。

(;゚ω゚)「くっ……離せ!! 離してくれお!!」
ミ;,,゚Д゚彡「駄目だ!! お前を行かせる訳にはいかん!! 穢れた人間達を救うことは許されない!! それに、
       人間は死んでも魂は残る!! 魂が消えることのない限り、いつかは浄化された魂にきっと出会える!!」

メタトロンが諭すように言う。
でも、ボクはそんな理屈を受け入れることは、到底出来なかった。
ボクにとってのツンは、今ここに生きているツンしか考えられない。
たとえ遙かな時の果てにツンの生まれ変わりに出会えたとしても、それはボクと愛し合ったツンではないからだ。

しかし、どんなに暴れても、ボクを縛り付ける光の縄は一向に緩む気配を見せない。
それどころか、ボクが暴れれば暴れるほど、光の縄はより強い力をもって、ボクの自由を奪っていった。

(;゚ω゚)「あぁ……ツン、ツンが!! ツンが死んでしまうんだお!!」
ミ;,,゚Д゚彡「諦めろ!! 天使と人間、所詮は叶うことのない関係だったんだ!!」
(;゚ω゚)「そんなことないお!! ボクはツンを愛していたし、ツンだってボクのことを……っ!!」



50: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:44:02.17 ID:9H/QehZy0
  
叫んでもがいて暴れ狂って。
それでもボクの拘束は緩まない。
どんなにあがいても、自由になることはない。

ミ;,,゚Д゚彡「それに、もう遅いんだ!! 別の討伐隊が、他の『グリゴリ』達も捕獲に行っている!!
       お前が行ったところで、別の天使に掴まるだけだ!!」
(;゚ω゚)「そんなこと関係ないお!! それでもボクはツンを助けたいんだお!!」
ミ;,,゚Д゚彡「聞き分けろ!! 主に反逆するつもりかっ!!」

手元の縄を引いて、メタトロンは暴れるボクを引き寄せた。
力強い両腕で翼の根本を捕まえられ、ボクは身動きを取れなくなる。

ミ;,,゚Д゚彡「それに……見ろ。あれではもう、助からん」
(;゚ω゚)「っ!!」

メタトロンが言った方向を見たボクは、自分の中の何かが壊れた音を聞いた。
それは、ボクの中の大切な何か。
ボクがボクである証明。

ミ.,,゚Д゚彡「お前達が暮らしていた場所は、すでに水の底に沈んでいる……もう、終わったんだ」

白く泡立つ波が、ボク達の住んでいた集落があった場所を覆い尽くしていた。
轟々と音を立てながら暴れ狂う水。あれに飲み込まれれば、人間なんかひとたまりもないだろう。
それはつまり――

――ツンが死んでしまったということ。



52: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:44:57.02 ID:9H/QehZy0
  
(  ω )「……」
ミ.,,゚Д゚彡「……」

水が視界の全てを飲み込むまで、ボク達はそこにいた。
ボクは何も喋らず、メタトロンもまた静かに翼をはためかせて。
ぽつり、ぽつりと降り出した雨は、瞬く間にその量を増やし、見たこともない豪雨となった。

(  ω )「……メタトロン」
ミ.,,゚Д゚彡「……なんだ」

降りしきる雨の中、ボクは暗い声でメタトロンに話しかけた。

(  ω )「これが……主のご意志なのかお?」
ミ.,,゚Д゚彡「……そうだ。これが、主のご意志だ。間違った方向に進んだ人間を、全て消し去る。
      そして、新たな世界で、善なる人間のみが住まう世界を作り直すことが」
(  ω )「そう……かお……」
ミ.,,゚Д゚彡「……?」

メタトロンの淡々とした言葉を聞いて。
壊れてしまったボクの中に、何かが生まれた。
それはとても暗く、とても黒い。
熱くて熱くて、自分の身を焦がすような感情。

憎悪、だった。



53: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:48:12.81 ID:9H/QehZy0
  
(  ω )「ふざけんじゃ……ねーお」
ミ.,,゚Д゚彡「……なんだと?」

ボクの天使らしくない言葉に、メタトロンがぎくりと身をこわばらせる。
だが、構うものか。言ってやる。今日こそは、言ってやる。

(  ω )「ふざけてんじゃあねーお……こんな……こんなことをして。自分が全てを造り出したからといって。
      だからといって、いつまでも所有者面して、ちょっかい出して……」
ミ;,,゚Д゚彡「おい、何を……何を言ってるんだ?」
( ゚ω゚)「ボクは許せない。こんな風に、他者の幸せを奪うことを、許せるわけがないお。
      命も、生活も、そして愛する者も。自分たちがどう生きるか、どう過ごすか。
      それは全て本人達に全ての決定権が有るべきなんだお。
      何人たりとも、他人の勝手で他者の大切なものを奪うことは許されてはならないんだお」

ボクは、自分の内から滲み出る憎悪をそのまま口に出していった。
それは呪いの言葉。そしてボクの中の何かが、決定的に黒く染まる。

ツン。ボクの大切な人。
人間達の罪を監視する僕達『グリゴリ』を愛してくれた、美しい人間。
灰色の翼を愛おしそうに撫でるその姿は、未だにボクの瞼の裏に焼き付いている。



56: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:53:14.09 ID:9H/QehZy0
  
( ゚ω゚)「間違った方向に進んだからやり直す? そんなの、自分の勝手な都合だお。
     人間達は技術を持って、よりよい暮らしをすることが出来るようになったのに」

今朝食べたツンの料理を思い出す。
ボク達が伝えた技術で調理された、美味しい朝食。
美味しいと言った時の、ツンの笑顔。

(#゚ω゚)「ボクは許さない。絶対に。ボクの、ツンの、そして全ての大切な存在を奪った事を。
      中には許されない悪もいたかもしれない。でも、こんなやり方は間違ってるんだお」

ボクの中から憎悪が噴出する。
浄化? 選別? ふざけてる。
そんなエゴの塊のような、子供の癇癪のような行い。
それで、ボクの大切な人は死んでしまった。

ミ;,,゚Д゚彡「まさか……っ!! よせ、神を冒涜するな!! するんじゃない、『アザゼル』!!」

メタトロンがボクのしようとしている事に気づいて、ボクの名前を叫ぶ。
でも、ボクは止まらない。止まってなどやるものか。ボクは唯一自由に動く首を思い切り曲げて、天を見上げた。
暗雲に覆われた空、その向こうにふんぞり返っているであろう存在。
そいつに向けて、ボクは大雨の中、大きな大きな声で叫んだ。

(#゚ω゚)「お前は間違っているお!! お前なんか……神なんか、くそっくらえだおぉ――――――――!!!!」



57: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:54:07.14 ID:9H/QehZy0
  
アザゼルがそう叫んだ瞬間――暗雲の隙間に、突如として雷光が閃き、二人をぱっと照らし出した。
同時に、アザゼルに向けて放たれる一条の雷。
それは狙い過たずアザゼルの体を貫き、アザゼルを抑え込んでいたメタトロンを大きくはじき飛ばした。

ミ;,,゚Д゚彡「くぉっ!?」
(;゚ω゚)「がっ!!」

空気が爆ぜ、メタトロンの翼が浮力を失う。
落下しながら、それでもメタトロンはアザゼルから目を離さなかった。
そして、彼は見た。
アザゼルの背中から生える、黒い空よりもなお黒い、闇色をした六対の猛禽の翼。

ミ;,,゚Д゚彡「黒い翼……墜ちたか、アザゼル!!」

堕天。
それは、神の教えに逆らい、神に仇なす者共の末路。
黒く染まった翼は、もはや地上に降りることすら叶わず、その者を地の底へと繋ぎ止める。



60: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:56:06.60 ID:9H/QehZy0
  
(;゚ω゚)「あ……ぐ……」

ゆらり、と。
アザゼルがその体を傾げさせ、落下していく。
黒く染まった翼から、黒い羽を撒き散らして。
アザゼルはぴくりとも動かない体を、下へ下へと落下させていった。

その体は、すでに光の縄に縛られてはいない。
しかし、堕天使となったアザゼルは、それよりも強い地獄からの引力に絡め取られて墜ちていく。
黒い12枚の翼は空を飛ぶこと能わず、ただ彼の者を地獄へと引きずり込むのみ。

( ゚ω゚)(ツン……ボクは……)

自分を飲み込もうとする地獄の引力を感じながら、アザゼルは最後に愛する人のことを考えた。
ツン。もうこの世には存在しない、愛しい人。
しかし、



63: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:56:44.05 ID:9H/QehZy0
  
( -ω-)(ボクは、諦めないお……地獄に堕ちても、ツンが死んでも……それでも)

それでも、アザゼルは諦めなかった。
ツンが死んでも、魂は残る。魂は永遠に輪廻する。
そして、魂が消え去ることのない限り、魂を浄化されたツンに再会できる可能性はゼロではない。

(  ω )(例えボクの事を忘れていても、愛してくれなくても……それでも構わないお。
      ボクは絶対に、もう一度ツンに会う。そして、今度こそ……)

それは、気の遠くなるような時間の果てに向け託された想い。
アザゼルは地獄に飲み込まれる瞬間にそれだけのことを考え終えると、体の力を抜き、地獄の引力に身を任せた。

堕天使アザゼル。
神話の時代に地獄へと墜ちた彼は、それから長い長い年月を眠り続ける。
そして神話の時代は終わり――物語の幕が開けた。


※アザゼル≪Azazel≫出身地:イスラエル
またの名を”荒野の悪魔”とも呼ばれる。魔族で、分類は魔王。
かつては神の命によって人間たちを監視していた“グリゴリ(別名:ウォッチャーズ)”の天使の指導者の一人。
人間の娘の美しさに魅了され、本来の任務を忘れて彼女達を妻としたグリゴリの天使達は、人間に禁断の知識を与えた。
天使と娘達の間に生まれた子ども達は巨人となり、地上を荒らしたため、これを知って怒った神は地上に大洪水を起こした。
アザゼルは、神と堕天使軍が争った際に堕天使軍の第一旗手を務めた。
7つの蛇頭と14の顔、12枚の翼を持っているとされる。

「神話」終



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