( ^ω^)キミニヨバレテ、のようです

41: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:10:57.50 ID:RfPYm7oO0

「お前、何者だ?」

疑問を含む静かな声は、嘘をつくことを許さないようだった。
たとえついても見透かされているかのような、そんな声。

「ギコと・・・何人かが混じっているな」

(;^ω^)「・・・」

ゆっくりと立ち上がって、向かい合うようになる。
風が吹くと、目の前に立つ人物の長い髪が揺れた。

そして、理解する。
目の前に立つのも、また、人でない何かなのだと。

「ギコをどうした?」

般若の面に隠されている顔。
声は静かだが、純粋な恐怖心がこみ上げてくる。



44: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:14:27.25 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「そのことでお話が・・・」

「・・・ここでは何だ、付いて来い」

声、口元、それに髪から察するに女性なのだろう。
ふわりと羽織を翻して、通路を歩きはじめた。

ブーンは半ば焦りながらもそれについて行く。

( ^ω^)「あの、さっきのは鬼ですか?」

小さな角の生えた者。
ブーンが知っている「鬼」というものにそっくりだった。

すると女性は初めて笑いをこぼす。
その声にブーンは少し驚くと同時に、なぜか懐かしさを感じた。

「鬼という字を使うが、鬼では無いな」

人から見たら同じだろうが、と付け足す。
あれは「餓鬼」と呼ばれるそうだ。

( ^ω^)「あの――――」

ブーンが女性に質問をしようとすると、それは遮られた。



45: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:16:08.60 ID:RfPYm7oO0

「ここで話を聞こう」

和風の一階建て。
縁側もあり、そこから広い庭を見れる造りだった。

そして庭には目を見張るほど大きな木。
枝は細く垂れ下がっており、周りの木々と比べ緑が無い。

しかし、ポツポツと他の色がある。

女性は家、と言うより屋敷へ入って行く。
ブーンもそれについて行き、中から縁側へと回った。

「さあ、話を聞こうか」

女性は漆塗りの盃に瓢箪から酒を注ぐ。
紅いそれに注がれた酒からは、得体のしれない魅力を感じられた。

( ^ω^)「では、話ますお――――」

女性は般若の面をつけたままこちらを向く。
それでも下にある眼はしっかりとブーンを捉えているようだった。



47: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:18:04.18 ID:RfPYm7oO0

「・・・」

話を聞き終えた女性はしばらく沈黙を続けていた。
それからぼそりと呟いた、「夭折だな」と。

( ^ω^)「ギコさんは僕をここに連れてきました」

先程話した内容の要点を再び言う。
肝心のギコは何も反応を示さない。

だが、まだ居なくなっていないことだけは分かっていた。

「私を退治でもしに来たのか」

そう言って鼻で笑うと酒を喉に通した。
その姿は何とも艶やかで、思わず見とれてしまっていた。

「ん?この面が気になるか?」

(;^ω^)「え?いや、まあ・・・はい」

今見惚れていたのはそういう訳ではなかった。
しかし、面が気になっていたと言うのも事実なので、肯定してしまった。



49: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:19:31.82 ID:RfPYm7oO0

「見せてやるよ。そして教えてやる。私と、ギコのこと」

女性はそう言って面を外した。
月に照らされてそっと顔が見える。

そしてブーンは改めて思う。
やはり、人ではなかった、と。

川 - )「驚いたか?」

女性は微笑みながらブーンの方を見る。
しかし、その表現が正しいのかははっきりとしない。

眼には包帯のようなものが巻かれていた。
そして、その少し上。

そこには二つの小さな突起。
般若の面と同じように――――。

(;^ω^)「・・・鬼?」

川 - )「そう、本当の鬼だ。酒呑童子と呼ばれている」

凛とした声は、高貴なものを感じさせた。
そして何よりも鬼と言う言葉が頭から離れなかった。



51: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:22:14.03 ID:RfPYm7oO0

昔、人里に一人の女の子が生まれた。
何の変哲もない、可愛らしい赤ん坊。

彼女は大切に育てられ、すくすくと成長した。

しかし、15歳になった時、彼女は一口の酒を飲んだ。
決して飲んではいけないと言われていて、祀られていた酒だった。

そして変化が起こる。
正しくは「起こらなかった」なのかもしれない。

彼女の成長は20歳の姿で止まった。
大人たちはその事を不思議に思い彼女に訊いた。

「あの酒を飲んだのではなかろうな」

それに頷いてみせると、大人たちは何ともいえぬ表情をした。
怒りを露にするものもいれば、悲しそうな顔をしている者もいる。



53: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:24:00.82 ID:RfPYm7oO0

それは鬼の角を煎じて造った酒だった。
一口飲めば、永久の命を手に入れるとともに鬼になる。

つまり、その時点で人ではなくなってしまう、とのことだった。
酒を捨てるわけにもいかず、里で祀ってきたのがこの結果となった。

それからは彼女は何年も、何十年もずっと生き続けた。
周りからは神と崇められ、人でなくなってしまっても仲良くやっていた。

桜の咲く季節には、桜を囲み祭りを催した。
唄い、踊り、騒ぐ。

しかし、それらはいとも簡単に崩れ落ちた。
桜の祭りの際、人々は彼女の食べ物に毒を仕込んだのだ。

死なずとも、動けなくなるだろう。
そこで仕留めよう、とのことだった。

人々はいつしか彼女に恐怖を感じていたのだろう。
老いず、永く生きるその姿に。



55: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:26:01.40 ID:RfPYm7oO0

彼女は泣いた。
死ねないことも悲しい。

毒をもってしても動けなくなることも無い。

それよりも裏切られたという感情が黒く渦巻いた。
仲良くやっているつもりだった。

力を人のために使ってきた。

なのに。

そこからは少し感情を出しただけだった。
本当に少し、感情に身を任せただけ。



57: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:28:05.76 ID:RfPYm7oO0

川 - )「正気に戻ったら里は無くなっていた」

ブーンはもう一度彼女の顔を見る。
この姿が、何百、下手をしたら千以上の年を経てきたのだ。

川 - )「それからは、色んな処を転々とした。いつしか酒呑童子と呼ばれるようにもなった」

彼女はふっと空を見上げる。
月が見える方向を教えてくれと言われ、素直に答える。

彼女は軽くお礼を言い、そちらに顔を向ける。
風には艶やかな髪が靡いていた。

川 - )「そして私はここに着いた。この屋敷は使われてなかったものでな、ちょうど良かったよ」

角はいつの間にか生えていたらしい。
最初には生えていなかったと言っていた。

川 - )「また永い時間が経ってな、一つの噂を耳にしたんだ」

妖怪を殴りまわっている人間がいる――――。



59: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:30:04.36 ID:RfPYm7oO0

その男は彼女の元にも現れた。
武器も何も持たず、堂々とした態度で。

『お前が呑んだくれの御姫様か』

川 - )「私は一応穏やかな方でな、争いは好まないのだ」

その言葉は恐らく真実だろう。

川 - )「しかし、その時は少し腹が立ったものだ」

(;^ω^)「え?」

川 - )「使い古した雑巾のようにしてやったよ」

(;^ω^)「あー・・・」

川 - )「馬鹿につける薬は無い、とはよく言ったものだ。あちこちに包帯を巻いて再びやって来た」

『この前は気を抜いていた、今度こそ勝つ』

川 - )「大したことは無かったな」

( ^ω^)「ですよね」



61: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:32:04.16 ID:RfPYm7oO0

川 - )「だがあの男はまたやって来たんだ」

呆れたように話す彼女は心なしか楽しそうだった。

川 - )「声を聞くのも面倒くさくてな、一発殴ろうとしたら」

『まてまて!友人を殴るなよ。桜も咲いているんだし花見でもしよう』

川 - )「私はいつの間にか友人になっていたらしいぞ」

彼女は笑っていた。
楽しそうに、はははと声を出して。

川 - )「桜が咲いているのに気づいたのもその時だった」

彼女は言う。
ずっと見てきた景色に色は無い、と。
そこにあるものが当り前のように思えてしまうらしい。

「人にとっての一生など、私にしてみれば一瞬と感じることもできる」
その言葉に、どこか寂しさを感じた。



64: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:35:44.64 ID:RfPYm7oO0

そして、彼女の言う友人がギコ。
彼は何度も通って来たらしい。

ここらに住む人ではないモノからも一目置かれていたようだ。

川 - )「あいつを待つ時間なんて、私の生きてきた時間に比べれば、塵のようなものだ」

「しかし、その時間が、永遠にも長く感じられたのはなぜだろうな」と続ける。
そして彼女は自身の目に巻かれている包帯を指でなぞった。

それについて話そうと、ゆっくりと声を出し始めた。

川 - )「あいつは私がとめても来るのを止めなかった。
     ここに来ていると知れたら村八分にされてもおかしくはないのに」

彼女は、それでも来てくれるのは内心嬉しく思っていた。
鬼と恐れられている自分の元に、そんな事を思いもせず訪れているのだから。

川 - )「ある時訊いてみたんだ。鬼は怖くないのか、と」

( ^ω^)「・・・答えは?」



66: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:37:36.31 ID:RfPYm7oO0

『どうなったら鬼なんだ?』

『角が生えていて・・・強かったらじゃないか?』

『じゃあこれを見ろよ』

ギコは般若の面を取り出しそれを顔に充てた。
「これで俺も鬼だ」と。

川 - )「馬鹿馬鹿しいだろ。でもその時は、本当に嬉しかった」

彼女は口もとの掛けた面を手に取り、膝に乗せる。
その形を確かめるようにして、手で撫でていた。

川 - )「あいつは言った、旅に出る、と」

川 - )「私は久々に悲しみと言うものを味わった」

( ^ω^)「まさか、そのまま・・・」

川 - )「ああ、手だけになって帰ってきたな」



67: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:39:10.42 ID:RfPYm7oO0

そして彼女は嫌になった。
再び景色に色が無くなることを。

人が自分から離れる事を。

人を嫌いになれない自分のことを――――。

そして彼女はギコに言った。
「これで私から色を奪ってくれ」と。

川 - )「それがこの目隠しだ。これは自分では外せない。
     あいつは、ギコは桜が咲くまでに必ず戻ってくると言った。
     一緒に花見をするのだと言った。だから少しの間我慢してくれと、そう言った」

(  ω )「・・・」

二人だけで桜を見ることは、もうできない。
彼女は待っていたのだ。

蝉が鳴く時期も、袖波草が揺れる時期も、木々が枯れる時期も。

ギコと約束をした時期も。



69: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:41:03.92 ID:RfPYm7oO0

その時、ブーンの左手が彼女の眼に近づいた。
ギコの意識に、ブーンが従ったのだ。

恐らくギコは彼女から景色を奪ったことを後悔していた。
だから、せめてそれを外そうとここまで来たのだろう。

しかし、ブーンの手は憚られた。
他の誰でもない、彼女の手によって。

( ^ω^)「・・・なんでですお」

ブーンは申し訳なさそうに訪ねる。
童子はゆっくりと首を振る。

友人と見れぬ桜など見た所で何もない。

そう言われ、ブーンは肩を落とす。
まず、ブーンは友人と思われていない。
そして何より、ギコの望みをかなえられない、ということ。

川 - )「すまないな」

もう寝よと言う声を聞いてブーンは部屋に通された。
気が沈んだままの睡眠は決していいものではなかった。



71: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:43:29.15 ID:RfPYm7oO0

次の日の朝彼女は聞いた。

「桜は咲いているか?」

ブーンは咲いていないことを伝えると、彼女の隣に座る。
古道とは違い、ここは外と同じだった。

青い空がしっかりと見える。

重く垂れ下がる木には、やはり淡い色が見えるがまだ小さい。
咲くのはもうすぐなのだろう。


その次の日も彼女は聞いた。

ブーンはまた咲いていないことを告げて隣に座る。
こうしている間にも左手の違和感は弱くなっていた。



73: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:45:49.29 ID:RfPYm7oO0

そして次の日、四肢の最後の違和感は完璧に無くなった。
ギコの望みは知っていた。

それを叶えられなくて、悔しくて、こらえていた涙が流れていた。
彼女は申し訳なさそうにするが、やはり、ほどかせてはくれない。

(  ω )「なんで・・・」

ブーンがつぶやいた言葉に反応して振り返る。
彼女の眼には見えていないが、ブーンの頬には涙が伝っている。

( ;ω;)「なんでだお!なんで・・・ギコの望みを聞いてくれなかったお!!」

その瞬間、彼女は唇をかんだ。
そこから、珍しく大きな声が飛んできた。

川 - )「お前に分かるか?自分より小さな者が自分よりも老いて死んでいくさまが。
     小さな子供が次第に私を恐怖の対象としか思えなくなる過程が」

「千年以上生きて、やっと見つかった生きる楽しみが無くなる辛さが・・・」

( ;ω;)「お・・・」

そうだ。そうなのだ。
ギコの望みが、何も相手の望みとは限らない。

時にそれは相手を大きく傷つけると言う事を完全に見失っていた。



75: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:47:46.92 ID:RfPYm7oO0

(  ω )「ごめん・・・お」

彼女は「いいんだ」と短く告げて桜に眼をやった。
そして再び優しく聞いてきた、今日は咲いているのか、と。

( ^ω^)「咲いてないお」

川 - )「そうか・・・」

彼女とギコ。
2人が良かったと思えることは無いのだろうか。

風が吹けば垂れた枝が力なく揺れる。
そこで、一つの考えが浮かぶ。

彼女は友人と桜が見たいのだ。

――――友達になってください。

ブーンは彼女に言った。
なんでもする、だから、僕と一緒に桜を見てくださいと。

それを聞いて、彼女は呆れたように笑う。
まるで、ギコの話をしている時のように。



77: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:49:05.41 ID:RfPYm7oO0

川 - )「人はいつからこんなに愚かになった。鬼と友人になりたがるなど・・・」

( ^ω^)「鬼と友達だったら悪いことでもあるのかお?」

川 - )「それだけで人から避けられるだろう」

( ^ω^)「そんなことないお、絶対とは言えないけど・・・きっと」

観念したように笑う彼女を見て思わずブーンはガッツポーズをとる。
しかし、彼女は簡単には受け入れなかった。

なんでもする、この発言を繰り返した。

(;^ω^)「え、まあ出来る限りなら」

川 - )「そうかそうか」

にたりと笑いをみせ、ブーンに言う。

川 - )「約束を守る者がいいのでな――――」



79: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:50:57.79 ID:RfPYm7oO0

次の日はすっきりとした目覚めだった。
鳥の鳴き声も、風が木々を揺らす音も、何もかも気持ちがいい。

川 - )「ここでお別れだ、楽しかったよ」

入ってきた場所とは違う鳥居に案内された。
ここはうす暗くなく、綺麗な緑が輝いている。

( ^ω^)「ありがとうですお。助かりました」

一人だったら襲われていたかもしれない。
そう考えると感謝してもしきれないぐらいだった。

川 - )「まあ、死なれては気分が良くないのでな」

長い羽織をはためかせながら彼女は言う。
眼にはまだ、包帯のようなものが巻かれている。



81: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:52:18.24 ID:RfPYm7oO0

( ^ω^)「ああ、それと」

ブーンが鳥居をくぐろうとすると振り返りながら言った。
帰ったら桜を見てください。

その一言に彼女は微笑み、ブーンの後ろ姿を見送った。

川 - )「・・・桜」

ぼそぼそと呟きながら帰路につく。
そして、縁側に座り、盃に酒を注ぐ。

川 - )「なあ、ギコ。一年なんてすぐなのになあ・・・」

『――――次に桜が咲く季節、再びここに来てくれ。そして、三人で桜を見よう』

川 - )「こんなにも長く感じるのはどうしてなんだろうな」



82: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:53:11.54 ID:RfPYm7oO0

人間を好きな鬼がいた。
人からも、そうでないモノからも恐れられた。

そんな鬼の元に一人の男が春を連れてやって来た。
その男は死んでも、鬼の元までやってきた。

再び春を連れて。

大きく咲いた垂れ桜は、風に揺られて花を散らす。
その姿は、何よりも堂々としていて切ないものだった。

まるでどこかの鬼と自信を重ね合わせるように。

「きっと綺麗なのだろうな」

鬼が手にする盃。
そこに、一枚の桜の花びらが、音もたてず静かに飛び込んだ。



84: ◆1opJeO9WQk :2009/03/07(土) 22:55:54.96 ID:RfPYm7oO0

<第5話 垂れ桜と鬼の姫> END



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