( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

85: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:23:11.57 ID:iklecO660
  
エピローグ


静かな。とても静かな夜だった。
破壊された礼拝堂は、吹き飛んだ天井から差し込む月の光に照らされて、青白い空間を作り出している。
静寂の空気が支配する空間。
そこにあるのは、眠り続けるツンと、軍用コートを着た男の亡骸、その亡骸と手を繋ぐようにして息絶える女性。
そして、自らの存在を支える『鏡』をもった、一枚の翼を背負う傷だらけの堕天使のみ。

( ゚∀゚)『……いいことを、教えてやる』

堕天使の傍らに転がる生首が、低く呪詛を垂れ流すかのように口を開く。

( ゚∀゚)『その鏡は『八咫鏡』。かつて彼の国が象徴として奉っていた神器。まぎれもない神話の時代の遺物。
     もう、この世に現存する神器は、それ一つしかない。儀式の核となりうる最後の神器を破壊すれば、
    以降『悪魔降ろし』は未来永劫行われず、地獄の悪魔共がこの世に這い出ることは無くなる』

もちろん、お前もな。
そう言って、かかかと笑う生首。

( ゚∀゚)「選べよ。儀式の執行者がいなくなった『鏡』から、無制御に悪魔が垂れ流されるこの世を作るか、
     それとも『鏡』を破壊して、悪魔のいないクリーンな世界を作るか。どっちにしろ、死んだ俺には関係ねーし、
     ヨゴレきったお前は、もはや人間に転生するこたーできねぇ」



87: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:24:18.30 ID:iklecO660
  
( ´ω`)「……ボクは……」

生首に視線を移そうともせず、堕天使は『鏡』を持ったまま項垂れる。
その姿は悲哀。
絶望を越えた時の果てで掴んだ未来が絶望しかなかった事に対する哀しみ。

( ゚∀゚)『まだ、生きたいなんて思ってんのか? やめとけやめとけ。神の居ないこの世界で、
     お前の罪が許されることはねぇ。現にこんだけ腐りきっても、洪水一つおこりゃしねぇ』

馬鹿にするように、生首が『無いはずの肩』をヒョイとすくめる。

( ゚∀゚)『ゲームオーバーだ。終わりだよ。お前の夏休みはこれにて終了。とっとと地獄に還ろうぜ?』

どこまでも人を食った嗤いを浮かべて、生首は饒舌にベラベラと喋った。

( ゚∀゚)『それとも……世界をスケープ・ゴートにして、自分のエゴを貫くか? 『鏡』を割らなきゃそーなるぜぇ。
     言っとくが、『花嫁』の烙印は消えねぇ。悪魔共にしてみりゃ、いいご馳走だ。
     惚れた女の傍に居るためだけに666匹の悪魔全てを相手取って、この世に地獄の戦争を巻き起こすかよ?』
( ゚ω゚)「っ、ボクは……っ!!」

耐えかねたように、生首を見やる。
しかし、そこに転がっているのは、人の頭大の瓦礫のみ。
ヒャヒャヒャ、と耳に障る笑い声を遺して、生首は忽然と姿を消していた。



88: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:26:09.12 ID:iklecO660
  
( ´ω`)「ボクは……」

堕天使は考える。
自分のしたいことは何かを。
自分の望みは何なのかを。

( ´ω`)「でも、ボクは……」

そして、堕天使は同時に考える。
自分の罪を。
自分の成したこと全てを。

( ´ω`)「ボク……は……」

呟きが夜気に消え、辺りに静寂が戻ってくる。
もう、おしゃべりな生首も転がっていなければ、耳障りな嘲笑も聞こえはしない。
そこには静寂と、死体と、人間と、鏡を持って立ちつくす堕天使のみがいた。

( ´ω`)「………………」

沈黙する堕天使。
そのまま彼は、長い長い間そのまま立ちつくした。
立ちつくして、立ちつくして、それでもまだ立ちつくして。
空がうっすらと明るさを取り戻そうとする頃に、深く大きなため息をついた。

そして―――



90: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:26:53.78 ID:iklecO660
  







――――破砕音









91: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:28:11.64 ID:iklecO660
  
鋭く短い、何か硬質の物が壊れる音を聞いた気がして。
ツンは、重い瞼をゆっくりと開いた。
ぼんやりとにじむ視界。
長い長い間閉じられていたかのように、ツンの眼は空気に触れると激しい痛みを訴えた。
ぽろり、と涙がこぼれ落ち、白い陶磁器のような頬を伝って落ちる。

ξ゚听)ξ「ここ……は……」

見覚えがあるような、無いような。
そんな妙な既視感が押し寄せ、ツンの頭は混乱する。

自分は何をしていたのだったか。
自分はどうしてここにいるのか。

何も思い出せず、唐突に会社を休んでしまってどうしようといった些末ごとが浮かび、
ツンはとりあえず頭を軽く振って全てを振り払った。

ξ゚听)ξ「……?」

その時、ツンの視界に入る物があった。
キラキラと輝く無数の破片。
元は鏡であっただろうと推測される物体は、力任せに叩き付けられたかのように砕け散り、
広い範囲に渡って散らばっている。

破片の周囲には、無数の薄汚れた羽。
ぱっと撒き散らされたように見えるそれらは、破片と同じく視界一杯に広がっていた。



96: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:30:20.54 ID:iklecO660
  
ξ゚听)ξ「……あ……」

視界一杯に広がる、薄汚れた無数の羽。
その羽を見た瞬間、ツンの脳裏に蘇る記憶があった。
見た筈もない優しげな笑顔と輝く翼。
そして、視界を覆う水の奔流。
おいしいと、言ってくれた声。
曇天に舞う純白の翼。

ツン自身の、体験していない筈の記憶。
でも、それらは全て曖昧で、掴もうとした瞬間にほとんどがかき消えてしまった。

ξ゚听)ξ「あ、あ……あぁ……」

忘れてはいけないのに。
消してはいけないのに。
なのに、消えていくのを止められなくて。
どうしていいかわからず、ツンは困ってしまって。

泣きそうになるツンは、しかしたった一つだけを掴み取ることに成功する。

ξ゚听)ξ「ぁ…………」

それは、知らないはずの誰かの、知らないはずの体温。
生の温度。生きていることの証。
そして、その体温は、記憶にある物の他にもう一つ。



97: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:31:29.89 ID:iklecO660
  
ξ゚听)ξ「……暖かい……」

ツンは、自分を抱きしめていた力強い両腕に、今更ながらにやっと気づいた。
その腕は傷だらけで、傷がないところを探す方が難しいくらい。
でも、腕はそんなことはお構いなしに、強く強くツンを抱きしめて離さなかった。
伝わってくる体温。背中に感じられる心音。
遠い過去に置いてきた筈の、その温もり。
生きていることの証であるそれらを感じて、ツンの心の中に暖かみが生まれる。

そっと傷だらけの腕を抱きしめて、目を閉じ頬を寄せる。
さらさらとツンの髪の毛が流れ、黄金色の流れをその腕に作った。
じんわりと伝わる体温は、やがてツンのものと一つに溶け合い、全く新しい温度を作り出す。
それはとても自然な成り行きで、そうなることが当然といわんばかりの現象。

しばしその体温を感じてから、ツンは目を開き、背後にある顔に目を向ける。
ボロボロの傷だらけ、とても見られた物ではない顔。
しかし、ツンはその顔を見て、何故だか、とても愛おしいと思った。

ξ゚ー゚)ξ「……おはよう」

口をついて出たのは、傷を心配する言葉でも、誰かと誰何する声でもなく、ただ親しい人にかけるような挨拶の言葉。
その言葉を聞いて、背後の男はにこりと笑う。

( ^ω^)「おはようだお、ツン」

その顔は安らぎに満ちていて、自分が世界一幸せであることを全く疑っていないようだった。



98: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:32:24.55 ID:iklecO660
  
そして、朝日が昇ってくる。
遙か遠くの稜線から白光が差し、世界に光を溢れさせる。

空には、未だに夜の部分が多い。
紫色に染まる夜の領域は、しかしいずれ太陽に駆逐され、闇の世界へと退散するだろう。
終わらない夜は、世界が生きている限り来ることはない。


静かに一組の男女が抱き合う世界。そこに朝日が差し込んだ。
明るい光。
生の温度を感じさせる光。
大地の全てのものに、平等に注がれる自然の恩恵。

その光に照らされて、鏡の破片と散らばった羽が闇を振り払う。
床一面に広がった灰色の羽は、一瞬だけ純白に輝き、溶けるようにその姿を消した。
鏡はその場に残り、その一つ一つに明るい世界を映し出す。

その破片の一つ。
最も大きいその中に。
朝焼けの空に輝く明けの明星がちらりと瞬き、しかし、すぐにそれは見えなくなった。

後には、ただ明るい空だけが広がっている。



( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです 〜完〜



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