( ><)好きなように生きるようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:03:36.35 ID:hvile8WxO
-
*
( ><)「……つまり、こういうことですか」
ジョルジュが昨日語っていた、長い話が終わった後、ビロードは哀しげに目を伏せた。
あれだけのことが作り話であるとは、彼も思わなかったのだろう。
( ><)「僕は一週間後の作戦で、VIPのために殺されるんですね」
( ^ω^)「……うん。強ち間違った解釈ではないお」
_
( ゚∀゚)「それで、ビロード。お前は……殺されるとしても空を飛ぶか?」
夢と命を秤にかけさせる。
どちらもかけがえのないものであった。ビロードはどっちを取るのだろうか。
空を飛ぶほうを選ぶだろうというのが、ブーンの見立てだ。
ビロードの命など、もともと風前の灯火だったのだ。彼ならば、それを輝かし、活かしたいと思っているに違いない。
しかしビロードは、低い声を出した。
( ><)「……僕に死ねって言うんですか。ブーンまで。ジョルジュまで。僕はなんなんですか」
_
( ゚∀゚)「ビロード?」
( ><)「どうせ仕様のない命だったからって、死ななきゃいけないんですか?
僕の命ってそんなに……軽いんですか?」
二人は、ビロードの目に涙が浮かんでいるのに気付いた。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:06:16.87 ID:hvile8WxO
-
(。><)「確かに、僕が生きてても大した価値はないと思うんです。
でも……死ぬほかで何かが出来るはずって、思ったら駄目ですか? 役に立ちたいって思ったら駄目ですか?」
( ^ω^)「あ……」
ブーンは、ビロードの考えを勝手にネガティブな方向へ推し測っていたことを恥ずかしく思った。
彼はもっと、自分の人生のことを幸せに思っているのだ。
(。><)「僕は一週間後に死ぬかも知れません。でも、命じられた通りに死ぬなんてお断りなんです!
ジョルジュはどうして何も抵抗しないんですか! ここを抜け出せば、あなたには良い人生が待ってるんです!」
_
( ゚∀゚)「いないさ」
熱く、興奮しているビロードを一瞬で宥めてしまうくらい、冷やかな声がした。
_
( ゚∀゚)「俺には楽しい人生は用意されてない。あるとしたら、罪に追われる奴隷人生だけだ。
だからここで、虫けらみたいに死にたいし、死ななきゃならない」
ジョルジュは口を開くことさえ面倒であるかのように、ぼそぼそと話した。
二度目だから、という理由ではなく、自分が死ぬことには関知してほしくなかったのだ。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:09:12.99 ID:hvile8WxO
- _
( ゚∀゚)「ともかく、俺は死ぬ。ビロードはどこか行って、何か大事なことを成せばいいじゃないか」
(。><)「……どうして死ぬなんて簡単に言えるんですか! ジョルジュは死ってこと、理解してないんです!」
_
( ゚∀゚)「してる。死っていうのは死ぬことだ。死んだらもう誰にも会えないが、仕方ないことだろ」
(。><)「死んじゃったなら、それは仕方ないんです……でも、死ぬんだったら違うんです!
自分から死ににいくなんて、人を悲しませるだけなんです! どうしてそんなことするのか、わかんないです!」
_
( ゚∀゚)「生きてたって人を悲しませた。笑わせもしたが、俺は死んだって人の心には強く残らねえよ」
ジョルジュは「お前以外にはな」と、立ち上がってビロードの肩を叩いた。
それがどれだけ酷か、わかっていない口ぶりだった。
_
( ゚∀゚)「じゃブーン、お前はこいつの脱出のために頑張ってくれ。あと、俺の悪名を、生きてる限り触れ回れ。
俺は、俺が死ぬためによく努力する」
( ^ω^)「……了解」
ビロードの制止の声もきかず、ジョルジュはポケットに手を突っ込み、外に出ていった。
おかげで、ブーンがとばっちりを喰うことになった。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:12:28.84 ID:hvile8WxO
-
(#><)「ブーンのばか! どうしてジョルジュを止めなかったんです!」
( ^ω^)「今じゃないお」
摘まみ上げられ、視界いっぱいにビロードが広がっているにも関わらず、ブーンは冷静に言う。
ベルベットにはしょっちゅう摘まみ上げられているので、なれっこだった。
( ^ω^)「ジョルジュのアホを止めるのは後だお。まずは、確実に脱出する方法を見つけないと」
( ><)「けど」
( ^ω^)「ビロード。脱出方法が見つかれば、ジョルジュもわかってくれるお。
『死からは逃げられない』って思ってるから、ジョルジュは死にたがってるだけなんだお」
ブーンは心にも無いことを言ってビロードを無理矢理説き伏せ、早速ドアを開く。
( ^ω^)「レッツゴー、ライブラリーだお」
( ><)「うーん……」
ビロードは納得していないながら、それを押さえつけ、歩き出した。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:15:12.78 ID:hvile8WxO
-
夜も図書館は開いていた。蛍光灯の明かりで、ひとつだけ白い空間を保っている。
人はもうどこにも見えないが、気配だけはしている。本棚の陰で立ち読みをしているのだろう。
ビロードたちは、やはり入り口で少し戸惑ってから、宛もなく図書館の中へ入っていった。
( ^ω^)「まず、ここの見取図が必要だお」
( ><)「いや……こんな封鎖された施設の見取図に、逃げ口が書いてあるとは思えないんです」
( ^ω^)「それでも、何かの役には立つと思うお、だから一応。それから……周辺地図も」
ビロードは、地図関連の棚から、王都周辺の地図と、大陸図を持ってきた。
それを、壁に貼り付けられている建物の見取図が見える机に置くと、その椅子に座りこんだ。
( ><)「ひとまずはこれくらいで良さそうですね」
( ^ω^)「だお。とりあえず、そこの見取図を見てみるかお」
ブーンは低めの本棚の上に移動して、見取図に向かって目を凝らす。ビロードも壁を見上げた。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:18:44.55 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「えーっと……構造は北に向かって開けた、箱型になってるお。
きっと作戦のときに使う、戦闘機用の出口だお」
( ><)「そこから出るのは?」
( ^ω^)「無理だお。なんの足場もない10mの壁があるお。近くから飛び移れる窓なんかもない」
(;><)「んむむー……? じゃあどうしたら……あ! まさか、戦闘機を使って、それで逃げるとか……」
ブーンは俯いて、首を振った。
( ^ω^)「……それも無理だと思うお」
( ><)「でも、あの戦闘機はかなり高性能で」
( ^ω^)「だからこそだお」
ビロードの言葉を、ブーンが遮った。表情は深刻にこの世の終わりのようなかおをしている。
あの戦闘機に、なにか脱出を妨げるような機能はついていたか? ビロードは首をかしげる。
そして、あっと声をあげた。
( ><)「まさか、考えを読みとる機械ってことは……」
( ^ω^)「恐らく、なんだけどNE。そういう思考で以て操作した場合、爆発とはいかないまでも、停止、通報だと思うお」
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:22:07.56 ID:hvile8WxO
-
ビロードは以前、父の研究所に連れてこられた時、思考認識装置についての本を目にした事があった。
主人に憎しみを抱けば、思考認識装置が感知し、強い電気のショックを与える。
まだ幼い少年が、そんな拷問で、従順な奴隷へと辱しめられていくところだった。
その本はすぐに閉じたのだが、挿絵もあって印象は強烈に残っており、ビロードは今もそれを忘れていない。
(;><)「たしかに、あの戦闘機の機能なら、それくらいあってもおかしくはないんです」
( ^ω^)「確証はないけど、絶対にあるお。それが無きゃ、戦闘機が持ち逃げされる上に機密も漏れる」
( ><)「とにかく戦闘機を使っては逃げられないってことですね、わかります」
ではどうするか、と言われてもビロードに考えはない。
ビロードは、一から思考を組み立てるのは不得手だ。
得意なのは誰かの粗を探して、より確実なものにすること。彼は根からの批評家気質である。
( ^ω^)「そしたら、どこか抜け道を探すしか……亜空間はホライゾンしか通れないしNE」
頭を抱え、ブーンはあれこれ思案する。
ほかに、脱出やらでおなじみの方法といえば、何がある?
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:25:19.75 ID:hvile8WxO
-
ふと、エアコンから吹き出す空気に、ビロードの髪が揺れた。
( ><)「……風?」
( ^ω^)「風がなんだお?」
ブーンもエアコンの吹き出し口を見上げた。
ルーバーが動きながら、斜めに白く、太い息を吐き出している。
( ><)「この風は、どこから……?」
( ^ω^)「そりゃあ外からだお。エアコンのしくみっていうのは―――」
( ><)「それなんです!」
その言葉を遮り、ビロードはブーンに指をつきつけて叫んだ。
それから、夜だというのにごうごう冷たい息を吐いているエアコンを見つめる。
( ><)「あれだけ大きなエアコンなんです。もしかして通風口、ダクトも人が通れるくらいの太さがあるんじゃないんですか?」
ビロードが言うと、ブーンの頭もすっきりしたらしく、ぽんと手をうった。
(*^ω^)「なるほど、ダクト! 確かに外に通じていそうだお!」
「ちょっと見てくる」とブーンは、エアコンの裏にテレポートした。
( ^ω^)「風強すぎ、冷たすぎ」
そしてすぐ、灰色になって戻ってきた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:29:14.02 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「汚れることを厭わないとするなら、エアコンが止まってるときに行くのがいいと思うお」
ススを払い落としながら、ブーンは苛立った口調で言った。
( ^ω^)「おすすめはしないけど」
( ><)「そしたら、空調のスイッチは……」
少し歩きまわって探すと、すぐに見つかったが、空調のコントロールパネルは受付の奥にいた。
受付にはひょろい中年男性がひとり。ジョルジュなら殴って気絶させて、といけそうだが、ビロードにその心得はない。
( ^ω^)「僕が奥に行って空調を止めれば……いや、ベルベットに睡眠薬を借りればいいかお」
なるほどとビロードは頷く。
いかにも渋い紅茶を欲してそうな横顔である。睡眠薬を用意して、混ぜてやればいいだろう。
( ^ω^)「で、どうやってダクトに侵入するお?」
( ><)「え?」
ビロードもブーンも、エアコンを取り外す技術は持ち合わせていない。
となれば、この図書館からダクトに入り込むことは不可能だった。
( ><)「……きっと、どこかに入り口がありますって」
( ^ω^)「掃除はしてない様子だったお」
( ><)「オワタ」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:33:30.11 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「ともかく、ダクトをいく方法は最終手段として考えておくかお」
そう言ってブーンが手を叩いたと同時、図書館の柱時計がボーンボーンと古めかしく鳴った。
( ><)「……もう12時ですか。明日に備えて寝たほうがいいんです」
( ^ω^)「だおだお。夜更かししても良いことないお」
訓練中に居眠りしたとき、思考認識装置を搭載した戦闘機は自動着陸するのだろうか。
確証が持てないことはしない方がいい。何より大切なのは命だ。
( ^ω^)「じゃ、戻るかお」
ブーンは跳躍し、ビロードの肩に乗る。
怪訝な顔をしながら、ビロードはあくびをして、本棚から出した地図等を戻し、図書館をあとにした。
( ><)「明日も、ひとまずは訓練で。ブーン教官、よろしくお願いします」
( ^ω^)「あー……怪しまれたらまずいもんNE。わかったお」
ビロードがもとの部屋に戻ってドアを開いたときには、ジョルジュが寝息を立てていた。
ほっこりとした安堵を心に感じながら、ビロードはベッドに潜り込んだ。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:36:48.21 ID:hvile8WxO
-
*
(;^ω^)「あさだおおおぉぉ!!」
(;><)「な、朝あっ!?」
_
( -∀-)。゜「あぁ、うめぇ……おっぱいうめぇよお……」
(;^ω^)「何! 僕をしゃぶらないでお!」
ただ、訓練をするならするで、ビロードたちの生活はひどくハードスケジュールになった。
ジョルジュは単に寝起きが悪いだけだが、そのせいでビロードの一日は余計に慌ただしく始まる。
昨晩寝付いたのは午前一時、起床時刻は八時だから、極端に睡眠不足ではない。
だがビロードは訓練をし、脱出を企て、様々な思いを巡らせていたので、疲れは節々に残った。
八時に起きて、ゆっくり朝食をとり、準備を終えると十時からすぐに訓練が始まる。
正午に一時間の休憩、十三時から八時間の訓練後また一時間食事に費やし、
そのころには既に午後十時。十二時には部屋に戻るため、実質使えるのはたった二時間だ。
その二時間で、ビロードはダクトの入り口を探し、ブーンは様々な本を片っぱしからあたって、新たな作戦を考えた。
しかし、暗い中ではお眼鏡にかなう通風口は見当たらず、森に隠された目当ての木も、見つかるはずがなかった。
じたばたと、その一日は終わり、二日が過ぎた。この間、収穫はない。進展もない。その代わり退行もなかった。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:40:09.98 ID:hvile8WxO
-
あっという間に、ビロードが施設に来て六日目の朝である。
普段はブーンに起こされていたビロードは、妙な体のぬくみを感じ、体を起こした。
( ^ω^)「早いじゃないかお」
( ><)「ばらばらになれ」
ブーンが皮肉ったように言うので、とりあえず叩き潰しておいた。なかなか爽快な気分になれた。
( ><)「今日は、ちょっと暑くないですか?」
_
( -∀-)。゜「おっぱ……お」
( ^ω^)「いや? むしろ涼しくなってきたなって思ってたところだお」
( ><)「え……。じゃあ気のせいかもしれないです。忘れておきますか……」
伸びをして、厚めの布団を蹴飛ばし、ビロードはベッドから飛び降りた。
煉瓦を積んだような壁が少し揺らいだ。
( ><)「僕、ちょっち散歩行ってきます。ジョルジュが起きたらそう伝えて」
( ^ω^)「わかったお。ジョルジュを起こしたら、NE?」
叩き潰した。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:43:14.14 ID:hvile8WxO
-
時間はまだずいぶん早いようだった。昇り始めた太陽が長い影を落とす。
(;><)「暑いんです」
空気は澄んで冷たい。にもかかわらずビロードは汗をかいていた。
単に体温調節をしているだけでもある。しかし半分ほどは冷や汗をかいているだろう。
( ><)「これって多分……あれなんですよね」
にぎった手にも汗がにじむ。
この原因不明の熱は恐らく、例の薬の副作用だろう。時間が経てばもっとひどくなり、死に至るに違いない。
蔓延ろうとしている冬芝をむしった。
同じように根を張った芝が、そこかしこにあった。
それきり草をむしるのはやめ、ビロードはその上に倒れこむ。
ちぎれ雲がゆっくり流れていた。
きっとビロードが死んでも、ほかの人々は歯牙にもかけない。ひとつ芝をむしっても、ほかの芝は伸びゆくように。
自分が死んだところで何もない。
それならば生きるべきだが、それもどうやら不可能らしい。
よくよく思えば、じぶんは理解しているふりをして、ひとつもわかっていなかった。
ビロードは自嘲してわらう。どうして僕は死をいやがったりしたのだろう。
ろくすっぽ良いことなどなかった。そんな人生を大事にしたがった理由が見えない。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:46:08.56 ID:hvile8WxO
-
( ><)「……死ぬかぁ」
最も適当な行動だと思った。
( ><)「やっぱり、ジョルジュを一人では行かせられないですから」
それでも理由づけをせずにいられないのはどうしてだろう。そう思ったビロードの顔に、影が射した。
( ゚д゚ )
( ><)「えっと」
( ゚д゚ )「殊勝なものだな」
( ><)「……誰でしたっけ」
( ゚д゚ )「誰でもいいじゃないか」
ミルナは無礼を意に介した様子もなく、ビロードの隣に寝転がった。
膨らんだ胸から息を吐き出して、ミルナはせわしなくまばたきする。
( ゚д゚ )「眩しいな」
ビロードは何も答えなかった。飄々とした男の掴み所を探っているところだったのだ。
そうしているうち、彼が誰だか思い出した。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:50:10.13 ID:hvile8WxO
-
( ><)「隊長さん」
( ゚д゚ )「なんだ」
( ><)「確認です」
( ゚д゚ )「そうか」
ミルナは眠たそうに目を閉じたり、薄く開けたりを繰り返している。
謎めかした行動に、ビロードは仕返しの気持ちを込めてそう言った。
( ゚д゚ )「そう」
( ><)「……」
ミルナは横目でビロードを見た。
( ゚д゚)「明日のことを言おうと思って、来たのだ。隊長だからな」
成程といって、ビロードは空から目を離す。半身を起こして、ミルナを見下ろした。
気候と違って上がった体温の所為か、睡魔が襲ってしかたなかった。
彼の話をきくために、すぐには眠ってしまわないようの対策だ。
( ><)「え……明日?」
( ゚д゚ )「作戦の決行日だ。大丈夫か?」
ああそういえば、と欠伸をしながらビロードは思う。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:53:06.19 ID:hvile8WxO
-
( ><)「なんか熱っぽくて。でも、どうせ死にますし、心配はいいです」
おい、とミルナが諌める。
しかしすぐ、彼はばつの悪そうな表情をつくった。
( ゚д゚)「うむ……どうせ死ぬから、とは考えるな。死に対する緊張感をもてばこそ、」
そこまでいって、ミルナはまた鼻をすすり、首をかしげる。
自分が言いたいことはわかっているようだが、自分でそれが納得できないらしい。
( ゚д゚)「ああもう、明日の作戦だ。昼すぎここ。目標はラウンジ湾岸の砦。これから戦闘機の整備士がくるから、今日は訓練中止だ」
ビロードは言いくるめられたような気分で頷いた。
気持ちのいいものではなかったが、不快を吐いたところで相手も気を悪くするに違いない。
彼は無益がきらいだ。だから黙って眉をひそめるだけにした。
( ゚д゚ )「それからもうひとつだ」
ミルナも体を起こした。後頭部に芝の葉が絡んでいたが、ビロードは気にしなかった。
これからもっと重要な話が始まるだろう―――。こんな、ただの直感からだった。
( ゚д゚ )「まずは、申し訳ない、なのだろうか……? きみを追い込んだのは私なんだ」
ビロードの勘は、よく当たる。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 20:56:46.56 ID:hvile8WxO
-
( ゚д゚ )「ビロード君やきみのホライゾンは、きみのお父さん―――ベルベットが、きみを殺す算段をつけたと思っているようだ。
それはあまり間違いじゃない。だが正解とも程遠い」
重要な話と言うのはわかる。しかし、どういう意味か考えるのも面倒だった。
指を鳴らして、ブーンを呼び寄せる。
彼は空間を超えて来ると思っていたから、ポケットのホックが取れたときは、少し目が覚めた。
( ^ω^)「聞いてたお」
( ゚д゚ )「ならいいのだ」
ただ、ホライゾンはもともと神出鬼没な生物なので、ミルナはこれっぽっちも驚いていなかった。
あまりに淡白なので、ビロードが
( ><)「いいのかよっ!」
と慣れない口調をつかって、ミルナの肩を手の甲で叩いてしまったくらいである。
ミルナはこれをやはり気にも留めず、むしろ小さな謝罪をするかのように、軽く目を伏せた。
ビロードはひどく後悔をした。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:00:06.64 ID:hvile8WxO
-
( ゚д゚ )「ビロード君やきみのホライゾンは、ベルベットが、きみを殺す算段をつけたと思っているようだね。
それはあまり間違いじゃない。だが正解とも程遠い」
聞いていたと言ったのだが、ミルナは話を繋ぎやすくするために、もう一度言った。
( ゚д゚ )「なぜならベルベットは、私がいなければ、きみを死なせようなどかけらも思っていなかったから。
かの天才がいつでも、君のために薬をつくっていたことは、とても有名な話だよ」
( ^ω^)「そうらしいNE。よく耳にするお」
( ゚д゚ )「とうぜん、息子のビロードも有名だ」
ミルナは何か言葉を続けたそうに、口をまごつかせる。
―――どうせ聞き慣れた罵りを言われるだけだ。
そうビロードは気にしなかった。ブーンだけが『いとど』を投げていた。
( ゚д゚ )「しばらくここに滞在して解ったろう。ここにはあまりに人がいない」
いとどは高く跳ねながら、遠くへ消えていく。それを見送り、安堵したあとでミルナは言った。
( ゚д゚ )「人がいないというより、来ないのだ。今や自ら兵士に志願するものは少ないからな」
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:03:26.67 ID:hvile8WxO
-
( ><)「時代は変わりましたね」
彼はしみじみと言った。
ビロードが幼い頃は、窓の向こうで毎日、兵士のようにぴんと気をつけをする子供たちがいた。
あればかりは何が面白いのか理解できなかったが、その子供たちの人数は、戦争が始まって激減したのだ。
( ゚д゚ )「そうだな。VIPにとってはつらい。戦争とは兵士がどんどん死んでいくのだから。特に私のところは。
……出来ることなら、私は誰も死なせたくない。共に戦い、必ず生き延びたい。
いや、こんなことを言うと、また上からどやされるが、本当は戦争などすべきではないのだ」
( ^ω^)「でも、戦わなかったら……」
( ゚д゚ )「戦っても、だ。私は、はじめから皆ばらばらになり、他国に拠り所をみつけるべきだと思っていた」
ブーンは目からうろこが落ちたらしい。軽い放心状態になっている。
此度の戦争は、敵国から仕掛けられたものだった。だから、応戦して勝たなければならないという先入観があったのだろう。
( ゚д゚ )「まあ、いまさらどうにもならないが。この事態は避けられなかった。残念なことだ」
( ^ω^)「残念ですお、本当に」
ミルナはさてと言って閑話休題とした。
( ゚д゚ )「ビロードにはもっと気になる話があるのだよな。ここからは逸れずにいこう」
両手にぐっと力を込め、ミルナは骨を鳴らす。首を回してもやはり骨が鳴った。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:07:12.88 ID:hvile8WxO
-
( ><)「あなたが僕を陥れた、ってどういふ……ことなんです?」
ビロードは欠伸を噛み殺しながら尋ねる。
何事にも興味が湧かなかったが、これだけは訊かないわけにはいかなかった。
数学や化学の公式のようなものだ。知りたいとも思わないが、知らないと後々面倒だ。
( ^ω^)「そうだお。場合によっちゃ、カマドウマのストックを使いきるお」
ミルナは顔面蒼白で、まだ持ってるのかと項垂れた。しばらくして、覚悟を決めたらしい表情で口を開いた。
( ゚д゚ )「私がベルベットに命じたんだ。きみの息子を、特攻隊に寄越せと。そして、殺させろと。
あの薬を飲ませる策を講じたのも私だ。そうすれば退路を断たれたビロードは、死ぬほかなくなる。
死ぬ以外を考えなくなる。そして、VIPはベルベットの弱味を握っていたんだ。彼も断れなかった」
ミルナはくぐもった笑い声をあげた。
その音はどんどん高くなり、ビロードが眠い目を擦りもせず、眉根を寄せ、彼を睨み付けるほどに至った。
笑いを堪えきれない表情で、ミルナはまただらりと口を開く。その顔は少し、自嘲的にも見えた。
( ゚д゚ )「ビロードに目をつけたのは私だ。きみを犠牲にしようと思い立ったのも私だ。
ベルベットへの恨みを晴らせる最良の機会だと思ったよ。彼の苦しみようといったらなかった」
力の抜けたブーンの手から、『いとど』がこぼれ落ちた。
それぞれは自由に跳躍していったが、その行方は誰の目にも映っていない。
そこに居合わせた全員が、男、ミルナを凝視していた。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:10:07.75 ID:hvile8WxO
-
( ゚д゚ )「笑えた話ではないよ、まったく」
急に笑うのをやめて、ミルナはまた草むらに寝転がった。
( ><)「……」
ビロードの眠気も醒めた。目が冴えてさえ、口をついて出る言葉がひとつも見当たらない。
全ての話が突飛すぎる。初聞で理解できたものではない。おまけに気圧されていることも付加される。
ミルナが抱える、父、ベルベットへの恨みとは何だろうか?
落ち着きのあるミルナが、あんな常軌を逸した笑い声を上げたのだ。尋常なことではない。
そういえば今日は風が強いな、とビロードは思った。
( ^ω^)「それで、なんだお」
ブーンが苛立って訊く。
( ゚д゚ )「何がだ」
ミルナも苛立っていた。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:13:39.82 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「説明になってないお。キーキー喚いていちゃ話にならないお。つまり、ベルベットは悪くないのかお?」
( ゚д゚ )「いいや、あいつは悪いさ」
わけがわからないので、ビロードはまた少しずつ眠くなってきた。
そろそろ目を醒まさなければ、と思う。細かく体を動かし、眠気を振り払う。
( ゚д゚ )「そこのホライゾンは、聞いたことくらいあるんじゃないか? 20年前の国立研究所の爆発事故」
20年前と言った時点で、ビロードには知る由もないことだった。ブーンも首を捻っていた。
( ^ω^)「そんなのは知らないけど、ひょっとしてスイーツ市郊外のシャワートイレ製造所かお?
……ベルベットが、以前働いていたって聞くお」
( ゚д゚ )「そうだ。その年にベルベットがそこで働き出した。自分の研究のために、忍び込んだと言うべきか」
( ^ω^)「研究?」
ブーンが眉をひそめ、聞き返す。ベルベットが20年も前に、たいそうな研究をしていたなど聞いたことがない。
爆発事故のことも、初耳だった。
( ゚д゚ )「あぁ。彼は私の同僚だったから、そのことを耳にもした。途方もない話だった」
ミルナは当時を思い出し、嘆息する。
( ゚д゚ )「私が気付いていれば良かったのだろうか……」
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:16:06.14 ID:hvile8WxO
-
( ゚д゚ )「ベルベットの研究は、常軌を逸していた」
( ^ω^)「……どんな風に」
ビロードが、頻りに瞬きをする。眠るときより強く目を瞑って、睡魔を払おうと躍起になった。
父のことはやはり気になるのだ。
( ゚д゚ )「ウォシュレットベイビーというのを知っているか?」
( ^ω^)「……いや、知らんお」
( ゚д゚ )「だろうな。やはり20年前に封印された研究の産物だよ。因みに複数形ではないんだ」
ふと、ビロードは背中がぞくりとするのを感じた。
勘が告げる。絶対に真実であってほしくない仮定を、強く。
( ゚д゚ )「その研究はある意味単純だ。事実、理論までは完成していたからね」
( ^ω^)「実証がなかったのかお」
( ゚д゚ )「あぁ。『3個以上のシャワートイレを一点にぶつけると膨大なエネルギーが発生し、そこに生命が誕生する』
だが実際にそんなエネルギーを発生させれば、我々の星は死に絶える。
ベルベットの研究は、『シャワートイレ自体を縮小すれば、エネルギーも縮小される。
しかし、生命の誕生にはなにか別の理由があり、エネルギーが小さくてもシャワートイレから生命は誕生する』
そういう研究だった」
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:20:08.99 ID:hvile8WxO
-
たしかに途方もない話だ。
言い換えればシャワートイレから生命が誕生するだなんて、とんでもない騙りだ。
しかし、ミルナの瞳はそんな風に人を笑おうとしていない。今もベルベットへの怒りが見え隠れする。
( ^ω^)「でもたしかに、シャワートイレの大きさが100分の1になればエネルギーも100分の1、
そうして、研究所内で済ませられるエネルギーになるんじゃないかお?」
実際、20年前に世界は滅びていないし―――ブーンはそう付け加えた。
( ゚д゚ )「その通りだ。奴の説はいちおう間違っていなかった。だが、思考があまりに単純だった。
これでいいならば、そこのホライゾンが先にウォシュレットベイビーを誕生させたろうな」
ブーンは眉間にしわを寄せ、首をかしげる。
( ゚д゚ )「現実はそんなに単純なものじゃない。一足す一が五百になることくらいざらだ。
シャワートイレのエネルギーも、例に漏れなかったんだ」
ミルナの話し方は、いちいち真に迫っていた。
彼の顔のせいもあるだろうが、ビロードは彼がすごむたび、肩をすくめた。
( ゚д゚ )「ベルベットは、その可能性があることもわかっていた。だがあいつは実験を強行した。
その結果が、あの大惨事だ。ポリカーボネート製ケースの中で収束するはずだったエネルギーは、
半端じゃない熱量をもって研究所を包み込んだ」
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:23:13.84 ID:hvile8WxO
-
(; ω )「……そんなことがあったのかお?」
( ゚д゚ )「あった。嘘じゃない」
だいたいそのころに、ブーンはVIPに移り住んできていた。
大きな事故であれば、噂が耳に入らないはずはない。だがミルナの話がうそだとも思えない。
おびただしい数の死屍が積み上げられたに違いない。
それだけの重大な事故が耳に入らなかったのは、どうしてだろうか。
ベルベットさえシャワートイレ製造所のことをよく知らないと言っていた。
もしかして、隠蔽が行われていたりするのだろうか。しかし何のために隠蔽するのだろう。
同じことが繰り返されないようにするためには、後世に伝えることが重要なはずなのに。
( ^ω^)「それで、生命は……」
( ゚д゚ )「生まれていた。研究所があった更地に放置された、かのケース内にいた。小さな人間の男児だったそうだ。
まぁ、こうして成果こそ出たわけだが、もちろんこれに関する研究は禁止された。
本当は事故のことを話すのもよくないんだ。禁止されている」
ビロードがごくりと唾を飲んだ。
じゃあ、どうして僕らに話したりするんだ。直感を否定しにくくなるじゃないか。
( ^ω^)「へー……ベルベットはよく死ななかったもんだお」
( ゚д゚ )「ある人が盾になったのだ。その尊い命でな」
ミルナの顔つきが急変した。
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:26:11.28 ID:hvile8WxO
-
( ゚д゚ )「なんとなくわかるだろ、ビロード。そいつは私の弟なんだ。おまえの親父に、殺されたんだ」
(;><)「……」
ぐうの音も出ない。
一番の理由は、ミルナが発する怒気の、あまりに巨大な迫力に喉がつまってしまったことだ。
しかし、一方でビロードは呆れ返っていた。
なぜこんな、会って久しくない男に、自分とは直接関係のないことの、恨みを聞かされなければならないのだ。
この男は、いったい何様のつもりで、じぶんと話しているのだろう?
いや、相手の考えなどどうでもいい。
とりあえず、ビロードはこの男に様という敬称をつけたい気はしない。
眠気はなかった。代わりに体の温度が高くなった。
どのあたりのタイミングでいきり立ち、どんな言葉で怒鳴りつけてやろうか、それだけしか考えられない。
沈黙のなか、ビロードは心を決め、息を吸った。
( ><)「こ」
( ^ω^)「そんなのはどうでもいいお。つまりお前は、復讐のためにビロードをここに来させたのかお。
さもなくば事故のことをばらして、天才の名声を地に落とすと脅して」
そして、ブーンに遮られた。かの生物はいちど振り返り、頼もしげな笑顔を見せた。
任せろということだろう。ビロードは仕方なく口を閉じた。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:30:06.47 ID:hvile8WxO
-
ミルナは間をあけてから、つぶやくように言った。
( ゚д゚ )「……それが一番の理由だ」
( ^ω^)「じゃあ二番三番はなんだお」
( ゚д゚ )「まあ落ち着けよ」
( ^ω^)「至極冷静ですみませんお。二番三番はなんだお」
うそだろうなと、ビロードは思った。
ブーンは冷静だったらこんな風に強くでたりしない。
また、彼ほどのホライゾンが、あんなことを一番の理由に挙げられて、怒っていないはずもない。
( ゚д゚ )「ああもう、わかったさ。だが三番はない。それから世間一般にいえば、二番目の理由のほうが大事だ。
むしろ一番目というのは無意味に等しい」
( ^ω^)「意味深長だNE。で?」
ビロードは苦笑した。
これがジョルジュの言う、天然ウザというものかと理解したのだ。
その後、笑いはしゃくりあがって即座に止まった。ミルナの言葉が聞こえた。
( ゚д゚ )「あの時ベルベットに引き取られたウォシュレットベイビーを、君を、生かしておくわけにはいかなかった。
かの危険なエネルギー研究があったという、何よりの証拠になってしまうからだ」
同時、全てに合点がいった。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:33:23.68 ID:hvile8WxO
-
(; ω )「……どういう……ことだお……」
ブーンの声も震えていた。
ビロードも、いま自分が声を発したら、きっと震えているだろうなと思う。
( ゚д゚ )「説明が必要か?」
二人して、首を横に振った。
だけど、信じられない。ビロードはもっと首を振った。
自分が本当はベルベットの子ではない、ただのみなし子だったなんて。
シャワートイレから生まれた、何十人もの犠牲を生んで発生した、おかしな命だなんて、信じられたものではない。
そうだ、これはミルナのうそだ。
ブーンに気圧されて、咄嗟に吐いた根も葉もない大うそだ。
(;><)「う、う、そ、な、んで、す」
( ゚д゚ )「本当だ」
(;><)「だ、だだって、ぼ、ぼく、は、ビロ、ド、だ」
( ゚д゚ )「君に母親はいたか」
ビロードはその一言で、全身の骨がするりと抜かれてしまったような気がした。
どさりと草むらに背中が落ちる。起き上がろうにも気が湧かない。
ちぎれ雲がゆっくり流れ、太陽を隠した。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:36:18.44 ID:hvile8WxO
-
ビロードは20年前、ミニチュア・シャワートイレの衝突により発生した。
その時は、ここから見える太陽のように小さく、ポリカーボネートのケースが壊れていたら、きっと見つからなかった。
そんな話をミルナはした。
( ゚д゚ )「それでは明日な、ウォシュレットベイビー。VIPの為に死んでくれ」
ミルナは立ち上がり、二本指を立てて軽く振る。
おっさんが、小洒落たまねをするものだなと思う。
( ω )「待てお、屑」
ブーンが凄むが、ミルナは足を止めない。
やめろ、とビロードが目配せすると、ブーンは項垂れた。
そしてミルナの姿が見えなくなり、ビロードは大きなため息をついた。
( ><)「……ブーン、気付いてるんでしょう、僕の異変」
( ^ω^)「……そうならないよう、ベルベットに解除薬を頼んだお」
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:39:22.50 ID:hvile8WxO
-
( ><)「そんなもの。どうせ死ぬんだから、いらないんです」
ビロードは苦笑しながら言った。無理がある故の苦笑だ。
彼は、ただしと付け加える。
( ><)「僕は、あんな奴の思い通りに死んだりしないんです。生きるだけ生きて、父の所為で死にます。
通り魔に殺されるより、恋人に殺された方が美談になるでしょう?」
( ^ω^)「ビロード……」
ブーンは眉をひそめた。
( ^ω^)「あんたって主人は、本当に自分勝手で、人の気持ちを考えないNE」
( ><)「おーい、僕の傷心も考えて欲しがってますよー」
かの生物の言いたいことは理解できた。
彼が夜中、たまに父のところを訪れていたのをビロードは知っている。
だが、やはり大切なのは、血の繋がりこそ無くとも、なんの益もない自分を今日日まで育てた父だった。
出来ることなら、もちろん生きたい、生きると言いたい。
だがきっと、それは不可能なのだ。
( ^ω^)「……ジョルジュを起こしてくるお」
( ><)「あ、僕も行くんです」
願望は願望を過ぎることはない。ビロードは特に、それを理解していた。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:42:19.24 ID:hvile8WxO
-
*
_
( う∀-)「要するに、今日の訓練は中止ってことか。わった」
叩き起こされ、ことのあらましを聞いたあと、ジョルジュは目を擦りながら言った。
_
( ゚∀゚)「じゃあ今日は、何するんだ?」
( ^ω^)「……」
ブーンは主人を見た。
たしかにこれは、ブーンが勝手に言ってよいことではない。ビロードは頷いた。
( ><)「脱走します。僕ら三人で、作戦の期までに必ず」
_
( ゚∀゚)「おーそうか、頑張れよ。って、あと一人は誰だ?」
ジョルジュはわざとらしい惚けをみせた。
その口角がぴくぴく痙攣している。こういった嘘ごまかしの類いはとても苦手らしい。
( ><)「何言ってるんです、僕とブーンとジョルジュ、三人ですよ」
_
(;゚∀゚)「いやー……だって俺は……」
( ><)「だまらっしゃい。何がなんでも、こんなところで死ぬことは許さないんです」
胸を張って、威圧を発しつつ、ビロードは詰め寄る。
背丈はビロードのほうが余程小さいが、ジョルジュは少したじろいで、顎を引いた。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:45:03.62 ID:hvile8WxO
- _
(;゚∀゚)「……でも、無理だ。おれは逃げちゃいけない」
(;><)「ジョルジュ! 僕はジョルジュを連れていきたいんです! お願いします!」
ビロードが声を張り上げる。ジョルジュは冷たい息を吸う、涙をこらえているようにも見えた。
彼の決意を揺るがそうとする自分は、なかなかの邪魔者にちがいない。
ジョルジュはとても戸惑っているだろう、辛いだろう。
しかし嫌われても、彼をここに置いていってはいけない。
ジョルジュという心優しい重罪人を、ここで殺してはいけない。
_
( ゚∀゚)「俺はだめだ……生きちゃいけない。ここで死ぬ他ないんだ」
(#><)「またそういうことを言う! こんな死に方されたって、オオカミの人は誰も喜ばないんです!」
ジョルジュの眉がぴくりと動いた。
_
( ゚∀゚)「村のことじゃねぇ。こいつは俺の……ケジメだ」
(#><)「だったらそんなケジメ、つけなくていいです! クソでいいから生きてください!」
_
( ゚∀゚)「……」
不貞腐れたように、ジョルジュは背中を向ける。肩こそは、すぼんでいたが。
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:48:08.43 ID:hvile8WxO
- _
( ゚∀゚)「……うるせえよ。生きててオオカミの奴等にどう顔向けできんだ」
( ^ω^)「さっき言ったことと矛盾してるお?」
_
(;゚∀゚)「う、うっせーよばろー!」
ビロードは、微かな笑いがこみ上げて堪えられなかった。
口のはじから噴き出した音に、ジョルジュはすぐさま反応して振り返る。
怒鳴ってやろうと思った。察してくれよと笑おうと思った。
慈愛に満ちて、ビロードの顔にはあまり似合ってない瞳が、ジョルジュを見つめていた。
_
( ;∀;)「……くそったれが」
結局どちらも出来なかった。
ジョルジュは抑える間もなくこぼれた涙をすくって嘆息した。
( ><)「……」
( ^ω^)「……」
ビロードとブーンは何も言わずに、ベッドに胡座をかいたまま俯く。
しばらく、外で風がびゅうびゅう鳴った。次にジョルジュはどう言うのだろうか。
期待とも不安ともとれない感情は、波風が立つようにざわめいた。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:51:10.86 ID:hvile8WxO
-
ジョルジュがはっと顔を上げた。
その目はどことなく泳いでいるが、腹を決めたように据わってもいる。
これは演技だ。ビロードはそう感じた。
_
( ゚∀゚)「ブーンには、前に話したよな」
( ^ω^)「……何がだお?」
_
( ゚∀゚)「ロビー町。覚えてるか?」
ブーンは首をかしげて、記憶を手繰り寄せる。しばらくして、かの生物は「あっ」と声をあげた。
( ^ω^)「ラウンジ湾岸の……村の人達を受け入れてくれるっていう」
_
( ゚∀゚)「それだけじゃないんだよ。ちょっと調べたんだけどな、」
ぱらぱらと小さなノートが捲られる。三人でそれを覗き込む。
罫線に仕切られて、小さな文字で文章がしたためられていた。
_
( ゚∀゚)「ラウンジ国の南、湾岸線に位置する町ロビーは、人口七千の大きな港町である」
( ^ω^)「町の名は、VIP国に開いて交易、移民の拠点になっていることから取られた。
注釈、これは戦争中の現在も変わっていない」
( ><)「次作戦の目標はラウンジ湾岸につくられた砦である。これとロビーの距離は離れてはいないため、
うまくすれば戦闘機をロビーに着陸し、脱出することができる、と」
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:54:05.95 ID:hvile8WxO
-
( ><)「……やれやれなんです」
_
(;゚∀゚)「な、なにかな……?」
ビロードは、さっきジョルジュが小芝居をしたのを許すことにした。
思い出したように策をいったにも関わらず、それをきちんと調べあげてある。
ばれないと思うほうがおかしかった。
_
( ゚∀゚)「ともかく、これで大丈夫だ。俺ほどの未練たらたらが乗っても、戦闘機はちゃんと動いてた。
逃げるつもりで操縦しても問題なさそうだ」
発信器がついている場合もある。
しかしレーダーで追われていても、目標とロビー町はそこまで離れていない。
たしかに、「うまくやれば」。しかし、必ずできるという気がした。
( ><)「それじゃあジョルジュ、明日頑張りましょう!」
_
( ゚∀゚)「おう。ああ、明日から俺の償いの日々が始まるんだな」
( ><)「耐えてください、あんたは」
ビロードはそう笑った。
演技を見抜けても、なぜ彼が演技をしたのかは見抜けていなかった。
( ^ω^)「じゃあ、飯に行くかお。もう僕、腹がへってへって」
男たちは頷き、今日も食堂を荒らしに行った。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 21:57:05.12 ID:hvile8WxO
-
*
( ^ω^)「あー食った食った。腹ん中がパンパンだぜ」
もはやお馴染みになった食堂荒らしは、どちらかというと非難でなく羨望の眼差しを受けるようになっていた。
この絶望的な場所で、僕らはそうとう元気に見えるのだろう。ビロードはしみじみ思う。
_
( ゚∀゚)「この、すだこってやつは美味いな。舟盛りに一杯盛られてたって食べきれる」
( ><)「ジョルジュの顎力つえー」
けれど、どんなに楽しそうに見えたって、僕だけは死ぬんだって。
ビロードは心の中で、おどけて言った。
そのあとすぐ、かぶりを振る。
―――例え死ぬとしても、それまで生きていられるのだから幸せだ。
そう思うと、彼は決めたのだった。
(;^ω^)「わ、ほんとだお。すだこうま……けど固っ! すっげー繊維伸びる」
( ><)「喉つまらせて死ねっ!」
( ω )「……ぁがっ」
_
( ゚∀゚)「うわ、演技リアルだな」
( ><)「これが私たちのリアル(暗黒微笑)」
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:00:04.15 ID:hvile8WxO
-
ブーンが本当に喉を詰まらせ卒倒したところで、ビロード達は食事を切り上げ、部屋に戻ってきた。
_
( ゚∀゚)「これ、どうするよ」
( ><)「前にもなったことがあるんです、こうやって……」
足をつかんでぶんぶん振り回してやると、すだこの切り身が噴出して壁に張り付いた。
(;^ω^)「ヴはっ! 死ぬかと思ったお」
( ><)「あっ」
ブーンがいきなり手の中で蠢いた所為で、ビロードの手がすべる。
嫌な音がして、二人は咄嗟に手で目を覆った。
_
( ゚∀゚)「あーあ……」
( ><)「やっちゃったんです……」
恐る恐るその手を下ろすと、ブーンだったものが壁に張り付いていた。
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:03:24.55 ID:hvile8WxO
-
いちおう、このくらいではホライゾンは死なない。
然るべきものを然るべき所に置いておけば、勝手にそれぞれ接着していく。
それを置けないくらい粉々になって、五時間ほど放置するとやっと死ぬ。
とは言え、これも早く直さなければ死んでしまう。
( ><)「直しますか……」
_
( ゚∀゚)「あぁ……」
どうやら損傷も軽微だ。ビロードは首を回してから、ホライゾン型のパズルに取りかかった。
*
(;><)「あー」
久しく動かしていなかった腰を捻ると、形容しがたい音がした。
ビロードは額に浮いた汗をぬぐい、安堵のため息をつく。
なおったか、とジョルジュがかの「飛び出すおっぱい本」に伏したまま訊いた。
なんとか、とビロードは凍りついた笑顔で言う。
( ><)「ジョルジュ、何してんです」
_
( ゚∀゚)「男にゃあいろいろあるんだ、いろいろ……」
それらしくごまかして、ジョルジュは舌を出し始めた。
空しくないのかと訊くのは、心におしとどめた。
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:06:11.02 ID:hvile8WxO
-
はめ込んだパズルのピースがそれぞれ癒着し、一匹の生物になり起き上がった。
生物はぶるぶる腕を震い、自分の生きていることを確かめる。
( ^ω^)「……ほっ」
どこもかしこも、思う通りに動いたらしい。安心したようにため息を吐いて、彼は回りを見回す。
ジョルジュはよく眠っていた。ビロードも眠っているようなふりをしているが、その割りに呼吸が速い。
部屋が暗いのは再生したてだったせいだと思い込んでいたが、これで理由が見えた。
もう夜だ。
ブーンは今一度ビロードの様子を窺う。
彼は必死にお芝居をして、ブーンが復活したことにも気付かないふりをしている。
( ^ω^)(だったらちょっと付き合わせてもらうかお)
小さな寝台の下にブーンは亜空間を開くと、直ったばかりの足を使い、飛び下りた。
別世界の外から、あっと驚いたらしい声。
戻ったときには、また長い話をしなければならなそうだと、ブーンは肩を震わせた。
しかし、悪い隠し事をしているわけでもないと、勝ち誇るような笑みを浮かべもした。
ずるずると下から上へ滑っていく、亜空の景色。
遠近法のない錯視まみれの世界で、ブーンは眉をしかめもせずに、ゆったり深呼吸をした。
- 84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:10:19.03 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)(ベルベット……どうやらあんたとも、いろいろと話をしなければいかんようだお)
ブーンは朝方にされたミルナの話を思い出し、陰鬱な気分になる。
彼の主人たちには、重大な秘密があった。それこそ下手をすれば惑星規模の危機に陥るような、重大なものだ。
もちろんあれを真実とは思いたくない。
ただ、ミルナの語り方がなんとも真に迫っていた。
せめて、かの話が勘違いばかりで構成されていれば、とブーンは願う。
ベルベットから一度、彼の妻について聞いたことがある。
若くして心臓病で亡くなったらしい。ベルベット曰く、「天然ボケなのに、女の勘がとても鋭い人」だったそうだ。
ビロードはきっと母親に似たのだ。
シャワートイレから生まれたなど、ミルナの憶測に過ぎないのだ。
ふっとため息が漏れてしまった。
ブーン自身にさえ、詭弁であると自覚できる。ベルベットが嘘をついていたなら、それまでの話になってしまう。
呆れてかぶりを振る。どうせ自分には真実をききとるしか出来ないのだ。
信じたところで事実は書き換えられたりしない。
( ^ω^)「……行くかお」
ブーンはかの研究室の光景を頭に浮かべ、目の先にそれが広がっているのを想像した。
両手に力を込め、空間を開こうとする。
その手は空をかすめた。
(;^ω^)「あれ?」
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:12:42.80 ID:hvile8WxO
-
(;^ω^)「な、なんだお? 何事だお?」
なんど空を掻いても、手にはどろどろした亜空間特有の有毒ガスが残るばかりだった。
少し調子が悪いだけだ―――。この言い訳はすでに出来ないし、したところで無益だ。
二度とこの空間から出ることはかなわないのだろうか。不安こそあるが、ホライゾンでそんな話は聞いたことがない。
なにか他に原因があるはずだ。ブーンは考え、辺りを見回してみる。
( ^ω^)「あっ」
そして背後を振り返ったとき、それまですっかり失念していたものを思い出した。
むしろ、思い出さざるを得なかったと言える。
( ^^ω)「ちっす、ホマ」
通常、ひとたび入口を閉められた亜空間には、そこを開いたホライゾン以外だれも侵入できない。
だと言うのに、一度見たら忘れようもない顔をした老ホライゾンがいるのだ。
きっと、誰だって彼に関する記憶を思い出す。
(;^ω^)「あ、ああ、そうだお、パスワードだお」
見たものだけ忘れたことにして、ブーンはぽんと手を叩く。
後ろから何かホマホマ聞こえるが気にしない。
( ^ω^)「えーっと……『ミルナは包茎』!」
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:15:06.64 ID:hvile8WxO
-
( ^^ω)「この亜空間は機械制御なんだホマ」
今度ははっきりと、老ホライゾンの言う声を聞き取れた。
( ^^ω)「施設の中で開く空間は、すべてここに繋がってるホマ。
だからこそおんなじ亜空間に僕らが存在できる。外に出るためにパスワードを設定できたりするんだホマ」
( ^ω^)「……ずいぶんハイテクになったお。ぼくにはついていけんお」
( ^^ω)「これの研究も、ベルベット博士が指揮を執ったんだホマ。知ってたホマ?」
( ^ω^)「……今晩はずいぶん元気そうじゃないかお。眠らなくていいのかお?」
彼の話が妙な方向に向かいそうだった。ブーンは少し焦燥を感じて、老ホライゾンを皮肉った。
( ´`ω)「眠くならないんだホマ」
しかしブーンの言葉に、翁は深く項垂れた。
( ´`ω)「迷信と思ってたけど、あるものホマ。……ま、おかげでこうして、少し勝手をできるわけだけど」
( ^ω^)「パスワードを変えて、何がしたいんだお」
( ^^ω)「今更何かをするなんて無理ホマ。ただ君が、どうやらお悩みみたいだから、助言をしに来たんだホマ」
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:18:06.30 ID:hvile8WxO
-
(;^ω^)「施設から出る方法を知ってるのかおっ!?」
思考より先に、声が大きくなっていた。
何故こんなに大きな声が出たのかよく解らずに、ブーンは口元を押さえる。
(;^ω^)「……どうなんだお」
( ^^ω)「その逆だホマ」
(;^ω^)「逆……?」
彼が人間であれば、黄ばんだ前歯の奥に金歯が覗きそうないやらしい笑みを、老ホライゾンは浮かべた。
( ^^ω)「施設からはどうしたって、逃げっこないんだホマ」
施設からは逃げられない。
その言葉は、まっすぐに死を意味した。
ブーンは二度、空咳のように笑う。
( ^ω^)「……いくらでも道は残されてるお」
( ^^ω)「ないホマ。君らが今朝言ってた、ロビー町に着陸、なんてのも無茶ホマ。
管制塔は戦闘機の動きを的確に監視してるホマ、ロビーに着陸した時点で、遠隔操作で爆破される」
- 93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:21:33.03 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「……盗み聞きとは悪趣味だお」
ブーンは笑おうとして、できなかった。
絶望というのはこういう気持ちなのだとわかる。
( ^^ω)「この齢になると趣味がなくて。でも、おかげで君を助けられたホマ」
( ^ω^)「助け? いまのが?」
ほんとうに呆れて、ブーンは声が裏返った。
死が救いだとでもいうのか。ちょっと危険な宗派だと思う。
( ^^ω)「わかったんだホマ。ロクに生きてない命なら、輝いているときに投げ出したほうがいいんだホマ。
長生きしたって、死ぬときはひどく惨めなんだから」
( ^ω^)「かといって、死んだから幸せなのかお」
ブーンは口を尖らせた。なんとしても、彼の考えに賛同するわけにはいかなかった。
こいつは、何もかもを知っている。ミルナの味方をして、こちらを陥れようとしている可能性もある。
その手には乗らない。唇をなめて、ブーンは老ホライゾンを睨み付ける。
( ^ω^)「僕らは若いから知る由もないお。けど、それだけ生に展望があるお。
あんたみたいに老い萎びれて死ぬかもしれないお。けど、これからもっと良いことがあるかもしれないお。
あんたと違って、死を受け入れて、笑顔で死ねるかもしれないんだお」
ブーンは息をつかずに言い切った。そして一層、老ホライゾンを睨む瞳を光らせる。
- 97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:24:09.43 ID:hvile8WxO
-
( ^^ω)「ほっほっほ。やっぱり君は良いホライゾンだホマ」
殺意的な視線の先で、彼は笑っていた。
嘲笑ではなくて、いまブーンと相対していることに喜びを感じているようだった。
( ^^ω)「でもまだ、ただの感情任せホマ。君は、死を受け入れるってどういうことか解ってるホマ?」
( ^ω^)「倫理観の話なら聞きたくないお。僕なりのものを堅持してるお」
( ^^ω)「ほほん。じゃあ聞かせてもら」
( ^ω^)「断るお。どうせ否定する気でいるんだろお」
( ^^ω)「否定されると解りきってるような考えなのかホマ」
( ^ω^)「鬱陶しい。はやく新しいパスワードを教えて、帰ってくれないかお」
背中を向けて、ブーンはわざとらしく怒ったしぐさをした。
本当に怒り心頭に達したら、こんなふりも出来ない。まだ余裕があるな、とブーンは知れず思った。
( ^^ω)「長々説教を垂れたりはしないホマ。ただ、これだけ」
ブーンは首だけ動かし、彼を見た。その瞳に輝きが宿っていた。
( ^^ω)「誰かに望まれて生きること。誰かに惜しまれて死ぬこと。そして誰かに望まれて死ぬこと。
そのどれだって、間違いなく幸せなんだホマ。死ぬことで何かができると言うのは、幸せなんだホマ」
- 99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:27:15.75 ID:hvile8WxO
-
( ^^ω)「きっと僕は、明日には死ぬホマ。誰も知らないうちに、さらさらの粉になる。
だから僕は不幸せホマ。この不幸、君たちには味わってほしくないんだホマ」
( ^ω^)「……身勝手だお」
ブーンのつぶやきに、老ホライゾンはくすりと笑った。
( ^^ω)「こんな身勝手な頼みごとをするのも、死を受け入れられない愚者のあがきと思って許容してくれないかホマ?」
( ^ω^)「……」
ついに、何も言う気が起きなくなった。
こいつの願いを聞くつもりなどないはずだ。屁理屈をこねて怒鳴り散らすことはできた。
しかし、老ホライゾンの言うことに反論したいと思えないのだ。
きっと自分は、心の奥では理解しているのだろうと思う。
ただ、それを認めることはやはり、ビロードに死を薦めることになる。
そしてまた、その気持ちを表立ったものにはできないのだった。
( ^ω^)「……僕にどう言われても、最後に決めるのはビロードだから」
( ^^ω)「それでいいホマ」
逃げるような言葉にも、老ホライゾンはにっこりと笑った。
( ^^ω)「君たちの未来に幸あれだホマ。それが明日で終わっても、明日から始まっても」
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:30:03.73 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「……どうも、ありがとうだお」
ブーンは気障っぽいせりふに苦笑しながら、手を挙げてひらひら振った。これもまた気障だな、と思った。
( ^^ω)「パスワードは『ミルナは短小』ホマ。じゃ、僕はもう帰るホマ」
背後から気配が消えた。
ありがとう、と呟こうか否か迷ってから、ブーンは静かにパスワードを唱えた。
その言葉を、ひとり口にするのも、やはり気障だと思ったのだ。
全身に降りかかっていた圧迫感が、すっと軽くなる。
今度こそ、この空間を出られるという感覚だった。
( ^ω^)(生きる意味……それは未来にあるのかお)
両腕を突き出し、指先から徐々に力を込めていく。
( ^ω^)(じゃあ、現在って)
ビリビリと空気が裂けた。その向こうに、見慣れた研究室が広がっている。
ブーンは思考をやめ、裂け目を跨いで別の空間に現れた。
ブーンは大きく息を吸い、叫ぶ。
( ^ω^)「ベルベット! 期日が来たお。約束の薬、出来なかったとは言わせないお!」
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:33:08.67 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「おい」
ブーンは机にうつ伏せになっているベルベットの頭を蹴飛ばした。その拍子に、彼の寝顔が露になる。
( -=--=-)。゜「……」
( ^ω^)「これはきめぇ。……じゃない、コラ起きろコラ」
( -=--=-)。゜「もっと食べられませんか……」
( ^ω^)「なにそれ、要求してんの? 夢の中でなにを要求してんの? バカか、起きろお」
休むことなく蹴りつづけることおよそ一分。ベルベットの目がようやく開いた。
( ####<●>)「……なんか、顔が痛いのですけれど」
( ^ω^)「薬は出来た?」
( ####<●>)「あぁ、無視……出来ましたけど、無視ですか」
( ^ω^)「よし、出せ」
( ####<●>)「まったく横暴ですね。そんなだから女性にもてないのですよ」
- 105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:36:08.41 ID:hvile8WxO
-
( ########)「やれやれ、少しぐらいねぎらってくれても良いじゃないですか」
フラフラになりながら、ベルベットは完成したという解除薬を取りに行った。
背中に哀愁や、悲しげな色はかけらもなく、まるっきり、いつもの疲弊したベルベットの背中だった。
逆に言えば、そうしたものは疲弊に隠れていたのだろう。
ブーンにとってそれが確信となるのは、ビロードのいる施設に戻ってからのことだ。
( <●><●>)「これがタイムリミットに対する解除薬です。薬の効果自体は消えません」
渡されたのは、万能薬『スカルチノフ』と似たようなカプセル剤だった。
見慣れた便箋が添えられている。たしか、ベルベットがビロードに手紙を書くときに使っているものだ。
( ^ω^)「それは?」
( <●><●>)「親らしいことをなにもしてやれなかったので。末期くらいは格好をつけようかと」
( ^ω^)「親じゃないのに?」
( <●><●>)「……ええ。親っぽければ十分です」
ベルベットは少し身じろぎした。
永久に知り得ないことだろうと、たかをくくっていたらしい。
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:39:03.16 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)「この一週間、あんたの色んな噂を耳にしたお。良いものも、悪いものも」
( <●><●>)「なんとまあ」
もはや驚いていない声で、ベルベットは感嘆をあげた。
( ^ω^)「僕はそのどれも、真実だと思ってるお。あんたはあまりに疑わしい」
ブーンは眉根を寄せて、腕組みをする。そして、かの老ホライゾンに向かってしたように、まっすぐな視線を向けた。
( ^ω^)「まだ何か、隠してるんじゃないかお。僕らに話してない、秘密があるんじゃないかお」
( <●><●>)「……」
試薬で荒れてしまった手の人差し指が、ブーンの持っている、便箋の入った封筒を示した。
( ^ω^)「……なに?」
( <●><●>)「……そこに、私の人生を記しました」
ベルベットは据わった目で言った。
( <●><●>)「私にはもう、隠し事をする理由はないのです。それをビロードに渡して、私の最後の言葉として伝えてください」
最後、というのがブーンは引っかかった。もしや、妙な腹を決めているのではないか。
そんな予感もした。
- 109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:42:04.04 ID:hvile8WxO
-
( ^ω^)(いや、まさか)
ブーンは首を振って否定した。これからこそ、ビロードは生きていくのだ。死んで詫びようなど思うはずがない。
ベルベットがこれまでビロードを育ててきたのだし、その関係は依存し合っている。
自分が死んだらどうなるか。それは、互いによく理解しているはずだ。
( ^ω^)「……わかったお。必ず届けるお」
大きな封筒と、小さなカプセルをどこともなく仕舞う。
あちこちで、研究員たちが泥のように眠っているのが目についた。
( <●><●>)「よろしく頼みますよ」
( ^ω^)「僕が一度でも失敗したことがあったかお? いいから、あんたも寝たほうがいいお」
ベルベットは苦笑した。素振りを見せていないつもりだったのだろう。
しかし、彼の姿は誰の目から見ても、疲れているだろう、眠たいだろうと容易に想像できた。
( <●><●>)「ええ、そうしますよ」
手を振り、「また」と言ってブーンは亜空間に戻った。
( <●><●>)「永遠にね」
- 111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:45:39.22 ID:hvile8WxO
-
*
パスワードをいい、ブーンは再びホライゾンルームに現れた。
かの老ホライゾンの姿はない。彼とて別れを告げたい相手は、ほかにもいるだろう。
ほとんど素通りをして、一直線に部屋に帰る。
ビロードはまだ起きているだろうか。寝ていても叩き起こすつもりでいたが、ブーンはいちおう首を捻った。
( ^ω^)「ビロード」
宿舎の部屋に落ちてくると、ブーンはすぐさま声をかけた。
ビロードは既にこちらに背中を向けて、寝たふりを完成させている。
ただ、あくまで「ふり」だと判るのが少し可笑しくなった。ビロードは自身のいびきの迫力を知らないのだ。
( ^ω^)「起きてるんだろうがお」
( ><)「……寝れないだけです」
ふてくされた声がする。
人間は自分らと逆だ、とブーンは思ったが、口にするのは憚られた。
これからそれを止めるんじゃないか、と言い聞かせる。
しかし、自分に出来ることは、あまりにも少ないと感じた。ブーンは手紙と薬を取り出す。
( ^ω^)「ビロード、それじゃあちょっと夜更かしするかお」
そして、まずベルベットの手紙を、ビロードに突きつけた。
- 112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:47:39.66 ID:hvile8WxO
-
( ><)「父さんからですか?」
( ^ω^)「だお」
そう頷くと同時、彼は、ここに何が記されているのか心配にもなった。
この手紙が、ビロードに悪影響を及ぼすような気がしてならない。しかしそれでも、渡すほかない。
封筒を渡したブーンは、唾を飲み込んだ。
( ><)「今更なんなんでしょうか……」
封を切り、中に詰まった何枚もの便箋を引き出す。
三つ折りのくせを直して、ビロードは体を起こして文面に目を落とす。
それは、息子に送るにしては少し堅いような文章ではあった。きっと彼は不器用なのだろう。
長い長い手紙を、目を擦ってからビロードは黙読し始める。
ブーンも彼の肩に乗って、ともに手紙に目を向けた。
- 114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 22:49:04.67 ID:hvile8WxO
-
*
唐突に長々しい文章を送りつける非礼を、まずはお許しください。
しかしながら、これは私が貴方に語るべきことであり、語らぬままに死することは出来ないのです。
貴方の前では、私は恐らく饒舌に語れません。ですので、この雑多な文章にて口を開きたいと思います。
これに記したのは、私の黒い歴史のことです。
時に、過去を黒歴史と思えるのは、現在に満足できているからと言われます。これには、天才たる私とて例外でないと感じます。
さて、ではまず、私が天才でなかったころに遡ります。
子供のころは神童と呼ばれていた私が、大学に入り、金の卵と呼ばれだしたころでしょうか。
当時は、ある理論が学界を騒がせていました。N大の西村博士が提唱した、『惑星永環論』というものです。
これは、とても単純な理論なのです。
まず、三つのシャワートイレを一定の方法で干渉させあうことにより、膨大なエネルギーが発生する、という理論が別にあります。
また、そのエネルギーはこの惑星をいっせいに滅ぼすほどでありながら、中心で生命を生み出す、とも言われています。
そして惑星の滅びた後に、誕生した生命が徐々に進化し、文明ができ、またシャワートイレというものが開発され、
同じような理論が考えられ、また誰かがそれを実験し……と、無限ループが続いていきます。
この考えが、『惑星永環論』です。
- 117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:02:33.69 ID:hvile8WxO
-
これに対し、世界中で研究者たちが賛否両論をあげました。
賛否両論とは、正しいと認められたり、誤りだと批判されたりすることです。
ですが、ともかくこの理論の提唱が切欠となり、誰もがこれの研究を開始しました。
地質を調べ、「前回」の存在を確かめようとした学者。世界中に点在する遺跡にこもった考古学者たち。
そして私は、賛成の立場を持って、かの理論で本当に生命が誕生するのかということを、波に押されて研究し始めたのです。
当時の私はまだ天才に至らないので、この研究にはとても苦心しました。
ただ理論通りにやるのでは、それこそ惑星永環論のとおりになってしまいます。
発するエネルギーの調整をしなければ、惑星は滅ぶのです。
三年後、私は大学で専攻したシャワートイレ製造のノウハウを武器に、有名なシャワートイレ製造会社に就職しました。
生命を誕生させるという、ある種では禁忌に触れるような研究でしたから、これを隠して、会社に潜入したのです。
私は天才で通っていたので、ホライゾン用の小さなシャワートイレを開発すると言えば、
流石は名高き天才と唸られ、即プロジェクトを任されました。
これには私も戸惑いを感じました。今まで私は、自分で考え勝手に行動する、というのが常であり、
人の上に立って指示を飛ばすなど、未経験で、多少の恐怖さえ感じたように覚えています。
しかしそれでも、生命の創造という神がかったテーマに逆らうような、強い感情ではありませんでした。
二つ返事で承諾し、とにかく意欲のありそうな若者、自分より年下のものを集めて、プロジェクトを結成したのです。
その中で唯一、私より年上の男がいました。
名前はミロ。年はもう三十近かったと思います。
- 119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:05:03.88 ID:hvile8WxO
-
ミロは人望あつい男でした。
プロジェクトは私とミロを中心に着々と進行し、その中で私は、彼とずいぶん親しくなりました。
親友といって差し支えないと思います。
そうして、まあ私は天才ですから、ホライゾン用シャワートイレごとき、一ヶ月もかからずに開発し、生産の手筈も整いました。
赤子の手を捻るような仕事でしたが、方々から注文が殺到しました。
私は上司やプロジェクトのメンバーから、それまで以上に高い評価を受けました。
気をよくした私は、プロジェクトのメンバーに声をかけ、祝勝会を開いたのです。
思うに、これが天才たる私の人生で、唯一の失敗であり、転落点です。
*
( ><)「多分なんですけど」
ページを捲るように便箋をひっくり返し、ビロードは自信がなさそうに口を開いた。
無根拠でこんな事を言う自分が、自分でさえ可笑しく思える。
( ><)「このミロというのが、ミルナの弟なんじゃないかと思うんです」
( ^ω^)「うーん……」
ブーンは顎に手を添えて唸った。やはり、腹に収まった様子はない。
読めばわかるだろうと、ビロードは新しく現れた、またぎちぎちの文章を目でなぞり始めた。
- 120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:08:03.85 ID:hvile8WxO
-
*
自ら誘った身ながら、私はそれまで酒を飲んだことがありませんでした。
自分は酒に強いのか、弱いのか、酔いやすいとしたら悪癖があったりしないか、心配でした。
飲みすぎには注意しなければいけないと、自戒していました。私の目標はまだ終わっていないのです。
しかし、酒というのは恐ろしいもので、一口飲めば二口目を飲みたくなるものです。
その上、丁度よく体も暖まってきまして、自身への失望を感じることさえ忘れました。
この夜ばかりは、私は天才でないかもしれない、という不安が過りました。
私は酔い潰れて介抱され、ミロの運転で帰る途中、何を思ったか彼に全てを打ち明けてしまったのです。
惑星永環論の仕組み、私が構想していた実験のやり方など、何から何まで。
その時はまだ、ミロは驚きつつも、天才は考えが違うな、と一般人のように苦笑するのみでした。
次の日、売り出すための小型シャワートイレが三つと、ポリカーボネートのケースが、プロジェクトの拠点から消えていました。
昨日の記憶を断片的に残していた私は、まさかミロではないかと、動悸が早まるのを感じました。
- 122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:11:05.60 ID:hvile8WxO
-
私は夜、ミロを味噌おでんの屋台に連れてきました。行き馴染んだ場所でしたから、ミロも警戒せず付いてきました。
ミロは、ふだん倹約して頼まない牛筋を二本頼み、一本を私にくれました。
これはある人の提唱した理論で、私はこれに否定の立場を取っているのですが、
この時ミロは、私の研究を横取りし、一儲けしようとしていた可能性があったそうです。
提唱者は翌々日あたりに死にました。
私は串から牛筋を引きながら、ミロと今日の事件について語りました。
さりげなく疑いの矛先を向けましたが、ミロは曖昧模糊とした態度に終始しました。
とは言え私は天才ですから、人と話していると否応なしに、大体の心中は察することができてしまいます。
ミロはこう漏らしました。みんな君のおかげだ、ありがとうと。
その言い方は、純粋な感謝とともに、僅かな妬みが込められているような気がしました。
そして、更なる事件が起きたのは翌々日のことでした。
私は朝早くに出勤し、出荷前に最終確認を行うつもりでした。天才に失敗は許されないのです。
そこに、ミロがいました。
私が隠し置いていた実験装置を作動させ、両手に三つのシャワートイレを抱えていました。
- 123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:14:13.36 ID:hvile8WxO
-
ミロには言っていませんでしたが、あのシャワートイレではまだ、実験を行うことはできません。
発生するエネルギーが、強大すぎたのです。
到底、被せられたポリカーボネートのケース内では収まりません。
私は大声で、ミロの名前を叫びました。おののき振り返った彼は、疲れた目をしていました。
一瞬、時間が止まったような感覚がして、次にはミロがシャワートイレを装置に嵌め込んでいました。
もう一度叫んで、私はミロに飛びかかります。
最後のスイッチを押せば、シャワートイレが射出され、研究所を飲み込むほどのエネルギーが発生すると解ってました。
しかし、その説明、証明をする時間はありませんでした。
馬鹿のようにミロに躍りかかりましたが、彼は私を軽々かわしました。
天才ですから、喧嘩の経験など一度もありません。私の動きはひどく遅いのでしょう。
ミロは、既にスイッチに手をかけていました。
私は、自分でも聞き取れないほど闇雲に怒鳴って、ミロを止めようとしました。
しかし彼は、勿体ないとでも言いたげにしょげて、ただ口角を歪めて、言いました。
わかった、と。これが成功したら、入った金はみんな半分ずつにしよう、と。
そして、スイッチが押されました。
- 124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:17:11.22 ID:hvile8WxO
-
それと同時に、三つのシャワートイレが発射されます。
三ツ矢が集うようなY字の中心で、途方もない輝きが生まれます。
エネルギーは光だけに止まらず、音と熱を発しました。
そこからは何も見えませんでした。体が熱いものに包まれ、轟音の中でミロの悲鳴が聞こえました。
しばらく私は気を失っていたようでした。けれど、それほど長い時間でもないようでした。
体中に、なにかべっとりして焦げ臭い、まだ液状のものがまとわりついていたからです。
指を開くと、その隙間からミロだったものがボトボト零れました。
直ぐに、社員たちが駆けつけました。言われて、やっと周りを見ると、焼け野原になっていました。
おまえがやったのか、と聞かれたので、私は素直にはいと答えました。全て私の所為でした、と。
会社はクビになる前に辞めました。プライドでもありましたし、どちらにしろ、会社に行けそうな心中ではありませんでした。
当時の王国軍少尉であるミルナという男から連絡があったのは、それから一週間後のことでした。
私はもはや天才扱いなど受けていませんでした。
彼は私に、王国の奴隷になれと命じました。
つまり私の仕事は、国の欲するものを研究開発し、格安で手放すことだったのです。
ミルナは私に厳しくあたりました。
理由は解りました。ミロから王国軍に務める兄の話を、一度聞かされたことがあったからです。
- 125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:21:04.09 ID:hvile8WxO
-
*
手紙の残りも薄くなってきて、ビロードは頷いた。
( ><)「やっぱりですよ。ミロはミルナの弟でした」
それ自体には、さして重要な意味はない。
わかっている上で、ビロードは喜んでいるようだった。
( ^ω^)「だとしたら、やっぱり許せないお」
ブーンはそう言ってビロードをとがめた。
( ^ω^)「ベルベットだって辛いのに、あの男は……ミルナは人のことをこき使おうと……」
( ><)「でも、彼は何も知らなかった」
( ^ω^)「え?」
最初、彼というのが誰を指すのか、ブーンは解せなかった。
ビロードも、自分が何を言っているのかわからないといった顔をする。
- 128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:24:16.01 ID:hvile8WxO
-
(;><)「いや、これは、違うんです……」
今、自分はミルナを庇った。さっきの感覚は何だろうか、知らないうちに言葉が出ていた。
( ^ω^)「……ビロード、無知も罪だお」
(;><)「う、うん、まったくそうなんです。お、おかしいなぁ、なんであんなこと……」
ビロードは操り人形が笑うように、かたかたと首を捻る。
まただ、と思った。感覚で、心の奥底で、理解している。
まさか、とも思った。飛び抜けたファンタジーじゃあるまいし、そういう魔力めいた物は、この世に存在しない。
では何故だろう。
この手紙を読んでいると、生きていることが無意味に思えてくるのは。
言い換えれば、この手紙を読んでいると、死にたくなってくる。
( ><)「……続きを、読みます」
ビロードは残りの手紙に目を移す。
自分の頭ではもう、何も考えたくなかった。
- 129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:27:04.87 ID:hvile8WxO
-
*
戦闘機に利用される思考認識装置、あれは私が開発しました。
他にも多種の薬を開発しまして、ほとんどは軍用になりました。人を傷付ける兵器も、多く作りました。
研究はどれも難しいものでした。それでも、一つこなしてはまた依頼がやってきます。
事故から一年、ひどく多忙な一年が過ぎたある日、またミルナから電話がありました。
説明したように、件のエネルギーを発生させることで、生命が誕生します。
私の行った実験でも、同じことでした。
ミルナの電話によれば、立ち入り禁止の工場跡に残った、かのケースの中で、人間が育ってたというのです。
私の役目は、その人間を保護し、世間に生まれを知られないように育てることでした。
ミルナがそう命じた理由はつい最近になるまで解せませんでした。
その人間、つまりあの危険な理論があった証拠を隠すのならば、殺せばよいだけの話です。
わざわざ生かすことに、どんな理由があるのでしょうか。
首を捻りながらも、私は逆らうことも疑問を口にすることも出来ず、かの跡地に向かいました。
自分のしたことを再認識させられ、自己嫌悪がやって来るのではないか、と思いましたが、そうしたものは特にありませんでした。
- 131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/15(土) 23:30:11.05 ID:hvile8WxO
-
報告された場所に行ってみると、ポリカーボネートのケースの中に、一目では健康そうな男児が眠っていました。
どうして何もなしに育っていたのかというと、膨大なエネルギーが、そのまま生命に宿っていたのだと思います。
詳しくは確かめていません。
しかし脈動は弱く感じられました。
不十分なエネルギーによって産み出されたものだから、臓器も不十分だったのだろうと思われます。
ともかく私は彼を保護し、王都に居を構えました。
医者に出すことは足がつく可能性があるので出来ません。
一人、育児の本を片手に粉ミルクを与え、彼の病について調査しました。
多分、どうかしていたと思います。
事故があった日から、私はずっと頭の螺子が一本取れていたのではないかと疑っています。
やがては彼に愛着が生まれてしまって、息子のように思い始めました。
依頼の傍ら、寸暇を惜しんで、彼の病を治療するための薬の開発も始めました。
おかげで一日中彼を考えていたらしく、助手のひとりに感付かれました。
見逃してくれそうになかったので仕方なく、妻に子が出来たのだ、と妻がいたこともないのに嘘を言いました。
彼らの誰にも、自分の経歴を話したことは無かったので、嘘を吐き通すのは簡単だと思いました。
最初の関門さえ、乗り越えればの話ですが。
- 138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:00:18.65 ID:3pXXR+yUO
-
嘘を吐いたとき、私は大変なことに気付きました。
私が吐いたのは、ばれるはずがないと高をくくった、明らかに嘘とわかる嘘だったのです。
私がその重大さに気付いたのは、第一の関門にぶつかってからでした。
助手が息子の名前を訊いてきたのです。
天才なので、思考は他の追随を許さないスピードがあります。
しかし名前というもののパターンは、計算すれば天文学的数字になるほどあります。
もちろん語感などで、もっと小さな数字に絞ることはできますが。
それでも彼の名前は、一瞬では浮かびませんでした。
どうしたのですか、と助手に問われ、私は追い詰められました。
すぐさま答えざるを得なくなり、情けなく金魚のように動く私の口から出た言葉。
それがビロード。私の父親の名であり、私の息子の名になる言葉でした。
*
- 141 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [連さるくらいました] 投稿日: 2008/11/16(日) 00:03:05.58 ID:3pXXR+yUO
-
*
今まで黙っていて申し訳ありませんでした。
言い訳はしません。あなたは生物学上、私の息子ではないです。
言葉足らずは承知です。いえ、そもそも言葉というのは足りないものです。
私の歴史については、まだまだ貴方への謝罪すべきことが溢れています。
その言葉は、最後にまとめて書き連ねましょう。
さて、長い年月が経ち、それでも貴方の病気が快方に向かうことはありませんでした。
効果のない苦い薬も色々飲まされ、貴方はさぞ私を恨んでいることでしょう。
しかし、語弊のある言い方ですが、これは私にとって都合がよくもありました。
身体に障害があるとわかれば、ビロードを外に出さなくてよくなります。
単に外に出さないのでは監禁でしかないので、王都でホライゾンを拾い、ビロードの話し相手にさせました。
本来は言葉を教え込まなければいけないはずでしたが、どうやら前に主人がいたようで、既に話せました。
悪趣味な名前がついていたのが玉に傷でしたが、妥協するのも天才です。
いつしか、ミルナからの依頼は途切れ途切れになり、私はビロードの病気を治す薬の開発に集中できるようになります。
そしてある日、私はかの妙薬『スカルチノフ』を完成させてしまいました。
これもまた、私の人生における大きなミスです。
- 144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:07:03.58 ID:3pXXR+yUO
-
知っての通り、『スカルチノフ』は今では禁止薬剤に指定されています。
あの薬の所為で、またも私の所為で、多くの人が死にました。
しかし効果こそ絶大で、私が製造を中止したにも関わらず、複製品が横行し、今も世界中で服用されています。
おかげでこの薬にまつわる事件事故は絶えず、知名度は9割をキープしています。
やがて、この国で戦争が始まりました。
そうなると『スカルチノフ』の需要が急激に高まりました。
理由は、不健康者は徴兵を免除されるという、わが国の徴兵制度にあります。
特攻隊が生まれたのも、『スカルチノフ』の特需と同じ頃だと、ミルナは言っていました。
特攻隊に行かされた人間とは、ほとんどがもと不健康者、
『スカルチノフ』を飲まされた死に損ないだということです。
不健康な人が、次々と街から消えていきました。この世からさえも、歴史に抹消されました。
日々、人々が死んでいきます。
私の生み出した最悪の事態に、頭を抱えるほかありませんでした。
ですが、これはまだ序の口でした。
久しぶりに私のもとに、ミルナから電話がかかってきました。
- 146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:10:14.79 ID:3pXXR+yUO
-
くだらない説明を省けば、息子を徴兵させろ、という話でした。
そしてこの一言だけで、意図は全て伝わるでしょう。
私はようやく、ミルナがビロードを生かした狙いに気付きました。
彼はなかなか頭脳派で、且つとても私を恨んでいたのです。
大切な人を失う苦しみを味わえ、と言っているのです。
なるほど確かに、ビロードは私の中でかけがえのない存在になっていました。
ですので私がそう断ったところ、卦体な脅し文句が飛んできました。
受話器から耳を離して、私はやはり逃げられないことを悟りました。
そして、ミルナごときにビロードを殺されるくらいなら、心中をしようと思い立ったのです。
貴方にとっては迷惑この上ない話だと思います。
どうか私を恨んでください。恨んだ上で、どう死ぬかは任せます。
ブーンに渡した解除薬は、ただのジュースです。
申し訳ありません、『スカルチノフ』は元々「一度飲んだら、体に一切の変化が起こらなくなる」薬。
どのようにしても解除薬など作りようがありませんでした。
すべて私の所為です。私を恨んでください。
でないと、先に死んだ私が悪い気持ちになりますから。
ここに、私の死をもって、謝罪に代えさせて頂きます。
草々
- 151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:15:11.42 ID:3pXXR+yUO
-
*
( ^ω^)「心中だって?」
手紙は信じられない形で結ばれていた。
数ある驚愕のうち、最初にブーンの口をついたのはそれだった。
( ^ω^)「だって、嘘だお、さっきまで……そう、この薬を、いやジュースを、僕に渡して……」
出し抜かれた。天才に、いとも容易く出し抜かれてしまった。一度は見破ったと思って、なめていた。
やはり、彼には勝てない。ブーンはブランケットに転げ落ちた。
言い知れない絶望、語り尽くせぬ憤り、負の感情に身体中が震える。
ブーンは今、ベルベットを恨めしいと思っている。彼が死んだことを喜んで受け止めたがっている。
それにも関わらず、ブーンの双眸からは、とめどない涙が溢れていた。
鼻孔からは水っぽいものが垂れ、喉はしゃくりあげては叫んでいた。
( ><)「ブーンは、父さんが好きだったんですね」
ビロードは、ブーンを彼の寝床に戻しながら、囁くように言う。
( ;ω;)「びおーどは、かなしくないのがお!」
( ><)「……僕は、なんだかうまく受け止められなくて」
まあ、とビロードは言った。
( ><)「遺志には応えるんです。僕は、ベルベットの、たった一人の息子なんですから」
- 154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:18:41.50 ID:3pXXR+yUO
-
*
作戦決行日の、朝が来た。
ビロードはジョルジュと二人で、訓練場脇の原っぱに立っていた。
_
( ゚∀゚)「……そっか、お前も決めたか」
うねるような風が流れて、背の低い草が不規則に揺れる。
ジョルジュの髪は、セットもしないのに綺麗に立っていて、それも風に靡いていた。
_
( ゚∀゚)「父親が……憎くないのか?」
( ><)「まったく」
ビロードは断言する。
( ><)「父さんが僕を愛してくれなきゃ、僕はこうして草っぱらに立ってないんです。
父さんが僕を愛したのだけは、全て父さんの意志……ですから」
_
( ゚∀゚)「なるほどな」
わからなくもない、とジョルジュは曖昧なことを言った。
わかられなくてもよかった。こればかりは、父と通じあっているはずだと、ビロードは目を細める。
- 158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:21:18.79 ID:3pXXR+yUO
-
( ><)「ジョルジュこそ、良いんですか?」
_
( ゚∀゚)「俺は死刑囚だからな。気持ちは関係ない」
( ><)「頭の固い……」
_
( ゚∀゚)「何とでも言え。俺だって、お前と同じように、これ以上生きる理由なんざないんだ」
( ><)「わかってます」
ビロードは一人、父の言葉を懐かしんだ。
昔は口癖だったのに、最近はめっきり使わなくなってしまっていた。
もう一度聞きたい、と思ったが無理な話だった。
_
( ゚∀゚)「風が気持ちいいな」
ジョルジュが言うと、また風が草原を凪いだ。言うほどではない、少しぬめりけのある風だと、ビロードは思った。
_
( ゚∀゚)「自分の人生が今日で終わるなんて、どうも信じられねえな」
( ><)「そりゃあそうなんです、幽霊だっているくらいですから」
え、とジョルジュが首を捻る。
( ><)「過去にでさえ、死んだ実感がなくてこの世に残ってしまうのに、未来の死に実感なんて持てるはずがないんです」
_
( ゚∀゚)「……そだな」
ジョルジュはそう、短く答えた。
- 162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:24:45.82 ID:3pXXR+yUO
- _
( ゚∀゚)「さて、引きこもりのブーンのとこに戻るか?」
まだ、とビロードは首を振った。
朝になっても泣いていたブーンを見て、そっとしておくべきと悟り、二人は宿舎を出ていたのだ。
( ><)「先に朝食をとりましょう」
_
( ゚∀゚)「そうだな。腹が減っては、だ」
草原を降り、食堂へ足を向ける。
食欲はあまり湧いていない。センチメンタルになっているとは自覚できた。
ところが給仕係には、いつも通りの量を否応なしに寄越された。
なるべく残さないようにはしたものの、大量の食材が余ってしまった。
この食料を調達するために、どれだけの国民が苦しんだのだろう。
ジョルジュは昔会った、飢えた子供らをふと思い出した。
_
( ゚∀゚)「出来れば、さ」
( ><)「はい?」
_
( ゚∀゚)「俺たちが戦って……それで戦争を終わらせることができたら、って思うよな」
( ><)「……できたら、じゃない。やるんです」
ビロードが無意識に言った気障なせりふは、いつぞやのジョルジュの言葉によく似ていた。
- 166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:28:24.16 ID:3pXXR+yUO
-
*
それからジョルジュと二人で、食堂に併設されたカフェテリアに屯した。
特筆することのない、昔、唯一の楽しみだった、ブーンと話しているような時間だった。
でも、今の時間には、頼れる父はいない。だけれど、ブーンだけでなくジョルジュもいる。
長く、ジョルジュと談笑をしていた。なにも特別なことを話したりはしない。
夢や希望を語り合ったりでなく、ただ冗談を言って、笑った。
これから死ぬということはよく解っているはずだ。
それならば、どうしてそんな風に笑えるのか。
訊かれても、ビロードはきっと答えられない。あるいは、適当にごまかすだろう。
時計の足音を聞いていたわけではないが、いつの間にか正午を示していたそれを見たとき、時計が壊れているとは思わなかった。
時間が矢のように過ぎるのはよくあることだ。
たとえそれが、死の直前でも。
_
( ゚∀゚)「そろそろ行くか」
時計が壊れたって時は進んでいる。逃げ口上をしたって、時は戻らない。
( ><)「はいなんです」
だから、全てを受け入れた。
- 169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:31:04.79 ID:3pXXR+yUO
-
飛行服に着替えるために、宿舎に戻る必要があった。
ブーンに気を遣って、扉をノックしたが、反応がなかった。
( ><)「ブーン?」
外から呼びかけてみるが、中は静まり返っている。
まさか、と不穏なことを思って、すぐにビロードは首を振る。
ブーンだって解っているはずだ。彼の仕事は、まだ終わっていない。
出来ることがなくなるまで、努力をやめない。それがブーンというホライゾンだ。
( ><)「入りますよ」
もう一度確認し、ビロードはドアを押した。
恨めしげな目をしたブーンと、すぐに目が合う。もっとも、その交錯は一瞬だったが。
_
( ゚∀゚)「おいブーン、俺ら、もう行くからな」
( ^ω^)「……」
小さな生物は、まずジョルジュに一瞥をくれ、ビロードを見上げてから、俯いてだんまりを続ける。
何も言わなかったというより、何も言えなかったのだろう。
いちばん死に近いビロードたちが、あんなに清々しい顔をしている。
それなのに、自分のざまはなんだ。まだまだ寿命があるのに、こんな風に腐って、苦しいふりをして気を遣わせて。
情けない、という彼の心の声が、聞こえてくるようだった。
- 170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:34:13.44 ID:3pXXR+yUO
-
( ><)「ブーン、無理しなくていいんです」
( ω )「……」
ブーンのふぐり口が、「無理なんか」の形をとるが、声は出ていない。
二人は、彼の寝床の横をすり抜けて、クロゼットを開いた。
( ><)「でも、早いうちに新しいご主人を探したほうが良いんじゃないですか?」
ビロードは、わざと心ない言葉をかけたが、ブーンは首を振る。
( ω )「……まだ、しばらくはいらないお」
( ><)「そうですか? だったらまあ、いいんですけど」
分厚い、ごわごわした質感の飛行服に袖を通しながら、ビロードは言った。
ジョルジュは黙々と襟を正していた。自分が関わるべきではないと思っているのかもしれない。
持ってきていたマントは飛行服にあわせてみた。将軍っぽくなった。
着替えが終わる。身辺整理も済む。ベッドに落とした髪の毛もみな払っておいた。
まったく未練がましいな、と二人は思った。
しかし、たかが髪の毛一本だろうと、この世に「自分がいた証拠」を残したくない。
そのために二人は、特にジョルジュは念を入れて掃除をしていた。
- 172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:38:23.85 ID:3pXXR+yUO
- _
( ゚∀゚)「あれは言い訳だったな」
不意に、箒がけをしていたジョルジュが言う。
( ><)「あれって?」
_
( ゚∀゚)「俺さ、オオカミでのこと気負って、世間に俺を罪人だって知らしめるまで、死なないって言ってたろ。
あれは、死にたくないがための言い訳だったな、って」
( ><)「ああ……」
そんなこともあったな、ぐらいにしかビロードは思わなかった。
けれど、ここになってそんな事を意識するのは、やはりオオカミのことを気にかけているからだと思われる。
つまりジョルジュは、オオカミの人々への償いのために命を捧げる。
だが自分は、なにも死ぬ理由はない。なにか無いだろうか?
ビロードは掃除の手を動かしたまま、模索し始めた。
- 173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:41:27.30 ID:3pXXR+yUO
-
自らの置かれた状況が絶望的だと気付いたとき、人は自殺衝動に駆られるという。
自分の人生を楽しいもの、満ち足りたものと思い込んでいる人は、特に強く。
_
( ゚∀゚)「さすがに、もう良いな」
( ><)「ですね」
では、自分の場合はどうだろう、とビロードは考えた。
一週間前まで、楽しいことはとても少なかった。満足なんて感じたことがなかった。
あらゆる喜びは病気を理由に制限され、唯一奨励された勉学の才は皆無。
夢は兵士になり空を飛ぶことで、それも単なる夢でしかなかった。
どうして自分は生きているのだろうと、一人のときはそればかり考えて過ごした。
_
( ゚∀゚)「俺たち、もう行くからな。じゃあな、ブーン。おまえ、面白かったぜ」
( ><)「……さよならなんです」
( ^ω^)「……うん」
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:48:12.10 ID:3pXXR+yUO
- 万能薬を飲まされ、重たい考えが一変した。
初めて、人間の友人が出来た。腹いっぱい食べた。必死になって生命を渇望した。
目を背けたい真実も、たくさん知った。辛いこと、頭にくることも多かった。
それでも、自分は初めて、生きた。
父に顔を見せてやりたかった。
僕はこんなにも生き生きとしていると見せつけてやって、喜んでほしかった。
( ><)「うーん、死ぬんですね、僕ら」
_
( ゚∀゚)「意外だよな。こんなに元気なのに」
そして、その父が死んだ。
絶望の横槍が入って、満ち足りていた感情が、途端に破裂してしまった。
理論通り。父のよく使った言葉だ。
理論通りに、僕は自殺衝動に駆られている。
( ><)「ですね」
もう一度、今度は逆の方向に、ブーンの寝床の脇をすり抜けていく。
ドアノブに手を引っかけた。腕は何の抵抗もなくドアを引き、足はその向こうへ振りだされた。
ふと、家を出たときのことを思い出した。
あの時は勇気がなくて、ドアを開くことが出来なかった。
今は、この先に、死が口を開いて待っている。だというのに躊躇がなかったのは、勇気だろうか、ヤケクソだろうか。
これもまた、死ぬ人間にはどうでも良いな、とビロードは思考を止めた。
- 179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:51:19.36 ID:3pXXR+yUO
-
ドアを開け放して、振り返る。
( ><)「ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「ん、ああ」
( ><)「……なんです、その本」
_
( ゚∀゚)「なんでもねえよ。御守り代わりだ」
そんなものが必要なのかと問いたかったが、やめた。
その質問がまず必要ない。開けてしまった口からは、冗談を飛ばした。
( ><)「エアバッグですか」
_
( ゚∀゚)「夢と希望が詰まってんだよ」
( ><)「童貞らしい意見ですね」
_
( ゚∀゚)「……行くぞ!」
(;><)「あっ、逃げた!」
- 183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:54:22.01 ID:3pXXR+yUO
-
訓練場は、飛行場も兼ねている。
彼らの棺になる戦闘機は、垂直離陸が可能な、やはり高性能な機体なのだ。
( ゚д゚ )「遅かったな。先に来た一名はもう乗り込んでいる。早くしろ」
そう聞いてビロードは、自分たちの他にも死ぬ人間がいるじゃないか、と妙な安心感を覚えた。
赤信号with全力トラック、皆で渡れば怖くはないけど大惨事、理論通り。
( ><)(チッ、こっちみんな)
聞こえないよう舌打ちしてから、いそいそと戦闘機に乗り込み、ヘルメットを被る。
勝手に扉が降りて、密閉された空間ができた。
( ゚д゚ )『目標は北北西北のラウンジ湾岸砦だ。到達予定時刻は五時。では健闘を祈る』
ミルナが拡声器を使って言った。うざい、と思うと同時に機体が浮きはじめる。
三つの機体が中空で揃い、北北西北を向く。
行け、と念じると、それらは一斉に空を走り始めた。
- 184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 00:57:21.18 ID:3pXXR+yUO
-
(*><)「ほおっ!」
すごいスピードだ、というのが率直な感想だ。
小さくなった、王都の繁華街を見下ろす。自分の家が見つかるかと思ったが、家の外見をよく覚えていなかった。
鈍色の戦闘機が、青い空を滑るように駆けていく。
死地に向かっていることも忘れるような、恐怖混じりの快感が身を震わした。
後背には爆薬が大量に積んである。その重みを感じさせない滑翔。思わず歓声をあげた。
_
( ゚∀゚)《二号、楽しそうだな》
無線を通して、声が聞こえてきた。最初は不明瞭で分かりにくかったが、どうやらジョルジュの声だ。
( ><)「二号?」
ビロードも無線を使って問い返す。
_
( ゚∀゚)《お前のは二号機らしいから、二号。俺は三号だ。くれぐれも名前を使うなよ》
( ><)「……ああ、一号さんにも僕らの会話は聞こえるんですね」
名前を聞かれるのは、ジョルジュにとってあまり良いことではないのだろう。
ビロードは何となくで理解して、気を付けようと思った。
- 186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:00:28.78 ID:3pXXR+yUO
-
ざっ、とノイズが入って、もう一人の参加者の声が無線を伝わる。
どこか気取ったような声だが、やはり元の声とは違っているのだろう。
( ∵)《俺は四号だよ。まあそういうことでよろしく、二号さん、三号さん》
しかし、自分たち以外に訓練をしている人はいただろうか。
( ><)「よろしくお願いします、四号さん」
_
( ゚∀゚)《ああ、よろしく》
ビロードはその疑問を、どうでもいいかと片付けた。
自己紹介も終わったところで、と四号が言う。
( ∵)《そろそろ燃料維持のためにスピードを落とそう。燃料切れて落っこちちゃいましたー、じゃ話にならないからな》
たしかに、とビロードが納得すると、流れる景色がゆっくりになっていった。
両脇を見ると、他の二機も同じあたりで並んでいる。
しばらくはそのまま飛んでいた。
しかし、やがては海しか見えなくなり、ビロードは飽き飽きして無線機を引っ張った。
- 187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:03:06.26 ID:3pXXR+yUO
-
( ><)「あの、四号さん」
( ∵)《なんだい二号さん》
暇つぶしに、謎の男に話しかけてみる。顔が見えないからこそ出来ることだな、と思う。
( ><)「四号さんはどうして、この特攻隊に?」
( ∵)《復讐だ。ラウンジの連中には知り合いをたくさん殺られたんでね》
詰まることなく回答が得られた。冥土の土産のバーゲンセールをやっている。
ビロードは調子に乗って掘り進む。
( ><)「知り合いって?」
( ∵)《村の仲間だよ。猟師がいなくなって、代わりにボウガンで狩りをしていた間に全員殺された》
いや、と四号は自分でいって否定した。
( ∵)《生き残りはいた。尤も、主人に置いて行かれた野良ホライゾンだがね。そいつに、ラウンジの紋章を見たって聞いてな》
落ち着いて話しているが、彼の声からは深い恨みをはっきり感じ取れた。
特攻隊に入ることに、迷いは無かったのだろう。そして彼は今だって、微塵も迷っていない。
- 189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:07:03.00 ID:3pXXR+yUO
-
( ∵)《俺は体が細いから、門番には止められると思ってさ、いない時を見計らって忍び込んだよ。
二人は空の鎧だったし、入り口の開け方は、いっぺん覗き見ればわかった》
( ><)「僕はよくわかんなかったです」
( ∵)《ふ、そんなもんだろう。ただ中に行って、ここが特攻隊だって話を聞いたときは驚いた。
驚きはしたが、それでラウンジに一矢報いれるならまあ構わなかったよ》
そんな経緯で、俺は今、空を飛んでるわけだ。四号はそう締めくくった。
( ><)「みんな、色々あるんですねえ」
ビロードは半ば感嘆のように言った。
( ∵)《二号さんはどうなんだ、そこんところ》
( ><)「僕はただ、徴兵に従ったまでなんです」
程なく、四号の興味なさそうな声が聞こえる。
申し訳なくなったビロードは、気を散らし、さっきからジョルジュが黙り込んでいることに気付いた。
( ><)「ええと、三号?」
心配になり、呼びかける。まさか高所恐怖症で、気を失っていたりはしないだろうか。
( ><)「大丈夫なんですか?」
- 191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:10:09.54 ID:3pXXR+yUO
- _
( ゚∀゚)《ん、ああ……何ともない。少しケツが痛い》
( ∵)《たしかにな。何でこれ、パイプ椅子なんだよ》
_
( ゚∀゚)《え、こっちはひじ掛け椅子だけど》
( ><)「僕もひじ掛けです」
( ∵)《なんだよこの差別……死んでやる》
気付けば日は傾き、遠くにはうっすらと、ラウンジの地が見えていた。
それが見えてすぐ、三人は会話をやめた。いよいよ、その余裕さえ無くなった。
(;><)「……」
自分を鼓舞する言葉も出なかった。
戦闘機のエンジン音だけが聞こえる。緊張の糸が張りつめていくのがわかった。
戦いなれた人なら、心地よいリラックスと緊張が均衡するのだろうが、ビロードにはそれが全くない。
握りしめた拳に、汗がにじむ。戦闘機が速度を落としていく気がした。
- 193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:13:06.22 ID:3pXXR+yUO
- _
(;゚∀゚)《もう撃ってきやがったぞ!》
(;><)「!」
はっとして前に目をやる。ブルーの光線銃が、まっすぐ自分に向かってきていた。
避けてくれ、と無理な注文を出す。瞬間、機体が衝撃を受けて、ビロードは首から揺さぶられた。
まるでテレポートでもしたように、ビロードの二号機は一瞬にして、光線銃をかわすぎりぎりの所まで、高度を上げていた。
( ∵)《二号、まだ来るぞ! 邪魔にならんよう散開する!》
(;><)「は、はいなんです!」
_
( ゚∀゚)《またな二号!》
恐らく年長者である二人が号令をかけ、ビロードから離れていく。
まるで広い空に、ぽつんと立っているようだった。世界に独りでいるような錯覚。
そんな妙な心地は、さらに光線銃が雨のようにやって来たことで、すぐさま砕けた。
(;><)「にゃああああああっ!」
急降下のあと、二号機は曲芸飛行をするように、数多の光線の雨をすり抜けていく。
世界中に星が散り、最後に口にしたミネストローネが込み上げてくる。
しかしその中で、どこにそんな隙間があったのか、細い戦闘機は一つも被弾しなかった。
思考認識装置スゲー、と思いながらビロードは頭を振って意識を取り戻す。
- 195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:17:06.59 ID:3pXXR+yUO
-
今の状況を、歯を食いしばりながら考えてみる。
相手はこっちに向けて、集中的に撃ってきている。弾幕を抜け出すことができれば、インターバルくらいは取れそうだが。
(;><)「ど、どうすればいいんです、これ!」
_
(;゚∀゚)《くそっ、目が回る……!》
どうやらそれは不可能らしく、いくら念じても、機体は必死にレーザーを避けている。
このままでは撃墜される。空中分解して、海の藻屑になるのだろうか。
そんな死に方はお断りだ。いっそ、一か八かの賭けに出るべきか。
せめてブーンがいれば、こういう時に知恵を貸してくれるのだろう。
ビロードはため息をつく。
―――けれども、彼はいま、
( ^ω^)「あんたら、なーに戦場で曲芸ごっこしてんだお。僕の訓練を思いだせお」
ビロードの目の前で、ふんぞり返っている―――。
- 197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:20:02.17 ID:3pXXR+yUO
-
(;><)「……ブーン! でも、これは……」
喜ばしい反面、いちいち喜んでいる暇もなかった。
青の光線は、今も息をつかせる間もなく飛来してきている。
(;∵)《頼りになる助っ人参上、か……?》
_
( ゚∀゚)《どうだかな》
( ^ω^)「三号、お前は撃墜されろ」
どこから聞いていたんだ、とビロードは言いたくなったが、口の中で押し止めた。
無駄口を叩く余裕など、どこにもない。
( ^ω^)「いいかお、この青いビームはただのフェイク、当たったって何の害もないんだお!」
ブーンが無線機に叫んだ。すぐに驚きの声が返ってくる。
(;∵)《なんだって!? じゃあ、止まっていいのか?》
( ^ω^)「そうだお! だいたい、いくらこの戦闘機の性能が高くても、この弾幕を避けきれているわけがないお!」
ビロードは視界いっぱいに広がる大量の光線を見て、たしかに、と思う。
この戦闘機が抜けられるほどの隙間は、本当になかったのだ。
- 198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:23:00.15 ID:3pXXR+yUO
- _
( ゚∀゚)《ブーン、お前を信じるぞ!》
ジョルジュが声を張り上げた。
_
( ゚∀゚)《五秒後、ひとまず前方に弾幕を抜ける! 行くぞ、一、二、三、四……》
五、とビロードは頭の中で数える。
その瞬間、彼の体は座席に吸い込まれるように圧迫された。
凄まじいエンジンの回転音が耳を塞ぎ、空気を切り裂く機体は小刻みに揺れた。
(;><)「ちょおああああああああっ!」
光はまだ追ってくる。が、こちらの急発進にうまく対応できていないらしい。
レーザーは小さくなっていき、代わりに砦の姿がはっきりと見えてきた。
( ∵)《全員無事か?》
( ><)「はい!」
_
( ゚∀゚)《おう!》
( ^ω^)「NE? 僕の言った通りだろお?」
ブーンが胸を反らすのはさておき、ビロードは眼下に目をやった。
紫に近い色の、ラウンジ湾岸の砦が立っている。この高度からでも、かなり大きく見える。
すぐ隣には港町。おそらく、ロビーという町だろう。
ただ、自分の仕事にロビー町は関係ない。再度、砦のほうに目を移す。
- 201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:27:13.13 ID:3pXXR+yUO
-
(;∵)《ありゃなんだ、おい!》
その時、四号の悲痛な叫びが聞こえた。
ビロードにも理由は分かった。ぐんぐん近づいてくる砦の城壁に、あるものを認めていた。
(;^ω^)「あれは、波動砲……!」
巨大な砲台の口に、青白い光が渦を巻いていく。渦はどんどん速くなり、光は強さを増す。
(;^ω^)「ラウンジの最終兵器……噂じゃなかったのかお!」
_
(;゚∀゚)《何だよ、それ!》
(;^ω^)「ともかく、あの主砲はやり過ごすお! もっと上空に!」
ビロードが分かったと言おうとしたとき、砲台に溜まっていた光が、弾けた。
( ∵)《あっ》
太い光線に、螺旋状の光が付随している。
それが見えたときには、波動は四号機に到達していた。
(;><)「……っ!」
黒い爆炎が、四号機を包み込むように発生した。細やかな破片が尾を引きながら、ぱらぱらと降っていく。
それでようやく、四号は死んだのだと理解した。
- 202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:31:03.62 ID:3pXXR+yUO
- _
(;゚∀゚)《おい、四号、四号! なんとか言え、四号!》
四号の声はしない。爆炎は四号機を包んだのでなく、そこから発生していたのだから当然だ。
_
( ∀ )《……くそっ、先に訊いときゃ良かったぜ。ハニワ野郎……はっきりしないまま死にやがって》
ビロードたち二機は、無言で中空に静止していた。突然の出来事に、言葉が出なかった。
このままでは、また波動砲を撃たれ、あんな風に死ぬんじゃなかろうか。
解っていても、動けなかった。
(#^ω^)「……二人とも、今しかないお!」
だが、ブーンの声でビロードは、はっと我にかえった。ジョルジュも同じく、顔を上げていた。
彼がどんな気持ちで叫んでいるのか。それが理解できないほど、短い付き合いではない。
(#^ω^)「主砲は一度撃ったら、そうそう二度目は来ないお! 今のうちに懐に飛び込んで……特攻するんだお!」
考えるより先に、機体が動いていたような気さえする。
いっきに高度を下げ、またも急発進をする。横の景色が分かりにくくなるが、その中にジョルジュの機体は見えた。
_
(#゚∀゚)《よし……ビコーズ、お前の仇は取るぞ!》
無線から、聞きなれない名前が飛び出す。
きっと、オオカミ村の人の名前だろう、とビロードは見当をつけた。
- 204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:34:09.70 ID:3pXXR+yUO
-
(#><)「じゃあ僕は、四号の仇を取るんです!」
主砲の周りは、僅かに隙間があった。戦闘機の一機や二機が飛び込むくらいの余裕はありそうだ。
そこに向けて、ビロードはさらに加速する。スピードを競うように、ジョルジュも上がってきた。
不思議と恐怖は感じなかった。きっと、空を飛んでいるからだな、と考える。
(#><)「いけええええええええ!!」
主砲に青白い光が溜まっていくのが見える。
しかし躊躇ってなどいられない。そんな心の機微を、思考認識装置は見過ごした。
さらに速度が上がる。
青白い光の向こうに、逃げ惑う兵士、銃を撃ってくる兵士がいる。
銃弾が防弾ガラスをも突き抜け、ビロードの肩を抉った。
それでも、あとほんの数秒の辛抱だった。悲鳴をあげずに、その兵士を睨み付けて、吼える。
- 205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/16(日) 01:37:25.77 ID:3pXXR+yUO
-
僕の名前はビロード。誇り高き天才ベルベットに愛された、たった一人の息子だ。覚えておけ。
そう叫んでやった。
世界中を、熱い光が覆ったようだったが、もはや何も見えなかった。
身体中を衝撃が襲う。筋肉こそ強張るが、頭には、後悔だとかの可笑しな考えは浮かばなかった。
轟音に負けないよう、三人は作戦の成功を笑った。
その頃にはもう、誰も生きていなかった。
終
戻る/あとがき+FAQ