( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

53: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:53:39.66 ID:iklecO660
  
( ゚ω゚)「ぬあっ!!」

強く叫んで、ブーンが背の翼を打ち振るう。
目にも止まらぬ一挙動で羽ばたいた翼は、その一瞬で周囲の大気を隷属させ、巨大な空気の塊に作り替えた。
ジョルジュ目掛けて放たれる不可視の鉄槌。
その大きさは、先ほどジョルジュに放たれた物よりも遙かに大きく、そして速い。

( ゚∀゚)「やっぱそうくるかよ!!」

眼前に迫り来る大質量の空気の壁に対して、しかし、ジョルジュは小馬鹿にした笑みを浮かべた。
同時に打ち振られる『ヴィゾフニル』。
純白の翼は大量の白い羽をばらまきながら、ブーンが放った物と全く同じ空気の塊を作り出した。
激突。

( ゚∀゚)「ヒャーハハハ!! 風を操るなら、『俺のヴィゾフニル』の方が十八番だぜぇ!!」

猛烈な勢いで吹きすさぶ風の奔流に頬をなぶられながら、あくまでも嘲笑を振りまくジョルジュ。
そして、未だ激突の残滓が残る空間を、キメラの尻尾が走り抜けた。



55: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:55:33.84 ID:iklecO660
  
じゃりん、じゃりん、と鱗を鳴らしながら、囲い込むように長く伸びてブーンに飛びかかる『ニーズホッグ』。
ブーンを一呑みにできそうな口が大きく開き、そこから鋭い威嚇音と共に毒液が発射された。

( ゚ω゚)「ふんっ!!」

ばふ、と翼をはためかせ、毒液を吹き散らすブーン。
しかし、

(;゚ω゚)「づあっ!?」

ど、という鈍い音とともに、ブーンの太股に猛烈な痛みが爆発した。
慌てて視線を下げるブーン。
そこに手のひらほどの黒い鱗が突き立っているのを発見して、ブーンは小さく舌打ちをした。



56: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:57:01.77 ID:iklecO660
  
(;゚ω゚)「くそ……忘れてたお、こいつの攻撃を……」

そう言って、鋸歯のような縁を持つ黒塗りの鱗を掴む。
一気に引き抜いた。

(;゚ω゚)「っぐぅ!!」

ブーンの脳内に、痛みが渦を巻く。
しかし、ブーンは金剛石のごとく強い意思の力で、迸りそうになる悲鳴を押し殺した。
細かい肉片をまとわりつかせた鱗を、無造作に捨てる。

(;゚ω゚)(鱗自体の殺傷力は、それほどでもない……でも、痛みがもの凄いお)

気をつけねばなるまい、と思ったブーンが、周囲に目をやる。
するとそこには、すでにブーンを何重にも囲い込んでとぐろを巻く大蛇の姿。

( ゚∀゚)「注意一秒、怪我一生、ってなぁ!!」
(;゚ω゚)「しまっ……!!」

痛みに気を取られて、ブーンはいつの間にか夜の空に制止してしまっていた。
ジョルジュが会心の笑みを浮かべる。
ブーンは全速力で包囲からの脱出を試みる。
その瞬間、『ニーズホッグ』の体表から、数え切れない程の黒い弾丸が発射された。



59: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:57:55.88 ID:iklecO660
  
(;゚ω゚)「く……そっ!!」

鱗が発射されるのを見て、ブーンは吐き捨てるように言うと、速度を緩めて鱗に正対した。
移動の力を削り、周囲の風を支配下に置くブーン。

( ゚ω゚)「はぁっ!!」

裂帛の気合いと共に、ブーンの周囲に巻き起こる風の激流。
台風の暴風域を軽く数倍するその障壁に、鱗は次々とはじき飛ばされていく。
だが、

(;゚ω゚)「うぐっ、あ!?」

翼の一枚に、鈍い衝撃と鋭い痛み。
まんべんなく全周囲から襲いかかる鱗の一枚が、障壁の合間を縫ってブーンに到達していた。
力の源である翼を傷つけられ、ぐらりと空中で傾ぐブーン。
その一瞬の隙は、荒れ狂う風の隙間を増やしてしまう。

( ゚∀゚)「おおーっとぉ、どしたどしたぁ!? お留守でがら空きでユルマンかシニゾコナイ!!」

下卑た野次も、必死で鱗を防ぐブーンには届かない。
づど、と再び衝撃音。
ブーンの脇腹に深くめり込んだ鱗が、致命的な隙を作り出す。
僅かな隙。しかし、限りなく致命的な隙。
ジョルジュの目がギラリと光り、『フェンリル』の口がブーンの方向に向けて噛み合わされた。



61: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 22:59:51.87 ID:iklecO660
  
――じゃ ぐんっ

背筋が震えるような不吉な音を耳元で聞いたブーンは、突如として体が浮力を失ったことに気が付いた。
がくり、と大きくよろめいて、ゆっくりと落下を始めるブーン。
とてつもない喪失感に気づいて背後を見やったブーンは、
己の翼が五枚、ざっくりと囓り取られていることを発見して愕然とした。

( ゚∀゚)「チッ、外したか。でもまぁ、いいか……」

落下を始めたブーンを見上げて、ジョルジュは苦々しげに舌打ちをする。
だが、すぐにぎらついた笑みをその顔に上らせて、『ヴィゾフニル』を強く強く打ち振った。

( ゚∀゚)「自分の持ってた悪魔の力で、死ね!!」

ごう、と音を立てて舞上げられる大気の渦。
渦は巨大なカマイタチとなって、元の主であるブーンを襲った。

( ゚ω゚)「かかった!!」

渦巻く暴力が生み出されたその瞬間。ブーンの目が鋭く細められる。
続いてブーンは、残った七枚の羽を使って大気を収束。強い羽ばたきをもって射出した。
『アザゼル』の力により形成されたそれは、細く、鋭く、強固な風。
まるで槍の様な姿を持たされた風は、その形状に恥じることのない速度と貫通力で飛翔。
渦巻く暴風を一瞬で貫くと、キメラの額、狼の顔の中で笑うジョルジュの頭部に落下した。

そして、命中。



63: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:01:17.30 ID:iklecO660
  
( ゚∀゚)「風の……槍、か」

自らの額から一筋の血を垂れ流し、ジョルジュが呟く。

( ゚∀゚)「まさか、捨て身で……俺の手が埋まった隙を突いて、こんなモンをぶち込んでくれっとはなぁ……」

そう言って、狂った殺人鬼はニタリと笑った。

( ゚∀゚)「でも、ちょい読みが浅かったみてぇだな?」

がさり、と。
顔を防御していた大鷲の翼をどけながら、ジョルジュは血に濡れた顔面をブーンに向けた。
ジョルジュの首の横から生えた翼は、風の槍を受けて目茶苦茶に破壊されていたが、自身は傷一つ負っていない。
その姿を見て、ブーンの目が驚愕に見開かれる。

(;゚ω゚)「しまった……『アガレス』か!!」
( ゚∀゚)「ご名答ゥ!! わかったところで、安心して死ねよ!!」

ジョルジュが高らかに叫ぶのと同時に、ブーンは巨大なカマイタチの渦に巻き込まれた。
力を使い切って無防備に晒されていた体は、風の奔流に抗う術を持っていない。
それでも体を縮こまらせて、なんとかカマイタチをやり過ごそうとするブーン。

(;゚ω゚)「ぎゃっ!!」

だが、それだけで暴風を避けきれる筈もなく、ブーンの体には無数の傷が刻まれていく。
最後に大きくはじき飛ばされると、ブーンは黒い羽を撒き散らして落下していった。



64: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:03:30.67 ID:iklecO660
  
(;゚ω゚)「うぐ、ぐ…………っあ!!」

長い落下を経て、ブーンはようやく自由を取り戻した。
ばざっ、と傷ついた翼で空を掴み、再び浮力を得ることに成功する。

(;゚ω゚)「はー、はぁ、っぐ、く……」

声も出ないほどの痛みに呻き、肩を握りしめて苦痛に耐えるブーン。
だが、それよりももっと大きい喪失感が、ブーンの体を大きく震わせる。
ブーンの背中にあった、六対十二枚の漆黒の翼。
それらは噛み千切られ、切り飛ばされて、今やその数を僅かに一対残すのみとなっていた。

( ゚∀゚)「ギリギリで風を操ったかよ……。でも、その様子じゃあもう終わりだな」

限りなくボロボロの姿となったブーンを見下ろして、ジョルジュが上空から嘲笑を投げかける。
その声に反応したブーンは、こちらを向いた『フェンリル』の顎にびくりと体を震わせて、残った翼で回避を計る。
しかし、

( ゚∀゚)「おぉっと、動くなよ!! 動いたら後ろのお姫様がガッツリ死ぬぜぇ!!」

鋭い声で、ブーンを制止させるジョルジュ。
ぎくりと体をこわばらせたブーンは、背後を振り返り、自分とジョルジュの直線上に礼拝堂があるのを確認した。

( ゚∀゚)「チェックメイトだ。ダテンシサマ」

ぬらり、と凶眼を光らせて、ジョルジュは不気味な笑みを浮かべた。



65: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:04:06.12 ID:iklecO660
  
落下により、キメラを見上げる形となったブーン。
凍り付いたように動かないブーンの、苦々しげな表情を見下ろすジョルジュ。
攻防の前にあった位置関係とは逆転したその光景は、まるで勝敗を表わしているかのよう。

( ゚ω゚)「……正気かお。このまま力を使えば、お前も即座に『地獄堕ち』になるんだお?」

相手の様子を伺いながら、ブーンはジョルジュに問いかけた。
隙を見て攻撃を仕掛けようとする意思が感じられる動き。
だが、ジョルジュはピタリと『フェンリル』の大顎を礼拝堂に定めたまま、ブーンの言葉を鼻で笑った。

( ゚∀゚)「んなこたぁ、とっくのとうに承知の上だぜ。『花嫁』の傍には『鏡』も転がってるしな」

ジョルジュに憑く四体の悪魔、そしてブーン=『アザゼル』を、この世につなぎ止める『鏡』。
地獄の引力を相殺する力を持つ『鏡』を破壊するということは、悪魔達の全てを地獄に還すということに他ならない。
そして、堕天使であるブーンはもちろん、悪魔にその身のほとんど全てを捧げたジョルジュもまた、
悪魔を還した後に待っているものは、『死』、そして『悪魔憑き』に課せられた『地獄堕ち』という運命。

( ゚∀゚)「でもよ。それでも、絶望したお前を地獄に連れて行けるなら、俺はまだ寂しくないような気がしてなぁ」

そう言って、再び暗い笑みを浮かべるジョルジュ。

( ゚∀゚)「動くなよ。動いたら即、全てを噛み砕く。動かなくても、噛み砕く」

きゅう、とジョルジュの顔から全ての表情が消えた。
その顔に残るものは、純粋に目的を遂行しようとする強固な意志のみ。



66: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:05:41.31 ID:iklecO660
  
( ゚ω゚)「地獄……地獄、かお……」

ジョルジュの言葉を聞いて。
ブーンは呟くように、だがジョルジュに聞こえるように、ゆっくりと口を開いた。

( ゚ω゚)「地獄は……お前が思っているようなもんじゃないお。あそこには一切の光りが無く、救いも無く、
     ただ永遠に続く苦しみと、逃れられない無限の時間だけがあるんだお」

重苦しい口調で、淡々と語るブーン。

( ゚ω゚)「お前がボクを連れて行こうとするのは構わないお。でも……
     たとえお前が誰と行こうとも、それは欠片ほども救いにはならないお。それこそ、砂粒ほどの希望にも。
     地獄堕ちすれば、待っているものは、終わらない苦痛、消えない意識。そして……狂うことも出来ない絶望」

言葉は流れるように口をつく。
それは、ただ経験ゆえに。
神話の時代から地獄に棲まう堕天使は、ただ事実のみをジョルジュに語った。

( ゚ω゚)「それでもいいのなら……その口を閉じればいいお。
     お前にその覚悟があるのなら、お前は地獄に堕ちる資格があるお」

そう言うとブーンは、ふっ、と体の力を抜いて手を広げた。
背に残るは二枚の翼。
傷ついていない場所は無いほどに傷ついた体は、とめどなく血を流し続けている。
しかし、それでも――その姿は、かつて天上の者であったことを証明するかのように、神々しい姿だった。



68: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:06:56.45 ID:iklecO660
  
( ゚∀゚)「……」

ブーンの語った地獄の現実。
その内容を聞いて……しかし、ジョルジュは迷わなかった。

どうせ、いつかは堕ちる身だ。
ならば、堕ちたい時に堕ちてやる。
それが、唯一の望みにして願い。

そのためにジョルジュは虐殺を繰り返し、周囲を腐敗させ、腐臭を撒き散らして、哄笑を上げてきた。
今日、ようやくその長い苦痛が終わろうとしている。

( ゚∀゚)(孤独に生まれて、孤独を知って。孤独と戦いながら、孤独の内に死ぬ、か……)

いい人生とは思えない。
だが、悪くない人生だった、とジョルジュは思った。
しかも、その孤独への旅路には、ブーンという存在までもが同行するのだ。
ジョルジュにとって、不服であろうはずがない。

( ゚∀゚)「んじゃ、逝く前に……何か言い遺すことはあっかよ?」

心を固め、奥底に沈めて。
ジョルジュがブーンに問いかける。



69: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:08:29.46 ID:iklecO660
  
言い遺す言葉。
この世での、最後の発言。
だがしかし、ブーンがその言葉を伝えたい人は、未だ深い眠りにつき、
ブーンの言葉が伝わる事は無い。

( ゚ω゚)「ボクが……遺す、言葉は……」

それでも、ブーンは口を開いた。
大切な人。長い長い時の果てに巡り会うことの出来た、約束の人。
その人に伝わることはなくとも、ブーンの言葉は風が聞いてくれる。
この世に存在する物は、全て繋がっているから。
だから、いつの日か、あの人に伝わることがあるかもしれないから。

( ゚ω゚)「ボクが遺す言葉は……後悔や懺悔の言葉じゃないお。そんな物を遺しても、意味はないお。だから……」

だから、言おう。
大切な言葉を。
伝えたい気持ちを。

( ゚ω゚)「ツン……ボクは、ツンと共に生き、笑い、そして死にたかったお……」

それはブーンの望み。ブーンの願い。
ブーンの中にあった全ての行動の原動力にして、大切な大切な気持ち。
それを言い終えると、ブーンは静かに目を閉じた。

――ばぢゅっ



70: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:10:04.30 ID:iklecO660
  
( ゚ω゚)「ぐけ……ぶぷっ……」

ブーンの閉じられた目が、激痛にかっと見開かれる。
ゆっくりと視線を降ろすと、そこにはバックリと食らいついた大蛇の頭。
『ニーズホッグ』の牙はブーンの胴体に深く食い込み、全てを腐らせる毒液を注入している。

( ゚ω゚)「んぐっぷ、ろぁ……ぱ……」

喉の奥からせり上がる液体は、どろどろに腐り溶けた自身の中身。
ついには盛大にゲル状の物体を吐き出しながら、ブーンの体は痙攣を始める。

( ゚ω゚)「ぶぷるぁ……けぷ……ぁ……」

がぐがぐと小刻みに震えるブーンの体。
やがてその痙攣は小さなものとなり、最後には時折震えるだけとなって、消える。
だらり、と力なく項垂れたブーンの首が、腐った肉をみちみちと千切りながらボロリと落ちた。

( ゚∀゚)「……」

特に感情を込めることもなく、落下していくブーンの頭を見つめるジョルジュ。
その顔には先ほどまでの強い意思の輝きすらもなく、あるのはがらんどうの気持ちだけ。



75: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:13:49.38 ID:iklecO660
  
( ゚∀゚)「……これで、終わり……か。ハハッ、あっけないもんだな」

ひゅう、と風が流れて、ジョルジュの頬を撫でていった。
その風は優しく、そして夜の気温にはない暖かさがある。
キメラとなったジョルジュにも、その風の優しさは伝わった。。

( ゚∀゚)「欲を出すから、死ぬんだよな……。もっと生きたいなんて願わなけりゃ、よ。
     多分、きっちり終わらせて、きっちり気持ちよく地獄に逝けたんだぜ」

相変わらず虚ろな表情で、どこともなく声を重ねるジョルジュ。

( ゚∀゚)「でもよ。やっぱり、地獄は怖いもんな。死にたくない、生きたい、もっと生きたい、って。
     思った。思っちまった。だから、死ぬ」

そう言って、ジョルジュは星の瞬く夜空を見上げた。
夜空はどこまでも澄んでおり、空には一欠片の雲すら見ることは出来ない。

( ゚∀゚)「そうだろ、ブーン?」

微かに自嘲めいた色をにじませて、ジョルジュが呟くように問いかける。

( ゚ω゚)「……そうだお」

そして、ジョルジュの頭部の後ろに膝をついていたブーンが、静かにその言葉に応えた。



77: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:15:39.45 ID:iklecO660
  
風が吹いている。
先ほどまでの攻防の時とはうってかわって、穏やかで暖かい風が。

( ゚ω゚)「お前は……最後の瞬間に、まだ生きていたいと思ったお。だから、『フェンリル』ではなく、
     『ニーズホッグ』でボクにとどめを刺そうとした」

ゆっくりと口を開くブーン。

( ゚ω゚)「生きたいという欲が、自分を殺す。だからボクは死なず、お前は死ぬんだお」
( ゚∀゚)「だよな……」

大きくため息をつくジョルジュ。
ブーンは、ジョルジュの首に手刀を当てていた。
避けようのない零距離からの攻撃。
何かの行動を起こそうとした瞬間、ブーンはジョルジュの首をはね飛ばすだろう。
ジョルジュの力をもってしても、その攻撃を防ぐことは不可能だ。

( ゚∀゚)「まずったなぁ……せっかくのチャンスだったのによ。無駄にしちまった」
( ゚ω゚)「ボクのチャンスも、一度きりだったお。どちらが死んでも、どちらも死んでもおかしくはなかったお」
( ゚∀゚)「よせよ……慰めなんていらねぇ。現実を受け止めるぐらいはさせてくれよ」

ジョルジュがチャンスを逃した瞬間。
その瞬間こそが、ブーンの、たった一度のチャンス。



79: ◆DIF7VGYZpU :2006/11/12(日) 23:17:56.59 ID:iklecO660
  
( ゚ω゚)「ボクの力。『スケープ・ゴート』。一人の相手に対して、一度きりの切り札。
     翼の一枚を代償に、死を一度だけ回避するお」

そう言ったブーンの背には、すでに一枚しか翼は残っていない。

( ゚∀゚)「『地獄の山羊使い』らしい力だな……お前もギリギリだったわけだ。
     ッハ、死線なら何度も潜ってきたのによぉ。最後の最後で……ついてねぇぜ、まったく」

ククク、と喉を鳴らして、楽しげに笑うジョルジュ。
その笑いには、もう腐臭も禍々しい色も残ってはいない。

( ゚∀゚)「最後に、聞かせてくれねぇか。俺をぶち殺さなくても、『鏡』をぶち壊せばそれでよかったんじゃねぇのか?
     どうせお前も、いつかはアソコに還るんだしよ。なんで、こんなまどろっこしいことしたんだよ?」

いっそ清々しいほどに虚ろな表情で、ジョルジュが背後のブーンに問いかける。
その問いに、ブーンはしばし逡巡した後、

( ゚ω゚)「……ボクも、結局は生きていきたかったのかもしれないお……」

迷うように。だが、はっきりとした声で答えた。
その答えに、ジョルジュは破顔一笑。
最後に、ブーンにだけ聞こえる声で何事かを呟くと、すぅ、と静かに目を閉じた。

『あざ笑う殺人者』の首が、夜空に舞った。

「生への渇望」終



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