( ^ω^)変わった人達のようです

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 19:53:03.65 ID:CcPdhQurO



 それは、傷付いた少女の傷を愛する男の話。

 それは、ひどく優しい男が愛する傷の話。

 それは、そんな男を愛してしまった少女の話。

 傷を嘗める舌先は、いったい何を求めているのでしょうか。



『ひとつのきずで。』



 始まりは一本の細い傷。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 19:56:06.03 ID:CcPdhQurO

 扉を開けると、そこには見知った友人の姿。
 昔からの友人である男と、その恋人である少女が居ました。

 二人はパイプベッドに向かい合って座っており、男の右手には、薄い刃のカッターナイフ。
 左手には、少女の右手。


 僕はそんな二人の姿に微笑んで、そっと声をかけました。


( ^ω^)「おっおっ、相変わらず仲良しさんだお」

( ・∀・)「あ、やあ内藤、どうしたんだい?」

(#゚;;-゚)「こんにちは、内藤さん」

( ^ω^)「こんにちはだお、ちょっと遊びに来たんだけど……お邪魔かお?」

( ・∀・)「ははっ、そんな事はないよ。ね、でぃ」

(#゚;;-゚)「はい」

( ^ω^)「なら良かったお、もしお邪魔なら言ってほしいお」

( ・∀・)「本当に邪魔ならもう追い出してるさ」

(;^ω^)「お……そ、そうだおね……」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 19:59:13.49 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「ねぇ、内藤」

( ^ω^)「お?」

( ・∀・)「君は僕が非人道的だと思うかい?」

( ^ω^)「……でぃちゃんの事、かお?」

( ・∀・)「ああ、そうだよ」

( ^ω^)「…………」

( ・∀・)「内藤?」

( ^ω^)「聞かせてもらえるかお? どうして、あんな事をしたのか」

( ・∀・)「どうして、こんな事をするのか?」

( ^ω^)「そうだお、良ければ、僕に聞かせてほしいお」

( ・∀・)「うん、うん、そうだね……うん、じゃあ、お話ししよう、かな」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:03:00.64 ID:CcPdhQurO

 カッターナイフを持ったまま、彼は身体の向きを変えてベッドに腰掛けました。
 僕はベッドの向かいにあるパイプ椅子に腰掛けて、両膝に肘を乗せて彼の言葉を待ちます。

 彼はカッターの刃を見たまま目をそらさず、ゆっくり、薄い唇を開きました。



  始まりは、一本の細い傷だった。



( ・∀・)「僕はある日、彼女の手首についた傷を見つけた」


 彼と彼女は、近所の知り合いと言う薄い薄い関係でした。
 たまに顔を合わせたら挨拶をして、たいして会話もせずに別れる。
 ただの、近所の人。


( ・∀・)「それは、夕方。彼女がね、泣いていたんだ、公園で」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:06:05.76 ID:CcPdhQurO

 大人しくて可愛らしい彼女はまだ子供と言える年齢で、彼は大人と言える歳。
 そんな二人には大した共通点も何も無い。

 けれど、彼はある春の夕方に、公園のブランコで泣く彼女を見つけました。


( ・∀・)「汚れたセーラー服はボロボロで、彼女は俯いて唇を噛み締めていた」


 彼がどうしたのかと彼女に近寄り、顔を覗き込むと、彼女は驚いた様に顔をあげて、慌てて涙をぬぐいます。
 その涙をぬぐった時、長袖のセーラー服の、袖口から覗く

 赤い、細い、傷跡。


( ・∀・)「僕はひどく驚いて、彼女の手首を掴んでしまった」


 未だ赤い体液がぽつりと垂れるその傷に気付いた彼は、細く折れそうな白い手首を掴んで、彼女を問いただしました。

 彼女はまた、泣きそうな顔で俯いてしまいます。
 聞いても何も言わず、手首を振りほどこうともせずに俯く彼女。

 困り果てた彼は、止血のために、と
 手首の傷に、己の唇を押し当てました。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:09:06.46 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「彼女はまた泣いてしまったけれど、彼女の血はね、とても、甘く感じたんだ」


 彼女の前に跪いて、傷に舌を這わせる彼。
 その姿に、彼女はひどく驚いて、何も言えなくなってしまいました。

 けれど

 傷を嘗められる彼女が感じた物は、言い様のない快感。
 傷を嘗める彼が感じた物は、言い様のない恍惚。


( ・∀・)「背筋がね、ぞわりとしたんだ。血の甘さと、彼女の表情に」


 背筋をぞわぞわのぼってゆく快感と恍惚、それは所謂悦楽に似た物。
 ただ体液を嘗めただけ、嘗められただけ。

 それなのに、ひどく「きもちいい」。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:12:18.90 ID:CcPdhQurO

( ・∀・)「ただ顔と名前を知っているだけの彼女を、僕は、……そう、そうだ、陳腐な言い方かも知れないけれど、……運命の相手だと、感じた」


 その「きもちよさ」は、お互いの中が、少しだけ「かわっている」から。
 僕には彼らがどうかわっているのか、よくは分かりません。
 けれど、おかしいのではなく、少しかわっている事は分かります。


( ・∀・)「その日はすぐに別れたんだ、下腹の辺りが熱くなるのを必死でおさえながら、別れた」


 彼はそれから毎日、夕方になると公園に彼女の姿を探しに行きました。
 けれど彼女の姿はどこにもなく、彼は肩を落として帰宅します。

 そんな日々が一月ほど続いたある日、彼は彼女を見つけました。


( ・∀・)「久々に会った彼女はひどく窶れていた、長い袖から覗く手には、手の甲には、傷があった」


 公園の、滑り台の裏側。
 そこで膝を抱えて蹲っていた彼女に歩み寄り、彼はそっと、手を伸ばしました。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:15:06.41 ID:CcPdhQurO

 顔を伏せる彼女の髪を優しく優しく撫でてやれば、彼女は驚いて顔を上げます。
 そして、驚いていたその表情は、すぐに泣きそうな顔に変化しました。


( ・∀・)「僕は驚いたよ、彼女が、本当に泣きそうな顔をするから。
      だから、僕はそっと彼女を抱き締めたんだ」


 覆い被さるようにして彼女を抱き締めた彼。
 その背中に腕を回してしゃくりあげる彼女。

 彼は彼女が泣き止むまで、何度も、何度も頭と背中を撫でていました。

 そして


( ・∀・)「僕は、彼女を連れて帰った」


 セーラー服の彼女を連れて帰った、独り暮しの彼。
 彼は彼女をベッドに座らせ、すぐに彼女の袖を捲りました。

 手首だけでなく、手の甲や腕にまで広がる細い傷。
 さかぶたも剥がれたような古い傷から、うっすらと脂肪の見える真新しい傷まで。


( ・∀・)「彼女の傷はみんな綺麗で、どうしようもないくらいに愛しくて、全ての傷に口付けて、舌を這わせた」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:18:19.90 ID:CcPdhQurO

 彼女は少し困った様な、それでもどこか幸せそうな顔で、左腕の傷を嘗める彼の髪を撫でます。

 二度目になる行為、舌が蠢く行為は、二人にとっての至福。


( ・∀・)「彼女は虐められていたらしくて、弱い自分を叱る為に自分を傷付けていたらしい。
      虐めて居た人達が憎いかと聞けば、憎いのは弱い自分だけだと答える。
      そんな彼女が、僕は、好きだった」


 彼女は彼の部屋から出る事は無くなりました。
 もちろん監禁されている訳ではなく、彼女が彼の部屋から出たくない、と言ったのです。

 彼はそれを大いに喜び、必要最低限の外出以外は、ずうっと彼女の側に寄り添うようになりました。


( ・∀・)「外に出たくない、ここに居たい。
      出会ったばかりと言える男の部屋で、彼女はそう言ったんだ。
      そこらに居る尻の軽い女とは違う、もっと、切実な彼女の気持ちは、胸が締め付けられるほどに愛しくて嬉しくて」


 そして彼は

 そっとそっと、彼女の手首に傷をつけました。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:21:15.34 ID:CcPdhQurO

 ( ・∀・)「僕がカッターの刃を彼女の手首に置いた時、彼女は驚かなかった。
      既に知っていた様な顔で、微笑んで、こう言ったんだ」


『私の傷と……私の事、好きになってくれて……ありがとう…………ござい、ます……』


( ・∀・)「僕は彼女を愛していた、もちろん彼女そのものも。
      そして、彼女の傷を」


 ゆっくりと描かれる赤い線、玉の様に膨らんで、ぷつりと流れる赤い体液。

 カッターを静かに置いた彼は、ゆるゆると、彼女の手首に舌を這わせて血と唾液を混ぜる様にねぶります。


( ・∀・)「ひどく神聖な儀式の様だった。彼女は幸せそうに僕を見ていて、僕も傷から彼女に視線を移して、笑った。
      幸せだった、どうしようもなく。
      だから僕はその日を境に、彼女の右手首に傷を増やしていった」


 彼は口の回りを赤く濡らして、初めて彼女の唇に、己の唇を押し当てました。
 ぬち、と唾液と血とが混ざった体液が音を立てて、二人の間で糸を引きました。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:24:06.58 ID:CcPdhQurO


『私は、あなたが……好きだから……
 嘗められるのが、好き、だから…………少し痛いけど、平気、なんです……』

 ささやく様な声が、甘くて細い声が、彼の脳髄にじわりと広がって、染み込んで。


「君が好きだよ、君の全てが好きだよ、君の傷が、好きだよ……だから、どうか、傷付ける事を許して欲しい」

 低いけれど優しくて、 懺悔を孕んだ彼の声は、彼女の傷から染み入る様に、血と共に全身を駆け巡る様に。


『ごめんなさい、弱くて……ごめんなさい、悪い子で……ごめんなさい、
 私は、傷つけられて嘗められるのが、好き……ごめんなさい、ごめんなさい……』

 懺悔。


「ごめんね、こんな事をして……ごめんね、傷付けて……ごめんね、僕のエゴで……ごめんね……
 ……僕は君が好きなんだ、君の傷が、何故だか何よりも好きなんだ……ごめんね、ごめんね……」

 懺悔。


 赦す人間は居やしないのに、二人は懺悔を繰り返す。

 そして、ひとつの結論へ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:27:02.83 ID:CcPdhQurO

 彼は彼女を抱き締めながら、そっとそっと、カッターを握って、振り上げて──────




( ・∀・)「僕の話は、これだけだよ」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( ・∀・)「僕は彼女を愛しすぎた、彼女は僕を愛しすぎた。
      いつかは引き裂かれるだろうと、分かっていたんだ。もちろん、いけない事だとも分かっていた」

( ^ω^)「だから……」

( ・∀・)「だから、終わらせた。あの場で終わらせるのが、幸せだと分かっていたから」

( ^ω^)「……」

( ・∀・)「非人道的だと笑ってよ、内藤。僕は今、でぃとこうしているのが、ただただ幸せなんだ」

( ^ω^)「笑わないお、罵りもしないお……幸せなのが、一番だお」

( ・∀・)「……ありがとう、内藤」

( ^ω^)「じゃあ、僕は失礼するお。お邪魔しましたお」

( ・∀・)「うん、またね─────」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 20:30:07.15 ID:CcPdhQurO

 僕は席を立ち、手を振ってから部屋を出て行きました。

 ぱたん、と扉を閉めて、ひっそり溜め息を吐きます。



僕は彼女の傷付いた笑顔が好きだった



 最後に耳に届いた、彼の言葉。

 傷、か。


 どうか、幸せに。




『ひとつのきずで。』
おしまい。



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