( ^ω^)ブーンは喫煙者のようです

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:31:03.04 ID:5wWkvocq0
  
( ^ω^)ブーンは頑張るようです

第一話:区切り


ブーンが小さいころに父親が死に、母は新しい男と家を出ていった。
世間のことなどなにも知らなかったブーンは、親戚の家に預けられることもなく、施設で幼少時代を過ごした。
そう思ったのはいつのころだったか。

誰よりも偉くなりたい、とか
誰よりもお金持ちになりたい、などの大きな夢を本気で望むようになったのは。

ブーンは必死に勉強をした。
自分を捨てて死んでしまった父や、自分から逃げていった母を見返してやろう、
そういう考えがブーンの心に染み付いてしまったのだろう。

やがてブーンは国立大学を出て、有名な企業に就職した。
ブーンは順調に点数を稼いできたはずだった。

それまでと変わらぬように精一杯仕事をした。
残業もした。雑用から、お茶くみまでありとあらゆる仕事をこなした。

それでもいつかは終わりがくるものだ。

ブーンの肩に課長の手が置かれたのは、ブーン40歳の春のことだった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:35:20.31 ID:5wWkvocq0
  
一瞬にして自分のすべてが壊れる瞬間というのは、経験したことのない人には
わからないだろうが、とても耐え切れるものではない。

あれだけ懸命に、仕事だけを優先させてきたブーンがリストラの対象になる。
どれだけ金をかけても立派に育たない子供のように、
社会や会社というものは、無軌道で自由に満ち溢れた存在なのかもしれない。

ブーンには子供がいなかった。

会社で出会い、結婚した女性は、一年も同棲しないうちにどこかへいってしまった。
このときもブーンは深い絶望と悲しみを感じたが、
それでも仕事という気を紛らわせられるもののおかげでなんとか生きてこれた。
だがその唯一のものが儚くも崩れ去ってしまったのだ。

ブーンは自殺を考えるでもなく、ただ無気力に狭いアパートに引きこもる生活を続けた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:40:23.45 ID:5wWkvocq0
  
そんなある日、ブーンの携帯に着信があった。
出てみようという気になったのは、寂しさのせいかもしれない。
誰とも言葉を交わさない生活を続けて、すでに三年が経っていた。

( ^ω^)「もしもし」

喉から、自分の声とは思えないようなかすれた声が出た。

('A`)「ああ、俺だ。ドクオだよ」

ドクオ。同期であり、ライバルであったドクオ。
社内では犬猿の仲だと噂されていた二人だが、ブーンはドクオのことを
話せる男として、当時から尊敬していた。

( ^ω^)「どうかしたかお」
('A`)「いや、あれからなんの連絡もなかったから、どうしてるかって思ってさ」

労いか、同情か。
ブーンがもっとも感じたくないもののひとつに同情がある。
同情するなら金をくれ。

それがブーンの本心だ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:44:48.30 ID:5wWkvocq0
  
だがドクオは同情で電話をかけてきたのではなかった。
なんとドクオもリストラにあっていたというのだ。

('A`)「というより、自分から辞めたって感じかもしれん。
お前がやめてから、いろいろあったからな……」

耳にはさんだ気がする。

ブーンが社を去った日、なぜブーンを首にするんだと上司に食って掛かったのがドクオだったという。
結局はそれが原因となってドクオもリストラの対象に選ばれたのだろう。

そんなドクオに対して、ブーンは合わせる顔をもっていなかった。

無言のままのブーンをほうっておいて、ドクオは話を続ける。

('A`)「おれな、出版社をやろうと思ってんだよ。知り合いがつくった小さな会社だけどさ、
このまま死ぬわけにはいかないし、なにか新しいことがはじめたくってさ」

ドクオは強いな。
自分と違って、あきらめるということをしない。
一番簡単なのに。
あきらめる。そうすればすべてが終わり、開放される。

なのにドクオは失敗をばねにして、新しい道へ踏み出そうとしているのだ。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:49:48.27 ID:5wWkvocq0
  
( ^ω^)「がんばってくれお。俺みたいに、落ちるとこまで落ちちゃだめだお」

少しかすれてはいたが、ブーンの思いはドクオに届いただろう。
そう思った次の瞬間、ドクオの口から思わぬ言葉が飛び出して、ブーンは入れ歯を吐き出した。

('A`)「俺と一緒に一からスタートしてみないか?」

入れ歯を口にいれながら、ドクオのことばを反芻してみる。

一からスタート。つまり、スタートしなおすということだ。
途中でひどく折れ曲がってしまった人生という名のレールを、新たにつくりはじめる。
その作業を一緒にやろうというのだ。

断る理由がなかった。

( ^ω^)「ふぇふぃほへはいふふほ」
('A`)「あ?」

入れ歯がつまって声がうまくでない。
一呼吸おいて入れ歯を定位置に戻すと、

( ^ω^)「ぜひお願いするお」

とはっきりとした日本語で返した。

こうしてブーンとドクオの小さな出版社が始動しはじめたのだった。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:56:21.79 ID:5wWkvocq0
  
まずは翻訳の仕事からはじめた。
国立大学を出ていたブーンとドクオは、学力の面ではいうことなしだ。
ブーン・ビッパー 〜変者の石〜がベストセラーになり、出版社VIPの名が世間に浸透してきた。

調子に乗ったドクオは、週刊誌というジャンルに挑戦することを決意。
その日のうちに月刊誌の企画書が作られ、方向性が決まった。

「月刊小説ジャンポッポ(*‘ω‘*)」

特定のジャンルにとらわれない新たな雑誌。
小説離れの進む今日では、まるでだめな企画だとみなが笑うだろう。
それはわかっていたが、それでもなお、二人の考えは改まらなかった。

ブーン・ビッパーの印税を使って有名な作家を引き抜き、オカルト、ホラー、恋愛、ギャグ、ファンタジー
といった、さまざまなジャンルをひとまとめにして発売した。

( ^ω^)ブーンは喫煙者のようです、は残念ながら打ち切りになってしまったが、
それいがいの連載は好評で、月刊誌の売り上げも順調だった。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 05:59:58.66 ID:5wWkvocq0
  
('A`)ドクオは女っ垂らしのようです

小学校中退のドクオは、家を追い出され、路頭に迷っていた。
そんなある日、餓死寸前のドクオを拾ってくれたのがブーンだった。
ブーンはホストクラブを運営している社長。

そのブーンに見込まれたドクオはさまざまな困難に打ち勝ちながらも、
これではだめだと有名企業に就職する。

そこでも順調な人生を送って結婚、子供も生まれるが、幼年期のトラウマが原因で
不思議な力に目覚めてしまう。

('A`)「どうよこれ」
( ^ω^)「売れねーよ」

こんな馬鹿なやりとりをしたりしながら、ブーンたちは順調に人生を送っていた。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:04:41.22 ID:5wWkvocq0
  
('A`)「うーん、つながらないな」

出版社の古ぼけた机の向こうから、受話器を耳に当てたままドクオが愚痴をこぼす。

( ^ω^)「どうかしたかお?」
('A`)「いやな、ドクオは女っ垂らしのようですってあっただろ?
あれを書くことに決まった有名な作家にかけてるんだけどよ、電話に出ねーんだよ。
今日入稿してもらわなきゃ間に合わないんだよな」

ただのギャグだと思っていた原案を、ドクオは本気で売り出そうとしていたらしい。

('A`)「それでな、悪いけど、ブーンがこの作家の家に原稿を取りにいってくんねーかな?」
( ^ω^)「絶対売れないから、このままうやむやにしたほうがいいお」
('A`)「馬鹿か。奇想天外な展開が絶対読者に受けるって」

ブーンの人生を変えてくれたのはドクオだ。
そのドクオの恩を仇でかえすことはできない。

ブーンは仕方なく、原稿をとりにショボン先生の家に向かった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:09:42.39 ID:5wWkvocq0
  
(´・ω・`)「主人公であるドクオは小学校中退で、家を追い出された。
それで都会をさまよっているうちに、ホストクラブのオーナーと出会い人気ホストとなる。
だめだだめだ、こんな展開じゃ、読者はついてきてくれないよ」

いま売れに売れているVIPの依頼だからと軽々受けてしまったが、
ショボンはいまになってそれを後悔していた。

確かにこの原案にとおりに書けば、書けないことはない。
ドクオのいうとおり、奇想天外にはなるだろう。
だが、いわれたことをそのまま文にするのは許せないことだった。

ショボンはいまや、小説界に君臨している偉大な先生の一人になっている。
こんな小説を発表したら、その名声に傷がついてしまうかもしれないのだ。

だがショボンはこうも思っていた。

名声じゃ腹はふくれない。

形ばかりの名声をとるか、金をとるか。

答えは決まっているのに、なかなか踏み出す勇気が持てない。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:10:47.43 ID:5wWkvocq0
  
だが副社長のブーンが家にきたとあっては、無下に断るわけにもいかず、
ショボンは仕方なく原案どおりに書きなぐった原稿を渡した。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:15:09.10 ID:5wWkvocq0
  
('A`)ドクオは女っ垂らしのようです


女な嬌声と男の歓声が入り混じる空間。
見た目だけは豪華なソファに、安物の装飾品。
店内を薄暗く照らし出す青色の照明をあびて、ドクオはバーボン片手に女の胸を揉んでいた。

女は嫌がるでもなく、かといって受け入れるでもなく、ドクオに胸を揉みしだかれている。

('A`)「ほら、さっきからぜんぜん呑んでないじゃない。
もっとこう一気にかっこまないと駄目だよ。酒ってすぐに古くなっちゃうんだから」

そういいながら、手にしたバーボンを一息であけてみせる。
女もしぶしぶコップに手を伸ばした。

('A`)「ほら、呑んで呑んで。ウェイターが次の注文を待ってるんだからさ」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:20:35.65 ID:5wWkvocq0
  
ξ゚听)ξ「胸を触られてたら呑めないよ」

女が恥ずかしそうにうつむく。
ぱっちりした目に、厚めの唇。軽くカールさせたミドルヘアーが整った色白の小顔にマッチしている。
体も細身だが、出るところは出ているし、さすがのドクオでもいい女だといわざるを得ない。

('A`)「気にしなくてもいいって。ほら、一気、一気」
ξ゚听)ξ「もう、それじゃいくよ」

女がコップを口につけた途端、ドクオが揉んでいた胸を力いっぱい握った。
女は痛みに耐え切れずに、バーボンを吐き出してしまう。

('A`)「あーあ、罰ゲームね」
ξ゚听)ξ「え?」
('A`)「こぼしちゃうなんてイケナイ子だなぁ。そんな子には……乳首責めだ」
ξ゚听)ξ「もうやだぁ、ドックンのエッチ☆」

……
……
……

(*'A`*)「やっぱショボン先生は天才だぜ……」
( ^ω^)「そうか?」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:25:40.15 ID:5wWkvocq0
  
こんな小説でも、名のある出版社の社長の自伝ということで、ベストセラーになった。

だが、終わりというものはあっという間に訪れるものだ。

あの日、課長に肩を叩かれたように。

きっかけはフジテレビだった。

ドクオの女遊びはすでに知れ渡っていたが、それが同性愛者という本性を
隠すための工作だということを知っているものは少ない。

その少ないものの中にショボンがいた。
ショボンはドクオの愛人だったのだ。

('A`)「俺はな、人生終わったと思った。エリート街道を突っ走っていた俺が、
知らないうちに道を間違えていたんだろうな。
俺は会社を首になった。引きこもった。太った。
だけど、俺は再び返り咲いた。やはり俺には才能があったんだろう。そう思うだろ? ショボン」

雰囲気のいいフランス料理店で、打ち合わせのためにやってきたショボンに向かって、
ドクオはいきなりそういい放った。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:28:48.24 ID:5wWkvocq0
  
そして

('A`)「こんな俺だって、生きていていいんだよな?」

悲しげにそういってうつむいたドクオが、たまらなく愛おしかった。
ショボンは気を失うまで酔っ払ったドクオを自分のアパートに連れて行き、
そこではじめての夜を過ごした。

ドクオ。君はすばらしい男だった。
僕が出会った中で、一番。言い過ぎなんかじゃないよ。
君は本当に素敵で、頭がよくて、なにより優しかった。

ドクオ。僕は君が好きだ。
その気持ちは、変わらない。
何人の女と寝ようが、自意識過剰だろうが、自己中心的人物だろうが、
麻薬をやってようが、幻覚に苛まされていようが。

だからドクオ、もうお休み。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:34:31.74 ID:5wWkvocq0
  
('A`)「フヒヒ、まさかここまで成功するとは思わなかったぜ。
会社の上司もびびってんだろうな。俺がここまで成り上がるなんてよフヒヒ」

膝の上でよだれを垂らしているドクオの顔をそっと撫でながら、
ショボンはいまドクオがどんな幻覚を見ているんだろうと思った。

会社で残業をして、そのあともバイトをしながらなんとかドクオを支えてきた。
会社を首になって自殺しようとしていたドクオ。
麻薬に手をだして、自分の排泄物を垂れ流すようになったドクオ。

それ以来、ドクオは家にこもったまま、常に幻覚を見ているようになってしまった。

(´・ω・`)「ドクオ……もういいよね? もう、休んでもいいよね?」

よだれをたらしながら妄想の世界にいるドクオの首に、そっと手を乗せてみる。
ドクオの頚動脈が脈動する音が、手を通してショボンにも感じられた。

そっと力をいれていく。

ドクオ。
二人で死のう。
僕たちはどこにいったって、ずっと一緒なんだから。

END



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/19(木) 06:40:09.65 ID:5wWkvocq0
  
('A`)「……」
( ^ω^)「……」

最終話の原稿を同時に読み終えた二人は、しばしの間言葉を失ってしまった。

('A`)ドクオは女っ垂らしのようです

は好評を維持しながら、とうとう最終話までたどり着いた。
その結末は、妙に悲しかったが、それでもなにかしら読者に訴えかけるような
感情をローターで揺すぶられるような刺激を与える仕上がりになっている。

(゚A゚)「売れる、これは売れるぞ!」
( ゚ω゚)「売れるお!これは売れるお!」

しかし、二人のもくろみははずれてしまいました。

生々しくて気持ち悪いと批評され、それが傷となって出版社VIPは倒産の憂き目にあってしまいました。

これは後で聞いた話ですが、倒産してすぐ家に帰ったドクオの言葉が、いまもブーンの胸に残っているようです。


(*'A`*)「父さんの会社、倒産しちゃった」


おしまい。



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