( ・∀・)観察者のようですζ(゚ー゚*ζ

235: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:20:31.29 ID:RKEvetK6P
エピローグ

そこで彼女が、口を閉じる。
一瞬寂しそうな目をして、そしてすぐ笑顔に変わる。

ζ(゚ー゚*ζ 「というわけで、結局全員死んでしまったのでした」

( ・∀・) 「……本が彼らの行動を予言したのではなく、彼らが本の通りに動いていた」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうそう」

( ・∀・) 「ツンやショボンやクーが死んだのも、ドクオの呪いなんかではなく、単なる殺人だった」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうそう」

( ・∀・) 「なーんも、ミステリアスな部分もホラーな部分も完全に消えたじゃないか。駄作だよ、駄作」

ζ(゚ー゚*ζ 「でも、最後しぃも死んじゃったんだよ? 全ての元凶であるしぃが、あの本の予言によって。そこはホラーチックじゃない?」

僕は「うーん」と気の抜けた返事をしたが、別に全くの興味が削がれたわけではなかった。
いや、むしろ言うならばこの話に更に興味を抱いたといえよう。
何故なら、僕はこの話に隠されたあることに気づいてしまったから。

彼女も、それを見越した上でこの話をしたのだろう。



241: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:24:08.82 ID:RKEvetK6P
僕の悪い癖が出てしまう。

( ・∀・) 「なあ、この話を聞いて幾つか疑問を抱いたんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ 「んー、なに?」

( ・∀・) 「まず一つ目。首謀者のしぃはさ、ブーンに「観察者」の台本を渡して、ショボン達にも渡したわけでしょ?」

そう、それがあったからこそ「観察者」の予言どおりに、彼らは動いたのだ。
だが、ショボン達は最後に裏切られて、自分たちが貰った台本どおりの結末を迎えなかったわけだが。

( ・∀・) 「でも思ったんだけどさ、全てが「観察者」の通り進んだのってさ」

( ・∀・) 「お互い、相手も台本を持っていると事前に知らされている条件下じゃないとありえなくないかな?」

( ・∀・) 「さっきの話のしぃの口ぶりからだと、そんな様子はなかったように思えるんだけど」



244: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:27:28.22 ID:RKEvetK6P
ζ(゚ー゚*ζ 「どうして?」

彼女が、小さく首をかしげる。
淡い茶色の髪の毛が、彼女の肩で揺れた。

( ・∀・) 「だって、相手が台本持ってるって知らないのに、相手も台本通り動いたら、おかしいと思わない?」

ζ(゚ー゚*ζ 「まぁ確かに。でもそしたらこう考えるわ。ああ、相手も台本をもらっていたんだな、って」

( ・∀・) 「それじゃあ、駄目なんだよ」

ブーンはショボン達を殺したいと思って、台本通りに動いた。
ショボン達はブーンを殺したいと思って、台本通りに動いた。

何故台本通りに動いたか? 台本をくれたしぃを信頼してたから?

自分のもらった台本を見て、相手が台本通り動くのを見る。
そして、「ああ、相手も台本をもらっていたんだな」って考える。

この時点で、台本をくれたしぃに対する信頼は崩壊する。
だって、台本の内容が相手に筒抜けなんだからね。



246: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:29:41.47 ID:RKEvetK6P
彼女は、それを黙って聞いていた。
そして一言、「難しい。ていうか、それじゃ矛盾しちゃうじゃん」。

不機嫌そうな彼女など気にせずに、僕は自分の考えを言い続ける。

( ・∀・) 「そうだね。相手が台本通りに動くことを求めているのに、相手が台本通りに動いたら疑心暗鬼になる。これはおかしい」

( ・∀・) 「ということはだよ、この話のなかでは、さっき言った条件が成立していると考えるほうが自然なんだ」

ζ(゚ー゚*ζ 「でも、そんなのおかしいじゃない。相手が自分の台本を知っていると知ったら、それこそ疑心暗鬼になるわよ」

( ・∀・) 「……そうだな、例えばこういうのはどうだろう」



250: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:33:07.63 ID:RKEvetK6P
仮定として、新たな登場人物Xがいるとしよう。
このXはこのしぃの計画を知っていて、いや、というよりしぃにこの計画を享受したのだろう。
ブーン達とショボン達に台本を渡して、全員が死ぬように仕向ける計画を。
そうなると、Xがしぃを操っていたことになるね。

精神病院に通っていて、あまり正常に物事を考えることのできないしぃは、
この戯曲は特殊な条件化でしか発生しない、ということに気づかなかった。
恐らく、Xはそれを見越していたのだと思う。しぃは所詮ピエロだったんだ。

そしてXは、まずブーンに言う。
「君にショボン達を殺せる台本を与えよう。ショボン達にも、ブーンを殺せる台本を渡してある。
 その内容は途中まで一緒だが、最終的にショボン達は君を殺せないようになっている。
 それを知らずに、ショボン達は台本通りに君を殺そうとしてくるだろう。
 だが、その台本に書いてある通りにショボン達が動くことこそ、彼らが私の罠に嵌っている証拠なのだ」

ってな感じでね。
もちろん、ショボン達にも似たようなことを言ったんだ。



253: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:36:03.74 ID:RKEvetK6P
( ・∀・) 「そうすれば、相手が自分の持っている台本通りに動いても不審には思わない、はずだよ」

( ・∀・) 「これでまず、この物語が成り立つ」

( ・∀・) 「それと同時に、新しいことが発覚する。この物語には、隠された登場人物Xがいるんじゃないかな、って」

ζ(゚ー゚*ζ 「……」

この隠された登場人物Xは、実に頭の切れるやつだ。
恐らく、Xは今回の人間全員を殺したかったんだろう。
ドクオの死に関連する、全ての人間たちを。

( ・∀・) 「そして、たった一つの台本と五人の人間を操ることによって、全員を殺してしまったんだ」

それを聞いて彼女が呟く。「実に、恐ろしい人間ね」と。



257: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:39:04.46 ID:RKEvetK6P
( ・∀・) 「まあ、そのXがどのような人物かというのはさておき、利害関係を整理してみよう」

しぃは、ドクオを殺したショボン・クー・ツン、ドクオに対して見殺しまがいのことをしたブーンを殺したかった。
ブーンは、ドクオを殺したショボン・クー・ツン。ツンは自分の犯行を知るブーン。
ショボンとクーは、自分たちのお荷物となったツン。そして自分たちの犯行を知るブーン。

( ・∀・) 「あと、ショボンとクーは恐らくしぃも殺そうとしていたんじゃないかな」

ζ(゚ー゚*ζ 「どうして?」

( ・∀・) 「だって、しぃもショボン達が犯人だって知ってたわけだろ?」

( ・∀・) 「それに、普通ドクオの恋人だったしぃがさ」

( ・∀・) 「ドクオを殺した本人達にブーンを殺すための台本作ったりして、訝しがらないかい?」

ζ(゚ー゚*ζ 「ん、まあ」

( ・∀・) 「Xはショボン達がしぃを殺したがってるのを知ってて、しぃをショボン達にけしかけさせたんだ。
       ショボン達はXの思惑がわかっているから、しぃに従うふりして、Xの用意した裏台本に従ってしぃも殺そうとしてた」



260: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:41:53.75 ID:RKEvetK6P
( ・∀・) 「それに、観察者(中)の最後のページを見て、ショボン達が戸惑う様子を見せなかったことからも説明がいく」


『 その部屋に入ると、女は動けなくなる。

  気弱な男は女を助けるために、暖炉で鍵を探す。

  小太りの男は、ただそれを見ている。

  やがて、男と女が死ぬ。』

( ・∀・) 「この文章を見て、疑問をもたないかい?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……ショボン達の台本がブーン達を殺す内容だとして、この文面・あの場面だと三人の中で確実にクーが死んでしまう、かな?」

( ・∀・) 「そう、正解。ただ、ショボン達はこう考えていたんだよ。死ぬ男と女は、ブーンとしぃ、だって」

( ・∀・) 「ここはXの巧妙なトリックさ。今まで具体的な文章で書いていたのに、急に抽象的になった」

( ・∀・) 「なんの特徴も記載せず、男と女が死ぬ、だけ。これならブーンにもショボン達にも通用するからね」



267: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:46:51.80 ID:RKEvetK6P
( ・∀・) 「さて、ここからXが全員を殺すための順序を整理してみよう」

( ・∀・) 「まぁ、ツンはおいておくとして、まずはショボンとクー」

( ・∀・) 「これは簡単だ。ショボン達を信頼させた上で裏切り、ブーンに始末させればいい」

ζ(゚ー゚*ζ 「そして自分の役割が終わって安心したブーンを、しぃが殺す」

( ・∀・) 「そう、そしてしぃ」

( ・∀・) 「彼女は観察者(下)の中に、自分さえ予想だにしない文を見つけてしまった」

ζ(゚ー゚*ζ 「そして、それに動揺して、思わぬ転落死」

( ・∀・) 「……君はそう考えたのかい?」

僕の唇が微かに震える。
もしかしたら僕は、あまりにばかばかしい仮説を打ち立てているのではないか、と。



272: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:49:39.03 ID:RKEvetK6P
彼女が不可解そうな顔をする。
僕はそれをみて笑う。もう少しだから、聞いててくれよ、と。

( ・∀・) 「事前に、しぃはベランダが開いてることに気づいていた」

( ・∀・) 「そして、ブーンの半年仕込み発言を見ると、ベランダが崩落していたことも知っていたはずなんだ」

( ・∀・) 「だから、いくら動揺したからといって、自ら後ろずさりして落ちるなんて考えられないよ」

彼女は潤んだ瞳でこう言った。
「それで、なにが言いたいの?」

僕はたっぷりと呼吸をする。
そして、大きな溜め息をつくと、彼女に向かって言った。

( ・∀・) 「実は、Xがその場にいたんじゃないかな?」



283: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:53:26.39 ID:RKEvetK6P
そして、しぃにプレッシャーをかけるんだ。
包丁を持って迫るなり、襲い掛かろうとするなり。
まぁ、前者のほうが自然だな。

( ・∀・) 「話の流れからすると、しぃがあたかも観察者のようだったけど、観察者はしぃが死ぬのも見ていた」

( ・∀・) 「このことも、Xの存在を証明する材料に……こじつけかな」

( ・∀・) 「さて、ここまでの僕の見解に対して、君の見解を述べて欲しい」

ζ(゚ー゚*ζ 「特に無いわ。矛盾も少々、でもあくまで仮定の話。実現するのは難しいと思うの」

( ・∀・) 「……そうか、うん。僕も確かに無理があると思ったよ。あ、そうだ!」

僕はポケットに指を突っ込み、指輪ケースの存在を確認する。
指先はしっとりと汗をかいていて、自分でも緊張しているのがわかる。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ、でももう一つ言いたいことがあるの」

彼女の真っすぐな瞳を見て、僕の指先の汗は更に増加した。
落ち着け、なにを緊張しているんだ。



287: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:55:39.26 ID:RKEvetK6P
ζ(゚ー゚*ζ 「あなた、本当はまだなにか言い残していることがあるんじゃない?」

( ・∀・) 「……なにがだよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「さっき自然に流してたけど……」


ζ(゚ー゚*ζ 「X……つまり本当の観察者がどんな人物か、あなたのなかでイメージできているんでしょう?」


彼女の言葉、瞳、全て。
それらを見て、僕の額から汗が噴出す。

ここで僕は自覚した。
僕は緊張しているんじゃない。焦っているんだ。



292: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 01:59:07.51 ID:RKEvetK6P
僕はこれに答えなければならないのだろうか。

彼女の瞳は、なにも言わずに僕を見ている。
彼女の唇は、一切動かずになにかを語ろうとしている。
彼女の耳は、ただ僕の言葉だけを聞き取ろうとしている。

( ・∀・) (今思うと、自分で招いたことだったな……)

そう、自分が好奇心など働かさずに、ご高説など垂れなければ良かったんだ。
ただ彼女の話を黙って聞いて、彼女を黙って抱きしめてやれば良かったんだ。

僕は揺りかご椅子に揺られながら、考える。
ああ、今宵の星が見たい。しかし、それを見るためのベランダが無い。

僕はポケットの中で、四角い箱を手の中で転がす。
だが、やがてそれにも飽きて、僕は指も動かすのをやめた。



297: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 02:05:14.11 ID:RKEvetK6P
( ・∀・) 「なあ、君の兄さんって亡くなってたよな」

彼女は涙の粒を瞼にためて、こくりと頷いた。
「お兄ちゃん、パパとママが死んで私を養うために、友達からすごい借金してたんだって」
彼女の頬に、涙の筋がそっと……。

ζ(゚ー゚*ζ 「この部屋ね、私のお気に入りなんだ」

「だってね――」

彼女が、いつも通りの最高の笑顔を見せる。
椅子から立ち上がり、本棚から適当に薄い本を二、三冊取り出す。

そしてそれらをぱらぱらっと捲り、また僕に向かって笑顔を見せた。



301: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/12/30(火) 02:10:06.52 ID:RKEvetK6P
悪戯好きの青年が、仲間を舞台にした喜劇を描く。
喜劇は、やがて悲劇となり、あっけなく幕を閉じるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「あと、ちょっとだったんだけどな」

( ・∀・) 「馬鹿、君の人生はこれからだろ――」

君は僕の一挙一動を眺めている。
いや、眺めているのではない。

『観察』しているのだ。

最後に、せめて最後に聞かせて欲しい。
何故君は、僕にこんな話をしたのかな?
誰かに気づいてほしかった? 自分のこれからを僕に託した?



それとも――






END



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