( ^ω^)同窓会のようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:11:45.39 ID:y8NETt4DO
 
『かんぱーい!!』

 人数が多すぎるため、互いのグラスがぶつかり、鳴ることもないが、その声を皮切りに宴は始まった。
 静寂の帳がおりる。皆がグイグイとグラスの中身を呷っていた。なるほど、僕も真似をして、冷えた麦茶を口にする。

 そうした途端、皆グラスを置いて両手の平を叩いて拍手。
 悲しいかな、僕はどこかずれているようだ。周りの目を気にしながら、グラスを置いた。
 _
( ゚∀゚)「みなさん、お久しぶりでーす!!」

 特徴の眉毛が、まるで変わっていない幹事、長岡が立ち、声を張り上げた。それに、何人かの男の呼応。
 _
( ゚∀゚)「それでは! 第一回VIP高校45期、3年2組の同窓会を始めまーす!!」

 今度は全員から、歓声があがる。僕もここは盛り上げる所と分かって、重ねて歓声をあげられた。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:13:12.79 ID:y8NETt4DO
 
 少し品のいい居酒屋に集まり、銘々、思い出話を肴にして酒を呷る。
 そんな同窓会に、僕は決意をしたためてやって来ていた。

('A`)「ぎこちないな、ブーン……」

(;^ω^)「……高校出てから、こういう機会が無かったんだお」

('A`)「あぁ、大学ぼっちか」

 さらりと僕を傷つけて、僕の友人だったドクオが、隣に座った。

( ^ω^)「ぶち殺すぞ」

(´・ω・`)「それ、僕のセリフ。他人の言葉ばかり使ってると、ぼっちになるぞ」

 もう片方の隣には、いつの間にショボンがいた。これも、僕の友人をしていた。
 僕は肩をびくっと震わせてあからさまに驚き、その顔を見る。

(´・ω・`)「うん、その反応も久しぶりだね。ブーン」

(;^ω^)「なーんか気持ち悪い言い方だお……」

(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:15:02.50 ID:y8NETt4DO
 
 僕も、ようやく懐かしさがこみ上げてくる。

('A`)「こうやってぶち殺すぞって言われてるのが今のブーンなんだよな。今のブーンはぶち殺してくるから困る」

(´・ω・`)「勝手に困れ」

( ^ω^)「昔のブーンってwww」

 笑われながら、あしらわれながら、ドクオは言葉を続ける。

('A`)「おいおい、昔ってのは大事だぜ?」

 ショボンのため息が聞こえた。それは決して、呆れた故のものではない。
 何故なら、その目が疲れきりながらも、過去を懐かしみ、輝いていたからだ。

(´・ω・`)「昔か……今だから言うけど、高校生のころ僕ホモだったんだよね。今じゃ、すごく後悔してるけど」

( ^ω^)「マジかお」

(;'A`)「そういうカミングアウトいらない……」

 全力で引いているドクオに対して、僕はショボンの尻に、ゆっくり手を伸ばす。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:16:12.86 ID:y8NETt4DO
 
(´・ω・`)「いやいや。そうだ……今だから話せることを語ろうよ」

 ショボンがこちらを向いたので、伸ばした手を引っ込める。少し不審がられたが、どうにか誤魔化した。

(´・ω・`)「例えばドクオ」

 そして、ショボンはまた別の疑いの目を、ドクオに向ける。

(;'A`)「……何だよ?」

(´・ω・`)「ドクオはさ、「部活と勉強にてんてこまいで恋なんてしてらんねえぜ」とか言ってたけど……嘘だろう?」

 ドクオはしばらく迷っていたが、やがて観念したらしい。ため息をついて、口を開く。
 もはや昔の思い出である。どうでもいいという考えもあっただろう。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:18:04.81 ID:y8NETt4DO
 
('A`)「……おれは……椎名さんが好きだったな。三組の」

(´・ω・`)「……? 彼女、入学した時からギコのもんじゃなかった?」

('A`)「しょうがないだろ、好きになったんだから……」

ドクオは更に酎ハイをあおり、嫌な記憶を流すように飲み下す。

('A`)「お前だって、男が好きだったんだろ。歪み具合は、アイコだよ」

(´・ω・`)「まぁ、そうだけど……」

ショボンはまだ食い下がろうとする。

( ^ω^)「ショボン、何でもいいじゃないかお。……しかし、だからドクオは僕らに話さなかったのかお」

('A`)「まぁ……な。人に言えたもんじゃねえよ、こんなの」

ドクオのペースが早まる。この様子じゃ、すぐに泥酔してしまうだろう。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:19:20.53 ID:y8NETt4DO
 
(´・ω・`)「ちょっとドクオ、そんなに飲んだら」

(;A;)「ほっといてくれ……俺はよ……最低なんだよ……」

 とか言っているうちに、出来上がってしまったようだ。これが噂の泣き上戸か。ショボンは対処に困っているようだ。

(´・ω・`)「……ブーンは、何か隠していたことはないかい?」

( ^ω^)「僕? 僕は……」

 やがて、ドクオの処理を諦めたのか、ショボンは僕の目を見てきた。
 とんだとばっちりだ。第一僕は、隠し事なんていかがわしいことは……していた。

(;^ω^)「……はは、はははは……嫌なこと思い出しちゃったお」

(´・ω・`)「言いなよ」

 もうドクオは完全に無視だ。ショボンもなかなか薄情である。
 とは言え、それは僕がこの記憶をしまいこむ理由には、欠片もならない。

( ^ω^)「まぁ、1年のとき……まだ音楽の授業があってさ、はじめはリコーダーをやってたじゃないかお」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:21:04.31 ID:y8NETt4DO
 
 あの時期に一度だけ、音楽室に財布を置き忘れたことがあった。それで、財布を取りに音楽室に一人戻った時の話。

 すぐにお目当てのものを見つけた僕は、教室に戻ろうとして、ある奇異なものを見た。
 それは、何のケースにも仕舞われず、むき出しのまま机にぽつんと置いてあったリコーダー。

 不思議に思って、手に取ってみる。

( ^ω^)「これが、全ての間違いだったお」

 小さなソプラノリコーダーには、名前のシールが貼ってあった。親指の穴の下に、しいなしぃと平仮名で。
 彼女が小学生の頃から使用し続けているリコーダーと思うと、何だか居たたまれなくなった。

 別に僕はその頃、椎名さんに特別な感情も抱いてなかったし、小児性愛の傾向もまだ無かった。
 なのに、僕は手にしたリコーダーの吹き口を、口元に向けたのだ。

(´・ω・`)「うわぁ……」

( ^ω^)「もっと引け」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:22:04.85 ID:y8NETt4DO
 
 今、人が来たらどうしようという思いもあったから、端から一目見て、
 「あ、こいつ他人のリコーダー舐めてやがる」と思われるような舐め方はしたくなかった。

 だから、リコーダーを演奏するときのようにリードをくわえて、吹き口を舌にこすり付けるかのように舐めまわした。
 こうすれば、周りからは分からないと思っていたけれど、今思えばきっと明らかだっただろう。

(´・ω・`)「……で? バレたの?」

( ^ω^)「いや。正気に戻ってすぐにリコーダーを置いたお。んで、財布持って教室に戻ってきたお」

 ここからが、思い出したくない、忌まわしい記憶。さて教室に戻った僕は、
 ドクオとショボンの所に、何食わぬ顔でやってきた。
 財布は無事だったか、無事だったお、なんてやり取りをしてから、ショボンがこう言った。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:24:02.99 ID:y8NETt4DO
 
 ショボンは、あぁと手を打って、硬直した。ここまで話して、理解したのだろう。

(;´・ω・`)「……ドクオが、自分のと椎名さんのリコーダーの吹き口とを、入れ換えてたんだね」

( ^ω^)「あぁ、その時は流石に死にたくなったお。むしろ今も死にたいお」

 僕は割と大声で言ったが、歓談に沸く同窓会の席では、それもまた華のひとつ。煩そうにこちらを向く者はいなかった。

( ´ω`)「……こんな事がありまして」

(´・ω・`)「よく考えたら……ドクオがただの変態って事で済ませたけど、そうか、その時もう好きだったんだね」

 ドクオはまださめざめと泣いている。このまま、あの話に持っていってしまおうか?
 一人でも聞いてくれる人がいたなら、僕はそれで満足できよう。
 それに、ショボンならきっと。僅かばかりだが、期待もしていた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:25:14.69 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「で、全く関係ない話なんだけど、少し長くなるお」

 僕は、麦茶で喉を湿らせた。傾けたグラスに氷が当たり、カランと音を立てる。

(´・ω・`)「産業でまとめてよ」

( ^ω^)「嫌だお」

 提言を軽く突っぱねる。眉をひそめて向き直ると、ショボンは「分かったよ」とため息を吐いた。
 僕は深呼吸をしてから、話を切り出した。ひどく緊張する。今まで誰にも話さなかった、話せなかった。

( ^ω^)「今まで誰にも話さなかったけど、僕は素直さんが好きだったお」

ノハ#゚听)「一升ビンの一気飲みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 僕が言い終わってすぐ、さっきの僕をゆうに超える、響き渡る大声。素直ヒートのものだろう。

(;´・ω・`)「……素直さんって、あそこで燃えてる人……だよね」

 そうであってほしい、というショボンの望みが聞き取れた。けれども悲しいことに僕は、それを叶えることは出来ない。

( ^ω^)「……それが違うんだお、ショボン」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:27:03.13 ID:y8NETt4DO
 
 もちろん、僕が言った素直さんとは、彼女の事ではない。ああした人と関わるのは、僕には無理だ。

(;´・ω・`)「じゃあ……」

 冷や汗を垂らし、ショボンは出かかった言葉を飲みこんだ。
 その名前を口にするのは、あまりに無粋で、ショボンの前では禁じられたことだった。

 だけど、ここでこそ話すべきなんだ。

( ^ω^)「僕が好きだったのは……素直クールさんなんだお」

(;´・ω・`)「……止めてくれ、クーの事なんて、話しても仕方がないだろう?」

 懇願するショボン。周囲に声は届いておらず、
 それは酔っ払ってやたら絡んでいる、一人の同窓生にしか見えなかっただろう。

('A`)「まぁ、ショボン。そう慌てなさんな」

 いつの間にか、ドクオは立ち直っていた。そして、ショボンの肩をぽんぽん叩く。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:28:00.78 ID:y8NETt4DO
 
('∀`)「ブーンはよ、どうしても話さなきゃいけないんだろ? だったらそいつを止める事は出来ねえぜ」

( ^ω^)「ドクオ……」

 酒というのも、なかなか良いものだ。酔った人間は、なんとも流しやすい。
 とはいえ、ここはドクオに感謝して、ショボンが反論を考える前に話を始めてしまおう。

( ^ω^)「じゃあ、誰にも言わなかった、僕の過去の話。その2、素直クール編」

(´・ω・`)「……ん」

 ショボンはちょっと苦しそうに呻いてから、グラスの酒を一気に飲み干した。



( ^ω^)同窓会のようです



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:30:03.45 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「えーっと……」

 僕には、通学に使う電車で毎日する、習慣のようなものがあった。
 近くに知り合いがいれば到底出来ないことで、たまにドクオと電車でかち合わせた時など、舌打ちさえしていた。

( ^ω^)(……いた)

 もちろんそれは、僕の勝手な突っかかりで、ドクオには何の非もないから、これは気にしないでほしい。
 とにかく、僕はそうした馬鹿なことでイライラする毎日を過ごしていた。

 ではそもそも、苛立ちを感じてまで僕が見ていたかったものとは何か?

( ^ω^)(ンッンー、今日も美しいお……)

川 ゚ -゚)

 それが、かの素直クール。毎朝、彼女を見ることが、僕の日課。
 そして、だからこそ知っている。彼女の傍らには、いつでもショボンの姿があったことを。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:31:07.16 ID:y8NETt4DO
 
 今もよく覚えている。学校まで二駅の《ラウンジ》で、ショボンは四両目に乗ってくる。
 そうすると、クーは「独り用」の顔をぱっと切り替えて、なんとも嬉しそうに笑む。
 僕はそれが、どうしようもなく辛かった。けれど、これも自分勝手でやり場のないくだらない感傷でしかない。
 だからこれも、ショボンが気にかける理由はない。

川 ゚ -゚)「お早うショボン。今日は遅れなかったな。偉いぞ」

(;´・ω・`)「また失礼な……だいたい、もう一本後のでも間に合うじゃないか」

川 ゚ -゚)「ほう、ではもしその電車が遅延したらどうするんだ?」

(;´・ω・`)「……遅刻します、ごめんなさい」

 そんなやり取りを、外野で、羨望の眼差しを向けつつ登校するのが、僕の常だった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:33:04.67 ID:y8NETt4DO
 
 ショボンとクーが、ただ幼なじみとして通しながら、実はその関係がもっと深いことは、はっきり分かっていた。
 もちろん、交際しているなら、別の誰かもその匂いを嗅ぎつけたことだろう。
 二人は、まさに焦れったい、友人と恋人の狭間にいて、
 友人でいたいショボンと、恋人になりたいクーのせめぎ合いは、もう二年続いている。

( ^ω^)「……ハァ。ショボンは何で、クーと恋人にならないのかNE」

 その答えは、ほんの先刻知れたが、例えショボンがホモだったとして、僕が君を許す訳じゃない。
 とにかく、クーに愛されているショボンが、僕は憎かった。

 そして、これも僕の自分勝手。何も言わずに、まだ聴き手でいて欲しい。

( ^ω^)「……ぶち殺すぞ」

 電車はいつも、僕がそう呟くあたりで止まり、VIP高校の最寄り駅の名をアナウンスするのだった。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:34:07.66 ID:y8NETt4DO
 
川 ゚ -゚)「それでな、昨日も姉さんがうるさくて眠れなかったんだ」

(´・ω・`)「……体に悪いよ、クー。耳栓してでも寝なよ」

川 ゚ -゚)「……優しいな、ショボン。大好きだ」

(´・ω・`)「……うん、ありがとう」

 こんな会話を聞かされながら歩くのは、もちろん気分の良いものでは無かった。
 時には、クーがショボンをあしらうような日もあるのだが、それでも、クーの本心はよく聞き取れた。

 例えば僕と話すような時は、格好いいくらいの凛と張り詰めた声なのだが、ショボンとなると、
 抑揚豊かに、とても楽しそうに会話するのだ。簡単に言えば、クーはショボンの前でのみ、女の子なのだ。

(#^ω^)(くそっ)

 意図せず舌打ちしてしまう。クーの気持ちを知りながら、それに応えようともしないショボンが腹立たしかった。
 平気でクーを傷付けて、平気で笑っていられるショボンの冷たさをいつも感じていた。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:36:09.79 ID:y8NETt4DO
 
 積極的にクーと話しては、あしらわれて落ち込み、ショボンを憎む。
 そんな下らない日々がしばらく続いていたある日、帰りがけに寄った本屋で、僕はあるアイディアを発想した。

( ^ω^)「あれ? この本……どこかで見たような……」

 そして、すぐ僕はその本を予約した。これだけで準備が整うようなものだから、きっと僕の企てたものは、
 妄想のように儚く、夢想のように脆弱だったのだろう。
 しかし僕は次の日すぐ、作戦を決行した。

 理由は分からないが、僕はなんとなくこれがうまくいくだろうと予感していた。
 きっとこの時、論理的な思考も組めないほどにまで、僕は狂っていたんだと思われる。
 もっとも、こんな事を企てる時点で、僕の、人間らしい、ものの考え方なんて、とっくに欠落していただろうが。

 僕は放課後、呆けていたクーを捕まえた。

( ^ω^)「クー、今時間あるかお?」

川 ゚ -゚)「……ブーンか。構わんぞ、何か用か?」

 当たり前なのだが、一応話だけは聞いてくれることに、僕はなぜか安心していた。
 しかし、ここではまだ始まってもいない。ただ僕は弛んだ頬を引き締めることも出来ずに、こう誘った。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:37:06.29 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「実は……クーが探してた本が見つかったんだお。……《鈍感男を落とす100の方法》が」

 まるで、どうしても秘匿にしなければならない事のように、ひそひそ声で伝える。
 これは単に、クーとの肉体的な距離を一瞬だけ縮める為の、僕のちょっとした、かつ意味のない策略だ。
 けれど僕は、そうして興奮を覚えるのだ。近くに居れる時にはギリギリまで近くに居たい。

 そんな思いも、また無意味だったのだけれど。

川;゚ -゚)「本当かっ!?」

 クーは血相を変えて、僕の両襟を掴んだ。柔らかい香りが漂って、僕は抱き締めたい衝動を抑えるのに必死だった。
 とはいえ、僕は両襟を掴まれるだけで満足してしまうほどウブじゃない。計画には、まだ続きがある。
 もちろん、本を見つけたのは嘘ではない。これが嘘なら、後々クーは僕を信用しなくなる。
 それだけは、絶対にお断り願いたかった。

(; ω )「……ヘホッ」

川 ゚ -゚)「おっと、スマン」

 心行くまで、クーの纏うものと、その手の小ささなど、いつもショボンが体感しているものを堪能してから、
 僕はギリギリの所で変な咳をして、自由な呼吸を返してもらった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:39:03.12 ID:y8NETt4DO
 
(;^ω^)「いや、ぜんぜ……ゲホォ! ……平気だお。それより、本の事だけど」

川 ゚ -゚)「そうだったな。早く場所を教えてくれ」

 余談だけれど、僕はショボンを通じてクーとはよく話したから、そこそこ仲が良い気ではいた。
 それこそ、ショボンを除いた男子で、誰よりもクーと仲良しのつもりだった。

 しかし、ショボンの事となると目の色を変えて一喜一憂する彼女を見ていると、やはり自分の序列などは、
 ショボンとは比較対象にならないほど、あとにあるのだろうと自覚した。

 兎にも角にも、ここからが僕の計画の本番である。
 火曜と水曜に、彼女がいつも暇なことは知っている。これも毎日クーを勉強した賜物だろう。

( ^ω^)「……あ、うん。杉浦古書って店なんだけど。一応、本の予約もしてあるお」

川 ゚ -゚)「杉浦古書? 聞きなれないな」

そりゃそうだろう、と僕は内心ほくそ笑んでいた。
だって其処は、クーの住んでいる地域とは大きく離れた場所にあり、
かつ都会の落とす長い陰に、埋もれてしまいそうなほど小さいのだ。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:40:05.05 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「あれ、そうかお? ……じゃあ、何だったら、僕も暇だし、案内するけど」

 何ら自然な、僕にとってはデートのお誘い。誰がちょいちょいと冷やかすものか。

川 ゚ -゚)「うむ、助かる。ショボンも連れてっていいか?」

 普通だったら、これは拒否するべきだ。しかし、僕はショボンのこともよく知っている。
 ショボンがいつも、やはり火曜日に格闘術を学んでいるのは、そこそこ有名な話だ。

 ただ、ここでそれをクーに教えるのは、性欲を剥き出しにした猿の所業だ。
 ショボンをいない時を狙ったのではないか。彼女は聡明だ。悟られる可能性は十二分にある。
 となれば、僕のクーへの気持ちが垣間見えよう。いま、クーに好意を知られる事は、計画の破綻をも意味する。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:42:05.59 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「もちろんだお」

 しからば、僕にはこう答えるほかない。別にこの返答で、実際にショボンがセットになる訳ではない。
 そしてそもそも、今回のデートは、二人きりである必要はない。

川 ゚ -゚)「うむ、ありがとう。……しかし、今日は火曜日だったな?」

( ^ω^)「んー……最後が化学だったから、火曜だお」

川 ゚ -゚)「じゃあショボンは無理だな。二人で行こう」

( ^ω^)「分かったお。ちょっと帰り支度をしてくるから、待ってるお」

 さて、第一段階完遂か。
 次は、あの胡散臭い店主が、例の本を売り払ったりしていなければ、それで充分だ。

( ^ω^)「んじゃ、行くお」

 傍らに、憧れの素直クール。
 何となく、自分がショボンの立場にいる気がして、つい、下卑た微笑が浮かんだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:43:09.28 ID:y8NETt4DO
 
 「杉浦古書」は、以前電車で寝ぼけて妙な駅で降りた際に、うっかり見つけてしまった古本屋だ。
 どちらかというと店内はアンティーク品が多く、むしろ本は真っ当に仕入れた新著ばかり。
 しかし、それが杉浦古書の良いところだと思っている。
 古びた店内で、立ち読みをするのがほとんど日課になっていて、僕はおかげで店主とも知り合いだ。
 それで本の予約も出来たのだけれど、タイトルがタイトル、変な激励を受けてしまった。

川 ゚ -゚)「そうかい」

 電車の中でそんな話をしたところ、やっぱり軽くあしらわれた。
 しかし、僕が勝手に盛り上がっていたから、そう見えただけかも知れないが、彼女は僅かに楽しそうだった。
 欲しい本が手に入るのもあるだろう。だが、連鎖的に、僕は嬉しくなっていた。

 気が付けばもう、降りる駅、《オオカミ》に到着していた。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:45:12.27 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「おいっす、ロマのおっさんいるかお? この間の本を取りに来たお」

 今時、店としては閉塞感のある開き戸を開けると、埃が窓から注ぐ光に照らされ、店内全体をダンスしていた。
 正直入るのは気が引けたが、クーがいる手前、埃ぐらいに怯んでもいられない。

( ^ω^)「クーはここで待ってるかお?」

川;゚ -゚)「そうしておく。浮いてる埃が見える所はいやなんだ」

 本当は、狭い通路を通るときの接近を欲していたが、無理に連れ込んでクーが喉を痛めでもしたら、ことである。
 僕は未だ返事をしてこない店主を訝りながら、塵と埃のパレードの中へ歩いていった。

(;^ω^)「おーい、ロマのおっさん! ホコリを払うなら換気扇くらい付けろお!」

 一瞬、自分の声が反響する。しばらく店の奥を見ていると、やがて、仄暗い通路の向こうから、
 蹌踉とした足取りの、壮年の男性がぼんやりと現れた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:46:05.98 ID:y8NETt4DO
 
( ΦωΦ)「あー、ブーンか? 例の本を取りに来たんだな?」

 その男が、「杉浦古書」の店主、杉浦ロマネスクだ。僕は、ロマのおっさんと呼んでいる。
 右足が義足であることは、あまり知られたくないらしく、それ故にカウンターの影に脚を隠せる仕事を選んだそうだ。

( ^ω^)「そうだお。まさか売っ払ったりしてないお?」

( ΦωΦ)「んなバカな。お主との約束を忘れる我が輩ではないわ」

( ^ω^)「あぁ、焼き芋の時に焼いたのかお」

( ΦωΦ)「少しは我が輩を信用しろ。ほれ、こいつだ」

 ロマのおっさんから、押しつけられるように《鈍感男を落とす100の方法》を渡される。
 案外やるじゃないかお、と言って殴られてから、ロマのおっさんが背中を向けているのに気付いた。

( ^ω^)「ちょっとおっさん。いくらだお?」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:48:05.79 ID:y8NETt4DO
 
 ふらふら歩いていこうとするロマのおっさんを、慌てて引き止める。しかし、振り返って奴は言う。

( ΦωΦ)「ふん、お代はいらん」
  _,、_
( ^ω^)「は?」

 要らない、では済まないだろう。こんな寂れた本屋に来る客はない。杉浦古書はそろそろ本当に潰れるかも知れない。

( ΦωΦ)「そう気難しい顔をするでない。これはちょっとした広告費だと思え」

( ^ω^)「広告?」

( ΦωΦ)「そうだ。その本が役に立ったら、それを「オオカミ駅近くの杉浦古書で手に入れた」と
       触れまわってくれ。我が輩の見込みでは、集客力が3割増しになるはずだ」

 なんとも意地汚いオヤジだな、と思う一方で、これもロマのおっさんなりの応援なのだと理解できた。
 この本を使うのは僕では無いけれど、また薄暗闇のほうに消えたロマのおっさんに、小さく礼を述べた。

 その後、すぐには店を出ずに、本のページを適当にめくってみた。見る頁見る頁全ていかがわしい挿し絵があった。

( ^ω^)「……これ、セックスのハウツー本じゃないかお。そりゃ鈍感男も落ちるわ」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:49:04.68 ID:y8NETt4DO
 
 しかし、こんな下らない本だろうと、頂いたからには約束通りこれをクーに寄越さなければならない。

( ^ω^)「……」

 船虫を食う事と天秤にかけるほどに、気が進まない。クーは、一度信じたものは、愚直なまでに信用する。
 きっと彼女はこのハウツー本を熟読し、ショボンの押し倒し方を知るのだろう。
 そして、ストレートという言葉で済ますには、あまりに素直なクーのことだ。
 東京ラブストーリー級に唐突な「セックスしよう」を、どこでだろうが聞かせるだろう。
 いくらショボンでもセックスに興味はあっただろう。クーを抱くことも厭わないはずだと、その頃は思っていた。

( ^ω^)(もう時間が無いお……明日また、クーを呼び出さなきゃ)

 ショボンに抱かれたクーに告白する事に、どんな意味があるのだろうか。
 セックスを経て、二人が相思相愛になったら、僕がクーに告白する機会なんて、二度と無くなるんじゃないだろうか。
 僕は焦りから滲んだ汗を袖で拭い去り、埃っぽい店内から脱出した。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:51:11.70 ID:y8NETt4DO
 
 お目当ての本を手に入れたクーの表情は、彼女が代金の事を忘れている事に気づかないほどに、喜びで埋め尽くされていた。
 もっとも、彼女は本を手に入れた事自体が嬉しかった訳では無いだろうが。

 心の中で、僅かに毒づいた。自分はこんなに頑張っているのに、振り向かれることはなく、
 ショボンはただ幼なじみという理由だけで、クーと関われたし、愛される事もできた。

 この本を渡して良かったものかと憂う。
 でも、もし渡さなかったのなら、僕にもクーの気を惹けるんじゃないか、という望みは無くなっていた。

川 ゚ -゚)「ありがとう、ブーン。本当に……大切にするよ」

 そう言ってから、照れくさそうに線路の方を見やったクーの気持ちは、僕などにはまるで分からなかった。
 すでに、西側の空が見事な茜色に染まっていて、妙な虚しさを覚えたものだった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:52:13.00 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「……えーっと」

 その晩、僕はクーを誘い出す口実を考えていた。
 僕からの誘いと分かれば、クーは断りを入れてから、ショボンと一緒に帰ってしまうと思う。
 ショボンは、クーに対しての恋愛感情は無いようだから、別に僕がクーに告白しようと、気には留めないだろう。
 しかし、クー自身は違う。そもそも僕が呼び出した時点で、彼女は全てを理解するだろうし、
 何より、僕なんかが、ショボンを襲わんと躍起になっているだろうクーの気持ちを揺り動かすことなど不可能だ。

( ^ω^)(だったら……)

 二枚の紙に、それぞれ文章を書き連ね、書簡とした。
 一枚目で、匿名でクーを屋上へ呼び出し、二枚目のワープロ文書で、ショボンを離しておく。

 自分のやろうとしていることは、なんと陰湿なのだろうと思った。
 しかし、もしクーが僕に振り向くとしたら、こうする他ない。これ以外の方法も、今以外の機会も、ほかに無いのだ。
 そのためには、倫理や常識といった人間らしさは、もう持っていられなかった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:54:06.74 ID:y8NETt4DO
 
 これであとは、翌日適当な時に、適当な手段で、それぞれに宛てるだけだ。
 なのにその夜、眠れないほどに不安だったのは、既に、これからの事を何となく予知していたからかも知れない。

 忘れようもない。僕の歴史を書物にまとめるなら、この日だけで五十ページはくだらない。
 かの日の始まりは、真っ暗にした部屋で、僕が感情を高ぶらせつつも布団を被っている最中、知らぬ間に訪れた。

( ^ω^)「……寝れる気がしないお」

 ふと時計を見ると、クーを連れ回した日は、昨日だと銘打たれていた。
 当然の事だし、そこに何の感慨もある必要は無いのだが、自分の大切にしたかった一日が、
 知らぬ間に終わってしまったり、過去の出来事として区切りができる事が、やたら虚しかった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:55:04.62 ID:y8NETt4DO
 
 ともかく、眠れないながらも僕は必死に暇を潰して、どうにか朝を迎える事ができた。
 その朝もまた、いつもの電車に乗った。例の本と、騒がしい姉のせいで眠れなかったのか、クーは少しうとうとしていた。

( ^ω^)(ま、もうすぐ悩むことも無くなるだろお)

 僕が確信していた理由は、君たちは多分すでに気付いていると思う。
 ショボンに例の手紙を、「先生に渡すよう言われた」と方便をつかって渡し、クーの机に呼び出し状を忍ばせた。
 それから、僕を応援するかのようにドクオは風邪をひいて学校を休んでいた。

 かくして、準備は万端。あとは授業が終わるのを待ち、誰にも見られないように屋上へ向かうだけだ。
 またも、脈動は高鳴る。手のひらにぽつぽつと現れた、見えないほどの汗を握った。
 その日最後のチャイムが鳴り、ホームルームの後。僕はそこらにカバンを投げ棄て、教室を出た。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:57:06.55 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「さて、始めるかお」

 クーと遭遇しないように、屋上まで続く階段を駆け上がる。誰にも会わなかったことが、なんとも幸いした。

( ^ω^)「まだ来てないか……」

 落ちかけの陽光が照る屋上にはまだ、三旗の掲揚塔が立っているだけだった。
 おそらく完全な立方体である給水タンクも、一段上に聳えていた。僕は居たたまれなくなって、梯子に手をかける。
 莫迦と煙は高い所にのぼる。そんな言葉が思い出されて、つい笑いが漏れた。
 
(;^ω^)「……しかし、本当に高いお……」

 距離感が掴めないほどかけ離れた、アスファルト舗装の地上は、異様な威圧感がある。
 はて僕は高所恐怖症だったか、と首を捻ったが、ここで虚勢を張るのはただの意地っ張りだと、独りごちた。

 クーはなかなかやって来なかった。逃げられただろうか。それが彼女のやり方なら、それはそれで良いのだが。
 思考が自棄になりだした頃、ベコベコの金属扉が開く、大きな音がした。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 20:58:10.01 ID:y8NETt4DO
 
川 ゚ -゚)「……誰も居ないのか?」

 その声で、自分が給水タンクの裏に隠れて、下からは見えていないことに気付いた。
 急いで回り込んで、下でキョロキョロしているクーに声をかけた。

( ^ω^)「ここだお、クー」

川;゚ -゚)「……ブーン? お前、なんで……」

( ^ω^)「まぁまぁ、こっちに来てみるお。夕日が綺麗だお」
 
 警戒心を解いたクーを呼び寄せ、二人で夕暮れを眺める。何だかいい雰囲気だ。甘ったるいカップルのひとときのような。

川;゚ -゚)「フェンスも無いのか……危なっかしいな」

( ^ω^)「いくらクーでも、ここから落ちはしないと思うお」

川 ゚ -゚)「なんだそれは。馬鹿にしてるのか。馬鹿にしてるのか」

( ^ω^)「うん、まぁ」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:00:22.51 ID:y8NETt4DO
 
 クーは「君は本当に嫌な奴だな」と笑い、少しポケットの中を気にしたが、すぐに空に目を戻した。

( ^ω^)「それで……話なんだけど」

 沈みかけの日を見ながら、僕は切り出す。

( ^ω^)「飾りっ気なく言うお。僕は……」

 そこで喉が詰まった。手のひらに、異様なまでの汗をかいているのが分かる。
 ここまでの緊張だとは、想定し得なかった。続く言葉を言い出すことが出来ない。

(;^ω^)「僕は……クーが……」

 僕の言いたいことは、もう露呈されたに近い。しかし、クーは黙って夕日に向かって、その頬を紅くしていた。
 果たして彼女の態度は、僕に対する密かな好意の表れか。
 ともかくそれが、僕に勇気を与えた事は確かだった。

(;^ω^)「僕は、クーが好きだお!」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:01:40.53 ID:y8NETt4DO
 
 言えたという感慨より、言ってしまったという後悔の気持ちが強かった。
 何故かって、そんな事は僕も知らない。いや、知らなかった。理由は掴めないが、僕は何となく解っていたのだ。

 長い間を置いて、クーは答えた。

川 ゚ -゚)「私には、ショボンがいるから……すまない」

( ^ω^)「……そうかお」

 不思議と悲しさは感じなかった。今度は、理由が分かっていた。
 僕の手はその時にはもう、クーの背中に伸びていて、その手が為すことも知っていたから。

( ^ω^)「じゃあ、一つだけ良いかお?」

川 ゚ -゚)「……構わん、言ってみせてくれ」

 僕が、クーに頼みたい事なんて一つしか無かった。

( ^ω^)「それじゃあ……お願いするお。僕を好きにならないクーなんて、死んでくれお」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:03:04.37 ID:y8NETt4DO
 
 僕は、彼女の背中に当てた手で、目一杯の力を込めてクーを押した。
 想像していたよりも、ずっとクーは軽かった。僕は自慢できりほどの力は無かったのだけれど、
 クーは段差に足をつっかけたせいか、呆気なく墜ちていった。

 救いを求めるように差し伸べられた彼女の手を掴むことも出来たが、僕はただ墜ち行くクーを見ていた。

川;゚ -゚)「ブーン……?」

( ^ω^)「どうもありがとうだお。バイバイ、クー」

 屋上から身を乗り出して、絶望に打ちひしがれているクーに手を振った。
 後に、大きな音をあげ、クーが潰れるまで、僕は真下を見て、頬が緩むのを感じていた。

(;^ω^)「あ……」

 人を殺したという重みが、その時ようやく分かった。途端に僕が考えたのは、自己保身。
 僕は身を翻して、給水塔から飛び降りた。そして、僕が開こうとした階段へのドアは、力を込める前に開いた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:04:18.87 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「ここから先は、君が知ってる通りだお。……ショボン」

 僕は喋り尽くして渇いた喉を潤すために、残りの麦茶を飲み干した。
 その間にも、ショボンは頭を抱えて唸っていた。飲み過ぎだろうか? ……そんな訳はないに決まっている。

(;'∀`)「……ブーン、今のは作り話だよな?」

( ^ω^)「まさか。枝葉末節に至るまでが、実際にあった事だお」

 ドクオがせせら笑いの準備をした笑顔で訊いた。そして、僕の返答を聞いてから、その表情を完全に硬直させる。
 望んだ答えが帰ってこないときのコミュニケーションとは、何とも難しいものらしい。

(;'A`)「……ブーン、嘘だって言えよ……なぁ、ショボン。お前からも言ってやれよ、つまらない作り話だな、って」

 必死の形相でドクオはショボンを頼る。だけれど、これがドクオに大ダメージを与えることとなった。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:06:26.93 ID:y8NETt4DO
 
(´・ω・`)「黙ってなよ、ドクオ。君は何も知らないんだからさ」

 それまで、ずっと俯いていたショボンが顔を上げる。目の下の、赤い腫れが痛々しかった。

('A`)「っ……確かに俺は、あの日休んでたけど……俺はブーンを信じたいんだよ」

(´・ω・`)「君のその気持ちが、邪魔なんだよ」

 それっきり、ドクオは何も言わなくなって、酎ハイをちびちび口にしていた。
 我関せず、ということか。ドクオにとっては、それが一番良いだろう。

(´・ω・`)「さて、ブーン。さっきの話が本当だとして、いくつか質問をさせてもらうよ」

 僕は肯定の意として、黙って頷いた。

(´・ω・`)「君は、屋上に現れた僕に対し、「止められなかった」と嘘をついたんだね。
       そしてその時、「クーはショボンが振り返らないから死んだ」と言ったよね。あれも、嘘かい?」

( ^ω^)「半分うそで、半分本当だお。クーはショボンに無碍に扱われることを、辛がっていたお」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:08:05.92 ID:y8NETt4DO
 
(´・ω・`)「やれやれ、君がああ言うから、僕は疑われたブーンを庇ったというのにね……。
       ……確かに、いずれクーが死のうとしてもおかしく無かったと思うよ」

 ショボンは空になったグラスを握りしめ、ふぅと息をつく。

(´・ω・`)「けど、クーなら、死ぬ前に僕に一度言っただろうね。自分が死ぬことで
       誰も悲しまないと思うほど、クーは馬鹿じゃなかったから」

( ^ω^)「……実際、多くの人が葬式で泣いてたお」

(´・ω・`)「うん。……君を含めてね。時に、あの涙は本物だったのかい?」

 葬式の時のことは、よく覚えていない。僕はとにかく、平坦な経を聞きながら、嗚咽を漏らしていた。

( ^ω^)「僕が言うのもなんだけど、クーの死は僕も辛かったから」

(´・ω・`)「よく分からないな。そもそも、君はなんでこの話を僕らにしたんだい?」

 そうだ。その質問こそ、僕が一番してほしかった質問だ。流石、クーが好いた男だ。
 クーのそばに居るべきは、君だったのかも知れない。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:09:42.71 ID:y8NETt4DO
 
( ^ω^)「ただ単に、聞いて欲しかったんだお。……そして、あわよくば、ショボンに殺されたかった」

 ショボンの目が、ぴくりと動いて大きく開かれた。ドクオの視線も感じる。

( ^ω^)「僕は、あまりにも重い罪を犯したんだと思うお。自分が憎すぎて、もう耐えられないんだお」

 その言葉を聞いて、ショボンがにやりと笑ったように思えた。慌てたようなドクオの声が飛ぶ。
 あぁ、やっと望みが叶うのか。僕は、十三階段を上がるような気持ちで俯いた。

(;'A`)「おい、ショボン……何をする気だ?」

(´・ω・`)「決まっているじゃないか。ぶち殺すんだよ」

 僕は何も言わずに、ショボンの凶行を待った。
 さて、死んだらクーに会えるだろうか。天の向こうと地の底ほどに離れてしまうのだろうか。
 ドクオも、クーを殺した僕の手前、止めろとは言い出せないようだ。今のうちに、ひと思いによろしく頼む、ショボン。

(´・ω・`)「と、言いたいところだけどね」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:11:25.54 ID:y8NETt4DO
 
 ショボンは、くつくつと意地汚く笑った。まるで悪役の笑い方。
 いや、そんな事はどうでもいい。ショボンは一体何を言い出すんだ。冗談はいいから、早く僕を殺してくれ。

(´・ω・`)「死にたいなんて言う奴は、死ぬことで救われるだろう。そして、生きることで苦しむのだろうね」

(; ω )「……ショボン、お前、まさか……」

(´・ω・`)「生きろ、ブーン。そして苦しみ……まだ生きろ。それが、お前の償いだ」

('A`)「ショボン……」

 ショボンの言葉は、僕にとって無期懲役の判決文だった。昔のことで、恨みは忘れたという理由もあったろう。
 それでも僕は、ショボンが僕を生かした理由を理解出来なかった。その場に凍りついて、どれだけの時間そうしていたか。
 ヒート等からの二次会の誘いを断り、従業員に摘み出されて、夜目にも暗い街を独り、歩いていた。
 ふと、脇にグラウンドが広がる。懐かしい匂いだった。この場所は、

( ^ω^)「あ」

 僕がクーを殺した場所か。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/07(月) 21:13:07.00 ID:y8NETt4DO
 
 ショボンに使わせる為に持ってきた、ポケットの中のダガーナイフが蠢いた。
 判決に絶望した囚人は、舌を噛み切るそうじゃないか。僕にはこれがある。手段に困ることもない。

( ^ω^)「……ショボンが使ってくれないなら、仕方ないかお」

 僕は校門を飛び越して侵入し、例の場所へと駆けた。
 当時は立入禁止だった場所も、今は何でもないアスファルトのようだ。しかし、よく見ると、僅かに血痕が残っている。
 あんなに昔の血痕があるとなると、よほど大量の血がこびり付いていたのだろうか。

 それとも何か、非現実の要素を持ち出さねば解せない理由があるのだろうか。
 どちらにしろ、ここに彼女の血が残っていることが嬉しくて仕方がなかった。
 同じ場所で死ぬ。それだけで、クーにまた近づくことになる気がした。

( ^ω^)「あの時の事、素直に謝るお。だから、もっぺん会わせてくれお。……今行くお、クー」

 僕はそっと、ダガーの刃を首筋にあてがった。



おわり



戻るあとがき