('A`)がカッコ悪いようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:11:29.46 ID:31vRssA00
ロックスターに、ギターヒーローに、なりたかった。
30歳にもなって上司に怒鳴られて肩を落とすようには、なりたくなかった。

ステージの上でギターを振り回して暴れまわりたかった。
酒に酔って通行人とケンカして、ぼこぼこにされるようには、なりたくなかった。

世界中を飛び回ってライブをして褒め称えられたかった。
警察官に説教されるようには、なりたくなかった。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:12:20.48 ID:31vRssA00
('A`)「情けねえ・・・」

公園のベンチに寝っころがった。車が轟音をたてて近くの道路を通り、ビクリとする。
4月の夜の風はまだ冷たく、さっきのケンカで殴られたところに容赦なく突き刺さった。
かたかたと震える右手で、胸ポケットからタバコを取り出す。くしゃくしゃになってるけど気にしない。
火をつけて煙を吸い込むと、口の中がズキズキした。

カッコ良い大人になりたかった。
だけども、俺はカッコ悪い大人になってしまったみたいだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:12:52.64 ID:31vRssA00
('A`)がカッコ悪いようです



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:13:24.44 ID:31vRssA00
タバコが半分くらいになった時、少し離れた広場から音がするのが聞こえた。本当に小さな音。
時計を確認するとそろそろ日付が変わる頃。こんな時間に公園にいるのはヤンキーと相場が決まっている。
だけどその音は俺にとって懐かしい音だった。もう随分聞いていない。
吸殻を携帯灰皿にぶち込んで広場へ行ってみることにした。

( ・∀・)〜♪

音の出所はすぐに見つかった。
顔の整った高校生くらいの少年が芝生に座ってギターを弾いていた。
ロック好きなら誰でもわかるリフが静かに響く。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:14:09.62 ID:31vRssA00
声をかけようか迷ったが、かけることに決めた。

理由は単純なもので彼が弾いてるギターは俺が高校生の時に使っていたギターと同機種で、
変な仲間意識みたいなものがわいたから。
安いパチモンギターなんかじゃなくてホンモノのギブソンレスポールカスタム。
高校生がポンと買える代物じゃない正真正銘のロックンロールギター。
1年間必死にバイトをして、ようやくギブソンを手に入れたときは、涙が出たことを今でも覚えている。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:15:00.87 ID:31vRssA00
('A`)「こんな時間に弾き語り?」

( ・∀・)「あ、いえ・・・」

('A`)「そのレスポールカスタムかっこいいね」

俺がギターを褒めると少年は笑顔になった。

( ・∀・)「へへ。かっこいいですよね」

('A`)「でもなんでエレキギターで弾き語りなんかしてるの?エレキじゃ生音小さいよ」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:16:04.55 ID:31vRssA00
弾き語りなどによく使われるアコースティックギターとは違い、レスポールのようなエレキギターはアンプを通して鳴らすことを目的に作られている。
アンプに繋がないでエレキギターを弾くと音があまり響かずシャラシゃラした音が出るのだ。
少年のギターも例に漏れず、シャラシャラした音だった。
小さい音だからあまり大きくないこの公園でも、俺の耳に届くのに時間がかかった訳だ。
俺はこのシャラシャラしたエレキギターの生音が好きでもあったし嫌いでもあった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:16:56.59 ID:31vRssA00
( ・∀・)「弾き語りって訳じゃなくて・・・、その・・・なんていうのかな、さよならをする為に弾いているんです」

('A`)「さよならって、ギターと?」

( ・∀・)「そうです」

('A`)「へぇ・・・」

会話が続かず沈黙が流れる。
とりあえずタバコに火をつける。タバコはこういうときに便利だ。
そういえばタバコを覚えたのも高校生の時だっけか。かたかたと俺の右手が震える



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:18:55.31 ID:31vRssA00
( ・∀・)「俺、今年受験なんでギターが弾けなくなるんです。」

沈黙に耐え切れなくなったのか少年がしゃべり始めた。

('A`)「おいおい、全く弾けなくなるって訳じゃないだろうに」

( ・∀・)「全く弾けなくなるんです」

('A`)「・・・」

( ・∀・)「ウチの親、病的なくらい教育熱心なんですよ。」

ため息をひとつついて少年は続ける。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:21:19.76 ID:31vRssA00

( ・∀・)「今までバンドを続けてたのも俺のワガママで・・・。もう親が我慢できなくなって、それで・・・えっと・・・」

上手く伝えられなくてもどかしそうな少年に、俺は助け舟を出した。

('A`)「それで今夜でさよならっていうことか」

( ・∀・)「はい。今夜弾き終わったら明日・・・もう今日かな。こいつを楽器屋に売りに行きます」

少年はシャランとギターをかき鳴らした。
今のギターの気持ちが音として出たのか、音色はひどく寂しげだった。
月の光がレスポールカスタムの黒く美しい流線型のボディに反射し少年の顔を照らす。
先ほどギターを褒められて喜んでいた彼の笑顔は、とっくに無くなっていて無表情だった。

あの時の俺もこんな顔をしていたのかな。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:21:56.54 ID:31vRssA00
昔を思い出す。
音楽一筋だった高校生の俺。学校にも行かずにギターばかり弾いていた。
家が借家だったので、アンプを通して大きい音が出せなかった。
ひたすらギターをシャラシャラとかき鳴らしていた。ディストーションサウンドでなくとも楽しかった。
レスポールカスタムは、生音でもすごくかっこよかった。
鏡の前に立ってポーズを取ったり、お気に入りのギタリストの真似をしたり・・・。
俺は本当に朝から晩まで弾いていたんだ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:22:28.07 ID:31vRssA00
ライブも数えられないほどやった。
暴れる様なステージングの俺たちのライブは少しづつ評判になり客が増え始める。
周りの大人達には高校生にしてはすごいと褒められ、同級生達にはかっこいいと持て囃された。
俺がギターの弦を揺らしてやるだけで客が熱狂するさまを見るのは最高に気分がいい。
俺はロックスターになれる、ギターヒーローになれるんだ、と確信していたんだ。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:23:08.31 ID:31vRssA00
( ・∀・)〜♪

意識が現実に戻ってくる。
少年が演奏し始めたのだ。
震える右手のタバコは燃え尽きていた。

('A`)「その曲、俺もコピーしたなあ」

( ・∀・)「そうなんですか?」

('A`)「ああ。イントロのギターリフがすっごく好きなんだ」


( ・∀・)「これですね」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:23:57.82 ID:31vRssA00
イントロから少年は弾きなおす。ロックンロールが公園の広場に響く。
少年の演奏は昔の俺よりも上手だった。すこし悔しいがアンプに通した音が聞きたくなるような演奏だった。
歯切れの良いカッティングが心地よい。また右手が震えだす。

('A`)「・・・歌も歌える?」

( ・∀・)「へたくそですけど・・・」

('A`)「聞きたいんだ。歌ってくれないか」

( ・∀・)「えっと・・・、わかりました」

静かに少年が歌い始めた。ゆっくりと彼の歌声が俺の体を包み込む。
ギターの腕前といい、歌声といい、彼の音楽の才能はものすごいのかもしれない。
本物のボーカルより本物らしい彼の歌声の中で俺の意識はまた昔へと遡っていく。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:25:18.97 ID:31vRssA00
その日のライブも大成功だった。今までで、ベストのステージかもしれなかった。
ライブにはインディーズレーベルの関係者の人間が来ていて、俺達のCDを世に出したいと申し出てきた。
勿論大賛成で後日に話し合いの場が設けられることになった。
その日、俺達は確実にロックスターへの階段を1歩登ったんだ。
ライブハウスでしこたま酒を飲んだ。幸せだった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:26:19.23 ID:31vRssA00
これからの話し合いをする為にメンバーの家に向かう途中でそれは起こった。
深夜の信号が点滅中の横断歩道。
俺が最近覚えたばかりのタバコに火をつけることに戸惑っていると他のメンバーは信号を渡り始めた。
せっかちなやつらだな、待ってくれていてもいいんじゃないのか。
ようやく火をつけて前を向くと、メンバーにダンプが突っ込んでいた。
みんなの体は、曲がってはいけない方向に曲がり、血が水溜りのように広がっていった。
ダンプは方向を変えてカーブの向こう側に消えていった。
赤みがかった月がぐしゃぐしゃになったメンバーと、俺を静かに照らしていた。
右手が震えてタバコがアスファルトに落ちた。
落ちたタバコの煙が空へ登りそして消えていった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:27:48.06 ID:31vRssA00
ダンプはかなりのスピードが出ていたらしくメンバーは全員即死。
涙は何故か出なかった。今でも不思議に思う。
ダンプの運転手は3日後に自首をしてきたらしい。葬式で見たが、まだ若いのにしょぼくれた感じの男だった。
そいつが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしてメンバーの家族に謝っている姿を見て、ようやくみんなの死を実感する。
ああ、あいつらは本当にいなくなっちまったんだなあって。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:28:29.30 ID:31vRssA00
その日から俺はギターが弾けなくなっていた。右手が震えるのだ。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:29:10.35 ID:31vRssA00
時間が経てば震えが収まるものかと思ったが、事故から今の今まで右手の震えは続いている。
何軒も医者にかかったが原因は結局わからずじまい。
8軒目ぐらいに診てもらった精神科の話によると、俺の感情の波が少し激しくなるとこの症状が現れるらしい。
多少は実感していたが、ばんと突きつけられると少しショックだった。
CDの話はいつのまにかなくなっていた。当然だろうな。バンドがもうないんだから。
いつしかきらきらしたエレキギターの生音も、歪ませた破壊的な音もおれは嫌いになってしまっていた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:30:29.31 ID:31vRssA00
そこからの俺の人生のスピードは岩が坂道を転げ落ちるようにぐっと速くなった。
気づいたら高校を卒業し地元の中堅会社に就職して代わり映えのない毎日を過ごすようになっていた。
得意先に出向いてぺこぺこ頭を下げて、上司にぐだぐだと叱られ、お帰りと言ってくれるような相手のいない家に帰る。
たまの休みはひたすら布団の中。本当につまらない毎日だ。

音楽は全くといっていいほど聴いていなかった。
少なくとも自発的に聴くという事は少年のギターを聴くまで無かった。
事故のことを思い出したくなかったのか、自分でもよくわからない。多分そうなんだろうな。
ギターも全く触っていない。なんていったって右手がこんなんだから。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:36:06.22 ID:31vRssA00
( ・∀・)「〜♪」

歌がサビに差し掛かった。
目を閉じ気持ちよさそうに歌っている少年に昔の俺がだぶって映る。
頭の中でかつてのメンバー達の顔がぐるぐると回った。
そいつらが悲しそうな顔で俺に語りかけてくる。
すまない、ごめんな、申し訳ない。
なんでお前らが謝るんだよ、やめてくれ。
俺らのせいでギターが弾けなくなっちまったんだよな。
違うよ、俺が弱かっただけだ。逃げてたんだ。お前らのことから。音楽のことから。
ギターキチガイのお前からギターを取り上げちまって本当に悪かった。
謝るな、お前らのせいじゃないんだよ。本当に俺が・・・。
すまない、ごめんな、申し訳ない。
やめろ、やめてくれ。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:36:41.28 ID:31vRssA00

( ・∀・)「!!」

サビ後のギターソロを弾こうとした少年から俺はギターをぶんどった。
ストラップを肩から掛け、左手でネックを握りこむ。しっくりときた。
ああ、これなんだよ。このギターだ。俺を狂わせたのはこのレスポールカスタムなんだ。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:38:28.94 ID:31vRssA00
右手をめちゃめちゃに振り下ろす。この曲のギターソロは全弦開放から始まるんだ。
不協和音をギターが吐き出す。なんだか俺は急に嬉しくなる。
俺は無数の音符を追いかけていく。
頭はついていかないが体が覚えている。問題ない。
あれほど震えていた右手はうんともすんともいわず俺の思い通りに動いていた。
その時、アンプには繋いでいないが俺の体の中では確かに爆音のディストーションサウンドが駆け巡っていた。
楽しい。ギターを弾くのがこんなに楽しかったのを忘れてた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:40:30.72 ID:31vRssA00
最後の一音を思いっきりチョーキングしてやる。
ギターソロを弾ききったその瞬間、あいつらの笑った顔が見えた気がした。
あの日のタバコの煙のように空にゆっくり消えていくのを落ち着いた気分で見送ることができた。
俺は汗だくだった。スーツがトレーニングウェアのように感じる。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:41:24.11 ID:31vRssA00
( ・∀・)「・・・・・・」

ギターを返そうと少年の方を見ると呆気に取られた顔をしていた。
なんだか申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。
なんていったってギタリストの最高の見せ場を奪ってしまんたんだから。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:42:00.19 ID:31vRssA00
('A`)「ごめんな。おいしいところ持っていっちまった」

( ・∀・)「・・・・・・すげーっす。すげーカッコ良かったです」

('A`)「すげくないしカッコ良くもないよ。」

俺は少年の言葉遣いを真似した。二人でくっくっと笑う。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:43:59.44 ID:31vRssA00
( ・∀・)「なんというか鬼気迫るという感じで・・・・・・プロだったんですか?」

('A`)「いや、俺はただのおっさんさ」

少年にギターを返し、タバコを取りだし火をつけた。
肺が煙で満たされ、心臓のテンポがゆっくりになってくる。この感覚も懐かしい。
実際昔に戻っていたようだった。さっきギターを弾いてた時の俺は高校生だったのかもしれない。

('A`)「ありがとう。君と君のギターのおかげでいろいろと思い出せたよ」



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:45:20.83 ID:31vRssA00
礼を言って俺は少年に背を向けた。数メートル進んだところで少年が奇声をあげ、俺は少し驚いて振り返る。

( ・∀・)「うわーくっそー!負けたくねぇ!」

頭をかきむしり、地団駄を踏む少年を俺はじっと見据える。

( ・∀・)「俺、ギター続けます!それであなたより上手くなります!うおおおお!」

ギターをガシガシ弾きながら少年は夜空に向かって叫んだ。
めちゃくちゃに弾かれるギターも嬉しそうに見えた。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:46:29.93 ID:31vRssA00
( ・∀・)「親を説得して、それでとにかくギター弾きまくるんです!あ・・・なんだかわくわくしてきた!」

少年がはにかみ再びギターをかき鳴らし始めた。
なんだかこちらまで笑みがこぼれてしまう。
煙を吐き出し空を見上げるとあの日と同じような赤みがかった月が浮かんでいた。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/09(火) 01:48:28.23 ID:31vRssA00
('A`)「だからかな・・・・・・。さてと、明日の朝もはやいぜぇ。帰って寝なきゃ・・・・・・。」

少年のギターの音を背に俺は家へと向かった。
退屈な毎日にはもうならない。またロックンロールと再会したんだからな。
これからは坂道を転げ落ちるんじゃなくて、自分から転がってやるさ。
明日はまず上司にこの傷だらけの顔を説明しなくちゃいけないか。

('A`)がカッコ悪いようです おわり



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