('A`)は世界に魔法を見つけるようです
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:06:43.26 ID:iherNopz0
- *
地震が多い。
それが一大事として扱われるようになったのは、王の御用邸が
地震により崩壊したときからだった。
幸い被害者はいなかったが、鍛冶を趣味とする始祖王が伝統文化と
最新技術の融合を目指した建物である。
王の受けた衝撃は大きかった。
-
臨時会議を招集し、特別予算を計上。地震対策班は総務卿の配下に置かれた。
しかしひとたび会議を離れれば貴族たちの正直な声も聞かれる。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:07:51.47 ID:iherNopz0
- 「始祖王の遺産維持には金を取られすぎた」
「既に新産業の象徴としての役割の終わった建物が崩壊したとて
どうだというのだ」
「いや、あれは美しい建物ではあったぞ」
「いまなにに金を使うのか、という話だよ」
「さよう。雨に強いノト麦の交配試験場はいくらあっても困ることはない」
結論は、形式を重視、実質を軽視した折衷案。
余剰人員をあつめ、その集合に「地震対策班」と肩書きを与えるだけ。
そうして集まったこの三人。
川 ゚ -゚)
( ^ω^)
('A`)
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:09:25.27 ID:iherNopz0
- *
「……やっぱり原因は不明だけど、ある程度のデータは集まったよね……」
「こうやって揺れの多い地点を地図でみると、西に原因があるのは明らかだお」
「ということは出張だな」
「え……出張!?」
声をあげたのは小柄で体力と無縁と見える男だった。
眉間にしわを寄せ、恨みがましく言った。
「そうだ。現地に行ってみればまたなにか分かることもあるだろう」
「そうだお。それに西と言えばシーベイの美食が楽しめるお。
東のガラトナ、西のシーベイといえば美食地域の代名詞だお」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:11:39.40 ID:iherNopz0
- それがいやなんだと訴える目を見ずに、ブーンはうっとりと
閉じたまぶたの裏に美食を映し出している。
「誰が生の肉なんか食べるか。しかも魚。絶対に腹こわすよ。
シーベイまでの道のりは今でもモンスターが出るって話じゃないか」
そう言いたいのはやまやまであったが、班の決定は班長であるクーが下す。
そしてクーは、ひさしぶりの成果が出せそうな出張に前向きだ。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:13:11.60 ID:iherNopz0
- 三人のいる部屋は、デスクが三つ置かれた以外は資料棚が並ぶばかりの
ただ広い部屋。
資料室にデスクを持ち込んだという風である。
窓から見える丘陵地帯には緑が波打ち、野うさぎが跳ねている。
暖かな空気は国の平和を象徴するが、しかしそれは、南向きの部屋に
資料を持ち込んでいるという地震対策班の台所事情をも示していた。
「ドクオ、出張費の申請しておいてくれ。ブーンは装備を買出しに行ってほしい」
「わかったお!さっそく行ってくるお!」
「たのむ」
「ブゥーン!」
太い体に似合わぬ敏捷さで弟と呼ばれた青年は部屋を飛び出していった。
残された二人に流れるのはわずかな沈黙。
そしていつも、沈黙を破るのはドクオだった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:14:44.58 ID:iherNopz0
- 「な……生の魚ってなんか気持ち悪いんだよね……」
「気持ちは分からなくもないが、調査に行かなければならない。わかるだろう。
覚悟を決めて、気持ちを切り替えてくれ」
「わかってるよ」と心の中でつぶやく。それでも長旅は苦手だ。
体力的につらいというだけではない。
それによりまわりに迷惑をかけることが、何よりも嫌いだった。
静かに、力量にあった仕事だけをしていたかった。
そこにブーンが「おさいふ忘れたお!」と飛び込んできて、
「じゃ、またいってくるお!」と飛び出していった。
ブーンを見送り気持ちを落ち着けた後、ドクオは「申請に行ってくる」と
いい残して部屋を出た。木の扉が悲しくきしんだ。
背中で「帰ってくるまでにマパ茶を用意しておこう」という声を聞く。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:15:46.86 ID:iherNopz0
- *
ドクオが申請を済ませて班室に戻ると、クーがマパ茶を片手に
古い資料を見ていた。それは隣国の魔法使いの日記。
各地の情報を集めていた時に見つけた、山ほどある無意味な資料の一つ。
ドクオは足音を立てずに部屋の中央に進み、ちらとクーを見る。
窓際の棚に無理なく腰を乗せる足の長さ。むしろ無駄遣いしない
優しさを湛えた小さな胸。
逆光にも透けない黒髪。昔から美しいその横顔。
「……本当に魔法なんてあったのだろうか」
ドクオは申請書の控えをクーのデスクに置きながら、目を合わせずに返事をする。
「全部当時の人たちの妄想だったっていうこと?」
「おや、帰っていたか」と言うクーは、ドクオが戻っていたことも
気づいていなかったのだろう。ドクオのデスクに乗っているマパ茶を
あごで指し、日記に目を戻した。
マパ茶はあたたかく、香り豊かだった。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:16:31.60 ID:iherNopz0
- 「……妄想ということではなく、魔法使いがいたことはもちろん知っているが……
魔法使いを『魔法を使う人』ととらえていては間違いではないか、とな」
「……魔法使いが魔法を使わなかったら、なにをつかうのさ」
「それだ。結論から言えば『すごい道具使い』だったのではないかと思う」
「すごい道具?……神具みたいな?」
「理解が早いな」とクーが視線をドクオに向ければ、ドクオはさっと視線を外す。
ドクオは昔からクーの視線が苦手だった。
それが「苦手」ではなく「恥ずかしい」だということに気づいたのは19の時。
それ以来、自分に「いや、あくまで苦手なのだ」と言い聞かせてきた。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:17:52.14 ID:iherNopz0
- *
クー・ブーン姉弟とドクオの出会いは親に連れられて行った
博物館でのことだった。
他国から借りた神具を一つぽつんと置いただけの神具展だったが、
人の入りは上々だった。展示されていたのはボロボロの槍だったか。
神具に神々しさよりもなにか親しみを感じていたドクオの後ろから
クーが「神具とはいえ、これではただの槍だな」と言った。
そのとおりだと思いつつ、クーの両親とドクオの両親は
いつのまにかケンカをしていた。
神具に神性を見るドクオの両親と、唯物的なクーの両親がケンカをし、
ご近所さんだと知り、家族づきあいをするまでに時間が
かからなかったことの原因が子供同士の交流にあったことを
ドクオは知らない。
利発なクーとお調子者のブーンが思慮深いドクオにいくつもの
質問を投げかけているうちにいつの間にか仲良くなっていた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:19:29.52 ID:iherNopz0
- そしてドクオの両親は流行り病で死ぬ。
一人残されたドクオを、クーの両親は引き取って育てた。
クーの両親は、既に親友となっていたドクオの両親の意向を充分に汲み取り、
ドクオにはできるだけ「ドクオの両親ならどのように教えるか」ということに
心を砕いて教育をしていた。
そうしていつしかクー、ブーン、ドクオの三人は物に宿る人の
気持ちを大切にする青年に育っていった。
三人は役人になった。クーの父親が役人だったからだ。
しかしクーの父も酒場で死んだ。他人のいざこざに巻き込まれた。
三人がクーの父が結構な実力者だったと知ったのは、
父の死後、周囲が敬語を使わなくなった時だった。
若いクーは、大人の汚さに触れた気がした。
そして、三人は窓際に置かれ、やがて地震対策班に組み込まれた。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:20:57.15 ID:iherNopz0
- *
「神具を使いこなす技術に長けた人が魔法使いと呼ばれたのではないだろうか。
そう考えれば、無理なく理解できる」
「無理なく、って?神具が超常的な力を持っていることに納得するなら、
魔法の存在そのものに納得してもおかしくないと思うけど……」
「……なるほど。それも理屈だな」
わずかに曲がった口角がクーの笑顔なのだとドクオは知っている。
二人はマパ茶を静かにすする。
日光がホコリっぽい部屋を切り取るように差し込んでいる。
「道具屋で青薬草がアホほど安売りだったお!」とブーンが飛び込んでくるまで
二人は無言だった。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:22:42.39 ID:iherNopz0
- *
シーベイへ向かう前日。クーは王への謁見が許された。
「十分な広さ」を縦横高さ全て倍した謁見の間で、
クーは、王が事態を深刻に見ていることを知った。
そう思った理由の一つは、王室所有の神具『ギラの杖』を
下賜貸与されたことだった。
強く念ずれば熱線を出すといわれる『ギラの杖』は、30年ほど前の戴冠式で
当時の王子たる今の王が振ったと聞いている。
その時、確かに12本のたいまつに火がともったというが、
しかし失敗しても火はつくように仕掛けがしてあったとか。
これはクーの父が酔ってうっかり漏らしたことであった。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:23:21.10 ID:iherNopz0
- 謁見の場で王は杖を二度ほど振り、「既に余に扱う力あらず。
されどこの杖あらば、道中領民援助惜しまぬことこれ王家の威光なり。もてゆけ」
と申された。それにはクーも納得した。
理由のもう一つは王が『ルーラの扉』の使用を認めたことだった。
王室管理の『ルーラの扉』は領内のいくつかの場所と通じており、
そこまで一瞬で移動できるという。
これは王室以外の使用は記録になく、王の使用許可を聞いた大臣からは
驚きの声が上がった。
謁見の間を辞するクーに王がかけた「頼む」という言葉にクーは真心を感じた。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:24:06.72 ID:iherNopz0
- *
「おっ!『ルーラの扉』を使えるのかお!?」
「えっ……本当に……?」
「うむ、王が直々に仰ったことだ」
マジかよ……と不安になっているのはドクオだけで、クーはあくまで冷静、
ブーンは小躍りして喜んでいる。
「おっおっおっ!シーベイまでひとっ飛びだお!楽しみだお!」
「それは無理だ。途中のボサまでしか行けない」
「……え、なんで?」
「『扉』の調子が悪いのだそうだ。……昔はシーベイまで行けたようだが、
いまではボサが限界らしい。東もガラトナまでが限界で、オパークスまでは
行けないそうだ」
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:26:15.78 ID:iherNopz0
- 「おっおっおっ!それでもいいお!ひとっ飛びだお!ドクオ!
ビューンだお!ドーンだお!」
喜ぶブーンは気づかないが、ドクオは心配になっていた。
いまはボサまで行けるのかもしれないが、ひょっとしたら
『ルーラの扉』を使う瞬間になってボサすら行けなくなるかも
知れないじゃないか。そうしたら空中に放り出されるかもしれないぞ。
ドクオはこんな心配をする自分を好きではないが、
起こってしまう不安はどうしようもない。
『扉』は王の見守る中で使われるという。
クーは「旅姿ではなく、おしゃれ着でもかまわないのだろうか」と
女らしい心配をしていた。
そうして翌日の午後、王の見守る中、三人は『扉』を開けた。
自分の周りの空気ごと不思議な力で引っ張られる未体験の感覚に
埋もれながら見た世界の景色は、ドクオの胸につよい衝撃を残した。
世界というものを少しだけ知ったと思った。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:27:32.98 ID:iherNopz0
- *
ドーン!という大きな音とともに足元にショックを受けた。
扉に入る前に背筋を伸ばして立っているよう言われたのはこのためだと分かった。
気を抜いていたら折り重なって倒れてしまっていただろう。
舞い上がったほこりの向こうから僧侶が近づいてきた。
僧侶は三人をノト麦の穂でなで、旅の祝福を祈る言葉を
優しい笑顔でかけてくれた。
石造りの建物が、少しだけ暖かく感じられた。
ブーンは「ありがとうだお!」と気持ちよく言い、クーは言葉遣いをたしなめた。
「さっそくですが、シーベイへ続く道はどこから入れましょうか」
「町外れの門から繋がる道がそれです」
クーの質問に僧侶が答える。
そして「しかし、王からはこの町での宿泊を用意するよう言われておりますので、
僧侶と同じ食事しか用意できませんが、お休みくださっても構いません」と言った。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:29:10.48 ID:iherNopz0
- 王に言われて用意したのが僧侶と同じ食事だというのが
納得行かない顔のブーンに代わってドクオが「ありがたく
休ませていただきます」と頭を下げた。
ドクオは、昨年の不作により僧侶もあまり協力できないのだとわかった。
僧侶の申し訳なさそうな顔に、かえって申し訳なかった。
暗い食堂での夕食後、僧侶は宗教家が始祖王から受けた恩について
遠い目で語り、祈りの時間だと言って礼拝堂に入っていった。
先に食べ終えたブーンは、部屋の中を歩き回ったが、
殺風景な食堂には楽しめる発見は見つけられなかった。
「さて、お食事も頂いたし、少し体を動かしておこう」
クーがそういうのにはわけがある。
明日から三日かけて歩くシーベイへの道のりは、狼などの獣が出る道なのだ。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:30:15.74 ID:iherNopz0
- *
クーは入省前の適性訓練で騎士コースに配属され、その訓練は
毎週欠かしていない。ブーンも同様に戦士コースに配属された。
二人とも、いざ戦争となれば前線に出ることを命じられる。
これがこの国特有の「役人皆兵制度」であった。
身分の安定と同時に戦時の戦力となることで、平民からのねたみをそらし
また信頼を得る制度は、始祖王の考えたもので、これは近隣諸国でも
一部実験的に取り入れられた。
ドクオは指揮官コースであったが、これは肉体的戦闘適性がなく、
さらに特殊技能もない者の放り込まれる「役立たずコース」であった。
なぜなら、騎士コースであろうと戦士コースであろうと、
戦医コースであろうとも指揮官としての教育は受けるからだ。
それでも、おちこぼれの地位の中でドクオは戦略に
興味を持って取り組んでいた。今では知識だけなら若手のトップだ。
明日以降、三人の身を守るのはクーの剣とブーンの斧、
そしてドクオが運び手となっている
使えるかどうかも分からない『ギラの杖』である。
クーが少しでも剣を振って感覚を研ぎ澄ませようとするのは道理だった。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:32:09.16 ID:iherNopz0
- *
夜風が涼しい。
教会は森に近く、たっぷりと葉をつけた背の高い木が何本も立っている。
しっとりと黒い幹は夜露を地面に逃がしていて、森の中から
吹いてくる風はなお涼しい。
20分ほど素振りをした二人は、寸止めの模擬戦を5分ほどして汗を拭いた。
ドクオはその間、『ギラの杖』をぶんぶん振ってみたが、
何一つ「ヒノキの棒」との違いを見出せなかった。
「ブーン、もっと守りを考えたほうがいい。足捌きが苦手な君が
そう斧を振り回していては狙いが外れた時に無防備になりすぎるぞ」
「おっおっおっ!いいんだお!絶対当てるから大丈夫だお!」
「絶対に当てることができる戦士などいない。姉の言葉を聞きなさい」
「聞け」より「聞きなさい」の方が強いことがある。
ドクオはぼんやりと、仲いいなあ、などと思っていると、
クーが弁舌の矛先を変えた。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:33:12.76 ID:iherNopz0
- 「ドクオ、どうなのだ『ギラの杖』は。使えるのか?」
「使えるっていうか……杖としてなら使えると思うよ」
「杖ならドクオの旅の必需品だお!」
うまいこというとドクオは思ったがクーはさらに聞いてきた。
「ただ振るのではなく、集中して振るのだと王は仰っていたぞ。集中はしたか?」
集中……。それはしていなかった。ならばとドクオは再び杖を構え、
熱線をイメージしながら振ってみた。しかし静かな杖はやはり杖だった。
「……ただの杖だね」
クーとしては、魔法とは神具が持つ力の発現であるとの仮説を目の前で覆され、
「では、王は自分の魔法の力でたいまつに火をつけたのだろうか……。あるいは
すべて仕掛けによって火をつけたのだろうか……」と独り言をいうしかない。
「まあお守りみたいな物だと思っておこうよ」とドクオは言い、
少し湿った地面に横になって空を見上げた。クーはまだ考えている。
ブーンはブンブンと斧を振り回していた。
そしてドクオは『ルーラの扉』が見せてくれたあの光景を思い出していた。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:38:42.97 ID:iherNopz0
- 世界は三次元だった。そう思った。
どんな高い塔に登るより、どんな精緻な地図を見るより、
厳しく正確に世界は三次元だと気づいた。
小さな時に一度だけ乗った気球とも違う、圧倒的な移動感。
落ちれば死ぬ高さにおびえるより、「下にもなにもない」という
開放感に酔いしれた。
あんな世界を、もう一度みて見たいと思った。
「ドクオ、そこで寝るのはやめたほうがいい。アリの巣が近くにある」
寝息を立てるドクオにクーが言った。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 00:40:56.13 ID:iherNopz0
- *
翌朝、僧侶に見送られて旅立つと、三人はともかく西へ向かった。
しかし昼までまだ時間があるのに「疲れた」と音をあげたのは
やはりドクオだった。
「ごめん……。なんだったら二人で先にいってくれていいから……」
申し訳なくてつい卑屈になる。
ブーンは「ゆっくりしながらいくお!」と言ってくれた。しかしクーは
「君が後から私たちに追いつくプランは、実現可能性の点からどうかな」と
論理を言う。
どうせ休憩してくれるならそんな論理は言わないで欲しかった。
道中、遠くにウサギが見える。弓があり、腕もあれば今夜の食事にできる。
しかし弓も腕もなかった。ウサギは草むらのなかに消えた。
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