( ^ω^)ブーンがアイドルマスターを目指すようです

8: 第30話 :2007/01/12(金) 00:23:43.72 ID:N8tHjw4F0
  

 台風が近づいているからか、その日は朝から薄暗く、空は一面濁った雲で覆われていた。
天気予報によれば雨は夜から降ってくるので、昼から夕方にかけて行われる最終審査には関係ない。
 最も、この最終試験の会場『VIPホール』は屋内なので、雪が降ろうと槍が降ろうと関係ないのだが。

 午前8時40分、ステージ開始まであと6時間と少々。ブーン達『ニュー速プロ』の面々は一番で会場入りした。


从'ー'从「会場、おっきぃなぁ・・・」

ξ゚听)ξ「ここがトップアイドルへの第一歩ね」

( ^ω^)「トップアイドル・・・トップ・・・・・・酵素パワー・・・」

('A`)「何言ってるの、ブーン」



9: 第30話 :2007/01/12(金) 00:24:40.01 ID:N8tHjw4F0
  

 他のアイドル達も到着し、もくもくと準備をはじめる。
会場挨拶、舞台の下見、衣装チェックにメイク確認。勝手のわからない4人にマーヤが付き添い、指示を与えていく。


川`■■「・・・うん、これで大体は大丈夫ね。何かあったらスタッフの人に聴きなさいね。
   社長もそろそろ来るだろうし、私はそろそろ行くわ」


 控え室で早めの昼食をとり、食後のお茶を飲みながらマーヤが言った。ちなみに、同室のカレハとアイドルE達は外に出ている。


从'ー'从「ありがとうございました」

( ^ω^)「参考になりましたお」

ξ゚听)ξ「マーヤさんは見てくれないんですか?」

川`■■「まさか。ちゃんと見ていくわよ。行くっていうのは打ち合わせ、ね」

ξ゚听)ξ「打ち合わせ?」

('A`)「12時半からだから・・・まだ時間ありますよ?」

川`■■「あなたたちの、じゃなくてクーのよ」



10: 第30話 :2007/01/12(金) 00:27:18.88 ID:N8tHjw4F0
  

( ^ω^)「クーさんの、ですかお?」


コンコン


('A`)「いいよね?大丈夫ですよ」

アイドルA「おはようございまーす」

川 ゚ -゚)「おはよう、みんな」

4人「?」



11: 第30話 :2007/01/12(金) 00:29:20.99 ID:N8tHjw4F0
  

 スクリーンに区のシンボルマークが映し出される。VIP区、リョーコ・モモヤマ、そして『VIPPER’s』の歴史。
 オーディションの趣旨説明も兼ねた5分ほどの映像が流れ終わり、舞台袖から一人の女性が現れ、観客席がふいに盛り上がる。

 スポットライトに照らし出された黒の礼服の女性──否、アイドル。クーは舞台中央まで歩いていき、
地べたに置かれたマイクを手にとると、高らかに宣言した。


川 ゚ -゚)『待たせてすまない。これより『VIPPER’sオーディション』最終ステージ審査を行う』


川 ゚ -゚)『私の名前はクー・マーリェ。ケガで辞退した新人アイドルだ。本選に出ることはできないが、主催者のご好意で
   こうして司会進行をやらしてもらっている。よろしくたのむ』


川 ゚ -゚)『さて、まずはこの最終審査まで残ったアイドル達を紹介しようか・・・』



13: 第30話 :2007/01/12(金) 00:35:34.05 ID:N8tHjw4F0
  


(ステージ順・アイドル名・所属事務所・アイドルジャンル・総合レベル)



@ アヤカ・ワタナベ 『ニュー速プロ』    ビジュアル系 総合レベル7
A アイドルB    『ツチノコプロ』    ボーカル系  総合レベル8
B ツン       『ニュー速プロ』    ダンス系   総合レベル10
C アイドルC    『和佐皆日芸能事務所』 ダンス系   総合レベル7
D しぃ       『うまい棒芸能プロ』  ボーカル系  総合レベル10
E アイドルE    『キンケドゥ・プロ』  ボーカル系  総合レベル8
F アイドルD    『霧氷路地芸能事務所』 ビジュアル系 総合レベル8
G カレハ・コノハ  『狐乃派』       ダンス系   総合レベル9



川 ゚ -゚)『普通ならこういうとき、ひとりひとりアイドルが出てきて挨拶するのが筋なんだが、すまない。時間がないのでカットだ
   次に審査員の紹介に・・・』



14: 第30話 :2007/01/12(金) 00:38:35.33 ID:N8tHjw4F0
  

ξ゚听)ξ「・・・クーさん、本当に踊れないんですか?」

川`■■「無理すればできるかもしれないけど、もう遅いわ。それに可能だとして、クーがやりたいっていっても
私はストップさせるつもり。こうやって舞台に出させてもらえるだけでも儲けものだと思わないと・・・」


 舞台脇からステージを眺め、そういいながらもマーヤは微笑んでいた。たとえ本選にはでれなくても、必死にリハビリをして
杖がなくても大丈夫なまでに回復したのだ。これくらいの褒美があってもいいだろう。


从'ー'从「ううっ、緊張するよぉ・・・人という字は・・・」

ξ゚听)ξ「もう助けないわよ、アヤカ。最初なのは辛いだろうけど・・・」

从'ー'从「うん・・・大丈夫。なんとかしてみせるよぉ」

( ^ω^)「ううっ、緊張するお・・・」

('A`)「・・・・・・ツンは平気?」

ξ゚听)ξ「まさか・・・怖いわよ。こんなにお客さんがいるなんて思いもしなかったわ」



15: 第30話 :2007/01/12(金) 00:40:34.87 ID:N8tHjw4F0
  

 今日はこの後、リョーコ・モモヤマのライブツアーがここで企画されている。いわば、このオーディションは
その前座である。そのため、すでに2時半から彼女のファンが会場になだれ込んでいた。
 審査委員の紹介も滞りなく終わり、ついに煌びやかな舞台が幕を開く。



从'ー'从「・・・そろそろですね」

('A`)「気をつけて」

ξ゚听)ξ「負けないで」

川`■■「落ち着いてね」

(´・ω・`)「あと5分で終わる。がんばってきたまえ」

( ^ω^)「・・・アヤカ」


( ^ω^)「全力で行ってこい、だお!」

从'ー'从「・・・行ってきます!」



('A`)「(・・・あれ、あそこに立てかけられているのは・・・)」



16: 第30話 :2007/01/12(金) 00:43:42.88 ID:N8tHjw4F0
  

川 ゚ -゚)『エントリーナンバー@番、ニュー速プロダクション所属、アヤカ・ワタナベ』


 クーに呼ばれるがまま、アヤカが舞台袖から現れた。気のない顔をしていた観客達は、アイドルの登場に俄然元気になる。
彼らの本当の目的は彼女たちではないのだが、アイドルオタクという性か、舞台にアイドルが立つだけで
いやおうなしにテンションがあがるのだ。


从'ー'从『こんにちわー』

観客「こんにちわー」

川 ゚ -゚)『じゃあ、アヤカ。自己紹介とアピールしちゃって』


 3分よ、と手にもったマイクから口元をはずして言い、クーは後ろに下がる。


从'ー'从『はじめまして、アヤカ・ワタナベ、16歳です。好きなことはお菓子作り、特技はエアギターです。
   今日はいまからエアギターを実際にやってみます』  

从'ー'从『・・・・・・』

从'ー'从『あれれー、わたしのギターがないよぉ』


 ピンマイクが彼女の独り言を拾い、会場は爆笑の渦に巻き込まれた。



17: 第30話 :2007/01/12(金) 00:47:26.14 ID:N8tHjw4F0
  

 途方にくれるアヤカを見かね、衣装のままツンが舞台脇からギターを持っていく。


从'ー'从『ありがとう、ツンちゃん』

ξ゚听)ξ「いいから、ちゃんとやりなさいよ。残るんでしょ?」

从'ー'从『うん、ツンちゃんもがんばってね』


 ツンが舞台から降りたところでタイミングよく照明が一段階おちる。スポットライトがひとつ増えた。
スタンダードに構えたギターを背負い、一歩を踏み出す。


从'ー'从 『わんつーすりーふぉー!』


 力の入らない掛け声とともに音楽が流れ出し、アヤカが動き出す。
曲はクイーンの『Don’t stop me , now.』

 舞台中央、背負ったものがまるで手の中にあるかのように左腕を動かすアヤカ。



18: 第30話 :2007/01/12(金) 00:50:54.90 ID:N8tHjw4F0
  

 ところで、彼女が背負っているギター、実は通常のエレキではない。

 大きい会場でソロのパフォーマンスは目立たない。ショボンのアドバイスを受け、ブーンとドクオが自作した
“エレキギターっぽいもの”である。近くで見ないとわからないが、かなり作りこまれている。
飾りとしてのインパクトはあるが、動きが制限されてしまいそうだ。重量も、それなりにある。


从'ー'从『どん・すとっみーなーう〜』


 他にもダンスには不向きな流れ星のアクセサリをつけたブーツや、髪をかくしてしまう桃色のテンガロンハット。
歌って踊れる“典型的なアイドル衣装”をあえてズラした今回の衣装は、エアギターでのパフォーマンスを前提にそろえられていた。



19: 第30話 :2007/01/12(金) 00:52:55.43 ID:N8tHjw4F0
  

 やがて曲の終盤、フェードアウトしてゆくのにあわせるかのように、どこかで聞いたような旋律が
フレディ・マーキュリーの声に重なって聞こえてくる。この曲は・・・



川 ゚ -゚)『それでは続けてステージのほうに入ります。アヤカ・ワタナベ。曲は『THE iDOLM@STER』!』



 絶妙のタイミングでクーの声が入る。
 ループしていたイントロが正常に流れ出し、曲がはじまった。

 できるだけ大きく、細かい動きをけずって歌。そして立ち位置に集中。
間奏で再びエアギターを魅せるなど、アヤカは今できる最高のパフォーマンスで舞台を終えた。



20: 第30話 :2007/01/12(金) 00:53:40.04 ID:N8tHjw4F0
  

アイドルB「(・・・すごい・・・・・・)」


 舞台に立って、Bはその恐ろしさを知った。何百何千という視線が自分に向けられている。
後ろからは自分を“観察”する審査員の視線。
アイドルを志した時点で覚悟はしていた。だが、ここまでとは。
逃げ出したい。一瞬、本気でそう考えた。


アイドルB「(アヤカちゃん、こんな中でがんばってたんだ・・・)」

川 ゚ -゚)『・・・B。大丈夫か?』

アイドルB 『はっ、はい。ごめんなさい。これからみなさんの前で歌えるかと思うと、うれしくて、つい・・・』

川 ゚ -゚)『感極まってしまったわけか』


 クーの返しに観客が勝っ手に盛り上がった。うん、大丈夫。舞台は壊れない。


アイドルB『二番、アイドルB。歌います。曲は『名称募集中!』』


 二曲分、およそ5分。Bはそつなく舞台を終了した。



21: 第30話 :2007/01/12(金) 00:54:53.79 ID:N8tHjw4F0
  

ξ゚听)ξ「・・・ドクオ」

('A`)「どうしたの」


 舞台袖に座って黙りこくっていたツンが口を開く。ステージではまだBが歌っていて、その様子は横からも
中継カメラからも見ることができるが、ツン見ようともしていない。
マーヤとショボンは反対側へ移動していた。


ξ゚听)ξ「・・・手が冷たい。上手くうごかないかも・・・」

('A`)「肩を出してるからかな・・・どうしよう。あったかい飲み物でもいる?それとも、毛布かなにか」

ξ゚听)ξ「・・・手」

('A`)「手?」

ξ゚听)ξ「手、握ってくれない?」


 そういってツンは両手を差し出した。


('A`)「・・・」

 自分の腕を伸ばしかけ、ふとやめて両手の白手袋をはずす。それからおそるおそる、といったかんじに
ドクオはツンの両手を握り締めた。



22: 第30話 :2007/01/12(金) 00:58:40.17 ID:N8tHjw4F0
  

ξ゚听)ξ「・・・・・・あんまりあたたかくないわね」

('A`)「うん、ツンとそんなにかわらないかも」

ξ゚听)ξ「・・・・・・・・・・・・・」


アイドルD「やっほー、ツンちゃん」


 二人の両手が離れた。
というより、ツンがドクオを振り払う。
 扉が開いて、4番手のC,そしてD達がやってきた


ξ゚听)ξ「C。Dも来たの?」

アイドルD「順番はまだまだですけど・・・ちょっと散歩、かな」

ξ゚听)ξ「じゃあアタシの舞台は見ないうちに帰ったほうがいいわ。元気なくすわよ」

アイドルD「余裕じゃん、ツンちゃん」

アイドルC「いいなぁ〜Cなんか昨日から奮えがとまらないよぉ」

マネージャーC「オーケーC。とりあえず、その鉈(レプリカ)を振り回すな」



24: 第30話 :2007/01/12(金) 01:01:19.24 ID:N8tHjw4F0
  

川 ゚ -゚)『エントリーナンバーB番、ニュー速プロダクション所属、ツン!』


ξ゚听)ξ「ドクオ」

('A`)「何?」

ξ゚听)ξ「明日から忙しくなるわよ。なんたって、アンタは『VIPPER’s』リーダーのプロデューサーになるんだから」

('A`)「・・・・・・うん。頑張って!!」


 巻き髪を軽く掻きあげ、ツンは舞台へと駆け出した。



     【続く】



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