( ^ω^)が穏やかな日々に風穴を開けられるようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:08:18.75 ID:XMH9tSRE0
- 私はこれまで五十と数年、目立たず静かな人生を送ってきた。
これといった功績を残したり、また罪を犯したりということをせず平坦な道を歩んできた。
ドラマで言えばエキストラ、スポーツで言えば観客といったところだろう。
これからもそういった生活を私は続けたいし続けるのだろう。
人に迷惑をかけずに静かに過ごせればそれでよかった。
妻と子供と一緒にのんびり暮らせればいい。
石橋を叩いて渡らないという私のスタイルは、よく他人につまらない人生だなと評された。
しかしなんと言われようと私は平穏が好きなのだ。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:08:49.76 ID:XMH9tSRE0
( ^ω^)が穏やかな日々に風穴を開けられるようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:09:29.10 ID:XMH9tSRE0
- 今日も満員電車に揺られ私は家に向かう。
込み合った車内は冬の真っ只中にも関わらず蒸し暑かった。
満員電車は嫌いだ。好きでこんなに圧迫される乗り物に乗っている人などいるのだろうか。
少なくとも私は進んで満員電車に乗りたがる社会人は知らない。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:10:03.20 ID:XMH9tSRE0
- 電車の規則的な揺れが睡魔となって私に襲ってきた。
会社近くの駅に着くまでにはまだ結構な時間があり、今朝はいつもより少し早く家を出たので少し眠ることにした。
目をつぶり、スケジュールを頭の中で確認する。
今日の会議について反芻していると眠気がゆっくりとやってきた。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:11:18.27 ID:XMH9tSRE0
- 私がうとうととし始めた時、胸ポケットが揺れた。
睡眠を受け入れていた体がゆっくりと覚醒する。
隣の男性が怪訝な顔をしてこちらを見てきたので頭を軽く下げて謝罪の意を表す。
私は体を捻って携帯電話を取り出した。部下からのメールだった。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:13:20.16 ID:XMH9tSRE0
- From:鬱田ドクオ
件:おはようございます。会議について
朝早くに申し訳ありません。
本日行われる会議の書類を仕上げていたのですが、
どうしても不明な点がありまして……。
その後は書類について何点か彼からの質問が書かれていた。
私は携帯でメールを打つのが苦手なので簡潔に返事をした。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:14:01.17 ID:XMH9tSRE0
- To:鬱田ドクオ
件:わかりました。
メールで書くのには複雑なので会社に着き次第指示を出します。
今朝は早めに家を出たので会議までには間に合うと思います。
今日の昼飯で勘弁してやろう。
勿論、昼食をおごらせるつもりは無い。私なりのユーモアだ。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:16:10.34 ID:XMH9tSRE0
- 携帯を再び胸ポケットに戻したところで電車が途中駅で人を一気に吐き出した。
そのまま私も流されそうになるがつり革にしっかりとつかまり耐える。
座席に座る人がまばらになったので適当な空席に私は座った。
さてもう一眠りしようかと思ったところに私の隣に若者が座った。
全身を黒い皮のライダースジャケットを身にまとった若者はなかなかの男前だった。
しかし彼はなかなかに異様な外見である。
背丈はあったが拭けば飛んでいってしまうんじゃないかというほどの線の細さ、そして目が隠れてしまっているぼさぼさの黒髪。
そんな彼に物怖じしてしまって、私は会社に着くまでひたすら狸寝入りをしていた。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:17:18.16 ID:XMH9tSRE0
- ('A`)「いやあ、今朝は助かりました。ありがとうございます」
鬱田と私は会社近くの蕎麦屋で昼食を取っていた。
書類を作成し無事会議が終わった後にメールを鵜呑みにした彼から声をかけられた。
私は冗談だと言ったが彼はご馳走すると言って聞かなかった。
押し問答になると昼休みの時間が削られていくだけなので、とりあえず彼とこの店に入ったのだ。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:17:58.24 ID:XMH9tSRE0
('A`)「昨日の内に作成しておけばよかったんですが。」
( ^ω^)「私が早めに来なかったらどうしていたんだお」
('A`)「どうしようもなかったですよ。ははは」
( ^ω^)「笑い事じゃないお」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:18:37.75 ID:XMH9tSRE0
- 昨年と半年前くらいから彼はよく笑うようになった。傷だらけの顔で出社をしてきた時は驚いたが。
それまではいつも気難しい顔をしていたが、今はやる気に満ち溢れた男の顔だった。
実際に仕事の能率も上がり私も嬉しかった。
('A`)「ところで、内藤課長はどうして今朝早かったんですか?」
蕎麦湯を酒でも飲むかのようにちびりちびりとやりながら彼は聞いてきた。
今朝、我が家ではちょっとした事件があったのだ。
( ^ω^)「ちょっと娘と…・・・」
話し始めたところでアルバイトの女の子が食器を下げに来た。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:19:22.13 ID:XMH9tSRE0
- 私は彼女に一万円札と注文票を渡した。
( ^ω^)「お姉さん、これで先に会計頼むお」
(;'A`)「課長、ここは俺が出すって言ったじゃないですか」
( ^ω^)「先手必勝。部下に奢らせるわけにはいかないお。」
女の子はわかりましたあ、と元気な声を上げてレジへと向かっていった。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:20:20.15 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「さてと、そろそろ昼休みも終わるお」
(;'A`)「このままじゃ俺帰れませんよ。なにかさせてくださいよ。」
鬱田は変なところで頑固だった。ただ,私は彼のそういった義理堅い面が好きだ。
断ってもやはり押し問答になりそうなので、一つ提案をして会社に戻ることにしよう。
( ^ω^)「そんじゃ帰りに少しつきあってほしいところがあるお」
('A`)「今日ですか?すいません、今夜は用事が……アッー!」
(;^ω^)「急に大声あげるなお」
('A`)「課長、ライブハウスへ行きませんか?」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:21:30.21 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「………」
('A`)「課長くらいのお年ですと確かにちょっと浮いてしまうかもしれませんが大丈夫です。同じ部署の渡辺さんが今日ライブをするんですよ」
そう言って彼は財布の中から1枚のチケットを取り出し私に差し出した。
('A`)「部署の後輩も何人か来ますし普通の飲み会だと思ってください。」
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:22:07.44 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「そうかお」
('A`)「はい!決まり!それじゃ今夜はライブハウスで飲みましょう。バーも一緒に経営してる所なんで」
私に無理やりチケットを握らせた彼はご馳走様でしたと言い外回りへと向かっていった。
チケットを挟もうと手帳を開いたところで中から一枚の紙がひらりと落ちる。鬱田からもらった紙と寸分互いの無いものであった。
こうして私の手帳の中にチケットが2枚となった。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:22:43.96 ID:XMH9tSRE0
- 仕事も終わり私はライブハウスへと向かっていた。
鬱田は書類を仕上げてから行くというので彼の後輩、つまり私の部下達とともに行くこととなった。
チケットの裏面にアクセスMAPが描かれていたのでそれを頼りにする。
部下達は、渡辺さんについての話で盛り上がっていた。彼氏がいるだとか最近つけているあの指輪はなんだ等、話題は尽きないようだった。
渡辺さんはかわいらしい容姿をしており、仕事はあまり出来ないが男性社員からは人気者である。
そんな彼女がステージに立つというのだから騒ぎたくもなるものだろう。
私が後方から彼らを生暖かい視線で見守っていると、気を使ったのかわからないが一人が私に話しかけてきた。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:23:30.66 ID:XMH9tSRE0
- (,,゚Д゚)「課長も渡辺さんが気になって今日のライブを見に行くんですか?」
( ^ω^)「いやいや、今日は君らが普段どういった遊び方をしているのか気になってね。ご同行させてもらっただけだお」
(,,゚Д゚)「またまたー。渡辺さんじゃなくてもお付き合いしてる人とかいらっしゃるんじゃないですか?」
( ^ω^)「おいおい。妻子ある身で火遊びなんてできないお」
実際、何度かそういった機会はあったが全て断ってきた。
私は家族と平穏に過ごすことが望みだったから。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:24:10.31 ID:XMH9tSRE0
- (,,゚Д゚)「そういえば娘さんがいらっしゃったんですよね。今は大学生くらいでしたっけ」
娘と聞いて今朝の出来事を思い出す。娘は平穏で静かな生活を崩しにかかった。
( ^ω^)「大学生だけども……と、ライブハウスはここじゃないかお?」
ライブハウスに着いたため、鬱田との会話の時のように私の会話は途中で終わった。
自分から話始めておいてなんだが、娘の話をせず少し安心した。
部下達は特に続きを求めたりせず受付に向かった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:25:13.02 ID:XMH9tSRE0
- 私達はチケットを金髪でツンツン頭の店員に渡し中へと入った。店内は薄暗くロックミュージックらしきものが騒がしく流れていた。
思っていたほど狭くはなく普通の飲食店に私が通っていた高校の四十人クラスの教室をくっつけたような広さだった。
ライブハウスなどはじめてだったのできょろきょろとあたりを見回す。タバコの煙がひどく、霧の中にいるみたいだ。
客はほどよい混み具合でバースペースとライブハウススペースでおよそ五十人くらいかと思う。
ステージと思わしき方を向くと黒いカーテンがかかっていた。ステージ前にはすでに何人かの客が演奏が始まるのを待っている。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:26:28.31 ID:XMH9tSRE0
- どうやら渡辺さんのバンドはまだらしく部下達はバースペースで酒を注文していた。私もそれに続いてビールを頼む。
やはり私のようなオヤジは珍しいらしくビールをついでくれた女の子は少しびっくりしていた。まあかまわないさ。
ビールをぐいっと喉に流し込む。渇いていた喉にゆっくりとビールは染み込んでいった。実に旨い。
部下達はまた渡辺さんのことについて話しているのだろうか、笑いながらはしゃいでる。
私が彼らのように二十代の時はライブハウスみたいなところに一度も来た事が無かった。
つまらない二十代だったなと自嘲的な気分になり少し笑った。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:27:57.38 ID:XMH9tSRE0
- 不意に薄暗い店内がさらに暗くなる。先ほどまで流れていたロックミュージックもそれにあわせて止まった。
耳を覆いたくなるような音量で再び音楽がスピーカーから流れ始めた。
先ほど流れていたものとは違い、昔の映画で使われていた音楽だった。
カーテンがゆっくりと開きステージに照明があたる。ステージに立っていたのは細身のスーツに身を包んだ異様な3人組だった。
黒く美しい流線型のボディーにゴールドのパーツが煌くギターを携えた病的に細い青年。
ドラムスティックをくるくると回しているスキンヘッドで体格の良い男性。
金髪縦ロールですらっとした女性はベースを構えてじっと動かない。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:30:19.36 ID:XMH9tSRE0
- 映画音楽が止まる。
( ・∀・)「こんばんわ。」
ぼさぼさの髪の青年はそう挨拶するとギターを弾き始めた。
荒々しい音で、汚いけど綺麗で、どう形容してよいかわからない。ただものすごい音量だった。
歌声がギターに混じる。これも汚いけど綺麗だった。
ドラムとベースがそれに重なる。4つの音が固まりとなって私に襲い掛かってくる。やはり汚いけど綺麗だった。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:31:27.39 ID:XMH9tSRE0
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:32:19.96 ID:XMH9tSRE0
- 娘のツンが音楽に興味を持っているのは知っていた。大学でも音楽サークルに入っているということも。
ツンの部屋から楽器の練習が聞こえたのも一度や二度ではない。
バンドかあ、センスのいい趣味じゃないか。楽器とは一生付き合っていけるしな、などと私は思っていた。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:33:20.40 ID:XMH9tSRE0
- ξ゚听)ξ「私、大学やめて音楽で生活していきたい」
昨日、家族全員で食卓を囲んだ夕飯時にツンはそう言った。
妻はどうやら知っていたらしく動じていない。私はドラマのように箸を落としてしまった。
音楽でご飯を食べるということがどれほど難しいことか。
私にはそれがよくわからないが日の目を浴びるのは一握りの人間だということは認識していた。
しかし、そんなことよりも今の平穏が崩れるのが怖かった。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:34:35.23 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「冗談はやめなさい」
私は極めて落ち着いて言ったつもりだったが、言葉の最後は震えていた。
ξ゚听)ξ「冗談じゃないわ。大学の手続きもあとは書類を提出するだけ」
そういってツンは退学に必要と思われる書類をひらひらとはためかせた。
私はそれを奪い取りざっと目を通す。どうやら本物のようだ。
ツンは破かれると思ったのかすぐに私から取り返しテーブルの下へと隠した。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:35:14.42 ID:XMH9tSRE0
- ξ゚听)ξ「お母さんは賛成してくれた。あとはお父さんだけ」
妻の方を向くと彼女はゆっくりと頷いた。
川 ゚ -゚)「やりたいことをやらせてあげましょう」
私はわなわなと震え始めた。しかしぐっと我慢して娘に尋ねた。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:37:42.78 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「どうして音楽で食べていきたいんだお」
ξ゚听)ξ「毎日が退屈になっちゃった。平穏はもうつまらないから刺激に包まれた生活がしたいの」
自分の生き方を今まで馬鹿にされても苦ではなかったが、娘に言われると私の全てが否定された気分になった。
今までの人生がすべて無駄だったかのように思えた。
この平穏をつくるのにどれだけ苦労してきたか一から説明してやりたい。
( ^ω^)「父さんは認めたくない。父さんは今の生活をつくるのにすごくがんばってきたんだ」
ξ゚听)ξ「お父さんとお母さんには感謝してもしきれないくらい。でも音楽と、ロックと出会っちゃったの。」
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:38:52.37 ID:XMH9tSRE0
- それからツンはいかにして自分がロックにはまっていったかを語り始めた。
ロックを語るツンは活き活きとしていた。大学に通っている時には見られなかった楽しげな表情で話し続ける。
しかし娘の話は私の耳から耳へと通り過ぎていくばかりだった。
モララーと言う素晴らしいギター弾きに出会ったというくだりで私は席を立ち寝室へと向かった。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:39:48.25 ID:XMH9tSRE0
- 川 ゚ -゚)「あなた、この子の話を……」
妻の制止を振り切り寝室の扉を閉めた。何故だか少し涙が出た。
私はツンのことを何もわかっていなかったみたいだ。
翌朝、リビングからする物音で目が覚めた。
半ば寝ぼけたままリビングに向かうとツンが出かける支度をしていた。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:41:02.02 ID:XMH9tSRE0
- ξ゚听)ξ「おはよう」
昨日の事が嘘のようにいつもどおりの挨拶をしてきたが、彼女のそばには楽器のケースが立てかけられていた。
それを見て夢ではなく現実であると確信となる
ξ゚听)ξ「バンドでツアーに回ってくるから。」
唐突だった。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:41:54.58 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「ツアーっておまえ……。大学の授業はどうするんだお」
ξ゚听)ξ「やめるっていったじゃない。あ、ツアーって言っても貧乏旅行みたいなものだから」
ツンはにこっと笑い、荷物をかついで玄関へ向かった。
ξ゚听)ξ「二週間くらいで帰ってくるからそれまでに考えておいてね。それとこれ、初日は地元でやるから。じゃあいってきます!」
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:42:57.27 ID:XMH9tSRE0
- 元気に扉を開けてツンは家を出て行った。私の手には一枚のチケットが握られていた。
応援の言葉も説得の言葉も出てこない。私はどうしたいんだろう。
平坦な道を歩いてきた私にとって、この娘の出来事はとても大きな事件であった。
石橋をずっと渡ってこなかったツケが今、回ってきて壁となって私の前に現れたのだ。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:43:36.95 ID:XMH9tSRE0
- ステージ上ではバンドが暴れまわっていた。ロックを演奏することが本当に楽しいといったように。
いつのまにか店内にいた客のほとんどがステージ前で体を揺らしている。部下達も上着を脱いでワイシャツ姿で踊っていた。
スーツを着てベースを演奏するツンは笑顔だった。そんな可憐な姿に似合わないごつごつとした低音が彼女から放たれている。
子供の頃からは想像できない絵だった。昔はかわいくて、花とかそういうのが好きで……。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:44:38.16 ID:XMH9tSRE0
- ああ、そうか。ツンは大人になったんだ。私の手を離れていったんだ。
もう私の作った道から外れて歩いていけるんだ。無理に彼女を平穏という枠の中に押し込める必要はないんだ。
私は自分の平穏が崩されることを恐れていた。そんなことで娘の可能性を潰してしまうかもしれなかった。
そちらのほうが恐ろしいじゃないか。
嵐のような音の中でのびのびと立ち回るツンの姿を見て私は決めた。娘のために平穏を崩すことを。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:45:34.97 ID:XMH9tSRE0
壁に穴が開いた。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:46:48.50 ID:XMH9tSRE0
- ライブハウスを出ると冷たい風が身を突き刺してきた。コートの襟元を引き寄せそれに耐える。
ふと思い出した。
ツンと一緒に演奏をしていたギターの青年は今朝電車で隣に座った青年じゃなかったか。
こんなこともあるんだな、世間は狭いと思い少し笑う。
不意にポケットの携帯が揺れる。鬱田からの電話だった。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:48:16.27 ID:XMH9tSRE0
- ('A`)「すみません、仕事が終わりまして今から向かいます!渡辺さんが演奏中に着くと思います」
( ^ω^)「私は帰るお」
('A`)「えぇ?どうしたんですか一体」
( ^ω^)「すこぶる体調がいいから帰るお」
('A`)「はぁ……、エッ?意味がよくわからないですけど……」
( ^ω^)「それじゃ」
(;'A`)「あっ!ちょっ・・・・」
私は彼の言葉の途中で電話を切った。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(不明なsoftbank) :2008/09/16(火) 00:49:14.35 ID:XMH9tSRE0
- ( ^ω^)「うぅ〜寒い。」
壁に穴が開いたからそこから風が入ってくるのだろうか。でも不快じゃない。
私はコートを脱いだ。なんだかロックな気分になった。
( ^ω^)が穏やかな日々に風穴を開けられるようです おわり
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