( ^ω^)ブーンは、春がくるたび戸惑うようです

5: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:07:56.53 ID:2oCdtsD60
晴れやかで、清々しいはずの、早朝のひんやりとした空気は、
クーさんの凛とした声によって、張り詰めたそれに変わった。

請うでもなく、すがる様でもなく、あくまで、確かめるように。


(;^ω^)「………え?」

いきなり過ぎる質問に対し、僕は情けない声しか出なかった。
代わりに「どうして」と、疑問だけはすぐに頭を巡っていく。

どうしてそんな事を?

どういう意味?

その真意は?

しかし、それすら聞き返す事ができなくて、僕はただ、言葉を捜して立ちすくむ。

そんな僕を、クーさんの眼がまっすぐに射抜く。
あまりに真剣なその表情に、僕は完全に気圧されてしまっている。
目を逸らしたい、けど、縛られたように逸らせない、何だと言うのか。



7: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:10:14.25 ID:2oCdtsD60
しばしの沈黙があった。


川 ゚ -゚)「どうなの?」

しかし、それを許さぬと言わんばかりに、追い打つ声。
体が脈打って、両手が震えた、っていうかビビリ過ぎだろ僕。

そうは思いつつも、何も答えられず、僕はもう一度、情けない声だけを漏らす。
すると、クーさんは表情はそのままに、大事な事なのでと再び、先の言葉を繰り返す。


川 ゚ -゚)「正直に答えて、好きな人が居るのか、居ないのか」

(; ω )「………それは…」


何故、クーさんがいきなり、こんな事を聞いたのかはわからない。
だけど、彼女の表情が言っている、はぐらかさないで、と。
とてもじゃないが、誤魔化すことなんてできそうもない。



9: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:12:47.08 ID:2oCdtsD60
何故、クーさんがいきなり、こんな事を聞いたのかはわからない。
だけど、彼女の表情が言っている、はぐらかさないで、と。
とてもじゃないが、誤魔化すことなんてできそうもない。

そして……僕がこうまで、この質問に対して戸惑っているのは、
僕の中で、その答えがもう出ているから。

だから、躊躇ってしまう。


(; ω )「…………」

川 ゚ -゚)「………」


ひんやりとした風が頬を撫でれば、さらさらと黒髪がなびいて揺れる。
交差する視線に、胸の鼓動はゆっくりと、しかし大きく高鳴る。


好きな人、反復する先の言葉に、この問いかけの意味を思う。


何でだろう、ふと、これまでの日々が頭をよぎる。



11: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:15:58.19 ID:2oCdtsD60
僕は……。



>>12


1:居る

2:居ない

12 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/12/23(火) 17:16:33.52 ID:6fQIwLcS0




13: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:18:16.03 ID:2oCdtsD60
忘れたはずだった。

諦めたはずだった。

終わったはずだった。

いやそもそも、本当ならこんなの、いつまでも引きずっているのがおかしい。

だけど、思い出してしまった。
はっきりとそれを自覚したのは、あの日。

陽が沈み、別世界のように静かな、モノトーンの夜の校舎で、
泣いてる姿にデジャヴを感じて、僕を見守るあの人に遠い面影を重ねた、あの日。

思い出してしまった。
想うだけで、チクリチクリと痛むこの、恋心を。

クーさんは相変わらず、僕を見据えたまま、返事を待っている。
僕はいちど目を閉じてから、ゆっくりと頷いて、口を開いた。


( ^ω^)「……居るお」

( ^ω^)「……こっちに来るよりも、ずっと前から」



16: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:21:15.09 ID:2oCdtsD60
言った時、ほんの一瞬だけ、クーさんが目を細めた。
しかし変化はそれだけ、僕らの間には、沈黙だけが流れる。
それから頭上を鳥が羽ばたいて、喧騒がまた一つ遠のいた頃。


川 ゚ー゚)「…そうか」

クーさんは、優しく微笑みながら言った、しかもそれだけ。
その笑顔の意味が、咄嗟に理解できないから困る。
もっと、色々聞かれると思ったから、ちょっと拍子抜け。

かと思いきや、まだターンは終わっていなかったようで、話は続く。


川 ゚ー゚)「ハインにね、色々、聞かされたんだ」

(;^ω^)「え゛……あいつに…?」

川 ゚ー゚)「うん」

(;^ω^)「な、何を……?」

川 ゚ー゚)「色々、だよ……こっちに来る前の、向こうでの君のこと、
     それで私も何だか…納得しちゃったから」



17: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:23:29.13 ID:2oCdtsD60
(  ω )「………」

川 ー )「でも、どうしても聞いておきたかった、内藤君の口から、それを聞きたかった」

(;^ω^)「……クーさん…」

川 ゚ー゚)「だから、ありがとう、ちゃんと言ってくれて」

川 ゚ー゚)「……それと」

まるで、別人のように饒舌なクーさんは、笑顔を浮かべたまま。
僕の目を真っ直ぐに、ぶれる事無く見据えて、さも当然のように。


川 ゚ー゚)「私は、内藤君のことが、好きだよ」

はっきりと、そう言った。


その半端じゃない衝撃に、僕は息を飲んだ。
クーさんは、変わらず笑顔のまま、僕は硬直した。
もはや朝の眠気何ていうものは、空の彼方へ昇天していた。



21: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:27:16.30 ID:2oCdtsD60
しかし、そこへ間髪居れずに、クーさんが続ける。

川 ゚ー゚)「勿論、友達としてね」

(;^ω^)「……お?」

クーさんは、少し意地悪げに微笑むと、首をかしげて、
まるで、僕の返事を待つように、じっと見つめてくる。

ああ、そうか、そうなんだ。
やっぱり、優しいね……クーさんは。

その目は曇りも、憂いもなく、まさにいつも通りの彼女に見えた。
綺麗で、存在感があって、そして心優しい、僕の大切な。


( ^ω^)「……僕も、大事な友達だと、思ってるお」

川 ゚ー゚)「…うん」

そうして僕らは、朝の微風に身をまかせ、並んで学校を目差す。
周りの目がどうとか、そんなのはもう、どうでもよかった。


だから、そんな僕らを、遠巻きに眺める視線があった事にも、僕は気付かなかった。



24: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:29:21.56 ID:2oCdtsD60
………。


それから数日後、テスト期間も今日をもって全て終了。
連日の一夜漬けによって、僕は寝不足極まりない。


川;゚ -゚)「……なんか目が血走ってるよ」

( ゚ω゚)「ふふふ、それはそうかな?」
 _,
(;゚∀゚)「性格変わってんぞ」

( ゚ω゚)「うふふふ、そんなことないわよ」

从*-∀从「性格変でも、目が血走っても内藤はすてきだよ」

( ゚ω゚)「うるさい黙れ」

从;゚∀从「僕への態度だけは変わらないんだね……」



27: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:32:08.82 ID:2oCdtsD60
 _,
(;゚∀゚)「……今日はもう、帰って寝れば?」

( ゚ω゚ )「お断りします」
 _,
(;゚∀゚)「いいから帰れ!」

(;-ω-)「……うーん…そうするお」
  _
( ゚∀゚)「あー、それと、例の花見の件、あとで連絡すっから」

把握ですお、なんて言ってから、僕はふらふらと教室を後にした。
ちなみに、さっきのは連休中に遊びに行こう、という話の一つ。

この近くには、早咲きの桜並木があるから、花見に行こうぜ、という感じ。

というわけで、早く帰ろうと下駄箱を目差した。するとあの二人が居た。
スルーしようと思ったけど、一応挨拶はしておくか、と気紛れに近づいてみた。


( ^ω^)「……やあ、だお」

ζ(゚、゚;ζ「!?」

( ・∀・)「……あれ、ブーン君も今帰り?」



33: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:35:16.01 ID:2oCdtsD60
ζ(゚ー゚;ζ「早いですね」

( ^ω^)「今日は眠いから、とっとと帰ろうかなとね」

……何だろう、僕を見るなり、慌てて会話を止めた風に見えた。
それにこの、何かを誤魔化すような態度……いや、知ったことじゃないか、

二人だけじゃないと、話せない内容ってだけの話で。


( ^ω^)「……本当に、仲いいよね」

言ってから、はっとした。

何を僕は、こんな嫌味みたいなこと言ってるんだ。
これで変な風に勘ぐられたら、その、困るじゃないか。


( ・∀・)「まあ、幼馴染だからね」

と、不安になったけど、気にしてなさそうだ。
考えてみれば、言われ慣れてるのかもしれない。



35: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:38:04.00 ID:2oCdtsD60
けど、さっきのは我ながら、ちょっと態度に出しすぎた気がする。
何かこう誤魔化せそうな話は、と考えていると、ふと思い立った。


( ^ω^)「そういえば、連休中って何か予定あるかお?」

ζ(゚、゚;ζ「え!?」

( ・∀・)「んー、特にはないかな、何で? 何かあるの?」

( ^ω^)「花見でもやろう、って話があるんだけど、どうだお?」

と、聞いておいて何だけど、僕は断られると思っていた。
冗談半分ってやつ、現に軽く話したはず、だけど、返ってきたのは……。


( ・∀・)「本当? 花見か、いいねそれ、是非行きたいな」

ζ(゚、゚;ζ「え…で、でも……」

( ・∀・)「いいじゃない、折角誘ってくれてるんだからさ」

ζ(゚、゚;ζ「……いいんですか?」

(;^ω^)「あ、う、うん……たぶん平気だお」



42: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 17:41:16.77 ID:2oCdtsD60
喜んで、な勢いだった。

まあ…こうなっては仕方ないと、僕は日程や場所を教えることにした。
すると偶然にも、その場所はデレさんの家から、すぐ近くであるそうだ。

そんなこんなで、適当に迎えにいく約束をして、その日は別れ。
僕はそろそろ限界で、家に帰り着くなり、倒れるように眠りについた。


………。


数日後、花見の日がやってきた。

集合は夕方なので、昼間はジョルジュ達と過ごして、
時間になると、スナオさん達や、高岡と合流した。

しかし、あの二人は、どれだけ待っても来なかった。
なので僕らは、先に現地へ向かう事にした。



52: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:01:03.89 ID:2oCdtsD60
  _
( ゚∀゚)「おー、やってるやってる」

到着してみれば、確かに聞いていた通り、満開の桜が咲き乱れていた。
どうでもいいけど、乱れるって、セクシャルな響きだと思う。

広場のような場所には、チラホラとシートを広げた人たちの姿。
僕らもそれに習って、適当な場所……つまり適した、当たりの場所を陣取り、
みんな、それぞれ持ち寄った、お弁当にお菓子に飲み物を広げた。

飲み物は、飲むと顔が赤くなるかもしれませんが、ジュースです。


川 ゚ -゚)「よいしょっと……」

(;^ω^)「また…こんなでかい重箱を…」

lw´‐ _‐ノv「私も作った……えっへん」

从;゚∀从(二箱まるまるご飯って……)



54: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:02:45.26 ID:2oCdtsD60
(´・ω・`) 「じゃ、始めようか」

ノハ*゚听)「みなさんお手を拝借!!」

(;´・ω・`) 「それなんか違うよ」


lw´‐ _‐ノv「それでは、みさなま」

lw´‐ _‐ノv「左手を……ご覧くださ…い」
 _
(;゚∀゚)「ガイドかよ…」

(;^ω^)「それよりみさなまって何だお……」

とまあ、一悶着あったけど、その間にクーさんが飲み物を用意してくれて、
かんぱーーい! と誰ともなくコップを掲げて、叫んだ。

そして、それからはもう、とにかく騒ぎ放題に盛り上がった。

どれくらい盛り上がったかと言う。

ジュースだけど、僕らのテンションはすぐに上がっちゃって、
ふと見れば、みんなの姿はぶれて見えた、それくらい、盛り上がったのだ。


ひいい……。



56: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:04:58.38 ID:2oCdtsD60
……。


やがて、周囲が暗くなると、ここ一帯に下げられた提灯が灯り、淡く僕らを照らした。
その頃になると、酔いも冷めて……いや、その場の空気にって事ね、ジュースだから。
ほてった体を沈めるように、ぼんやりと頭上の桜を見上げていた。

いやはや、楽しい時間とは、本当に過ぎるのは早いわけで。


(´・ω・`) 「……そういえばさ、あと誰か来るかも、とか言ってなかった?」

(;^ω^)「……あー」

そういえば、結局あの二人は来なかった。
まあ、別にいいんだけど、一応誘ってみただけだし。

別に、知ったことではないんだけど。


ただ……その、何ていうか。

……僕、迎えに行く、とか言わなかったっけ?

あれ?

必死に記憶の網を辿れば、思い返す、あの日の放課後。
たしか……場所とか時間とか教えて…それで……。



59: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:08:40.75 ID:2oCdtsD60
( ・∀・)(あ、でもその時間か……僕、ちょっと遅れそうだな
      だからさ、デレだけ先に連れて行ってくれる?)

ζ(゚ー゚;ζ(え、ええ!?)

(;^ω^)(……まあ、いいけど)

( ・∀・)(よかった、じゃあ並木通りにある公園で)

( ^ω^)(通りにある公園かお……)

ζ(゚、゚;ζ(あの…いいんですか……?)


(;^ω^)(まあ…別に、構わないお……)


ζ(゚ー゚*ζ(じゃあ……待ってます…)


いや、そんなまさか。

だって、場所はわかるって言ってたし。
来なかったら、現地に行くよね普通。

だから、そんな筈は無い、無いんだけど……。



65: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:13:26.63 ID:2oCdtsD60
……。

…………。

ない……よね?


从*゚∀从「あれ、どうしたの? なんか真っ青だよ?」

(;^ω^)「……ごめんだお、僕ちょっと……トイレ行ってくるお!」

(´・ω・`) 「飲みすぎるからだよ」

lw´‐ _‐ノv「ジュースだけ……ど」
 _,
(;゚∀゚)「っておい! トイレはむ」

考えだしたらもう止まらない、とりあえず、言い辛いので誤魔化しつつ、
ちょっとひとっ走りして、見に行ってみる事にした。

確かあそこは、ここからそんなに遠くなかったはずだ。
風は都合よく追い風、背中を押されるがままに、僕は駆け出す。



70: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:16:45.96 ID:2oCdtsD60
長い長い、桜並木の道、公園はこの先っぽい。

いや、標識が思いっきりあるから。

僕は地面に落ちた、いくつもの花びらを踏みつけ、走る。
やがて目差す公園が見えてきた、遊戯物もすぐに見えてくる。


しかし、公園といっても子供が遊んでいるような、懐かしい場所ではなく。
中心に大きな時計台、その周りを石畳の散歩道が囲う、都会的な公園だった。


それと、桜は、こっちにも咲いていた。


入り口の辺りまでやってきて、僕はキョロキョロと人影を捜す。


(;^ω^)「居ない…?」

見当たらない、果たして、それは何を意味するのだろう。
実は向こうに居た、待ってたけど帰った、最初から居なかったのか。

どちらにしても、どうしよう、僕はなんてことを。
ああああ、罪悪感がふつふつと。



72: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:19:16.35 ID:2oCdtsD60
( ^ω^)「………………?」


だけど。


よく目を凝らして見ると、誰かが居ることに気付いた。
それも二人、街灯の明かりからやや離れた場所で、隠れるように。



ねえ、あれ、何やってんのかな。


見間違いかな、あの二人、あんなにくっついて。
気のせいかな、抱き合ってるように見えるのは。

いい若い男女が、夜の公園でさ。

は、はははは。

目の前がぐらりと揺れた。

誰だよあれ、あんなのが……。



75: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:21:37.11 ID:2oCdtsD60
その時、どこからか、僕を呼ぶ声がした。
聞きなれた声、ジョルジュと、ショボン君だ。

 _,
(;゚∀゚)「何やってんだよこんなとこで」

(  ω )「……なんで」

(´・ω・`) 「大慌てでトイレと言いつつ、トイレと逆の方向に走っていけば、
       誰だって何かあったのかと思うでしょ」

ああ、そうか、トイレは逆の方向にあったのか。
それは知らなかった、失敗失敗。


(  ∀ )「……」

ζ(゚、゚;ζ「!?」

と、そんな騒ぎに気付いたのか、抱き合っていた男女がこっちを見た。
驚いた風の女と、邪魔された事に苛立っているのか、睨むように見る男。

アホか、こんなとこでイチャイチャしてるのが悪いんだろ。



81: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:24:30.40 ID:2oCdtsD60
すると、女の方がこっちへ来る、こっちくんな。
表情が引きつる、歯軋りの音が耳の奥に響く。

ζ( 、 ;ζ「ま、待って…」

女の方が、何かを言おうとするのを聞いて、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
何だよ何なんだよ、ずっとそうしてればいいじゃないか、こっち見るな、こっち来るな。

ζ( 、 ;ζ「ブー」

その名で、僕を呼ぶなって。


(# ω )「うるさい…! うるさいんだよ!!!」

(# ω )「…何…誰なんだよお前…!」

隣で見ていた二人が、一瞬おどろいた素振りを見せて、
どうしたんだよ、と止めようとした。

だけど、一度噴き出た激情は、そう簡単には止まらなくて。
僕は自分でも、わけのわからない事を叫んだ、そして。

(  ω )「もう嫌だ……」



87: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:28:27.13 ID:2oCdtsD60
吐き捨てるように言って僕は背を向け、駆け出した。

もう嫌だ、こんなの嫌だ。

君が好きなはずなのに、君が誰なのかわからない。

背中から、何か声をかけられた気がしたけど、全て無視した、
そして文字通り、僕はその場から逃げ出した。


もうぐちゃぐちゃだった、頭の中も、自分の気持ちさえわからない。
とにかく、今は何も見たくないと、目を閉じたまま走った。

案の定つまづいて、盛大にずっこけた。

じわ、と視界が滲んでいく。

込み上げてくる嗚咽。

目頭が熱くなる。


(; ω )「……っ」

だけど堪えた、堪えて、歯を食いしばって。
すぐに立ち上がると、また走りだす。
そうでもしなきゃ、溢れてしまいそうだったから。



92: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:32:30.91 ID:2oCdtsD60
………。


(; ω )「はあっ……はあっ……」

公園が見えなくなるまで走り続けて、ようやく僕は立ち止まった。
ふりかえれば、やや遠くから、誰か追いかけてくる。
ショボン君だった、しかも一人、ジョルジュは居ない。

それでようやく僕は、走る速度を緩めた。

手足が重くてきつい、走るのがこんなに辛いと思ったのは、始めてかもしれない。
息が切れて、胸に冷たいモノが落ちてくる、そして、意識が遠のくような感覚。

抱き合う二人、男の胸に顔を埋める女、身体を預けるように。
ぐるぐると眩暈がして、焼きついた光景が離れない。


気が狂いそう。

いや、傍から見たら、そうにしか見えないだろうなぁ。

いっそこの場で雄叫びをあげて、全てをぶちまけてしまいたかった。
だけど、ショボン君が居る、そんなみっともない姿は見せられない。

(;´・ω・`) 「はあ……内藤君、どうしたのさ?」

(  ω )「………」



93: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:35:05.03 ID:2oCdtsD60
(;^ω^)「いやー、その、あまりの衝撃現場にびっくりして、つい……」

僕は平静を装いつつ、ショボン君へと茶化すように言った。
我ながら、不自然極まりないと思うけど、今は触れてほしくない。

そう言いつつ、僕はさあ行こう、と先導する。


(´・ω・`) 「……ちょっと待った」

( ^ω^)「なんだお?」

(´・ω・`) 「……それで、いいの?」

けど、そんな僕をショボン君は引き止めた。
いつも通りの、穏やかな表情、だけど声色は真剣味を帯びていて、
思わず僕は、返事もできず、ただ怯んでしまった。

しばらくの沈黙、何も答えなかったから、返事を待っているのだろう。
だけど、僕は何も言えない、目に焼きついた光景が振り払えなくて。


(  ω )「………」

(´・ω・`) 「………あのさ」



96: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:38:32.10 ID:2oCdtsD60
やがて、ため息混じりにショボン君が口を開いた。
何を聞かれるのだろう、言い訳を考えなきゃ。

僕は、気付けば誤魔化そうとしていた。
そんな僕を見透かしたように、ショボン君は続ける。


(´・ω・`) 「……僕には、どんな事情があるのか知らないし、見当もつかない
       そんなやつが、差し出がましいことを言うのはあれかもしれないけどさ」

(  ω )「……」

(´・ω・`) 「何も聞かなくて、本当にいいの?」

(  ω )「…いいんだお」

(´・ω・`) 「どうして?」

どうしてって、何を聞けと、どうして抱き合っていたのか、なんて聞くのか?
そんなの冗談じゃない、これ以上……惨めな思いはしたくない。



99: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:40:45.85 ID:2oCdtsD60
……もう、いいんだ、大体あれはデレさんであって、ツンじゃないし。
誰も好きにすればいい、僕には関係ない、何の関係もないんだ。
もう関わらなければいい、何も見なければいい、ただ、それだけの……。


(´・ω・`) 「……僕にも、何も話せない?」

(  ω )「………」

話す……何を話せと、好きだった女の子と、運命的な再会を果たしたけど、
いざ会ってみれば、その子に過去の面影はなくて。
他に好きな人…彼氏を作って、楽しそうに過ごしていた。

そして、僕はそれに、嫉妬している、とでも言うのか。


(´-ω-`) 「……」

点々とつづく沈黙、どちらも黙ったまま。
聞こえてくるのは心臓の音と、街路樹のざわめき。
いつしか吹いていた微風によって、ぬるい空気が通り過ぎていく。



103: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:42:29.73 ID:2oCdtsD60
どれだけ、そうしていただろう。

僕は堪えきれなくなって、もう行こう、と促した。
すると、待ち構えていたように、ショボン君は言う。


(´・ω・`) 「一つだけ、いいかな」

( ^ω^)「……いいお」

(´・ω・`) 「友達ってのは、本音をぶつけ合える物だって言うじゃない?」

( ^ω^)「……うん」

……やだな、何だろう、これ以上聞きたくない気がする。
もしかしてお前なんか友達じゃないもん、的な事を言われるのだろうか。

でもこの状況、実際そうだ、自分でもわかってる。

こんな、何も話さないような奴の、どこが友達だ……。
仕方がないさ、僕は目を伏せ、くるであろう離別の言葉を待った。


けど、続いたのは、予想外の言葉だった。



106: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:44:30.92 ID:2oCdtsD60
(´・ω・`) 「あれね、僕はちょっと違うと思ってるんだ」

(;^ω^)「……お?」

(´・ω・`) 「言わなくてもいい事を隠すのも、言いたくないのを聞かないのも、
       それは相手を思いやる優しさだもの、それでいいと僕は思う」

(  ω )「……」


(´・ω・`) 「人っていうのは、自分より強い人間の隣に、並びたいとは思わない、
       追い越しては追い抜かれ、そのどちらかを行き来するだけ、
       だから、対等な関係っていうのは、いつも一時的な物でしかない……」

(´・ω・`) 「つまり、追いかけっこなんだよ、友達なんてのはさ」

(; ω )「……?」

ショボン君の言いたいことが、いまいちよくわからない。
僕に対して当てつけるでもなく、ただ、淡々と話は続く。

……でも、何となく、とても寂しいことを言っているような……。



112: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:48:18.29 ID:2oCdtsD60
(´・ω・`) 「友達だから、いつでも気を許せる、なんて事はないんだよ」

(; ω )「じゃあ、ショボン君は……誰にも気を許していないって…こと?」

(´・ω・`) 「そうじゃない、僕が言いたいのは、許せる時もあるって話さ」


(;^ω^)「それは……どういう時、なんだお?」

(´・ω・`) 「決まってる、人の弱い部分を見たときだよ」

( ^ω^)「弱さ……?」

(´・ω・`) 「うん、誰だってみんなそうだ、相手の弱さを知ることで安心できる、
       それで始めて、自分の弱さだって、相手にさらけ出せるようになる」

(  ω )「……」

身に覚えはないか、ショボン君はそう続けた。
そうかもしれないと、漠然と思った。

クーさんに、友達になろうと告げた時も、彼女の弱さを垣間見たからこそ言えた、
同時に、僕のアナル的な暴露によって、あの場も、妙に和んでいた。



115: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:51:36.33 ID:2oCdtsD60
不可抗力とは言え、ヒートさんの弱みを握った、いや知ってしまった時も、
だからこそ、僕の過去を、初対面の相手に話したんじゃなかったか。


じゃあ……今の僕は?

デレさんに対して、僕はずっと、どうしてきた?
ただ強がって、気にしないふりをして。

弱い部分を、見せたくなくて、逃げていたのでは無かったか。


ζ( 、 *ζ(あ、あの……今、大丈夫ですか?)

そういえば、僕に対してと、モララーに対しての、まるで違う態度。
あの、あからさまな違い、改めて考えてみると、どうしてなんだろう。

確かデレさんって、誰にでも愛想のよい子って話を聞いた気がするのに。
どうして、あんなにいつもおどおどして、不安気だったんだろう。



122: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:54:40.25 ID:2oCdtsD60
僕に、対してだけ。


何かに、怖がっているような。

何かを、怖がっているような。


 弱さを、見せること?


 無理をして、強がっていた?


  何を?


(; ω )「……」


(´・ω・`) 「ちなみに、今言ったのは、藍坊主の歌詞から思いついた話だったりする」

(;^ω^)「へ……?」

(´・ω・`) 「確か、ロボハートストーリーだったかな…?」

(;^ω^)「え、今のって……弱さ云々の話?」



123: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:56:44.75 ID:2oCdtsD60
(´・ω・`) 「そう、つまり受け売りなんだ、すまない」

(;^ω^)「いや……別にそれは暴露しなくても」

なぜ、この場面でそれを言うのか……。
せっかくこう、凄いなこの子、とか思ってたのに。

とか思ってたら、先までのシリアスな空気はどこへやら、
ショボン君は、呑気にはははーと笑ってみたりしてから、言った。


(´・ω・`) 「……まあ、かっこ悪いと思うかもしれないけど、
       自分の弱さを人に見せてしまうことを、怖がっちゃいけないってこと」


(´・ω・`) 「だから……ね?」


(  ω )「………」

……僕の、勝手な妄想に過ぎないかもしれない。

確実なことなんて何もないけど、一つだけ、
僕がずっと逃げてきたことだけは、事実だから……。



126: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 18:59:04.52 ID:2oCdtsD60
( ^ω^)「ショボン君、ありがとうだお……ちょっと、目が覚めた気がするお」

(´・ω・`) 「そう? それはよかった」

( ^ω^)「というわけで、ちょっとひとっ走りしてくるお」

(´・ω・`) 「うん、じゃあ僕は戻るから、土産話に期待しておくよ」

( ^ω^)b「おk、全力で玉砕してくるから、あとで慰めてね」

(´・ω・`) 「お断りします、あ、そうだ、ハインちゃんにでも頼」

(;^ω^)ノシ「さ、さよならあーーーー!!」

言い終えるより先に、僕はショボン君に背を向けた。

いつの間にか、身体はとても軽くて、頬が緩むのも止められなかった。
僕にはこんなにも良い友達が居る、今はただ、そう思えるのが嬉しくて。

そして、街灯が並ぶ、住宅の壁がつくる迷路みたいな道を行く。

夜だけど、吐く息はもう、ほとんど白くならない。
うっすらとした煙みたいなのは、すぐに見えなくなる。



133: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:02:13.55 ID:2oCdtsD60
そのせいか、今はやけに晴れやかな気分だった。
あんなに重く感じていた手足も、ずいぶん軽くて、走りながら深呼吸。
点々と前に見える灯りは、まるで道を教えるように見えた。

やがて、先の公園前へとたどり着いた、しかし。


(;^ω^)「ぜえ、ぜえ……だ、誰もいねえ……」

そりゃそうか、いつまでも同じ場所に居るわけないよね。
だって人間だもの、生きているんだもの。

……さて、となると、どうしたものか。
息巻いてきたのはいいけど、居ないのでは話にならない。
ていうか、来る前に気付くべきだった……。

とか考えてたら、なんか、もようしてきた。


(;^ω^)「うー、トイレトイレ」

今、トイレを求めて全力疾走している僕は、
とある学校に通う、一般的な男の子。

強いて違うところをあげるとすれば……とこカナ。
そんなわけで、公園のトイレにやってきたのだ。



140: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:06:33.45 ID:2oCdtsD60
すると公園のベンチに座っている、一人の男と目が合った。

( ・∀・)「……何をしてるんだい?」

お洒落さんな服装で、平然と僕を見つめてくる。うほっ、いい男。


( ・∀・)「……戻ってきたって事は、何か話があるって事かな?」

まだ居た、居ましたよ、ついでに辺りを確認、
デレさんは、この辺りには居ないようだ。

それにしても……やっぱりイケメンだなぁ。
暗がりの公園、街灯に照らされたベンチ、とても絵になる。

……いや、ちがくて。


( ・∀・)「それで? ああ、ちなみにデレなら」

(;^ω^)「……あ、ごめんだお、話の前にちょっと……」

僕はちょっと前かがみに、トイレを指差した。
すると、その意味を察したのか、がくっと肩を落とした。

(;・∀・)「………行ってらっしゃい」



143: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:11:03.82 ID:2oCdtsD60
………。

薄汚れたトイレ、落書きはあるけどシャーペンで書かれた程度で、
なんというか、この辺りの治安のよさを伺える。

尿意は何故か消えてしまったので、手だけ洗って、鏡の前に立つ。
少しばかり、表情を強張らせた僕がそこに居た。


さっきから、心臓がうるさいのは。
走ってきたから、だけが理由じゃない。

よし、と決意を新たに。一度、深く息を吸った。


おえ、トイレ特有の臭さ、あの芳香剤と、変な湿気が混ざった感が気持ち悪い。
このような場所で深呼吸はするものではない、そう思った。

ついでに決意もどっかに飛んでいった。

あはははは、もういいや、普通に行こう、普通に。

外に出ると、先と変わらぬまま、モララー君がベンチに座っていた。
僕はとくに声をかける事もせずに、静かに近づいて、隣に座った。



151: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:15:37.20 ID:2oCdtsD60
( ^ω^)「……」

( ・∀・)「……」

どちらも黙ったまま、声を発しようとしない。
ちなみに、モララー君はずっと一点を見つめていた。
それに習って僕もそっちを見ていると、がさっと茂みが揺れた気がした。


……てんてんてん、と時間は流れて。

また一つ、車が風を切りさく音が通り過ぎていく。
どこか遠くで、救急車のサイレンが木霊する。

ジジ、真上にある電灯が、小さく音を鳴らし、一瞬だけ明滅した。
そして、そろそろ、沈黙に耐え切れなくなってきた。


( ^ω^)「……ここで、何してたんだお…?」

( -∀-)「……」

( ・∀・)「君を待ってた」

(;^ω^)「……そうかお…」



155: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:17:30.78 ID:2oCdtsD60
( ・∀・)「うん」

( ・∀・)「流石に、我慢できなくなったから」

全身が脈打つような、そんな衝撃を受けた。
なに、なにそれ、どういう意味?

え、うそ、そういう趣味なの…?

ちょ、ええ……嘘でしょ。
そんなカミングアウトがくるとは、予想外なんですけど。


(;^ω^)「……ごめんなさい」

とりあえず、先手必勝ということで、
伝家の宝刀ごめんなさい、で攻めてみた。

僕、好きな人居るから、と言おうとしたけど、そっちは止めた。

するとモララー君は、僕をおもいきり睨みつけてきた。
今にも掴みかかってきそうな勢いだった、あまりの迫力に僕は怯む、



161 名前: √666 ◆aYo30Ks4N6 投稿日: 2008/12/23(火) 19:20:41.13 ID:2oCdtsD60
まずい、これは失言だった、再び謝ろうとしたけれど。
そんな思いすら払うように、怒りを含んだ声色で、語気を荒げて言った。


(#・∀・)「お前……何だよ、さっきのは」

声すら出せず、背筋を冷たいものが走って、僕は息をのんだ。
わかる、これは本気で怒りを向けている、謝る言葉さえ飲み込んじゃった。

胃が締め付けられて、足が痺れて、体が動かない、どうしよう、超怖い。


(;^ω^)「………」


(#・∀・)「なあ、何でだよお前……なんであんな態度とるんだ?
      頼むから、せめて理由だけは聞かせてくれ…そうでなきゃ……」

(  ∀ )「……でなきゃ、もう、見てられないんだよ……」

怒られて、きっと殴られると思った。
それくらい、覚悟してここに来たんだ。

だけど、話すうちに段々と語気が和らぎ、掠れたような声になっていく。
どうしてだろう、何で、こんなに辛そうな顔で、そんな事を言うんだろう。



169: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:23:22.41 ID:2oCdtsD60
僕は、わけもわからず、呆然と俯いた背中を眺めていた。
するとモララー君は、姿勢はそのままに、呟くように言葉を続けた。


(  ∀ )「ずっと避けてただろ、デレの事」

(;^ω^)「そんなこと……」

(#・∀・)「あるだろ……帰る時間ずらしたり、教室じゃあ目も合わせない、
      それを避けてると言わずに、何て呼ぶんだ?」

(; ω )「……っ」

言い当てられた、そうだ、その通りだ。
僕はずっと、彼女を避けていた、描写すらされないほどに。

思えば最初から、クラスで始めて見たときから。
もしや、と思いつつも、距離をとり続けた。


彼女についてを聞かされてからは、特に。



173: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:26:14.61 ID:2oCdtsD60
そして、あのオレンジ色の校舎で、僕をブーンと呼んだ日から、
僕は信じたくないと、別の誰かにツン、という存在を当て嵌めて、逃げていた。

でも、それは。


(  ω )「……だったら、何だって言うんだお」

(#・∀・)「……何?」

(  ω )「何で避けていたかって…? そんなの、決まってるじゃないか」

そうだ、その原因が、僕の何を責めようって言うんだ。

顔を見ていたら、何だか腹が立ってきた。

何でこいつに、僕がこんな風に言われなきゃならないんだ。
沸々と噴出してくる苛立ち、一度言葉にしたら、もう止まらない。


(#・∀・)「……?」

(# ω )「そうだお……」



180: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:30:10.58 ID:2oCdtsD60
(#゚ω゚)「いつも…いつもいつもいつも! デレの隣にはお前が居たじゃないか!!」

(#゚ω゚)「だから僕は遠慮して!!」――嫉妬して。

(#゚ω゚)「避けてたんだ! 悪いかお!!」――逃げていたんだ。


(#・∀・)「……なんだよそれ………何だよそれ、ふざけんな!!」


えー、僕が悪いですよ、でも、ふざけんな、はこっちの台詞だ。

もういい、こうなったら開き直ってやる。

何時だってこいつはそうだった、余裕たっぷりでさ、
その彼氏面が、僕は見るたびにむかついてたんだ……!



183: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:33:04.25 ID:2oCdtsD60
(#・∀・)「つまり僕が嫌いだから!? そんな事で今まで!?」

(#゚ω゚)「きらいじゃない!! 憧れたさ! だから嫉妬してたんだよ!!」

(#・∀・)「はー!? 色々意味わかんないんだけど?! なんで嫉妬するんだよ!!」

(#゚ω゚)「わかんないの!? 馬鹿かお前!? 馬鹿だろお前! もしくはアホか!!」

(#・∀・)「っわかるかあ!! あーあ、馬鹿って言ったやつが馬鹿ってほんとだな!!」

(#゚ω゚)「か、ガキかお前!? んな馬鹿みたいな事言ってんじゃねーお!!」

(#・∀・)「みたいで結構、なら何度だって言ってやるよ!! 馬鹿馬鹿馬鹿、このばーか!!」

(#゚ω゚)「たらふくお前の方が馬鹿って言ったじゃないかこの間抜け!!」

(#・∀・)「いったな…この馬鹿!!」

(#゚ω゚)「なんだこの間抜けぇ!!」

(#・∀・)「もんくばっかり言って!!」

(#゚ω゚)「んだよ!!」

(#・∀・)「だから、何なんだよ!! 何で遠慮だか嫉妬だかするんだよ!!」

(#゚ω゚)「お前がデレの彼氏だからに決まってんだろ!!!」

(#・∀・)「っはああああ!? 何言ってんの!? 彼氏なわけないだろ!!」



202: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:39:42.13 ID:2oCdtsD60
(#゚ω゚)「嘘だっ!!」

(#・∀・)「残念、アニメじゃないほんとの事さ!!」


(#゚ω゚)「毎日仲良く登下校しておいて、どの口がそれを言うのか!?」

(#・∀・)「同じマンションに住んでるんだから、そうもなるさ!!」


(#゚ω゚)「じゃあ、なんでいつも一緒に居るんだよ!!」

(#・∀・)「前々から相談受けてて、それを応援してたからだよ!!」


(#゚ω゚)「何をじゃあああああああああああああ!!」

(#・∀・)「好きな人が居るんだけどって話だよおおおおおおおおお!!」


(#゚ω゚)「それが何で一緒に居ることになるんだよ!!」

(#・∀・)「自分を見てくれないって泣きつかれれば、そりゃ手伝いくらいするわ!!」

(#゚ω゚)「誰がだよ!!」
(#・∀・)「デレが好きな奴だよ!!」



212: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:44:13.22 ID:2oCdtsD60
(#゚ω゚)「だからそれは…!!」
(#・∀・)「だからそれが…!!」




(#゚ω゚)つ「「お前の事だろがああああああ!!!!」」と(・∀・#)




(#゚ω゚)つ 「「はあっ…はあっ……」」 と(・∀・#)



    ( ゚ω゚)((…………ん?))(・∀・ )


           ……あれ?



    ( ゚ω゚ )「「……………」」( ・∀・ )



226: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:49:00.71 ID:2oCdtsD60
えーと……息も落ち着いて、頭も色んな意味で冷めてきたので、
ちょっと冷静になって、素数を数えてみようか。

と思ったけど、僕は素数がわからないので、モララーに聞いてみた。
突然の質問に奇声をあげたけど、そこは優等生、丁寧に教えてくれた。

ついでに円周率も訪ねてみたら、どこからか「何!? おっぱい!?」
って声が聞こえたような気がしたけど、気のせいだろう。


(;^ω^)「……」

(li ∀ )「……」

さて、一息ついたところで、現状の整理だ。
ついカッとなってやったけど、この空気、何だろうね。

とりあえず、モララーは乾いた笑い声をあげて、項垂れている。
そして、しきりに「言ってしまった…」と呟いていた。


(li・∀・)「……ねえ、けーね先生」

(;^ω^)「え、な、なんだお、もこらー?」

(li・∀・)「さっきの、やっぱり無かったことには……」



232: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:52:36.71 ID:2oCdtsD60
……できないよねぇ、と自分で言って、深くため息を吐く。
もう、苛立ちなんて、海の彼方と山の奥に消えてしまった。

う、うーん、何だか話を聞き辛い雰囲気なんだけど、一応、聞いてみようか。
というわけで、思い切って先のことを訪ねてみた。

モララーはしばし、うーん、と悩むような素振りを見せてから、
意を決したように顔をあげて、僕を見据えた。


( ・∀・)「……信じるも信じないも、ブーンの自由だよ」

(;^ω^)「……ていうか、思いっきり暴露してたじゃないかお」

しかも、その場のノリ、という名の勢いで。
まさに偶発ロマンス開花、そりゃ忘れた名前も思い出せるさ。


(;-∀-)「と、とにかく……これ以上は、僕の口からは言えないよ
     これでも口止めされてるんだから、はあ……なんてこったい…」

(;^ω^)「う、うん……なんか、その、ごめんね?」

(;・∀・)「……ブーンのせいじゃないよ、僕がちょっと全体的に軽率で」



235: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:56:10.69 ID:2oCdtsD60
(;^ω^)「でも、どう考えても、僕が変に突っかかったから……」

(;-∀-)「いや、それ以前に、誤解されてもしょうがなかったと思うし」

(;^ω^)「それこそ、その……僕の勘違いですし」

(;・∀・)「いや、何よりまず、僕がちゃんと話すべきだったんだよ…」


(;^ω^)「で、でも…」

(;・∀・)「いやいや……」


「やっぱり僕が」

「いやいや僕が」


<ですが僕も

<いやいや僕こそ


<シカシナガラ
<イヤイヤホントニ

<……
<……



240: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 19:59:33.53 ID:2oCdtsD60
…………。


そして、僕は最低限の事情を聞かされた。

モララーとデレは、同じマンションのお隣さん同士である事。
昔から面倒をみてる内に、今では実の妹のように思っていること。

そして、そんな様は、傍から見れば仲睦まじい男女にしか見えず。
例の手帳よろしく、周りからはよく勘違いされる、と。

名前は忘れたけど、あのクラスメイト、恨むぜ……。


ちなみに、肝心のデレはと言うと。

僕が抱き合う二人を目撃して、逃げ出したとき。
それと同時に、デレもその場から逃げてしまったらしい。

なので、モララーが再び連絡を取って、ここに呼び出すことになった。

僕としては、急すぎると、当然の抗議をしてみたが、聞く耳持たず、
どうやら今夜、僕は全てに決着をつけねばならない、らしい。



248: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:03:16.45 ID:2oCdtsD60
( ^ω^)「……あ、そういえば……抱き合ってたのはどういう」

( ・∀・)「それ……本気で聞いてるの?」

(;^ω^)「……まっさかー」

( ・∀・)「ですよねー、誰の所為かくらい自覚あるよねー」

( ^ω^)「もちのろんだおー」

( ・∀・)「ふふふ」

( ^ω^)「ははは」

また怒られてしまった……まさにネガティブハートにロックオン。
しかもさっきのオープンハートのせいで、お互い気兼ねがない。

思えば……今までに、モララーがたまに僕を睨むように見ていたのも、
僕が、デレに対して、妙に冷たい態度を取っていたから、か。
そう考えれば、確かに今までの事は納得できる、けど。

本当に、それだけなんだろうか。

何となくだけど、それだけじゃないような気がした。



252: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:05:58.19 ID:2oCdtsD60
( ・∀・)「さて……もうじき来ると思うから」

(;^ω^)「……うん」

( ・∀・)「僕はもう行くけど……」

(・∀・ )「……」

(;^ω^)「?」

そう言うと、何故かモララー君は、茂みのほうを一瞥してから、
鼻で笑うような素振りを最後に、片手をあげて去っていった。

その際、茂みがまた揺れたような気がしたけど、何なのだろう。



…………。



255: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:08:10.18 ID:2oCdtsD60
ちなみに、その茂みの裏では、出て行くタイミングを、完全に逃した人が、
コソコソしながら、どうにか見つからずに、公園の外へと抜け出した。

 _
(;゚∀゚)(……はあ)
 _,
(;-∀-)(なんだよあいつ……悪い奴じゃ、ねーのかよ……)

 _,
(; ∀ )「あーあ……俺すげー空回り、かっこわりー…」


( ・∀・)「やあ覗き魔君」
 _
(;゚∀゚)「誰が覗……ってどわあああああ!?!?」

( ・∀・)「結局、最後まで見てるだけだったね」

ジョルジュはあの後、一人になったモララーに詰め寄った。
しかし、話すことはないと突っぱねられ、あわや一触即発。

そこへちょうど内藤が戻ってきたため、咄嗟に隠れて、今に至る。



258: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:10:35.32 ID:2oCdtsD60
 _,
(;゚∀゚)「ぐ…」

( ・∀・)「君も、何ていうか、いい奴じゃないか」
 _
(;-∀-)「……うるせーや」

( ・∀・)「いや、本当にさ」

モララーは、くくく、と笑いながらジョルジュに並ぶと、
ジョルジュが「お前もくる?」と問い「うん」とモララーは答えた。


こうして二人は、公園を背にして歩いていく。
真上から照らす街灯によって、二つの影を地面に落としながら。




…………。



262: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:14:01.67 ID:2oCdtsD60
( ^ω^)「……」

僕は、果たして本当に来るかもわからない、彼女を待ち続けながら。
街灯に照らされる、公園のベンチに体を預けて、夜に浮かび上がる桜を眺めていた。

春を象徴する花は、夜桜、なんて言葉があるくらい、夜に映える。

その、幻想的な美しさを前にしたせいだろうか、妙に心が落ち着いている。

とか、自分で思っておきながら、それが何だかおかしかった。
僕は毎年、この花を見るたび、得も知れない不安に駆られていたのに。

それが今は、こんなにも綺麗だと思える。

……いや、違うか。

きっと僕が、見ようとしなかっただけだ。



266: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:17:17.71 ID:2oCdtsD60
そういえば、モララー君は言った、デレは約束を守っているのだと。

約束……そうだ、確かに僕は、何かを約束したはずだ。

それは覚えている、もう泣かないとか、そんな約束をしたんだ。
いつまでも泣いてちゃいけないから、強くなろうと、そんな意味だ。

おかしな部分はない、この記憶は正しいはずだ。

けど、それでは、デレが守っている約束が謎だ。

僕はまだ、何かを忘れている。

何だろう、何かが引っかかっている。
何がおかしいんだろう、この変な違和感は何だろう。

確かに、記憶は曖昧でぼやけている、だからだろうか?
はっきりと覚えていないから、変な感じがするんだろうか?



268: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:20:27.27 ID:2oCdtsD60
 「気付いてないんだよ、自分の矛盾に」

誰かが言った、矛盾している、だからわからないと。


よく覚えていない部分、別れの時、僕は泣いていた?



本当に……?


約束、忘れている、僕がした約束。

約束、もう泣かないと、泣かないでと、二人で……。


(; ω )「……?」

……あれ?


ちょっと待てよ、なんか変だ、変じゃないか、この約束って。



272: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:23:09.14 ID:2oCdtsD60
足りないじゃないか、大事な部分が。

どうして、今まで、何の疑問も持たなかったんだろうか。
こんな約束をする事はありえないのに。

前提が無いなんて、おかしい。

もしそう言ったなら、あるはずだ、その前に何かが。


"もう" 泣かない、じゃなくて。

"だから" 泣かないで、に至るまでの経緯、本当の約束が。


だから思い出せ、思い出すんだ。
忘れているはずがない、覚えているはずだ。




……はず、なのに。

………どうしても、わからない。



276: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:26:54.55 ID:2oCdtsD60
(; ω )「……っ」


いや、駄目だ、もっと考えろ、最初から。
まだ何かが足りないんだ、せめてあと一つ。


あの時、泣いていた。


誰が?


僕が?



(………でも、もうあえないもん)



違う。


あの時、泣いていたのは。

脳裏に、一枚絵のような情景が掠める。
それは本当に、一瞬のフラッシュバック。

けど、それで充分だった。



280: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:28:47.29 ID:2oCdtsD60
あの時、泣いてた、あの子の姿。

いつだって、僕なんかよりしっかりしていて。
いつだって、僕の手をひいて、僕の前を歩いてくれたあの子。

そんなあの子が、始めて見せた泣き顔に、僕は驚いた

そして、悲しそうに涙を拭う姿が、見てられなかった。

そうだ、僕はあの時に気付いたんだ、あの子の弱さに。
だから僕も強くならなきゃ。そう思って、もう泣くもんかと、決め……て。


 嗚咽をもらして、言葉にならない声で泣き喚いていた。
 ぼくがゆうきをだして、おもいをつたえた、ちょくごだった。

 ツンちゃんは、泣いてばかりで、何も言わない、言わないけど、
 ぼくは、それでわかったんだ、あのこのほんとうのきもちが。


だから……涙を拭って、鼻をすすって、息を吸い込んで。
ひたすら泣きじゃくるツンちゃんの頭に、手を置いて、そして。



285: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:32:31.78 ID:2oCdtsD60
「ぼく、きいたんだお」


「けっこんすれば、いっしょにいられるんだって、だからツンちゃん」



「おおきくなったら、ぜったいにむかえにいくから」



 「ほんとに…?」


 「やくそくだお」


 「らいふえなじーかける?」


 「え゛……う、うん…かける…」



  
 「じゃあ…」



292: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:35:34.74 ID:2oCdtsD60
そうだ、あの時、ツンは泣いてばかりで、何も答えてくれなかった。
けど、モララーはしたと言う、なら、ツンがした約束って言うのは何だろう。


素直になれなかった子が、再会した時のためにする約束とは、何だろう。

確証はないけど、浮かんだのは一つだけだった。

でも、もしそうだとしたら。
あの子の、あの変わりようは。

ツンが、デレになったのは――――。


その時、強い風が吹いて、木々がざわめき、枝葉が揺れた。
風に乗って舞い上がった桜の花びらが、ひらりと僕の手に落ちた。

ふと顔を上げると、木々が横に向かって、流れるように揺れている。
何となく、順々にそれを追ってしまう、一本、二本、三本。

七本目、街灯の下では、花びらが次々に舞い落ちて、まるで雪のよう。


やがて、その白い点が降りしきる中に見つけたのは。
遠い上に暗いけど、僕を見つめたまま、呆然と佇む。


あの子の姿だった。



298: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:40:52.14 ID:2oCdtsD60

ヽ,.ゞ:,  ,ヾゞヾ;ゞゞ\ヾゞ:  ヾヾ゛ ゞ.ヾゞヾヽ,.ゞ:,,ヾゞヾ;ゞゞノヾゞ:  ヾゞ;ゞゞヾゞ;ゞ
,.ゞ :,,ヾゞヾ;ゞゞノヾゞ:ヾヾ  ゛ゞ.ヾ     ゞヾゞ;ゞゞヾ  ゞ;ゞ      `
ゞ:ヾゞ゛;ヾ;ゞ  ,',;:ゞヾゞ;ゞヾ.:     ヾ:ヾゞヾ., .ゞヾゞ;ゞ   ヾ;ゞゞ;ゞ `  ``
,,ゞ.ヾ\\ ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ .  ゞヾ ゞヾ  .ゞ;ゞヾ;ゞゞ;ゞ ヾ;ゞゞ;ゞ    `
ゞヾ ,,.ゞヾ::ゞヾゞ:ヾ ゞ:.y.ノヾゞ..ヾ .ゞ,'ヾ  ゞヾゞ ;ゞヽ,.ゞ:,,ヾゞヾ;ゞゞ;ゞゞヾゞ;    `
ゞヾゞ;ゞゞヾゞ;ゞiiiiii;;;;::::: イ.ヾゞ, .,;  ゞヾゞ___// ;ゞ   ゞヾゞ;ゞ  ヾ;ゞゞ;ゞ    `
ゞヾ   ゞ;ゞ iiiiii;;;;;::::: :)_/ヽ,.ゞ:,,ヾゞヾゞ__;::/      ゞヾゞ;ゞヾ;ゞゞ;ゞ
  ゞヾゞ;ゞ   iiiiii;;;;::::: :|;:/    ヾ;ゞゞ;ゞ   ヾゞ  ,            `
ヾ;ゞゞヾ;ゞゞ |iiiiii;;;;::: : |:/ ヾゞ        `
  ヾ    |iiiii;;;;;::::: ::|       `   `             `          
  `    |iiiiiiii;;;;;;::: :| `      `            `    ` ,
 `     ,|i;iiiiiii;;;;;;::: :| `   I「春がくるたび、想いだすようです」 `         `     `      ` ` 
     `  |ii,iiiiiii;;;;;;::: ::| `    ,
      ,|iiii;iiii;;;;:;_ _: :|        `        `        `,
 `    |iiiiiii;;;;;;((,,,):::|           ` ,
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307: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:43:51.88 ID:2oCdtsD60
僕は立ち上がって、彼女の元へと向かった。
その間、ずっとデレは俯いたまま、僕を見ようとしない。

顔が見えないから、表情がわからない。
今、どんな思いでああしているのだろう。

それがわからないから、どうしようもなく不安になる。
今こうして踏み出す一歩が、やけに重く感じる。


ああ、そうか、これが僕のしてきた事か。


ζ( 、 *ζ「……」

( ^ω^)「……」

手を伸ばせば、触れられる距離で立ち止まる。
デレはやはりあのまま、身じろぎすらしない。

何て言えば、いいんだろう、まず謝るべきか、いやしかし。


ζ( 、 *ζ「あの……モララー君…居ませんでしたか?」

( ^ω^)「……居ないお」

ζ( 、 *ζ「……そう、ですか…」



312: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:47:11.63 ID:2oCdtsD60
今まで散々、彼女を拒否してきた僕に、何が言えるのだろう。
何度考えても、虫のいい話にしかならないのに。


ζ( 、 *ζ「……もう、行きますね」

やがて、一度も僕を見ないまま、デレは背を向けた。
そして、小さな足音だけを響かせて、去っていく。

その後姿を、僕は反射的に呼び止めていた。
微かに肩を震わせて、デレは足を止めてくれた。


そして、今度はまっすぐに、僕の眼を見据えた。


喉が鳴る、足が痺れて踏み出せない、声が震える。
なんかもう泣きたいくらい、怖くてたまらない。

自分でも、何て調子のいいこと考えてるんだと思う。

けど、それでも何を言われるかと思うと、どう思われるかと思うと、
怖くて怖くてたまらないし、目が回りそうだし。

はは、は、自分がしてきた事だと言うのに、本当に情けないというか。



317: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:49:12.35 ID:2oCdtsD60



ζ(゚、゚*ζ「……なんですか?」

やがて言った、その声は、明らかに嫌悪感を含んでいた。



さーっと血の気が引いていく。
喉がカラカラで、また喉が鳴った。



けど、それで逆に吹っ切れた。

その恐怖は、他ならぬ僕がしてきた事でもあるんだ。
そう考えると、負けるもんかと、やけくそめいた力が沸いてくる。


もういい、わかった、これは罰なんだ。

知ることから逃げた、僕自身の。



328: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:53:44.41 ID:2oCdtsD60
そうだ、僕はせめて、どんな謂れも受けなきゃいけない。
手が震えるほど怖いけど、何を言われても、耐えなきゃいけないんだ。


踏み出せ。

言うんだ。

もう一歩。

思い出せ。

あと一歩。


さあ、言え。



(  ω )「………」


( ^ω^)「約束どおり、ツンに、会いに来たんだお……」





まあ、反応は無かった。



335: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:55:33.70 ID:2oCdtsD60
言い終えた瞬間、心臓が破裂しそうな勢いでドクンドクン言うから、
聞き逃した可能性もなきにしもあらず、だけど、多分、無反応。

何を期待したわけでもないけど、これはこれで困る、身動きが取れない。

時間が長い、もう1時間は経ったんじゃなかろうか。
まあ実際には 分 秒なんだけど、いやそうでなくて。


ζ(゚、゚#ζ「……今更、何言ってるんですか?」













とか言われたらどうしよう、心臓止まるかも。
思考はとにかく、ネガティブループを始めて止まらない。
覚悟はしたはずなんだけど、いざこうなると怖っ。



342: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 20:58:44.17 ID:2oCdtsD60
そうして、僕らは二人、見詰め合う、穴が開くほどに。

やがて、ざわめきと共に、風切る音がどこからか響いてきた。
先と同じように、強風に煽られた枝葉は揺れて、花びらが舞う。


葉が擦れ、たなびく唄。


はらりはらり舞い散る桜。


その果てに、僕は数瞬、時を忘れた。



ζ(゚ー゚*ζ「……うん」



ζ(^ー^*ζ「ずっと、待ってた」

視界が揺れる。

思わず見惚れたまま、呆けてしまう、あまりに現実味が薄くて。
けど、やや遅れて、今の言葉と、笑顔の意味を悟る。



355: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:03:57.57 ID:2oCdtsD60
(  ω )「……………………ど」

そして、まず出てきた感情は、疑問だった。


(  ω )「どうして………」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

目の前がどんどん滲んでいく。

掠れた喉から、どうにかそれだけ搾り出すと、
今度は、僕のほうが視線を下げて、眼をそらした。

やさしく微笑みかける、あの笑顔を直視できなくて。


ζ(゚ー゚*ζ「……」

( ;ω;)「なんでだお……だって僕は、ツンに酷い事を…」


許されていいはず、ないのに。



371: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:08:49.52 ID:2oCdtsD60
ζ(-、-*ζ「………………」


ζ(゚ー゚*ζ「…本当はね………もう、忘れようって思ってたの」



ζ( 、 *ζ「それでも……もし、ブーンが私の事を覚えてなかったら、諦めようって思ってた……」


ζ( 、 *ζ「だから……もういいって、忘れようって……何度も……ね…?」


だけど、と続けて。声に嗚咽が混じる。


ζ(;、;*ζ「なのに、それでも私……ブーンの事、忘れられなかった」


(; ω )「……っ」

ζ(;、;*ζ「デレさん、って見知らぬ人のように呼ばれるのが、すごく辛くて……」

ζ(;、;*ζ「本当はね、始めてあなたを見た時に、全部伝えたかったの」



374: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:12:18.88 ID:2oCdtsD60
ζ(;、;*ζ「あの時、結局、言えなかった事が、それがずっと辛くて、
       変わろうって、変わりたいって思って、頑張ってきた…でも」

ζ(;、;*ζ「そんな小さい頃のこと、私だけいつまでも覚えてるなんて、変だから
       もし鬱陶しいと思われたらどうしようって思うと……私、何も言えなくて」


ζ(;、;*ζ「諦めなきゃ、って思えば思うほど、気付くと私、ブーンを目で追ってて……」

拭っても、拭っても、ぽろぽろ涙が頬を伝っていく、シロッコで言う、生の感情。
僕はそんな彼女を、ただ見ているだけで、息が苦しいくらい、胸が締め付けられて。

何か言わなきゃ、って思うのに、気の利いた言葉は出てこなくて。


ζ(;、;*ζ「やっぱり私………ブーンのことが……」


ζ(;ー;*ζ「どうしようもなく好き……」


「好き…なの……」

デレが、全ての言葉を言い終えるよりも早く、自然と足が前に出ていた。
そして気付けば、今にも泣き崩れてしまいそうな彼女を、強く抱き寄せていた。



382: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:16:38.96 ID:2oCdtsD60
もう何も見えない、聞こえるのは耳元で囁かれるような、僕の名前。

ほんのくすぐったさと、込み上げてくる痛みと、ぬくもりだけがそこにあって。
頭の中がぐちゃぐちゃで、僕は声の出し方さえ思い出せなくて。

ただ、抱き寄せた身体は、思っていたよりずっとか細くて、
あまりにも柔らかくて、このまま僕を通り抜けてしまう気がして、
それが怖くて、決して離さない様に、強く、強く抱きしめた。

少しだけ、苦しそうな吐息が首を撫でる。
だけど、それでもデレは僕の名前を呼んでいた。

辛いくらいに、愛しく思う。
温かさよりも、心が苦しい。

僕はまだ、何も応えていない。
伝えなきゃ、そうは思えど、迷ってしまう。

……それでも、言わなきゃいけない。


僕の本心、本当の想いを。



389: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:19:44.51 ID:2oCdtsD60
(  ω )「……デレ、聞いてくれお」

言って、僕は、名残惜しむ心を抑えて、ぐいと身体を離した。
すると涙でくしゃくしゃな顔をして、デレが僕を見た。

不安と、憂いが混もった瞳が揺れる。

決意が揺れそうになる。

いいじゃないか、もう、このまま下手な事は言わなくても。
そうさ、余計なこと言わないで、一言だけ言えば、きっと幸せになれる。


嘘でもいいじゃないかと、僕の弱い部分は言った。

ああ、そうできたら、どれほどいいだろう。

だけど、デレは本心をくれたんだよ。

なのに僕が本心を返さないなんて、そんなの駄目だ。

だから、と、僕は拳を握り締めて。
深く脈打つ鼓動を感じながら、張り付いた口を開く。



398: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:22:30.97 ID:2oCdtsD60
(  ω )「……僕は……ツンが、好きだお」

多分、あの頃からずっと、ずっと。
頭の片隅には、いつだってあの子が居た。

でもそれは。

僕の中に居る、ツン。
記憶の中にだけ居る、理想の偶像。

誰かにそれを当て嵌めるだけで、心が揺れてしまうほどの、
僕の弱っちい心が作り出すそれは、例えるならアイドルへの憧れ。
それを強く願いながら、叶わぬと知り、手が届くことを恐れる。

つまり僕は、僕の恋心とは本当じゃない、偽物に過ぎなかったんだ。


(  ω )「けど、それは君じゃなくて、君を好きだとは…言えなくて……」

ζ( 、 *ζ「………………」


(  ω )「だから」

(  ω )「……デレ、僕は」



411: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:27:15.39 ID:2oCdtsD60
だからこそ、間違いなく言える事がある。


ほんとの恋も何もわからない、僕が心から言える、本当のこと。


ぐちゃぐちゃな頭で、さっきからずっと考えている物。
頭の中が一杯になるくらい、想ってしまう人。


心から、願うことは。






( ;ω;)「君を、好きになりたい」


他の誰より、何よりも、好きでいたいと、心から思う、それが僕の本心。

だから、もっと知りたい、誰よりも側に居たい、泣かせたくない、笑顔にしたい。

君の笑った顔が見たい、照れた顔が見たい、怒った顔が見たい。


でも、君の悲しむ顔は見たくない。



420: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:30:06.93 ID:2oCdtsD60






もう君の事しか考えられない。










ああ、何だ。





そうか……これが、人を好きになるって事なんだ。



426: ◆aYo30Ks4N6 :2008/12/23(火) 21:34:00.16 ID:2oCdtsD60
降れども降れども、止まない花びらが雪のように降り積もる。
静かな公園を照らすライトの中を、一枚の花びらが横切っていく。

地面には小さな影が一つ、泳ぐように、ひらり、ひらり。
やがて二つに重なる、大きな影を横切って、地面にそっと触れると。
風にむすばれ、再びふわりと舞い上がり、またひらりと地面に落ちる。

それでも重なった二つの影は


いつまでも
いつまでも


重なったまま


告げるような春風の中で 夜に浮かぶ桜の下で


やがて 絡めた視線さえも 一つに重ねていった





                Thank to you Here Reading next Afterwards――――。



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