( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:19:58.03 ID:JNLCnvAf0
薄暗い部屋――――。
外は陽が高く昇っているが、窓から入る日差しはカーテンによって遮断されていた。
天井にはぼんやりと光るランプが一つ。
それなりに広く、壁には本棚がびっしりと並んでいる。
その中に本がぎっしりと詰まっていた。
部屋にあるテーブルにも本は積まれている。
その本に隠れるようにして読書をたしなむ者が一人。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:21:32.21 ID:JNLCnvAf0
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
男はふぅ、と息をつくと本を丁寧に閉じ、机に立つ塔をまた一つ高くする。
その後しばらくは椅子に凭れ掛かるようにしていた。
何を思ったか不意に立ち上がり、窓からカーテンをずらす。
それと同時に入ってきたのは海に沈む赤い夕日。
男は目を細め、沈んでゆくそれをただじっと眺めていた。
男にしては長い髪、前髪は目にかかる長さだが、少し流すようにしてそれを避けている。
黒い髪は陽の光によって茶色く光る。
今度はカーテンを開けたままにしてテーブルのもとに行き、また本を手に取る。
太陽が見えなくなっても、少しの間、部屋はオレンジに染まっていた。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:23:53.31 ID:JNLCnvAf0
- <第3話 波の上、紅い街と結ばれる靴紐> 前篇
左足の意識に従って道を進んで3日が経とうとしていた。
ブーンは今も波の上を歩いている。
波の上と言っても、もちろん直接歩いているわけではない。
石で造られた道が、波から1メートルほどの高さで姿を見せている。
幅は中々広く、真ん中には一本の錆びついたレールが通っている。
行き交う人も少なくはなく、それぞれが自分の意志をもって行動していた。
もちろんブーンもその中の一人だ。
波は穏やかに揺れ、広がる海は果てが見えない。
( ^ω^)「なかなか長いお」
あとどれくらいか、左足は答えない。
答える術もないのだが。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:25:53.38 ID:JNLCnvAf0
そこでブーンは一つの考えに至る。
こんなにも人がいるのだから誰かに聞けばいいじゃないか。
( ^ω^)「流石、頭良いお!」
本当に頭がいいのなら3日も歩くだけなんてことはしない。
少しずつ紅に染まってゆく風景。
太陽が沈み少し経つと、視界から赤やオレンジといった色が消えた。
夜と言っても、まったく何も見えないというわけではない。
大きく光る月は海を照らし、キラキラと揺れる。
しかし、今日は休んで明日歩きながら誰かに聞こう。
ブーンは人と少し離れた場所に荷物を置くとゆっくりと腰を下ろす。
ザァ、とゆっくり聞こえる波の音が心を落ち着かせる。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:27:30.74 ID:JNLCnvAf0
ブーンの服装はジーンズに、Tシャツ。
そしてその上から黒い上着を羽織るといった簡単なものだった。
昼間はそれで丁度良いが、夜は少し肌寒く感じる。
( ^ω^)「まあ、なんてことないお」
独り言は海に呑み込まれていく。
と、そこに、一歩一歩ブーンに近づく足音があった。
( ^ω^)「お?」
ブーンは眺めていた海から目を離し、ゆっくりと振り返る。
(´・ω・`)「やあ。隣、良いかな?」
眉の下がった男。
ブーンはそれに微笑みながら、こくりと頷いた。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:29:05.11 ID:JNLCnvAf0
(´・ω・`)「ありがとう」
笑顔でお礼を言いながら、ゆっくりと腰を下ろす。
そしてがさごそと鞄を漁り、一つの紙袋を取り出した。
ブーンがそれを眺めていると、男はその中からパンを取りだす。
(´・ω・`)「僕はショボン、君は?」
パンを差し出しながら男は尋ねる。
ブーンはお礼を言ってパンを受け取り名前を言う。
(´・ω・`)「ブーン君、よろしくね」
二人は自己紹介を終えると、それぞれのパンに齧りついた。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:31:02.31 ID:JNLCnvAf0
( ^ω^)「そうだお、訊きたい事があるんだお!」
ブーンはパンを食べ終わると、何かを思い出したかのように手を叩く。
ショボンは突然の声に、少し驚きを見せるも、すぐにブーンの質問に耳を向けた。
( ^ω^)「向こうの陸地まであとどれくらいか分かるかお?」
(´・ω・`)「明日、日が昇り切る前に出れば夕方には着くと思うよ」
その言葉を聞いた途端、ブーンは顔を輝かせた。
ショボンの手を掴み、上下にブンブンと振る。
(;´・ω・`)「あ、あはは。良かったね」
ショボンの苦笑いに気づいたのかどうなのか。
ブーンはぴたりと手を止め、囚われていた手を開放する。
( ^ω^)「ショボンも向こう行きかお?」
自分の行く先と同じ方を指し尋ねた。
ショボンは「そうだよ」と、ゆっくりと頷き、また微笑んでみせる。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:33:01.35 ID:JNLCnvAf0
地面に置かれたランプの光がぼんやりと揺れる。
二人はただじっと、中で燃える火を眺めていた。
(´・ω・`)「ブーン君は、旅人?」
( ^ω^)「そうだお」
ショボンが独り言のように言った質問にブーンは返す。
同じことをショボンに聞くと、ブーンと同じように答える。
(´・ω・`)「目的も何もないんだけどね」
照れくさそうに笑うショボンはどこか大人びていた。
自分の旅、正しくは自分に繋がれた人たちの旅が終わったら自分はどうなるのだろうか。
ショボンのようにこの広い世界に飛び出せるんだろうか。
考え、硬直するブーン。
ショボンはそんなブーンを気遣ってか、「オヤスミ」と一声かけて横になった。
ブーンはそれから少しして考えるのをやめ、ショボンと同じように眠りについた。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:35:01.84 ID:JNLCnvAf0
起きると、ちょうど陽が出始めたようだった。
ブーンが体を起こすと、ショボンも起きたようで同じように体を起こした。
人に出逢う度に何かしら悪い方向に考えているな。
ブーンはまだ完全に覚醒していない状態でそんなことを考えていた。
(´・ω・`)「僕はもう少ししたら出発するけど、ブーン君はどうする?」
方向は同じなのだから合わせよう。
ブーンは慣れた手つきで寝袋を片付ける。
(´・ω・`)「ちょっと寄りたい所があるんだ。もちろんこの通路上なんだけどね」
( ^ω^)「かまわないお」
二人は支度を整え、一息ついてから立ち上がる。
この通路が終わるのもあと少しだ。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:37:02.23 ID:JNLCnvAf0
陽が昇り切るよりもだいぶ早くに出発したため、陸に着くのは昼過ぎだろう。
少しずつ高揚していく気持ち。
この通路は長いため、露店を出している者もいる。
途中、そこで食料を調達したり、場合によっては服も買うなんてこともある。
二人は店を見つけるたびに商品を見ては、あーだこーだと話をしていた。
それを見て「冷やかしならお断り」という商人もいれば、会話に混ざったりする商人もいた。
大したことのない会話で、すっと心が洗われる。
ただ綺麗な物ほど壊れやすいとはよく言ったもので、
会話をした後に来る別れはどれも楽なものではなかった。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:38:32.08 ID:JNLCnvAf0
そうこうしているうちに、一つの建物が見えた。
ただそれはおかしなことになっていた。
通路は海に挟まれている、透けていて綺麗なのだが、恐らくかなり深い。
だがあの家は明らかに通路の脇に建てられていた。
(;^ω^)「あの家どうなってんだお・・・」
遠目からみると赤茶色をした家。
(´・ω・`)「近づけばわかるよ」
ショボンはニヤニヤしながらブーンを見る。
それにブーンは「むぅ」と唸り、心なしか足を速めたようだった。
( ^ω^) 「おお〜」
ブーンがタネを理解して出した最初の言葉がこれだった。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:41:04.47 ID:JNLCnvAf0
その家の周りももちろん海なのだが、かなり浅くなっていた。
海面から底までは10センチあるかないかだろう。
見ると通路のふちが家の周りだけ無く、通路は家を乗せるように凸状に広がっていた。
(´・ω・`)「寄りたい所ってのはここなんだ」
ショボンは家の扉を二度ほどノックする。
レンガ造りの丈夫そうな家。
/ ,' 3 「はいはい・・・、おお」
出てきたのは老人男性。
髪は白く、手も皺だらけだ。
(´・ω・`)「荒巻さん、お久しぶりです」
/ ,' 3 「ショボンよく来たのう」
二人の挨拶にブーンは置いてけぼりを食らっていた。
ぽつりと残される孤独感、これは厳しい。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:43:02.22 ID:JNLCnvAf0
/ ,' 3 「そちらは?」
優しい目つきでブーンを見る。
濁りのない綺麗な眼、目を合わせたら嘘もつけないような。
ブーンは、ぺこりと頭を下げる。
(´・ω・`)「こちらは、ブーン君。ブーン君、この人は荒巻スカルチノフさん」
荒巻と呼ばれた男性は家に二人を呼び入れた。
玄関では靴を脱いで上がる仕様になっていて、二人は靴を脱ぎきれいにそろえる。
玄関のすぐ脇はガレージのように空間ができていた。
扉も何もないため外からは丸見えになっている。
一階の多くはそこに場所を取っているようだった。
ぽっかりと空いた空間、それに気づいたショボンはきょとんとした表情をしている。
( ^ω^)「どうかしたのかお?」
(;´・ω・`)「え?あ・・、何もないよ」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:45:11.41 ID:JNLCnvAf0
玄関をあがり、少し奥に行った部屋に入る。
畳が敷かれており、外装とはまるで合っていない。
3人は腰を下ろし、少しの沈黙が走る。
(´・ω・`)「あの」
最初に声を出したのはショボンだった。
何やら訊きたげなことがあるという声で荒巻に尋ねる。
(´・ω・`)「お店は?」
/ ,' 3 「やめたよ」
(;´・ω・`)「なっ・・・」
質問に即答する荒巻にショボンは言葉を詰まらせた。
荒巻はそれが当り前であるかのように答えたのだ。
(;´・ω・`)「何故ですか!?」
ショボンは今にも掴みかかりそうな勢いで再び尋ねる。
荒巻は顎に手をやり低く唸った。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:47:01.57 ID:JNLCnvAf0
/ ,' 3 「もう年なんじゃよ」
荒巻は寂しそうに答える。
ショボンは顔を落とす。
( ^ω^)「もしよければ話を聞かせてもらえませんかお?」
ブーンはここに長居をするつもりはなかった。
だけど多少なり事情を知りたいという気持ちはある。
荒巻は「ああ、構わないよ」と笑顔をつくり昔話を始める。
波の上の商店、それがここだった。
物を売ることだけではなく、人との関わりを大切にしようとする。
そのために荒巻が創った店。
(´・ω・`)「僕は、この店が大好きだった。いつも笑顔で迎えてくれて」
ショボンがいつの間にか落ち着きを取り戻し、会話に混ざる。
会話、と言ってもブーンは相槌を打つだけだったのだが。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:49:08.39 ID:JNLCnvAf0
- それでもショボンは諦められないといった様子で荒巻に言う。
(´・ω・`)「僕も手伝いますから、この店に――――」
ショボンがそこまで言うと荒巻が大きな怒鳴り声をあげた。
「ならぬ」、その一言はその場を沈黙させるには十分なものだった。
ブーンとショボンは目を見開き荒巻の方を見る。
怒鳴った本人は先程までの穏やかな表情でそっと、囁くように語りかける。
/ ,' 3 「こんな老いぼれの為に時間を使う必要は無い。
まだまだ若いんだ、こんな所で決断を早まる必要はないよ」
ショボンはゆっくりと声を殺しながら泣き始める。
ブーンは何もできず、おろおろとするだけ。
荒巻はそんなショボンの頭をそっとなでる。
/ ,' 3 「ありがとう」
その言葉は波に消えてしまうような小さな声だった。
だけども、それはしっかりとショボンの耳に届いていた。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:51:01.85 ID:JNLCnvAf0
( ^ω^)「ご馳走様でしたお」
ショボンが泣き止み、少しお茶を飲んだところで出発することにした。
もちろんショボンも一緒に。
(´・ω・`)「・・・・」
無言でブーンの後ろに立っているショボン。
余程この店が気に入ったいたのだろう、落ち込みようが激しい。
/ ,' 3 「ショボン」
名前を呼ばれ、ショボンは荒巻の顔をじっと見つめる。
/ ,' 3 「もしこんな老いぼれと店がやりたいのなら、またいつか来なさい。
それまでは、世界を知るべきじゃ。わしと違ってまだ先は長いんじゃ」
(*´・ω・`)「は、はい」
ショボンの顔は、ぱぁっと晴れ、子供のような笑顔を作る。
ブーンもそれを見て笑う。
嬉しさは連鎖する、結局はみんなが笑ってのお別れとなった。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:53:01.48 ID:JNLCnvAf0
(´・ω・`)「なんかみっともないとこ見せちゃったな」
ショボンがポリポリと頬を掻き、照れくさそうに言う。
( ^ω^)「・・・そんなことないお」
ブーンは人と別れることの辛さを知っていた。
回数こそ少ないものの、それは決して小さいものではない。
(´・ω・`)「僕、本当に小さい頃家出したんだ。その時にこの道を走ってたんだ。
でも一度転んでさ、冷静になってみたら知らないところだし、足は痛いし」
ブーンはそれがどれだけ不安なことか分かっている。
(´・ω・`)「そんな時に荒巻さんと逢ったんだ」
あそこは僕にとってただの店なんかじゃないんだ。
ショボンは懐かしそうに呟く。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:55:14.11 ID:JNLCnvAf0
それからしばらくすると陸地が見えてくる。
ブーンは思わず走り出し、ショボンもそれに続く。
( *^ω^)「ふおおおおおおおお」
とうとう波に挟まれる通路が終わった。
気がつけば日は沈み始めようとしていた。
少し離れた所に街が見える。
あたりの木々は緑ではなく、赤や黄色といった色になっている。
石でできた道に沿って歩くと、右に枝分かれする道が現れた。
町はすぐ目の前、違和感も街に入るよう促す。
いつの間にか線路は無くなっていた。
そこで後ろを歩いていたショボンは足を止める。
ブーンは振り返る、それと同時に悟る。
( ^ω^)「お別れ・・・かお」
(´・ω・`)「うん・・一度家に帰るよ」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/18(日) 15:57:01.65 ID:JNLCnvAf0
ショボンはそっと右手を差し出す。
ブーンはそれを右手で握り返す。
(´・ω・`)「この旅に、ようやく目的ができたよ」
ショボンは振り返る、波の上の店を。
( ^ω^)「いつか店に行くお」
微笑みながらブーンは言う。
二人はそれ以上何も言わなかった。
お互いに振り返ることなく己の道を進んだ。
わかっている、先はまだ長い。
まだ止まるわけにはいかない。
目の前の街、ゆっくりとそこに足を踏み入れた。
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