( ^ω^)オムさんがまとめてしまったようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:03:11.65 ID:FD5b4Q/10
今日も今日とて、そこには新しい世界が広がっていた。

ファンタジー、青春モノ、SFバトル、ギャグ……。

様々なジャンルの小説が飛び交い、それを話題に盛り上がる住人達。

「お、投下来てる。久々の更新だなぁ……」

僕はその中から、纏めている現行と気になったモノを開いた。

「……う〜ん、いい展開だ。続きが気になる」

読み終わった小説の余韻に浸りながら、僕は自分のサイトを開いた。

飛び込んでくる「オムレツ」の文字。
管理人ページを開いて、いつものように現行作品を更新した。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:07:20.73 ID:FD5b4Q/10
「今日はこんなもんかな……お、なんぞコレ」

ようです検索でひっかかった一つのスレッド。
タイトルから察するに、ブーン系小説ではないようだ。

好奇心だけで中を覗いてみる。

「……なんだこれ」

そこには、つらつらと「男」の生活が語られていた。
なんの盛り上がりも見せず、ただただ日常を読まされる。

「変なの」

決して読ませる文章じゃない。
それどころか、抑揚のないストーリーは不気味ですらあった。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:08:40.36 ID:FD5b4Q/10
「スレの空気も静かだな」

支援もwktkも嵐もない。
sage進行でもなければ宣伝もつかない。

「でも、なんか気になるんだよな……」

その小説の主人公は決して漫画に出てくるヒーローではなかった。

頭が悪いわけではない。
外見は中の上。
運動神経もそこそこ。

特殊能力を持つわけでもなく、非日常に巻き込まれるわけでもない。

そこには、平凡な男の平凡な日常が描かれていた。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:10:47.98 ID:FD5b4Q/10
特別親近感を覚えるわけではなかった。
でも、僕はこの男が嫌いじゃない。好きでもない。


気になっているのは、このスレの存在そのものだ。


その夜、僕はそのスレを纏めることにした。
一応、そのスレ主である作者にまとめ許可の申請をしてみる。



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/0/()
まとめてもよろしいでしょうか?



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:12:12.53 ID:FD5b4Q/10



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/0/()
どうぞ



意外にあっさりと。
期待外れの普通の返事が返ってきた。

「こんな変なのまとめたら、また『質が落ちた』とか言われるかな?」

ま、いいや。
気にしない気にしない。

僕は自分が「気になったモノ」をまとめているだけだ。
営利目的でもない。

僕はブーン小説が好きなだけなんだ。
結果的にみんなが喜んでくれるのは嬉しいけど。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:15:58.74 ID:FD5b4Q/10
翌日。
帰宅した僕は、さっそく2ちゃんねるを開いた。

「……ん、反応はなしか」

……少しの、違和感。

あれだけ奇妙な小説なのだから、皆食らいつきそうなものだけど。

少しだけ首をかしげて、すぐにスレの巡回作業に戻った。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:18:32.04 ID:FD5b4Q/10



――――またあった。


早いな。連日投下か。

早速そのスレッドをクリックする。

スレの空気は(ある意味では期待通り)静かだった。

内容も展開も変わらず。
何が面白いんだかわからない小説が投下されている。

皆ロムってるんだろうか。
相変わらずレスがない。

「はは……すげ、皆空気読んでるんだとしたらマジすごいな」

その日のスレは投下終了も告げず、ひっそりとdat落ちしていった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:20:46.90 ID:FD5b4Q/10
「今日もあのスレ来てるかな〜」

最近の僕は、帰宅してすぐPCを立ち上げるようになっていた。
ようです検索をかけたものの、例のスレッドは見つからなかった。

「……ちぇ」

いつのまにか、あのスレにはまっている僕がいる。
小説の内容にではない。

閑散とした、不気味なあの空気に惹かれていた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:27:14.57 ID:FD5b4Q/10
外出先でも、僕はあのスレが気になるようになっていた。

なぜ誰もレスしないのか。

気になるのはこの一点。
もちろん僕のサイトに載っていても、必ず話題になるわけじゃない。

でもあの小説を覗いてしまったら、誰もが気になるに決まってる。

「内容は普通なんだよな……悪い意味で」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:29:26.46 ID:FD5b4Q/10
ある日。
僕は変な書き込みを見つけた。


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
オムさんがたまにバグるのは俺だけ?

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
kwsk

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
さっき見たけど普通だったぞ

94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
なんかトップ画面がおかしくなるんだよな


「……マジで? なんだろな」

自分のサイトを確認してみたが、どこにも変なところはない。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:34:25.29 ID:FD5b4Q/10
その書き込みが一つだけならば、僕はそんなに気にならなかっただろう。
ただ、「オムレツバグ」の報告は一人だけではなかった。


102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
こないだ変なところクリックできた

103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
何を今更・・・それ散々ガイシュツだよ

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
いや、オムさんのブログじゃなくて、違うトコクリックできた

105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
>>104
話を聞こうか

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
画面がバグって、すぐに戻っちゃったよ。
ノートン先生は落ち着いてたからウイルスじゃない



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:40:40.39 ID:FD5b4Q/10
そのコトをきっかけに、あの小説が少し話題になっていた。


181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
オムレツの新作どうなの?

182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
あれブーン系じゃなくね?

183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
あのスレの静かさは異常


「なんだ……皆知ってんじゃんあのスレ」

僕は何を期待していたんだろう。
あの小説は僕にしか見えていない、なんてB級ホラー映画みたいな展開を?


あの小説を知っているのは自分だけ……


そんなことも錯覚させるようなあの空気に、僕は酔っていたのだろうか。
かといって、ブーン系小説の住人はそのスレの空気を壊すことはなかった。
淡々と投下される小説をレスもつけずに見守るだけ。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:42:41.85 ID:FD5b4Q/10
小説の主人公は、いつしかブーン系小説にはまり、自らまとめサイト「オムライス」を立ち上げていた。
レイアウトやブーン系小説内でのポジション、様々な共通点がある。

「あらら。僕をモデルにしだしちゃったよ」

オムレツでまとめたからだろうか。
作者は主人公を僕に似せて作り上げてきた。

案の定、そのことは巷で叩かれている。



201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
オムレツの自作自演なんじゃねーの

202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
オムレツ乗っ取られちゃうNE!



……どうやらその飛び火が、僕にまで来ているようだ。
身に覚えのないことを言われるのは、誰だって不愉快になるものだ。

でも反論しない。
だれだってしない。僕もしない。
反論する気にもなれないし、必要性を感じない。

でも僕は、この言葉の何かが気になっていた。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:49:45.86 ID:FD5b4Q/10
いつものように検索ページを開いたとき。
僕はおかしなことに気付いた。

毎日巡回できるわけじゃないが、なるべくPCは開くことにしている。
それでもやっぱり投下を見逃してしまうなんてザラにあることだ。

でも、あの小説を見逃したことは一度も無かった。

今夜も投下がされている。

「ちょっと、タイミングよすぎないか……?」

引きずり込まれるように僕はスレッドを開いた。

再び湧き上がる高揚感。
日常に入り込む非日常。


そんな浅はかな期待は、少しずつ恐怖に侵食されていった。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:53:12.91 ID:FD5b4Q/10
「この主人公……自分でも小説書き出したのか……」

何気なく呟いた言葉は、自分がまるで現実の自分とはかけ離れた存在のように思えた。

何言ってるんだ……?

僕は、僕だ。

ブーン系小説まとめサイト、「オムレツ」の管理人だ。

僕が、僕なんだ。


なのになんで、この小説の主人公は。



僕の考えていたストーリーを知っているんだ?



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:53:50.91 ID:FD5b4Q/10
「なんだよ……コレ……」

確かに僕は自分でもブーン系小説を書くことがある。
それでもそれは、ごくたまに。

今まで投下してきた小説なんて、それこそ数本だ。

でも、最近いいネタが思いついたんだ。
まだ文章にはせず、電車の中や仕事中に、ボーッと考えていただけ。

そう。

盗まれるはずがないんだ。

「ぐ、偶然……そうだ、偶然だよ……」

呟きながら小説を読み勧める。

いつのまにか、主人公は僕と共通点を多く持つようになっていた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/26(水) 23:55:12.28 ID:FD5b4Q/10
毎日投下されるようになった小説。
毎日チェックしてしまう僕。


怖いのなら、見なければいいのに。


誰かの声がする。


怖いんだ。
あのスレを見ないことが。


小説の中の僕をチェックしないと、いつか僕が僕の目の前に現れそうで……。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:01:10.39 ID:q3bYjk4S0
何時に起きたか。

何を食べたか。

誰と会ったか。

よく見ると、少しずつ違う。
でも、少しずつ同じ。

小説の中の僕は、少しずつ僕に近づいていった。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:03:11.14 ID:xfc8gWVB0
それは突然にやってきた。

いつものようにPCを立ち上げた僕は、お気に入りからオムレツをクリックする。

しかし、オムレツの管理人ページは開けなくなっていた。

「あ、あれ? おかしいな。パスワード打ち間違えたかな?」

再び手元を睨み直して、今度は慎重にキーボードを叩く。

「……開けない」



諦めて、通常通りにオムレツのトップページを開く。

「あれ」

開かれたページはいつもと同じようでどこか違う。


トップページの文字は、「オムレツ」から「オムライス」に変わっていた。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:06:29.83 ID:xfc8gWVB0
「……え」

目の前のものを理解できない僕の脳裏に、「乗っ取り」という単語が浮かび上がる。

気配を感じて、後ろを振り向く。
そこには、いつもどおりの壁があるだけ。

続けて襲い掛かる、止まらない寒気。
震える指を操作して、「オムレツ」でググってみる。

出てくるのは調理方法ばかり。
以前までは、自分のサイトが上位に来ていたのに。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:09:41.13 ID:q3bYjk4S0
誰も気付いていない。
某スレも気付いていない。

小説の主人公は、僕になってしまったことに。



……違う。

この小説の主人公は、僕じゃない。

僕に酷く似た、『僕になろうとしている誰か』だ。





「違う……これは僕じゃない……僕じゃないんだ!!」





小説は、不気味な小説を纏めてしまった管理人の苦悩で終わっていた。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:13:16.73 ID:q3bYjk4S0








あの日から、僕は自分のサイトを開いていない。
2ちゃんねるすら見ていない。








102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:18:09.76 ID:q3bYjk4S0
そんな僕が、久しぶりにブーン系小説の話題を耳にしたのは、全くの偶然だった。

仕事に向かう電車の中。
たまたま耳に飛び込んできた、二人組の高校生の話。

二人とも食い入るように携帯の画面を見つめている。
右側に立っていた高校生が、画面から目を逸らさずに呟いた。


「花東さんが変な小説まとめだしてるよ」



――――ああ、そうか。


あのスレは、どこかでまた誰かになっているんだ。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/03/27(木) 00:19:29.38 ID:q3bYjk4S0









誰でもない、誰かに。









( ^ω^)オムさんがまとめてしまったようです おわり



戻る