('A`)理想桃源郷のようです

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:53:23.08 ID:UpTKW9GcO
 5  ロストマジック

(;'A`)「はぁ、こりゃマジで寝れんな」

少し動いただけで、デレの胸が強く押しつけられてくる。

('A`)「寝るのは諦めるか……」

仕方ないな、と、うそぶき、デレの寝顔を見つめている事にした。

朝、初めて会ったときから、世界中のどんな女の子より可愛いと確信した。
とりあえず、俺の中ではそれは間違いない。

そして今も、その思いが揺らがず、なおかつそいつは俺の腕に抱かれたがった。

('A`)「……『デレさえ生きてりゃ、桃源郷なんて無くていい』な」

俺はそう言って、デレにキスしようとしたが、彼女の額までしか届かなかった。

('A`)「……ん?」

外が、急に暗くなった。
もちろん、もとより暗いのだが、窓から射していた月光も街灯の光もなくなり、
まさに深淵の闇に包まれた、といった体だ。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:56:03.94 ID:UpTKW9GcO
 
不意に、腕が軽くなる。自由になったのかだろうか。
うん、腕は動く。両腕とも、動かないべきである腕まで、しっかり動く。

(;'A`)「……デレ? デレ!!」

慌てて手を振り回すと、ひどく小さな胸を掴んだ。
ツンさんか? きっとそうだろう、この感触、覚えがある。

しかし、反応が見られない。彼女の寝息も聞こえない。

('A`)「……ん? 誰だっ!」

ヒュー、と風が流れて、誰かが枕元に立った気がする。
その気配に、怒鳴った。

川 ゚ -゚)「……ドクオ。とんでもない事を望んでくれたな?」

('A`)「その声……『最高権力者』!!」

聞き覚えのある声は、瞋恚に満ち満ちていた。

(;'A`)「どういう事だ? これは何事なんだ!?」

川 ゚ -゚)「この理想桃源郷の理だ。人の望みには代えられない」

川 ゚ -゚)「理想桃源郷は消滅する。貴様がそう望んだからな」

あぁ、そうか。それで怒ってるのか、アンタ。そりゃあそうだよな……。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 03:57:30.09 ID:UpTKW9GcO
 
('A`)「……デレは?」

川 ゚ -゚)「鍾乳洞に運んでおいた。ここに放っておいたら、死ぬかもしれんからな」

デレが無事だと安心すると共に、俺は立ち上がった。
電灯の傘が頭に当たったことは、砂漠に落ちている砂粒ぐらいに細かく、どうでもいい。

(;'A`)「ここにいたら死ぬのか!? 教えてくれ、ここは何処だ!?」

川 ゚ -゚)「ここは、理想桃源郷……跡地。これから、お前が最後に望んだ力によって、地層の一部となるところだ」

川 ゚ -゚)「やがて、地面が上がってきて、そのうち天井とぶつかり、みんなぺしゃんこだ」

(;'A`)「そんな……助かる術は無いのか?」

川 ゚ -゚)「鍾乳洞まで行ければ、或いはな。だが、暗闇の中たどり着き、お前にあの崖を登れるか?」

権者クーは笑った。地響きが鳴り、地面がせり上がって来たように感じる。

(;'A`)「やれる……やってやるさ!」

闇雲に走りだそうとして、デレの笑顔が脳裏に浮かんだ。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 04:00:15.69 ID:UpTKW9GcO
 
ξ--)ξ「……」

(;'A`)「おい、起きろ! 起きてくれ、ツンさん!!」

ツンの頬を、何度も叩いた。それでも反応は見られない。

(#'A`)「しょうがねえな……おりゃあっ!!」

しかし、救わなくてはならない。ツンがいなくなれば、デレだって不幸だ。
ツンをお姫様だっこして、ドアにタックルした。

川 ゚ -゚)「……正気か、ドクオ。その体では、崖など登れんぞ?」

(#'A`)「五月蝿え!! やってみなきゃ分からんだろうが!!」

川 ゚ -゚)「なら、止めはせん……」

地響きに混じってそう言って、それを最後に、クーの気配は消えた。

さて、外に出た匂いはするが、ここからどう進めばいいだろうか。
何の道標もないが、記憶だけを頼りに左に駆ける。
一応、広い道にはなっていた。あの道だとしたら、間違ってないはずだ。

(;'A`)「頼む、ここから一本道であってくれ……!!」

もう望みが叶う世界ではないが、俺は必死に祈っていた。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 04:02:04.95 ID:UpTKW9GcO
 
どれだけ走ったか分からない。倒れそうになりながら、ツンだけはしっかり抱えていた。

(;'A`)「くそ……本当にこっちで合ってるのか?」

そう疑いだした頃、走る道の遠くに、不審物が見えた。

( ・∀・)「おーい、ドクオー!!」

(;'A`)「何だあれ……『金の管理者』か!!」

地面から全身を出し、猫のような姿をしたそいつは、闇に浮かび上がっていた。

彼のそばまで来ると、そこで止まるように言われ、素直に立ち止まる。

( ・∀・)「この上に、鍾乳洞の入り口がある。俺が走り出したら、ついて来いよ!」

('A`)「あぁ、分かった。感謝するぜ」

地震はやまない。
正直、この異質な生物を信用すべきかは分からなかったが、自分よりかはずっと信じられた。

( ・∀・)「そろそろ、そろそろ……行くぜっ!!」

(;'A`)「よしっ!!」

硬い地面を踏んだとき、思わず上げた声が響いて、そこが洞穴だと分かった。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 04:04:23.51 ID:UpTKW9GcO
 
( ・∀・)「ぼーっとすんな、ドクオ! ここも崩れちまうぜ!」

(;'A`)「マジか……マジだな、行こう!」

一瞬疑いかけた俺の頭に、こつんと石が落ちた。

猫のように走る猫みたいな生き物を追い、急勾配の滑りやすい道を駆けていく。
心臓が早鐘を打つ。どこか血管が切れているかと思うぐらいに苦しい。

( ・∀・)「見えた! 桃源郷の出口だぞ!」

(;゚A`)「……本当だ、どうにか……」

どうにか助かった、と言おうとした瞬間、すぐ後ろからガラガラと幾つもの石片が落ちる音。

しかし、大丈夫だ。
あとは下り坂、もう出口は目前、薄く明るい鍾乳洞が見える。

( ・∀・)「とおっ!」

最後の段差、生き物は華麗にジャンプした。

( ・∀・)「ドクオ、早く!!」

分かってる、と返事しようとした瞬間、足首を打つ、転がってきた落石。

(;゚A`)「うっ!」

ずしりとした痛みについ膝を折れ、ツンを投げ出しながら大きく転倒した。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/05(土) 04:06:11.06 ID:UpTKW9GcO
 
ツンは、猫をクッションにして、傷つかずに済んだようだ。
その奥に、デレも眠っていた。

(;゚A`)「……ハァ、ア……」

何だか、それだけで十分な気がした。

(;・∀・)「おい、ドクオ!! 諦めんじゃねーよ!!」

生き物が、俺を必死に呼んでいる。

でも、分かる。今から立ち上がったって、どうせ間に合わない。
背中を打ってくる岩、頭を打ってくる岩、体を埋めてくる岩。

個性があるっていいね、やっぱり。チームワークとも言えるかな。

(#・∀・)「ドクオオオォォッ!!!!」

鍾乳洞で、生き物の声が木霊した。



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