( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:49:21.26 ID:w/5/OdH20

<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ>

目に悪そうなほどの白い部屋。
ベッドが一つあり、そこに男が眠っている。

彼の体からは、様々なチューブやコードが延びていた。
口には呼吸器が付いていて、彼が危険な状況であることが一目で解る。

ベッドの横には豪華なソファーが一つ。
そこに座る男は無言で、眠る男を見続けている。

表情には期待や不安などが浮かんでいた。
彼の顔を一滴の汗が流れ、床に落ちて小さくはじける。

すると、一つの変化が見られた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:50:19.48 ID:w/5/OdH20

「……ん」

寝ている男の表情が歪み、声が漏れる。
座っていた男は驚いて立ち上がると、寝ている男の顔をのぞき込む。

( ^ω^)「……お」

今度ははっきりと声を出し、起きあがる。
男は自分の状況がまるで解っていないようで、戸惑っていた。

( <●><●>)「あなたが戸惑うのはわかっています」

男はくりくりとした大きな目で、起きた男に言う。

( ^ω^)「こ……こ…は、な」

起きたばかりでうまく声が出せないようで、しどろもどろになっている。
それでも男は何が聞かれたのかを理解し、白衣を揺らしながら口を開く。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:52:21.71 ID:w/5/OdH20
( <●><●>)「ここは、ちょっとした病院です。あなたは、長い間眠っていました」

男が聞き取りやすいようにと思ってか、区切りながら喋る。
そしてまた、同じようにゆっくりと話す。

( <●><●>)「もうお気づきかもしれませんが、あなたの四肢は、あなたのモノではありません」

目の大きな男は、それを言うと俯く。
それを訊いた男は、自分の手を何度も見る。
指の長さも、手のひらの大きさも、よく見ると肌の色も違う。

( ^ω^)「ぼく、は、だ、れ」

ねちゃ、と音を出しながら男は訪ねる。

( <●><●>)「記憶が無くなっていましたか……」

白衣の男はそう言って部屋を後にし、
手にいくつかの資料を持って再び部屋に入ってくる。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:53:37.73 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「まずはこれを、喉が渇いたでしょう」

白衣の男はペットボトルの飲料水を渡す。
こくりと頷き、口の渇きを無くすように水を流し込む。

( <●><●>)「あなたの名前は、内藤ホライゾン。ブーンと呼ばれていました。
       ちなみに私の名前はワカッテマスといいます」

ワカッテマスは微笑みながら名前を教える。
するとブーンも口の両端を少し上げ、微笑む。

( <●><●>)「あなたはツンという女性を知っていますか?」

ブーンは少し悩んだ後、首を横に振った。
そのような人は知りません、と。

( <●><●>)「あなたを助けようと頑張っていたのは、ツンさんなのです。彼女は――――」

ワカッテマスはそこで口を噤む。
そして優しく言う。

「忘れていることを無理に言っても仕方がありませんね」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:28:16.02 ID:w/5/OdH20

ブーンも今の状況がよく理解できていなかったため、
ツンという女性が誰なのか気にならなかった。

( <●><●>)「さて、少しずつあなたについて、
       お話ししていかなければなりませんね」

ワカッテマスはブーンに今までのことを説明する。
しかし、起きたばかりのブーンの頭は何も理解できないようで、
また今度改めて話すと言うことになった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:55:34.17 ID:w/5/OdH20

それからまた月日が流れる。
ブーンは最初、立つこともままならなかった。
しかし、時間はゆっくりと空白だった期間を埋めていき、
今ではしっかりと歩くことが出来る。

( ^ω^)「おっおっお」

少し形の違う両足。
手と同じように、やはり色もどこか違うように見える。

それでもブーンは気にしなかった。
記憶は相変わらず戻っていないが、きっと昔もこうしていたのだろうと。

ブーンが白い部屋の中で跳び回っていると、扉が開く。

( <●><●>)「調子は悪くないようですね」

ワカッテマスが大きな目でブーンを見て、笑う。

( ^ω^)「はいですお。ドクター」

ブーンは動くのを止めて答える。
そして、一つの質問をする。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:57:15.25 ID:w/5/OdH20

( ^ω^)「僕は、誰なんですお?」

ブーンの質問にワカッテマスは額の皮を縮め、皺を寄せる。

( <●><●>)「あなたは内藤ホライゾンです」

ブーンはそれを肯定して、また喋る。
どこか悲しげな表情をしながら。

( ^ω^)「ドクターの話だと、僕の四肢と、心臓は他人のモノですお」

ワカッテマスは、「ああ、なるほど」と言って質問に答える。

( <●><●>)「あなたのベースはブーン、あなたなのです。
       誰の手足、心臓を持とうがあなたなのです。」

( ^ω^)「でも、僕には記憶がないですお」
 
そこでゆっくりっと呼吸をし、また言う。

( ^ω^)「だけどこの手足には、記憶がありますお」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:58:18.71 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「……今、なんと?」

ブーンは同じ事をもう一度言う。

( <●><●>)「なぜ、そう思うのです?」

ブーンは手を眺めながら優しく答える。

( ^ω^)「最初は、ほんの違和感でしたお。
       右手が引っ張られるというか……」

ブーンは壁を見つめる。
何もない、真っ白な壁。
そこに引きつけられる、といったように。

( ^ω^)「それからは眠ると、何かが見えたんですお。
       そこに映っていたのは、僕の右手と全く同じ手。
       指も、色も、形も」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 19:59:03.17 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「それが、右手の記憶だと?」

ブーンはコクリと頷く。
ワカッテマスは少し悩むと、ブーンに声を掛ける。

( <●><●>)「少し、待っていて下さい」

ブーンが頷いたのを確認すると、部屋を後にする。
一人部屋に取り残されたブーンは先程の壁を眺める。

生活に支障は無いほどの違和感。
無視などいくらでもできるほどの、小さな感覚。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:00:17.43 ID:w/5/OdH20

ブーンは右手が羨ましかった。
体がある自分に記憶がない。
なのに、腕だけになっても、自分の記憶をしっかりと持っている。

もしかすると自分が気づいてないだけで、
他の誰かの部位も、何かしらの記憶を持っているのかもしれない。

ブーンは目を閉じる、眠っていたときよりも不鮮明に、記憶が見える。
髪を揺らす女性、水たまりに写る、映像の中の自分。

もっとこの映像を見たい、ブーンはぎゅっと目を閉じる。

――――ガチャリ。

閉まっていた扉が開く。

( <●><●>)「遅くなりました……。なぜ、泣いているのですか?」

( ;ω;)「お?」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:01:26.83 ID:w/5/OdH20

ブーンは目の下に手を持っていく。
指でそっと肌に触れる。
しっとりと濡れていて、そこで初めて、自分が泣いていたことに気づく。

( ^ω^)「気にしないでくださいお」

ブーンは涙をぬぐい去ると、ワカッテマスに体を向ける。
ワカッテマスは少し不安そうな顔をしたものの、
何もないことを悟り、すぐに話を切り替える。

( <●><●>)「あなたに、もう一度説明をします。
       今度は、大丈夫ですね?」

( ^ω^)「はいですお」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:03:40.20 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「あなたは、事故に遭い、四肢を失いました。
       ここでは、死んだがどこかが無事な人、
       どうしても治療が出来ず、死にそうな人を凍らせているのです。
       少しでも使える部分があれば使うために、そうしています。
       一つでも多くの命を救うために」

( ^ω^)「……」

( <●><●>)「あなたはすぐに凍らされ、一命をとりとめました。
       時が経つにつれて、少しずつ凍らされる人が増えていきます。
       そして、四肢を失っただけのあなたをベースに、他の人の部位を繋げました」

( ^ω^)「……そんなこと可能なんですかお?」

ブーンは疑問を口にする。
可能だからブーンがこうしているとはいえ、どうも現実離れしている。

( <●><●>)「ここはしっかりとした設備がありますから、大丈夫だったのです」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:05:36.51 ID:w/5/OdH20

「あなたがすぐに信じられないのはわかっています」。
ワカッテマスはそう言うと、ブーンに書類を渡す。

( <●><●>)「そこには、あなたに繋がれた人たちの情報が載っています」

ブーンは、字が並ぶそれを時間をかけてゆっくりと見る。
この人達のおかげで、自分が存在できていると想うと、少し申し訳なくなる。

記憶の男の名前。
鬱田 ドクオ。

右腕は悲しそうにブーンを引っ張る。
やり残したことがあると言わんばかりに。

( <●><●>)「……あなたが、彼らの場所に行きたいと想うのはわかっています」

ワカッテマスは、寂しそうな顔をする。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:06:39.42 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「……いつまでもこんな所にいるのも、なんでしょうし」

ワカッテマスはそっと微笑み、ブーンに言う。
ブーンの右手がトクトクと、確かな意思を見せる。

ワカッテマスは立ち上がると、壁を指差す。
そしてブーンに告げる。


「旅に出てみませんか?」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:09:10.83 ID:w/5/OdH20

ブーンは白い歯を見せて笑う。

だが、気になる事があったのか、質問をする。

( ^ω^)「心臓の持ち主の資料、何でないんですお?」

その質問にワカッテマスは動揺した。
しかし彼はいっさい表情に出さずに答える。

( <●><●>)「すみません、見つけることが出来なかったのです。
       何せ資料は大量にありますから」

ブーンはそれを聞いて納得したようで、軽く頷く。
そして、右手を左手の親指でゆっくりとなぞる。

くすぐったく、なぜだか嬉しくて、ブーンはまた笑った。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:11:18.80 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「さて……、旅に出るのならそれなりに準備が必要ですね」

ついてきて下さい。
その言葉に従い、ブーンはワカッテマスの後を追う。

ブーンは全く部屋からでないわけじゃない。
用を足すときはもちろん、気分転換に建物から出たりもする。

しかし、どこかに行ってしまおうと考えることはなく、
言われるがままに生活をしてきた。


廊下にあるいくつもの窓からは深い緑が見える。
雨が上がったばかりなのか、それらはキラキラと輝いていた。

ワカッテマスは歩くのを止め、
一つの扉の前で止まる。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:13:41.37 ID:w/5/OdH20

( <●><●>)「その服装は旅をするのに相応しくありませんね」

ブーンの着ている服装は入院患者の着るような薄手のもの。
確かにこれでは旅は出来ないだろう。

( <●><●>)「これをどうぞ」

ワカッテマスは暗めのジーンズと、いくつかのシャツをブーンに渡す。
それに着替えるように促されたブーンは、着ていた物を床に脱ぎ捨て、
渡された物に体を通す。

( <●><●>)「似合うのはわかっています」

ブーン痩せているわけではない。
どちらかといえば太い方よりの標準。

ジーンズに、半袖のTシャツ。
Tシャツは薄い水色をしていて、涼しげに感じられる。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:15:50.30 ID:w/5/OdH20

二人が部屋から出ると、ワカッテマスは、

( <●><●>) 「少し、入り口で待っていて下さい」

そう言って、またどこかに歩いていく。
ブーンは言われたとおりに、入り口でまつ。

小さなソファーに腰掛けて、手をじっと見つめる。
この手の持ち主の願いは何だろう、出来れば叶えてあげたい。
ブーンの思考はぐるぐると回る。

そんなことをしているうちに、
ワカッテマスが大きなリュックを持ってブーンの元にやってくる。

沢山の物が入っているようで軽そうには見えない。
それをドサリとブーンの足下に置く。

( <●><●>) 「さあ、準備が整いました」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:18:11.11 ID:w/5/OdH20

(;^ω^)「これだけですかお?」

ブーンは少し焦ったように問う。
どう考えても一人分の荷物。
ワカッテマスはそれに申し訳なさそうに答える。

( <●><●>) 「この病院から離れるわけにはいかないのです」

それを聞いたブーンは少し不安になる。
記憶がない今、知ってる人は居ない。
知っている土地もない、そこに一人で飛び出すのは恐い。

( <●><●>) 「やめますか?」

ワカッテマスは冷たく言い放つ。
その言葉にブーンは首を横に振った。
そしてリュックを持ち立ち上がる。

( ^ω^)「行く、お」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:19:40.29 ID:w/5/OdH20

( <●><●>) 「そう答えるのはわかっています」

ワカッテマスは微笑む。
ブーンが目覚めてからは、いつもこうやって笑っていてくれた。

( ^ω^)「……行きますお」

ブーンは荷物を背負う。
先程貰ったシャツも入っている。

( <●><●>) 「またいつか、逢いましょう」

ブーンは建物を出てからも、何度も振り返り手を振る。
その度に、ワカッテマスも手を振って返す。

( <●><●>) 「……行ってしまいましたよ、ツンさん」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:21:33.58 ID:w/5/OdH20

「どうしても助けたいのよ!!」

「今からじゃ冷凍も間に合わないのは……解っているはずです」

「今すぐに、心臓が来ればいいんでしょ?」

「何を考えているのですか?」

「――――頼んだわよ」



( <●><●>) 「あなたに言われた通りにしましたよ」

ワカッテマスは、ソファーに腰を下ろした。
そして天井を見上げ、左手で目を隠す。

隙間から小さな水滴が頬をつたう。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:23:19.70 ID:w/5/OdH20

――――。

ジワジワと陽が照りつける中、一人の男が旅に出た。
他人の手足、誰かの心臓を体に繋げて。

これは不思議なお話。

この世界は、未来よりも進歩しているかもしれないし、過去よりも退歩しているかもしれない。
時間を気にする人もいれば、時間という概念を持たない人もいるかもしれない。

どこかへ繋がる道が、誰かに繋がる道があります。
これはそんな道をたどる、一人の男のお話。

一つの体で複数の人生。
彼は、その一つ一つを歩きます。

持ってる地図はリュックの中。
彼は地図など見ずに、ただ道を行きます。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:23:55.90 ID:w/5/OdH20

( ^ω^)「……お」

ブーンは空を見上げる。
着ているシャツと同じ色。

「おそろいだお」

腕を広げて道を走る。
右手が道を教えてくれる。

迷っても構わない。

いろんな所に行こう。
いろんな人に逢おう。

出来るならば望みを叶えよう。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:24:22.41 ID:w/5/OdH20

蝉の鳴く声に混じって、一つの声が聞こえる。
それは空耳かもしれないし、
本当に聞こえたのかもしれない。

ブーンは振り返る。
今来た道を。
そしてまた走り出す。


「この旅があなたに繋がるのは、わかっています」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:25:10.21 ID:w/5/OdH20

( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/27(土) 20:25:26.64 ID:w/5/OdH20

<第1話 ざ・こーす・おぶ・らいふ> END



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