(・∀ ・)たった一つのようです

1: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 18:54:20.16 ID:+Gkuu9B80

0:僕【ぼく】





僕が目を覚ますのは決まって暖かいスープの香りと、そして優しいメロディに包まれてからだ。
ゆっくりとした時間の流れに僕は従いそうしてようやく目を開く。

うつらうつらとした目を擦ると、そこには神様が座っているのさ。
森の囁きも天使の歌声も愛を叫ぶ動物の声も、この方の声には適わない。

( ・∀・)「お早う」

おはようございます神様、今日のご機嫌はいかがですか?
僕が聞くと、神様はそのお声を響かせて気だるげに言った。

( ・∀・)「いつもどおり、最悪だよ」

たった一つの笑みも零さず、神様はテーブルの上にあるクロワッサンをくしゅりと齧る。
お前も食う?と、聞かれたけれど、僕はそれを笑顔で断らせてもらった。
神様の食事を頂くなんて、僕にとっては恐れ多いことだから。
僕は神様のしもべであり召使であり従者なのだ、決して一緒になってはいけないのさ。



2: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 18:56:11.20 ID:+Gkuu9B80

( ・∀・)「最近、暇でさ」

そうですか、と僕は答え、近くにあったハニートーストを齧った。
甘い、口の中でハチミツがはじけた。
いつだってここは甘くて、僕はこのままハチミツのようにとろけてしまいそう。

( ・∀・)「何か、面白いことないかな」

神様はいつだって退屈している。
尊い人というのはそこに居るだけで世界がつまらないものだと感じてしまうらしい。

僕にそれをしのげる術が有ればいいものだけど、残念ながら僕には『僕』という名前意外は持ち合わせていない

( ・∀・)「お前、何かない?」

だから、曖昧に微笑む意外、何ができようか。
神様はそれが不服なようだったが、こればっかりはどうしようもない。

( ・∀・)「何でもいいからさ」

そういわれても困ってしまう。
しかし何か言わなければまた神様は膨れ面になって怒ってしまわれるだろう。
僕は頭の中からありとあらゆる情報を引き出し、この方を楽しませる言葉がないかを探った。



3: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 18:57:22.46 ID:+Gkuu9B80

「なら、世界を旅してみてはどうでしょう」

そうして出てきた言葉はコレだ。

( ・∀・)「旅?」

神様の部屋には膨大な本がある。
それは伝記から可愛らしい絵本、愛を描いた物語、血沸き肉躍るような戦記ものまで様々だ。
そのどれもが美しく、壮大な物語を書いたもので、僕はいつもそれを読んで虜となっていた。

全てが僕には新鮮であり、魅惑的なそれは、もしかしたら神様の気をひけるかも知れないと考えたのだ
しかし、神様の顔は芳しくはなかった。

( ・∀・)「旅ねぇ……でも俺、ここから離れたくないんだよねー」

ああ、そういうことだったか
確かに神様はここにいなければいけない。
そうでなければこの世界は崩壊してしまう。ここはそういうところなのだ。
神のいない世界など、世界ではない。

僕は頷き、そしてもう一度提案した。

「では、僕が世界を旅しましょう、そして貴方に伝えましょう」



4: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 18:59:01.48 ID:+Gkuu9B80

と。

そういうと神様はちょっとだけ考え
ちょっとだけ悩み
ちょっとだけためらってから、こう言った。

( ・∀・)「…いーよ」

神様は未だ少しだけ憮然とした表情だったが、僕が逐一世界の楽しさをお知らせしますと伝えると
ほんのわずかに、顔を輝かせた。
神様が喜ぶと、僕も嬉しい。

( ・∀・)「じゃー、お前に名前と、姿をあげないとな」

僕に名前を?
姿を?
もったいない言葉だと思うけれど、確かに形がなければ旅は出来ないのかもしれない。
僕は神様の翳す手に暖かさを感じながら、陽だまりの中へと溶けていった。
ゆらゆらと移ろう陽炎のように歪みくゆらせ解けていく

ああ、あああ、あ―――――――――――


…………… …………  ……  …。



5: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:00:31.73 ID:+Gkuu9B80

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僕は自分を見つめた。
手がある
足がある
何よりも神様と同じ目線だ。
僕は信じられない気持ちで神様を見つめると、この方には珍しく、ふんわりと微笑んでくださった。

( ・∀・)「じゃあ、行ってこいよ、……そうだな、お前はー……『マタンキ』だ
     姿は俺の形を参考にしたから」

神様のくれた名前と容姿を抱きしめて、僕は立ち上がる。
ああ、ありがとうございます神様。
ありがとうございます。
大切にしますね。

僕は必ずや世界の素晴らしさを貴方に伝えて見せましょう
そして、貴方をこの箱庭から連れ出して、いいえ、それは僕には出すぎた真似なのかもしれません。
今はただ、貴方の暇を紛らわせることに全力を尽くします。

それでは


(・∀ ・)「いってきます、神様」



6: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:01:11.91 ID:+Gkuu9B80

その姿形をもって、僕は世界に足を踏み出したのだ。






0:僕【しもべ】
                  了



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