( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

2: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:13:54.14 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「――――ッ!」

ギャギャアと薄気味悪く動物たちが鳴く森の中を、必死で駆けていた。
薄暗く、遠くまで見えない通路が、より一層恐怖心を煽っていた。

「あはははは!!」

少し離れた位置からは笑い声がつけてくる。
振り返る暇はなく、正確な位置を分かるすべもない。

(;^ω^)「なんだってんだお!」

「あはははは!!」

笑い声は少しずつ寄ってくる。

その「人ではない何か」に捕まってはならないと、ブーンは理解していた。
四肢の望みを叶えるという目的は、頭から完全に抜け落ちていた。



3: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:14:50.83 ID:RfPYm7oO0



( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

       <第5話 垂れ桜と鬼の姫>



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/07(土) 21:16:24.34 ID:RfPYm7oO0

――――話は少し遡る。

時は流れ、季節は春。
雪は溶け、新たな命が芽生え始めていた。

今度は左腕の望みをかなえるべく旅をしていた。

( ^ω^)「ポカポカおー」

春の陽気に当てられたのか、歌いながらに道を行く。

今回は特に急ぐこともないようで、自分のテンポを維持しながら歩いていた。
たまに見かける木には、ぽつぽつとつぼみが見えていた。

直に花を咲かすのだろう。



5: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:18:33.59 ID:RfPYm7oO0

ロマネスクの時とは違い、焦る様子はまるでない。

次に違和感を見せた部位、「左腕」はだいぶのんびりとしたものだった。
まるで、この季節のこの風景を楽しむといったように。

時折吹く暖かな風が頬をくすぐる。
それがたまらなく気持ち良かった。

それこそ、夢の中に入り込んでしまったのではないかと言うぐらいに。


しかし、これは間違いなく現実。
だからこそ、ここまで気持ち良く感じられるのだろうとブーンは一人納得する。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/07(土) 21:21:02.18 ID:RfPYm7oO0

今歩いている所を一言で言うのなら「山」だ。
道は山なりの場所が多く、周りには木々。

たまに見える石垣や、岩が積み重なったモノに生える苔。
それらは自然の在り方をそのまま表しているかのようで、見る度に見惚れてしまう。

雲のない、からっぽの空は、この旅で見た中で一番近い。
それでも、それに手が届くなんてことは無かった。

( ^ω^)「んん?」

見るもの見るものに気を取られながら歩いていくと、何かが見えた。
石で造られた、小さな、人を象ったかのような物。

それがいくつか並んでいた。
ブーンにはそれが何なのか分かっていなかったが、それらは「地蔵」と呼ばれるものだった。

笠を被っている者もあれば、前掛けをしている者もある。



9: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:24:09.39 ID:RfPYm7oO0

それらにも所々に苔が生えていた。
ブーンは興味深そうに、それらを一つずつ眺めていた。

(;^ω^)「うわっ!」

地蔵の列が切れた所、そこは死角になっていた。
その場所には本当に「ちょこん」と、女の子が座っていた。

ミセ*゚ー゚)リ

幼い女の子。
その子は何を言うわけでもなく、ただ地蔵と共に並んでいた。

着ている物は和服で、袖からちらちらと見える肌は白い。
それと合わさってか、ブーンには彼女が人形のように見えていた。

(;^ω^)「君は、こんな所で何をしているんだお?」



10: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:26:42.30 ID:RfPYm7oO0

ブーンは少女の目線に合わせるように屈み、話しかける。
それでも少女はニコニコと微笑むだけで何も答えてはくれない。

( ^ω^)「隣に座ってもいいかお?」

ミセ*゚ー゚)リ コク

( ^ω^)「じゃあ失礼するお」

風が吹けば柔らかに揺れる木々。
どこからか聞こえる鳥の囀り。

すでに咲いている花は甘い香りを漂わせる。

少女はブーンをじっと見つめる。
ブーンも最初こそ目を合わせていたが、途中から照れくさくなってそっと視線をずらした。

( ^ω^)「いい風だおー」

またふわりと風が吹く。
少女の髪の毛はそれに揺れる。



13: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:28:44.73 ID:RfPYm7oO0

苔の生えた地蔵と、少女に旅人。
これらが並ぶ姿はとても異様だ。

後ろには大きな木が一本。
それこそ周りから浮くほどの。

それが陽の光を優しく拒み、静かな木洩れ日を零す。
ブーンが前に見た、芸術品のような風景。

それに負けない美しさを作りだしていた。
静かな時間がゆっくりと過ぎる。

すると、少女が立ち上がった。

(;^ω^)「ど、どうしたお?」

突然の動きに焦るも、同じように立ち上がる。
少女はどこからか「毬」を取り出し、弾ませながら進んで行く。

少しすると振り返り、ブーンを見る。
ブーンが近づけば、にっこりとほほ笑み、また背を向け進む。



16: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:30:28.22 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)(付いて行けばいいのかお?)

幸いにも、違和感が指す方向と一緒だったため、少女について行くことにした。
楽しそうに毬をついて進む少女。

ふわりふわりと踊るように髪が揺れている。
そんな少女の姿が、どこか不思議に思えた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女が立ち止まり、少し向こうを指していた。
ブーンはその指さされた方向をじっと見つめる。

小屋のようなものに、旗が立てられている。
近づきながら眺めていると、また新たなものを確認できた。



18: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:32:51.57 ID:RfPYm7oO0

木でできた椅子。
そこにさす日差しを防ぐように立てられた、大きく、真っ赤な色をした傘。

木々に隣接する大きな岩の傍にも、同じようにして傘が立てられていた。

ミセ*゚ー゚)リ

少女は「早く早く」と言わんばかりに指をさす。
ブーンも好奇心の為か足を早めた。

すぐ傍までくれば、旗に書かれている文字が見えた。
「茶屋」と書かれたそれは、ひらひらと風に煽られている。

( ^ω^)「誰かいるのかお?」

開きっぱなしの扉にかかる暖簾。
それを手で撫でるようにしながら、すっ、とくぐる。
  _
( ゚∀゚)「いらっしゃい」

声をかけてきたのは、頭に手拭を巻いた男。
真っ黒な甚平を着ている。



19: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:35:23.36 ID:RfPYm7oO0

少女はじっとお品書きを眺めている。
人差し指を唇につけ、ただじっと。
  _
( ゚∀゚)「お客さん一人かい?姿を見るに旅人さんみたいだけど」

( ^ω^)「え?」

普段は、一人で旅をしている。
これは、まあ間違いではないだろう。

傍から見たらそうにしか見えない。

だけど今は少なくともそうでは無い筈だ。
少女と一緒に入ってきたのだから。

( ^ω^)「その子・・・」

もしかしたら娘さんだろうか。
そう思って少女の方を見る。



21: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:37:38.65 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「・・・その子?」

男は店を見回したあと、顔を顰めながらブーンを見る。
ブーンは困りながらも再び口にする。

(;^ω^)「え、だってそこに女の子が・・・」

少女はニコニコと笑いながらお品書きを指さしている。
書かれているのは「蕨餅」。

その笑顔は確かに目の前にある。
  _
( ゚∀゚)「話を聞こうか。とりあえず、なんか食います?」

( ^ω^)「あ、蕨餅を二つ」
  _
( ゚∀゚)「どうも!食べたい所で待っててください」

ああ、何か色んな意味で成長したなあ、などと思いながら少女について行く。
外の大きな岩に腰をかけるようにして、お茶が運ばれてくるのを待った。



23: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:39:53.79 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「はい、お待たせしましたー」

少しすると注文した物が運ばれてきた。
蕨餅とお茶が三つずつ。

( ^ω^)「・・・三つ?」
  _
( *゚∀゚)「・・・俺の分。腹減っちゃって」

照れくさそうに笑う店員をみて、自然と気が楽になる。
少女は目をキラキラと輝かせ、餅を見つめている。
  _
(;゚∀゚)「えっと、これはどちらに置けばいいのでしょう」

ブーンは男から餅を受け取ると少女の傍に、それをそっと置いた。
  _
( ゚∀゚)「本当にいるんですね」

ブーンはこくりと頷く。
隣に男が腰掛け、ブーンは挟まれる形になった。



24: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:42:43.12 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「驚かないんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「まあ、何かするような子じゃないんだろう?」

そう言って男はブーンの隣を眺める。
そこには少女がいるのだが、おそらく男の眼に映っては無いのだろう。

( ^ω^)「はい。寧ろ居て欲しくなるような子ですお」
  _
( ゚∀゚)「なら問題ないさ」

( ^ω^)「なんだか慣れてますね」
  _
( ゚∀゚)「・・・そうかもな。この地域ではよく聞くし」

実際に出会ったのは今日が初めてだけど、と付け足しからからと笑う。
少女はブーンにしか見えていない。

しかし、ブーンは特に驚こうともしなかった。
様々な生き方を見てきた今、この少女が何かは関係なかった。



25: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:45:43.48 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「旅人だよな?あんた」

ブーンそれを肯定すると、男は話を始めた。
  _
( ゚∀゚)「ここら辺にはな、古道があったんだ」

あった、ということはつまり。
  _
( ゚∀゚)「いつの間にか無くなってたんだ。でもたーまに現れるらしい。
     それ以来ここら辺では神様たちが自分達専用の道にしたって言い伝えが出来たんだ」

その話を聞いた時だった。
ブーンは冷や汗をかいた。
顔を思いっきり引き攣らせて。

(;^ω^)「あの・・・その道って」
  _
( ゚∀゚)「神々の通り道とか、神隠しの道とかいろいろ呼ばれてるよ。
     神、とか言えば聞こえはいいけど、実際はどうなんだか。」

(;^ω^)「あー」

様々な生き方を見てきた、この考えをすぐに取り払ってしまいたかった。
左腕ははしゃいでいる。



27: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:49:20.34 ID:RfPYm7oO0

ブーンはそれから暫く放心していた。
少しずつ心を取り戻し、立ちあがる。

少女は少し開いた空間で毬をついて遊んでいた。
彼女に渡した皿の餅は無くなっていた。
  _
( ゚∀゚)「行くのかい?」

(;^ω^)「ええ」

少女はブーンに付いて行くようにして店の前に足を運ぶ。

( ^ω^)「君は、どうするんだお?」

とは言っても付いてこられても困る。
少女は男の顔を見上げる。
  _
( ゚∀゚)「なあ、その子どこに居る?」

ブーンは男の質問に答える。
すると、しゃがみ込んで、そっと話しかけた。



28: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:51:57.05 ID:RfPYm7oO0
  _
( ゚∀゚)「今度から、毎日餅食わせてやるからさ、ここに居ねえか?」

せっかく知り合ったんだし。
そう言うと少女は嬉しそうに頷いた。

( ^ω^)「とっても喜んでますお」
  _
( *゚∀゚)「よっしゃ!今日からうちの看板娘だ。見えないけど」

二人は一頻り笑うと、軽く別れを告げた。
少女はその間ずっと微笑んでいた。

森に佇む一軒の茶屋。
そこは接客下手な店主が、趣味で始めた店。

それから暫くして、その店はかなり有名な店となる。
人からも、そうでないモノからも愛される。
しかしそれはまた別のお話。



30: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:54:01.99 ID:RfPYm7oO0

――――穏やかな風が吹く。

それとは反対に、ブーンは気が気でなかった。
悟ってしまったのだ、左腕の反応からどこに行きたいのかを。

最早、「行く」という表現より「逝く」の方が正しいかもしれない。
少し泣きたくなるようなブーンを無視して、左腕は子供のようにはしゃぐ。

昔馴染みに会うかのように、じっとしていない。

(;^ω^)「とんでもないお・・・」

古道に入りたがる左腕。
無くなったはずの入り口を知っているかのようにブーンを進ませる。

( ;ω;)「やめよう?ね?」

――――おろおろと目を潤ませるブーン。

今さら何を、そう言うようにして山道を進ませる。
先程まで歩いていた、地面がむき出しになった正規の道では無い。



32: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 21:57:45.54 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「雰囲気ありすぎだお・・・」

山道を進んで見つけたのは鳥居。
左右二本の柱の上に笠木を渡し、その下に柱を繋げるようにして貫が入っている。

木々に殆どの陽が遮られているため、どんよりとしている。
その暗がりに立つ、真っ赤なそれは、まるで黄泉平坂のようだった。

(;^ω^)「諦めろ、行くしかないお」

自分に言い聞かせ、唾を呑む。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る一歩を踏み出す。

鳥居をくぐった瞬間、全身に鳥肌が立つのが分かった。
「何もかもが変わった」。

先程までの穏やかな空気は一転した。
何かから、と言うよりも自分以外のモノすべてから視られている。

それは木々であったり、石であったり、それこそ「人でない何か」だったり。

そんな感覚に陥った。



33: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:00:01.01 ID:RfPYm7oO0

その道を、恐る恐る歩いて行く。
古道だったこともあり、道は造られていた。

( ^ω^)「意外と・・・安心?」

きょろきょろとあたりを見回しながら道を進む。
時折聞こえる動物たちの不気味な鳴き声に、少し怖じけた。

( ^ω^)「歌・・でも歌えばいいのかお」

気分を変えるようにして、歌を口ずさむ。
そう、これがいけなかった。

少しすると、擦れた音を立てながら後方の茂みが揺れた。
出てきたのはブーンの腰辺りの背をした、人のようなもの。

( ><)「人なんて久しぶりなんです」

一目で人じゃないと理解する。
鼠色をした肌に、頭から出た二本の小さな突起。

鬼、という単語が頭に浮かんだ。
その瞬間にはブーンは駆けていた。



35: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:02:14.11 ID:RfPYm7oO0

――――そして今に至る。

(;^ω^)「ああ!!もう」

恐怖で足が竦むなんてことが無かったのが不幸中の幸いだろう。
鬼の姿をしたそれから、ある程度は距離を取っていたのだから。

「鬼ごっこなんです」

げらげらと下品な笑いが近づいてくる。
そしてこの状況下でもっともベタな展開が一つある。

(;^ω^)「!!」

転倒だ。

地面からはみ出した木の根が行く手を遮った。
そして後ろを向くと、笑い声。

( *><)「焼くのも煮るのも悪くない。でも生が一番!」

(;^ω^)「ぼ、僕は美味しくないお!」

( *><)「食べてみなくちゃあ、わかんないです」

ああ、もっともな発言だと考える。



36: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:04:01.05 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)

( *><)

焦る人間、笑う鬼。
血の気のない手がゆっくりとブーンにのびる。

その時だった、左腕が逃げるように唆す。
ブーンもそれはしたいと思っているようだが、ここにきて足に力が入らなかった。

そして、自分のことを守るように手をかざした。
目を強く閉じ、再び開ける。

その動作が何秒だったかは分からなかった。
それこそ瞬く間だったかもしれないし、数分かもしれない。
しかし、目が映し出した光景は閉じる前とは変っていた。

腕が無くなっている。



38: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:06:00.81 ID:RfPYm7oO0

(;^ω^)「え?」

ごろりと転がる腕は、鼠色をしている。
ブーンは痛みを感じていない。

(;><)「誰です!?」

鬼はきっと顔を上げるようにして睨む。
ブーンもすかさずその方向に目をやる。

「友人に手を出されるのは趣味じゃない」

(;><)「童子?」

どうじ、という言葉が耳に響く。
鬼は少し距離をとる。

「ほら、殴られたくなければさっさと去れ」

(;><)「は、はい!」

「忘れものだ」

そう言って切り落とされた腕を投げつけた。
鬼はそれを受け取ると、振りむかずに走って行った。



39: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:09:01.68 ID:RfPYm7oO0

助けてくれたであろう人物を見る。

こちらは地に座っていて、向こうは立っているため、身長は分からない。
薄暗いため定かではないが、おそらく白の着物。

その上から、黒く、長い羽織を重ねていた。
羽織の下の方には、桜の花びらの模様がちらちらと窺える。

片手には瓢箪。
動くたびに、中からはちゃぷちゃぷと液体の揺れる音がした。

そして最も目を見張るべきが顔である。
般若のような鬼の面。
口元が欠けていて、そこからは口が見えていた。

その口は笑っていない。

ここで、ブーンは目の前の人物が言っていた言葉を口にする。

(;^ω^)「友人?」

驚いて言った言葉に、目の前の者は
「む」と音をたてた。



41: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:10:57.50 ID:RfPYm7oO0

「お前、何者だ?」

疑問を含む静かな声は、嘘をつくことを許さないようだった。
たとえついても見透かされているかのような、そんな声。

「ギコと・・・何人かが混じっているな」

(;^ω^)「・・・」

ゆっくりと立ち上がって、向かい合うようになる。
風が吹くと、目の前に立つ人物の長い髪が揺れた。

そして、理解する。
目の前に立つのも、また、人でない何かなのだと。

「ギコをどうした?」

般若の面に隠されている顔。
声は静かだが、純粋な恐怖心がこみ上げてくる。



44: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:14:27.25 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「そのことでお話が・・・」

「・・・ここでは何だ、付いて来い」

声、口元、それに髪から察するに女性なのだろう。
ふわりと羽織を翻して、通路を歩きはじめた。

ブーンは半ば焦りながらもそれについて行く。

( ^ω^)「あの、さっきのは鬼ですか?」

小さな角の生えた者。
ブーンが知っている「鬼」というものにそっくりだった。

すると女性は初めて笑いをこぼす。
その声にブーンは少し驚くと同時に、なぜか懐かしさを感じた。

「鬼という字を使うが、鬼では無いな」

人から見たら同じだろうが、と付け足す。
あれは「餓鬼」と呼ばれるそうだ。

( ^ω^)「あの――――」

ブーンが女性に質問をしようとすると、それは遮られた。



45: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:16:08.60 ID:RfPYm7oO0

「ここで話を聞こう」

和風の一階建て。
縁側もあり、そこから広い庭を見れる造りだった。

そして庭には目を見張るほど大きな木。
枝は細く垂れ下がっており、周りの木々と比べ緑が無い。

しかし、ポツポツと他の色がある。

女性は家、と言うより屋敷へ入って行く。
ブーンもそれについて行き、中から縁側へと回った。

「さあ、話を聞こうか」

女性は漆塗りの盃に瓢箪から酒を注ぐ。
紅いそれに注がれた酒からは、得体のしれない魅力を感じられた。

( ^ω^)「では、話ますお――――」

女性は般若の面をつけたままこちらを向く。
それでも下にある眼はしっかりとブーンを捉えているようだった。



47: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:18:04.18 ID:RfPYm7oO0

「・・・」

話を聞き終えた女性はしばらく沈黙を続けていた。
それからぼそりと呟いた、「夭折だな」と。

( ^ω^)「ギコさんは僕をここに連れてきました」

先程話した内容の要点を再び言う。
肝心のギコは何も反応を示さない。

だが、まだ居なくなっていないことだけは分かっていた。

「私を退治でもしに来たのか」

そう言って鼻で笑うと酒を喉に通した。
その姿は何とも艶やかで、思わず見とれてしまっていた。

「ん?この面が気になるか?」

(;^ω^)「え?いや、まあ・・・はい」

今見惚れていたのはそういう訳ではなかった。
しかし、面が気になっていたと言うのも事実なので、肯定してしまった。



49: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:19:31.82 ID:RfPYm7oO0

「見せてやるよ。そして教えてやる。私と、ギコのこと」

女性はそう言って面を外した。
月に照らされてそっと顔が見える。

そしてブーンは改めて思う。
やはり、人ではなかった、と。

川 - )「驚いたか?」

女性は微笑みながらブーンの方を見る。
しかし、その表現が正しいのかははっきりとしない。

眼には包帯のようなものが巻かれていた。
そして、その少し上。

そこには二つの小さな突起。
般若の面と同じように――――。

(;^ω^)「・・・鬼?」

川 - )「そう、本当の鬼だ。酒呑童子と呼ばれている」

凛とした声は、高貴なものを感じさせた。
そして何よりも鬼と言う言葉が頭から離れなかった。



51: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:22:14.03 ID:RfPYm7oO0

昔、人里に一人の女の子が生まれた。
何の変哲もない、可愛らしい赤ん坊。

彼女は大切に育てられ、すくすくと成長した。

しかし、15歳になった時、彼女は一口の酒を飲んだ。
決して飲んではいけないと言われていて、祀られていた酒だった。

そして変化が起こる。
正しくは「起こらなかった」なのかもしれない。

彼女の成長は20歳の姿で止まった。
大人たちはその事を不思議に思い彼女に訊いた。

「あの酒を飲んだのではなかろうな」

それに頷いてみせると、大人たちは何ともいえぬ表情をした。
怒りを露にするものもいれば、悲しそうな顔をしている者もいる。



53: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:24:00.82 ID:RfPYm7oO0

それは鬼の角を煎じて造った酒だった。
一口飲めば、永久の命を手に入れるとともに鬼になる。

つまり、その時点で人ではなくなってしまう、とのことだった。
酒を捨てるわけにもいかず、里で祀ってきたのがこの結果となった。

それからは彼女は何年も、何十年もずっと生き続けた。
周りからは神と崇められ、人でなくなってしまっても仲良くやっていた。

桜の咲く季節には、桜を囲み祭りを催した。
唄い、踊り、騒ぐ。

しかし、それらはいとも簡単に崩れ落ちた。
桜の祭りの際、人々は彼女の食べ物に毒を仕込んだのだ。

死なずとも、動けなくなるだろう。
そこで仕留めよう、とのことだった。

人々はいつしか彼女に恐怖を感じていたのだろう。
老いず、永く生きるその姿に。



55: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:26:01.40 ID:RfPYm7oO0

彼女は泣いた。
死ねないことも悲しい。

毒をもってしても動けなくなることも無い。

それよりも裏切られたという感情が黒く渦巻いた。
仲良くやっているつもりだった。

力を人のために使ってきた。

なのに。

そこからは少し感情を出しただけだった。
本当に少し、感情に身を任せただけ。



57: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:28:05.76 ID:RfPYm7oO0

川 - )「正気に戻ったら里は無くなっていた」

ブーンはもう一度彼女の顔を見る。
この姿が、何百、下手をしたら千以上の年を経てきたのだ。

川 - )「それからは、色んな処を転々とした。いつしか酒呑童子と呼ばれるようにもなった」

彼女はふっと空を見上げる。
月が見える方向を教えてくれと言われ、素直に答える。

彼女は軽くお礼を言い、そちらに顔を向ける。
風には艶やかな髪が靡いていた。

川 - )「そして私はここに着いた。この屋敷は使われてなかったものでな、ちょうど良かったよ」

角はいつの間にか生えていたらしい。
最初には生えていなかったと言っていた。

川 - )「また永い時間が経ってな、一つの噂を耳にしたんだ」

妖怪を殴りまわっている人間がいる――――。



59: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:30:04.36 ID:RfPYm7oO0

その男は彼女の元にも現れた。
武器も何も持たず、堂々とした態度で。

『お前が呑んだくれの御姫様か』

川 - )「私は一応穏やかな方でな、争いは好まないのだ」

その言葉は恐らく真実だろう。

川 - )「しかし、その時は少し腹が立ったものだ」

(;^ω^)「え?」

川 - )「使い古した雑巾のようにしてやったよ」

(;^ω^)「あー・・・」

川 - )「馬鹿につける薬は無い、とはよく言ったものだ。あちこちに包帯を巻いて再びやって来た」

『この前は気を抜いていた、今度こそ勝つ』

川 - )「大したことは無かったな」

( ^ω^)「ですよね」



61: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:32:04.16 ID:RfPYm7oO0

川 - )「だがあの男はまたやって来たんだ」

呆れたように話す彼女は心なしか楽しそうだった。

川 - )「声を聞くのも面倒くさくてな、一発殴ろうとしたら」

『まてまて!友人を殴るなよ。桜も咲いているんだし花見でもしよう』

川 - )「私はいつの間にか友人になっていたらしいぞ」

彼女は笑っていた。
楽しそうに、はははと声を出して。

川 - )「桜が咲いているのに気づいたのもその時だった」

彼女は言う。
ずっと見てきた景色に色は無い、と。
そこにあるものが当り前のように思えてしまうらしい。

「人にとっての一生など、私にしてみれば一瞬と感じることもできる」
その言葉に、どこか寂しさを感じた。



64: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:35:44.64 ID:RfPYm7oO0

そして、彼女の言う友人がギコ。
彼は何度も通って来たらしい。

ここらに住む人ではないモノからも一目置かれていたようだ。

川 - )「あいつを待つ時間なんて、私の生きてきた時間に比べれば、塵のようなものだ」

「しかし、その時間が、永遠にも長く感じられたのはなぜだろうな」と続ける。
そして彼女は自身の目に巻かれている包帯を指でなぞった。

それについて話そうと、ゆっくりと声を出し始めた。

川 - )「あいつは私がとめても来るのを止めなかった。
     ここに来ていると知れたら村八分にされてもおかしくはないのに」

彼女は、それでも来てくれるのは内心嬉しく思っていた。
鬼と恐れられている自分の元に、そんな事を思いもせず訪れているのだから。

川 - )「ある時訊いてみたんだ。鬼は怖くないのか、と」

( ^ω^)「・・・答えは?」



66: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:37:36.31 ID:RfPYm7oO0

『どうなったら鬼なんだ?』

『角が生えていて・・・強かったらじゃないか?』

『じゃあこれを見ろよ』

ギコは般若の面を取り出しそれを顔に充てた。
「これで俺も鬼だ」と。

川 - )「馬鹿馬鹿しいだろ。でもその時は、本当に嬉しかった」

彼女は口もとの掛けた面を手に取り、膝に乗せる。
その形を確かめるようにして、手で撫でていた。

川 - )「あいつは言った、旅に出る、と」

川 - )「私は久々に悲しみと言うものを味わった」

( ^ω^)「まさか、そのまま・・・」

川 - )「ああ、手だけになって帰ってきたな」



67: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:39:10.42 ID:RfPYm7oO0

そして彼女は嫌になった。
再び景色に色が無くなることを。

人が自分から離れる事を。

人を嫌いになれない自分のことを――――。

そして彼女はギコに言った。
「これで私から色を奪ってくれ」と。

川 - )「それがこの目隠しだ。これは自分では外せない。
     あいつは、ギコは桜が咲くまでに必ず戻ってくると言った。
     一緒に花見をするのだと言った。だから少しの間我慢してくれと、そう言った」

(  ω )「・・・」

二人だけで桜を見ることは、もうできない。
彼女は待っていたのだ。

蝉が鳴く時期も、袖波草が揺れる時期も、木々が枯れる時期も。

ギコと約束をした時期も。



69: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:41:03.92 ID:RfPYm7oO0

その時、ブーンの左手が彼女の眼に近づいた。
ギコの意識に、ブーンが従ったのだ。

恐らくギコは彼女から景色を奪ったことを後悔していた。
だから、せめてそれを外そうとここまで来たのだろう。

しかし、ブーンの手は憚られた。
他の誰でもない、彼女の手によって。

( ^ω^)「・・・なんでですお」

ブーンは申し訳なさそうに訪ねる。
童子はゆっくりと首を振る。

友人と見れぬ桜など見た所で何もない。

そう言われ、ブーンは肩を落とす。
まず、ブーンは友人と思われていない。
そして何より、ギコの望みをかなえられない、ということ。

川 - )「すまないな」

もう寝よと言う声を聞いてブーンは部屋に通された。
気が沈んだままの睡眠は決していいものではなかった。



71: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:43:29.15 ID:RfPYm7oO0

次の日の朝彼女は聞いた。

「桜は咲いているか?」

ブーンは咲いていないことを伝えると、彼女の隣に座る。
古道とは違い、ここは外と同じだった。

青い空がしっかりと見える。

重く垂れ下がる木には、やはり淡い色が見えるがまだ小さい。
咲くのはもうすぐなのだろう。


その次の日も彼女は聞いた。

ブーンはまた咲いていないことを告げて隣に座る。
こうしている間にも左手の違和感は弱くなっていた。



73: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:45:49.29 ID:RfPYm7oO0

そして次の日、四肢の最後の違和感は完璧に無くなった。
ギコの望みは知っていた。

それを叶えられなくて、悔しくて、こらえていた涙が流れていた。
彼女は申し訳なさそうにするが、やはり、ほどかせてはくれない。

(  ω )「なんで・・・」

ブーンがつぶやいた言葉に反応して振り返る。
彼女の眼には見えていないが、ブーンの頬には涙が伝っている。

( ;ω;)「なんでだお!なんで・・・ギコの望みを聞いてくれなかったお!!」

その瞬間、彼女は唇をかんだ。
そこから、珍しく大きな声が飛んできた。

川 - )「お前に分かるか?自分より小さな者が自分よりも老いて死んでいくさまが。
     小さな子供が次第に私を恐怖の対象としか思えなくなる過程が」

「千年以上生きて、やっと見つかった生きる楽しみが無くなる辛さが・・・」

( ;ω;)「お・・・」

そうだ。そうなのだ。
ギコの望みが、何も相手の望みとは限らない。

時にそれは相手を大きく傷つけると言う事を完全に見失っていた。



75: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:47:46.92 ID:RfPYm7oO0

(  ω )「ごめん・・・お」

彼女は「いいんだ」と短く告げて桜に眼をやった。
そして再び優しく聞いてきた、今日は咲いているのか、と。

( ^ω^)「咲いてないお」

川 - )「そうか・・・」

彼女とギコ。
2人が良かったと思えることは無いのだろうか。

風が吹けば垂れた枝が力なく揺れる。
そこで、一つの考えが浮かぶ。

彼女は友人と桜が見たいのだ。

――――友達になってください。

ブーンは彼女に言った。
なんでもする、だから、僕と一緒に桜を見てくださいと。

それを聞いて、彼女は呆れたように笑う。
まるで、ギコの話をしている時のように。



77: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:49:05.41 ID:RfPYm7oO0

川 - )「人はいつからこんなに愚かになった。鬼と友人になりたがるなど・・・」

( ^ω^)「鬼と友達だったら悪いことでもあるのかお?」

川 - )「それだけで人から避けられるだろう」

( ^ω^)「そんなことないお、絶対とは言えないけど・・・きっと」

観念したように笑う彼女を見て思わずブーンはガッツポーズをとる。
しかし、彼女は簡単には受け入れなかった。

なんでもする、この発言を繰り返した。

(;^ω^)「え、まあ出来る限りなら」

川 - )「そうかそうか」

にたりと笑いをみせ、ブーンに言う。

川 - )「約束を守る者がいいのでな――――」



79: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:50:57.79 ID:RfPYm7oO0

次の日はすっきりとした目覚めだった。
鳥の鳴き声も、風が木々を揺らす音も、何もかも気持ちがいい。

川 - )「ここでお別れだ、楽しかったよ」

入ってきた場所とは違う鳥居に案内された。
ここはうす暗くなく、綺麗な緑が輝いている。

( ^ω^)「ありがとうですお。助かりました」

一人だったら襲われていたかもしれない。
そう考えると感謝してもしきれないぐらいだった。

川 - )「まあ、死なれては気分が良くないのでな」

長い羽織をはためかせながら彼女は言う。
眼にはまだ、包帯のようなものが巻かれている。



81: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:52:18.24 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「ああ、それと」

ブーンが鳥居をくぐろうとすると振り返りながら言った。
帰ったら桜を見てください。

その一言に彼女は微笑み、ブーンの後ろ姿を見送った。

川 - )「・・・桜」

ぼそぼそと呟きながら帰路につく。
そして、縁側に座り、盃に酒を注ぐ。

川 - )「なあ、ギコ。一年なんてすぐなのになあ・・・」

『――――次に桜が咲く季節、再びここに来てくれ。そして、三人で桜を見よう』

川 - )「こんなにも長く感じるのはどうしてなんだろうな」



82: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:53:11.54 ID:RfPYm7oO0

人間を好きな鬼がいた。
人からも、そうでないモノからも恐れられた。

そんな鬼の元に一人の男が春を連れてやって来た。
その男は死んでも、鬼の元までやってきた。

再び春を連れて。

大きく咲いた垂れ桜は、風に揺られて花を散らす。
その姿は、何よりも堂々としていて切ないものだった。

まるでどこかの鬼と自信を重ね合わせるように。

「きっと綺麗なのだろうな」

鬼が手にする盃。
そこに、一枚の桜の花びらが、音もたてず静かに飛び込んだ。



84: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:55:54.96 ID:RfPYm7oO0

<第5話 垂れ桜と鬼の姫> END



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