('A`)理想桃源郷のようです

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:38:55.75 ID:UpTKW9GcO
 4  ラストマジック

ξ*゚听)ξ「ドクオさん! お帰りなさい!」

('A`)「ただいまです、ツンさん」

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま、お姉ちゃーん」

絵本みたいな家に入ると、トマトの煮詰まる香りが鼻に満ち満ちた。

ζ(゚ー゚*ζ「今夜はミートソース? 私、バジリコの方が好きなんだけど」

ξ゚听)ξ「あら、ごめんなさい。ミートソースしか用意してないわ。我慢して」

ζ(゚、゚*ζ「えぇーっ。……まぁ、良いけどね」

二人の会話を聞いていると、やはり同じ家で暮らした仲の良さが垣間見える。
二人と一緒にいると、家族というものの暖かさを感じる。

ξ゚听)ξ「ドクオさんは、ミートソースで大丈夫かしら?」

('A`)「はい、大好物です」

こんなもの、感じた事無かった。
何だか、すごく心が緩くなって、笑えてくる。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:40:43.10 ID:UpTKW9GcO
 
少しすると、皿にこんもり盛られたスパゲティに、ミートソースがたっぷりかけられ運ばれてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「頂きまーす!」

ξ゚听)ξ「デレ、今フォーク持ってくるから、ちょっと待ってなさいよ」



その夜は、本当に暖かい時間だった。
こんな時間、上にいるときには一度も無かった。子供の頃だってだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、そうだ、お姉ちゃん」

ξ゚听)ξ「何かしら?」

ζ(゚ー゚*ζ「お母さん達に、会いたいって思ったことはある?」

ξ゚听)ξ「……無いわね。大体、思ってたらこっちに来てるわよ」

その言葉を聞いて、食後くつろいでいた俺は飛び上がった。

(;'A`)「え!? 地上にも、望みは届くんですか?」

ξ゚听)ξ「……知らない人はいないと思うんですけど、そうです」

ξ゚听)ξ「でも、あんまりやると地上がおかしくなるそうですから、やめた方が良いですよ」

('A`)「はぁ……おかしくなる」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:42:14.04 ID:UpTKW9GcO
 
('A`)「でも、こっち側には地上の事なんて」

ζ(゚ー゚*ζ「な、か関係ありますよ。大アリです!」

デレはびっくりして、フォークを取り落とした。

('A`)「……すいません、詳しく」

ζ(゚ー゚*ζ「良いですか、ドクオさん。まず私たちは、不死ではないんです」

ζ(゚ー゚*ζ「……無論、それを望んだとしても。ユートピアでは、命に関わる望みは聞き入れられないんです」

デレはスパゲティを1巻き口に押し込み、咀嚼する。

ζ(゚ー゚*ζ「それから、私たちは妊娠する事が出来ないんです。何故かは分かりませんけどね」

デレは話をそこまでにし、あとは挽き肉をかき集めて皿を空っぽにしていた。
言われなくたって、結末が容易に想像できる。

(;'A`)「つまり、地上から時々人が来なければ……滅びる!?」

('A`)「って、尚更地上から人呼ばなきゃいけないんじゃないの?」

二人をずっこけさせるつもりは無く、本心からそう思っていた。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:45:09.80 ID:UpTKW9GcO
 
ξ;゚听)ξ「……ドクオさん」

ζ(゚ー゚;ζ「良い? 私は子供を産めないんです」

ζ(゚ー゚*ζ「だというのに、ポンポン地上から人を呼び込んで、ここが見つかったらどうするんですか?」

('A`)「……確かに、そりゃあ問題だ」

こんな夢の世界があったら、誰だってここに押しかける。

('A`)「うん、分かった。地上に深く干渉する望みは持たないことにするよ」

ζ(゚ー゚*ζ「うんうん、それが良いです!」

デレはこくこく頷いて、立ち上がって、俺の手を引いた。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、ドクオさん。もう寝ましょう? 今日は疲れたでしょう?」

そう言えば、今日は光になってばかりで、本当に疲れた。
お言葉に甘えて、デレに連れられてベッドルームに向かった。

('A`)「……部屋の真ん中に、一つの大きなベッドと……他は?」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

えじゃなくて。あなた方がベッドで寝るとして、俺は床? ですよねー。
急な客人ですもの、文句は言いません。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:47:21.54 ID:UpTKW9GcO
 
ずいぶん戸惑った反応をしてしまって、デレは困っていた。
そして、こう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「……あの、ドクオさんは私と姉と、一緒のベッドじゃダメですか?」

('A`)「是非ともそうして下さい」

即答して、ベッドの真ん中に飛び込んだ。その隣に、デレがおずおずと横たわる。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん、ちゃんと布団の中に入って下さいよー」

(;'A`)「あ、ごめんね。つい……」

布団の中に入ると、彼女の肩が当たる。
少し離れようと思ったが、これ以上行くとツンの邪魔になるだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん、そこだと姉が狭いでしょうから、もっと近くに寄って下さい」

デレが、こっちを向いてそう言う。なら、仕方ない。行くしかない。
心の中で雄叫びをあげながら、ちょろりと進んだ。

彼女は、少し悩んでから、こう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「……『もっと近付いてほしい、私を抱きしめてほしい』」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:49:05.87 ID:UpTKW9GcO
 
(;'A`)「うわびっ!?」

その瞬間、自分の体が訳の分からない何かに乗っ取られた。
迷うことなく、彼女と密着し、彼女を抱きしめられた。

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ、『離さないでほしい』」

彼女がそう言うと、もう俺の腕は全く言うことをきかずにデレをがっちりと離さなくなった。

(;'A`)「……すげえ、魔法みたいだ」

危うく噛んで、マシュマロみたいだと言いそうになったが、
それでも間違ってはいない。華奢な体に、姉と違って豊満な胸。

(;'A`)「……『電気が消えたらいいのに』」

パチン、と音がして、電気のスイッチが切れた。

真っ暗なら、寝れると思う。少なくとも、この疲れた状態なら。
目を閉じる。デレのおっぱいが瞼裏に浮かぶ。あぁ駄目だ。

('A`)「『この両腕が自由に』……」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん。ひとつ注意しておきますけど……」

望みを唱えようとした俺を、彼女は制した。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:51:05.79 ID:UpTKW9GcO
 
ζ(゚ー゚*ζ「自分の体の状態や姿に関する望みは、3回までしか許されてないんですよ?」

('A`)「……出鱈目?」

ζ(゚ー゚*ζ「……はい、出鱈目ですとも」

素直に認めるのも可愛かったので、我慢して眠ることにした。
当然、こんなにくっ付いて布団を被っていたら暑いけれど、それも我慢せざるを得なかった。

しかし、やはり落ち着かない。俺はデレに話しかけた。

('A`)「デレさん。今俺は、すごく幸せなんです」

ζ(゚ー゚*ζ「私もです。こうして一生暮らせたら、嬉しいな」

('A`)「……一生なんてもんじゃない。何百回でも生まれ変わって、デレさんと生き続けたい」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん、私も」

やがて、デレは目を閉じ、寝息を立てはじめたが、こっちは全く寝つけずにいた。
そのうちやって来たツンにも頼んだが、妹の望みをうんたらかんたらで放置された。



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