( ^ω^)ブーンは、春がくるたび戸惑うようです
- 3: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:05:53.86 ID:uWZcN9VN0
- 「しくしく、めそめそ」
ξ )ξ(……も−、いつまでないてるつもりなのよ!)
(……う、だって……ひっく)
ξ )ξ(だってじゃないわよ! おとこのこでしょ!)
(ですが)
ξ# )ξ(うるさい!!)
ポカ ポカッ
(いたいいたいいたい! ちょ、ぎおんとはうらはらにほんきでいたい!!)
<チヲ ミル! チヲミルヨ!!
<ヤカマシイ!!
- 5: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:08:17.22 ID:uWZcN9VN0
- ξ )ξ(ほら、いいかげんたちなさいよ)
(うう、つんちゃんひどいお…なんでなぐるんだお…)
ξ )ξ(ぶーんが、すぐなくからでしょ)
(たたいたって、ないてるこは、なきやまないお……)
ξ ー )ξ(ううん、あたしはしってるもの、ぶーんは、ほんとうは……)
ξ ー ):::(ぶーんは::::::::::::と::::
ξ -…::::::::
::::;:::;;:::::::::::
(*-∀-)
( ;ω;)(あ……)
- 7: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:11:02.04 ID:uWZcN9VN0
- どうして、僕は、こんな事を思い出しているんだろう。
こんな時に、何故、なんで今なんだ、こんな……。
( ;ω;)「うっ、ぐ………う、うぇ……」
さて、今の僕が泣き止むまで、ちょっとばかり、昔話を聞いてほしい。
昔の僕は、とっても弱かったのだ、転んでは泣き、悲しいお話を聞いては泣き、
おとうさんが居ない事に泣き、怖い夢をみるたびに、別れのたびに、泣いていたんだ。
……そういえば、昔は本当に怖い夢が駄目だったなぁ。
まあ、怖い夢っていうのだから、それが当然なんだけど。
当時の僕は、よく怖い夢を見ては、夜中に目を覚まし、そのまま一人で起きていた。
どんな暗闇より、お化けより、怖い夢をみる事が怖くて、眠りたくなかったから。
というか、眠ること自体、好きじゃなかった。
睡眠という存在に、恐怖を感じていた。
- 9: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:15:17.33 ID:uWZcN9VN0
- 部屋を暗くするなんて、もってのほか。
そんな事したら、こわい夢ライオンがやってきて、僕に怖い夢をみせるんだよ。
本当に、見たことあるもの、暗い中に大きな影が、ひええ。
しかも奴らは暗い部屋を好むんだよ、だから、明るくしなきゃいけないんだ。
とまあ、そんな想像もあいなって、寝るのが嫌いだった。
まあ……なぜ、ライオンだったのかは、今ではよく分からないし、
いつから、目を閉じる事が怖くなくなったのかも、覚えていない。
だけど、怖い夢っていうのは、今でも思い出せる。
ほとんど、毎日のように見ていたから。
それはいつも、誰かに追いかけられて、殺される夢だった。
夢の中で僕は、いつも懸命に逃げて、何処かに身を潜めるんだけど、
必ず見つかってしまうんだ、どんなに上手にかくれても、見つかってしまう。
- 13: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:18:10.89 ID:uWZcN9VN0
- 一度、ドラゴンボールに出てきた、セルに追いかけられた事もある、
これは、今になってみると、もうギャグのレベルだなぁ…。
まあ、それはさておき。
見つかって、僕は殺されるんだ。
もう駄目、もう死にます、って直前で、いつも飛び起きる。
これが、いつものパターンだった。
目が覚めてからも、汗だくで、心臓もやばい、静かだから余計にやばい。
こんなのが、年中だ、正直……幼心にはかなりきつかった。
けど実際には、そういった類の夢は、むしろ良い物らしい。
殺される夢は、自分が、生まれ変わろうとする証であり。
追われる夢は、自分が、嫌な事を忘れようとする証であるそうだ。
……確かに、改めて考えてみると、なんか納得のいく話だ。
- 14: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:20:14.44 ID:uWZcN9VN0
- つまり、僕はそうやって。
ξ )ξ「」
ξ )ξ「 」
大事なことを、たくさん、忘れていったんだろう。
色々なことを、思い出せないようにと、忘れることで、自分を保った。
いやな事や、苦しいことは、楽しいことより、記憶に残るから。
思い出さないことで、無意識に、忘れようとしていた……のかもしれない。
だけど、ああ、だけど、それでも一つだけ。
一つだけ、残っている。
- 16: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:23:26.58 ID:uWZcN9VN0
- 記憶はこんなにも、色あせてしまったのに。
思い出せることなんて、ほとんどないのに。
この想いだけは、消えたりしなかった。
一度は届きかけながら、春の日に散った片道の恋。
別れの言葉も、あの子の言葉も、あの約束さえも、色あせてしまったのに。
だけど、この想いだけは、決して色あせたりはしなかった。
そう、今でも、オレンジ色の海岸に映える夕陽のような、あたたかな光となって、
さざ波の寂しさと、ほろ苦い切なさを内包しながら、確かに…残っていたんだ。
- 19: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:27:30.04 ID:uWZcN9VN0
- それを、僕は今、はっきりと思い出していた。
だから、一向に涙が止まらないってのに、ああ、もう、どうしてこんな。
(;*-∀-)「はぁ……いつまで泣いてんだよ」
( ;ω;)「いや、だって…自分で蹴っておいて……」
こんな事を、なぜ今、なぜこの人を見て、思い出してるんだ。
僕はどうして、さっきから、あの子の名前を当てはめているんだ。
(#*゚∀゚)「だってじゃねえっ、しゃっきりしやがれ、男だろ!」
( ;ω;)(あう……)
視界が滲んでいく、すごいな、こんなに出るものなのか、涙は。
このままでは、干からびて、魚みたいにぴくぴくしちゃうんじゃなかろうか。
そんな事を考えながら、体を起こして、顔をあげると。
そこにはやっぱり、猫さんが僕を見下していた。
思わず僕は、その名を声にだしてしまって、怪訝な顔をされた。
(*゚∀゚)「……つん? 誰だそりゃ」
- 21: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:30:51.05 ID:uWZcN9VN0
- 違うことなんて、考えるまでもない、わかってる、わかっているんだ。
だと言うのに、どうしても、頭に浮かんだ名前が離れない。
(;*゚∀゚)「な、なんだその目は……変な目でこっち見んなって」
じっと見ていると、猫さんは何だか、急にそわそわしだして、
目をそらし、頬をかきながら「…しょうがねえなぁ」と、小さく口にした。
(*゚∀゚)つ「うりゃ」
(; ω )「あたっ」
そして、僕の頭に、小さな手がぽんと置かれた。
互いに口にした、言葉とは裏腹に、それはとても優しくて。
年がいもなく、心休まるヌクモリティを感じて、鼻を一度すすった。
でも涙は拭わなかった、もう少しだけ、手のぬくもりを感じていたかったから。
- 22: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:34:50.83 ID:uWZcN9VN0
- 姿形なんかまるで違うし、口調だってぜんぜん違う、だと言うのに、
僕は、そっくりだと思ってしまって、その姿に見惚れていた。
ξ ー )ξ
ああ、まるで、僕の中にいるあの子が、そのまま成長したかのようだ。
夜の校舎、静かで人気のない廊下、僕ら二人だけが居る、ここはふしぎのせかい。
窓からさしこむ薄明かりは、とても幻想的で、よけいに現実味を薄れさせる。
猫さんの髪は、ほんのり赤みがかかった銀色、つまりはピンク。
そこに、夜が与えた灰色のフィルターが被さり、くすんだ色になって、
薄暗闇に、はっきりと輪郭を映し出すそれは、まるで夜桜のよう。
これなら届きそうだと、つい、手が出そうになった、
けど僅かに上がった手は、すぐに慌てて引っ込めた。
桜に伸ばしかけた手に込められた、この想いを、
ひたすら、違う違うと繰り返し、否定しながら。
- 24: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:36:30.67 ID:uWZcN9VN0
- ;;; :::: ... ::::: ::;;;:::.....
;;;; ,,, 、、 ,i' :;;::.,,: 丶;;:;;:
ヾヾ ゞ ```
ゞゝ;;;ヾ :::,r' ` ` i、;;;ヽ;;; ヾ;;;
i;;;::::′~^ ` ` ;;; ″~ ~
ii;;::iヽ / ` ゞ:,,,:: ヾ 〃::;:
iii;::i ` ` ` ii;;;;::: ::
iii;;::i `E「夕陽の再開、はじめました」 iii;;;;::: ::
iiiii;;::i ` ` iii;;;;::: ::
iii.,ii;;:i, iii;;;;::: :::
iiiii゚i;;:i ` ` iiiii;;; :::::
iiiiiii;;::i ||iiii;;;;::::
iiiiiii;;::::ヽ;;,,';;"'';;";;""~"`"`;.";;""'"~"`~"'';;,,, /iiiiii;;;;o;;;
iiiiiii;;::;';;" `;;/i:ii iii;;;;;::::
- 27: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:38:39.71 ID:uWZcN9VN0
- とぼとぼ……。
なんて擬音がぴったりな感じで、僕はひとり、帰路を行く。
ほう、と静かに吐きだす息は、ため息にもならずに、風にのって消えていく。
( ^ω^)「……なんか、まだ頬がぱりぱりするお……」
あれから、僕はとくに何をするでもなく、帰ることになった。
と言いますか、強制的に帰らせられた、というか。
呼ばれた理由も聞いてないし、他にも、聞きたいことはあったんだけども…。
(*゚∀゚)(さて、んじゃ…とりあえずお前は帰れ)
(;^ω^)(へ? で、でも)
(*゚∀゚)(いいから、今日のとこは大人しくカエレ、な?)
ホラホラ (*゚∀゚)б);^ω^)(は、はぁ……)
端的に言うと、このような感じでして、それはもう、
有無を言わさない感じでして、僕は、すごすご引き下がったのだった。
- 29: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:41:16.41 ID:uWZcN9VN0
- そんなこんなで、猫さんに見送られながら、その場を離れ、
校舎を出て、グラウンドを抜け、やがて今に至る。
夜の住宅街は、やっぱり静かで、遠い排気音だけが空に響いてた。
あとは、歩くたびに、アスファルトにある、小さな砂利がザッ、と鳴るくらい。
聞こえてくるのは、それくらいだ、それもそのはず。
帰宅ラッシュも過ぎて、ゴールデンタイムもちょい過ぎたら、人なんか通らないさ。
せっかく誰も居ないので、ムーンウォークを始めた、なかなか難しい。
ああ、ムーンが輝く空の下でするムーンウォーク、ああ、なんということでしょう。
気付いたら、歩いてきた道をかなり戻っていた。
くそ、せめて逆向きにすればよかった。
- 31: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:44:05.06 ID:uWZcN9VN0
- しょうがないので、地球と喧嘩しながら家路を急ぐ。
でも地球の奴はやたら硬い、蹴っても無反応だ、くそっ、このっ、このっ。
でもそうこうする間に帰り着いた。
( ^ω^)「ふ、今回は…このくらいで勘弁してやる…」
僕は口をぬぐい、捨て台詞をのこし、玄関へと向かった。
しかし……この時、僕はまだ、気付いてはいなかった。
地球だと信じて戦っていた相手は、アスファルトと呼ばれる存在であり。
守護者たちが造りし、外部装甲の一部に過ぎない、ということを……。
……。
- 33: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:47:23.11 ID:uWZcN9VN0
- <ガシャガシャガシャシャ
(;^ω^)「うわっ!? なになになにごと!?」
おはようございます、朝です。
僕は、部屋にひびく大きな騒音で、飛び起きました。
その音は、とても金属的で、何かをひっかくような音でした。
(;^ω^)「べ、ベランダから…?」
眠気の余韻ものこさず、一気に目を覚ました僕は、音のする方を見ました、
外の明るさを受けて、ぼんやり光るカーテン、そこに、ハシゴ状の影がうつっていた。
…奴か、あの、良い尻を持った男。
そう確信すると、なんだかギシギシアンアン聞こえてきた。
ハシゴを登ると言う、性行為によって生まれる音だった。
く、とうとう…こんなところにまで……。
- 36: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:49:41.73 ID:uWZcN9VN0
- 僕は立ち上がり、そっとベランダへと向かった。
そして……ハシゴの影に、人影が映りこんだ、その瞬間。
カーテンに手をやり、勢いよく開け放った。
シャッ、とスライドするカーテン、まばゆい光が差し込む。
( ゚∋゚)「!!」
そして、その影となりて、予想通り、あの男がそこに居た、
ハシゴを登りかけた姿で、こっちを見ている。
なんという巨躯だ、これは、僕では歯が立つまい。
このままでは、やられる、僕は壁に尻をあずけ、開発を防がんとする。
しかし、そこで男は、予想外の行動に出た。
( ゚∋゚)「ふっ」
(; ω )(……え?)
確かに、僕を見て、微笑んだのだ、まるで、そう……。
「案ずるな、俺はただ朝を皆に知らせたいだけだ」とでも言うかのように。
- 38: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:52:37.44 ID:uWZcN9VN0
- ……。
早めに出たので、人もそう多くない、朝の通学路。
何の気なしに歩いていると、前方に、見慣れたうしろ姿があった。
すらりと伸びた手足、凛とした姿勢に、背中で揺れる長い黒髪。
走れば追いつけるけど、さて、声をかけるべきか、止めておくべきか……。
川 ゚ -゚)「?」
(;^ω^)「ありゃ?」
とか考えてたら、クーさんはふと立ち止まり、その場でふりかえった。
そして、僕を見つけると、そのまま回れ右、来た道を戻って、こっちへ向かってくる。
川 ゚ー゚)「おはよう、内藤君」
(;^ω^)「おはようだお」
朝特有の、清涼感のある澄んだ空気に、クーさんの穏やかな声が響き。
交わした言葉はそれだけで、僕らは並んで、一緒に歩き始めた。
- 39 名前: ◆aYo30Ks4N6 [ヒント:再会の再開] 投稿日: 2008/11/03(月) 20:55:25.90 ID:uWZcN9VN0
- ( ^ω^)「クーさん、いつもこの時間なのかお?」
川 ゚ -゚)「いや、もうちょっと遅いかな」
( ^ω^)「そっかお」
川 ゚ -゚)「内藤君こそ、ずいぶん早いんだな」
(;^ω^)「ああ……ちょっと変な目覚ましが居て」
川;゚ -゚)「?」
(;^ω^)(………それにしても)
……何だろう、さっきから、妙に照れくさいぞ。
別に見られちゃいないのに、周りの視線がやたら気になる。
ああ、もう、そわそわしてしょうがない……。
この隣に女の子がいる、という、この存在感が、うう、落ち着かない……。
とりあえず、距離にやたら気を使う、たまに肩がぶつかりそうになるし。
それに、歩く速度も違うから、つねに視野を警戒して、歩幅も合わせないと…。
(;^ω^)「って、あれ?」
- 40: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 20:58:15.21 ID:uWZcN9VN0
- とかなんとか考えながら、ふと気付けば、横に居るはずの姿がない、
いつの間にか、消えた、と思ったら、後ろの方から声をかけられた。
川 ゚ -゚)「……どこに行くんだ?」
いかんいかん、学校はこっちじゃなかった。
クーさんは、曲がり角の手前で、首をかしげていた。
(;^ω^)「あ、ごめんお」
川 ゚ -゚)「…しょうがないな」
慌てて道を戻ると、クーさんは肩をすくめて、手を差し出してきた。
……え、なに、この手は、どういうこと?
とか困惑してると、クーさんが強引に僕の手をとった。
か細くて、ひんやりとした指が、手のひらに絡みつく。
ちょっとこう、背筋にきた。
(;^ω^)「え、ちょっと、あの」
川 ゚ー゚)「……君の手は、あたたかいな」
- 46: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:01:31.87 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「な、ななな、な、なんで手を…?」
川 ゚ -゚)「…何故って、放っておくと、また迷いそうじゃないか
君、たしか初日も道に迷って、遅刻していただろう?」
(;^ω^)「いやいやいやいや、大丈夫だお、さすがにもう迷わないお」
川 ゚ー゚)「どうかな、今だって、ふらふらどっか行きそうになってたじゃないか」
(;^ω^)「いやあれはジョークで、そ、そう、あれはわざとだお!」
川;゚ -゚)「つまり…こうして、手を繋ぐために、わざと道を?」
(;^ω^)「ちょ、なんでそうなるんだお!?」
川 ゚ -゚)「……」
うう、そんな真っ直ぐ見つめられると、ちょっとあの、困ります。
ていうか、さっきから心臓、やばいくらい鳴ってるんだけど。
もしかして…手をつたって聞こえてやしないだろうか。
川 ゚ー゚)「…ふふ、冗談だよ」
- 48: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:04:09.86 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「……そうかお、なら、とりあえず手を…」
川 ゚ -゚)「む、嫌なのか?」
(;^ω^)「嫌とかじゃなくて……その」
恥ずかしい……。
川 ゚ー゚)「ならいいじゃないか、ほら、早く行こう」
(;^ω^)「あーれー」
結局、僕はクーさんの笑顔に勝てなくて、
引きずられるように、学校をめざした。
ああ、先生……ノウと言える、強い意志がほしいです……。
……。
- 50: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:06:57.19 ID:uWZcN9VN0
- 学校が近づいてくると、生徒もたくさん見え隠れする。
ここまで来ると、お互いに、どちらともなく、繋いだ手を離した。
同時に、ぬくもりも薄れて、手のひらが妙に寒い、
まだ残る温かさを求めて、拳をにぎった。
クーさんの手なんか、あんなに冷たかったし、きっと僕より……。
自然と、視線が下がってしまう、これ、さっきまで繋いでたんだよね……。
そこまで考えて、自分が、名残惜しんでいると気付いた。
こりゃいかん、と視線をあげると、横顔が見えた。
寒さのせいだろうか、クーさんの耳、ちょっと赤くなってる。
それからは、特にこれといった会話もなく、何事もないまま教室に着いた。
_
( ゚∀゚)「よお」
( ^ω^)「おいすー」
すると、何故かジョルジュが居て、僕を見るなり、ゴミ箱に何かを投げた。
雑巾っぽかったけど、なんだろう、まあいいや、それよりも……。
- 55: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:09:48.10 ID:uWZcN9VN0
- 川 ゚ -゚)「ん? 朝練はどうしたんだ?」
_
( ゚∀゚)「いやさ、今日のジョルジュは、ちょっと具合が悪いという事になっててな」
( ^ω^)「それって…つまりさぼりじゃ」
_
( ゚∀゚)「体調不良ってんだろwwwwwwwww」
(;^ω^)「ちょwwwwwwギブギブwwwwwwww」
<カラン
川 ゚ -゚)「ん?」
( A )
(;^ω^)「…って、あれ?」
あれ、なんか今、入り口のほうで、誰かこっちを睨んでいたような…。
しかも……なんか、ちょっと、やたら鋭い視線だった気が…。
_,
( ゚∀゚)「お、どうした?」
(;^ω^)「いや……なんでもないお」
- 59 名前: ◆aYo30Ks4N6 [>>53SOW] 投稿日: 2008/11/03(月) 21:12:16.97 ID:uWZcN9VN0
- 川 ゚ -゚)「ところで、今なんか落としたよ? はい」
(;^ω^)「え? あ……ありがとだお」
_
(;゚∀゚)「……は!?」
呆けた僕へと、クーさんが何かを手渡す。
例の、猫さんがくれた、変なバッジだった。
ああ、さっき暴れたときに落としたのか……。
危ない危ない、失くすなって言われてるんだから、気をつけないと。
ていうか、ジョルジュは何で、いきなり驚いてるんだ?
しかも何か、お、お、おま、って口ごもってる、変なの。
川;゚ -゚)「…?」
(;^ω^)「どったの?」
_
(;゚∀゚)「おいおいおい、お前、今のそれ、どうしたんだよ!?」
(;^ω^)「あー、なんか…借りた…?」
_
(;゚∀゚)「はあ? 借りたって……んなアホな……」
- 63: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:15:17.15 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「あれ、ジョルジュ、これが何か知ってるのかお?」
_
(;゚∀゚)「知らいでかっての! ヴィッパーの印じゃねえか!!」
川;゚ -゚)「え、あれがそうなの?」
_
(;゚∀゚)「ああ、間違いねえ、部活の先輩が持ってて、見たことあるから分かる」
川;゚ -゚)「そ、そうなのか……」
む、二人はこれが何なのか、知ってるようだ。
ちょっと疎外感、まあしょうがないけど、何せ転入生ですし。
(;^ω^)「で、何なんだお? その、ヴィッパーの印ってのは?
アルテマウエポンでも作るのかお?」
_
(;゚∀゚)「アルテマ……? いや、まあいいや、そいつはなぁ…」
改めて言うが、この学校は、とんでもない広大さを誇っている。
隠れ水田、なんてものが平気である事からも、敷地の余裕が伺える。
そして、そんだけ広いと、もう教師だけでは、全てのトラブルに対応しきれない。
こうして生まれたのが、生徒によって構成された、いわゆる、風紀委員というやつだ。
- 65: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:18:55.84 ID:uWZcN9VN0
- ( ^ω^)(ああ、そういえば……最初に、そんなようなのを、聞いたような)
_
( ゚∀゚)「ちなみに風紀委員、なんて大人しげな名前してるがな……
実際は、むしろあれだ、警察みてーなもんでさ、誰も逆らえねえ」
(;^ω^)「警察……」
中でも、一部の選ばれた生徒には、教員並みの権限が与えられているらしく。
……わかりやすく言えば、その生徒の独断で、停学、退学処理まで執行できる、とかで。
更には、他にも様々な特権があり、学校のルールさえ通じない、治安維持部隊。
まさに特別待遇者、そんな彼らは、ヴィッパーと呼ばれている……そうな。
_
( ゚∀゚)「わかったか?」
(;^ω^)「……う、うーん…まあ、なんか凄い人たちなんだって事は……」
_
(;゚∀゚)「んで、本題だが、そいつらヴィッパーにはな、もう一つ役目があんだよ」
(;^ω^)「役目かお?」
- 67: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:21:31.82 ID:uWZcN9VN0
- _
( ゚∀゚)「ああ……後継者を作る、っていうな」
(;^ω^)「こ……はあ? なにそれ?」
_
( ゚∀゚)「ヴィッパーは、選ばれた奴がなるって言ったろ?
これは、他でもない、現ヴィッパーが自分で選ぶようになってんだよ」
教員が選んだんじゃ、上辺しか見れない事もあるからな、とジョルジュは続ける。
なるほど……確かにそうかもしれない。
もし、変な奴がそんな権限持ったら、大変だもの。
そして、その後継者を選ぶためにできたシステムこそ。
川 ゚ -゚)「…スール制度」
そう、ロサキネンシスアンブゥトン、薔薇の蕾。
つまりは、自分で部下を作って、育てるわけだ、後継者を。
_
(;゚∀゚)「……よく分からんが、まあ、多分そんな感じだな」
- 69: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:23:59.99 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「つまり、このバッジが…その妹である証、かお?」
川 ゚ -゚)「そう、スールの証だよ」
(;^ω^)「ええ……じゃあ、お姉さま、とか呼ばなきゃ駄目なの…?」
川 ゚ -゚)「もちろんだ」
(;^ω^)「ひええ……」
_
(;゚∀゚)ノシ「おーい、そろそろ帰って来ーい」
うむむ…しかし、なんか、ど偉い物を借りちゃったんだなぁ。
いまいち実感が沸かない、まあ、存在を知らなかったくらいだし、当然か。
でもなぁ、そんな凄い物である割には、猫さん、何も言わなかったし……。
本当に、そのつもりで、僕にこれを渡したんだろうか。
_
( ゚∀゚)「んで、誰なんだよ、それをお前に渡したのは」
( ^ω^)「え、あーと……確か……つー、だったかな、こんな猫耳生やしt」
_
(;゚∀゚)「つーって、あの、4年の…?」
- 71: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:26:57.47 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「う、うん? そうだお…?」
_,
(;゚∀゚)「んで、背がちっこくて、猫耳の……?」
(;^ω^)「ええ…まあ……」
川;゚ -゚)「……一体、何がどうなって、そんな事になってるんだ…?」
むむむ、またなんか驚かれた、何だろう、有名だったのか?
ていうか、クーさんまで、ひどく動揺してる、珍しいな。
(;^ω^)「……?」
_
(;゚∀゚)「お前……事の重大さ、わかってんのか?」
(;^ω^)「い、いや…ぜんぜん…」
_
(;゚∀゚)「よおし、じゃあ、よおく聞けよ……そのつーって先輩はな……」
…………。
- 76: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:29:25.35 ID:uWZcN9VN0
- 放課後になって、僕は再び、あの中庭へと足を向ける。
楽しげに、別れの挨拶を告げる声、ただの笑い声、部活の発声、そんな喧騒を背にして、
中庭へとやってくれば、そこに、箒を手にした、小さな姿を見つけた。
あ、今日はちゃんと居た、なんて思いながら、僕は、その背中に声をかけた。
(*゚∀゚)「ん…なんだお前か、やれやれ、ほんとに来やがった……」
(;^ω^)「な、なんだおそれ、まるで来なくていい、みたいな……」
(*-∀゚)「ああ、そう言ってんだけど?」
(;^ω^)「……」
( ^ω^)「ところで、ごきげんようお姉さま、ここでな」
手にしたホウキで、思い切りぶん殴られた。
あの先っぽの部分が、地味にひっかき傷になった、いたい……。
::(メ ω )::「す…すみませんでした」
(*゚∀゚)「ああ」
- 78: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:32:22.54 ID:uWZcN9VN0
- ( ^ω^)「それで、何やってるんですお?」
(*゚∀゚)「見ればわかるだろ、掃除だよ」
猫さんの傍らには、大きなビニール袋がいくつか。
その中には、空き缶やら、パンの包装紙やらの、ゴミが入っていた。
これは……いわゆる、なんかの罰だろうか。
(;^ω^)「……なにしたんだお?」
(#*゚∀゚)「ばっ、変な勘違いすんじゃねえ! これは…」
( ^ω^)「風紀委員の……ヴィッパーの勤め、ですかお?」
僕がそう口にすると、猫さんは、む、とした表情を見せて、
言葉を途切らせ、僕を見ながら、一つ、ため息を吐いた。
(*゚∀゚)「……誰かに聞いたか」
( ^ω^)「……はいですお」
あと、猫さんが…次期・生徒会長と名高い、現・副会長だという事も。
- 81: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:35:10.84 ID:uWZcN9VN0
- そんな、凄い立場に居ると言うのに。
一向に後継者を作ろうとせず、そればかりか、部下を持ったことすら無くて、
とある一部では、その事が問題になっている、とも聞いた。
(*-∀-)「そうかい……」
(;^ω^)「あの、それで猫さん…あのバッジは……」
(*゚∀゚)「ああ、そんなわけだから、困った事があったら、適当にちらつかせてやれ」
(;^ω^)「へ?」
(*゚∀゚)「あれを見せりゃ、まず、お前に手だせる奴は居なくなるから」
(;^ω^)「そ、そんな……ちょっとそれって、なんか違うような……
ていうか、まず、僕は別に、いじめられたりはしてないですお?」
(*-∀-)「……それは、どうかね」
(;^ω^)「……?」
猫さんは、とても意味ありげに、含み笑いを浮かべた。
それは、何と言うか…疑ってるとか、そういうのじゃなくて、もっと別の……。
- 83: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:37:50.58 ID:uWZcN9VN0
- (*゚∀゚)「まあ、用はそれだけだ、もう帰っていいぞ」
(;^ω^)「……」
何だろう、何か、やたら僕を帰らせようとしてる気が……。
(;^ω^)「でも、猫さん、言ったじゃないかお…気が向いたら、来てくれって」
(*゚∀゚)「……」
(;^ω^)「あ、あれって……もしかして、そういう事なんじゃないのかお…?」
後継者を育てる、それはつまり、部下が上司を手伝うような。
そういう事だろう、そして猫さんは、僕に、それをさせようとしたんじゃ……。
(;*-∀-)「…ちげーっての、俺はな、弟子はとらねぇ主義なんだよ…」
(;^ω^)「……で、でも…実際に、僕に渡してるじゃないかお」
(*゚∀゚)「おいおい、それは貸すだけって言ったろうが、勘違いすな、
ほとほり冷めたら、当然、返してもらうんだから、いいんだよ」
- 85: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:41:09.54 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「ですが…」
(#*゚∀゚)(しつけえ……)
(* ∀ )「……」
(*゚∀゚)「………てか、お前はいいのかよ」
(;^ω^)「僕? な、何がだお…?」
(*゚∀゚)「なりたいのか? その後継者に……一応、言っておくが
そんなに良いもんじゃねえぞ? むしろ面倒だらけだ」
(;^ω^)「……え」
あれ、そういえば、僕はなんで、こうまで食い下がってるんだろう。
はっきり言って、ヴィッパー、なんてのに全然興味ないし、
そもそも、色々聞いても、やっぱり、何がどう良いのかわからない。
なのに……何でだろう。
なんか……放っておけない、そう思ってしまったから。
- 86: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:43:39.38 ID:uWZcN9VN0
- ( ^ω^)「……それは…よく、わかりませんお……」
(;*゚∀゚)「なんだそりゃ……」
(;^ω^)「けど猫さんって、もしかして……その、
毎日、学校内の掃除とか、してるんじゃないかお?」
(*゚∀゚)「……」
今もそうだし、考えてみれば、昨日もそうだ。
そして、いつでもいいから、放課後に来てくれ、とも言っていた。
これは、つまりそういう事だろう。
こんな広い学校を、こんな小さい子が、たった一人、夜遅くまでだよ?
そして、もし、僕に手伝いを望んで、呼びかけたのだとしたら…。
(;^ω^)「……だったら」
(*゚∀゚)「……違うって、んなわけないだろ」
(;^ω^)「……本当かお?」
(*゚∀゚)「ああ、そこまで暇人じゃねえよ」
- 88: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:46:47.48 ID:uWZcN9VN0
- 猫さんは、そっぽ向いて、あくまでも否定した。
だけど、何となく、嘘だとわかる、嘘をついてるふいんきだ。
昔とったきねづかで、何となく、人が意地張ってるのは分かるんだ。
ξ )ξ
だから、そう……あの時も。
………あの時?
一瞬だけ、何かの記憶が脳裏をかすめた。
そして、それに疑問をもつよりも早く、消えてしまった。
(*゚∀゚)「なあ、もういいだろ……いい加減、帰れよ」
(;^ω^)「……な、なら、せめて、今日だけは手伝いますお!」
(;*゚∀゚)「……お前って…」
(;^ω^)「だって、ほら、どう見たって途中だし、わざわざ来ちゃったし、
どうせなら、何かしてかないと、僕来た意味ないですし…」
- 91: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:49:14.12 ID:uWZcN9VN0
- (*-∀-)「……はぁ、わーったよ、じゃあ……ゴミ捨てだ」
猫さんも、これ以上の討論は、無駄だと察したのだろう。
背後に散らばっていた、ゴミ袋をたばねて、僕へと投げ渡した。
( ^ω^)「把握ですお!!」
僕はそれを受け取って、ゴミ捨て場をめざし、駆け出した。
なんだろう、こういうの、とても居心地がいい。
僕って、わりとMだから……。
と、その時。
走る僕を、猫さんが声を張り上げ、呼んだ。
ズザッ、と砂利を飛ばしながら、止まって振り向いた。
(*゚∀゚)「それが終わったら!! 校舎出入り口のゴミ箱も捨てとけーー!」
- 92: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:51:13.41 ID:uWZcN9VN0
- (;^ω^)「校舎入り口……? って、たくさんあるけど、ど、どこのですかお!?」
(*゚∀゚)b「ああ、もち、全部だ!!」
(;^ω^)「ええええええ!!?」
(*゚∀゚)「おら! 早く行け! 日が暮れるぞ!!」
(;^ω^)「ひいい…」
何だろうね、この猫さんってば、
あれだけ渋ってた割には、ずいぶんスパルタですね。
こうして、僕はゴミを両手に、走り出した。
……僕って、もしかして結構、損な性格してるのかなぁ…。
………。
- 94: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:53:33.76 ID:uWZcN9VN0
- 今日は、まだ時間もそう遅くない、みな部活の真っ最中だし、
校舎の中になんて、教員くらいしか、もう残っていないだろう。
それでも、冬が終わって、日が伸びたとはいえ、そこそこ早く、陽は落ちる。
空は夕陽に染まり、窓から入り込んだ、茜色の日差しが校舎をも色づかせた。
やれやれ、僕はいったい、何をやってるんだろうねぇ……。
そんな事を愚痴りながら、ゴミ箱を掴み、廊下を進んでいく。
やがて、反対の校舎へと繋がる、下駄箱のまえを通過した。
「……考えて、くれた?」
そこで、人の気配、というか、誰かの話し声に気がついた。
見つからないように、こっそり探してみれば、そこには一組の男女が居た。
ちょっとした、野次馬根性、ゴミ箱で音を立てないよう、慎重に接近してみる。
ちょっぴり俯き加減な、制服姿の女の子と。
部活の途中なのだろうか、ユニフォーム姿の、体格の良い男。
しかも、やたらシリアスな空気、うわ、うわ、すごいとこに来ちゃった。
これって、もしかしなくても、あれか、告白ですか!?
- 96: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 21:57:09.39 ID:uWZcN9VN0
- どどどどうしよう、立ち聞きはよくないよね。
けど、ちょっと気になる……し、しょうがないじゃん。
ζ( 、 *ζ「……すみません」
「……そっか、どうしても、駄目か…まあ、家の事情がしょうがないけどさ」
うわ、ごめんなさいが出ました、ああ、こりゃ切ない。
ていうか、家の事情て、そんな理由で振るのはありなのか?
って、いやちょっと待て……あれって……で、デレさん……?
(; ω )「………っ」
や、やばい……どうしよう。
てか、何で彼女がここに居るんだよ……。
こっちは、あの先日の件で、どうにも顔を合わせ辛くて、
教室でもずっと見ないでいたし、ずっと素知らぬふりをしていたのに。
だっていうのに……もし見つかったら、その…困るじゃないか。
- 98: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:01:11.15 ID:uWZcN9VN0
- とにかく、早くここを離れよう……と、思うんだけど。
果たしてどうした事か、僕の足は、根を張ったように動かない。
そればかりか、耳を凝らして聞いている、なにやってんだ僕は。
「けど、勿体無いなぁ、君ならきっと、いいとこまで行けただろうに…」
ζ(゚、゚;ζ「い、いえそんな……私なんか、まだ全然…」
「ばれてるとは思うけど、女子のほうのキャプテンにさ、
君を説得してくれって頼まれたくらいだよ、君は才能があるから、ってね…」
ζ(-、-;ζ「本当に、すみません……」
「でも、まあ……まだ二年生だしね、もしよければだけど、
事情がどうにか出来たら、また、テニス部に戻ってきてほしいな」
「辞めちゃうからって、全然気にしないでいいんだからね?」
ζ(゚ー゚*ζ「……はい、ありがとうございます」
- 101: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:04:36.28 ID:uWZcN9VN0
- ……ふむ、修羅場かと思ったんだけど、どうやら違ったらしい。
話を聞いた感じでは、どうやら、デレさんは部活を辞めたようだ。
で、それを部活の先輩が、ひきとめに来た、と。
そういえば、レギュラーだとか誰かに聞いたような気がする……。
……家の事情、か……何か、あったのかな。とまで考えて、ハッとする。
何で僕は、見ず知らずの人の心配なんかしてるんだ。
ζ(゚、゚*ζ「………」
……。
ζ(-、-*ζ「…………」
………ていうか、何してるんだろう、ずっと、同じ場所に突っ立ったままだ。
何で帰らないんだ、僕が動くに動けないじゃないか、ううむ……。
考えられるとしたら、まあ、誰かを……待ってるんだろうか。
……頭の中に、ぽん、と彼の顔と、名前が浮かんで。
同時に、腹の中に、なんだか重くて、黒いものが流れてくる。
- 104: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:07:48.54 ID:uWZcN9VN0
- ああ、そういうことか、なるほどね。
……もういいや、見つかっても、大丈夫だろう。
だって僕には関係ないんだから。
さ、とっととゴミを捨てに行こう。
僕はゴミ箱を掴んで、物陰から、日差しの廊下へと足を向けた。
自分の足音が、妙にうるさい、でもそれ以上に、なぜか胸が、ドキドキと。
僕は、彼女に目を向けない、挨拶だってする気はない。
視野にちょっとだけ、姿が入った、うん、こっちを向いてない。
彼女は、下駄箱のまん前。
そして僕は、廊下側だから、普通にすれ違うだけ。
それだけ、互いに見向きもしないし。
言葉を交わす事だってない、やっぱり、違う、そう、違うんだ。
- 108: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:16:45.01 ID:uWZcN9VN0
- こうして、斜陽の影がつくる、しましま模様の廊下で、
僕は、聞こえてきた声に、足を止めてしまった。
え?
( ω )「………」
金縛りにあったように、体が動かない、めまいがする。
聞き間違いじゃないか、なんて考えは、浮かびさえしなくて。
なんで? と聞き返したくて、でも、体が動かなくて。
それを確かめる暇も無く、間髪いれずに、同じ言葉がやってきた。
ζ( 、 *ζ「ブーン……だよね?」
(; ω )「……っ」
下駄箱を挟んで、背中合わせ、僕はそんな言葉に、息を飲むばかり。
- 114: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:20:05.09 ID:uWZcN9VN0
- ζ( ‐ ;ζ「あの……やっぱり、私のこと…覚えていませんか?」
やっぱり、と言った言葉が、心に刺さる。
そして、そんな不安げな声は、震えていた。
違う、それは違う。
ζ( ‐ ;ζ「昔、小さい頃……よく遊んで」
(; ω )「…っ………ツ、ン…?」
ζ( ‐ *ζ「え…」
ちょっと待って、もう頭の中、真っ白で、何も思いつかないって。
言いたい事なんて腐るほどあった、伝えたい事だって、話したいことだって、
思いつかないくらい、たくさんあったんだよ、なのに、浮かばない。
(; ω )「や……やっぱり、ツン………なのかお?」
どうにか、それだけ、捻り出した。
ζ(^ー^*ζ「……はい、お久しぶりです」
思わず振り向いた先には、あの時とは違う。
心からの喜びを表すような、初めて見る笑顔で、僕を見ていた。
- 120: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:23:12.07 ID:uWZcN9VN0
- まばゆい陽光が、ちょうど彼女の背後から差し込んで、
ウェーブのかかった、金色の髪に反射して、きらめいた。
それが、あまりに儚げで、そのまま、消えてしまいそう。
僕は、言葉も出せず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ζ(゚ー゚;ζ「あ……って、いうのも、変……かな」
ツン……本当に、この子が、ツン?
その時、得も知れない不安が、胸をざわつかせた。
(; ω )「で、でも……君、デレ、って……」
ζ(゚、゚;ζ「え、あ…そっか、そういえば…ブーンって、
私のことを、ツンとしか呼んでいませんでしたね…」
(; ω )「…?」
ζ(゚、゚*ζ「私の本名は……」
- 127: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:27:11.88 ID:uWZcN9VN0
- 陽が沈み、斜めの影がどんどん伸びていく、
ゆっくりだけど、確実に、夜は、すぐそこまで来ている。
影が、とんとん、落ちていく。
ζ(゚ー゚*ζ「ツン・デレ………と、言います」
胸がざわめく、木々が揺れて、葉っぱがこすれて、音を立てる。
ここに来て、急激に頭がすっきりしていく、考えがまとまっていく。
考えたくも無い事が、考えちゃいけない事が、まとまっていく。
そうか……僕は、そうだったんだ、やっと……分かったよ。
やがて、ずっと渦巻いていた想いが、疑問になって落ちてきた。
言葉にはしない、どす黒い感情と一緒に、飲み込んだから。
それは。
- 131: ◆aYo30Ks4N6 :2008/11/03(月) 22:32:24.45 ID:uWZcN9VN0
- ζ(゚、゚;ζ「あの……どうか、しましたか?」
これが……ツン?
という、一つの疑問と。
違う
と、ざわめき続ける、拒否だった。
こうして、僕は、この日。
大事な物を、一つ、見失った。
Open your eyes for the next falls down――――→
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