('A`)は世界に魔法を見つけるようです
- 118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:04:51.51 ID:iherNopz0
- *
南北の新港は、北が漁業用、南が流通用となっている。
他国からの荷は南港におろされ、ゼッゼローネに運ばれる。
ゼッゼローネまでの輸送費がかからない分、港での買い物はお得だ。
「失礼、古い漁師に話を伺いたいのだがどちらにおられようか」
話しかけられた港湾作業員は、え……と言葉を詰まらせる。
慌ててドクオがかしこまらない話し方をした。
「えっ……と、すいません。漁師さんはいませんか?」
「……あー!そういうことか!なんだびっくりしたよ。
『オラリョーカ』ってなにかと思った」
「はは……すいません。できるだけ昔を知ってる漁師さんに
会いたいんですが……」
「っていっても、こっちに漁師はいないよ。漁師はみんな北港さ」
だってさ、と振り返ると、そこには誰もいなかった。
クーはさっさと北へ歩き始め、ブーンはみやげ物屋から
タコの串焼きを持ってあらわれたところだった。
- 121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:06:12.42 ID:iherNopz0
- *
北港では魚が水揚げされる。しかし今は休み時間のようだ。
海に突き出た突堤のそこかしこで昼食を終えたのだろう漁師が、
うまく海風を避けて昼寝をしている。クーは一人の漁師に話しかけた。
昼寝を邪魔された漁師は迷惑そうだったが、クーの譲らない態度を見て
渋々一番の古株漁師の居場所を教えてくれた。
……それは食堂の料理長だった。
「なんだお!ぐるっとまわってスタート地点かお!」
「……まあいいじゃん。探す手間も省けたわけだし」
「前向きに考えよう。我々の労力が身を結んだのだ」
海を背にして食堂へ向かう。
ドクオがふと振り返ると、沖の島がこちらを見ているような気がした。
- 122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:07:22.94 ID:iherNopz0
- *
「海……?地震の話じゃなかったのか?」
老人は二度手間を責めるような口調だが、また寄ったことを
歓迎していることは、仕込み途中で手を止めて話をしてくれたことで
明らかだった。オバチャンはいないらしく、料理長みずから出してくれた
お茶は食事用のセ茶ではなく、ティータイム用のマパ茶だった。
数年前まで老人は海に出ていた。始祖王から賜った包丁も、
漁師が魚を捌くためのものだった。老人が引退する時、漁師たちの総意として
包丁を老人に贈ったのだという。
そういって壁にかけられた包丁を見る老人に、ドクオが「本当に美しい
包丁ですね」と言うと、老人は優しい目をした。
「それで……いろいろ聞いてみたんですが、原因は海にあって、
海の異常が、陸地では地震として現れてるような気がするんです。
……なにか思い当たることはありませんか……?」
「そりゃあ……ある」
「あるのかお!」
クーが言葉遣いを嗜める。
叱られながらブーンは勝手にマパ茶を継ぎ足し、また叱られている。
「……港へは行ったか?」
- 125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:09:13.84 ID:iherNopz0
- 行き、聞き込み、戻ってきた事情を話すクーに続いて
「……美しい景色でした」とドクオが言えば、老人の顔にシワも増える。
「沖に島があるのに気づいたかもしれんが……昔はあの島が漁師たちの
仕事場だった」
ああ、あの島かとドクオは思う。クーはどの島かわからないブーンに
説明をする。
「昔の漁師は何日もあそこに詰めて、魚をたくさん獲ったら
まとめて港に戻ったんだ。……島は小さく見えるが、まあ近くまで行けば
結構な大きさでな。賑わっていたもんだ」
「……それがどうなったんです?」
「……恥を晒すようだが、ある日突然波が荒れてな、帰れなくなった。
ワシは……十二、三歳だったか……昔は子供のころから海に出たもんだ。
……何日も待った。獲った魚も食い尽くしちまった。ある日急に
海が安らいだんで意を決して船を出したんだが……港までたどり着くと、
また海が荒れ、二度と凪ぐことはなかった。
……それ以来、島には近づかずに港で漁をしてたんだが、
波が港まで押し寄せるようになって旧港をあきらめ、新港を作ったんだ」
老人はマパ茶をすする。あいたカップにブーンが茶を注ぐ。
少しクーが誇らしげだ。
- 127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:10:26.08 ID:iherNopz0
- 海になれた漁師が帰れなくなる波とはどのようなものだったろう。
それが急に発生し、一瞬だけやみ、再発後はずっと荒れているという。
いったいなにが起こったのだろう……。
「あの、じゃあその、それって今から何年前なんですか?」
ちょうど60年前だと老人は言った。
「じじい72歳かお!元気だお!」という言葉は途中でクーが遮った。
*
翌日。食堂前。
オバチャンが激怒している。
「料理長になにかあったら店はどうなるんだい!」
話は前日までさかのぼる。
- 129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:11:16.14 ID:iherNopz0
- *
クー、ドクオ、ブーンは老人から話を聞いた後、宿に戻って話し合った。
一度島に行く必要があるという結論は、予期していたものだった。
問題は手段だった。荒れた海を越えてどうやって島まで行くのか。
王都に戻って気球使用の申請をするか。しかし老人の話では
風も強く、気球が使用できるとも思えない。
船をこぐ技術など三人にはない。
頭をひねっているとブーンが真面目な表情で言った。
「これはすごい提案かもしれないお……。いきおいよく走ったら
海の上をブーンって走れるかもしれないお」
二人は聞き流し、やはり老人に相談することにした。
ブーンはまだ水上滑走の可能性を一生懸命シミュレートしていた。
ドクオが「斧が重いから無理だよ」というと、しまった!という顔で
あきらめた。
そして夕食は宿で済ませ、客入りのピークが過ぎた食堂へ向かった。
- 131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:11:58.54 ID:iherNopz0
- 老人に相談すると、何人かの漁師ならおそらく船で送ることができると言った。
しかしその漁師の紹介を頼むと、それは断られた。
技術は申し分ないが、なによりあの島に行ったことのない若者であり、
もしもの場合を考えると紹介などできない、と。
そして付け加えた。自分なら腕も知識もある、と。
三人は、最初それが立候補であると気づかなかった。
なにを言われているのかわからずに呆然としていた。
しかしそれが合理的だと気づいたクーが、丁寧にあらためてお願いした。
老人は、始祖王のため、始祖王の偉業を守ろうとする現王のため、
包丁を誉めたドクオのため、たくさん食べたブーンのため、
きれいなネーチャンのため、漁師は船を出すのだと笑った。
- 133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:12:54.29 ID:iherNopz0
- *
「どうするんだいっていってんじゃないのさ!」
オバチャンは一歩も引く気配を見せず、老人がどれほど食堂に
必要なのか、罵倒混じりに述べ立て、ついには泣き崩れた。
老人は困った顔をしている。
クーはカバンから紙を一枚出し、なにか書きこんでからゆっくりと
オバチャンの前に跪き、紙を見せて言った。
「……これは王からの命令書です。裏に料理長をお借りする事情と、
それに快く応じてくださったことを書いておきました。
……もしなにかあれば、これを王に直接お渡しください。
料理長の命と見合う額ではありませんが、皆様が数年は飢えない
額の補償が受けられるはずです」
クーの頭には、三人の殉職補償金を充ててくれるだろうという思惑があった。
オバチャンは金の問題ではないと言いたかった。
しかし、跪き自分の目線で話す騎士風の美しい役人の思いは、
受け取りたくなくとも充分に伝わってしまった。
老人は泣き止まないオバチャンに寄り添い、二言三言声をかけた。
ドクオは「あ、好きなんだ……」と思った。
- 134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:15:05.15 ID:iherNopz0
- やがてオバチャンは泣き止み、顔をごしごしとこすると
顔を上げて笑顔を見せた。クーは中年女性の純情と強さを見て、
少しだけ自分が弱くなった気がした。
「あの……一応帰ってくるつもりでいるので……はやまって
王都に駆け込んだりしないでくださいね」
ドクオが言った言葉に、みな笑った。
四人は港へ向かう。
オバチャンは手も振らずに厨房へ駆け込んだ。
だれも振り返らなかった。
- 135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:16:49.93 ID:iherNopz0
- *
「これは……すごいお!うわ、うわあ!」
「しっかりつかまってろ!波打ち際が一番厳しいぞ!」
「左前、海面下に岩!」
「知っとる!」
振り返れば岸は遠いのに、島が見えない。
どこだと探すと、波間から巨大な島が現れる。
視界を覆いつくすような波が、彼らの船を襲っていた。
老人個人所有の小船は波間で翻弄されているかに見える。
しかし巧みに舵を操る老人の力量か、確かに島に近づいていた。
押し寄せる壁のような波に舳先を立て、また受け流しながら
ジグザグを描いて徐々に島に近づいてゆく。
ドクオは港を離れてすぐに気持ち悪くなり、いまや打ち上げられた
マグロよりさらに死んでいる。
ようやく岸にたどり着きそうになっても、岸にぶつかった波が
跳ね返ってきて船の接岸を阻む。何度か挑戦して、ここでは
接岸できないと老人は叫び、他の岸を探すと言った。
するとブーンが船の後端で「待つお!」と言った。ロープをかついでいる。
そのままブンブン言いながら舳先まで走ったかと思うと、ブーンと叫んで飛んだ。
これにはさすがのクーも目を丸くしたが、ブーンは見事に島に降り立った。
- 136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:18:05.62 ID:iherNopz0
- 振り返り拳を高く突き上げるブーンは誇らしげだったが、
老人は「ロープの端っこがこっちに結んでねえ!」と叫んだ。
その後、ロープの端っこをうまく投げられないブーンに三人は
罵声を浴びせつつ、とうとうロープで島と船をつなぎ、四人は
上陸することができた。
「……はあ……はあ……はあ……」
「……ふう。弟よ、……む、まあよくやった。船が波で岸に叩き
つけられると困る。船ごと島に引き上げておいてくれ」
「おっおっおっ!ねえちゃんに誉められたお!船はあげておくお!」
「……おい、小船とはいえ船だぞ!無茶をするな!」
と言った老人が見たものは、ロープをたぐりよせて、上機嫌で
船を引っ張りあげるブーンの姿だった。誉めればやる子なのだ。
ボートを引き上げる姿を見て、クーは風が島の周りだけを舞っていて、
島自体にはそよ風程度しかないことに気がついた。やや気圧が低いか。
物陰で胃液を吐いていたドクオは、口元をぬぐって顔を上げると
視界の端に動くものを見つけて目が釘付けになった。
- 138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:18:57.27 ID:iherNopz0
- それは目玉のついた巨大なイソギンチャクとでも言うべき容貌で、
触手をゆらゆらさせながら大きな一つ目でこちらを見ていた。
自分の目が信じられずにごしごしと目をこする。
再び目を開けると、そこにはなにもいなかった。しかし、そこに見間違う
ようなものもなにもなかったことが、かえって先ほどの光景に
現実感を与えた。ドクオはよろよろと立ち上がって、クーに言った。
「……なにかおかしいよ。ここ」
「なにがだ?ともかくいまいる位置を確認しよう。ご老体」
「ふん。ここは地図でいえば……ここだ。東端の舳先にあたる」
「東端……。以前漁師たちが仕事場としていたのは南端でしたな」
「そうだ。道はあるはずだ」
「では移動しましょう。ブーン!」
ブーンは船を引っ張りあげて、腰を落ち着けてタコの串焼きを
かじっていたところだった。食料は全てブーンが持っている。
ドクオは少し荷物分担を考え直す必要があると思った。
そんな彼らを、目玉が見ていた。
- 142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:20:14.60 ID:iherNopz0
- *
「なんだこいつら、ハ……漂流者じゃないな、ハ。船が無事だ、フ。
……監視は続けてくれよん、ホハ」
*
島は直径一キロほどの円形をしている。料理長の話では全域が森に
覆われており、一部を切り拓いて漁師の仕事場としていたという。
島の中央部は山になっており、反対側は様子が知れない。
森はどっしりと重厚であり、爽やか過ぎる空気が森から降りてくる。
風が爽やかなのは、そこに動物臭がないからであったが、
それに気をとめるものはいなかった。
島の南側に着くと、まずは持参した食料で食事にした。
ドクオはあまり食べる気はしなかったが、それでも義務感から
いくらかは食べた。
食後、料理長がセ茶を出す中、クーは話を切り出した。
「確かに島は思ったよりも広いな……。ここは三方向に手分けして探索しよう」
「ま、待って!ちょっと、それは……実はさっき変なものをみたんだ」
「変なものってなんだお」
そこでドクオは自分の見たものを説明した。臆病ゆえの幻視では
ないことを強く主張し、見間違うような草などもなかったことを付け加えた。
- 144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:20:55.39 ID:iherNopz0
- 「……そうなるとツーマンセルが妥当だろうか」
「え、待ってよ。料理長にも探査に加わってもらうの?」
「そうだ。ここに残って荷物番と食事係だけやってもらうということは
つまり一人でいるということだ。違うか?」
「ワシは一人でも構わんぞ」
「我々はあなただけでも無事に送り返したいと思っています。そこは
ご了承いただきたい」
「じゃ、じゃあ、誰が料理長と組むの?」
「それは私だろう」と事も無げにクーは言う。
撤退の判断ができるのはクーとドクオであり、より戦闘力の強いブーンと
組むべきは、より戦闘力に劣るドクオであるべきだ。
そういうことをクーはより堅い言葉で言った。
しかしドクオは強行に反発した。
ブーンは自分の言うことを聞かないクセのようなものがついている。
ブーンを抑えられるのはクーだけだ、と主張した。
クーはそれにも一理あると認め、ドクオは「もしもの時に料理長を
守るために盾になろうとするクーを見たくない」という本心を
話さずに済んだことにホッとした。
- 146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:22:00.40 ID:iherNopz0
- 老人の話では島の反対側、つまり北側にも小屋があるという。
そこで、ドクオ・老人組は島の西を回って小屋へ、クー・ブーン組は
上陸地点までの道のりなら分かるということで東側を回って小屋へ
行くことになった。
- 148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:22:29.43 ID:iherNopz0
- *
西に回ってはじめてわかったことだが、島の西側は森ではなかった。
料理長に言わせると「確かに全島生い茂っていたんだ……」と
納得のいかない様子だったが、その点を熟慮するより前に
島の北側まで到着してしまった。少し先に小屋らしきものが見える。
「……異常、なしとは言えないわけですよね?」
「昔は西側にも確かに森があった。間違いはない。
それがなくなっているのだから、異常はあるってことだろうな」
「異常……あり、と」
クー・ブーンパーティーはまだ北の小屋には到着していないだろう。
ドクオたちは小屋に入り、補強が必要なところを探した。
漁師が利用していたという小屋は、構造はしっかりしていたが、
年月が経っているだけにいくつか要修繕箇所が見つかった。
クギは持参していたので、使用しない部屋の壁を剥がして補強にあてる。
ドクオが指示し、料理長が動いた。ドクオが動こうとするのを
料理長が制したからだ。
そうして料理長は包丁と料理の話をし、食材と生息地域、
釣り方などの話をした。
- 149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:23:22.16 ID:iherNopz0
- 日が傾くころには補修も完了し、二人は濃いコーヒーで休憩する。
砂糖を多く入れ、体力快復に努める。漁師の知恵では魚の油も入れるらしいが、
ドクオの持っていた砂糖を入れたコーヒーには料理長も満足したようだ。
「……じゃあ、あの包丁が研ぎすぎで細くなったらどうするんです?」
「そんときぁ、まあ諦めるしかないだろうよ。……道具だからな。いつか
どうしようもなく壊れるもんだ」
「……でも手入れが行き届いてるみたいですね」
「おうよ。まあ俺が生きてるうちにはどうにかなることぁねえよ」
「はは……クーたち遅いですね……」
という言葉に料理長が返事をする前に、遠くから爆音が聞こえた。
次いでモンスターの啼き声が聞こえた。
ドクオは、啼き声に理性がないことを察知して小屋を飛び出した。
- 150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:24:41.70 ID:iherNopz0
- *
東側のルートをクーとブーンが担当したのは、上陸地点から広場まで
なら一度通っているため、土地勘のある料理長がいなくても
問題ないと考えられたためだった。
しかしいざ足を進めようとすると、森に阻まれて視界がきかない。
探査のためには何度もルートをはずれ、森に入っていかなければ
いけなかった。
「おっおっおっ!ブーン!ブーン!」
森の中ではブーンの斧が道をひらいた。邪魔な枝などを切り払って
調査した。クーは後を確認しながらブーンに続き、ルートが
見えなくなる地点まで来るとブーンを制止した。
「そこまで。特に異常はみあたらないな」
「ブーンは道を切り開く〜」
「では次は……そろそろ日も暮れるか?探査は打ち切って
合流場所まで急ぐか……」
「おっ!?まだまだいけるお!もっと道をつくるお!」
「仕事を意識しなさい。どうせ明日もあるのだ。明日も活躍してもらうぞ」
「そこらで妥協しておくお」
「こいつめ……」
軽く握った拳でブーンを叩くふりをする。ブーンは大げさに避けるフリを
するが、クーは動きを止めた。その視線はブーンの後方に向いている。
「……あれはなんだ?」
森の中、20メートルほど離れたところに縦横2メートルほどの、
苔むした岩がある。
クーは一瞬、その岩が動いたように感じた。
- 153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:25:30.20 ID:iherNopz0
- *
「なんだって、ハ?今回はあっちに出ちまったのか、ハ?
上陸したやつもあっち側にいる、フホ?
……どうしたもんかな、ハ……しゃあねえ、フ」
*
クーがその岩に近づこうとすると、どこから声がした。
それが人間の声であることはあきらかだ。
とっさにクーとブーンは背中合わせに身構えるも、声が助けを求める
ものであると気づき、声の主を探した。
「だぁれか、ハ、たァすけてくれ、ハ……」
声は今きた道の方から聞こえる。先ほどはなかった声だ。
クーは警戒をしつつも助ける気持ちが強くなっていた。
「どちらにおられるか。もう少し音を立ててください」
「ここだハ、ここだハ……」
「あっ、あそこだお!」
ブーンの作った道から5メートルほど奥まったところで
老人が倒れて、禿頭がうなだれている。弱弱しい老人であることは
ひと目で見て取れたが、クーは油断しなかった。
「……ご老体、どうされた」
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