('A`)∀・)д川恋のバミューダトライアングルのようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:07:06.67 ID:fKHNQI7t0

|A`)

 図書館は静まりかえっていた。
 エアコンから流れる冷涼な風が、室内の空気を回しているのが肌で感じられる程に。

|A`)

 本棚の影に、きもい奴がいた。
 彼の名前は鬱田ドクオ。とてもきもい奴だ。
 何が気持ち悪いって、もう存在が気持ち悪い。

|A`)(それは言い過ぎだろ……)

 彼は今、ストーキングの真っ最中だった。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:09:27.19 ID:fKHNQI7t0

川д川「……」

 彼が見張っていたのは、同じ二年生の貞子という女生徒だった。
 彼女は内気な性格をしていて、一人で本を読んでいる時でさえ、小動物のように身をちぢこませていた。

(*'A`)「……」

(;'A`)(やるぞ……今日こそやるぞ……)

 レイプする気なのだろうか。

('A`)(告白だよちくしょう……)



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:10:28.13 ID:fKHNQI7t0


***恋のバミューダトライアングルのようです***



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:12:06.30 ID:fKHNQI7t0

(;'A`)(やるんだ鬱田ドクオ……お前はやれば出来る子だ……)

川д川「……」

(;'A`)(今退いたらただのストーカーだぞ……勇気を出せ……)

川д川「……」

(;'A`)(あ……!)

 貞子は本を閉じ、椅子から立ち上がった。
 本棚から半身を出していたドクオは、慌てて体を戻す。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:15:19.56 ID:fKHNQI7t0

 ドクオの目の前を通り、本を棚に戻す。
 机の上に置いてあったバッグを手に取り、颯爽とその場から歩いていった。
 失敗だった。

(;'A`)「……はあ」

 失敗だった。

(;'A`)(二回も言わなくても……)

 時計を見ると、もう七時近かった。閉校の時間である。
 外を見ると、太陽の名残が青く残っているだけで、とても暗い。

('A`)(……帰るか)

 これで通算27回目の、告白失敗である。
 彼に明日はあるのか。いや無い。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:18:58.23 ID:fKHNQI7t0

 ***('A`)***

 次の日、ドクオはいつも以上に暗い顔で学校へ登校していた。
 電車から降りた時も、校門をくぐった時も、教室に入り席に座った時も、ずっと俯いたままであった。

('A`)「生きる気力無くした……」

「何で?」

 ぼそっと呟いた一人言に、誰かが反応する。
 振り返ると、満面の笑みの、親友がいた。

( ・∀・)「元気無いね」

('A`)「ありませんが、何か?」

 彼の名前はモララー。成績は優秀。運動神経は良く、性格も良い。
 ドクオと正反対の人間だった。月とすっぽんである。
 カメムシと神である。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:20:13.78 ID:fKHNQI7t0

( ・∀・)「サイフでも落としたのか?」

('A`)「ふ……落としたのはチャンスさ」

( ・∀・)「意味不明ー」

('A`)「うるせえ」

 チャイムが鳴る。HRが始まる。
 ドクオの変わらない一日が、始まる。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:22:37.27 ID:fKHNQI7t0

***('A`)***

('A`)「お前今日もパンなの?」

( ・∀・)「ああ。母さんが作ってくれなくて」

('A`)「両親が共働きだもんな。ぷすすー」

( ・∀・)「むっかー」

 屋上のタンクの傍で、二人は昼食を取っていた。
 影にいるので、照りつける太陽は回避している。
 むしろ外にいる分、風が心地よく、教室で食べるより快適だから、彼らはいつも屋上で食べる。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:24:20.70 ID:fKHNQI7t0

( ・∀・)「それで……何があったんだよ」

('A`)「え?」

( ・∀・)「誤魔化すなよ。何か、あったんだろ?」

 心配そうにドクオをのぞき込むイケメン。

('A`)「……」

 言葉を詰まらせるブサメン。

( ・∀・)「良かったら相談に乗るよ。いや、悩みっていうのは人に言うだけで効果があるもんだし。
      お前さえ良ければ、言って欲しいんだけど」

('A`)「……」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:27:25.79 ID:fKHNQI7t0

 恋をしているということを、知られたくなかった。
 親友である、モララーにさえである。

('A`)「えっと……」

 おこがましいと思っていた。自分が、恋をしているという事が。
 恋なんて別次元のところで生きている自分が、口にしてはいけない事だと考えていた。

( ・∀・)「なあ」

 モララーの視線がドクオを射貫く。
 目が合うと、男にしては長い睫がぴくりと動いた。
 女の子より綺麗な目だよね、とクラスの女子がモララーに言ったのを、ドクオは聴いた事がある。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:30:02.05 ID:fKHNQI7t0

 強い目力に、口が動く。

('A`)「あの、あれ、2組の……」

( ・∀・)「え?」

('A`)「いや、えっと……」

 名前を隠そうと思った。
 もし名前を出せば、モララーはきっと協力しようとしてくる。
 ドクオはそれが嫌だった。

('A`)「実はだな……」

 長い間隠していた秘密を話すのは、隠していた時間の千分の一もかからなかった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:31:45.08 ID:fKHNQI7t0

( ・∀・)「……そうか」

('A`)「……ああ」

( ・∀・)「……誰?」

(;'A`)「い、いや……それは……すまん」

( ・∀・)「あははは。言えばいいのに」

(;'A`)「いいじゃねえか別に」

( ・∀・)「そうかあ……ドクオもそういう年頃かあ」

 親戚のおじさんのような発言が、年不相応でおかしく響いた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:33:51.39 ID:fKHNQI7t0

( ・∀・)「まあ、長い目でやっていこうよ」

 ドクオの中ではとても重い話だったのが、モララーはあっけらかんとしていた。
 こいつはもてるから、色恋沙汰は日常茶飯事なんだな、とドクオは考えた。

('A`)「お前はどうなんだよ」

( ・∀・)「え?」

('A`)「だから」

( ・∀・)「あー……恋?」

('A`)「してるかって事」

( ;・∀・)「あー……」

 今度言葉を詰まらせたのは、モララーだ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:36:16.97 ID:fKHNQI7t0

(・∀・; )「それは……」

( ・∀・)「……うん、まあ」

(;'A`)「ああ、してんだ……へえ……」

( ・∀・)「何その反応」

('A`)「付き合ってるんだろ」

( ;・∀・)「ち、違うよ!」

 モララーは声を荒げる。
 恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。

( ・∀・)「……俺も、片思いだよ」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:41:22.27 ID:fKHNQI7t0

***('A`)***

('A`)(相談するっていうのは、気が楽になっていいな)

 電車に揺られ、帰宅しているドクオは、朝より心が軽くなったのを感じていた。

('A`)(もっと早く相談してれば良かったな……)

 どうして隠し続けていたんだろうと、今更になって悔やんでいる。
 もし告白して、フラれた時、その時貞子の事を、モララーに言おう。
 そして慰めて貰い、カラオケを奢って貰って、あわよくば女友達を紹介してもらおう。

(*'A`)(フヒヒ)

 ドクオの愚かな思考が、頭の中で猛スピードで渦を作っていた。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:45:46.08 ID:fKHNQI7t0

***('A`)***

|'A`|(今日はいける気がする)

 今日もドクオは本棚の間に隠れ、本と本の隙間から、彼女を見つめている。

川д川「……」

 ドクオのストーキングによって、貞子の一週間の行動パターンはばれていた。
 火曜日と金曜日、そして時々水曜日に、図書室に本を読みに来る。
 今日は水曜日である。駄目元で図書室に行ったら、彼女がいたのだ。

|'A`|(いくぞ……いくぞ……いくぞ……!)

 高まる心臓の鼓動が、空調の音に混じって聞こえてくるようだった。
 ドクオは意を決して、座っている彼女の席の対面に向かっていった。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:50:56.10 ID:fKHNQI7t0

***川д川***

 本は好き。現実に無い世界で、現実に無い物語が、私を迎えてくれるから。
 友達はあんまりいない。だから、よく図書室に、本を読みに行く。

川д川(……)

 最近ハマっているのは、ロシア産の恋愛小説だった。
 詩的な文体で、純愛をする男と女の物語。
 紆余曲折はあるし、切ない終わり方をする時はあるけれど、必ず二人は、燃えるような恋をする。

川д川(はあ……)

 恋がしたかった。ううん、少し違う。恋愛感情は、ある。
 ただ、私には小説のような恋は出来ない。
 まるで世界が違う。小説と、現実くらい。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:55:09.61 ID:fKHNQI7t0

 私がブロンドの髪で、心に傷を負った花売りの娘なら、貴族が私に恋をしてくれるだろうか。
 私が貧しい家の出身で、傷つけられながらも健気に働く家政婦なら、ある日ロッカーに恋文が入れられるのだろうか。

川д川(……はあ……)

 考えるのも馬鹿らしい。私は貞子。暗くてダサい、何一つ取り柄の無い女子高生。
 それが、私。現実の、私。

川д川「……?」

(;'A`)「……」

 ふと顔を見上げると、目の前に男の子がいた。
 本を読むわけでもなく、ただそこに座っている。何だろ、この人。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:57:43.81 ID:fKHNQI7t0

 一瞬だけ目があったように感じたけど、たぶん気のせいだろう。
 私は椅子に座り直し、再び活字に目を落とした。

(;'A`)「あ……の……」

川д川「?」

 声が聞こえる。話しかけられた?
 そんなはずは無かった。だって、彼は私の知らない人だもん。

川;д川「……え?」

(;'A`)「……」

 そっと顔を上げると、ばっちりと目があった。
 大変だ、この人、私に話しかけてる……!



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/05(土) 23:59:37.75 ID:fKHNQI7t0

(;'A`)「い、いい、い……」

川;д川「は、へ……は、い?」

(;'A`)「い、今、大丈夫ですか?」

川;д川「え……ああ……はい、たぶん……」

(;'A`)「そ、そ、それは良かった」

川;д川「あ、はあ……」

 彼はとても慌てていた。私も慌てていた。
 かみ合わない会話が続く。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:02:14.09 ID:rZvGcXHM0

(;'A`)「ちょ、い、あ……」

川;д川「……」

 図書室にいた人たちが、私たちをちらちらと見てくるのがわかる。
 恥ずかしい。本当に、何なの、この人。

(;'A`)「ちょっと、話したい、事がありまするので、ここを、出よう、出ません、かい?」

川;д川「?」

(;'A`)「……」

 それだけ言って、彼は俯いてしまった。
 話したい事がある、ここを出よう、と彼は言った。
 どういう事?



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:04:52.16 ID:rZvGcXHM0

川;д川「ここで、話して下さい」

 やっとまともに喋れた。
 でも、彼は依然パニック状態だ。

(;'A`)「こ、こじゃあ、駄目です。駄目、なんですけど」

川;д川「……」

 所々声が裏返っている。

(;'A`)「……」

 言葉じゃ無理だと悟ったのか、彼は立ち上がり、手招きした。
 私は少し躊躇ったけど、周りのみんなの視線が痛かったので、彼の後ろについていく事にした。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:08:37.67 ID:rZvGcXHM0

川;д川「……」

(;'A`)「……」

 窓から夕陽が差し込む廊下は、幻想的で綺麗だった。
 彼は図書室から出ると、真っ直ぐ歩いていった。
 私は後ろをついていく。

 外から、テニス部がボールを打つ音が聞こえた。
 ぱこん。ぱこん。不規則に、時折、リズミカルに。

(;'A`)「……」

 彼は歩きながら、窓の方を見ていた。夕陽が彼の横顔に反射している。
 顔に浮かんだ冷や汗が、つぶつぶの水の玉を作っていた。

 彼は、鬱田ドクオと名乗った。
 その名前は、私が彼をふる前に聞いた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:12:58.25 ID:rZvGcXHM0

***( ・∀・)***

 学校は正直つまらない。勉強が出来ない訳じゃない。運動が出来ない訳じゃない。
 友達がいない訳でもないし、第二次性徴の訳の分からない反抗心が芽生えている訳でもない。

( ・∀・)(……)

 そもそも集団が嫌いだ。人間が嫌い、というのもある。
 どいつもこいつも、つまらない人間ばかりなんだ。

( ・∀・)「!」

 それでも、中には面白い奴がいる。
 今にも死にそうな顔で席に座っている、俺のたった一人の親友だ。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:15:11.92 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「よ」

('A`)「……おう」

 声が掠れている。目の下に隈がある。
 以前にもこんな時があった。その時こいつは、徹夜でネットゲームをしていたらしい。

( ・∀・)「今度は何のゲームなんだ?」

('A`)「あれだよあれ……人生ってゲーム」

( ・∀・)「何だよそれ」

('A`)「ふられた」

( ・∀・)「……?」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:17:34.81 ID:rZvGcXHM0

 フラレタ。ドクオが言った言葉を、頭の中で反復する。
 それが徐々に意味を持ち出し、頭が理解し始める頃、もう一度ドクオは言った。

(;A;)「……ふられた……」

( ;・∀・)「……ドクオ」

(;A;)「……」

 声も上げず、静かに泣き出した。
 ここで騒げば、周りの人間が気がついてしまう。
 そうなればドクオは、恥をさらす事になる。

( ;・∀・)「……」

 俺はそっとポケットティッシュを差し出した。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:19:33.70 ID:rZvGcXHM0

 ティッシュを使って涙を拭い、勢いよく鼻を噛むと、いつものドクオの顔に戻っていた。
 目の下の隈は、依然痛々しかったけれど。

('A`)「……」

( ・∀・)「……また、昼にな」

 目の端で、教師が教室に入ってきたのが見えた。

('A`)「ああ」

 ドクオの返事を聞いてから、周りの人間がそうしているように、俺は自分の席へ戻っていった。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:22:35.56 ID:rZvGcXHM0

***('A`)***

 鬱田ドクオの精神的疲労は今最高潮を越した所だった。
 瞬間的に与えられたショックは山を下るように収まっていった。
 それでも、ドクオの心に深い傷を残したのは確かだった。

('A`)「モララー……」

( ・∀・)「何?」

 いつもの屋上、いつものタンクの影、いつもの空、いつもの風。
 いつもと違う、ドクオの疲れた顔。いつもと違う、モララーの優しい顔。

('A`)「俺なんでモテないんだろ……」

 ドクオの呟きは風にのって辺りに散った。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:27:32.60 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「ドクオ」

 いつものぶっきらぼうなしゃべり方と違い、優しい口調だった。

( ・∀・)「お前がふられたのは、もてないとか、そういうせいじゃない」

('A`)「……」

( ・∀・)「いやそもそも、お前が悪い訳じゃない」

('A`)「……」

( ・∀・)「運が悪かったんだよ。ただ、それだけだ。だから……あんまり考えすぎるな」

 ドクオの気持ちをいたわった言葉だった。
 しかしドクオは、考えざるを得なかった。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:31:10.93 ID:rZvGcXHM0

 『好きな人がいるから』彼女はそう言ったのだ。
 どうしようも無かった。ドクオは、頑張ってとしか言えなかった。

('A`)「運も実力のほにゃらららら……」

( ・∀・)「その言葉は使い時が違う」

('A`)「俺が不細工でネクラでネトゲオタだからだよきっと」

( ・∀・)「お前を不細工だと思った事は無い」

('A`)「イケメンのお前は良いよな。顔で得してるよ。生まれた時点で俺はロスタイムなんだよ」

 モララーの言葉を無視して、ひたすらネガティブに愚痴る。
 生まれた時点でロスタイムとはどういう意味なのだろうか。
 アホなのだろうか。死ぬのだろうか。

('A`)(しなねえよちくしょう……)



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:33:38.82 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「まあ、だから……」

('A`)「……?」

 二人の会話は、屋上の扉が開かれた事で中断した。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

*(‘‘)*「……」

 二人の女生徒が、開いた扉から顔だけを出して、きょろきょろと周りを見渡している。
 影に隠れている二人は見えにくいようだ。

*(‘‘)*「……!」

 女の内の一人が、ドクオたちを見つけると、顔をほころばせた。
 もう一人の女と、何かひそひそ話をしている。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:36:28.40 ID:rZvGcXHM0

 二人は押し問答をしながら、ドクオたちに近づいていった。
 視線はモララーに固定されていて、まるでドクオは見えていない。

*(‘‘)*「えっと、モララー君、今ちょっと良い?」

 背が低く、肌を小麦色に焼かせた女生徒が言った。

ζ(゚ー゚*ζ「私たちにぃ、ついてきてくんない?」

 言葉を後押しするように、茶髪で長身の女が続ける。

( ・∀・)「いいけど……」

 モララーはちらっとドクオを見た。
 ドクオはあさっての方向を向いて、唇を尖らせている。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:39:32.67 ID:rZvGcXHM0

('A`)「いってら」

 怒ったような口調でドクオは言った。
 モララーは渋々といった感じで立ち上がり、二人についていった。

('A`)「いいねえいいねえ。モテるねえ」

 三人が屋上から消えると、途端にドクオは喋り始める。

('A`)「モテると大変だよねー。おちおち昼飯もくえねえよねー。
    あー良かったモテなくて。だって今日の弁当超うめえもん。
    マジ母ちゃんグッジョブだよ本当に」

 乾いた風が吹く。ドクオの鼻をくすぐる。

('A`)「モテてえなあ……」

 誰もいない屋上に、それは寂しく響いた。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:42:53.75 ID:rZvGcXHM0

***川д川***

 初めて入ったカラオケ屋は、想像していたよりも華やかだった。
 もっとゴミゴミして、汚い感じの店だと思っていたから安心した。

ζ(゚ー゚*ζ「何番?」

*(‘‘)*「五番。そこの部屋」

 二人の背中についていき、部屋に入る。
 くの字に曲がったソファーの真ん中に二人は座った。
 私はソファーの端に座り、天井の淡い蛍光灯の光をぼおっと見ていた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:45:26.23 ID:rZvGcXHM0

ζ(゚ー゚*ζ「ハイカラ入れるよー」

川д川「ハイカラって何?」

ζ(゚ー゚*ζ「ハイ・アンド・マイティ・カラー」

 初めて聞いたバンドだ。
 インディーズってやつかな。

*(‘‘)*「貞子ちゃん」

川д川「?」

*(‘‘)*「歌う……歌える?」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:51:04.77 ID:rZvGcXHM0

 歌う?から、歌える?に変わったのは、私がカラオケが初めてなのをヘリカルが知っているからだ。
 私は黙って首を振った。ヘリカルは小さく頷いて、前に向き直った。

ζ(゚ー゚*ζ「いっきーまーす!」

 ノリの良いメロディが体をくすぐる。
 こんなにうるさい場所が、ボーリング場以外にもあったのを初めて知った。

川д川「……」

 それでも、耳を塞ぎたくなるような轟音は、徐々に意識の外へ飛んでいった。
 私の頭の中に反射する声が、デレの歌声をかき消していく。

 『ごめん。俺、好きな人いるから』大好きだった人の……いや、今でも大好きな人の声。
 鉄パイプで殴られたような衝撃を与えた、私の初めての告白にして、初めての失恋は、心に重い荷物を残していた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:54:59.46 ID:rZvGcXHM0

***( ・∀・)***

 後ろから声をかけられて、俺は立ち止まった。
 部室棟の壁にもたれかかっていたそいつには、見覚えがあった。

ζ(゚ー゚*ζ「あのさ、ちょーっと聞きたい事あるんだけどさ、良い?」

( ・∀・)「もうすぐ練習始まるから」

 サッカーのユニフォームに着替えている俺は、急いでいるという事を表す為足踏みをした。

ζ(゚ー゚*ζ「時間は取らないからさー」

 のんびりとした口調に、ねばっこいしつこさを感じた。
 俺は諦めて、足踏みをやめた。

( ・∀・)「何?」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 00:57:43.85 ID:rZvGcXHM0

ζ(゚ー゚*ζ「私覚えてるよね?」

( ・∀・)「覚えてるよ。貞子さんと一緒に居た子だろ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、そう。それでさ、この前言ってた事なんだけど」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「好きな人いるって言ってたじゃん? あれさ、誰?」

 マスコミにでもなったつもりか。
 女っていうのはどうしてこうも余計な事をしたがるんだ。

( ・∀・)「別に誰でもいいだろ」

ζ(゚ー゚*ζ「そういう訳にはいかないじゃん」

( ・∀・)「どうして」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:00:20.84 ID:rZvGcXHM0

ζ(゚ー゚*ζ「だってさ、モララー君貞子を傷つけた訳じゃん?」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「セキニンを取る必要があると思わない?」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「だからさ、教えてよ。あの子も踏ん切りつかないじゃん」

( ・∀・)「俺が貞子さんを傷つけたというのは、合ってると思う。
      でもそれとこれとは別だ。別問題だ。
      俺が誰を好きになろうと、他の人間には関係が無い。
      話す必要は無いだろう」

 思わず声を荒げてしまったが、女は平然とした顔でいる。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:02:21.53 ID:rZvGcXHM0

ζ(゚ー゚*ζ「それってさー、卑怯だよ」

( ;・∀・)「ひ、卑怯?」

ζ(゚ー゚*ζ「嘘なんでしょ? 好きな人がいるとか」

( ・∀・)「嘘じゃない」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ言ってよ」

( ・∀・)「だから……」

ζ(゚ー゚*ζ「嘘じゃなかったら言えるよね?」

( ;・∀・)「俺の気持ちはどうなるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「誰にも言わないから! ね!?」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:04:46.00 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「貞子さんにも言わないのか?」

 少し意地悪な質問をしてみる。

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

 相変わらずのにやけた顔で女は言った。
 大変だ。こいつ頭悪い。

( ;・∀・)「じゃあ……それはただのお前の好奇心じゃないか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだけど?」

 馬鹿らしい。俺は取り合うのを辞めて、歩き出した。
 背中から甘ったるい声が聞こえても、決して振り返る事はしなかった。



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:10:44.76 ID:rZvGcXHM0

***('A`)***

|A`)

 今日も今日とて、ドクオは図書室にいて、本棚の影に隠れ、貞子を見つめていた。
 時折彼女が憂いのため息をつく度に、ドクオも同じようにため息をついた。

|A`)(何かあったのかな……)

 いつも彼女を追っていたドクオには、彼女の心中を容易に察する事が出来た。
 流石は生粋のストーカーである。

|A`)(一言多いんだよ……)

 ふられてから、自分を冷静に見つめ直す機会のあったドクオは、以前よりも冷静だった。
 いつかの告白のように時間をかける事無く、彼女の傍に向かって歩いていく。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:12:12.22 ID:rZvGcXHM0

('A`)「あの……」

川д川「……あ」

(;'A`)「どうも……ドクオです……」

川;д川「あ……どうも……」

(:'A`)「座っても……」

川;д川「ど……どうぞ……」

 おずおずと、彼女の対面に腰を下ろす。
 二人とも相手に目が合わせられないでいる。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:13:50.95 ID:rZvGcXHM0

(;'A`)「……」

川;д川「……」

(;'A`)「こ……!」

川;д川「え?」

(;'A`)「この間は……ごめんなさい……突然あんな事言っちゃって……」

川;д川「あー……いや……別に……」

 お互い俯きながらの、しどろもどろの会話が始まった。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:15:28.67 ID:rZvGcXHM0

(;'A`)「それ……」

川;д川「……」

(;'A`)「何の本ですか?」

川;д川「外国の、本です」

(;'A`)「ど、どんな……」

川;д川「えっと……魔法とか、使える……ファンタジー系の」

(;'A`)「……そうですか」

川;д川「はい……」

(;'A`)「……」

川;д川「……」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:17:27.67 ID:rZvGcXHM0

川;д川「あの」

(;'A`)「あの……あ」

川;д川「あ、先にどうぞ」

(;'A`)「い、いや貞子さんから……」

川;д川「私は良いですから……」

(;'A`)「……」

川;д川「……」

 図書室の空気が一段と重くなったように二人は感じた。
 エアコンの音が、いつもより大きく聞こえるようだった。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:19:00.68 ID:rZvGcXHM0

(;'A`)「……いつもは、そういうの読んでないですよね?」

川;д川「え?」

(;'A`)「恋愛ものとか、多いような……」

川;д川「……何で知ってるんですか」

(;'A`)「!?」

川;д川「確かに、恋愛小説よく読んでましたけど……」

(;'A`)「……」

 ドクオは墓穴を掘った。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:22:28.28 ID:rZvGcXHM0

(;'A`)「……ごめんなさい」

 とりあえず謝ってしまった。
 こういう所がドクオがドクオである所以だ。

川;д川「見てたんですか?」

(;'A`)「はい……」

川;д川「どうして……」

(;'A`)「ち、違うんです。本当は声をかけたくて……。
    でも声をかけようとしている内に、帰っちゃうから、結局声をかけられなくて……。
    何か話題でもあれば声をかけられるかなと思って、読んでる本とか調べて……それで……」

 終わりにいくにつれて、ドクオの声はしぼんでいった。
 よくよく考えれば、訴えられたら10、0で負けそうなストーかーっぷりである。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:24:56.23 ID:rZvGcXHM0

川д川「……」

 しかし貞子は、ドクオを冷静に見つめていた。
 彼の言葉が、嬉しくさえあった。空気のような存在だと思っていた自分を、彼は見ていてくれた、と。

(;'A`)「好きだから……ごめんなさい」

川д川「……謝らなくても良いです。ドクオさん」

('A`)「!」

 貞子が初めて、ドクオの名前を呼んだ瞬間だった。
 名前を呼ばれて嬉しかったのは、初めての経験だった。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:28:10.99 ID:rZvGcXHM0

('A`)「……」

川д川「あの……それで、今日はどうしたんですか?」

('A`)「どうしたって……」

川д川「何か用があって、私に話しかけたんじゃ……」

('A`)「あ、ああ……用っていうか……何か、暗そうな顔してたから、心配で……」

川д川「生まれつきですよ」

(;'A`)「違いますよ! 貞子さんは暗いんじゃなくて、大人しいというか、奥ゆかしいんです」

川*д川「……」

(;'A`)「……ごめんなさい」

 もはや何の謝罪かわからない、ドクオの‘ごめんなさい’だ。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:30:19.07 ID:rZvGcXHM0

川д川「ちょっと、嫌な事があって……」

(;'A`)「え!?」

川д川「……」

(;'A`)「な、な、何が、あったんですか?」

川д川「えっと……うーんと……」

(;'A`)「よ、良かったら相談にのりますよ。な、悩みっていうのは、誰かに話すだけでも、効果があるんです」

 何処かで聞いたような台詞だ。

川д川「……」

 貞子は唇に指を当てて、しばし考え込んだ。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:33:09.90 ID:rZvGcXHM0

***川д川***

 話していいものか悩んだ。
 だって目の前のドクオさんは、私がふった相手なんだから。

 彼をこれ以上傷つけたく無かった。
 けれど、彼に慰めて欲しいという想いもあった。

(;'A`)「嫌なら、話さなくても良いですよ」

 彼の言葉は、私の心にすぅーっと染みこんでくる。
 とても真摯な気持ちを感じて、嬉しくなる。

川д川「失恋しちゃって、私」

 とうとう我慢しきれなくなって、私は話してしまった。



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:37:04.15 ID:rZvGcXHM0

(゚A゚)「……」

川;д川「!?」

 ドクオさんの目が見開き、写真に撮られた絵のようにぴくりとも動かなくなった。
 私が告白を断ったときと、同じ顔だ。

川;д川「ご、ごめんなさい……無神経な事言っちゃって……ごめんなさい」

 私がそう言うと、どこかに飛んでいたドクオさんの意識は、あっという間に戻ってきた。
 ショックよりも、目の前の私が謝っている事の方が、彼にとっては重大だったらしい。

(;'A`)「い、いや……いいんです……でも、信じられない……」

川д川「?」

(;'A`)「貞子さんをふる男がこの世にいるなんて……」

 真顔でそう言った。五万といると思うよ、と返せない程真剣な顔だった。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:39:19.56 ID:rZvGcXHM0

('A`)「誰ですか、そいつ」

川д川「え?」

 ドクオさんの表情に怒りが籠もっている。

('A`)「同じ学年ですか?」

川;д川「ドクオさん?」

(;'A`)「……あ」

川;д川「あの……私はもう大丈夫なので、気にしなくて良いですよ」

(;'A`)「ご、ごめんなさい……」

川д川「謝ってばかりですね」

(;'A`)「ごめんなさい……あ……」



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:42:16.19 ID:rZvGcXHM0

川*д川「あははははは」

 自分が居るのが図書室という事も忘れて、声を出して笑ってしまう。

(;'A`)「あ、あははは……?」

 どうして私が笑っているのか、ドクオさんはわかっていないみたい。
 私にもよくわからない。それでも、おかしてくたまんない。

川*д川「駄目ですよ。謝っちゃ」

(;'A`)「ごめ……はい」

川д川「ふられた同士なんですし、もっと楽にしましょう?」

(*'A`)「そ、そうですね」

 言ってから、この言葉は自分が言っちゃ駄目な言葉なんじゃないかと思って、少し慌てた。
 でもドクオさんは気にしていないみたいだ。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:44:37.26 ID:rZvGcXHM0

('A`)「それにしても、本当に信じられない」

川д川「何がですか?」

('A`)「貞子さんをふった奴ですよ。頭おかしいんじゃないですか?」

川д川「私の好きな人馬鹿にしないで下さい」

(;'A`)「だ、だってー」

川д川「ふふふ。まあ、元々期待してなかったし」

('A`)「そんなに凄い奴なんだ」

川д川「うん。勉強もスポーツも出来る、私とは絶対釣り合わないような人」

('A`)「ふーん……」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:47:36.69 ID:rZvGcXHM0

川д川「今考えれば、もし付き合えてもすぐに別れちゃっただろうなー」

('A`)「そんな事無いでしょ」

川д川「色々と急がしそうだし、構ってくれないかも」

('A`)「生徒会の奴ら?」

川д川「ううん。サッカー部のエースだから。土日とか無いんだよね、サッカー部って」

(゚A゚)「……」

川;д川「?」

 ドクオさんが、また写真の中の人間になった。



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:49:52.81 ID:rZvGcXHM0

***( ・∀・)***

 その日は、朝からドクオはおかしかった。

( ・∀・)「よ」

('A`)「……おう」

 貞子さんにふられてから、立ち直ったと思っていた。
 しかし、目の下の隈が復活している。

( ・∀・)「どうした?」

('A`)「別に」

 顔に生気は無い訳では無い。
 でも、暗い影が覆っているように見えた。



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:53:04.23 ID:rZvGcXHM0

***( ・∀・)***

 昼休みに、いつものようにドクオを誘って、屋上に行こうとした。
 ところが、肩を叩こうとした俺を振り返って、ドクオの方から屋上に行こうと言ってきた。
 何かがおかしい。ドクオと並んで屋上への階段を上がっている最中、ずっと警戒していた。

('A`)「あー良い天気だ。なあ?」

 屋上に出ると、ドクオらしくない明るい声で話しかけられた。
 やはりおかしい。

( ・∀・)「なあ、お前……」

 俺の声を無視して、ドクオはいつものタンクでは無く、鉄柵の方へ歩いていった。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:56:03.27 ID:rZvGcXHM0

 背の低い鉄柵の向こうには、肌色のグラウンドが広がっている。
 ドクオはくるりと振り返り、背中を鉄柵に預けて、俺を睨んだ。
 そう、睨んだんだ。ドクオが、俺を。

('A`)「お前さあ、最近どう」

( ・∀・)「どうって……」

('A`)「何か良い事あった?」

 まるで叱られているような感覚を覚える。
 ドクオはとても強気だった。表情に影以外の、激しい感情を感じた。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 01:58:17.44 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「どうしたんだよお前。ちょっと怖いぞ」

('A`)「……何も無いんだ」

( ・∀・)「無いよ。別に」

('A`)「じゃあ悪い事はあったか?」

 質問の意図がわからない。
 俺は同じように答えるしかなかった。

( ・∀・)「別に、何も無かった」

('A`)「変わった事は何一つ無い?」

( ・∀・)「ああ」

(#'A`)「ふざけんな!」

 ドクオの大声を、初めて聞いた。



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:02:30.50 ID:rZvGcXHM0

***川д川***

ζ(゚ー゚*ζ「鬱田?」

川д川「うん……4組の」

*(‘‘)*「ああ……はいはい。あの人ね」

ζ(゚ー゚*ζ「その人がどうかしたの?」

川д川「知ってるなら、どんな人か教えて貰おうと思って」

 ざわめく教室の喧噪に、声が消されそうになる。
 昼食を食べるだけなのに、どうしてこんなにうるさいのかな。
 カラオケをしている訳でも無いのに。

ζ(゚ー゚*ζ「うっそ! 貞子ちゃんて意外と恋多き女だったり!?」

 ああ、こういう人がいるからうるさいのか。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:06:21.66 ID:rZvGcXHM0

川;д川「別に、そういうのじゃ無いって」

*(‘‘)*「じゃあ何?」

川д川「最近図書室で知り合って……相談とか乗って貰って……」

ζ(゚ー゚*ζ「それで恋心が芽生えちゃった訳ね?」

川;д川「違うってば。ただ、その、昨日ね、様子がおかしかったの」

ζ(゚ー゚*ζ「何それ」

川д川「モララー君の事をね、ちらっと言っちゃったんだ」

*(;‘‘)*「え?」

川д川「何か、怒ってるみたいだった。モララー君と仲悪いのかなって思って。
     でも本人には聞けないし、二人は噂好きだから、何か知ってるかなって……」



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:10:15.95 ID:rZvGcXHM0

*(;‘‘)*「何て言ったの? モララー君の名前を出したの?」

川д川「ふられたっていう事を言ったよ。あ、でも名前は出してない。
     サッカー部のエースとしか……」

*(;‘‘)*「うわーうわーちょっとやばいかもよそれ」

ζ(゚ー゚*ζ「何で?」

*(‘‘)*「だって鬱田君って、確か貞子ちゃんがふった人でしょ?」

川д川「うん」

川;д川「え!?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの!? きゃーきゃー青春!」

川;д川「な、ななな、なん、なんで……」

 何で知ってるの!?



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:13:54.91 ID:rZvGcXHM0

*(‘‘)*「吹奏楽部の子が、放課後に二人が話してるのを見たって言ってたから」

川;д川「……」

 ヘリカルの情報網を甘く見ていた。

川;д川「誰にも言わないでね!?」

*(‘‘)*「ごめん」

 謝っちゃった……言ってるよこの子……。

*(;‘‘)*「で、でも大丈夫。超仲の良い子しか知らないし。
     ていうかぶっちゃけ、貞子ちゃんと鬱田君の組み合わせじゃあんまりサプライズ無いから」

川;д川「はーいはーいそれは良かったです」



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:16:35.08 ID:rZvGcXHM0

川д川「あ……てかさ、何がやばいの?」

*(;‘‘)*「やばいの、マジで」

ζ(゚ー゚*ζ「何がー?」

*(;‘‘)*「だって、モララー君と鬱田君、超仲が良いのよ」

川д川「……え?」

 仲が悪いと思ってたんだけど……逆?

川д川「それで……どうして……」

*(;‘‘)*「ニブチン! 二人は親友同士なの!
     かたっぽが好きな人が、もうかたっぽにふられてたら、そりゃあやばいでしょ!」

川д川「……」



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:19:02.41 ID:rZvGcXHM0

川;д川「やばい!」

*(;‘‘)*「でしょ!? でしょ!?」

川;д川「ど、どうしよう……!」

*(;‘‘)*「どうするもこうするも……どうしようか……」

ζ(゚ー゚*ζ「喧嘩になったりするの?」

*(‘‘)*「たぶん……よくわからないけど」

ζ(゚ー゚*ζ「モララー君ってさ、昼休みにいっつも屋上にいるんだよね?」

川д川「う、うん」

ζ(゚ー゚*ζ「この前モララー君を呼びに行った時さ、もう一人いたよね?」

*(;‘‘)*「……あ」



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:21:30.19 ID:rZvGcXHM0

ζ(゚ー゚*ζ「その人が鬱田君じゃないの?」

*(;‘‘)*「あーあーそうだったかも!」

川;д川「え、何? 何?」

ζ(゚ー゚*ζ「二人はいつものように屋上に行き、そして熱く拳で語り合う……」

*(;‘‘)*「うわっちゃー超青春だね」

川;д川「どういう事?」

ζ(゚ー゚*ζ「ていうかさ、ついさっきも見たんだよね」

*(‘‘)*д川「?」

ζ(゚ー゚*ζ「モララー君が、背の低い男の子と一緒に屋上に行くの。
       ひょっとして今頃、屋上が血みどろになってたりして」



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:24:23.02 ID:rZvGcXHM0

 その時、外から鈍い金属音が聞こえた。結構大きな音だった。
 一瞬だけ部屋が静かになったが、またすぐに喧噪に包まれた。

*(;‘‘)*「貞子……」

川;д川「ごめん!」

 私はお弁当をそのままにして、走り出した。
 ここは三階。でも、音はすぐ外から聞こえたみたいだった。
 あれは屋上からの音なんだ。
 屋上で、何かが起こってるんだ。

川;д川(モララー君……ドクオさん……)

 胸騒ぎがした。
 デレの言葉が、冗談とは思えなくなってきた。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:26:46.31 ID:rZvGcXHM0

***('A`)***

(;A;)「ぐうううう……」

 ドクオは泣いていた。殴った拳は痛かった。
 けれどそれ以上に、胸の奥が痛かった。

( ;・∀・)「……ドクオ、ごめん」

(;A;)「うるせえ……うるせえバーカ! バーカ!」

( ;・∀・)「ごめん……黙っているのが、お前の為だと思って」

(;A;)「うるせんだてめえ! もう一発殴られてえのか!」

(  ∀ )「……ごめん」



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:30:29.86 ID:rZvGcXHM0

 モララーの事は、親友だと思っていた。
 無論、今でもそう思っている。だからこそ、辛かった。
 溜まった暗い感情が、一番の友達に向かって爆発しているのが、ドクオは辛かった。

(;A;)「なんでふった!?」

( ・∀・)「好きな人がいたんだ」

(;A;)「別に付き合ってやっても良かったんじゃねえのか!」

( ・∀・)「貞子さんは、きっとそう考えなかったんだろ」

(;A;)「うるせえ!……うるせえんだよちくしょう!」

 自分が理不尽な事をしているのを、ドクオはちゃんとわかっていた。
 それでも自分を止められなかった。誰かを好きになるという気持ちのベクトルが、今は全て憎しみに変わっていた。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:33:08.84 ID:rZvGcXHM0

(;A;)「誰だよ!」

( ・∀・)「え……?」

(;A;)「好きな人って……誰だよ」

( ・∀・)「……」

 屋上のドアが、開いた。
 ドクオは構わず続けた。

(;A;)「誰だよ! 誰だ!」

 怒りが爆発して、頭の中で花火が飛び交ってるみたいだった。
 ドクオは胸ぐらを掴んで、そのまま押し倒そうとした。
 モララーは抵抗する。二人はもつれ合う。



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:36:04.04 ID:rZvGcXHM0

川;д川「やめて!」

 貞子の悲鳴が響いた。
 ドクオには、どこか遠く、全く別の世界から届いた声のように聞こえた。

(#;A;)「誰なんだよ!」

( ・∀・)「お前だよ」

 その瞬間、屋上にいた三人はぴたりと制止した。
 まるで屋上の風景が、写真になったようだった。



159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:43:00.02 ID:rZvGcXHM0

***('A`)*( ・∀・)*川д川***

('A`)「……」

( ・∀・)「……」

川д川「……」

 三人はグラウンドを向いて、鉄柵にもたれている。
 とっくに昼休みは終わっていた。それでも三人は、そこを動こうとしなかった。

 誰も喋り出さず、誰も目を合わせず、時だけが過ぎていく。
 全員が似たような虚脱感を感じていた。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:44:51.84 ID:rZvGcXHM0

('A`)「なあ……」

( ・∀・)「……」

川д川「……」

('A`)「同じ事聞いて悪いんだけど、友達として好きって意味じゃないよな」

( ・∀・)「お前に恋してるって意味だよ。常に抱きしめたい衝動に駆られている」

('A`)「そこまで聞いてねえよ……」

 ドクオがため息をつく。
 それが感染したかように、他の二人も長いため息をはき出した。



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:48:14.50 ID:rZvGcXHM0

川д川「三人とも、失恋したって事……だよね」

( ・∀・)「そうなるな」

('A`)「……何でこんな事になったんだろ」

( ・∀・)「恋愛に壁なんて無いさ。
      人間同士が出会えば、本能が疼いて、自然とそういう感情が芽生えるもんだ」

('A`)「お前何でそんなに冷静なんだよ」

( ・∀・)「いや、とても慌てている。慌てすぎて、逆に冷静になってるんだよ」

('A`)「ヘリコプターのプロペラみたいに?」

川д川「ああ……早すぎて遅く見える、みたいな?」

( ・∀・)「そうそう。そんな感じ」



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:50:27.24 ID:rZvGcXHM0

('A`)「……」

( ・∀・)「……」

川д川「……」

 今度のため息は、三人同時だった。

('A`)「……出会わなかった良かったな、俺たち」

( ・∀・)「……どうして」

川д川「そうだね……」

( ・∀・)「だから、どうしてだよ」

('A`)「こんな微妙な関係にならなくて済んだじゃん」

( ・∀・)「微妙か……確かに微妙かもしれないな」



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:52:50.72 ID:rZvGcXHM0

 モララーは空を仰いだ。
 今日は、憎らしいほどの晴天だった。

( ・∀・)「でもさ、よくよく考えれば、恋をしてふられただけだろ。俺たちってさ」

('A`)「……」

川д川「……」

( ・∀・)「良いじゃん。恋が出来たんだから。俺は良いと思ってる。
      ドクオに会えて良かった。お前に出会わなかったら、俺は恋を知らなかった」

(;'A`)「や、やめろ気持ち悪いから」

川д川「……そうだね」

(;'A`)「貞子さん……?」



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:55:05.94 ID:rZvGcXHM0

川д川「私、モララー君に会えて良かった。それと……」

(;'A`)「……」

川д川「ドクオ君にも、会えたから」

('A`)「……」

( ・∀・)「……ドクオは」

(;'A`)「はいはいはいはい。俺も良かったって思ってるよ。
    最高に可愛い女の子と、最高に気持ち悪いイケメンに出会えたもんな。
    恋が出来たし、親友も出来たし、最高だ。最高に最低だ」

( ・∀・)「ははははは。照れるなよ」

(;'A`)「うるせえ」



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 02:58:14.32 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「俺たちは……ほら……あれだよ……あれ」

('A`)「何だよ」

( ・∀・)「船とか、飛行機とか沈む謎の海域……何だっけ」

川д川「バミューダ?」

( ・∀・)「そうそう。バミューダトライアングル」

('A`)「……何言ってんのお前」



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 03:01:05.67 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「俺たちは、言ってみれば三角関係だろ?」

('A`)「普通の三角よりよっぽど綺麗でわかりやすくて気持ちの悪い三角だな」

( ・∀・)「しつこいなーお前。
      で、俺たちは知らず知らずのうちに、バミューダトライアングルを作ってたって事だよ」

川д川「ああ……」

( ・∀・)「それなのに、船を出してしまった。自分たちで作ったバミューダ海域に。
      そして仲良く沈没、と。中々面白い構図だよな」

('A`)「全然面白くねー」

( ・∀・)「ちぇ」



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 03:05:17.95 ID:rZvGcXHM0

川д川「私は面白いと思うなー。そういう発想」

('A`)「だよな。俺も良い例えだと思った」

( ・∀・)「……まあ、その、何だ。
      新大陸を見つけようとしてだな、俺たちは船を出そうとした訳であって……」

('A`)「めんどくせえなあお前……はっきり言えよ」

( ・∀・)「……わかった。はっきり言うよ」

 鉄柵に預けていた体を起こして、モララーは屋上の真ん中まで歩いていった。
 呆ける二人を振り返り、肺一杯に息を吸う。



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 03:08:09.59 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「ドクオ! お前が好きだ!」

(;'A`)「は、はあ!?」

( ・∀・)「大好きだ! 結婚してくれ!」

(;'A`)「む、無理! 法律的に!」

川д川「……」

 今度は貞子が、鉄柵から離れる。
 手をメガホン代わりにして、口に当てる。


川*д川「モララー君! 大好き! 一目見た時から! 今まで! ずっとずっと! 好きでした!」

( ・∀・)「すまーん! 俺ドクオが好きなんだ! 愛してるんだ!」

(;'A`)「ば、馬鹿! みんなに聞こえるだろ! 大体それもう終わった事だろ!?」



188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 03:11:40.42 ID:rZvGcXHM0

( ・∀・)「終わっちゃなんかいない! 俺の愛はエンドレス! 地平線まで轟くぜ!」

(;'A`)「意味不明過ぎる! お前意味不明過ぎる!」

川*д川「これからも好きです! きっと、ずっと!」

( ・∀・)「オーケイ貞子! その調子だ!」

(;'A`)(何なんだこいつら……ちくしょう……ちくしょう……)

 沈んだはずの船が、再び動き始める。
 ドクオを残して、光と空気を求めて。

(#'A`)「おまえらいい加減にしろよ! 俺だって……俺だって……」

( ・∀・)「……」

川д川「……」



197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/06(日) 03:20:14.45 ID:rZvGcXHM0


 空は憎らしいほど晴天だった。
 今は愛おしいほど晴天である。


(#'A`)「俺、鬱田ドクオは――」


 魔の海域、バミューダトライアングルは、その効力を無くそうとしていた。
 沈み合った船が、お互いを支え合って、海上を目指し始めたのだから。


( ・∀・)

川*ー川



 お互いが、お互いの灯台となって。


       ―了―



戻るあとがき