( ^ω^)ブーンはドクオの結婚式を盛り上げたいようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 00:48:52.92 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)"

( ^ω^)「手紙だお……」

( ^ω^)「何々」


---------------------

( ^ω^)へ

今度結婚することになった。
よかったら結婚式来てくれ。

      ('A`)より

---------------------



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 00:51:56.07 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「おっおっ。ドクオもとうとう結婚かお!」

( ^ω^)「写真が入ってるお。これが嫁さんかお」


--------

川 ゚ -゚)

--------


( ゚ω゚)「うおう! カワユス!」

( ^ω^)「うらやまーだお」

ブーンは携帯電話を取りだし、電話帳の“た”の行を探す。

( ^ω^)「久々に会ってみるお」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 00:55:21.49 ID:1w3iwjtg0





次の日。
ブーンは待ち合わせ場所の喫茶店で、そわそわした様子でドクオを待っていた。

( ^ω^)(凄いイケメンになってたらどうしよう……)

学生時代は、年中二人でモテない事を愚痴りあっていた仲だった。
ドクオに出し抜かれたのは少々癪だったが、友人の晴れ舞台に心はときめいている。


( ^ω^)「おっ」

('A`)「よう。久しぶり」

やってきたのは、予想と違い学生時代と変わらないドクオだった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 00:58:18.24 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「座れお。今日は奢ってやるお」

('A`)「そのつもりできた。財布は家だ」

( ^ω^)「なんて野郎だ……」

つもる話はあれど、聞きたい事は一つだ。

(*^ω^)「どうやってあの人とつきあえたんだお?」

('A`)「ふ……」


('A`)「運命ってやつかな」

( ^ω^)「き、きんもー」

ちなみに二人の馴れ初めはこうだ。
チンピラにからまれていたドクオをその人が助け、そこから交際が始まった、との事。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:00:54.87 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「普通逆だお」

('A`)「人と同じ生き方なんて俺には似合わないのさ」

( ^ω^)「きんもー」

('A`)「ひがむなひがむな」

店員がやってきて、二人に注文を聞く。
ブーンはアイスティで、ドクオはランチを注文した。
遠慮が無かった。

( ^ω^)「遠慮ねえなお前」

('A`)「ところで結婚式は来られるのか? 来月末なんだが」

( ^ω^)「ニートに暇じゃない日などあるものか。あるものか決して!」

('A`)「すまんかった」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:03:59.73 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「他には誰を呼んだんだお?」

('A`)「……」

( ^ω^)「?」

('A`)「お前だけだ。お前しか友達いねえし」

(;^ω^)「あ……そうか」

小中高、ずっと共にしてきた二人だが、生活水準は大きく異なる。
かたやクラスのお調子者、かたや教室の空気のような存在だった。
ドクオに結婚式に呼べるような友達など、ブーン以外いなかった。

( ^ω^)「僕はいくお」

('A`)「ありがとな」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:05:14.76 ID:1w3iwjtg0

いや、空気ならまだ良かったかもしれない。

*(‘‘)*「お待たせしました。ランチとアイスティです」

( ^ω^)「僕アイスティー」

('A`)「俺ランチ」



ドクオはずっと、いじめられっ子だったのだ。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:07:21.83 ID:1w3iwjtg0







( ^ω^)「……」


ドクオと別れた後、ブーンは自分の家で、一人悩んでいた。
このままでは、ドクオ側の出席者がとても寂しい事になってしまう。

( ^ω^)(僕が何とかしてやるお……)

世界でただ一人の親友の為、彼は卒業生名簿を取り出した。
住所と電話番号が書いてあるものだ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:11:12.04 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「……」

( ^ω^)「あ、もしもし。杉浦さんのお宅でしょうか?
      僕はブーンという者で、ロマネスク君の……はい、小学生の頃の……」


ドクオと繋がりがあった者ならば、誰でも良い。
手当たり次第連絡し回った。

しかし返ってくる答えは、無残なものだった。


『悪いな。ちょっと学校の勉強が忙しくてさ』

『ごめんねー。旅行に行くのと被っててー』

『ドクオ? 誰だっけ。めんどくせえ』



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:13:56.49 ID:1w3iwjtg0

どれだけ断られ続けても、ブーンは粘った。
そして一週間の間に数十人と連絡を取る事に成功する。


結果は、


(;^ω^)「うううう……」


ゼロ。


(;゚ω゚)「こうなったら影分身しかねえ……!」

その時、リストにまだ斜線が引かれていない名前が目についた。
彼らはブーンがわざと連絡を避けた者たちである。
ドクオを虐めていたグループだ。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:16:28.81 ID:1w3iwjtg0

(;^ω^)「駄目もと……駄目もとだお」


彼らのうちの一人に連絡を取る。
連絡先は実家だったので、彼の母親が電話に出た。
事情を話し、彼の電話番号を教えて貰った。

さっそく電話番号をプッシュする。

(;^ω^)「……」

『はい。モララーです』

(;^ω^)「もしもし、ブーンだお」

『は?』

(;^ω^)「あの……だから」

『あー……あーあーブーンか。急にどうした。誰から聞いたんだ?』



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:18:31.04 ID:1w3iwjtg0

(;^ω^)「実家に電話して、携帯の番号を教えて貰ったんだお」

『ふーん。あ、もしかして誰か亡くなったのか……?』

( ^ω^)「逆だお!」

『逆? ああ、出産?』

(;^ω^)「ああ、いや逆は言い過ぎた。結婚式があるんだお」

『お前結婚するんだ。いつやんの?』

( ^ω^)「ドクオだお」

『……』

( ^ω^)「ドクオの結婚式があるんだお」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:21:05.85 ID:1w3iwjtg0

『で?』

(;^ω^)「……出て欲しいなーって」

『あのなあ』

(;^ω^)「駄目かお?」

電話先の声は、困っているような、苛立っているような口調だった。

『俺がどの面下げてあいつに会えばいいんだよ。俺が何したかわかってんのか?』

(;^ω^)「わかってるお」

『じゃあなんで俺なんだよ』

( ^ω^)「ドクオの結婚式だお! あいつが結婚するんだお! 超めでたくね!?」

『別に。ていうか馴れ馴れしいなお前』

(;^ω^)「ごめん……」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:25:25.47 ID:1w3iwjtg0

『そんだけ?』

(;^ω^)「え?」

『用事。そんだけ?』

(;^ω^)「そ、そうだお」

『あっそ。じゃあな。また同窓会でな』

( ^ω^)「あ、待っ……」


受話器から、ぶつっと電話の途切れた音が聞こえた。
ブーンはそっと受話器を下ろし、肩を落とした。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:27:54.38 ID:1w3iwjtg0






( ・∀・)「……」

ξ゚听)ξ「ねえ、誰から?」

シーツで胸を隠した半裸の女が、猫なで声を出す。

( ・∀・)「人違い」

ξ゚听)ξ「嘘。親しい人っぽかった」

( ・∀・)「昔のツレだよ」

ξ゚听)ξ「ふーん……やあっ」

モララーは女を押し倒し、口を口で塞ぐ。
答えるのも面倒だっただけだが、女は恍惚した顔で彼を迎え入れた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:30:52.59 ID:1w3iwjtg0

ξ///)ξ「んん……」

( ・∀・)「……」



( ・∀・)(今更会って、どうしろっていうんだよ)


首筋にキスをしながら、昔の事を思い出す。

トイレの中で、泣いて許しを請うドクオ。
背中に張り紙をされた状態で、校内を歩かされるドクオ。
みんなモララーがやった。
モララーが主犯で、それ以外の者は面白がって見ていた。
あのとき世界はとても狭く、その狭い世界の中で、モララーは王様だった。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:35:04.04 ID:1w3iwjtg0

ξ///)ξ「……」

( ・∀・)「……」

大人になるにつれて、世界は狭くなった。
優等生で、いじめっ子のリーダーで、世界の王だったモララーは、今はフリーターだ。

ξ///)ξ「口でするから……」

何もかもが色あせた世界で、彼はどうしようもなく退屈していた。

( ・∀・)(みんなは、今何やってんだろう……)

昔の友人とは長い間連絡を取ってなかった。
誰かと会いたかった。


その時頭に浮かんだ最初の人物は、彼が一番嫌いな人だった。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:39:02.28 ID:1w3iwjtg0







(´・_ゝ・`)「ジョルジュ。携帯ブルってるぞ」
  _
( ゚∀゚)「ウス」

工事音がけたたましく鳴り響く中、ジョルジュは首にかけたタオルで、黒くなった顔を拭った。
軽トラックの荷台に放り投げてあった携帯を取って、その場から離れる。
  _
( ゚∀゚)「もしもし」

『もしもし、ブーンだお。今大丈夫かお?』
  _
( ゚∀゚)「ブーン?」

聞こえてきたのは、懐かしい名前だった。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:42:51.46 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「悪いが仕事中……」

(´・_ゝ・`)「おーい休憩すっぞ! スイッチ切れ!」
  _
( ゚∀゚)「……だが大丈夫だ。何の用だよ」

『実は、今度ドクオの結婚式があるんだお』
  _
( ゚∀゚)「ドクオの?」

『そうだお』

記憶の中のドクオを思い浮かべる。
ダーツの的にされて泣きながら逃げるドクオや、制服を隠されて体操服で授業を受けるドクオ、などだ。
  _
( ゚∀゚)「結婚、するんだ」

『是非結婚式に来て欲しいんだお!』
  _
( ゚∀゚)「悪いけど……」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:45:17.19 ID:1w3iwjtg0

(´・_ゝ・`)「ジョルジュ! 茶買ってこい!」
  _
( ゚∀゚)「今行きます!」
  _
( ゚∀゚)「仕事が忙しいんだ。嘘じゃなくてよ。
     とても結婚式なんて行ける余裕は無いんだよ」

『そこをなんとか……』
  _
( ゚∀゚)「あー」

(´・_ゝ・`)「聞こえてんのか!」
  _
( ;゚∀゚)「すいません! すぐ行きます!」
  _
( ゚∀゚)「悪いなブーン。俺は駄目だ。それじゃ」

電話先でまだブーンが喋っていたが、ジョルジュは携帯を切った。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:48:38.12 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「たく……」

駆け足で近くのコンビニへ急ぐ。
後ろでは、先輩たちが地面に腰を下ろして談笑していた。
  _
( ゚∀゚)(死ね。クソが)


ジョルジュはモララーと同じグループにいた者だ。
王であるモララーと共に、いろんな悪事を働いた。
中学校では喧嘩で負け無しと恐れられていた。
教師も年上も警察も怖くなかった。

モララーと一緒にいれば、何でも出来る。
彼はそう考えていた。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:56:47.05 ID:1w3iwjtg0

しかし彼の王国は長くは続かなかった。
モララーが進学したのだ。

勉強どころか学校にすらほとんど行かなかった彼は、高校に進学する事など考えてなかった。
ブレインを失うと、彼はますます荒れ、警察と家を往復する事が多くなった。
たまにバイトをしても、すぐに辞めるかクビになる。
何でも出来た世界は、彼を縛り付ける鎖となった。

  _
( ゚∀゚)「やべ、お茶の種類聞くの忘れてた……クソ」

親にも見放され、ほぼ絶縁状態となった。
生きていくには働かなければならない。

ドカタになった彼は、毎日殴られながらも働き続けた。
この頃彼は、望んでいた未来から、どんどん遠ざかっていく感覚を覚えていた。
中学を出てから今まで、自分の居場所など、何処にも無かった。

  _
( ゚∀゚)「……」


見上げた空に、懐かしい男の泣き顔が見えた気がした。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 01:59:56.81 ID:1w3iwjtg0







(-_-)


暗い部屋の中で、パソコンに向かっている男が一人いた。
長い間掃除を怠っていたのか、部屋の中は散らかり放題だ。


(-_-)


彼は一日を無言で過ごす。
誰とも会う必要の無い、引きこもりだからだ。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:02:24.03 ID:1w3iwjtg0

「ヒッキー?」


(-_-)


「いるわよね?」


部屋の外から、母親の声が聞こえた。
気づいているのかいないのか、彼は相変わらずパソコンのモニタに釘付けになっている。


「貴方に電話が来てるわよ」


(-_-)


カタカタ。カタカタ。

キーボードとファンの音だけが響く。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:03:30.46 ID:1w3iwjtg0


「……」


(-_-)


カタカタ。カタカタ。


「ブーン君っていう人からだけど、友達?」


カタカタ。カタ―――。


(-_-)「……」


キーボードを打つ手が、止まった。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:06:42.85 ID:1w3iwjtg0

「ブーン君、あのね、今ちょっとヒッキーは出られない……」


母親が電話を切ろうとした時だった。
バン―――とヒッキーは思い切り机を叩いた。
小さな悲鳴が廊下から聞こえる。


「ヒッキー……?」

(-_-)

「……ドアの前に置いておくから。私、ちょっと買い物に出るから」

(-_-)


スリッパで歩く音が、ぱたぱたと遠ざかっていった。
階段を下りる音を聞いてから、ヒッキーは三重にかけてある鍵を外し、そっと廊下に出る。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:08:53.01 ID:1w3iwjtg0

(-_-)

コードレスの子機が、床に寝かせてあった。
ヒッキーはそれを手に取ると、素早く部屋に戻り、鍵をかけた。


『ヒッキー? いるのかお? おーい』

(-_-)


遠い記憶の果てにある、あの笑い顔が浮かんでくる。
ヒッキーは返事の代わりに、子機の番号をプッシュした。


『ヒッキー。今聞いてるのかお?』

(-_-)


ピ。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:10:53.09 ID:1w3iwjtg0

『……引きこもりになったって噂、本当だったのかお?』

(-_-)


ピ。


『声が出ないのかお?』

(-_-)

ピ。

『ま、まあそれはいいんだお。ところで来月末……じゃなくて、もう今月末か。
 予定は空いてる……のかお?』

(-_-)



ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:12:51.92 ID:1w3iwjtg0

『ご、ごめんお! 許してお!』


(-_-)


『それで、今度ドクオが結婚するんだお。
 良かったら結婚式に来て欲しいんだお』


(-_-)


彼の指は固まったかのように動かない。


『だ、駄目かお? 大丈夫だお。ちょっと顔を出すだけでいいんだお』


番号を押す素振りすらしない。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:14:44.31 ID:1w3iwjtg0

『……』

(-_-)

『わかったお。でも気が変わったら、僕の番号に電話をかけて欲しいお』

(-_-)

『ヒッキー?』

(-_-)

『……ばいばいだお』


数秒間だけ、電話先のブーンはヒッキーの返事を待っていた。
しかし何も反応が無いとわかると、電話は向こうから切られた。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:18:30.41 ID:1w3iwjtg0

(-_-)


彼は元々、モララーに虐められていた。
しかし標的がドクオに変わった時、彼はいじめっ子のグループに入ったのだ。
とは言っても、パシリにされたり、からかわれたりする事が多く、仲間とは言い難い。

モララーに対する恐怖から仲間になっていたという部分はある。
しかしそれ以上に、人を虐める快感を覚え、身を委ねたという部分が大きい。


(-_-)

モララーといれば、まるで自分が強くなったかのような錯覚を覚える事が出来た。
不良仲間の後輩もいたし、それなりに楽しくやっていた。



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:23:50.78 ID:1w3iwjtg0

変わったのは高校からだった。
県内で最低ランクの普通校に入った。
するとそこで、新しい虐めが彼を待っていた。

シカトだ。

クラスのみんなはそれぞれグループを作り、決して崩さない。
グループ間での交遊はあれど、グループから外れた者には目を合わす事すらしない。

ヒッキーはコミュニケーション能力で大きく劣っていたので、どのグループにも入れなかった。
学校の中で、授業中での発言以外何も話さない日も多くは無かった。


(-_-)(ブー……ン……)


そのうち彼は高校に行かなくなり、部屋に閉じこもるようになった。
その実、彼の生活に本質的な変化は無かったと言える。


自分に閉じこもるか、部屋に閉じこもるかの違いだ。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:28:00.45 ID:1w3iwjtg0

(-_-)

パソコンの画面には、電子世界の彼が映っていた。
ネットゲームという空間で、伝説の戦士として剣を振るう彼だ。


(-_-)

カタカタ。カタカタ。


彼の世界は、気がつけば敵だらけだった。
牙を隠した野獣が、命を狙って襲ってくるのだ。

(-_-)

カタカタ。カタカタ。


生きていく為には、誰かを犠牲にする必要があった。
中学校の頃は、それがドクオだった。

今は、自分自身を犠牲にして、生きているに過ぎないのだ。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:33:13.32 ID:1w3iwjtg0







( ;ω;)

( ;ω;)「誰も捕まらなかったお……」


式はもう一週間後に迫っていた。
この数週間、必死に電話をかけ続けたが、誰一人として呼びかけにこたえてくれる人はいなかった。


( ;ω;)「こうなったらもう……」

( ゚ω゚)「リアルに影分身を会得するしかない!」

( ;ω;)「ああでも変化の術が使えないとただのブーンさん大集合になるお……」



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:35:47.09 ID:1w3iwjtg0

「ブーン。電話来てるわよ。ドクオ君から」

煤i;^ω^)




( ^ω^)「お、おうドクオ」

『よう。式は来週だけど、大丈夫だよな?』

( ^ω^)「もちのろんろんだお!」

『そうか。良かった。一応友人代表って事でいいか?』

( ^ω^)「光栄だお。今から貫徹して2万文字の挨拶を作るお」

『あー適当でいいよ適当で』



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:41:06.16 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「ドクオの晴れ舞台だお。盛大に祝福してやるお」

『一人で騒ぐと恥ずかしいから、あんま目立った事するなよ』

( ^ω^)「念願のお嫁サンバ熱唱が出来るお」

『そういうのって普通女がやるもんじゃねえの? しらねえけど』

(;^ω^)「うう……母ちゃんも来るから、母ちゃんに歌わせるお」

『余計恥ずかしーっつーの。まあ大丈夫ならいいんだ。またな』

( ^ω^)「おっおっ!」


( ^ω^)「……ドクオ」

実際結婚式に来る友達が、たった一人というのはどうなのだろうか。
考えるだけで、悔しくなる。


ブーンは深呼吸をすると、再び卒業式名簿をめくり始めた。
彼の最後のあがきだった。



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:45:33.93 ID:1w3iwjtg0






  _
( ;゚∀゚)「や、やべえ!」

ジョルジュは寝癖だらけの頭を掻きむしり、目覚まし時計をもう一度確認した。

時刻は21時37分。
今日は夜通しやる工事で、集合時刻は21時ちょうどだった。

  _
( ;゚∀゚)「うううううくそ、くそ」


昨日の夜は先輩に付き合わされ、徹夜で麻雀をしていた。
解放されたのは昼過ぎで、眠ったのは15時頃だ。

  _
( ;゚∀゚)「うわあ……」


案の定、携帯の着信履歴が十件以上たまっていた。
先輩の怒張した顔が頭に浮かぶ。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:49:25.08 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)(ん)

その着信の中に、見慣れない番号が一つあった。
以前かけてきたブーンからのものだ。
  _
( ゚∀゚)「しつけえなこいつも……」

携帯をしまい、顔を洗って作業服に着替える。
家を出ようとした時、もう一度だけ携帯の履歴を眺めた。

  _
( ゚∀゚)「……!」


その時感じたのは、強烈な圧迫感だった。
仕事に行こうとする足は、その圧力に押し止められ、前に進めない。

  _
(  ∀ )「く―――」
  _
( ;゚∀゚)「んだよクソが……」



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:52:55.86 ID:1w3iwjtg0

戻りたい。
もう一度あの頃に戻りたい。

やり直したい。
全てをゼロに戻して、もう一度、最初から。

  _
( ;゚∀゚)「……」


金縛りにあっていた足が動き出す。
アパートの前に止めてあった原チャリに乗り込むと、規定速度を超えて走り始めた。
仕事が待っている工事現場とは逆の方向、彼の、中学校がある方だった。

  _
( ;゚∀゚)(何やってんだ俺は……仕事に行かなきゃ……仕事に……)


頭上で星がゆるやかに流れていく。
現実とは別の、夢の中を走っているような感覚を覚えた。
久しぶりに、風が心地良いと感じた。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 02:57:46.59 ID:1w3iwjtg0






( ・∀・)

グラウンドに大の字に転がって、モララーは星空を眺めていた。
彼の記憶にあったグラウンドより、そこはずっとずっと狭かった。

( ・∀・)

女との約束をすっぽかし、彼は地元に帰っていた。
何故か唐突に、本当に突然に、中学校に行ってみたくなったのだ。


( ・∀・)「ああー……ああー……」


かぼそい声が、夜空に吸い込まれていく。
一つ一つの星の動きがわかるくらい、澄んだ空をしていた。
中学生の頃は、空を見上げる事なんてしなかった。
ただ前だけを睨みつけて、全てを傷つけようとしていた。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:02:11.85 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)(ちょっと上を見上げれば、気がついてたのかな。この星空に)

あまりもロマンチストな言葉に、自分で気持ちが悪くなる。

( ・∀・)「……?」

その時モララーの思考は、けたたましい排気音によって遮られた。
グラウンドに猛スピードで原チャリが突っ込んできたのだ。

( ・∀・)「ガキか。うるせえな」

久々に喧嘩でもしてやろうかと立ち上がる。
それと同時に、雨で出来た溝にでもはまったのか、原チャリは一回転して転倒した。


( ・∀・)(馬鹿だ……)



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:04:46.44 ID:1w3iwjtg0

(    )「いってえ……」

( ・∀・)「うるせえんだよ」

頭を抱える男に、後ろから声をかける。
モララーに気がつくと、男はヘルメットを外し、大声で叫んだ。

  _
( #゚∀゚)「っせーな! テメーに迷惑かけたか!? あぁ!?」

( ・∀・)「だからうるせえって……」

  _
( ゚∀゚)

( ・∀・)


いつものグラウンド。
いつもの顔。

それはまるで、あの時にタイムスリップしたかのようだった。



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:10:26.49 ID:1w3iwjtg0







  _
( ゚∀゚)「なあ、お前今何やってんの」

( ・∀・)「んあ、何?」
  _
( ;゚∀゚)「だから……」

( ・∀・)「煙草持ってない?」
  _
( ゚∀゚)「持ってっけど、メンソールだぞ」

( ・∀・)「ハイライトだろ。よこせよ」
  _
( ゚∀゚)「ほらよ」

( ・∀・)「サンキュ」

ポケットをあさり始めたモララーに、ジョルジュはオイルライターをかざす。
それに小さな火が灯った時、二人は無言で顔を寄せ合い、煙草に火をつけた。



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:12:45.92 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「フゥ―――」
  _
( ゚∀゚)「はあ……」

( ・∀・)「一昨日までフリーターやってた。今無職」
  _
( ゚∀゚)「嘘だろ?」

( ・∀・)「マジ」
  _
( ゚∀゚)「お前結構いい高校いってたじゃん」

( ・∀・)「いってたな」
  _
( ゚∀゚)「大学にいったかと思ってたぜ」

( ・∀・)「冗談。勉強は女の次に嫌いだ」

煙草をくわえながら、二人は笑いあった。



159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:14:43.79 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「お前は?」
  _
( ゚∀゚)「あー、粘土とか練ってる」

( ・∀・)「あー、はいはい」
  _
( ゚∀゚)「もうクビかもしれねえけどな。今サボってここ来てるから」

( ・∀・)「ちゃんと働けよ社会のクズ」
  _
( ゚∀゚)「クズにクズって言われたくねーよクズ」

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:17:46.66 ID:1w3iwjtg0

中学校の頃、彼らはよく大人から言われていた。
お前はクズだ。どうしようも無い、と。

彼らは気にもとめなかった言葉なのに、今は心に染みるようになっている。

( ・∀・)「なあ」
  _
( ゚∀゚)「……あ?」

( ・∀・)「あー、いや、やっぱいいわ」
  _
( ゚∀゚)「何だよ」

( ・∀・)「いいって」
  _
( ゚∀゚)「言えって。気になるだろ」

( ・∀・)「……結婚式があるって話が来たんだが」
  _
( ;゚∀゚)「あ、ああ。そんで?」



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:19:55.57 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「お前も来ただろ?」
  _
( ゚∀゚)「……来た」

( ・∀・)「行く?」
  _
( ゚∀゚)「お前は?」

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)


数瞬の沈黙のあと、二人は盛大に吹き出す。


( *・∀・)「く……ぷははは! いかねーよなあ!?」
  _
( *゚∀゚)「いくわけねーだろうが! ていうか、いけねーっつーの!」

( ・∀・)「ああ」
  _
( ゚∀゚)「……誘われた理由自体わかんねーし」

( ・∀・)「俺もだ」



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:21:35.87 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「お前さー、夢とかあった?」
  _
( ゚∀゚)「は?」

( ・∀・)「夢。将来の夢」
  _
( ゚∀゚)「あれだよあれ。宇宙飛行士」

( ・∀・)「ちっ」
  _
( ゚∀゚)「……ねえよそんなもん。お前は」

( ・∀・)「あるわけねーじゃん」
  _
( ゚∀゚)「だろうな」



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:25:03.99 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「高校に行ったのだって、可愛い女とヤりたかったからだしな」
  _
( ;゚∀゚)「お前そんな理由で勉強してたのか!?」

( ・∀・)「そうだよ」
  _
( ゚∀゚)「お前って天才的な馬鹿だな」

( ・∀・)「ありがとよ」


二人の煙草から出る紫煙が、星空と混ざって消えていく。
永遠に続くかのように、ゆったりと時間が流れた。


( ・∀・)「何が駄目だったんだろうな」
  _
( ゚∀゚)「は? 何の事だよ」



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:27:16.19 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「今の生活に満足してるのか?」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「こんなはずじゃなかったんだよ。未来の俺は、今の俺じゃ無かった」
  _
( ゚∀゚)「それって哲学的な話か?」

( ・∀・)「そうかもしれねえな」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ俺にはわかんねえ。あーでも……」

( ・∀・)「でも?」
  _
( ゚∀゚)「……元々、未来なんて無かったんじゃねえの?」

( ・∀・)「……」



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:30:31.58 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「哲学だ」
  _
( ゚∀゚)「お、おお。そうだよ。哲学だよ」

( ・∀・)「どういう意味だよそれって」
  _
( ;゚∀゚)「いや、俺にもよくわかんねえんだけどさ。
     大人になってよ、やっぱ上下関係とか知ってよ、現実を知る訳じゃん」

( ・∀・)「ああ」
  _
( ゚∀゚)「そんで……あの時、俺らがチューボーだった頃はさ、現実なんて何も見えて無かったんだよ」

( ・∀・)「……」
  _
( ゚∀゚)「あの時俺らがいたのは、別世界で、こっちが本物の世界だから……」
  _
( ;゚∀゚)「やっぱよくわかんねえや。あとは頼む」

( ・∀・)「頼まれてもなあ……」



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:33:02.36 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「でも」

モララーは立ち上がり、煙草を靴の裏で踏み消した。

( ・∀・)「例えあの頃が夢だったとしても、俺はもう一度夢が見たい」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「それは現実が見えて無いって事か?」
  _
( ゚∀゚)「わかんねえ。けど、たぶん、そうだな……」


ジョルジュも立ち上がった。
視界一杯に広がっていた星空が、途端に狭くなる。

  _
( ゚∀゚)「現実から逃げてるのが、俺たちなんだろ」



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:36:09.38 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)

( ・∀・)
  _
( ゚∀゚)

( ・∀・)「だな」
  _
( ゚∀゚)「おう」

短い会話のあと、二人は歩き出した。
全てをゼロに還す事は不可能だ。
時間を戻すのは誰にも出来ない事なのだから。

( ・∀・)「ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「何だよ」

( ・∀・)「やっぱ俺さ……」
  _
( ゚∀゚)「……」


それでも、止まった時計の針を動かすのは、出来るはずなのだ。



188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:40:09.80 ID:1w3iwjtg0







(-_-)

カタカタ。カタカタ。


青白い顔を、青白い液晶モニタの光に照らし、今日も彼は電子の世界にいた。
現実に居場所が無い彼は、ここでしか息継ぎが出来ないのだ。

(-_-)

カタカタ。カタカタ。


言葉が喋れなくなってから、既に三年が経った。
無理矢理医者につれられ、薬を処方されても、治るものでは無かった。



192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:42:32.87 ID:1w3iwjtg0

誰かと喋る事など無いのだから、不都合は無かった。
むしろ、現実から逃げる手立てとして、言葉を発しない事は役に立ったと言える。



カタカタ。カタカタ。


「ヒッキー……」


カタカタ。カタカタ。


キーボードの音に、母親の声が混じる。
それは現実という虚像の音だ。
彼は今、電子の世界の戦士なのだから。


「電話が来てるわ」


カタカタ。カタカタ。



194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:44:00.79 ID:1w3iwjtg0

カタカタ。カタカタ。


「ブーンさんじゃないみたい。えっと……すみません、どなたでしたっけ?」


カタカタ。カタカタ。




「ジョルジュさん?」



(-_-)「!」



虚像と実像の境界が揺らいだ。
涙が出そうになるほど、懐かしい名前だった。



200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:47:40.72 ID:1w3iwjtg0

「えっと……伝言、ですか」



(-_-)



カタ……カタ……。



「あの、それだけでいいんですか?」



(-_-)



カタ……。



201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:49:14.17 ID:1w3iwjtg0

「ヒッキー。聞こえてる?」



(-_-)



「ジョルジュさんから伝言よ。えっと……」




「“シドヴィシャスはまだ死んでない”って……」



(-_-)「―――!」



203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:53:04.22 ID:1w3iwjtg0

伝説のパンクロッカー、シドヴィシャス。
ヤク中で死んだクソ野郎共のアイドルだ。


(-_-)


ヒッキーの貧相な体つきや、痩けた頬。
そして鼻をすする仕草から、モララーが彼に言っていた言葉。


お前はシドヴィシャスだ。
イカれて死んだクソの中のクソだ。
お前はもう死体なんだよヒッキー。
死体は死体らしくしてろ。
そうだ、ちょっと煙草買ってこいよ―――。




(-_-)


“シドヴィシャスはまだ死んでない”


(-_-)(僕は……生きてる……?)



206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:55:54.14 ID:1w3iwjtg0

「ジョルジュさん……ジョルジュさん? あら、切られちゃった……」



(-_-)



(-_-)「ズズ……」



モニタの中では、剣を持ち、依然勇敢に戦うヒッキーがいる。


(-_-)「ズズズズズ……」


モニタの前に座っているのは、引きこもりで言葉すら喋れない、シドヴィシャスのなれの果てだ。
それでも、この世界に息づいていた、確かな命でもあった。



209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 03:58:02.53 ID:1w3iwjtg0









とうとう結婚式当日がやってきた。
会場となったホテルのパーティルームには、既に招待客が詰まっている。


( ^ω^)「……」


それでも、花嫁側の席だけだ。
ドクオの方は、空席の方が断然多く、丸テーブルに母親と一緒に座っているブーンは浮いていた。



215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:02:26.31 ID:1w3iwjtg0

(-@∀@)「それでは新郎のご友人を代表されて、ブーン様に挨拶をして頂きます」

司会がブーンの名前を呼ぶ。
ちらりとドクオを見てから、マイクの前に立った。

(;^ω^)「ど、ど、どうもこんに、ひわ」

(-@∀@)「……」

(;^ω^)「きょ、今日は天気も良く……」

(-@∀@)「雨ですよ」ボソ

(;^ω^)「良いとか悪いとか……それはどうでも良くてですね」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」

ブーンの挨拶はグダグダにも程があった。
司会のフォローのおかげで、何とかやり終える。



222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:05:47.34 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「緊張したお」

J( 'ー`)し「よく頑張ったねえ」

( ^ω^)「かーちゃんさっきから食ってばっかだお。
      そんなんじゃお嫁サンバ歌えないお」

J( 'ー`)し「かーちゃんこんな豪勢な料理久々でテンション上がっててねえ」

( ^ω^)「全然そんな風には見えないお……」


(-@∀@)「えー続きまして……?」


ホテル側のスタッフが司会に耳打ちをしていた。
進行が一時中断し、辺りが微かにざわめく。



226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:07:26.73 ID:1w3iwjtg0

(;^ω^)「何か問題でもあったのかお?」

J( 'ー`)し「ングングさあモグモグあったのかもクチャクチャしれないねえ」

( ^ω^)「かーちゃん恥ずかしいからやめてくれお……」



(-@∀@)「失礼しました。どうやら新郎のご友人一行がただいま到着されたようです」



( ^ω^)


( ^ω^)「え?」



('A`)「え?」

川 ゚ -゚)「え?」



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:13:51.14 ID:1w3iwjtg0

(,,゚Д゚)「あ、どもども」

(*゚ー゚)「うわ、本当に結婚してるし」

('、`*川「花嫁美人ねー。どうやって捕まえたのかしら」

( ´∀`)「ご飯だご飯だモナー!」



(;'A`)「え……あれ……?」

( *^ω^)「き……奇跡ktkr!!」



爪'ー`)y‐「ふぃー久々の日本だ」

(;@∀@)「あの、申し訳ありませんが喫煙はちょっと……」

从'ー'从「花嫁かわいい〜私の次くらいに〜」

( ФωФ)「ドクオは変わってないな。おっと、席はこっちか」

( ^Д^)「おーっすドクオ! ブーン! 久しぶりー!」



246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:17:36.39 ID:1w3iwjtg0

(;'A`)「どうしたんだよおまえら……」

('、`*川「いやさ、急に会社が休みになって、暇が出来たからさ。
     まああんたが結婚するっていうのちょっと興味あったしーみたいな?」

( ФωФ)「教授が研究レポートの期限を先延ばしにしてくれたから、時間が出来たんだ。
        何故か顔中傷だらけだったけど……」

(*゚ー゚)「ギコくんがいくっていうからー」

(,,゚Д゚)「しぃがいくっていうからー」

(,,゚Д゚)「「ていうのは嘘で、冷やかしにきた」」(゚ー゚*)


( ;ω;)「おっおっ。これが友情パワーかお!」

('A`)「……」

川 ゚ー゚)「……」



256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:21:57.92 ID:1w3iwjtg0

会場がにわかに慌ただしくなる。
今までずっと静かだった結婚式が、騒々しいパーティに変わっていった。

( ´∀`)「うおおおお飯だ飯だモナー!」

J( 'ー`)し「渡させるものか! この身灰になろうとも!」

从'ー'从「ドクオく〜ん。おめでと〜」

('A`)「お、おう」

爪'ー`)y‐「俺に連絡つけるなんてよくやるぜ。
       エジプトにいたのに、モララーはどうやって連絡先を調べたんだ?」

(;^ω^)「モララー?」

爪'ー`)y‐「ああ。あいつが教えてくれたんだ。
      いい加減旅行も飽きて帰りたかったし、ちょうどいいと思って来たんだけどよ」

(;^ω^)「モララーがいるのかお!?」

(;'A`)「も、モララーが……?」



262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:26:04.21 ID:1w3iwjtg0

ドクオの表情が曇る。
彼の名前を聞いて、思い出すのは暗い過去ばかりだった。

川 ゚ -゚)「ドクオさん。他にもお友達の方が?」

('A`)「う、うん。でも……」

( ФωФ)「彼は廊下にいるよ。
       まだ人が来るらしくて、その対応をしてるみたいだ」

(;'A`)「……」

(;^ω^)「あの、ドクオ……」

(;'A`)「いってくる」

(;@∀@)「あ、ちょっと、新郎は動いちゃ駄目……!」

( ´∀`)「肉を出せ! もっと我に肉を!」

J( 'ー`)し「血が足りぬのだ!」

(@∀@:)「あんたら何しにきたの!?」



270: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:28:16.36 ID:1w3iwjtg0







(;'A`)「……」

(・∀・ )

廊下に出ると、携帯電話を片手に、通話中のモララーがいた。
彼が話し終わるのを見計らって、声をかけようと近寄る。

(・∀・ )「よう」

(;'A`)「!」


( ・∀・)「久しぶりだな」


声をかけるまでもなく、振り返ったモララーは言った。



275: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:29:42.70 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)

(;'A`)「ど……どういうつもりだ」

( ・∀・)「何が」

(;'A`)「だから……」



  _
( *゚∀゚)「ようドクオ! 相変わらずシケた顔してんなあ!」

(;'A`)「ジョルジュ!」


いつの間にか、スーツ姿のジョルジュが後ろに立っていた。
この二人には、数え切れない程泣かされた記憶があった。



280: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:31:55.95 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「モララー。ワカッテマスとビロードは一緒に来るそうだ」

(・∀・ )「そうかい。さっきニダーからも連絡がきた。ちょっと遅れるってな」

(;'A`)

( ・∀・)「ドクオ」

(;'A`)「な、なんだよ……」

( ・∀・)「どうしてみんなが集まったか、わかるか?」


答えられず、かぶりを振る。


( ・∀・)「みんな後悔してたんだよ。お前の事をな」

(;'A`)「後悔……?」



285: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:36:17.74 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「見えてるのに、見ないふりをしてた。
      助けられたかもしれないのに、助けなかった」

(;'A`)「……」

( ・∀・)「お前はみんなの後悔のカタマリなんだ。
      だから最初はここに来るのをしぶったし、出来れば忘れたい事だったろう」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「でもな、それじゃあ駄目だって気がついたんだ」

(;'A`)「気がついた?」


( ・∀・)「いつまでも子供のままじゃいられないって事だよ」

(;'A`)「……俺には何が何だか」
  _
( ゚∀゚)「お前はとっくに大人になってたから、わかんねえんだろ。
     さあ中に戻れよ。友達作るチャンスだぜ」

(;'A`)「お、おう……」



289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:39:30.81 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「ドクオ」

(;'A`)「?」

( ・∀・)「俺はお前に謝らない。謝って消えるものじゃないからな。
      だから、そうだな……えっと……その……」

(;'A`)「な、何だよ……」

( ;・∀・)「あーちくしょう。もういいよ」
  _
( ゚∀゚)「照れ屋なんだよこいつ」

(・∀・; )「うるせえ」

('A`)「……」

( ・∀・)



「がんばれよ」
口で言った訳じゃないのだが、モララーの唇がそう動いた気がした。
ドクオには、そう感じた。



293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:41:29.26 ID:1w3iwjtg0
  _
( ゚∀゚)「ん?」

( ・∀・)「早く行け。みんなお前を待ってる」

('A`)「ああ。ありがとう。本当に」

( ;・∀・)「だからそういうの苦手なんだってマジで……」
  _
( ゚∀゚)「ちょっと待て」

('A`)「え?」


ジョルジュは開いたままの携帯を、ドクオに手渡した。
誰かと繋がっている状態だった。

  _
( ゚∀゚)「話してみろよ。そいつも出席者だ」

('A`)「?」

( ・∀・)(誰だ?)



297: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:43:07.96 ID:1w3iwjtg0

('A`)「もしもし」

『……』

('A`)「もしもし?」

『……』

('A`)「電波繋がってるか?」
  _
( ゚∀゚)「耳を澄ませてみろ」

(;'A`)「……?」



『ズズ……ズ…………』


('A`)「……!」
  _
( ゚∀゚)「な?」

イタズラをする子供のように、ジョルジュは笑っている。



302: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:44:56.56 ID:1w3iwjtg0

('A`)「なあ」

『……ズズ』

('A`)「パンクもロックも死んだって話だが」

『……』

('A`)「お前は生きてるみてえだな、シド」

『……』



『……ズズズズズ』

('A`)「……へ」
  _
( ゚∀゚)「もういいか?」

('A`)「ああ」



306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:49:10.74 ID:1w3iwjtg0

( ・∀・)「うあーしんど。煙草吸いに行くぞ」
  _
( ゚∀゚)「おう」


二人はドクオを置いて、さっさと歩いていってしまった。
彼らの背中に、もう一度「ありがとう」と呟いてから、会場へ戻る。



(#´∀`)「「うおおおお!!!」」J( 'ー`#)し

(#@∀@)「てめえら表でやがれ! 俺がじきじきに相手してやんぞコラ!」

从'ー'从「何処が気に入ったの〜?」

('、`*川「顔じゃないわよね。夜のテクが凄いとか?」

川;゚ -゚)「えっと……性格とか、色々……」

( ФωФ)「それで僕は思うんだ。人間は神によって作られたプログラミングなんじゃないかって」

爪'ー`)y‐「そりゃあスゲーや。今すぐ学会に発表したらどうだい?」

(*゚ー゚)「はい、あーん」

(,*゚Д゚)「あーん!」



310: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:53:12.85 ID:1w3iwjtg0


('A`)「……何だこりゃ」


会場はパニックに近い騒ぎようだった。
新婦はドクオを見つけると、困った顔でほほえむ。
ドクオは小さく笑い返すと、マイクスタンドの方へ歩いていった。


('A`)「あーあー」

( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「ドクオさん?」

(;@∀@)(;´∀`)つと( 'ー`;)し「?」


('A`)「今日は……集まってくれてありがとう。
    えっと、クーさんの親族や、ご友人の方には、ちょっとごめんなさい」

('、`*川「ひど!」



313: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:55:13.82 ID:1w3iwjtg0

('A`)「俺は……」



水を打ったように会場が静まりかえる。
人前で話すのは苦手だった。
それは今でも、変わらない。



('A`)「俺は正直、結婚とか無縁だと思ってた。
    学生時代を知ってる人ならわかると思うが、俺はかなりの、駄目な奴だった」

( ФωФ)「……」

('A`)「だから、クーさんと出会えた事や、それからの事は、本当に奇跡だと思う」



319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 04:59:29.22 ID:1w3iwjtg0

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「中学校の頃、とにかく時間が過ぎれば良いって、そういう事考えてた。
    何もやる気が起きなかったし、他人にもほとんど無関心だった」

从'ー'从「ドクオくん……」

('A`)「でも、かけがえの無い友達がいてくれた。そいつは本当に最高の奴だ。
    ピザでニートでどうしようもない、最高の友達だ」

( ^ω^)「……」

('A`)「俺は人から救われた。きっと一人じゃ、こんな世界生きていけないんだ。
    子供の頃憧れてたようなヒーローはいないし、格好いい仕事にも就けないけど」


('A`)「でも、それでも、俺たちは誰かを救える力を持ってるんだ」



325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:02:54.13 ID:1w3iwjtg0

('A`)「みんなからはたくさん貰った。だから、俺……」

( ´∀`)「ごたくはいいモナ」

('A`)「え?」

('、`*川「もうさー、何かさー、あんたは幸せになればいいじゃん!?」

爪'ー`)y‐「俺は煙草さえあれば何でもいい。でもお前は違うだろ」

( ФωФ)「一人じゃ生きられないのは、人が単独で働くプログラムじゃないからさ」

(*゚ー゚)「こんな言葉しか言えないけど、おめでとう。ドクオくん」

(,,゚Д゚)「めでたい! めでたいのー!」


(;'A`)「俺の話聞いてたよな? ああ、まあいいや……」



327: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:05:24.91 ID:1w3iwjtg0

( ^ω^)「ドクオ! 記念写真撮るお!」

爪'ー`)y‐「最高の笑顔を出せよ。そうだ、モナーの顔を正面から直視してみろ」

( ´∀`)「どういう意味だコラ……」

m9( ^Д^ )「笑え笑えー!」



(;'A`)「ええっと……笑顔笑顔……」

川 ゚ -゚)「ドクオさん」

('A`)「クー」

川 ゚ー゚)「私を見て」



332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:08:09.38 ID:1w3iwjtg0


川 ゚ー゚)


('A`)





('∀`)


川 ゚ー゚)「笑えたよ」


('∀`)「ああ。笑えた」




( ^ω^)「一足す一足す一足す一足す一引く三はー?」



334: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:08:55.21 ID:1w3iwjtg0




「「「「「「「「「「2―――――!!!!!」」」」」」」」」」





337: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:09:49.97 ID:1w3iwjtg0























340: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:12:31.50 ID:1w3iwjtg0













(-_-)

雨はすでに上がっていた。
既に通話が途切れた携帯電話を片手に、彼はあのグラウンドに立っていた。



342: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:14:09.03 ID:1w3iwjtg0


足下に、二つの煙草が落ちている。
彼はそれを拾い上げると、空を見上げた。



(-_-)



(-_-)「ギター……買ってみようかな……」



(-_-)「……バイト、探さなきゃ……」



煙草を投げ捨てると、ゆっくりと歩き出した。
背後にそびえる校舎に、振り返る事はしなかった。



345: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/02(火) 05:14:39.55 ID:1w3iwjtg0













( ^ω^)ブーンはドクオの結婚式を盛り上げたいようです ―完―



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