(・∀ ・)たった一つのようです

7: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:02:45.32 ID:+Gkuu9B80

1:羽【ワ】


最初に訪れたそこは『空飛ぶ人々の国』だった。

この国の住人は、どうやら空を自由に飛べるらしく、空を泳ぐ天上人のようなその姿に
見る者は心奪われるとの事だった。
人の進化とはまったく素晴らしいもので

僕は是非ともそれを拝見したかったのだが、住人にすげなくに断られてしまった。

(・∀ ・)「空を飛べるんですってね」

( ´ー`)「そら飛べるーよ」

(・∀ ・)「是非飛ぶところを見せて欲しいんですけど」

( ´ー`)「嫌だーよ」

(・∀ ・)「空好きですか?」

( ´ー`)「しらねーよ」

(・∀ ・)

仕方なく僕は他の住人にも空を飛ぶところを見せて欲しいと頼んだが、
何故か見せてくれる人は一人もいない。それどころか、空を飛ぶ人が一人もいなかった



13: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:45:18.97 ID:+Gkuu9B80

この国の空は不自然なほどに青く、雲ひとつない晴天で、立っていると気持ちがいい。
聞く人によれば、雨はまったく降らないそうで、どうやって暮らしているのか不思議なものだけど、それよりも僕は飛ぶところが見たかった。
この青い空を飛ぶ人たちの姿はどんなに美しいのだろうか、そう思うといてもたってもいられなかった

(・∀ ・)「あの、空飛んでるところ見せてほしいんですけど」

(=゚ω゚)ノ「何言ってるんだよぅ、嫌だよぅ」

(・∀ ・)「え?でも空飛べるんですよね?」

(=゚ω゚)ノ「飛べるけど、飛んでるところは誰にも見せちゃだめなんだよぅ」

(・∀ ・)「それじゃあ本当に飛んでるかどうかわからないじゃないですか」

(=゚ω゚)ノ「兄ちゃん、何言ってるんだよぅ? 空飛べるなんて、当たり前じゃないかよぅ。見せなくてもいいんだよぅ」

(・∀ ・)「…………」

僕にはその少年の言ってることが理解できなかったし、少年も僕の言葉の意味が心底わからないようだった。
そもそも最初からある理解と常識が違うのかもしれない。



14: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:46:56.89 ID:+Gkuu9B80

(・∀ ・)「じゃあ……」

(=゚ω゚)ノ「あ、ウサギだ!」

(・∀ ・)「ウサギ?」

突然、指をさして少年が叫んだ。
少年が突然言い出した目線のその先にいたのは、僕が知っている兎とはかけ離れた
ちょっと太目の少年だった。
少年は両手を一杯に広げ、「ブーン!」と言いながら草原を走っている。

(・∀ ・)「あれのどこがウサギなのかな?」

(=゚ω゚)ノ「ブーンは空を飛べないんだよぅ! だから地面を醜くピョンピョン跳ねるウサギだよぅ!」

少年に悪気はなさそうで、楽しそうにケタケタと笑っていた。
視線の先にいる少年は、相変わらず両手を広げて走っている………あ、転んだ。
しかしまたすぐ立ち上がり、ブーンと言いながら走り出す。
一体何をしているんだろう。

(・∀ ・)「ねぇ、あれは何しているの?」

(=゚ω゚)ノ「多分空を飛ぼうとしてるんだよぅ」

(・∀ ・)「へぇ、でも空飛んでるところは見せちゃダメなんじゃないの?」



15: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:48:59.80 ID:+Gkuu9B80

(=゚ω゚)ノ「そうだよぅ、だからブーンはバカなんだよぅ」

少年はクスクス笑いながら、もう一度、走っているブーン君という少年にバーカという言葉を投げつけると
昼ごはんの時間だからといって去っていった。
残された僕は一人でブーン君を見つめている。
相変わらずブーン君は走っている。

ああ、そういえば僕も酷くおなかが空いたなぁ。
街から流れてくる焼き立てのパンの匂いや、美味しそうな肉の匂いに涎が零れそうになった。

(・∀ ・)「おーい、そこの少年ー」

( ^ω^)「お?」

僕は走っているブーン君に遠くから声をかけると、
ブーン君はその少し太り気味な体からは想像も出来ないほど早い足で、僕の方へと駆け寄ってくる。

( ^ω^)「なんだお? 僕に何か用かお?」

(・∀ ・)「いや、用ってことはないんだけどね、君、空が飛べないんだって?」

( ^ω^)

( ;ω;) ブワッ

( ;ω;)「おーん!おぉーん!」



17: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:50:10.94 ID:+Gkuu9B80

突然少年は泣き出した。

(・∀ ・;)「え、え!?」

( ;ω;)「おっおおおおおおおーーーん!! ぼ、ぼくだっでず、ずぎでどべないわけじゃ……!!」

(・∀ ・;)「な、なんかよくわからないけどごめん! ご飯奢ってあげるから元気出してよ!」

( ;ω;)

  ニコヤカ
( ^ω^)「わかったお!」

(・∀ ・)

( ^ω^)「ブーンはピギナーが食べたいお! 奢ってもらえるなんてラッキーお!」

(・∀ ・)

ブーン君はタフな少年だった。
僕は騙されたような気分だったが、正直悪い気はしない。

(・∀ ・)「ピギナー……?まぁいいや、僕も街にいくからついでに案内してくれよ」

( ^ω^)「いいおー!!」



18: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:51:55.85 ID:+Gkuu9B80

ブーン君は実に明るく、優しい少年だったので、僕は遠慮なく甘えて街を案内してもらうことにした。
ピギナーというのはどうやらこの街の名物料理で、ピギナーという鳥に塩と胡椒をまぶして焼き
レモンを目いっぱい降りかけたものらしい。
じゅぅじゅうと鉄板の上で焼かれる肉をブーン君は涎をたらして見ている。

(・∀ ・)「涎でてるよ」

(;^,ω^)「オウフ!」

ピギナーを買うと、僕らは街の広場のベンチでそれを広げ、食べることにした。
味はサッパリとしていて、どこか旨みと深みのある味で、癖になりそうだ。
パリッパリの皮を剥がしてほお張っているブーン君はとても幸せそうだ。

(・∀ ・)「美味しい?」

( ^ω^)「美味しいお!僕は食べてるときが一番幸せだおー!」

(・∀ ・)「そう、よかったね」

( ^ω^)「お兄さんはどんなときが幸せかお?」

(・∀ ・)「僕?」

僕は、なんだろう
よくわからないな。



20: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:56:01.66 ID:+Gkuu9B80

そう告げると、少年は僕の言葉がわからないかのように、曖昧に首を傾げた。
僕も真似して首を傾げる。

(・∀ ・)「ふふっ……」

( ^ω^)「おっww」

二人で声をあげて笑った。
ああ、いいなぁ。こういの。旅先で会う人々との語らいは、僕をとても興奮させる
安らかな時間はゆったりと流れていく。
流れが途切れるのはいつだってきかれたくないことを聞かれたときさ。

(・∀ ・)「ところでさ、この国の人たちって、空飛べるって本当なの?」

( ^ω^)「………本当だお」

(・∀ ・)「でも、飛ぶところ見たことないんだろ?」

( ^ω^)「でも、この国の人達は飛べるお、それは常識なんだお」

(・∀ ・)「誰か飛んでるところ、見たことあるの?」

( ^ω^)「そんなのは関係ないんだお。皆は飛べる、ブーンは飛べない。それだけなんだお……」

(・∀ ・)「…だから、練習してるの?」

( ^ω^)「そうだお」



22: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 19:57:58.68 ID:+Gkuu9B80

(・∀ ・)「でも、どうせ飛ぶところを見せることなんて出来ないのに、練習しても意味ないんじゃない?」

( ^ω^)「ブーンは飛べればいいんだお」

(・∀ ・)「でもさ、もし飛べたとしても……」

そこまで話したところで、ブーンくんの方に石が飛んできた。
ガツン、と硬い音がして、ブーンくんがピギナーを放り出し草むらの方に倒れる。
僕が驚いて駆け寄ると、ブーン君は頭から血を出して蹲っている。

(・∀ ・;)「ちょ、だ、大丈夫!?」

(;メω^)「あたたたた………」

「やーいやーい!ウサギのブーン!」
「飛べないブタは、ただのブタだぜー!」
「ばーか!」

(・∀ ・;)「なっ……!」

見るとブーン君と同じ年頃の少年だった、彼らはおかしそうに笑うと
再びブーン君に石を投げ始める。
僕はそれを止めようと前に出たのだが、後ろにいたブーン君がそれをさせなかった。



26: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:02:09.71 ID:+Gkuu9B80

( メω^)「おにーさん、大丈夫だお」

(・∀ ・;)「え、いやでも……血が……」

( メω^)「こんなん慣れてるお、それに、空飛べないブーンが悪いんだお」

(・∀ ・)「…………」

( メω^)「ご飯おいしかったお、ありがとうお」

ブーン君はそう言うと、がつんがつんと当たる石を避けながら、ブーンと言いながら走っていった。

「あ、ウサギが走っていったぞー!」
「逃がすなー! 追えー!」
「ブーンって名前なのに飛べないブーン!きゃはははははは!」

(・∀ ・)「…………」

僕は何も言わずその場に立ち尽くしていた。
彼らがどうしてあんなにブーン君を追い掛け回すのかも、僕にはわからないし
飛ぶことが当たり前だというくせに、一人も飛ぶ姿を見せないこの国のことも、
わからない。

唯一つわかるのは、この国では、いじめている彼らが正しく、ブーン君が間違っているのだということだけだ。



28: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:03:23.52 ID:+Gkuu9B80

( ´ー`)「何やってるんだーよ」

しばらくそうやって立っていると、最初に話しかけた住人がやってきた。
ぼんやり立ち尽くしている僕を怪しく思ったのだろう。
実際、自分でもかなり怪しい出で立ちだったお思う。

(・∀ ・)「いえ、立ち尽くしてます……」

( ´ー`)「楽しいかーよ」

(・∀ ・)「別に…………。あの、一つ聞いてもいいですか?」

( ´ー`)「なんだーよ」

(・∀ ・)「空を飛ぶって、どんな感じですか?」

( ´ー`)

( ´ー`)「しらねーよ」

(・∀ ・)

(・∀ ・)「そうですか」

そうですか。



30: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:04:17.19 ID:+Gkuu9B80




それから翌日のこと、ブーン君が崖から飛び降りて死んだことを、僕は聞いた。




32: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:08:00.02 ID:+Gkuu9B80

(・∀ ・)

ブーン君が落ちたというその崖は非常に高くて傾斜もキツい、あまり近付かないとされる場所だった。
近付くと強い風がふいて、吹き飛ばされそうになるところを、僕は今かろうじて立っている。

ブーンくんはここから落ちたのだろうか
もしかしたら風で飛ばされたのかも
いじめっこに落とされたのかも

自ら空を飛ぼうと落ちたのかも僕にはわからない。

唯一解るのは、ここにいる人たちは皆空が飛べるということだけだ。
例え誰も空を飛ぶ姿を見たことがなくても、空は飛べるというのが当たり前ということだけだ。
それを皆常識として信じている。

(・∀ ・)「ブーン君、君はこの国が好きだった?」

答えはない。当たり前だ。

ふと、空を見るとぽっかりと穴のあいたドーナツのような雲が空を泳いでいた。
雲の出ないこの国には珍しい。
まるでこの国をあらわしているようだった。

上辺ばかりつくろって本当のことはぽっかりと穴が開いてわからない。
輪っかのように。

(・∀ ・)「神様、この国は楽しかったですか?」



33: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:09:31.74 ID:+Gkuu9B80

答えはない。
当たり前だ、あるわけもない。
今ここに神様はいないんだから、いるのは空を飛べると信じている住人と
いなくなったのは空を飛べなかった少年だ。


貴方は空を飛べますか?

( ´ー`)「当たり前だーよ」

どうやって飛ぶんですか?

( ´ー`)「秘密だーよ」

………本当に飛べるんですかぁ?











( ´ー`)「しらねーよ」



34: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:12:41.83 ID:+Gkuu9B80

:::::::::::



神様がいる。
目の前に神様、僕の神様。
神様は神々しいオーラを放ちながら僕の前に立っている。

(・∀ ・)「ただいま帰りました」

( ・∀・)「おかえり」

(・∀ ・)「……最初の国は、あんな感じでした」

( ・∀・)「あの少年もね、最初は飛べないと思ってたんだよ」



36 名前: ◆q/GlKnlG6s [↑最後のマタンキはミスです] 投稿日: 2008/12/31(水) 20:17:30.35 ID:+Gkuu9B80

(・∀ ・)「神様はなんでも知っていらっしゃるんですね」

( ・∀・)「そりゃー神様だもの、お見通しだよ」

(・∀ ・)「……そうですね」

神様は神様だから、なんでもお見通しなのだ。
甘言のような言葉を聴きながら、僕はうっとりと目を閉じた。

あれ?だったら僕が旅に出る意味ってなんだ?
よくわからない。わからないけどまぁいいや……

( ・∀・)「まぁなんにせよ、異質なものは排除されるんだよ」

(・∀ ・)「はぁ……」

( ・∀・)「人は異質を嫌うから、自分達と違うものを嫌うんだ。
     結果、あの少年も輪から外れてしまった」

(-∀ -)「はい…………」

( ・∀・)「人って言うのは、そういう生き物なんだよ。覚えておきな」

ええ、そうですね。
全ては神様の言うとおりです。
僕はゆったりとしたまどろみの中でそう答えたが、答えはもう聞くことができなかった。
ああ、このまま貴方と溶けてしまいたい。



37: ◆q/GlKnlG6s :2008/12/31(水) 20:17:54.88 ID:+Gkuu9B80




1:輪【ワ】

            了




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