( ゚W゚)ブーンは悪魔憑きとなったようです

8: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:12:23.19 ID:ic7+S1XB0
  
(;,゚Д゚)「くぉっ!?」
('A`)「チッ、あの馬鹿!!」

あたりが白色に染まると同時に、周囲の空気が耳鳴りを覚えるほどに帯電する。
首筋の毛が逆立つのを感じ、ギコは戦闘を中断して、慌ててその場から大きく飛び退いた。
しかし、ドクオはそうはいかなかった。
クックルの放った雷撃の余波を受けて、新たに三人ほどのドクオが物言わぬ骸となって転がる。
それらは一様に、壁際に積み上げてあった死体の山の一角となった。

('A`)「くそ、筋肉馬鹿が……気をつけろ!!」

三人を失い、それでも10を越える複製を残しながら、ドクオがクックルに怒鳴った。
その様子を見たギコの中で、ふと小さな疑問が生まれる。
だが、その疑問を明確なものとする前に、ドクオの攻撃が再開した。

相変わらず力任せに左腕を叩き付けてくるだけのドクオの攻撃。
だが、相手が捨て身な上に、その左腕が『命を奪う』という特殊能力を持つ以上、迂闊なことはできない。
ドクオに憑く悪魔は『チェルノボグ』。右手は仮初めの命を与え、左手は生者の命を奪う。
時折火線を伸ばし、あるいは左腕をなぎ払い、堅実にドクオを屠っていくギコ。
自らの左手に憑く『ファフニール』以外の部分で攻撃を受ければ即死であるため、緊張感は極限にまで達している。
しかし、路地裏から新たに四人のドクオが現われたのを見て、ギコは大きく舌打ちをした。
捉えたと思った疑問は、そのまま戦闘に飲み込まれて形を失っていった。



10: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:14:44.54 ID:ic7+S1XB0
  
――その時、少し離れた地面に倒れ伏す兄者と弟者がぴくりと動いた。

兄者と弟者。顔が非常に良く似ている二人は、実は兄弟ではない。
兄弟どころか人間ですらない彼らは、ギコが作成した亜生体、ホムンクルスである。
細胞レベルで悪魔憑きとしての特性を与えられた彼らは、最初から失う命が無い。
体は動ける限り動くし、死なない限り死なない。
だからこそ、胸を貫かれようが、命を奪う左手で吹き飛ばされようが生きている。

だが、さすがに二人のダメージは大きかった。
言葉を発することもできず、二人は戦いを視線の端で捉え続けるのみ。
そして、その視線の端で白色の雷撃が爆発した時、彼らは確かにドクオの不審な行動を発見した。

あれだ。あれが、あのドクオの弱点であるはず。
なんとかしてギコに伝えなければ。
そう思うも、大破した体は全く動かない。
やがて視線は混濁して定まらなくなり、瞼が鉛のように重くなる。

――暗闇の中に、兄者と弟者の意識はゆっくりと落ち込んでいった。



11: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:17:17.07 ID:ic7+S1XB0
  
どう、と背中から落下し、ブーンは息を詰まらせた。
肺の中の空気が絞り出され、目の前が急に暗くなったように感じる。

(;゚W゚)「っかはっ!! はっ!!」

無理矢理息を吸い込みながら、ブーンは呼吸を回復させる。
今のは危なかった。素直にそう思う。
クックルの両腕から放たれた雷撃はブーンの足下に命中。
指向性を持った電気の奔流は、床に着弾するとあたり一面に飛び散った。
上方に飛んだブーンですら感電させる一撃。

(;゚W゚)「ぐ、く、ぅ……」

無理矢理に横隔膜を動かしたせいか、胸に不気味な痛みが残る。
ブーンはそれを無理矢理無視しながら、クックルを見据えた。



12: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:20:58.09 ID:ic7+S1XB0
  
( ゚∋゚)「お前、丈夫。千切りにくそう。いらない」

ブーンが死んでいないことに落胆したのか。
ボソボソと呟くように言って、クックルが身をかがめた。
瞬間、クックルの足下が爆裂する。

(;゚W゚)「うぉっ!!」

床をえぐり、破壊しながら、クックルが猛烈なスピードでブーンに突っ込んできた。
その勢いは先ほどまでの動きがない姿とは別物で、まるで人が変わったかのようである。
だが、表情は相変わらず無感動なままで、それが逆に恐ろしい。

空気を巻き込んで迫り来る巨体。
その勢いもさることながら、鉛色の体表に走る雷はことさらに厄介だ。
分かり易く言えば、スタンガンを遥かに上回る電気が流れ続けるダンプが突っ込んでくるような。

(;゚W゚)「く、調子に――乗るなっ!!」

横っ飛びに飛び退くブーン。
地面を半ば転がるようにして着地しながら、回転はそのままに大きく足を振ってカマイタチを数本走らせる。
だが、その攻撃はやはり空しく鉛色の体表を滑るのみ。
悔しげに顔をゆがめるブーン。直接相手に触れる事が出来ない上に、間接的な攻撃はすべて無効化される。
なんとかして相手を沈める方法を考え、ブーンが立ち上がったその時――

サイレンが鳴り響いた。



13: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:22:26.22 ID:ic7+S1XB0
  
都市外周 水源確保槽

水源確保槽は、主として雨水を貯蔵している巨大な水槽である。
都市の外周をぐるりと囲むようにして作られた空間は、都市に必要な水の全てをため込んでいる。
いくつかの区画にわけられたその空間は、一つ一つの容量が数万トンにものぼる。

そして今、その一つから最下層地区への緊急放水のために、放水用のバイパスが接続されようとしていた。



14: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:24:03.92 ID:ic7+S1XB0
  
同時刻 最下層中央エレベータ

地下数千メートルに位置する最下層からの唯一の脱出手段である中央エレベータ。
漏斗を逆様にして伏せたような形をしたその施設は、恐慌に煽られた人々によってごった返していた。
皆が殺到して自分勝手に乗り込もうとする余り、エレベータに詰め込まれた人は圧迫され、中には骨折する者もいる。

死にたくないという一念で行動する集団は、他の生命に対してあまりにも無関心。
背中を押された老婆が転倒するが、誰も助け起こすことはない。
老婆はそのまま背中、頭、首を群衆に踏みしだかれて、内蔵を破裂させて絶命した。

エレベータは本来、このような状況を想定して作られてはいない。
それはつまり、何かがあった場合、最下層市民は救助されることなく見捨てられるということ。
日々の暮らしに埋もれて風化していたその事実を目の前に突きつけられて、民衆はパニックになっていた。

その時、喧噪を圧してサイレンが鳴り響く。
腹の底まで落ち込んで心臓を圧迫するようなその音は、中央エレベータのシャフト部分から鳴り響いていた。
がぐん、と振動が施設全体に走る。
そして、呆然と天を見上げる人々の目の前で。
エレベータシャフトはその根本から接続を断ち切り、遥か上方の天井に向かって回収され始めた。



15: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:26:23.79 ID:ic7+S1XB0
  
空気をふるわせてサイレンが鳴り続ける。
心臓を鷲づかみにされるような不吉な感覚を覚えて、ブーンは眉をひそめた。

( ゚W゚)「これは、一体……?」

ふと見ると、クックルとドクオもまた動きを止めていた。
クックルは無表情に。ドクオはニマニマと笑みを浮かべて。

(,,゚Д゚)「貴様ら……最初からこれが狙いか」
('A`)「ックク。まぁな。一人一人ぶち殺していくのもいいんだが、それだとあまりにも効率が悪い。
   俺達が欲しいのは、単なる数としての『贄』だからな。殺し方は問題じゃねぇ」
(,,゚Д゚)「外道が……」
('A`)「お褒めに預かり恐悦至極、ってか。まあ、俺達にとっちゃ良い方に転んでくれて何よりだぜ。
   思惑通りに運ぶよう、一応手回しはしてたがな」

その言葉に、ギコの中にあった一つの推論が、急速に形を伴って確信へと変わる。

(,,゚Д゚)「まさか……トリニティを?」
('A`)「ハ。あんな人工無能に支配されてる不幸を呪うんだな。イジったらすぐに従順になりやがったぜ」

周囲を取り囲みながら嘲笑するドクオ達に、ギコが拳を握りしめて苦い顔をする。
都市政府の中心である『トリニティ』は、全ての判断を処理する。
その中には政府直轄の都市警察に関する事柄も存在し、当然ながらギコのレポートに関する事柄も含まれる。



16: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:28:32.27 ID:ic7+S1XB0
  
(,,゚Д゚)(通りでレポートが握りつぶされ続けていた筈だ……)

レポート作成にかかった時間を軽く嘆いて、ギコは周囲を取り囲むドクオを睨みつける。
ドクオはそんなギコを楽しげに見やるのみだ。

(;゚ω゚)「ギコ、これは何だお? 一体何が起ったんだお?」

一人話について行けていなかったブーンが、ギコに問いかけた。
クックルが戦闘態勢を解いているのを見て、警戒しつつもギコに話しかける余裕は出来たらしい。

(,,゚Д゚)「ああ……これは警告音だろうな。おそらく今頃、中央エレベータのシャフト回収が行われているはずだ」

できるだけ感情を交えずに、淡々と事実のみを語るギコ。
だが、ブーンはその話の内容に激高した。

(;゚ω゚)「何なんだおそれは!! そんなことしたら、市民がどうなるかぐらいわからんのかお!!」
(,,゚Д゚)「もちろん承知の上だろう。だからこそ、この方法が採決された」

おそらく、トリニティの下した判断は『全市民と最下層の投棄』だろう。
市民が次々とリビングデッドになる今の状況は、『大規模感染症の発症』に重なる。
この様な場合で人工無能が下す判断は『最下層の封鎖』及び『強制放水による浄化措置』であると容易に推測できた。



19: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:30:38.55 ID:ic7+S1XB0
  
(,,゚Д゚)「おそらく、浄化が実行されるまでには、若干のタイムラグがあるはずだ。
     それまでにこの状況を打破出来なければ、最下層は全て水の底に沈むことになる」

浄化は強制放水によって行われるだろう、と付け足すように話すギコ。
そして、被害が拡大しないと確認されるまで、数時間、あるいは数日、数ヶ月、もしかしたら数年ほど。
最下層にはみっしりと水が満たされ、その中で人や物はゆっくりと腐れ果てていくことになる。

(;゚ω゚)「み、水に……全てが」

全てが水の中に沈むと聞いて、ブーンが言葉を失う。
その様子を見てドクオが仄暗い笑いを浮かべた。

('A`)「どうやら力不足だったようだな、ギコ。お前は死なねぇかもしんねぇが、他の市民はそうはいかねぇだろ」
(,,゚Д゚)「……」

並んだドクオのにやけ面を吹き飛ばしたい気持ちに駆られながらも、まったくの図星を突かれて押し黙るギコ。
王手。チェックメイト。詰み。手詰まり。打つ手無し。
敵の計画を読めなかったのが痛恨の、そして致命的なミスだ。
正直ドクオを見くびっていただけに、ギコはことさらに悔恨の念にさらされた。



20: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:32:45.54 ID:ic7+S1XB0
  
('A`)「んで、どうする? まだやんのか?」

ニヤニヤと笑いながら、ドクオが意地悪くギコに問いかける。
確かに、今からでも事態を収拾させることは可能だ。
ドクオを殺せば術者のいなくなったリビングデッドは死体に戻る。
被害拡大の可能性が無くなれば、浄化措置と封鎖は直ちに棄却されるだろう。
だが、それが難しい。
先ほどからいかなる攻撃にも応える様子がなく、ドクオは複製身の数を増やし続けていた。
今はその数を30人前後にまで増加させている。

(,,゚Д゚)「もちろんだ。貴様に一撃くらわしてやらん限り、気持ちよく眠ることは無理なようでな」

難しいとわかっていても、諦めることはできない。
最下層のような密閉空間で市民が一斉に死ぬようなことになれば、その『贄』としての効果は尋常ではない。
恐らくは、過去にアメリカで彼らが行った『悪魔降ろし』に匹敵する『何か』が召喚されるはずだ。
そのようなことになれば、間違いなく中方都市は『奈落落ち』するだろう。
資料として見せられたアメリカの衛星写真を思い出し、ギコは背筋に冷たい汗が浮かぶのを感じた。
アメリカ大陸に点在する、物理的に考えて異常な大きさの、穴。

させない。あのようなことは、絶対に。

心に決めて、ギコは最優先目標であるドクオへの攻撃に参加させるため、ブーンに目をやる。
そして声をかけようとして、そのまま驚愕のあまり固まった。

ブーンの足から、真っ黒な――ひたすらに真っ黒な翼が生えていた。



21: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:35:50.13 ID:ic7+S1XB0
  
ばさり、と。
腿の辺りから生えた、身の丈ほどもある一対の翼をはためかせ、ブーンの体が数センチほど静かに浮き上がる。
足下にはゆるやかな風が渦巻き、ブーンを押し上げているのが判った。

(;,゚Д゚)「ブーン……」
(;'A`)「馬鹿な……デキソコナイが形質変化だと? しかも、何で黒い羽なんかが……」

驚愕から立ち直ったギコが、ブーンに声をかける。
しかし、ブーンは答えない。
ブーンはギコを完全に無視して、未だに驚愕の表情を浮かべるドクオへと視線を向けた。

( ゚W゚)「おい、お前……。最下層をどうするって?」
('A`)「あぁ? ……んだよ、偉そうに。舐めてんのか」
( ゚W゚)「うるさい殺すぞ。質問に答えろ」
(;'A`)「く……。ああ、なら言ってやるよ。この最下層をな、水で洗い流してもらうんだよ。
   きれーさっぱり、汚いモン全部を水洗便器みてぇにな」

わざわざレバーを操作するジェスチャーも混ぜて、ドクオが嘲笑しながらブーンに答えた。
その答えを聞いたブーンの体が、小さく震えるのを、ギコは確かに見ることができた。



23: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:37:33.52 ID:ic7+S1XB0
  
( ゚W゚)「お前ら。何様のつもりだ」
('A`)「知るか。何様だったら納得するんだよ? 神様か? 神様ならやってもいいかもな」

ヒヒヒと笑うドクオ。
だが、その言葉はブーンにとって――今のブーンにとっての、一番の地雷だった。

('A`)「ひひひ……っひ!?」

風が渦巻く。
ドクオの体が、まっぷたつになった。その隣のドクオは頭を割られた。
他の場所に立っていたドクオは、三人ほどまとめて首を飛ばされた。
それを見て逃げようとしたドクオは股関節から足を吹き飛ばされ、胴体が床に落ちる前に胸を斜めに切断された。

吹き荒れる血煙、飛び散る肉片。
それは全て、ブーンの翼の一振りによるものだった。
ドクオが反応する暇もない程に早く、そして圧倒的な力だった。



24: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:38:56.28 ID:ic7+S1XB0
  
(;'A`)「馬鹿な、ありえねぇ……デキソコナイが、こんな強い力を使えるわけがねぇ」

残ったドクオ達が後じさる。
ドクオは元々、ネクロマンシーの腕を買われて七柱の一人となった存在である。
故に肉弾戦は苦手としていたが、それでもデキソコナイとなったブーンに負けるほど劣っているつもりはなかった。
だが、ブーンはやすやすとドクオの複製身を破壊してのけた。圧倒的な力量によって。

( ゚W゚)「お前。神様ならやっていいと言ったな」

驚愕の表情を浮かべて呆然とする数体のドクオに向かって、冷たく言い放つブーン。
神様なら不要な物を洗い流してもいいと。
神様なら不要と決めつけてもいいと。
神様なら自らの作り出した不要物を排除してもいいと。

( ゚W゚)「そんなわけがあるか……。命も、生活も、そして愛する者も。全ての決定権は所有者にある。
     何人たりとも、他人の勝手で他者の大切な物を奪うことは許されない。たとえそれが神であろうとも!!」

叫んで、ブーンが一際大きく翼を打ち振る。
以前とは比べものにならないほどに大規模なカマイタチが発生し、残ったドクオを切り刻んだ。



25: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:40:03.65 ID:ic7+S1XB0
  
風が吹き抜けた後、ドクオだった物体が、中身を撒き散らしながら地面に転がった。
全て即死であることは明白。これでこの場にいるドクオは全て片づいた。
だが、

(;'A`)「ッチ。厄介だな、お前……」
( ゚W゚)「次から次へと……ゴキブリのようだな」

物陰から新たに姿を現したドクオにむかって、ブーンが吐き捨てるように呟いた。
ドクオはその言葉に構わず、ブーンに問いかける。

('A`)「おい、お前……お前に憑いてるの、本当に『ヴィゾフニル』なんだろうな?」
( ゚W゚)「知らんし、知りたくもない。憑けたお前らが知る通りだ」
('A`)「その俺達の知りうる情報と違うから戸惑ってるんだろうが、クソ馬鹿が」

ゆらり、と羽ばたくブーンの黒い翼を見て、ドクオが顔をしかめる。
悪魔と一括りにされているとはいえ、本来ヴィゾフニルの性質は光である。
間違ってもあのような翼が……真っ黒な翼が『形質』として現れる道理はない。
何より、癒合すら上手くいかなかったデキソコナイが『形質変化』させることなどありえない。



27: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:42:12.40 ID:ic7+S1XB0
  
('A`)「……まあ、いい。少し厄介なだけでやることは変わんねぇからな。やれ、クックル」

ドクオは結局、思考することを放棄した。
理由はわからないが、それを考える必要はそれほどあるとは思えない。
邪魔者であることに変わりはないし、殺せばそれですむ話だ。

声を掛けられると同時に、クックルが再度爆発音を響かせて猛烈なタックルをかました。
一瞬でトップスピードに乗ったクックルは、体中から雷光を散らしてブーンへと肉薄した。
ブーンは慌てる様子もなく翼を打ち振って空中へとその身をかわす。
そして地面をえぐりながら急停止したクックルにむけて、数段鋭く強烈になったカマイタチを放った。

( ゚∋゚)「む……だ、無駄」

顔の前で腕を交差させ、目をおざなり程度にガードするクックル。
カマイタチは先ほどまでと同じくクックルの肌に傷一つつけられず、後方へと吹き散らされた。
わずかに風に押されてクックルが後方へと押しやられたが、それだけだ。

( ゚W゚)「ふん。流石に、頑丈だな」
( ゚∋゚)「オレ、お前の攻撃、効かない。オレ、鉄の肌。強い」

薄く満足そうに口をゆがめるクックル。



28: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:43:22.56 ID:ic7+S1XB0
  
( ゚W゚)「そうか……。なら、これでどうだ」

ブーンは羽を大きく広げた。
羽根の一枚一枚が、大きく膨らむ。
ブーンの周囲に、大きな空気の流れが生まれた。

( ゚W゚)「……っふ!!」

――ごぅ!!

気合い一閃。極限にまで膨らんだ羽が、大気を大きく巻き込んで渦巻く竜巻を再現する。
周囲の全てを切り裂きながら、風は荒れ狂い、地面すらえぐりつつ驀進。
竜巻はそのまま進路上のクックルを飲み込み、布の切れ端と成り果てていた服の残骸を吹き散らした。

だが、クックルが鉄の肌と呼んだ鉛色の肌には、相変わらず傷はついていない。
轟々と音を立てる風の中で、勝ち誇ったかのように口を歪めて笑うクックル。
その目はあからさまにブーンの無力さをあざ笑っていた。
そして、クックルは悠然と腕を突き出し、ブーンに向かって雷撃を放とうとする。
しかし、



29: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:44:50.58 ID:ic7+S1XB0
  
( ゚∋゚)「……!?」

ふわり、と。1トンを越える重量を持つクックルの体が、風に煽られて持ち上がった。
そしてそのまま、クックルは風に乗せられて、200mほど上方にある天井付近まで急速に上昇させられる。

( ゚∋゚)「う、うっ!?」

予想外の事態に手をじたばたさせるクックル。
空中であわてふためく無様な姿を見て、ブーンは冷たく言い放った。

( ゚W゚)「お前は随分と固い肌をしているが……脳や内臓まで鉄で出来ているわけではあるまい。
     その高さから落ちればどうなるか。試してみるか」

ブーンの言葉が聞こえたわけではないだろうが、クックルの顔がはっきりと恐怖にゆがむ。
そして、クックルの体を支えていた風が鳴りやんだ。

( ゚W゚)「神なんぞクソ喰らえ。だが――せいぜい祈るがいい」

聞いたことのない様な長い長い悲鳴をあげて、クックルは猛烈な勢いで落下していった。



30: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:47:09.73 ID:ic7+S1XB0
  
(;'A`)「うおっと!?」

クックルが側に落下してきたため、ドクオが思わず身をかわす。

――ッバガン!!

クックルの落着と同時に地面が爆発したかのように大きくえぐられる。
もうもうたる粉塵が風に散らされて収まった後には、小規模なクレーターと、無惨に事切れたクックルの姿があった。
口から内蔵を飛び出させ、穴という穴から血を垂れ流すクックルをドクオは確認、憎々しげに吐き捨てる。

('A`)「クックル……クソ、迂闊すぎんだよ、馬鹿が」
(,,゚Д゚)「これで2対1。貴様がこうなるのも時間の問題だな」
('A`)「クソが……そうはいくかよ」

ニマリとドクオが笑うと、再び湧き出るかのように現われるドクオの複製身。

('A`)「俺はどんだけやられてもしなねぇ。殺せるもんなら殺してみろよ」
(,,゚Д゚)「……そうだな。そろそろ終わらせるか」

静かに言い置いて、ギコが左腕の『ファフニール』を構える。

(,,゚Д゚)「最初は、複製の中に本体が紛れているのだと思った。だが、まんべんなく殺しても本体はいない。
     次に疑ったのは遠隔操作だが、それにしては動きが正確、かつリアルタイムだ」

淡々と話すギコ。
ドクオは、ギコを伺うようにして取り囲んでいる。



31: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:50:02.41 ID:ic7+S1XB0
  
(,,゚Д゚)「複製の中に潜むでもなく、遠くに潜むでもない。ならば、あと考えられる可能性はそれほどない」

言いながら、周囲を見回す。

(,,゚Д゚)「俺が直接見える場所で、観察しながら複製身をけしかける。自分は何かに潜みながら。
     潜む場所は、出来るだけ攻撃されにくいものがいい。手が出せない、もしくは手を出しづらい場所が。
     そう、例えば――『積み上げられた死体』なんかは最高の場所だろうな」

瞬間――ばしゃり、と水気を伴った音をたてて、ドクオが死体をぶちまけながら飛び出した。
ずっと死体の山に潜みながら複製身を操っていたドクオ本人は、そのまま逃げの一手を打とうとする。
だが、

(,,゚Д゚)「逃がすかっ!!」

空気を一直線に焼いて伸びた火線は、本体を守ろうとした複製身ごと、ドクオの胸に大穴をあけた。
言葉もなく燃え上がり、地面に転がるドクオ。
それと同時に、ギコを取り囲んでいたドクオの複製身が次々と倒れ伏す。
そして、段々とその身は腐り落ち、やがて腐臭を漂わせるゲル状の物体となった。

(,,゚Д゚)「クックルの雷撃の際、お前は三体の複製を使って雷から死体の山を守った。
     そして落下してきたクックルの衝撃からも、死体の山を守った。
     あからさまで迂闊な行動。お前の敗因は、それだ」

もう聞こえてはいないであろう、ドクオであった火柱に向かって、ギコは付け足すように説明した。
火はやがて小さくなり、後にはうずくまるように炭化した人間の死体のみが残った。



33: ◆DIF7VGYZpU :佐賀暦2006年,2006/10/22(佐賀県庁) 23:51:34.58 ID:ic7+S1XB0
  
都市政府集権装置 主要電算装置室

最下層の騒ぎなど全く伝わらない静かな場所で。
都市の全てを握っている『トリニティ』が、一つの案件を棄却した。
チャンネル2が提起していた最下層浄化措置は、大規模災害の収束と共に不必要と判断。
続いて封鎖措置の解除を決定し、最下層の運用を通常レベルに移行させた。


同時刻 最下層中央エレベータ

エレベータ施設に詰めかけていた人々は、リビングデッドが倒れ、唐突にサイレンが鳴りやんだ後も沈黙を保っていた。
押しつぶされそうな恐怖の中、じっと息を潜める。
まるで、そうしていれば怖いものがやってこないと信じるかのように。

やがて、その沈黙をやぶるかのように、上方から小さな機械音が鳴り響いてきた。
天井を見上げる人々。その視線の中、収納されていたエレベータシャフトがゆっくりと降りてきた。
だが、市民の中に歓声をあげる者はない。
被害が広がるのを防ぐためにエレベータを封鎖し、危険が無くなれば平然と現状を復帰させる都市政府。
見捨てられ切り捨てられた絶望感は、拭い去ることの出来ない都市政府への不信感として残った。
広がる不信、そしてそれでも頼らなければならないことによる諦め。
様々な感情をのぼらせた顔を見合わせながら、お互いの存在を確認し合う市民達。

エレベータシャフトが接続を終え、再び施設が大きく震えた。


「屍は笑う」終



戻るここまでの主要登場人物、設定紹介
その6