川 ゚ -゚)クーたちは想像上の生物のようです
- 29: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:32:19.19 ID:peSmYiXI0
- 第一話
『限りなく想像に近い実在』
その奇妙な能力、あるいは病気をブーンが患ったのは半年ほど前のことになる。
この物語において、彼は人間であるという設定だ。
人間ということはつまり、食事をとるし排泄する。種々の生理現象をごく普通に行う。
睡眠もその一つだ。彼はごく普通の体質の持ち主なので、一日に七時間程度の睡眠を要する。
人間であるから彼は夢を見る。その夢は多分に漏れず混沌としている。
悪夢を見る回数は年を経る毎に減った。だが、それでも見る夢の不条理さは以前と変化無い。
何の前触れもなく彼が罹った病とは、夢に没入してしまうと言うことだ。
つまり、彼が夢を見ている時、彼の姿は現実から消失する。
病気を持って以来、彼はほぼ毎回のように夢を見るので、
睡眠時は大抵この世にいないということになる。
だから授業中にうっかり眠ってしまうと非常に危険だ。
彼の姿がこの世から消える。当然教師はそれに気付く。ああまたあのバカは寝ているのかと知る。
おもむろにペンを動かし、彼の平常での態度を記録する。成績に影響する。
居眠りは以前からの悪癖だったため、病に患ってからも改善されることが無い。
なお、この病気は別に彼独特のものではない。
少数ではあるが、世界各地で同じ症状が報告されている。
つまり、彼が『世界で一人、選ばれた人間』とか、別にそういうわけではないのだ。今のところ。
以上の説明を一行でまとめるとこうなる。
ブーンは夢を見ているとき、現実世界から姿が消える。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/22(月) 22:35:12.44 ID:peSmYiXI0
- 高校は昼休みに突入していた。ブーンは机に突っ伏してもぞもぞと蠢いている。
微睡みから抜け出さず、このままもう一度寝てしまおうかなどと考えている。
頭が痛い。数学教師に叩かれたせいだ。
ふと股間周辺に違和感を覚える。
首を動かし机の下をのぞくと、そこで一人の男がブーンの股間を穴が空くほど凝視している。
( ^ω^)「……何してんだお」
('A`)「いや、勃起してないかなって」
( ^ω^)「……」
('A`)「いや、ほら、あるじゃん。授業中居眠りしてて起きたらうっかり勃起してて、
授業終わりの挨拶が前傾姿勢になっちゃう現象。
俺としてはそれを『小さい秋見いつけた』って呼んでるんだけど」
鼻息荒くそんなことを言っているドクオから逃れるため、とりあえずブーンは立ち上がる。
幸い『小さい秋見いつけた』は発生していない。
('A`)「で、どんな夢見てたんだ。今日は誰を犯した?」
( ^ω^)「ドクオじゃあるまいし、そんな卑猥な夢見ないお」
実際は見たが。
('A`)「ハッ……ブーン、俺ァ、夢の中でもオナニーだぜ!
そう簡単に、貞操を相手に渡すことはしねぇ」
( ^ω^)「あらそうですか」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/22(月) 22:37:02.23 ID:peSmYiXI0
- ちなみに、このクラスでブーンと同じ病――便宜上特殊夢遊病と表記する――を、
患っている人物はいない。
日本での患者数は三桁ほどであるそうだ。
('A`)「ま、いいや。とりあえずメシ食おうぜ」
ドクオがどこからともなくパンの入った紙袋を取り出してブーンの机に置いた。
('A`)「しかし難儀な病気だよな。つーか、病気なのか?」
( ^ω^)「病気……って感じじゃないお。お医者さんに脳波とか見て貰ったけど、
特に異常らしい異常は無いらしいお」
('A`)「でもよ、正直な話、夢の中でヤリたい放題だろ?
あの子もこの子もおっぴろげ。あらこんなところにも陰毛がってレベルだろ?」
( ^ω^)「ううん……」
この特殊夢遊病患者になって初めて気付いたことがある。
夢の中の自分がはっきり自分であると断言できないということだ。
夢の中ではどうにも意識が曖昧である。
例えば、先程の夢では日本全体を撲殺するという、あまりに意味不明な場面が混じっていたが、
あの時の暴力意識がブーン自身のものであるかといえば、
ブーンとしてはどうしても否定したいところだ。
あのような一面があると考えることも出来る。
しかしそれにしたって誇張されていることは間違いないだろうから、
それ自体を現実世界におけるブーンと意識が同一であるかといえばそうではないだろう。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/22(月) 22:40:13.69 ID:peSmYiXI0
- ゆえに、例えば目の前に絶世の美女が現れたとしても、
彼女を犯すことを欲する意識でない限りは決して淫交を実行できないのだ。
仮に運良く自分が自分であると意識することが出来たとしても、
後から考えれば自分は自分だと意識するように操作されていたと思わざるを得ない場合もあるし、
また、そもそも犯したい美女が現れない。今回は……まあ、現れたが。
……というようなことをドクオに説明しようとしたが、
うんざりするほど長ったらしい話になり、面倒なので一言で済ませておいた。
( ^ω^)「いや、そうでもないんだお」
('A`)「ふうん……あ、このチョココロネうめえ。思い出すわ、あれ」
( ^ω^)「どれ?」
('A`)「昔食べた母の大便……ちょっと下痢してたときの……」
(;^ω^)
ドクオが言うと冗談に聞こえない。
いや、冗談だとしても最低レベルのシモネタであるのだが、彼の場合実行している可能性が高い。
何しろこの男、生粋の変態である。
そこらを歩いている露出狂が土下座して謝るほどの真のド変態だ。
ブーンとドクオは幼なじみ同士であるが、二人が幼稚園児だった頃、
ドクオの家に遊びに行ったブーンは、そこでドクオが、
昼寝をしている父親の肛門周辺を熱心に舐め回しているのを目撃した。
以来、ブーンはドクオに対して常識という観念と捨てている。
- 41: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:43:06.71 ID:peSmYiXI0
- ('A`)「で、結局どんな夢を見たんだよ。教えてくれよ」
( ^ω^)「いや……」
あまり言いたくない内容の夢だった。
大まかに五つの場面が登場し、まず最初の夢では誰とも分からぬ女とセックスしていた。
次の場面では日本を撲殺し、次の場面で。
( ^ω^)「……」
('A`)「どうした。ペニスの置き場所を忘れちまったような顔して」
あの場面は一体なんだったのだろう。
今まで見たどの夢よりも無味乾燥とした夢。
ブーンは一人の少女と対峙していた。黒い髪、鋭い瞳、整った顔立ち。真っ黒なドレス。
言ってしまえば、美人。そして、ブーンが「誰」と問うと、彼女はシンプルにこう答えた。
川 ゚ -゚)「魔法少女」
と。
勿論、彼女のような知り合いはいないし、どこかで出会った記憶もない。
大体、自らを魔法少女などと名乗る人物とは同次元で出会いたくない。
( ^ω^)「……ま、その、いつも通りのスペクタクルだったお」
('A`)「へえ……」
- 43: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:46:06.58 ID:peSmYiXI0
- ('A`)「まあ俺が昨日見た第三次ヴァギナクロニクルに比べ……りゃ……」
ドクオの言葉が途中で止まる。
何事かと、取り出した弁当箱を箸でつつくブーンの手も止まる。
ドクオの首が、電池の切れかけた機械人形のようにぎこちない動作で斜め後ろに動いた。
彼の視線の先にはスピーカーがある。
時々生徒や教師の呼び出しで使われるものだ。
今、そこからは放送部員により種々の音楽が流れていた。
『きっのこの上の芋虫は寂しさをおっしえる教授だった♪……』
('A`)「……なあ、ブーン。俺ァ、思うんだ」
( ^ω^)「なんだお」
('A`)「最近の邦楽は温い……緩い肛門の中に指突っ込んでるみたいだぜ。
それじゃあ、いけねえ。音楽ってのァ、もっとこう、ギラついてるもんさ」
( ^ω^)「うん。で?」
('A`)「俺、ちょっと放送室行ってくるわ」
言いながらズボンのポケットを探るドクオ。
妙に膨らんでいるそのポケットには、何かいかがわしいものが入っているに違いなかった。
- 46: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:49:16.20 ID:peSmYiXI0
- 『えー続いての曲は、サザン・オールスターズ……』
('A`)「ちょっと待ってな、ブーン。今から俺が、このアナルみたいな顔をした生徒共に、
モノホンのロックってヤツを教えてやるぜ」
言うやいなや、席を立ち上がるドクオ。そしてブーンが止める間もなく、
彼は素早い動きで教室の外へと飛び出していった。
いや、そもそも止める気は寸分も無かったのだが。
目的意識に目覚めたドクオを止めることなど、誰にも出来やしない。
スピーカーからは、まだサザンの新曲が実に穏やかに流れている。
とりあえずブーンは食事を続ける。
从 ゚∀从「ぶ・う・ん」
無理矢理な猫なで声が背後から聞こえて、思わずブーンは身震いした。
不吉な予感しかしないままに振り返ると、そこに一人の女子生徒が立っている。
片眼が隠れるほどの長髪、均整の取れた身体バランス。セーラー服。
隣のクラスの女生徒、ハインである。ブーンが思いっきり嫌悪の溜息をついた。
( ´ω`)「なんか用かお」
从 ゚∀从「冷たいな、せっかくこうして恋人が会いに来たっていうのに」
胸を張るハイン。無闇に声がデカいため、周囲に恋人というワードが撒き散らされる。
殺意の視線を四方から浴びながら、ブーンはそのライトノベル的な人物を見遣った。
- 47: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:51:42.42 ID:peSmYiXI0
- ハインがブーンに近づいた理由は割と不純である。
すなわち彼女は、ブーンそのものに興味がああったわけではなく、
彼の持つ特殊夢遊病に興味を示したのである。
根っからの学者気質を自称するハインにとって、ブーン持つ病はあまりに魅力的だったようだ。
今だって、先程ブーンがまた消失したことをいち早く聞きつけてやって来たに違いない。
( ´ω`)「とりあえず、僕はハインみたいな恋人を持った覚えは無いお」
从 ゚∀从「なんだよ、言ってるじゃねえか。八百円でおっぱい揉ませてやるって」
( ´ω`)「なんで金とるんだお……」
さっさと逃げ出せばよかったなあ、などと後悔してももう遅い。
ここはさっさと夢の内容を話して帰ってもらうのが吉だ。
ブーンがそう観念した時、壁のスピーカーから悲鳴が聞こえてきた。
『えーでは続いての曲……あ、ちょっと、あなたなんなんですか!』
『静かにしな……あんまり騒いでると、亀頭を集中責めしちゃうぜ!?』
『ななななななな何いってるかわかんないんです!』
どうやら、ドクオのテロが始まったらしい。
なんだなんだ、と生徒の興味が一斉にスピーカーに向かう。
ハインもブーンから視線をはずす。この隙に、とばかりにブーンはこそこそとその場を抜け出した。
- 49: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:55:21.93 ID:peSmYiXI0
- 『おい、聞いてるか、この学校に通う憐れなクリトリススチューデントども』
『か、勝手にマイク使わないでくださウヒャハッ』
情けない悲鳴とともに放送部員の声が途切れる。
一体ドクオは彼に何をしたのだろう。想像したくもない。
『サザン……か。ああ、それもいいだろうぜ。この平和ぼけした日本じゃァ、な。
だがな、今、この瞬間にも戦争は起きている……そう、世界各地で、だ。
ラブアンドピースなんて、巫山戯たこと言ってる場合じゃねえんだぜ!』
( ´ω`)(なんかドクオ、主張が軍人みたいだお)
廊下を小走りで通過しながらブーンは思う。
周りの生徒は皆ポカンと口を開けて放送に聞き入っている。
『そして、そう。人は戦わなくちゃいけねえ。生きている限り、ずっとな。
お前ら、小戦争をしているか!? ディスプレイの向こう側に、白濁の砲弾を放っているか!?』
ここらへんでようやく、彼のいう戦争が性的な意味でしかないということを理解する。
『そんな気持ちを込めて、俺が送るナンバーだ……聴いてくれ。
曲名は、【聡子五十歳 糞まみれの恍惚FUCK】』
ドクオの声が止まる。続いて聞こえてきたのは、ノイズでしかない強烈な排泄音だった。
それに入り交じり、五十代熟女の茶色い嬌声も聞こえてくる。
ミチミチィ、ブリュリュリュゥ、グチャァ、ネチャァ、イヤァァァァハァンと地獄のごとき音楽がスピーカーから垂れ流され、
たちまちブーンの周囲は阿鼻叫喚の巷となる。
( ´ω`)(スカトロAVなんざ録音してんじゃねーお……)
- 52: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 22:58:07.54 ID:peSmYiXI0
- およそ一分ほど流されたスカトロ音楽は途中で強制終了させられた。
再びマイクのスイッチが入り、ドクオの必死な叫びと教師の怒号が聞こえてくる。
ドッタンバッタンと何かが破壊されたり投げ飛ばされたりするような音が耳を劈いた。
そして最後に、教師の内の一人による息の切れた言葉によって今日のお昼の放送は締めくくられた。
『ええ……聞き苦しい……点が、あったこと……を、お詫び……ブツッ』
一方でブーンは、ハインから逃げるその足で図書室に向かっていた。
今まで書いていなかったが、作中の季節は十一月、つまり秋の終盤戦である。
夏場はエアコンの冷気欲しさに詰めかける生徒連中もいなくなり、
この季節の昼休みの図書館は非常に閑散としていた。
ブーンが図書室に赴く理由は、自らの身体の問題をおいて他に無い。
何しろ、夢を見る度に異世界に放り出されて妙な体験をさせられるのだ。
全世界でなんの理由もなく発症しているこの病を、
医療関係の学者はこぞって解明しようとしているらしいが、目立った成果はあがっていない。
それはそうだろう、ブーンが脳波を検査された時だって、正常すぎるほど正常だったのだ。
それに、この病気は今のところ何の害も及ぼさないのだ。
所詮は夢の中の出来事であり、例えば夢の中で死んだとしても、
しっかり現実世界に戻ることができる。そしてまた眠れば、夢の世界に没入するのだ。
妙なトラウマを夢見て落ち込むことはたまにあるが、
それにしても普段夢で見るのと同じレベルだ。
ただ、ブーン個人としては発症後、夢の内容をより正確に覚えていられるようになった気がしている。
つまりは、それほど治療を急ぐ必要が無いのである。
- 55: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:01:06.07 ID:peSmYiXI0
- もっとも、医療業界以上にハッスルしたのはマスコミ連中だ。
この病が発生して以来、バラエティ番組への患者の出演たるや、怒濤の勢いだった。
まだ日本での患者が十人にも満たなかった頃の話である。
ブーンが発症したのはそうしたブームが下火になってきたころだったから、
あまりそういった大衆の獲物にされるというようなことはなかった。
まこと、世間とは飽きやすいものである。
などと書いている間にブーンは図書室の前へ辿り着いた。
中を見ても、思った通り閑古鳥が盛大に啼いている。
受付で図書委員らしい男子生徒が頬杖ついて欠伸しているぐらいだ。
図書室で、ブーンは夢だとか病気だとかの本を読みあさっていた。
フロイトやらユングなども読んではみたものの、
やたらややこしくて高校生の頭ではよく理解できない。
唯一覚えているのは、夢の中に出てくる銃は男性器の象徴であるということぐらいだ。
そして、こういった類の本は往々にして物理的に重たいので、借りないことにしている。
そもそも人気が無い本なので、他者に借りられる心配もあまりない。
ブーンはドアを押し開けて中に入る。
そして読書スペースの先の本棚に向かおうとしたところで、彼の歩行はストップした。
( ^ω^)「……」
読書スペースの椅子で一人の女生徒が本を読んでいる。
黒く長い髪、鋭い瞳は持っている本に視線を落としている。
言ってしまえば美人、黒いドレスではなく周囲に適合するセーラー服。
彼女に見覚えがある。
- 58: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:04:30.82 ID:peSmYiXI0
- ふと、彼女が首をもたげた。
川 ゚ -゚)「……む」
やはり、あの女だ。夢の中で魔法少女を自称した、彼女。
改めて視線をぶつけると、彼女は圧倒されそうなほどの眼光を携えている。
睨んでいるのでは無いと分かってはいるが、思わずブーンはたじろぐ。
しばらく沈黙した。彼女はブーンを見つめ続けている。やがて言った。
川 ゚ -゚)「ここに来ると思った」
(;^ω^)「え」
川 ゚ -゚)「この本」
閉じた本をブーンに向かって指し示す。よく見ればそれは、
ブーンが昨日途中まで読んでいた本だった。今日続きを読もうとしていたのである。
( ^ω^)「あの……えっと」
ここでどう訊くべきか、ブーンは迷った。
「あなたさっき僕の夢に出てきましたよね?」とは訊けない。キチガイと思われることうけあいだ。
しかし、ブーンの読んでいた本を手渡そうとする辺り、彼女にもブーンに心当たりがあるようなのだ。
( ^ω^)「あなた、は?」
そこで彼女は、予想通りと言うべきか、とてもシンプルな解答を返してきた。
川 ゚ -゚)「魔法少女」
- 59: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:06:50.66 ID:peSmYiXI0
- まずブーンが覚えたのは言いようのない恐怖感だった。
消失したことはともかく、夢の内容までもを彼女が知っているはずがない。
偶然だろうか。そんなはずがない。偶然で「魔法少女」などと口走る女性がいるとは考えたくない。
川 ゚ -゚)「まあ、そう驚くな。とりあえずここに座れ」
彼女は向かいの椅子を指差す。
逃げようか……ブーンは逡巡したが、知識欲がそれに勝った。
(;^ω^)「えっと……あなた、は……その」
川 ゚ -゚)「クーと呼んでくれ。どうも、それが一番都合が良いらしい」
他人事のような口調である。
( ^ω^)「クーさんは、その……魔法……少女、なんですかお?」
川 ゚ -゚)「そうだな」
( ^ω^)「そ、それは一体どういう……」
川 ゚ -゚)「どういう、と言われても困るのだが。私は私を魔法少女だと了解している。
それ以上、特別な何かが必要だろうか」
( ^ω^)「炎……とか、出せるのかお?」
川 ゚ -゚)「それは、まあ、出そうと思えば出せるだろうな」
あくまでも他人事のような口調である。まるで自分自身を理解していないようだ。
ただ、誰かから与えられた身分『魔法少女』だけを持ち合わせている、少女。
- 62: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:09:23.06 ID:peSmYiXI0
- 突然クーが立ち上がった。静かに歩いて窓辺に立つ。
ふとブーンは、どこぞの文学少女を思い出した。
川 ゚ -゚)「私が何者なのかについて、何故貴様がそれほど問うてくるのかが分からない。
私は貴様の、ソウゾウだぞ」
( ^ω^)「は?」
そうぞうという言葉をブーンは脳内で変換してみる。
創造……だと、それっぽいが文脈に合致しない。となれば、残る変換候補は、
( ^ω^)「想像……?」
川 ゚ -゚)「そうだ。妄想といっても過言ではあるまい。
貴様の心に内在するあらゆる欲望とコンプレックスの集合体」
まず、ブーンは思った。これは、予想以上の電波だぞ、と。
つまり彼女はブーンの妄想が具現化したものであるというのだ。
いやいや、そんな都合の良いことがあるわけがない。ラブコメじゃないんだから。
川 ゚ -゚)「……貴様、夢を見ただろう」
( ^ω^)「お……」
川 ゚ -゚)「その中に私が出てきたはずだ。その私が今こうして再び貴様の前にいる。
ただ、それだけのことだ」
( ^ω^)「だって、あれは夢だから……」
ブーンがそういうと、彼女は鼻で笑った。
- 64: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:12:31.21 ID:peSmYiXI0
- 川 ゚ -゚)「貴様の中ではすでに、夢と現実が曖昧になっているはずだ」
言われてブーンは気付く。
確かにそうだ。夢を見たブーンの身体は現実から消えて異世界に飛ぶ。
つまり、あの時クーの前に立っていた自分は紛れもなく、この身体そのものだったのだ。
( ^ω^)「でも、だからって夢の中の人がこうやって出てくるのは……
なんていうか、反則だと思うお」
川 ゚ -゚)「……ま、いい。どうせ説明しても貴様には分からないだろう」
なんでこんな言われかたをされねばならないんだろう。
ブーンは静かに憤りを感じていた。
大体、夢の登場人物と言うことはブーンが想像した、ということになるし、
実際彼女もそうだと言っている。
( ´ω`)(なんで自分の想像の産物に見下されてるんだお……)
川 ゚ -゚)「……さて、これからどうしたものか」
( ´ω`)「というか、なんでこの学校の制服着てるんだお?」
川 ゚ -゚)「私がこの世界に出現すると同時に世界が変容した、ということだな」
( ´ω`)「……」
ダメだ、ついていけない。とりあえず、なんかそういうすごい力がぶわーってなって、
そいでもってこの人があーでこーで、まあどうでもいいか。
- 65: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:14:57.09 ID:peSmYiXI0
- ( ´ω`)「……ま、とりあえず僕は教室に戻るお」
この手の人種には関わらないに限る。ある日ナイフでザックリと刺されてはかなわない。
川 ゚ -゚)「なんだ、せっかくお前の理想が目の前にあるのに。薄情な」
( ´ω`)「……」
否定は、しきれない。確かに黒髪ロングの可愛いより美人タイプな彼女はブーンの好みだ。
ただそれはあくまで見た目の話であり、正確の問題となるとまた別である。
ブーンとしてはもう少し優しい性格が望ましい。
川 ゚ -゚)「ま、お前の意識とは少し違ってるかも知れないが」
( ´ω`)「どういうことだお?」
川 ゚ -゚)「人間には意識と無意識があるだろう? お前が通常認識しているのが意識、
認識していないのが無意識だ。そして、無意識にも思考が存在する」
何を馬鹿な、と彼女を見るが。相変わらず彼女の双眸は鋭い眼光をたたえている。
川 ゚ -゚)「意識に欲望があれば無意識にも欲望がある。
お前の中にある二種類の欲望が合成して出来た想像物、それが私だ」
( ´ω`)「……」
さっぱりわからないが、まあこういうことだろう。
ブーンの無意識は、限りなくドMだと。
- 66: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:17:43.02 ID:peSmYiXI0
- 川 ゚ -゚)「それに、貴様が私から離れることは不可能だぞ。逆も然りだが。
私はあくまで、貴様の想像なのだからな」
今更ながら背後からの図書委員の視線が痛い。
「うわやべえwww電波が二人もいるwwwwプゲラッチョwwwwwww」とか思ってるに違いない。
( ´ω`)「……消えないのかお?」
川 ゚ -゚)「無理だな。貴様の記憶にあるうちは」
出来るだけ忘却の彼方へ追いやりたいが、
意識すればするほど彼女の存在が色濃く刻まれるだろう。記憶なんてそんなものだ。
( ´ω`)「……」
川 ゚ -゚)「……まあ、そうだな。一つ教えておく」
( ´ω`)「なんだお?」
川 ゚ -゚)「貴様は私のことを……ひいては無意識のことを甘く見ているかも知れない、だが」
クーが窓辺から歩み寄ってくる、そしてすれ違いざまに、小さく言った。
川 ゚ -゚)「無意識を舐めるな」
ギャグかよ、と思ったが口には出さない。
- 68: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:20:43.90 ID:peSmYiXI0
- ここで時間軸が吹っ飛び、放課後。
ブーンとドクオは並んで帰宅の途についていた。
('A`)「お、どうしたブーン。六十代のクリトリスみたいな顔しやがって」
( ^ω^)「それよりもドクオ、よく帰ってこれたお」
何しろ昼休みに校内全域にスカトロAVの音を響き渡らせたのだ。
悪くすれば停学程度の処置を受けるだろうとブーンは考えていたが、
五時間目が始まる頃にはもう、ドクオは教室に戻ってきていた。
ドクオはおもむろにピースマークをブーンに向け、言った。
('A`)「……二本だ」
( ^ω^)「はい?」
('A`)「奴ら教師どもを黙らせるには……人差し指と中指、それだけでいい。
それだけで……フィニッシュだ」
( ´ω`)「何をしたんだお……」
('A`)「駆けつけた教師が男ばっかりで助かったぜ。男は、男の快感ポイントを理解しているからな」
そういえばこいつ、この前「俺は童貞だが処女じゃない」とか言ってたなあなどと、
ブーンは余計なことを思い出した。
- 70: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:23:06.13 ID:peSmYiXI0
- ('A`)「で、どうしたんだよ。老いたクリトリス」
( ´ω`)「ん……まぁ、その」
クーのことについてドクオに話したって無駄だろう。
こいつのことだ、どうせ性的解釈しかするまい。
ブーンが「なんでもない」と首を振ろうとしたとき、その首が誰かの腕によって力強く固定された。
从 ゚∀从「ぶ・う・ん」
次いで、聴くに堪えない猫なで声。
ハインだな、と気付いた頃にはもう、ブーンの意識は断絶しかけていた。
( ゜ω゜)「くけ……きょっ」
必死に彼女の腕を叩いてギブアップを告げるブーンに、
ようやくハインはヘッドロックしていた腕をといた。
解放されたブーンは、これでもかとばかりに息を吸い込む。
从 ゚∀从「まったく、ちょっと目を離したらいなくなるんだから、困るぜ」
そういえば、昼休み彼女から逃げ出したのだった。
从 ゚∀从「ま、慰謝料はお前の夢の話ってことにしといてやるよ」
( ´ω`)「むしろこっちが慰謝料欲しい从 ゚∀从「なんだ?」なんでもないです」
- 72: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:25:29.36 ID:peSmYiXI0
- 覚悟を決めて話そうとしたとき、ブーンは名案を思いついた。
むしろ、彼女にクーのことを話してみてはどうだろう。
ブーンにもよくわからない現象であるから、彼女のほうが有用な答えを考えつくかも知れない。
( ^ω^)「えっと、ハイン。夢よりももっと面白い話があるお」
从 ゚∀从「……お、そりゃああれか。お前の力に関係する話か」
( ^ω^)「勿論だお」
从 ゚∀从「聞かせろっ」
ハインが隣に並んでぐいっと顔を近づけてくる。
筋肉質でもないのに力が強いライトノベル系キャラだから、当然顔も可愛い。
かくかくしかじか、とブーンは彼女に説明する。描写はしない。
从 ゚∀从「……ふうん、なるほどな」
ハインが神妙な顔つきで何度も頷き、携帯を取り出して何やら操作している。
どうやら、今ブーンから聞いた話をメモしているようだ。
それにしても、予想以上に簡単に信じたなあとブーンは思った。
学者気質ならば、もう少し疑うかもしれないと考えていたが。
从 ゚∀从「簡単に信じたな、とか思ってるだろ」
(;^ω^)「え、いや、そんなことは」
- 73: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:28:06.08 ID:peSmYiXI0
- 从 ゚∀从「これでも一応お前の彼女だぜ。そこそこのことは分かってるさ」
( ^ω^)「……」
从 ゚∀从「お前が俺に嘘をつくなんてことはしねえよ。
第一、そんな度胸がない」
(;^ω^)「……」
案外見透かされていたのだと知って、ブーンはちょっと凹んだ。同時に、少し嬉しくもある。
そもそも、彼女がブーンに接近した動機は確かに不純だが、
接近して以降はブーンもそれなりにいい思いをさせてもらっている。
話してみればそこそこ話が合うことも分かったし、何より可愛い。
殺意の視線に対しても優越感が持てる。
从 ゚∀从「よし……それじゃ、俺先に帰るわ。色々調べてみたいしな。
また明日な、ぶ・う・ん」
あとは、その猫なで声が逆効果だと分かってくれればいいのだが。
駆け去っていくハインを見送り、ブーンは溜息をつく。
('A`)「……ふむ」
今まで黙っていたドクオが呟いた。
('A`)「つまりお前は、そのことについて悩んでいるわけだな?」
- 74: ◆xh7i0CWaMo :2008/09/22(月) 23:30:17.76 ID:peSmYiXI0
- ( ^ω^)「まあ、そうだお」
('A`)「ふうん……でもまあ、確かに奇妙な話だわな。
俺も、特殊夢遊病でそんな症状が出るなんて聞いたことねえし、
第一出るんだったらもっと世間が大騒ぎしているはずだ」
( ^ω^)「うん……」
('A`)「そもそも何もないところから人間がポッと出ちゃいけねえよな。
それに、お前の意識だか無意識だかから出てくるのが、そいつ一人とは限らねえわけだし」
( ^ω^)「……」
('A`)「よし、俺も少し調べて……どうした?」
( ^ω^)「いや、なんというか、その。やるときはやってくれるんだなあ、とか」
('A`*)「当たり前じゃねえか……お前のためだぜ、ぶ・う・ん」
( ^ω^)「お前の猫なで声は猫じゃなくてゴキブリだからやめろお」
頼りになる人たちだ、とブーンはこっそり思う。
一方で何かが欠落してる二人ではある。そもそも完璧など存在しないだろう、厨二病的にも。
とりあえず自分でも調べられることは調べようとブーンは決意した。
何か、妙な不吉感を覚えて仕方がないのである。
というような、続きを示唆するありがちな記述をしたところで第一話が終了する。
第一話『限りなく想像に近い実在』終わり
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