( ^ω^)は日々変わらないようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/01(火) 23:43:08.72 ID:HLfT01NUO

第8局

(#゚;;-゚) ………



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/01(火) 23:50:11.47 ID:HLfT01NUO
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さんさんと輝く太陽。
それは、路地裏でひっそりと佇む店。
【本格イタリアン ブーン】

その店を照らし出している。

そして、それの目の前にいる女性。
こんなにも、太陽の日差しが気持ち良い日、そんな日なのに彼女は、顔を目元以外布で隠し、さらに露出がまったくない姿で佇んでいる。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/01(火) 23:53:00.88 ID:HLfT01NUO
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彼女はすぅ、と息を吸う。そして、

(#゚;;-゚)「いこうか」

そうに呟き、勢いよく引き戸を引いた。

ガラララッ



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/01(火) 23:57:40.69 ID:HLfT01NUO
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( ^ω^)「いらっしゃいませ」

店に入り、一番最初に目に入るニコヤカな顔をしたブーン。

そのニコヤカな顔。それはとても、懐かしい感じがした。

( ^ω^)「ご注文が決まったら、どうぞ」

(#゚;;-゚)「あ、はい」

ブーンにより、注文が決まるまでの繋ぎ、それが出される。

トマトに醤油がかかったもの、言わば前菜だろうか。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:03:22.70 ID:fsM/IbshO
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それを一欠片、口に含む。

うん、好きな味だ。
良いトマトを使ってるんだな、多分そうだ。


(#゚;;-゚)oO(なるほどね)

店を見渡し、そう思う。

レンガ作りの壁から、明るさを感じ。

木製のテーブルから、隠れた優しさを感じる。

自分が座る石で作られた椅子、それは、ひんやりとした肌触りなのだろうが、どこか温かさを見出せた。

そして、主婦達が座る畳作りの座敷。
そこから、忘れていた何かを思い出した。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:07:48.44 ID:fsM/IbshO
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そして、そんな内装の意味に私は気付いた。

(#゚;;-゚)oO(そう言う事ね……)

そうだ、店にばかり気を取られていたけど、注文をしなくては。
ただのタチの悪い客になってしまう。

そう思い、メニューを開く。
しかし、そこに書かれている文字を見て私は驚いた。

【パスタ】

【ピッツァ】

その二文字しかない。

これは……



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:11:55.20 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;-゚)oO(きっと裏があるな……)

いくら小さな店でも、二品しか出さない。そんなことはありえない。

むしろ、小さな店だからこそ、メニューは多くするものなのだ。

こんな小さな店、そこで二品しかメニューが無いことによるメリット。
そこにメリットなど、無い。

ならばきっと、隠れたメニューがある。

(#゚;;-゚)「店員さん」

( ^ω^)「はいはい、何だお?」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:14:20.77 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;-゚)「鶏の唐揚げ、そんなメニューはある?」

(;^ω^)「お……、何でそのことを知ってるんだお?」

(#゚;;-゚)「あるんですか、それじゃそれで」

(;^ω^)「僕の疑問はスルーかお?」

(#゚;;-゚)「はい、そんな感じ」

(^ω^)「………」

( ^ω^)「まぁ分かったお、しばらくお待ちください」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:19:37.12 ID:fsM/IbshO
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やっぱりあった、鶏の唐揚げ………
この分なら、定食のメニューや、日本酒、洋酒、何らかのおつまみ。

そんなものまであるだろう、多分。ではあるが。

(#・;;-・)「ふぅ……」

時間とは人を変える、それは私が、身をもって体感していることだ。

長い長い月日、それは私を変えた。情熱は失い、性格は引っ込みがちに。

それでも、長い年月を日々変わらずに過ごして来た人。

その人は意外と、近くにいたんだと気付いた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:23:44.96 ID:fsM/IbshO
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( ^ω^)「お待たせしました」

(#゚;;-゚)「どうも」

いつの間にか、鶏の唐揚げを運んで来たブーンが目の前にいた。

鶏の唐揚げを彼はテーブルに置き、一つお辞儀をする。

( ^ω^)「それじゃ、僕はこれで……」

(#゚;;-゚)「あ、ちょっと待って」

( ^ω^)「お?何ですかお?」

(#゚;;-゚)「今、忙しいですか?」

( ^ω^)「いえ、大丈夫ですお」

(#゚;;-゚)「だったら、ご一緒お願いできますか?」

( ^ω^)「……はい」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:28:21.09 ID:fsM/IbshO
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あ、と一言置く。

(#゚;;-゚)「気分を害されたら、席を外しても大丈夫ですからね」

一番大事なこと、それを伝えた。

( ^ω^)「お?大丈夫ですお、さぁ、頂いてください」

(#゚;;-゚)「はい、それじゃ頂きます」

この瞬間、この瞬間が私は一番嫌いだ。

この瞬間から、みんなは私を見る、私だけを、怪訝な眼差しで見るから。


それは、何時までも変わらない。さぁ、行こう私。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:32:47.04 ID:fsM/IbshO
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ハラリ、と顔を覆っていた布が宙を舞った。
重力に逆らうことなく、すぐにパサッ。っとそれは私の膝の上に落ちた。


(#゚;;-゚)「頂くね、ブーン」

ああ、そんな目で、君も私を見るの?
そんなに醜い?私の顔。

火に焼かれ、皮膚がただれ、表情の変わらない。

そんな私の顔、醜い?



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:36:24.89 ID:fsM/IbshO
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( ^ω^)「………」

(#゚;;-゚)「ん、美味しい」

( ^ω^)「そうかお」

(#゚;;-゚)「大丈夫ですか?こんな顔で」

( ^ω^)「別に大丈夫だお」

(#゚;;-゚)「ありがとう……」

それ以上、会話は続かず、私はただ夢中に、鶏の唐揚げを食べる。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:40:55.81 ID:fsM/IbshO
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最後になった、鶏の唐揚げ。
それは、私が手を伸ばすより早く、ブーンの手によって、皿を空にした。

( ^ω^)「やっぱり、まだまだ……だお」

(#゚;;-゚)「何がですか?」

( ^ω^)「唐揚げだお」

(#゚;;-゚)「そんなことないです、とても美味しいですよ?」

( ^ω^)「でも、僕が食べた中じゃ、まだまだだお」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:45:32.88 ID:fsM/IbshO
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いつの間にか、誰もいなくなった店内。

そこは、水が一滴落ちる音さえ、しっかりととらえられる程に、静まりかえっている。

その静寂、それを打ち破るのは、ブーンの声。それと、私の声。

( ^ω^)「昔、ずっと前に食べた唐揚げがあるんだお」

( ^ω^)「一回しか、食べたことはないんだけど」

( ^ω^)「僕の誕生日、その日に二人の女の子が作ってくれたモノだお」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:49:03.04 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;-゚)「…………」

( ^ω^)「別に、美味いわけじゃなかったお」

( ^ω^)「ただ、凄く優しい味がしただけだお」

(#゚;;-゚)「そうですか」

( ^ω^)「くだらない理由で、ごめんお」

(#゚;;-゚)「いや、いいんです」

(#゚;;-゚)「多分、の話しですけど……聞いてくれますか?」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:54:13.87 ID:fsM/IbshO
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雪崩のように崩れた、流れた、押し潰した。

長い間、胸に留めていた何かが。長い間、胸を占拠していた何かを。

ブーンの話しを聞いた後に、すぐ後に。

(#゚;;ー゚)「私の想像だよ?」

いつしか忘れていた。笑み、緊張、私。

それが蘇ったのを感じた、懐かしいモノに触れて。

(#゚;;ー゚)「一人の女の子は、あなたを見守っていて」

助けられなかった、親友の顔を思い出して、胸の奥がキュンとなる。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 00:59:54.67 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;ー゚)「もう一人の女の子は、あなたが好きでした」

捨ててしまった、昔の自分を思い出して、胸が弾ける。

ずっと昔から流していない涙、それが頬を伝った。
古い火傷を、チクリと濡らしながら。
その涙は、留まることを知らない。
しかし、その涙は、無理矢理にでも止めた。昔よくやっていたから、雑作もないことだ。

大事な事を言うには、失礼だと思ったから。


(#゚;;ー゚)「多分……、今でもきっと」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:03:09.86 ID:fsM/IbshO
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( ^ω^)「でも…

(#゚;;-゚)「すいません、くだらない話しで」

(#゚;;-゚)「あなたの思い出、それを汚すつもりはなかったんですけど…………」

( ^ω^)「……………いや、平気だお」

先程まで、少しくらい顔だったブーン。
だけど、そうに言った瞬間に、いつもの顔に戻る。



42: ◆lirqr6DwLQ :2008/04/02(水) 01:08:01.02 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;-゚)「本当にすいません、変なこと言っちゃって」


( ^ω^)「ん、平気だお」

(#゚;;-゚)「私、そろそろ帰ります。ところで、いくらですか?」

( ^ω^)「お、600円でいいお」

そう言って、彼はニコヤカに笑った。何時も、私にも見せてくれていた笑顔で。

(#゚;;-゚)「それでは」

財布から、600円を取り出しブーンに渡す。
そして私は、慣れた手つきで顔を布で覆う。

(#゚;;-゚)「どうも、ご馳走様でした」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:12:17.52 ID:fsM/IbshO
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ガラララッ

店を出ようとする、この店に来てよかった。
本当は、ずっと前からこの店のことは知っていた。
でも来れなかった、その理由は、ただ、怖かったから。

それでも、勇気を出して来て良かった。

ずっと夢見ていた、私には見せてくれなかった、ツンといょぅにしか見せてくれなかった暗い表情。
それも見えたから。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:15:49.99 ID:fsM/IbshO
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(#゚;;-゚)oO(頑張ってね、ブーン)

店を出て、引き戸に手をかける。

その時、今の自分にはちょっと辛い、ちょっと悲しい言葉。
それがいつの間にか向かい合わせにいた、ブーンから聞こえた。

( ^ω^)「また来てくれお、この店は、ツンといょぅとしぃの店だお」

( ^ω^)「だから……」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:19:49.61 ID:fsM/IbshO
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( ^ω^)「君が来るのを、待ってるお。ここは、君の居場所でもあるから」

( ^ω^)「ありがとうございました」

(#゚;;-゚)「………」

居場所、私の居場所。

あの日から、一度も感じたことのない居場所。

病院のベッドの上で、実家の店で、一人暮らしをしている部屋で。

一度も感じたことのない、持つことを許されなかった、私の居場所。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:23:12.34 ID:fsM/IbshO
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それが、ここにある。

そう言ってくれた、受け入れてくれた………

それが嬉しかった。


(#゚;;-゚)「うん、またね………」

それだけを言うのが、精一杯で、私は踵を返し店から遠ざかる。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/02(水) 01:27:01.99 ID:fsM/IbshO
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「またねっ!」

後ろから聞こえたブーンの声、それと懐かしい二人の声。
ツンといょぅの声も、重なって聞こえた気がした。

私は振り返り、思いっきり手を振った。

(#゚;;ー゚)ノシ"

今まで、昔の自分を捨て、自分を守るため殻に閉じ込もった彼女。

そんな彼女から、

自然と零れた、昔の笑顔。
自然と戻った、昔の表情。
それがそこにあった。



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