( ^ω^)変わった人達のようです
- 213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:11:38.66 ID:vLZM/8dRO
それは、獣が愛した彼女の話。
それは、獣を愛した彼女の話。
それは、金の目を持つ獣の話。
その獣を抱く不思議な彼女は、いったい何を求めるのでしょうか。
『むっつのめだま。』
始まりは、六つの頃に。
- 222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:13:34.23 ID:vLZM/8dRO
僕はそっと顔を上げて扉から離れ、幼い彼女を思い浮かべました。
ふう、と小さなため息をひっそり。
かちゃ、ぱたん。
少しの移動、6と書かれたドアを開けて、僕は室内へするりと入り込みました。
- 224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:15:18.53 ID:vLZM/8dRO
部屋に入り、その部屋の主人を探してきょろきょろした僕の目に入ったのは、地べたに足を投げ出して座る少女でした。
猫らしき大きなぬいぐるみを抱き締める少女は、ちらりと僕を見て、
lw´‐ _‐ノv「ね……ぇ」
( ^ω^)「お? 何だお、シューちゃん?」
lw´‐ _‐ノv「ぁ…………あ、……あーもろーにさーた……わてぃそーろか、がーたなー……」
( ^ω^)「お、?」
口許をぬいぐるみの頭で隠したまま、少女は僕を見ながら言葉にすらなっていない歌を歌い始めました。
平仮名の繋がり、よく分からないその歌は細かく上下し、細く高い声音に合わせて震える様に、僕の脳髄へと入り込むみたいに。
lw´‐ _‐ノv「あーもりーいあー……わかーてぃーそろーかー…………がーたーなー……」
( ^ω^)「シュー、ちゃ……」
lw´‐ _‐ノv「あー……たなあてぃーそろー、こーわもーろにーさーた……うぇーえーん」
lw´‐ _‐ノv「えーてぃせーあけーてぃせー……あけーてぃせーあこわーも……ろーにさーたうぉーわーも…………」
lw´‐ _‐ノv「れーてぃせーあ…………こーわーもれーてぃーせ……あーけてぃーせあーかあー……」
- 226: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:18:02.16 ID:vLZM/8dRO
( ^ω^)「シュー……ちゃん、」
lw´‐ _‐ノv「……ようこそ、ブーン」
( ^ω^)「お邪魔、しますお……」
lw´‐ _‐ノv「あい、」
彼女は地べたに座ったまま椅子を指差して、僕に座る様に促しました。
かたん、と椅子に座った僕は彼女を見下ろして目を細めます。
茶と黄を混ぜた様な色のぬいぐるみは継ぎ接ぎで、大きな縫い跡が幾つもあります。
目らしい金色のボタンは左側がこぼれ落ちて糸にぶら下がり、右手がほつれてぶら下がっているぬいぐるみのあちらこちらにボタンが縫い付けられています。
愛らしいとは決して言えない、大きな口のぬいぐるみ。
それをいとおしそうに抱く彼女は、僕をちらりと見上げました。
lw´‐ _‐ノv「ご用、は?」
- 228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:20:30.18 ID:vLZM/8dRO
( ^ω^)「お……お話を聞かせて貰いたくて来たんだお」
僕の従妹であり友人である少女は、ぎちりとぬいぐるみを強く抱き締めて俯き、右目をぬいぐるみの影から覗かせて、頷きました。
( ^ω^)「何で、あんな事をしたのか」
lw´‐ _‐ノv「どうして……こんな事、するのか」
( ^ω^)「聞かせて、貰えるかお?」
lw´‐ _‐ノv「……うん、良いよ……」
( ^ω^)「有り難うだお、シューちゃん」
lw´‐ _‐ノv「悪い子だって、思われても、しょうがない」
( ^ω^)「思わないお、そんな事」
lw´‐ _‐ノv「……ふ、うふ、ふふ……そぉ、……そぉなの…………」
始まりは、彼がやって来た六つの時。
- 231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:22:21.10 ID:vLZM/8dRO
彼女は昔から少し変わっていて、動物と少し意思の疎通が出来る事がありました。
何を思っているのか、何をしたいのか、何を言いたいのか。
それらが少しだけ分かる、子供特有の第六感に似たものを持っていた彼女。
それでも何を考えているのか、全てが分かる訳ではありません。
会話が出来る訳でも無いので、ちゃんとした意思の疎通が出来ませんでした。
ただ、何を食べたいか、何が嫌か、何を伝えたいか。
それらが少しだけ分かる、それだけ。
けれどある日、父親が彼女の元に一匹の猫を連れて帰ってみせれば、彼女はある事でひどく驚きました。
lw´‐ _‐ノv「あの子は……賢くって、他の猫や犬よりも賢くって、私の言う事も……ちゃんと理解した……」
茶色の様な黄色の様な、光の加減で金色にも見える変わった毛色の猫。
両目を上下から挟む様に、縦の黒いラインが入った猫。
緑がかった金色の目を爛々とさせて、その猫は彼女の膝に乗りました。
- 233: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:24:10.65 ID:vLZM/8dRO
『おい、娘』
「……ぇ」
『ほう、我輩の言う事が分かるか、妙な人間め』
「あなた、が……みょう」
『失敬な小娘である……まあ良い、今日から貴様が我輩の主人と言う事なのだな』
「う、ん」
『ふん、精々我輩の主人として恥じん様に振る舞う事だ』
子猫と言うほど小さくは無かった猫は、彼女と初めて会話が出来た猫でした。
今まで猫の言葉が分かると言うほどでも無かった彼女は、目を真ん丸にしてその金の猫を見つめます。
尻尾でぱたん、と彼女の膝を叩いた猫は複雑そうな顔で、再び彼女に話しかけました。
- 235: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:26:45.35 ID:vLZM/8dRO
『おい、小娘』
「シュー……」
『……シュー、我輩の名前を決めんか』
「お名、前……」
『……』
「ロマネスク、」
『ほう、悪くは無い』
「杉浦、ロマネスク」
『その杉浦はどこから来た……』
どこか呆れた顔の猫は、にゃあんと鳴いて彼女の頬を嘗めました。
lw´‐ _‐ノv「ロマは……自分が、他の猫より賢いの……気付いて、なかった……。
金色で、きらきらで、柔らかくて、暖かい……私はロマ以外の猫と、お話しできなかったけど…………ロマとだけは、何でか、お話しできた……」
- 237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:28:19.65 ID:vLZM/8dRO
外交的とは言えない性格の彼女に友達は少なく、たまに来る従兄と遊ぶ程度。
そんな彼女の元にやって来た、彼女と話せる猫。
彼女はいつでも側に居てくれる猫が大好きになり、猫もまた、少し変わった主人をいつの間にか好きになっていました。
「ロマ……」
『何だ、シュー』
「お腹……ふかふかぁ」
『止めんか! 撫でん、こら、あ、うぉわわわ』
「……うふふ」
『この、小、娘め……!』
最初こそツンツンしていた猫は少しずつ、自分をよく構う彼女に警戒心を解く様になり、いつの間にやら腹を向けて眠るようにまでなりました。
その白く柔らかい腹部をふさふさと撫でる彼女は、以前に比べれば数段明るくなりました。
猫が彼女の側に寄り添う様になってから、あっという間に時は流れて行きます。
- 238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:31:14.25 ID:vLZM/8dRO
- お気に入りのクッションの上で丸くなる猫。
その背中を撫でて頬擦りをする彼女。
尻尾を彼女の手首に巻き付けて喉を鳴らす猫を抱き上げ。
ちょん、と口付け。
『何をするのだ、貴様は』
「……可愛い、ロマ」
『……』
「照れ屋さん……ふふっ」
『このバカ娘めが』
「それでも、嫌がらない……」
『うっさい』
「ロマ、可愛いロマ」
『何だ……』
「……うふふ、ふふ」
『変な主人を持った物である……』
- 240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:33:11.75 ID:vLZM/8dRO
彼女は彼女と同じくらいの大きさをした、猫によく似たぬいぐるみを母に作って貰い、よく猫とぬいぐるみを一緒に抱き締めて眠っていました。
猫は一緒に眠る事を嫌がりましたが、何度も彼女が寝ている猫をベッドに引きずり込んでいれば、渋々一緒に眠る様になりました。
一人と一匹は、まるで人間同士の様に仲良し。
lw´‐ _‐ノv「言葉はきついのに、優しくて……寝る時も、ご飯の時も、お風呂の時も、遊ぶ時も……ずうっと……一緒」
けれど猫がやって来て数年が経ったある夏の日
猫が居なくなりました。
彼女は猫が好きな玩具を揺らしたり鳴らしたりしながら、ゴミ箱の中やベッドの下、本棚の上、物置の中、家中を探し回りました。
今まで黙って居なくなる様な事はありませんでした、なのに突然居なくなって、少女は混乱して涙声で猫の名前をを呼びながら家の中を走り回ります。
「ロマぁっ、ロマぁああっ! どこ……っ、ロマぁっ!!」
熱帯夜、彼女は家を飛び出して泣き叫ぶ様に猫を呼び、町の至るところを探しました。
それでも見つからない猫に、ワンピースを翻して走り、猫を呼び続ける彼女。
そして見るに見かねた父親に連れて帰られた彼女は、翌日、ある事件を知ります。
ここ数日、何匹もの猫が惨殺されている事を。
- 244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:35:27.23 ID:vLZM/8dRO
地元のニュースでそれを知った彼女は、背負いかけていたランドセルを投げ捨てて、靴も履かずに外へと。
毎日、毎日、昼夜問わず一日中、暑い中を走り続けて、猫を叫び続けて。
喉がかれても、裸足の爪先から血が出ても、彼女は猫を探す事を止めませんでした。
けれどそんな日々が一週間以上過ぎたある日、空き地の片隅に落ちていたビニール袋。
何となくそれを蹴飛ばした彼女が目にした物は、猫の、顔。
lw´‐ _‐ノv「ロマは……小さい袋に詰め込まれて……苦しそうにしてて…………だから、出してあげた、の」
ぶわり、溢れる腐敗臭。
そっと袋から猫を地面に出してやり、震える両手で抱き上げると
ぼとり。
ぐずぐずの猫の右前足が、千切れて落ちました。
- 248: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:37:53.00 ID:vLZM/8dRO
金色だった目はひどくくすみ、左目は潰れ、ウジがぼたりと。
何とか残っていた右目は、必死で彼女を見ようとする様に原型を保っています。
彼女はわいたウジをぷちりぷちりと潰して、みんな綺麗に居なくなった頃、ぐちゃりとした猫を抱いて帰宅しました。
lw´‐ _‐ノv「お家には誰も居なかったから……ロマを綺麗にして、新しい袋に入れて……リボンをつけて、大事に……大事に…………」
やっと猫を見つけた彼女は、複雑な気持ちでした。
猫は戻ってきた、なのに、目が、足が、声が、無い。
lw´‐ _‐ノv「ロマが居ない……居なくなった……? ううん、居る……でも足りない、ロマが欠落した…………。
そうだ、ロマを探そう……ロマと同じ…………金色の、猫……」
鞄にビニールの袋を忍ばせて町を歩く彼女が目で追う物は、猫に似た毛色の猫。
あの日以来喋らなくなってしまった猫。
きっと欠落したから喋らない。
ならば欠落した部分に合う物を探して、渡そう。
そうすれば、猫はきっと喋ってくれる。
また、呆れたみたいに、笑って。
- 249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:40:07.16 ID:vLZM/8dRO
似た毛色、似た目の色、似た声音の猫を見つければ、彼女は巧みに呼び寄せます。
そして少し気を許したその瞬間、声も上げられない位に強く、首を絞めました。
抵抗する猫の爪で手や頬が傷だらけになっても気にする事は無く、彼女はぷちりと片目を潰したその死骸を部屋へと持ち帰りました。
腐敗の進んだ猫の死骸と新しい猫の死骸、針と糸で繋ぎ合わせて、袋へと。
それでも、猫は喋らない。
lw´‐ _‐ノv「まだ足りない…………だから、ロマを探したよ……ロマを思い出させる猫を…………探して……持ってかえって、ロマにあげた……」
猫の首を絞めていると、時々人に見つかりかけました。
それでも何とか猫を持って帰る彼女の手は目も当てられない程にずたぼろで。
足りない前足と、足りない目玉。
新しい死骸は前足が一本しか無く、目も片方が潰れています。
両方あっては邪魔になる、足りないのは右足と左目。
- 251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:42:08.71 ID:vLZM/8dRO
『シュー』
「ロ、マ……?」
『何だ、シュー』
「ぁ、あ……ロマ……っ」
『泣くな、泣くなよシュー』
「ロマ……ロマ、私の、ロマ……」
『シュー、』
「ロマと、お話……嬉しい、な……」
『……シュー』
「ロマ、……ロマぁ…………」
猫はもう、喋らないのに。
- 254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:44:15.84 ID:vLZM/8dRO
くちゃくちゃに繋ぎ合わされた猫に話し掛ける彼女は、ほんのりとだけ笑って、猫に口付けます。
濁って落ち窪んだ猫の右目はもうどろどろで、それでも、何かを訴える様に、彼女を見つめています。
我輩はもう死んでるんだよ、シュー
伝えたいのに伝えられない猫の言葉に気付く事は無く、気付きたく無くて。
彼女はただ幸せそうに、継ぎ接ぎの猫を抱き締めました。
- 256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:46:18.92 ID:vLZM/8dRO
lw´‐ _‐ノv「おし、まい……」
( ^ω^)「どうして、そんな、」
lw´‐ _‐ノv「それを……あなたが、聞く、の?」
( ^ω^)「ぇ、あ、」
lw´‐ _‐ノv「…………ロマは、私を、愛してくれた……私も、ロマを愛してた…………それ、だけ」
( ^ω^)「だから……」
lw´‐ _‐ノv「……だから、猫の身体を集めたの…………ロマが欠落してるのは、嫌だった、から……。
悪い子、でしょ…………ねぇ、悪い、人」
( ^ω^)「お……」
lw´‐ _‐ノv「…………」
彼女は虚ろな目で僕を見上げながら立ち上がり、ぬいぐるみに回していた腕を、するりと下げて。
- 258: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:48:41.07 ID:vLZM/8dRO
「あーもろーにさーた、わてぃそーろか、がーたなー」
彼女が一歩、こちらへ。
「あーもりーいあー、わかーてぃーそろーかー、がーたーなー」
じとりとした眼差しで。
「あーたなあてぃーそろー、こーわもーろにーさーたうぇーえーん」
僕を、見上げて。
「えーてぃせーあけーてぃせー、あけーてぃせーあこわーも、ろーにさーたうぉーわーも」
ぬいぐるみで口許を隠しながら。
「れーてぃせーあ、こーわーもれーてぃーせ、あーけてぃーせあーかあー……ねぇ─────」
入ってきた時よりもしっかりとした声音で歌う彼女が、六つの金色のボタンが縫い付けられた大きなぬいぐるみ
その腹部につけられたジッパーを、下ろして。
どちゃり。
「ぁ……あああああっ! ああああああああっ!!」
- 260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 00:50:49.99 ID:vLZM/8dRO
こちらに向かって歩いてきていた彼女から離れたくて、何かを見たくなくて。
僕は椅子から立ち上がり、慌てて部屋から飛び出して行きました。
最後にぽつりとだけ聞こえた彼女の囁きが、僕の耳にこびりついて、離れない。
力一杯に閉めたドアにすがる様に崩れ落ちて、嗚咽を堪える事も出来ずに、泣いて。
一人は嫌だったのに
ああ、あああああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
僕は譫言の様に呟いて、泣き続けました。
君の猫を殺したのは僕なんだ。
『むっつのめだま。』
おしまい。
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