(´・ω・`)の恨み代理店のようです
- 142: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:31:18.39 ID:Cv2ZbZht0
「………」
無言で歩く人影が一つ。
人通りの多い道から、少しずつ人のいない道へ進んで行く。
春の陽気さに浮かれもせず、ただ道を歩く。
その足は山へと進む。
頂上に行く道には「工事中」という看板が立っている。
最近の雨により、道がふさがってしまったらしい。
女性は抜け道を知っているようで、そちらを通り山頂へ行く。
頂上に着く頃には日が沈み始め、空に紅色と紺色が広がる。
それらは水と油のように、混ざろうとしない。
女性は大きな1本の桜の木の下に腰を落とす。
下に見える、人の住む町はとてもちっぽけなモノだった。
- 143: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:33:36.91 ID:Cv2ZbZht0
<最終話 イキガイ>
从 ゚∀从「よう、会いに来てやったぜ」
勢いよく扉を開け入ってきたのは神様ことハインリッヒ。
(´・ω・`)「今日は何の用?」
何事もないように平然に答えるのはこの店、<恨み代理店>の店長ショボン。
川 ゚ -゚) 「マジでびびった」
顔色を変えずに驚いてみせる女、クー。
手からグラスが落ち、砕け散る。
ハインはそれを笑い、ショボンはまたか、とため息をつき、クーは割れた破片を拾っている。
神様はカウンター前の椅子に座ると、笑うのを止め、深刻な顔つきになる。
ショボンとクーは、ハインの雰囲気が変わったのに気づくと、喋らずに、言葉が出てくるのを待つ。
- 145: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:36:31.00 ID:Cv2ZbZht0
从 ゚∀从「まああれだ、そんなに堅くなるな」
ハインは一言掛けると、続けざまに口を開く。
从 ゚∀从「クー、お前はそろそろ天国に逝くべきだ」
ハインの言葉を聞くとクーは意味が分からないといった様子で、ハインを見る。
ハインとクーは何度か顔を合わせたこともあり、意外と仲がいい。
その相手から天国に逝け、つまりは選択をするなと言われたのだ。
川 ゚ -゚)「……何故だ?」
クーはハインを睨み付け問う。
ハインはゆっくりと息を吐き出して答える。
- 148: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:38:20.20 ID:Cv2ZbZht0
从 ゚∀从「<天国コース>か<地獄コース>、どちらに行くかは地獄のお偉いさんが決めてるんだ。
そこでさらに、<天国逝き>と<恨み代理店>にわけられる」
ここまではクーも理解しているようで、頷いている。
ハインはそれを確認するとまた口を開く。
从 ゚∀从「死ぬときに記憶喪失になる奴ってのは意外と多いんだ。
とくに事故や、殺される奴の中にな。そんな奴らは<恨み代理店>に行っても意味がない。
だから天国に逝くことになっている」
クーはそこで首を傾げる。
ならば何で自分はここにいるのだろうと。
从 ゚∀从「お前がここに来たのは、あれだ……。言いにくいけど、
あいつらのミスだ。私が代わりに謝る、ごめん」
あいつらとは地獄の連中のことだろう。
クーはハインに頭を下げるのを止めさせる。
- 149: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:40:56.26 ID:Cv2ZbZht0
从 ゚∀从「ショボンはあらかじめ、ここに来る死者のデータを貰ってるよな?」
ハインがそう言うと、ショボンは頷き、カウンターの裏の引き出しを指差す。
そこに死者のデータが送られてくるらしい。
从 ゚∀从「そのデータはここに来る奴の記憶から取ってるんだがな、
記憶喪失だとそれが出来ない」
ショボンはそれを訊いて納得する。
クーが来たとき、データは何も送られてこなかった。
誰も口を開かず、時間が流れる。
それぞれ思うことがあるのだろう。
そして沈黙を破ったのはハインリッヒ。
从 ゚∀从「てなわけでクー、お前は天国に逝け」
- 151: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:42:43.33 ID:Cv2ZbZht0
川#゚ -゚) 「なんで(´・ω・`)「何でまた急にそんなことを?」
川#゚ -゚) 「………」
クーはぶつぶつと文句を言って拗ねている。
ショボンとハインはそれを気にせずに話を続ける。
从 ゚∀从 「……それが本来の在り方だろう?」
ハインはショボンの目を見ずに答える。
(´・ω・`)「それもそうだね。正直ここにいたって、
クーが記憶を記憶を取り戻すきっかけがあるとは思えないし」
クーは味方のいなくなった空間で泣きそうになっている。
しかし、ショボンは敵になったわけじゃなかった。
ショボンはクーの頭に、ポンと手を乗せ、しっかりとした声で答える。
(´・ω・`)「でも、最終的に決めるのはクー自身だ」
- 154: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:45:08.86 ID:Cv2ZbZht0
クーは泣くのを堪え、力強く頷く。
ショボンはそれを見て笑うとハインもやれやれといった様子で、肩を落とす。
その後はいつも通りみんなで会話をしたり、愚痴をこぼしあったりということだった。
さっきまでの堅苦しく、重い空気はどこかに消えていた。
30分ほど経つと、ショボンが引き出しを開ける。
カウンター裏の死者の情報が来る引き出し。
そこには書類が入っていて、ショボンはそれに目を通す。
ハインは帰る気がないようで、カウンターの真ん中の椅子を空け、その隣に座る。
カランと音が鳴り扉が開く。
入ってきたのは小柄な女性。
女性は泣いており、わんわんと叫んでいる。
しかし、カウンターの向こうにいるクーを見たとたん、泣くのを止める。
(゚、゚トソン「クーさん!!!!」
その声にショボン、ハイン、クーは驚く。
きっかけが店に飛び込んできたから。
- 155: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:47:05.54 ID:Cv2ZbZht0
(゚、゚トソン「クーさん!!何ですここは!?私どうなってるんです?」
興奮している女性を3人でなだめ、椅子に座らせる。
女性は水を4杯飲むと、落ち着いた様子で辺りを見回す。
ショボンはここがどのようなところかを説明する。
女性はそれを聞き終わると泣き出してしまった。
それを見かねたショボンは棚からウォッカとクランベリージュースを取り出し、
2つの液体を氷と一緒にシェーカーに入れて混ぜ合わせる。
ショボンは背が低い、口径の広いグラスを用意しカウンターに置く。
そこに、氷とカクテルを入れて女性に差し出す。
(;、;トソン「あびばどうございばす」
泣きながらお礼を言う女性。
彼女はコップを手に取り赤みを帯びたカクテル、ケープ・コッダーを口にする。
ここまでいつも通りに接していたショボンだが、内心は落ち着いていなかった。
もちろんハイン、クーも。
- 158: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:49:05.67 ID:Cv2ZbZht0
女性はそれを飲み終わると、泣くのを止める。
(゚、゚#トソン「あの、クソ女あああ」
死んだことの悲しみは、殺された事への恨みに繋がる。
女性は憤りを隠せないといった様子で言い放つ。
(゚、゚#トソン「殺す!あの女ぶっ殺す!!私の恨みを晴らして下さい!!!」
「あの女!!ペニサスを殺して!!!」
その言葉にクーは目を見開き反応する。
- 160: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:51:08.57 ID:Cv2ZbZht0
川 ゚ -゚) 「……ああ。そうか」
クーは都村と、カウンターを挟み向かい合う。
都村はさっきまでのように興奮しておらず、
言いたいことを吐き出しすっきりとしたようだった。
川 ゚ -゚) 「トソン、お前は天国へ逝け」
クーから発せられた言葉に都村は戸惑う。
だが、それ以上に驚いているのが二人、ショボンとハインだ。
(;´・ω・`)「今なんて言った?」
川 ゚ -゚) 「天国に逝けと……」
(;´・ω・`)「その前!!」
ショボンが珍しく大きな声を出す。
それとは逆に、クーは不思議と落ち着いている。
川 ゚ -゚)「トソン、彼女の名前だ」
ショボンは一度もその名前を言っていない。
かといってクーが死者の情報を見たわけでもない。
- 163: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:53:45.35 ID:Cv2ZbZht0
从 ゚∀从 「……おい、クー。ちょっとこっちに来い」
ハインがそう言うとクーは黙ってカウンターから出る。
出てきたクーの腕を掴みハインは壁まで歩く。
壁には何もない。
しかし、ハインが指を鳴らすと扉が出てくる。
川;゚ -゚)「なんだ?どうする気だ?」
扉の向こうは真っ暗で何も見えない。
クーは入るのを拒むがハインはそれを許さない。
从 ゚∀从「いくぞ」
ハインは暗闇の中、クーを連れて飛び込む。
二人がいなくなると扉が音を立てずに静かに閉まる。
(゚、゚;トソン「何が起きてるんですか?」
都村は今の現状を理解していない、出来るはずもない。
だが、ショボンにはだいたいの予想が出来ていた。
(´・ω・`)「(記憶を取りに行ったのかな)」
- 166: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:56:11.16 ID:Cv2ZbZht0
暗い空間。
浮いているのか、立っているのかすら分からない。
歩けば進むし、泳いでも進める。
光が全くないはずなのに、ハインとクーはお互いの体が見えている。
川 ゚ -゚)「ここは……」
クーはここに来たことがあった。
ショボンの店に入る前、確かにここに来ていた。
从 ゚∀从「ここが記憶をとる場所だ。ここにいるだけで、必要な個人情報が全部ショボンの所にいくな」
ハインはクーにそれを言って笑う。
クーは苦笑いをしながら、ハインに近づく。
川 ゚ -゚)「やっとで選択できるんだな」
クーが呟く。
すると扉が現れる、<恨み代理店>への入り口。
クーはドアノブに手を掛け扉を開け、店に入る。
从 ゚∀从「………」
ハインは何も言わず、黙って店に入った。
- 169: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 20:58:01.54 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「おかえり」
ショボンは手にしていた資料を置くと、声を掛ける。
その声に、クーは「ただいま垂れ眉」と返すが、ハインは何も言わない。
カウンター前の椅子には3人が座っている。
ハインとクーと都村。
(゚、゚トソン 「……クーさん、死んでたんですね」
都村が言うと、クーは頷く。
(゚、゚トソン 「いなくなって半年近く経ちますよ……」
クーは何度も頷く。
(゚、゚トソン 「同じ人に殺されたんですか?」
その言葉を聞いたとき、クーは都村に向き直り、言う。
川 ゚ -゚)「お前は天国に逝って、幸せになれ。私が恨みを晴らす」
- 172: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:00:08.74 ID:Cv2ZbZht0
(゚、゚トソン 「……。クーさんもあの人と同じで頑固でしたよね」
あの人とはクーを殺した女、ペニサスだろう。
クーは意見を変えるつもりはないようで、都村を真剣な眼差しで捉える。
(゚、゚トソン 「……クーさん頼みますよ」
川 ゚ -゚)「……!ああ」
その会話を聞いていたショボンは、いつものように指を鳴らす。
壁に扉が現れ、都村にそこを通るように言う。
都村は軽く会釈し、扉の向こうへと進んでいった。
(´・ω・`)「さて……と。クー、記憶は無事に戻ったみたいだね。
なら君は選択しなければいけない、天国に逝くか、恨みを晴らすか。
どうやらもう決まってるみたいだけど」
それを訊いてクーはショボンに言う。
川 ゚ -゚)「恨みを晴らす」
(´・ω・`)「殺し方は?」
ショボンがそう聞くとクーは力強く答える。
川 ゚ -゚)「私に殺させてくれ」
- 175: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:02:05.05 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「君も長い間ここにいたんだから分かるだろう?」
川 ゚ -゚)「頼む、何を犠牲にしてもいい!!地獄に落ちても構わない!!
そのまま地獄に居続けたっていい!!だから……頼むよ」
クーはショボンに頭を下げる。
しかし、ショボンは答えようとしない。
川 ゚ -゚)「……頼む」
クーは諦めずに頼む。
それを見てショボンはやっとで口を開く。
(´・ω・`)「一つだけ方法があるけど」
クーは顔を輝かせない、人を殺すのに喜びはいらない。
ショボンは静かになったクーを見て話し始める、もう一つの選択肢を。
(´・ω・`)「この選択肢を教えるのは君が初めてだよ。
一度しか言わないからしっかり聞いててね。
この選択肢を選べば君が直接恨みを晴らすことが出来る。
代償は次の人生から四肢の機能を頂く」
- 177: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:04:01.13 ID:Cv2ZbZht0
川 ゚ -゚)「それで頼む」
クーはそう言って、立ち上がろうとする。
(´・ω・`)「それだけじゃないよ」
その言葉を聞いたクーは椅子に座り直す。
(´・ω・`)「今までだったら年数を頂いてたんだけどね。これは違う。
君は相手を殺した後、転生できない。手持ちの年数分地獄で過ごしてもらう」
クーは固まる。
地獄に堕ちる、その言葉が自分の決心を鈍らせる。
(´・ω・`)「しかも……、えっと」
ショボンは言葉を詰まらせる。
次に口を開いたのはハインリッヒ。
从 ゚∀从「殺した相手はすぐ転生。相手の余命も自分の余命に追加される。
しかも、殺すときは、ショボンのように何でも有りというわけじゃない。
痛みは普通の人間と同じように感じる」
一区切りした後、ハインはまた言う。
从 ゚∀从「普通の人間と違うのは、どれだけ血を流しても動ける。気絶しない。
それから相手を殺すまで死ぬこともない」
- 178: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:05:06.03 ID:Cv2ZbZht0
クーがこの選択肢を選んだ場合
・相手を確実に殺さなければならない
・ペニサスは死んだらすぐに転生
・クーは相手を殺した後、117年地獄で過ごした後転生
・転生する際、四肢は機能しない
・相手を殺すとき、痛みは感じる
・どれだけの痛みでも、気絶することや死ぬことはない
- 180: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:07:02.46 ID:Cv2ZbZht0
ショボンはこの選択の要約を紙に書いてクーに渡す。
クーは少し青ざめている。
从 ゚∀从「おとなしく天国に来い。それが嫌ならショボンに任せな」
ハインがそう言うとクーは首を横に振る。
クーはもう青ざめていない。
凛とした表情で言う。
川 ゚ -゚) 「私がペニサスを殺す。あいつのもとに行かせてくれ」
从 ゚∀从「……勝手にしろ」
ハインはそっぽを向く。
ショボンは壁にドアを出現させて、クーにそこに入るよう促す。
クーはハインとショボンにお礼を言って店を出る。
店には昔からある顔しか残っていない。
- 183: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:09:01.62 ID:Cv2ZbZht0
川 ゚ -゚) 「ここは……」
クーが扉から出た先。
そこは昔よく遊んだ山。
クーは相手がどこにいるのか察したようで、山頂を目指し歩き出す。
しばらく歩くと看板が立っており、先に進めなくなっていた。
川 ゚ -゚) 「……確かあっちに」
クーは抜け道を見つけるとそこを通り歩きだす。
日が沈みきって間もないようで、空には少しの赤が残っている。
山頂に着くと桜の木の下に人が座っている。
クーが少し近づくと、向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりと振り返る。
- 188: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:11:02.47 ID:Cv2ZbZht0
('、`*川「……!クー?」
クーは何も答えない。
その場に立ち止まりただペニサスをじっと見つめている。
('、`*川「クーのわけ無いわよねえ。だって本物だったら立てないし、その上死んいるんだもの」
ペニサスは狂ったように笑い出す。
そして立ち上がりクーに一歩ずつ近づく。
右手には血で紅くなった包丁を持っている。
('、`*川「アキレス腱切ってさあ、その後、足もいでやって。泣いてるあいつの顔最高だったわ」
ペニサスは笑うのを止めない。
クーとの距離は近づいていく。
眼は何かにとりつかれたかのように虚。
自分が殺した人間と、全く同じ姿の何かを見てもまるで慌てない。
クーとの距離が1メートルほどになるとペニサスは大きな声で叫ぶ。
('、`#川「その顔が大ッ嫌いなのよ!!全て見透かしたような顔が!!!」
- 191: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:13:19.54 ID:Cv2ZbZht0
('、`*川「あんた何者?まさか私を殺すために蘇りましたってか?」
ペニサスはクーを睨み付ける。
クーは何も言おうとはせず、哀れむような表情でペニサスを見ている。
('、`*川「だったらまた殺してやるわよ……」
ペニサスは包丁でクーを斬りつけようとするが、手首をクーに捕まれそれを阻止される。
川 ゚ -゚)「一つ聞こう、何で私を殺した?」
クーは自分が本物であるのを肯定すると同時に問う。
自分が殺された理由を。
ペニサスはクーの手を振り払い、距離をとる。
そして大きく答える。
('、`*川「私が空手を始めればあなたも始めた!あんたがダンスを習えば私も習った!
いつもいつも同じ事をやって楽しんでたわ。でも良い結果を出すのはあなたの方。
あなたはいつだって舞台の華だったわ」
ペニサスはそこで区切る。
そして怒号。
- 196: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:16:05.35 ID:Cv2ZbZht0
('、`#川「華は散るもんでしょうがッ!!」
言うと同時にペニサスはクーと距離を詰める。
クーもサッと身構える。
('、`#川「・・・っ」
二人の距離が1メートルを切るとペニサスは左足を軸にし、右足でクーの頭を蹴りにかかる。
クーは2歩ほどのバックステップでそれをよける。
そしてショボンに渡されたナイフを取り出し、右手に持つ。
ペニサスにそれを刺すべく、身を低くし、一気に相手に近づく。
川 ゚ -゚)「!!」
しかし、ペニサスはハイキックを空振りした足、
つまり右足を軸に、今度は左足で蹴りかかっていた。
軌道上、それはクーの左側頭部に当たる。
クーは咄嗟に左手を足と顔の間に入れ、頭との直撃を防ぐ。
川 ゚ -゚)「……ぐ」
男と比べたら軽い攻撃。
しかし当たる方も男より軽いとなれば威力は小さくない。
- 200: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:18:04.82 ID:Cv2ZbZht0
クーはペニサスと5メートルほどの距離をとる。
ペニサスが一歩近づけば、クーは一歩下がる。
川 ゚ -゚)「華は散る……。まあそれは当たり前か」
クーは左手が痺れているようで、ブラブラと振っている。
桜の木は風が吹く度花を散らしている。
花びらは月明かりの下、青白く光っている。
川 ゚ -゚)「お前は私が華だといったな、ならお前はなんだ?」
それを訊いたペニサスは笑いながら答える。
('、`*川「ずっと2番手だったから蕾ってとこかしらね?」
ペニサスは一歩近づこうと足を出す。
その瞬間クーは叫びながらペニサスに向かい走る。
川#゚ -゚)「ふざけるなああああああ!」
ペニサスは反応が遅れて、包丁を前に突き出すだけ。
クーはそれを避けてペニサスを思いっ切り殴る。
頬を殴られて、ペニサスは蹌踉めく。
- 203: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:20:02.75 ID:Cv2ZbZht0
川#゚ -゚)「お前は咲こうとしたか!?お前はいつも私の憧れだった!!
私はお前を目標にした!いつも追い越そうと努力した!!
お前は何をした!?嘆いてただけか!?」
それに続くようにペニサスが叫ぶ。
今までで一番大きな声で、月に向かいながら。
('、`*川「あんたに何が分かるのよ!?いつも後から来る奴に追い越される気持ちが分かる?
咲かないんじゃなくて咲けないの!!だから花を散らしてやったのよ。あんたも、トソンも!!」
辺りは暗くなり、町から届くわずかな明かりと、空から降り注ぐ月光が二人を照らす。
二人は対峙したまま動かない。
ただじっと相手の出方をうかがっている。
- 210: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:22:22.02 ID:Cv2ZbZht0
ショボンのバーでは、先ほどからの様子が流れていた。
二人はそれを眺めているだけだったが、
ショボンがハインに質問することで、その沈黙が破られる。
(´・ω・`)「そういえばさ、クーがここに来たとき学校のことうっすらと覚えてたけど。
なんで情報が少しも流れてこなかったの?」
ショボンが訊くとハインは煙草の煙を吐き出し答える。
从 ゚∀从「詳しいことは分からないが、あの空間にいたときは完璧な記憶喪失だったんじゃね?
もしくは、あまりにも曖昧すぎて記憶としてとられなかったか」
(´・ω・`)「……神様って結構適当だよね」
从 -∀从「天国を良くするのが神様だ。天国以外のことは頭に入れる必要なし」
(´・ω・`)「神様さ、クーのこと天国に連れて逝きたかったみたいだけど」
从 ゚∀从「……幸せになってもらいたいと思うのが当たり前だろう」
それを訊いてショボンは微笑む。
この人も自分勝手だ、と。
だけどそれは誰よりも優しい自分勝手。
- 212: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:23:48.97 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「……僕に提案あるんだけど良いかな?」
下らなかったら許さない、ハインはそう言いながらショボンの話を聞く。
ショボンの話を聞き終えた後、ハインはくわえていた煙草を落とす。
从;゚∀从「マジで言ってんのか?どういうことだか分かってる?」
ショボンはカウンターに落ちた煙草をくわえ、ゆっくりと煙を吐き出しながら答える。
(´・ω・`)「分かってるさ。どうやら君も彼女を気に入ってるみたいだし」
从 ゚∀从「……本当に良いんだな?」
ハインは念を押す。
ショボンは笑いながら頷き返す。
从 ゚∀从「……分かったよ」
ハインは扉を開け、どこかに去っていく。
スクリーンの中ではペニサスが腕から血を流し立っている。
クーは倒れ、足には包丁が突き刺さっていた。
- 217: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:26:02.94 ID:Cv2ZbZht0
('、`#川「いい加減死になさいよ!!」
ペニサスは倒れているクーに叫ぶ。
何度刺されてもしぶとく立ち上がりクーは言う。
川 ゚ -゚)「お前を殺したら死ぬと言っている」
クーはが味わっている痛みは相当なモノである。
それでも、気絶も出来ず、死ぬこともできない。
泣くことは出来る。
だがクーは泣こうとしない。
クーは刺さった包丁を投げ捨てると、ペニサスに一歩ずつ近づく。
先ほどまで攻めていたペニサスは、今度は後ずさりながら距離をとる。
川 ゚ -゚)「ペニサス、覚悟は良いか?」
クーがそう言うとペニサスが飛び込んでくる。
しかし、ペニサスがねらったのはクーではなく、落ちていた包丁。
- 221: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:28:01.44 ID:Cv2ZbZht0
('、`#川「私を殺してあんたも死ぬ?冗談じゃない!!あんたが死んで終わり!!!」
包丁を手にしながら立ち上がると、間合いを縮める。
ペニサスは包丁を持つ手を伸ばし、クーに突き刺そうとする。
川#゚ -゚)「……ふっ」
クーは身を翻しそれを避ける。
そしてそのまま肘でペニサスの後ろ首をねらう。
が、ペニサスはしゃがみ、それを避ける。
そこから足払いを掛け、クーを転ばせようとするが、それは空振りに終わる。
川#゚ -゚)「………………」('、`#川
二人は桜の木を背景に殺し合う。
まるでそれは一つの舞台のようで、見る者を魅了するだろう。
- 223: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:30:02.86 ID:Cv2ZbZht0
片方が攻撃すればもう片方はくるりと回り、それを避ける。
そしてそれを期に攻撃を仕掛ける。
それも避けられ、また距離をとりにらみ合う。
また間合いに入ったと思えば、同じようにして間合いを切る。
散り逝く桜の花びらよりも綺麗な二人の舞姫。
月明かりをスポットに、町を見下ろし踊り続ける。
長い髪をゆらしあい、月の兎よりも良く跳ねる。
血を流しながら斬りつけて、またどこかに傷を増やす。
しかし舞台は終わるモノ。
その時はあっさりと訪れてしまう。
- 225: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:32:07.99 ID:Cv2ZbZht0
ペニサスは大の字に寝そべり、空を見上げている。
足の方にはクーが立ち、ペニサスを見下ろしている。
二人とも息が荒く、クーは方を揺らしていた。
('、`*川「さっさと殺せば?」
ペニサスは疲れ切っているようで、口しか動かさない。
クーは足下にあった包丁を遠くに投げ、地面に膝をつく。
川 ゚ -゚)「なんで……こんな所にいたんだ?」
('、`*川「あら、死ぬにはもってこいの場所だけど?」
ペニサスはかすれた声で笑う。
クーとペニサスの遊び場。
何かの練習も、遊びも全部ここでした。
良いことがあったときも、嫌なことがあったときもいつもここに来た。
小さい頃から二人で一緒にここに来た。
喧嘩をした次の日もここに来たら仲直りできる、二人にとってはとても大切な場所。
- 226: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:34:26.62 ID:Cv2ZbZht0
('、`*川「……あんたに殺されるのなら文句は言えないわねえ」
ペニサスは体を起こし町を見る。
クーはペニサスの隣に座り、同じように町を見下ろす。
それから何時間経ったか、辺りは明るくなり始め、日が見えてくる。
クーはナイフに力を入れる。
ペニサスは目を閉じ死を覚悟する。
(-、-*川「地獄はどんな所かしらね……。まあ、あんたが居ないこの世も地獄みたいなもんだったわ」
ペニサスはそっと微笑む。
それを訊いたクーは泣きながら謝る。
川 ;-;) 「ゴメン」
「こちらこそ、ごめん」
ここは次の日には仲直りできる不思議な場所。
クーはせめて苦しまないようにと、勢い良くナイフをペニサスに突き刺した。
- 227: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:36:05.72 ID:Cv2ZbZht0
優しい風が吹き、桜の花びらが町の方に運ばれて往く。
川 ゚ -゚)「垂れ眉、見てるんだろう?」
クーはショボンに向けて声を出す。
川 ゚ -゚)「コップ一杯割ってスマンかった」
クーは足から、少しずつ消えて逝く。
それでも最後まで声を出し、ショボンに伝える。
川 ゚ -゚)「お前はどう思ってるが知らないが、結構楽しかったぞ」
日が昇る、その光に合わさるようにしてクーは消えて逝く。
川 ;ー;)「じゃあな、ハインにショボン。ありがとう」
クーが完全に消えて、残ったのはやはり一人の亡骸。
その上にはいくつかの水滴が落ちた後と、淡い色の花びらがあった。
- 229: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:38:12.08 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「やあ、お帰り」
ショボンが気軽に声を掛ける。
相手は黒髪ロングの綺麗な女性。
川 ゚ -゚)「……どういうことだ。私は地獄に逝くはずだが」
クーは若干怒った様子で、ショボンに問う。
ショボンは「怒らないでよ」と、苦笑いをしながら答える。
(´・ω・`)「誠に勝手ながら、君にはこの店で働いてもらうことにした」
川 ゚ -゚)「はあ?」
(´・ω・`)「だから、ここで働いてもらう。もう決定したから。
死者が来たら、今まで僕がやってきた通りにして」
クーはショボンを怒鳴りつける。
川#゚ -゚)「同情か!?第一お前はどうするんだ!?」
- 231: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:39:25.79 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「同情でも何でもないよ。僕がそうしたかっただけさ。
僕はこれから……、生き甲斐でも探すよ」
ショボンがそう言うと、先程のクーのように足から消えていく。
クーはそれを見て泣きながら言う。
川 ;-;)「ふざけるなよ……」
(´・ω・`)「君はこの店のことを良く知っている。神様とも仲良いし。
それと、君が地獄で過ごすはずだった分がきみの余命になってるから」
ショボンは手をひらひらと振り、消えていく。
あまりにもあっさりと、別れの時はやってくる。
「分かんないことあったら神様に訊きなよ」
川 ;-;)「ああ」
「僕も結構楽しかったよ」
それを最後にショボンの声は聞こえなくなる。
人に選択を迫るバーのような空間は、一人のすすり泣く声のみが漂っていた。
- 234: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:41:02.85 ID:Cv2ZbZht0
真っ白な空間。
そこにいるのは二人。
(´・ω・`)「手間掛けさせて悪かったね」
从 ゚∀从「どってことないさ。それより本当にこれでよかったのか?」
(´・ω・`)「構わないよ」
从 ゚∀从「お前が蓄えてきた余命は392年。
クーの代わりに地獄逝ってその分過ごすとは……、普通に考えりゃ誰もやらねえわ。
それにあの仕事はお前の生き甲斐だったはずだ。何でそれを捨てる?」
(´・ω・`)「別にクーのためだけってわけじゃないさ。
今まで沢山の人を殺してきた僕が言うのも何だけどさ、
生き甲斐ってのはやっぱり生きてないと駄目なんだよ」
从 ゚∀从「……」
(´・ω・`)「僕らは死んでるから死なない。終わりがないんだよ。
終わりがある中で縋り付けるのが、きっと本当の生き甲斐なんだと僕は思う」
- 236: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:41:57.68 ID:Cv2ZbZht0
(´・ω・`)「だから本当の生き甲斐を味わいたいんだ」
从 ゚∀从「そのために地獄に堕ちて、殺した人たちの分、転生まで償います、か?」
(´・ω・`)「いや、殺した人たちの為じゃない。飽くまでも自分のためさ」
从 ゚∀从「……どうしようもねえ馬鹿だな」
(´・ω・`)「まあね」
从 -∀从「ちなみにお前が地獄で過ごすのは10年だ。お前の余命で勝手に買い物させてもらったぜ」
(´・ω・`)「……頼んでないよ」
从 ゚∀从「だから勝手にって言ってんだろ!」
(´・ω・`)「何買ったの?」
从 ゚∀从「生まれりゃわかるさ。もっとも記憶は無いけどな」
(´・ω・`)「……ありがとう」
从 ゚∀从「走って、転んで立ち上がるには必要だろうがよ。
どんだけ転んでも必死こいて立ち上がって見せろ」
- 239: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:44:06.39 ID:Cv2ZbZht0
ショボンとハインの前に扉が一つ現れる。
从 ゚∀从「……達者でなショボン」
ショボンは照れくさそうに笑うと、ドアに手を掛ける。
(´・ω・`)「クーをよろしく頼むよ」
从 ゚∀从「ああ。まかせとけ」
ショボンは扉を開けてもう一度振り返る。
そしてゆっくりと、目に涙を浮かべながら言う。
「ハイン、今までありがとう」
ショボンが扉を閉めると、そこはハインしか居ない、真っ白な空間に戻る。
- 243: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:46:03.31 ID:Cv2ZbZht0
从 ゚∀从「……さてと、新しい店長に挨拶でもするかな」
ハインは眼を拭うと、指をパチンと鳴らす。
目の前に扉が現れる。
しかしハインは扉ではなく、指を見ている。
「何かやるんだったら合図あった方がかっこいいでしょ?」
从 ゚∀从「これもあいつの影響だもんなぁ」
ハインは少しの間昔のことを思い出す。
ショボンがあの店のマスターになったばかりの頃を。
从 ゚∀从「よっし!行くか」
扉を開くとカランカランと音が鳴る。
中には髪の長いバーテンダー姿の女性が眼を赤く腫らしている。
女性はすぐにカウンター裏にまわると、笑顔を作り、声を出す。
「ご注文をどうぞ」
- 244: 最終話 ◆1opJeO9WQk (新潟県) :2008/09/16(火) 21:46:35.46 ID:Cv2ZbZht0
<最終話 イキガイ> END
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