('A`)は世界に魔法を見つけるようです

154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:26:29.35 ID:iherNopz0
「たぁすけて、ハ……」

「ご老人、杖はどこだ」

「杖……杖!?杖は……どこにやったかな、ハ……」

「ねえちゃん、早く助けるお」と茂みに入ろうとするブーンを
押しとどめて、クーは足元の枝を拾った。ブーンが切った枝だ。
そして老人の足元に放り投げて言った。

「ご老人、それを杖にしてこちらまで来られたらよかろう」

「そ、そこまで歩けそうにねえ、フホ……」

「ではどうやってそこまで入った」

老人の視線が一瞬止まる。クーが小さく「構えろ」と言う。
老人がなにかつぶやく。「しゃーねえ、ハ」と言っただろうか。

うなだれていたシワとシミだらけの顔を上げて、二人を見て、
目を見開いて言った。

「……静かにこっちにこい、ホ」

二人は反応しなかった。この老人は只者ではない。少なくとも、
弱いフリをすることを手段とし、何らかの目的があるはずだ。
その目的が分からない以上、警戒は解けない。
クーは一瞬も目を離さなかった。

しかしブーンは一瞬だけクーを見た。そして背景の異常に気づいた。



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:32:40.63 ID:iherNopz0
自分の目を疑うなどということはせず、ブーンは異常を確信した。
先ほどの岩が動いている。

苔むした岩はそこから何本もの太い枝を生やし、その枝が
地面に突き刺さっている。突き刺した枝はいまや力を込め、
岩を持ち上げようとしていた。

「ね、ねえちゃん……あれ……」

「目をそらすな!」

岩はもはや完全に八本の太い枝を脚として地面から浮いていた。
ようやくブーンは気づいた。これは巨大なクモだ。

「ねえちゃん!クモだ!」と叫ぶと同時に、巨大なクモは
何かを吐き出して、それはクーを確実に捕らえた。

クモが吐いたのは粘性の糸のかたまりだった。

糸はクーの肩にあたり、いったんクーを突き飛ばしてから
粘りついて引き寄せた。予期しない方向に大きく揺り動かされたクーは
「う」とうめいたきり、気絶している。

目の前で姉をさらわれたブーンは、迷わずすぐに駆け出した。
駆けつつ斧を両手で持ち、クモまでの距離を測り、タイミングを合わせて
振り下ろした。

しかしそれは堅い脚に阻まれた。
弾かれた斧を持ち直し、もう一度振り下ろすも再び阻まれた。



155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:28:19.17 ID:iherNopz0
「ねえちゃんを離せお!くそっ!くそっ!」

老人は少し驚き、感心した顔でその様子をしばらく見ていたが、やがて
頭をかきながら申し訳なさそうに笑った。

「やるねえ、ホハ。へッへッへ……」とつぶやくと、
背筋を伸ばして歩き出した。

「坊主、ハ!もっと素直に振れ、ハ!」
 力を抜け!打ち込もうという気持ちで脚が止まってる、ホハ!」

「目標を見ろ、ハ!脚を狙ってもしょうがねえ、ヘハ!」

何度目かの注意にブーンが反応した。「どうすればいいんだお!」と。
老人は嬉しそうに「くぅ〜」と、また笑う。ブーンは素直だ。

それからいくつか指示を出す。こうしている間にも、クーは
クモの糸の締め付ける中で弱ってゆく。ブーンは一つも聞き逃さずに、
動きに反映させた。

「……いまだ!ちょんと跳ねるように前に出ろ、ハ!」

トン、と地面を蹴るとブーンはクモの全ての脚の内側にいた。



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:29:32.79 ID:iherNopz0
周りを見、自分が懐にもぐりこんだことを確認すると、斧を力いっぱい
左に構えた。老人は「違う。小さく突き込め」と思ったが、
言うより早く行動に出ていた。クモの口がブーンを狙って光っていたからだ。

「トベルーラ!」

老人は呪文を唱えると、ブーンのところまで低空で飛んだ。
そのままブーンを突き飛ばすと、自分も一瞬で退いた。

わずか前までブーンがいたところにイオの爆発が起こる。
クモはしとめたと思ったか、大きく啼いた。



ドクオは小屋を出て音のした方を探すと、爆煙を見つけて
走り出した。料理長もそれに続く。

「無事でいて……、無事でいて……!」と声をしぼり出しながら
走るドクオに料理長が追いつく。その手には包丁が握られている。

「おいっ!聞いておくが、お前なにをするつもりだ!?」

「僕にはギラがある!」

杖がわずかに光っていた。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:30:17.86 ID:iherNopz0


「もう一度やってみろ、ハ。今度は懐にもぐりこんだら、小さく
 突き出すんだ、ホハ。一撃で仕留めようと思うな、ハ!」

ブーンはうなずいて再びクモに向かう。「思い出すねえ、ヘ」
などと老人は懐かしむ表情だ。

ブーンは今度は脚に対しては防御に徹し、
体勢を崩さずに少しずつ前に進みながら機会を狙う。
それでも弾き飛ばされつつ、しかし徐々に距離をつめる。

三度目のチャンスで、ブーンは落ち着いて斧をクモの腹に突き出した。
とぷ、と突き刺さった刃を抜く前にひと捻り入れる。傷口が広がる。

ドクオが到着したのは、ブーンがそこからいったん離れた時だった。
ブーンは、老人の「手負いになった瞬間は凶暴性が増す」との教えを
聞き逃してはいなかった。

「ブーン!クーは!?」

「おっ!ねえちゃんは捕まってるお!クモの頭の上にいるお!」

「いいか、ハ?次はあいつの動きも鈍る、ハ。そうすれば
 活路は見える、ホハ。落ち着いていけ」

ドクオは宙で締め上げられているクーを認め、顔を真っ赤にさせて
杖を握り締める。クモははじめて攻撃を受けて、もだえている。
クーもクモにしたがって大きく揺れている。

「おい!お前はなにができるんだ、ハ?俺が指示してやる、ホハ」

老人はうすら笑顔でそう言ったが、ドクオは聞いていなかった。
クーを見て、クモをにらんで、クモの腹に傷を見つけると、そこに杖を
向けて叫んだ。

「ギラ!」

閃熱が襲う。熱線周囲の空気が膨張して、葉を焦がす。
狙いはあやまたず、クモは腹を焼かれて身をよじった。

そこを見逃さずに料理長はクモの糸を包丁で切り、
クーを救出した。老人は包丁に糸が絡みつくと思ったが、
すんなりと切れて拍子抜けした表情だった。

「なんだ、ハ?ずいぶんな名刀だな、ハ」

「……これは包丁だ。……お前誰だ」

「ファハハ!包丁か、ハ!へえ〜」

「見るお!あいつまだ動くお!」

「ああ、動くだろうなあ、ハ。刺されたショックでひるんでたのが
 さらに攻撃を加えられて獰猛になってんだ、ハホ」

「え……?」



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:33:21.92 ID:iherNopz0
また大きくクモが啼く。燃える木の葉が啼き声に震えている。
ドクオは冷静になって状況を考えた。

これではクーを助けて、クーも含めた全員の命を危険に晒したも
同然だと気づいて奥歯をぎゅっと噛んだ。

悔しさに呑まれそうになったが、同じことを繰り返すわけにはいかない。
クモは今はまわりが見えていない様子だが、怒りがおさまれば
攻撃を再開するだろう。
落ち着いて、撤退が最も生き残る可能性が高いと判断した。

「みんな、ここはいったん逃げます……!」

意識を失ったクーを抱えるブーンと、料理長がうなずく。
そして、老人は首を振った。

「……あなたもはやく。肩を貸しますから」

「いーや、それはムリだな、ハ。あいつのイオは狙いが正確だし、
 クモの糸の射程も思ったより長い。たぶん脚も速いぞ、ホハ。
 逃げらんねえ、ヘハ」

「……いいから!」

腕をつかんで引っ張ろうとすると、なぜだか腕をつかめなかった。
老人は腕を動かしていないのに、まるで老人の腕のまわりに
妙な気流があるかのごとく、ドクオの手はそれた。



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:34:09.46 ID:iherNopz0
「まあ、見てなって。ここはもうしょうがねえ、ハ。
 片付けるしかねえ、ヘハ」

掴めなかった自分の手と、掴まれなかった老人の腕を見比べて、
ドクオはようやく老人の顔を見た。

細い腕。シワとシミだらけの顔。なぜこんな老人がこんなところに
いるのだろう。疑問に思いながらももう一度腕を掴もうとしたが、
今度は老人の腕が動いてつかめなかった。

老人は左手をクモに突き出し、親指と人差し指で「C」の形を作った。

クモはこちらに気づいたようで、もう一度大きく啼くと、
八本の脚で這い走ってきた。人の頭ほどもある岩が脚に弾き飛ばされて
木の幹に激突し、木に深刻な傷を残しつつ砕けた。
ドクオの想像以上に速い。これでは逃げても追いつかれたかもしれない。

老人の判断は逃げてもムダだという意味では正しいと感じた。

「少し離れてな、ハ」

そういう老人をドクオは見る。左手の「C」の中でなにかが
強く光って渦巻いている。この光には見覚えがある。



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:34:49.36 ID:iherNopz0
ドクオが『ギラの杖』を使う時、杖が一瞬出す光に似ており、
その何倍も凶暴だった。
「まさかこの人も神具を持っているのだろうか」と思うと、
老人がつぶやいた。

「悪いな……。なんとか帰してやりたかったんだけどよ、ホ。
 残念だ……。本心だぜ、ヘハ。

 ベ・ギ・ラ・ゴ・ン……!」

閃熱が、全てを覆う。



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:35:42.90 ID:iherNopz0


「……あの、そろそろ何かお話してもらえないですか?」
「つってもなあ……、ハ。お前ら信じないぜぇ、ヘ」

ランプひとつで足りる小屋。料理長は外で夕食の準備をしている。
なにを喋っても息が漏れるような老人に、クーは挑むような視線を送る。

ブーンは老人の指示でうまく戦えたことが嬉しいのか、
妙になついていることも、今は気に入らない。

何より戦闘開始と同時に気絶した自分が許せなかった。

「海が、荒れている。陸では、地震も、起きている。
 なにか知っていることがあるのなら、話してもらいたい」

冷静を装うが恥辱の戦線離脱が頭から離れない。

自分がこれまでやってきた訓練が無意味だとは思わない。
しかしあの時自分が老人を警戒するなら、なぜ岩を見たブーンの言葉を
軽視したのか。

道理に合わない失態が、今回は全滅の危機すら呼び込んだ。



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:36:28.00 ID:iherNopz0


クモが閃熱により絶命すると、老人はドクオたちのショックを無視して
コーヒーを要求した。
まだクモから煙がもうもうとたっているのに、余裕の態度を見せた。

「そうだ、ハ。夕飯も欲しいな、ホハ」というので、
腰を落ち着けて話をするために小屋に移動した。

既にあたりは暗かったが、老人の案内で迷わなかった。
老人がこの島に詳しいことの証左がそろったとクーは思った。

熱いコーヒーをおそるおそるすする老人によれば、
老人がクモに対して魔法を使ったのは、神具の力ではないという。
では魔法使いなのかと聞くと、ニヤリと笑ってそれも違うといった。

クーの「魔法使い神具使用者説」は完全に否定された。
もっともクーはまだ「神具不使用は老人の自己申告に過ぎない」とも
思っている。

「へっへっへ……まあ、話すだけは話したっていいんだ、ホハ」

クーが目でドクオに速記を指示する。ドクオは慌てて筆記用具を出す。



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:37:31.17 ID:iherNopz0
「ん、まあ……魔法力をよ、貯めてんだ、ハ。んで、まあいろいろ
 理由があってよ、人が近寄っちゃ危険だな、ハ、ってことでな、
 俺がバギマを薄く張り巡らせてる、ホハ」

「穴を開けたいんだ……ハ。わかるかい?ヘヘヘ……」

「モンスターは、まあ、たぶん濃い魔法力で引き寄せられてるんだろ。
 リリルーラで『魔法の誤解』が起きてるんだろうな、ハ。
 ありゃ魔界のモンばっかりだしな。
 地震は……魔法力が地盤に影響を与えてる……ってことはあるかもな、ハ」

ドクオは途中で筆記をやめていた。言っていることが何一つ理解できなかった。
これがシーベイの酒場なら酔い過ぎた老人のおとぎ話にもなるだろうが、
老人の実力は目の当たりにした。

「ね、ねえ……これ、そのまま書くの?」

「ちょっと待て……待ってくれ……」

クーは額にてのひらを当ててうつむいている。飲み込めないのだ。
口が何も言わずに動いている。
料理長がランプに油を継ぎ足した。

「……なんで穴なんか開けたいんだお?どこに開けるんだお?」

ブーンが興味深そうに聞いた。

「へっへっへ。仲間がよ……いるんだ。大事な仲間なんだ。
 そいつがまあ、魔界にいるってわかったのが100……何十年も前かな。
 俺は……へっへっへ、魔界まで穴を開けて、あいつを迎えるんだ」



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:38:39.74 ID:iherNopz0
「なにもわからん!」

突然クーが反応した。大声にドクオはすくむ。

「まず、魔法力とはなんだ!そして魔界とはなんだ!」

クーの質問に、老人はキョトンとする。そして何度か
宙に視線をやりながら言った。

「あー……、まずよ、ホ、大魔王バーンって知ってるか?ハ」

「おとぎ話ならしっている!」

「おとぎ話?……おとぎ話ねえ……ホ。んじゃあ、ポップってのは?」

「おとぎ話ならしっていると言ったろう!」

「……魔法使いポップなら、誰でも知ってますよ」

ドクオの言葉に老人は苦笑いして、背筋を伸ばした。

「俺が、ハ、ポップだ。ヘハ」

ランプは老人の顔に濃く陰影を作る。



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:39:28.52 ID:iherNopz0


「……ポップは……魔法使いポップは、細身で髪を立てた
 勇気あふれる若者で……」

「ああ、ハ。だからそれが俺だよ、ホ」

「……棒術にも長け、勇者パーティーの支柱とも言うべき存在だったと……」

「ブラックロッドだな、ハ。おう、使ってたなあ、ホ」

「……あなたが?」

「俺がだ、ヘハ」

ドクオは、あの憧れのポップだと名乗る老人に質問を浴びせかけた。
誰も老人の発言を飲み込めずにいた。
外で火を起こしていた料理長が、メシができたぞー、と声をかけた。

「ま、待ってくれ……では、あのおとぎ話は事実だったと
 言っているのか……?」

「おとぎ話にしちまったのが誰かはしらねえよ、ホ。でも
 大魔王バーンも魔軍司令ハドラーも、親衛騎団も本当さ、ハ」

「しんえいきだん?……ですか?」

「……なんか、まあおとぎ話なんだろ?事実と違うとこも、ハ
 あるんじゃねえの、ホ?」



182: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:40:11.81 ID:iherNopz0
「じいちゃん本当にポップなのかお?」

「おうよ、ホ。ただ、俺は魔法使いじゃねえがな」

じゃあなんなのかとクーが問う前に、外から二度目の声がかかる。
四人は外へ出た。

夕食は、魚を大きな葉で包んだ蒸し焼きだった。包みの中の
水分は残さず飲めと料理長は言った。漁師時代の知恵なのだろう。

夜空の下の食事中、老人はブーンの勇気を誉めた。それにはクーも
無表情ながらもまんざらではない、という態度だった。

空の星は周っているか?と見上げるドクオに、老人が
「お前はもうちょっと落ち着いたほうがいいな、ハ」と言うと
ドクオは「はい」と答えて、焚き火を見つめた。

「頂戴した。さすがに美味だな……さて、老人」

料理を誉められて料理長は急に片づけを始めた。照れているのだろう。

「あなたの目的は、理解できずともともかく聞いた。しかし我々の目的は
 地震の原因をさぐり、可能であればそれを排除することだ」

老人は楊枝を駆使しながら生返事をした。

「……あなたがやっていることが地震の原因なら、即刻やめていただく」

「やーだね、ヘ」



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:41:23.34 ID:iherNopz0
老人は即答する。立ち上がったクーは帯刀したままやや前傾姿勢か、
ドクオはまさかの事態を想像して不安になった。

「言っとくが!」

老人は突き刺さるような声でクーを制する。夜の空気が震えた。

「俺が全部話してるのは、お前らの記憶を奪う呪文を知ってるからだ、ハ。
 その名もラリホーサという、ホハ。つまり、お前らに邪魔はさせねえって
 こった、ハ」

そんなことまで魔法はするのかとドクオは驚きうろたえた。しかしクーの
姿勢に変化は見られない。「今殺せばそんな呪文を使う暇もない」
と考えているのではないかと、ドクオは恐ろしくなった。

冷たい風が、森から吹いていた。

「……それに、あと数ヶ月で魔法力も貯まるしな、ハ。まあ
 あとちょっと我慢してくれよん、ヘハ。ずいぶん長いこと貯めたんだ。
 もうちっとだけ待ってくれ」

「……数ヶ月で終わるのか?」

クーが重心を戻さず問う。ドクオは少しほっとする。対話ができれば
この老人に危害を加えない気がしたからだ。

そして不意にボサの教会では『ギラの杖』が使えなかった理由がわかった。
シーベイ付近では、この島に貯まった魔法力の余波でギラが使えたのだ。
『ルーラの扉』の飛距離が落ちたのも、『扉』が内包していた魔法力が
この島に吸われたのだと理解できた。



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:42:17.15 ID:iherNopz0
ブーンが「ねえちゃん落ち着くお」と、クーの肩に大きな手を置くと
クーはゆっくりと重心を戻し、やがてその場に座った。

ブーンは食後のセ茶を給仕しながら「数ヶ月でなにがどうなるんだお?」
と聞いた。
老人は「魔界との通路ができる」と答えた。

「そうなりゃ俺はすぐに魔界に行く、ハ。地震もおこらねえよ、ホハ。

 ついでに言えば?へ。いまリリルーラで迷い込んでくるモンスターも、
 ここの濃い魔法力がなくなりゃ『魔法の誤解』もなくなって?へ。
 来ることはなくなるってこった、ハ」

クーから剣気が完全に消えた。おそらくすぐに思考を変え、王都にもどり
わずかな補強工事をすることで地震は乗り切れると報告することを
考えている。

しかし、老人の次の言葉がクーの思考を止めた。

「まあ、穴を通ってモンスターが来るけどな、ヘハ」



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/20(日) 01:43:00.07 ID:iherNopz0


「どういう……!……穴とは双方向なのか!?」

「そういうこった、ハ。ただ単に地面に魔界まで続く穴をあけるだけ
 だからな、ホ。道があれば通るやつもいるさ、ヘハ。いままでみたいに
 『魔法の誤解』で迷い込んでくるやつとは違って、地上に来ようと
 意思を持ったモンスターが来ることもあるかもな、ホハ」

「さっきみたいなモンスターがたくさんくるのかお!?」

「さっきのヤツぁ、まあなかなか強かったな、ハ。でも、あれより
 強いやつもたぶん来るぜ、ヘハ」

一瞬、全員の思考にすき間があったかもしれない。そのすき間を突いて、
クーが座ったまま剣を抜いて一足飛びに老人に近づいて突き出した。
誰も止める暇さえなく、焚き火の上を駆け抜けた。

しかし、剣は老人に達する直前でそれて、クーはバランスを崩して
老人の後に倒れこんだ。
立ち上がり再び切り込んでも、切っ先は老人に当たらなかった。

ドクオは、老人の手を掴もうとして掴めなかったことを思い出した。

「ブーン!こいつを殺せ!世界は滅茶苦茶にされるぞ!」

ブーンは「厳しいけど大好きなねえちゃん」が突然怖いことを
言い出したので泣きたくなった。でも自分が戦士としての訓練を
受けた役人であることを思い出して、頑張ろうと思った。



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