( ^ω^)変わった人達のようです

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:13:01.18 ID:CcPdhQurO



 それは、縛る事を喜ぶ彼の話。

 それは、縛られる事を喜ぶ彼の話。

 それは、二人が選んだ拘束の話。

 彼らは何を縛り、何に縛られ、その先の何を求めるのでしょうか。



『よっつのかせで。』



 始まりは、四つの言葉。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:16:01.64 ID:CcPdhQurO


 僕は袖で涙を拭い、ぐずりと鼻水をすすってから、ひとつ咳をしました。

 のろのろと立ち上がって、目元を擦りながら少しだけの移動。

 もう考える事を止めたくて、ぼんやりした頭をそのままに、4と書かれた扉を開けました。


がちゃん、ぱたん。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:19:07.94 ID:CcPdhQurO

 部屋の主はベッドの側面に立ち、ベッドに転がるその親友の髪を撫でていました。
 室内に足を踏み入れれば、こちらへ向く大きな目。

 無表情にこちらを見た彼は、少しだけ笑って、椅子を指しました。


( <●><●>)「お久しぶりです、内藤さん」

( ^ω^)「久しぶりだお、ワカッテマス」

( <●><●>)「どうぞ座って下さい、ビロードは寝ていますが」

( ^ω^)「いやいや、いきなり来て申し訳ないお。失礼しますお」

( <●><●>)「どうぞ、さて、何からお話ししましょうか」

(;^ω^)「お、お?」

( <●><●>)「話を聞きに来たんでしょう?」

(;^ω^)「そ、そうだけど……」

( <●><●>)「それくらいの事は分かってます」



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:22:19.98 ID:CcPdhQurO
( ^ω^)「流石はワカッテマスだお……、じゃあ、お話を聞かせてもらえるかお? 何故、あんな事をしたのか」

( <●><●>)「はい、何故こんな事をしているか、ですね」


 彼はベッドに浅く腰掛けて、横たわる親友の顔を眺めながら返事をします。
 それは昔から何ら変わらない事で、口と目が同じ物を追わないのは相変わらずでした。


( ^ω^)「聞かせて、もらえるかお?」

( <●><●>)「非人道的だと自分でも分かってます、だからどうぞ、遠慮なく言ってください」

( ^ω^)「そんな事、僕は思わないお」

( <●><●>)「……相変わらずですね」

( ^ω^)「そっちこそ」

( <●><●>)「では、ええと、何からお話ししましょうか」


 親友の髪を撫でる事を止めずに、彼は首を捻ります。
 そして、彼の横顔はゆっくりと口を開きました。



 始まりは、彼が発した四つの気持ちだった。



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:25:04.08 ID:CcPdhQurO

 二人の出会いは校舎裏。
 大した理由も無く虐められていた彼に声をかけた、転校生の、彼の親友となる彼。


『やめるんです! そんな事して何になるんですか!』


 歳よりも幼い顔をした、おとなしそうな彼が怒鳴った事により、男子達は驚き、悪態をついて立ち去って行きました。
 頬に擦り傷を作って座り込んでいた彼は、幼い顔をした彼を見上げて首を傾げます。


( <●><●>)「最初、驚きました。どうして彼が僕を助けたのか分からなくて……でも、彼に悪意等が無い事は、分かっていました」


 幼い顔をした彼は、彼の頬の傷を少し撫でてから、手を引いて立ち上がらせました。
 けれど彼の方が背が高く、幼い顔をした彼は立ち上がらせた事でバランスを崩して転んでしまいます。

 制服の襟元を直して、彼は少し笑って、幼い顔をした彼を立ち上がらせました。


『えへへ……』


 照れ臭そうに笑う幼い顔をした彼。

 その日から、彼と、その幼い顔をした彼は、何故か一緒に行動する事が多くなりました。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:28:12.72 ID:CcPdhQurO

 最初こそ、わけも無く虐められていた彼は幼い顔をした彼を信じずに突き放していました。

 けれど幼い顔をした彼は、何度突き放されても彼の後ろをついて歩いて諦めずに話しかけ続けるのです。

 ついに根負けした彼は、幼い顔をした彼を少しずつ構う様になります。
 そこから二人の仲が良くなり、友人となるのに、時間は掛かりませんでした。


( <●><●>)「よく分かりませんが、僕とビロードは波長が合ったのでしょうか。最初は鬱陶しいだけでした、ただ気まぐれで助けたのだろうと思っていました。
       けど、彼はずっと、僕に話しかけてきて……返事をしなければ、いけないような気がして」


 幼い顔をした彼は、あっという間に彼の親友へと。


『ワカッテマス君、今日は怪我はないんですか?』

「そう毎日はしませんよ」

『なら良かったんです!』

「……ビロード」

『はい?』

「どうして、僕に話しかけてくれたんですか?」



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:31:35.27 ID:CcPdhQurO

 二人で昼食を摂りながら、彼は親友に問いました。
 ひどく真面目な顔をした彼に、親友は首を傾げて、俯いて、持ち上げていた箸を下ろしてしまいます。


『僕が転校生なのは、覚えてますか?』

「分かってます、半年前に転校してきました」

『僕は、前の学校と、小学生の頃に……虐められてたんです』

「…………ビロード……」

『でも、僕はお父さんの都合でここに越してきたんです、僕が虐められてた事を知る人は居なくなりました……僕を虐める人も、ここには居ません』

「……はい」

『だから、凄く楽しくて、嬉しくて……でも、また何かあるんじゃないかって、少し怖くて』

「……」

『そんな時に、ワカッテマス君が虐められてるのを見付けたんです』

「はい……」

『……前の自分と、だぶって見えたんです…………もう、虐めとか、嫌で……』



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:34:04.83 ID:CcPdhQurO

「それで、僕を?」

『はい、昔の自分みたいに虐められてる人を放ってなんかおけなかったんです。
 虐められるのは苦しいって僕は知ってるのに、放っておくなんて出来なかったんです』

「…………」

『……ごめんなさいなんです、こんな、理由で……』

「いえ……有り難う、ビロード」

『……そん、な、』

「中学で、初めての友達です、ビロードは……嬉しいんです、僕は」

『ぁ……僕も、初めての友達なんです……有り難うなんです、ワカッテマス君!』

「…………弁当、食べなさい」

『あ、ワカッテマス君照れてるんです! そっぽ向くのやめるんで あでっ』

「…………」

『……お箸でデコを刺さないで下さいなんです……』



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:37:08.21 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「ビロードと過ごす時間は、どうしようもなく楽しかった……どうやらビロードも楽しんでくれているみたいで、とても嬉しかったのを覚えています」


 彼と親友はいつも一緒に行動していました。
 二人が一緒に居れば彼が虐められる事も減り、彼らの色の少なかった生活はひどく色付きました。

 けれど、彼が抱く、妙な違和感。


「あ、ビロード……」

『うん、うん、そうなんです! ワカッテマス君は……あ、ワカッテマス君! どうしたんです?』

「……いえ、何でも」

『? ワカッテマス君?』

「何でもありません、大丈夫ですよビロード」

『あ、ぅ?』


 親友が他の誰かと話していると感じる、胸の違和感。
 同年代の誰かと楽しげに話す親友の姿は、何故か、見ていると苦しくなるのです。



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:40:03.87 ID:CcPdhQurO

 その妙な違和感は、嫉妬や、不安。


( <●><●>)「ビロードが僕の側から居なくなるんじゃないか、そう考えると沸き上がる胸の違和感に、僕は苦しみました。
       けれどこんな事をビロードに言えるわけも無くて、僕が脆弱な神経をしているだけだと、分かっていました」


 それでもぐるぐる渦巻き沸騰する様な不安や嫉妬は彼を侵し、何時でも胃を痛めている様な状態にまで。

 その頃には、彼は何と無く気付いていました。

 彼の視線が追う物に。


( <●><●>)「自覚した事はありませんでした、ただ髪や首筋が綺麗だと思うだけで。
       自覚は、していませんでした、男の彼が好きだなんて」


 同性愛なんて非生産的で不毛な物。
 気色の良い物では無い、自分には関係無い。下らない。


( <●><●>)「そう、思っていたのに」



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:43:16.95 ID:CcPdhQurO

 奇妙な背徳感、後ろめたさ、罪悪感、自己嫌悪、不安。

 良くない物がぐるぐるとする中、彼は自分が親友に依存しすぎていると気付きます。
 それは彼にとって、愕然とする事。


( <●><●>)「一人でも大丈夫だと思っていました、平気なんだと、誰かに依存する事なんてないと思っていました。
       なのに、僕はビロード無しでは息も出来ない様なくらいに、依存していたんです」


 追加される苛立ちに、彼は親友に冷たく当たる様になります。
 それにより覆い被さる罪悪感、罪悪感を消したくて、余計に冷たく当たる。
 どうしようもない、悪循環。


『あ、の……ワカッテマス、君』

「何ですか」

『僕は、悪い事を……その、しました、か?』



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:46:17.59 ID:CcPdhQurO

「さあ、」

『わっ、分かんないんです! 僕は頭が良くないから分かんないんです!
 あれをするなとか、これを見るなとか、言うなとか! 言って下さいなんです!
 悪いとこはちゃんとなおすんです、なおる様に気を付けるんです…………だから……だか、ら……』

「……ビロード、」

『だから…………一人に、しないで下さい、なんです……』

「…………ぁ……」


 涙を堪えるように、俯いて言う親友の言葉は震えていました。


( <●><●>)「頭が悪いのは、僕の方でした。
       一人になるのが嫌だと思うのは僕だけだと思って、ビロードの事を考えなくて。
       ……でも、」


 ついにぼろぼろと涙を溢す親友に抱く、溢れんばかりの罪悪感。


 そして、ひずんだ愛情。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:49:15.46 ID:CcPdhQurO

( <●><●>)「もう、道徳とか、非生産的だとか、どうでも良くなりました。
       何もかも、下らないと思えました」


 彼は親友の頭を撫でて、勢い良くあげられた顔を見て、頬に流れる涙を拭って。

 唇を、奪って。



『……ぇ、』

「ビロードは何も悪くありません、悪いのは僕です」

『ワカッテマス……君?』

「……今日、帰りに、僕の家に来て下さい」


 そう告げて、彼は学校を早退し、呆然とする彼を放置して帰宅しました。

 帰宅途中に、犬の首輪と、鎖を買って。



ぴん、ぽん。
がちゃり。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:52:13.59 ID:CcPdhQurO

「ああビロード、上がってください……誰も居ませんが」

『は、い……なんです』

「そこに座っていて下さい、飲み物でも持ってきます」

『い、いいんですっ……それより、あの、その……聞かせて、ほしいんです……』

「何をですか? 僕が冷たく当たった理由をですか?」

『それも、だけど……その…………』

「じゃあ、ビロード……ここに居てくれませんか?」

『? 良いですよ?』

「ずっと、居てくれませんか?」

『……ぇ、?』

「ここに、ずっと、ずっと、」

『ワカッテマス……君?』

「僕の、側、に」

『ぁ…………あは、分かり、ました……側に、居ます』



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:55:12.20 ID:CcPdhQurO

「良いんですか?」

『はい、なんです……それが、ワカッテマス君の……返事、なら……』


 かちゃり、はめられた首輪から、ベッドに繋がる長い鎖。


「僕以外、何も見ないで下さい」

『はいなんです』


 数日が経った、彼らは何故か幸せそうだった。


「何も、考えないで下さい」

『はいなんです』


 数週間が経った、彼らは変わらず幸せそうだった。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:58:04.60 ID:CcPdhQurO

「何も、言わないで下さい」

 こくり。


 数ヵ月が経った、親友の食欲が急激に減った。


「僕は、君が好きです」

 こくり。


 半年が経った、親友はいつの間にか彼を想うようになっていた。


「君は、僕が嫌いですか?」
 ふるふる。


 更に数ヵ月が経った、親友は痩せ細り、歩くこともままならなくなった。



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 22:58:55.93 ID:CcPdhQurO

「ビロード、僕を愛してくれますか?」

 こく、り。


 一年が過ぎた、彼らは盲目的な愛を覚えた。


「ビロード、僕は君を愛しています」




 更に数ヵ月が経った、親友は動かなくなった。

 更に数ヵ月が経った、彼はいつまでも親友に寄り添って眠っていた。

 更に数ヵ月が経った、生きているのか死んでいるのかも分からなくなった。

 更に数ヵ月が経った、それでも彼は幸せだった。

 更に数ヵ月が経った、外が騒がしくなった、それでも彼は親友に寄り添って眠った。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 23:02:02.01 ID:CcPdhQurO



( <●><●>)「これで、話は終わりなんです」

( ^ω^)「どうして、そんな、」

( <●><●>)「お互いに初めての友達でした、友達と言う区切りが何処までなのか、僕には分かりませんでした。
       どれだけの事を友達に求めて良いのか、分かりませんでした……それは、お互いが、でした」

( ^ω^)「だから……」

( <●><●>)「だから、彼を縛りました、僕だけの友達であってほしくて。
       お互いに傷があって、お互いが初めてで、何も分からなくて……友情も愛情も、分からなくなったんです。
       もう、お互いがお互いを盲目的に愛するようになって、それでも、……」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「良い事だとは思いませんでした……寧ろ、悪い事だと思いました。
       それでも……僕は、ビロードを愛してしまったんです……何度も、何度も……ビロードは、僕に縛られる事が、好きだって……」

( ^ω^)「ワカッテマス……」

( <●><●>)「……すみません、こんな話を長々と」

( ^ω^)「ううん、有り難うだお……話を聞かせてくれて……それじゃあ、失礼するお」

( <●><●>)「はい、内藤さん…………僕らは─────」



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/24(水) 23:06:08.86 ID:CcPdhQurO



無知だったんですね。



 ぱたん、と扉を閉めた僕は、ドアにもたれ掛かって天井を仰ぎました。


 無知の愛とは、こんなにも恐ろしくて、まっすぐで、それは恋ではないと言うのに。

 それでも、幸せそうで。


 良く分からない、羨ましいような、恐ろしい様な感情を仕舞い込むように、僕は瞼を閉ざしました。




『よっつのかせで。』
おしまい。



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