( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

2: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:22:27.76 ID:bbQjUoX/0
昼間だというのに辺りは薄暗い。
グレーの空にはそれよりも少し黒に近い雲が広がっている。

( ^ω^)

空とは違う真っ白な世界に足跡を付けて歩く男が一人。
首にはマフラーを巻いて口元を隠している。

複数重ねた服の上から長めのコートを羽織って、寒さをしのいでいるようだ。
空から降る白くふわふわとした雪は、体につくと色を失う。

( ^ω^)「もう少し、待つお」

男は、しんしんと積もる雪を踏み固めながら、目的地を目指していた。



5: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:26:22.83 ID:bbQjUoX/0

   
            ( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/21(土) 22:28:01.74 ID:bbQjUoX/0

        <第4話 冬の天道>



7: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:30:02.43 ID:bbQjUoX/0

弟者の望みを満たしてから幾らかの月日が流れた。
だんだんと寒くなる空気は、肌に刺さるようにブーンを襲う。

( ^ω^)「・・・ふぅ」

時々マフラーを口元からずらしては冷たい空気を吸い込む。
吐き出す息は白い。

空を見上げると、灰色の紙にぽたぽたと白い絵の具を垂らしたようだった。
違和感は感慨にふけるブーンを急かす。

( ^ω^)「そんなに急ぐのかお?」

歩きながら、違和感に語りかけるように独り言をつぶやく。



9: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:32:02.54 ID:bbQjUoX/0

今回の違和感の持ち主は「杉浦 ロマネスク」。
ブーンは彼の右足と繋がれていた。

弟者の街にいたときから、彼は何かに遅れないようにしているようだった。
もちろんそれがなんなのかはブーンには分からない。

どうせ着いてしまえば分かるのだろうが。

ブーンはただ彼の望みに遅れないように歩くだけだった。



10: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:34:05.96 ID:bbQjUoX/0

いつの間にか雪が降ってきた。
いつの間にか雪に囲まれていた。
いつの間にか雪の上を歩いていた。

途中見つけた街に立ち寄っては、最小限の準備を整えて出発。
何とも忙しないのだが、これがこの旅らしいな、とブーンは割り切っていた。

どうしてもまた来たいのなら、全部が終わった後にすればいい。
その全部がいくつあるのか分からない以上、ブーンは急ぐしかない。

( ^ω^)「冷たいおー」

ブーンは頭にかかった雪を手で払う。
残念ながらフード付きの服や、帽子などは手に入れることが出来なかったのだ。

雪は触れた途端に溶けてしまうため、正しくは水滴を払うのだろう。
ブーンは何度もそれをしながら、転ばぬよう気をつけていた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/21(土) 22:36:02.05 ID:bbQjUoX/0

それからまた少しの日が過ぎた。

空は最近には珍しく、蒼い顔を見せている。
陽の光に照らされた雪がキラキラと光る。

積もった雪の表面は少し溶けているようで、柔らかかった雪は砕けた氷のようになっていた。
手に取ってみると、ジャリジャリとしていて、じんわりと溶けるのが分かる。

( ^ω^)「ほっ」

小さな玉を作っては遠くに投げる。
何もせずに風景が同じ道を行くのに飽きたのだろう。

( ^ω^)「おりゃ」

何度もそれを投げる。

( ^ω^)「ふんっ」

またしても。



12: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:38:02.28 ID:bbQjUoX/0

しばらくするとそれにすら飽きたようで、肩を落とす。

今までの違和感は速めのテンポで達成できたが、今回は違う。
右足はなおも訴え続けていた。

するとブーンは急に何かを考え始めた。
そう、右足が見せる夢についてだ。

いや、見るというよりも聞いたという表現の方が正しいだろうか。
会話が聞こえてくるのだ。
目を覚ましても忘れない、大切な記憶。

いつも聞こえるのは、ロマネスクと可愛らしい声――――。



13: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:40:03.98 ID:bbQjUoX/0

『マスター、これはなんです?』

『マスターではない。ロマネスクだ』

『ロマネスクとマスターは違う人物なのですか?』

『いや、同じだけど・・・』

『ならマスター、これは何です?』

『・・・これは天道虫だ』

『テントウムシ?あ、止まりましたよ!!』

『死んだふりだろう』

『死んだふり?』



15: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:42:02.86 ID:bbQjUoX/0

『危機を感じるとそうやるのだ』

『いまいちわかりません・・・』

『少しずつ覚えればよい』

『私、テントウムシ好きです。テントウムシは何が好きなんですか?』

『花・・・であろう、自信は無い』

『なら、たくさん花を植えましょう。きっと素敵です』

『うむ。それも悪くないな』



17: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:44:02.31 ID:bbQjUoX/0

『マスター、テントウムシが死んだふりをしています』

『・・・これは死んだふりではない』

『だって、動きませんよ?』

『ふりではないのだ、死んだのだ』

『どうしたら動きますか?』

『土に埋めてやろう、きっと空で動けるようになる』

『私もいつか止まりますか?そしたらまた空で動けますか?』

『ああ、お前も、吾輩も止まるだろうな。そしてきっと動ける』

『でも、マスター私ここが好きです』

『ああ、吾輩もだ』



19: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:46:14.46 ID:bbQjUoX/0

これを聞いた時は何とも思わなかったが、何か引っかかる。
少女とロマネスクの会話、うまく表現できないが、違和感を感じてしまうのだ。

それも着けば分かるというのなら、行くしかあるまい。

そして、視界に変化が現れた。
遠くの方で灰色の煙が上がっているのだ。

何かを燃やしているのだろうか。
走りたいという衝動に駆られるが、流石にそれはできなかった。

誰が作ったか知らない通路があるとはいえ、下は雪だ。
表面が溶けて、テカテカと光るそこを走るのは難しい。
間違いなく転ぶ。



21: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:48:07.70 ID:bbQjUoX/0

ゆっくりと、気をつけて。
自分に言い聞かせながら前に進む。

やっとのことで辿り着いた場所は、一つの街だった。
流石家のいた街よりは小さいが、大きな工場がいくつも並んでいた。

まず思ったのが、異色であるということ。
人も多いのだが、それ以前に違うものが歩いている。

人の形を模して作ったようなモノが歩いているのだ。
とても重そうな荷物を運んでいるモノもいる。

(;^ω^)「なんぞこれ・・・」

初めてみる異様な光景にブーンは目を丸くする。
機械の街、と言い表すのが一番良いのだろう。

ただ立っていてもしょうがないため、足を進める。
右足の違和感はこの街を指していると思ったが違うらしい。



22: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:50:02.86 ID:bbQjUoX/0

食料を調達してすぐに出よう。
そう思った矢先だった。

右足はその時間すらも許さないと言わんばかりに引っ張るのだ。
ブーンはそれに驚き、違和感に従い街を突っ切る。

入ってきた入り口とは正反対の入り口。
ブーンにとっては出口となるのだが、そこから目を凝らすと一つの家が見えた。

どれぐらい離れているだろうか。
歩いてみなければ分からないのだが、違和感は恐らくあそこを指している。

( ^ω^)「・・・よし」

荷物なんて後でそろえればいい。
今、やるべきことはロマネスクの望みをかなえること。

再び歩くことになった雪の通路を慎重に進み家を目指す。



23: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:52:04.01 ID:bbQjUoX/0

家の前まで来て何を躊躇うことがあるのか。
右足がそう言っているような気がして、遠慮勝ちながらも扉をノックする。

返事は無い。

( ^ω^) 「あのー」

もう一度ノックするが返事は無い。
まさか誰も住んでいない?
この寒い中、右足が汗をかいている気がする。

(;^ω^)(ちょ・・・どうするのこれ)

慌てふためきながら辺りを見回す。

雪。

街。

雪。



24: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:54:02.21 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「お?」

もう一度見る。

雪。
街。

ここで、街の方から人が歩いてくるのが確認できた。
よく見ると隣には小さな犬もいる。

( ^ω^)「あの子かお」

右足はしっかりと意思を表す。
きっとあの子がこの家の持ち主。

手には大きな荷物を抱えている。
その子が覚束無い足取りで歩いて――――。

( ^ω^)「あ」

転んだ。



25: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:56:03.86 ID:bbQjUoX/0

(;^ω^)「大丈夫かお!?」

荷物を家の前に置き、転んだ子に駆け寄ろうとするブーン。
しかし下は雪道である。

(;^ω^)「あ」

転んだ。

(;^ω^)「いてーお」

尻もちをついたブーンは、ゆっくりと立ち上がる。
転ばないように、気をつけながら。

「大丈夫ですか?」

顔をあげると、先程転んだ子が目の前まで来ていた。
右手を出して、「立てますか?」と。

( ^ω^)「どうもですお」

ブーンはその手を取り、立ちあがる。
彼女の手は恐ろしく冷たく、思わず離してしまいそうになった。



26: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 22:58:02.45 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「気を付けてくださいね」

彼女はそう言うと、軽くお辞儀をしてブーンの横を通り過ぎていく。
あまりにもあっさりとしていてブーンは惚けてしまった。

2人の距離が少し離れると、ブーンもようやく我に返る。

(;^ω^)「ちょっと君、ロマネスクって知ってるかお?」

思わず駆け足になってしまう。
しかし今度は転ぶことなく彼女の元へと行くことができた。

(*゚ー゚)「ええ、私を造ってくださった方です」

(;^ω^)「へ?」

造った?生んだじゃなくて?
ブーンは必死に言葉の真意を知ろうとするが失敗に終わる。

(*゚ー゚)「マスターのことを御存じなのですか?」

彼女は柔らかく笑い、ブーンに尋ねる。



27: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:00:03.01 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「・・・ええ」

(*゚ー゚)「そうですか」

ブーンが重々しく放った言葉を余所に、彼女はそれだけを言って家に入っていく。
彼女は相変わらず笑っているようだった。

( ^ω^)「え、あれ?」

▼・ェ・▼「わん」

犬はブーンに一瞥をくれ、彼女と同じように家に入っていく。
雪と静寂の中にブーンは取り残されていた。

彼女はロマネスクに馴染み深いのではないのか?
あの声は夢で聞いた声と同じものだった。

ならばなぜ反応を示さない。
兄者と同じタイプなのだろうか。



29: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:02:02.80 ID:bbQjUoX/0

ロマネスクはというと、家に入れと指示をしているようだった。
ブーンは少し拗ねながら荷物を拾い、扉を2、3度ノックする。

(*゚ー゚)「はい」

扉をあけて出てきたのは先程の少女。
当たり前なのだが。

彼女の足には小型の犬が身を寄せている。
相当懐いているのだろう。

( ^ω^)「ロマネスクさんのことでお話しすることがありますお」

今度はどんな反応をするのだろうか。
ブーンの脈は少しずつ早くなる。

(*゚ー゚)「そうでしたか。お入りください」

やはり表情を崩さない。
ブーンは言われるがまま家の中に入ってゆく。



30: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:04:04.01 ID:bbQjUoX/0

ブーンは説明をする前に、目の前の少女に訊きたい事があった。
それはロマネスクとの関係。

夢の中の会話や、実際に接してみて、引っかかる点が多すぎる。
まずはそれを聞いてから話をしよう。

窓際にあるテーブル、そこの椅子に座り少女と向かい合う。
少女は変わらない表情でブーンをじっと見つめていた。

( ^ω^)「僕の話の前に、一つ聞きたい事があるんだお」

(*゚ー゚)「なんでしょうか」

( ^ω^)「君とロマネスクの関係は?」

単刀直入に訊くブーンに少女は首をかしげていた。
「先ほども言いましたが?」と言われブーンはますます頭を抱える。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/21(土) 23:06:02.91 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「私はマスターに造られました」

それはさっきも聞いた。
ロマネスク、君は一体どんな教え方を――――。

そこで少女は何を聞きたいのか分かった様子で手を叩く。
ブーンもそれと時を同じくして何かに気づく。

( ^ω^)「君、人間じゃないのかお?」

(*゚ー゚)「やはりそれが訊きたかったのですね」

彼女はブーンの考えが解ったことがよほど嬉しかったらしい。
声のトーンが淡白なものから明るめのものになっていた。

(*゚ー゚)「私は機械です。造ってくれたのがマスターです」

機械というものがこれほどまでに人間に似るのかと考える。
さっき通ってきた街に居たのは、無機質な人型だったから。



33: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:08:15.04 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「ご用件をお聞かせください」

少女の声はまたしても淡白なものに戻っていた。
犬は暖炉の火で温まるように寝そべっている。

これで話すのも3回目。
部位だけでいえばもう半分だ。

( ^ω^)「それじゃお話しますお――――」

彼女はブーンの話を身動き一つすることなく聞いていた。
ロマネスクが死んだということを聞いた時も「そうですか」の一言だった。



34: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:10:07.25 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「――――以上ですお」

ブーンが話を終える。
それを聞き終えた彼女の反応は、

(*゚ー゚)「お疲れ様です。今コーヒーをお持ちします」

これだけだった。

( ^ω^)(どう見たって人なのに・・・)

感情が無いのか、というとそうではないのだろう。
ブーンの考えを当てた時、確かに彼女は喜んでいた。

( ^ω^)(ロマネスク、望みは何だお)

ロマネスクの意思というのは今までで一番大きかった。
まるで時間が限られているかのような。

そこまで考えると、彼女がテーブルに二つのコーヒーを置く。

(*゚ー゚)「冷めないうちにどうぞ」

ブーンはカップを手に取り、湯気を無くすように息を吹きかける。
二度ほど湯気を消すと、ゆっくりとそれを口に運ぶ。



35: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:12:05.84 ID:bbQjUoX/0

外は暗くなり始めていた。
そういえば彼女の名前をまだ聞いていない。
ブーンはコーヒーを啜りながらぼんやりと考えた。

(*゚ー゚)「しぃ、です」

彼女はコーヒーを飲み終えたブーンの質問に答える。
熱いのが苦手なのか、何度も吹いてはちびちびと飲んでいる。

(*゚ー゚)「マスターは空に居るんですね」

唐突に彼女は呟く。
やはりさみしいのだろうか。

( ^ω^)「・・悲しいかお?」

(*゚ー゚)「いいえ」

やっぱりか、と、ブーンはため息をつきそうになる。
しかし彼女の口から出た言葉は意外なものだった。

「私も、もうすぐ行きますから」



36: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:14:03.15 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「それ、どういうことだお?」

その言葉を聞いた時、予想は簡単にできた。
何故ロマネスクが急いでいたのもわかった。

しかしそれを信じたくなかった。
だから訊いた、「もしかしたら」、こんな期待をしていた。

(*゚ー゚)「停まるんです。明後日、私は活動を終了します」

外はいつの間にか表情を変えていた。
あれほどまで穏やかだった空は鉛色になり、見境の無くなった風が雪を運んでいた。

ロマネスクの望み。
それは彼女を看取ることなのだろう。

推測にしか過ぎない。
だけどもそれがあっているような気がしてならなかった。



37: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:16:03.19 ID:bbQjUoX/0

「マスターの部屋で寝てください」、彼女が言った言葉だ。
しかし、彼の部屋の散らかり方はあまりにもひどいものだった。

結局ブーンは暖炉の近くのソファーで一夜を過ごした。



38: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:17:45.94 ID:bbQjUoX/0

こんなにも気が重い朝は久しぶりだ。
ブーンは黙って窓の外を眺める。

昨日の夜から変わることのない天気。
窓に張り付く雪は、時間が経つごとに少しずつ形を変えてゆく。

(*゚ー゚)「朝食できましたよ」

彼女の一言でブーンは辛気臭い顔を取り払う。
彼女が笑っているのに自分がこんなのじゃ駄目だろう、と。

( *^ω^)「おいしそうだお」

(*゚ー゚)「どうぞ、召し上がってください」

その一言をきっかけにブーンは朝食を口にする。
彼がそれをすべて平らげるのに時間はかからなかった。

(*゚ー゚)「お聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」

( ^ω^)「なんだお?」

(*゚ー゚)「私は出来損ないですか?」



39: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:20:03.40 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「そんなことないお!」

彼女から他の機械は命令のみを実行すると聞いた。
しかし、しぃは自分の意志を持ち行動している。

感情だってある。
出来損ないどころかほぼ完ぺきだろう。

(*゚ー゚)「ありがとうございます」

彼女はそう言うと席を立ち、洗い物をしに行く。
ブーンは暖炉の近くのソファーで犬を撫でていた。

▼・ェ・▼「わん」

犬は悩みごとなど無いかのように吠える。
それを見てはブーンはどこか寂しげに笑う。

暖かい部屋の中でブーンはゆっくりと目を閉じた。



41: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:22:08.39 ID:bbQjUoX/0

( ´ω`)「・・・お?」

足元では犬が丸くなり寝ている。
こちらも眠ってしまっていたようだ。

外は暗いがまだ夜にはなっていない。
そこで足に何かを感じる。

しぃが右足を枕にする形で寝ていた。
気持ち良さそうに寝ている彼女を見ていると、機械であることを忘れてしまう。

晴れていたらこの位置にも陽の光が当たる。
そしたらもっと気持ちよく眠れるのではないか。

だが天気はこちらの言い分を聞いてくれない。

ブーンは彼女の髪をそっとなでる。
白い髪のショートヘア。

しばらくはこうしていよう。
彼女が起きるまで、こうしておいてあげよう。

ロマネスクもそれを望んでいる。
彼女の親なのだから。



42: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:24:04.60 ID:bbQjUoX/0

彼女は目覚めるとすぐに、「すみません」と謝り夕食の支度をしに行った。
ブーンは手伝おうとするが、お客様ですからと言われ、ただ待つのみ。

( ^ω^)「お前はどうするお?」

▼・ェ・▼「?」

犬に話しかけても何も返ってこない。
苦笑いをしながら頭を撫でてやる。

気持ちを良さそうに尻尾を振る姿はとても可愛らしい。

この犬は、ロマネスクがこの家を出た後に、しぃが拾ったらしい。
名前は特に無いとのこと。

(*゚ー゚)「さあ、食べましょうか」

しばらくすると彼女が料理を運んでくる。
手の込んだ夕食を迎え、自然と笑顔に変わる。

「最後なんですね」

彼女が消えるように呟いた一言は、ギュッと胸を締め付ける。
それは誰に言ったわけでもないのだろう。

(*゚ー゚)「どうしました?」

ブーンは彼女の問いかけに答えることが出来なかった。



44: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:26:02.93 ID:bbQjUoX/0

夜は一層暗さを増す。
ブーンは昼間に多く睡眠をとったため、眠くなかった。

ソファーから暖炉の火を眺めていると、彼女がそばに寄ってくる。
トン、とブーンの右側に腰をかけ同じように火を見つめる。

(*゚ー゚)「もう一度お話聞かせてもらえませんか?」

( ^ω^)「旅のかお?」

(*゚ー゚)「はい」

ブーンは前に話したことをもう一度聴かせる。
あの時と同じ内容、しかし少し明るめに。

目の前にある彼女の顔はあの時と違っていた。
話によっては眉を曇らしてみたり、くすくすと笑ったり。

やっぱりそんな表情ができるんじゃないか。
なんでもっと早く見せてくれなかったんだ。

ブーンは泣きそうになるのを堪えながら話を続ける。
何もしてやれないのだろうか。



45: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:28:02.55 ID:bbQjUoX/0

彼女はいつの間にかブーンの方に身を寄せて眠っていた。
近くにあった毛布を取ってそっとかけてやる。

僕も少し寝よう。
彼女が起きた時、眠かったなんて言ってたら話にならない。

眠くないが、目を閉じ無理矢理に眠ろうとする。
すると次第に意識は朦朧としていき、最後には眠りにつくことができた。



46: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:29:44.52 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「・・・」

朝が来ていた。
吹雪は止み、温かな陽が差していた。

彼女はブーンが起きた時に一緒に起きたようだ。
暖炉をぼんやりと眺めながら、弱くなった火に薪を燃べる。

それをやった直後、彼女は「あ」と小さい声を上げる。

(*゚ー゚)「もうこんな事しなくても良かったんですね」

もう停まる時間は近いですし。
その一言にブーンははっとして、立ち上がる。

(;^ω^)「あの街の人!あの街の人たちならなんとか出来るんじゃないかお?」

(*゚ー゚)「ええ」

ブーンの考えをあっさりと肯定する。
ならばなぜ黙っていた、何故それを言わなかった?
ブーンは尋ねた。

彼女は優しく笑うと問いかけに答える。



47: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:32:04.53 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「テントウムシ」

(;^ω^)「え?」

こんな時に何を。
ブーンは戸惑うがしぃはすぐに口を開く。

(*゚ー゚)「死んだふりは、テントウムシの特権ですよ」

彼女はそう言ってほほ笑む。
それに、きっと今からじゃ間に合いませんよ、と付け足して。

ブーンには理解できなかった。

(*゚ー゚)「だから少しでも傍にいてください。マスターと一緒に居させてください」

それが彼女の本心だったのだろう。
彼女のことを想う人はもうこの世にはいない。

だったら――――と。



48: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:34:04.92 ID:bbQjUoX/0

ブーンはソファーに座りなおす。
「膝をお借りしてもよろしいですか」と訊かれ、頷いて返すと彼女は嬉しそうに横になる。

(*゚ー゚)「私、この世界が好きなんです」

( ^ω^)「・・・うん」

(*゚ー゚)「春は暖かくて、夏は騒がしくて、秋は寂しくて、冬は綺麗で」

ブーンは黙って頷いて彼女の髪をなでる。
くすぐったいですよ、という彼女は嫌そうではなかった。

(*゚ー゚)「でも、マスターがいた時は、もっと好きでした」

( ;ω;)「そうか、お・・・」

堪えられなくなった涙がいくつも落ちる。
最後は笑顔を見せるはずだった、なのに――――。

(*゚ー゚)「嬉しいのですか?」

( ;ω;)「え?」



49: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:36:02.30 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「マスターは嬉しいことがあると、それをたくさん流していましたよ」

しぃはそう言って涙を指す。
ブーンは違うと言って首を横に振る。

( ;ω;)「これ、は、涙って、言って、悲し、い、時にも、でるん、だお」

途切れ途切れになりながらもブーンは声を出す。
「悲しいのですか?」この一言に今度は縦に首を振る。

すると彼女はブーンの涙を指で掬い、自分の目に持っていく。
なかなかうまくいかないようで、それは流れることはなく、目元を濡らすだけとなった。

(*゚ー゚)「ほら、出来ました!涙です」

ようやく流れた涙は、彼女の頬を伝ってゆく。

(*゚ー゚)「これは、悲しくてうれしい涙です」

( ;ω;)「・・・・」



50: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:38:01.53 ID:bbQjUoX/0

(*゚ー゚)「あなたが泣いているのが悲しいです。空に行けるのは嬉しいです」

「マスターがいますから」

彼女はそれを言って目を閉じる。
時間はすぐそこまでやってきていた。

「春になると、ここにはたくさんの花が咲くんです」

「マスターを驚かせたくて、毎年植えていました」

「空にも、きっと花があります、テントウムシも飛んでいます」

「マスター、そちらはどんな所ですか?」

「また、私をそばに置いてくれますか?」

「その時は、涙の流し方を教えてください」

「あなたの横で、笑いたい。泣いてみたい。したいことはたくさんあります」

( ;ω;)「しぃ・・・」

もう彼女は動こうとしない。
ブーンは声を押し殺せずに泣いていた。

最後に彼女はゆっくりと声を出した。



51: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:39:30.73 ID:bbQjUoX/0


    「ロマネスク、造ってくれてありがとう」



53: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:41:01.60 ID:bbQjUoX/0

( ;ω;)「しぃ?」

ブーンは彼女の体を起こしゆっくりと抱きしめる。
彼女は眼を閉じ微笑んでいた。
もう完璧に停止した彼女の目元、

――――それは先程よりも多く濡れていた。



54: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:43:01.96 ID:bbQjUoX/0

( ・∀・)おう、どうしたんだい?」

ブーンは街に来ていた。
彼女の墓を作ろうと思ったが一人ではどうしようもなかったのだ。

( ・∀・)「そうか、ロマネスクは死んだのか・・・」

続いて彼女が停まってしまったことも伝える。

( ・∀・)「出来損ないが停まった?」

言葉だけを見れば殴ってやりたくなる。
だが男の口調は寂しそうなもので、そんな気にはなれなかった。

( ・∀・)「機械なんて、命令だけ聞いて動けばいいんだよ」

( ・∀・)「あいつは機械としたら出来損ないだ」

「でも、人間としてみたら俺は好きだったよ」

彼の声は震えていた。
墓を作りたいということを言うと快く了解してくれた。



56: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:45:04.45 ID:bbQjUoX/0

( ・∀・)「・・・よし。一号、二号帰って作業を続けてくれ」

|1━◎┥|2━◎┥「了解シマシタ」

機械の協力を得て、二つの墓を作った。
片方はロマネスクの、片方はしぃの。

しぃは、この下に眠っている。

男は墓を拝むと、すぐに背を向けて街に戻ろうとする。
ブーンはそれに声をかける。

( ^ω^)「あの」

( ・∀・)「どうした?」

( ^ω^)「ありがとうございました。・・・ここに花は咲きますか?」

( ・∀・)「・・・ああ。とても綺麗だ」

いつまで見ていたくなるような、彼はそう言って歩いて行ってしまった。
ブーンは足もとに居る犬をそっとなでる。



57: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:47:03.68 ID:bbQjUoX/0

( ^ω^)「一緒に来るかお?」

犬に尋ねると、すぐにその場に座る。
動こうとはしない。

( ^ω^)「・・・お墓頼んだお」

▼・ェ・▼「わう!!」

ブーンは家の中に荷物を取りに行く。
それをすべて準備して、扉の下に何かを見つけた。

半球体の1センチにも満たない虫だ。
紅い背中に黒い点。
ブーンはそれを優しくつまみ手に乗せる。



58: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:49:01.65 ID:bbQjUoX/0

晴れ渡る空の下、雪は少しずつ溶けてゆく。
春になればたくさんの花が咲く。

きっとここしばらくはこんな天気が続くのだろう。
そうしたら春は目の前だ。

生き物たちが少しずつ目を覚ます季節。
彼女は眠ってしまった。

( ^ω^)「おっ」

天道虫は指先まで行くと、閉まっていた羽を出す。
小さな体でどこまでも行こうとする。

まだ雪の残る寒い中、彼らは高い場所へ飛び立っていった。



59: ◆1opJeO9WQk :2009/02/21(土) 23:50:50.92 ID:bbQjUoX/0

<第4話 冬の天道> END



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